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疫学研究に関する指針(仮称)骨子案

 疫学研究に関する指針については、
  ◎ ヘルシンキ宣言(世界医師会)
  ◎ 個人情報保護法案
等との整合性を十分に考慮しつつ、以下のような基本的事項について、今後、整理していくことといたしたい。

第1 基本的な考え方

1.目的

 公衆衛生の向上を図る上での疫学研究の重要性と学問の自由を踏まえ、個人の自己決定権及び個人情報保護等の人権が守られるよう、疫学研究に関わる全ての関係者が遵守すべき内容を定めることにより、人間の尊厳及び人権が尊重され、疫学研究に対する社会の理解と協力を得て、研究の適正な推進が図られることを目的とする。

2.本指針の適用範囲

本指針の適用範囲として、対象となる疫学研究に携わる研究者等全てに遵守を求める。

○ 本指針は、人の疾病に関する病態の解明、予防及び治療を目的とする研究を対象とする。

○ 本指針は、法律の規定に基づき実施される調査、資料として統計データのみを用いる研究及び手術や投薬等の医学的介入を伴う介入研究を対象に含まない。

※ がん登録等の疾病登録事業については、疫学研究についての基本的な考え方が整理された後に検討することとする。

※ 法律の規定に基づき実施される調査には、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」の規定に基づく感染症発生動向調査などが該当する。

3. すべての研究者等が遵守すべき基本原則

○ 研究の科学的合理性・倫理的妥当性の確保

●疫学研究は、科学的合理性、社会的妥当性及び倫理的妥当性が認められるものでなければ、実施されてはならず、これらの諸点を踏まえた明確かつ具体的な研究計画を立案して行わなければならない。

●研究者等は、法令、本指針及び研究計画に従って適切に研究を実施しなければならない。

●研究対象候補者の選択は、合理的に行わなければならない。

(注)「疫学の研究等における生命倫理問題及び個人情報保護の在り方に関する指針(案)」(疫学的手法を用いた研究等における生命倫理問題及び個人情報保護の在り方に関する調査研究班。以下「研究班指針案」という。)3−1・3及び4−2−1参照。

○ 研究対象者の尊厳と個人情報保護

● 研究者等は、研究対象者の尊厳を尊重して研究を実施しなければならない。

● 研究者等は、研究対象者に係る情報を適切に保管し、その個人情報を保護しなければならない。

(注)研究班指針案3−2・6参照。

○ インフォームド・コンセント

● 研究を実施する場合には、原則として、事前に、研究対象者からインフォームド・コンセントを受けなければならない。

● 研究対象者に対する説明の内容、同意の確認方法その他のインフォームド・コンセントの手続に関する事項については、研究計画書に記載しなければならない。

(注)研究班指針案3−5参照。

○ 倫理的配慮の周知

●研究実施機関の長は、当該機関における研究が、倫理的、法的又は社会的問題を引き起こすことがないよう、研究の実施に当たっては、研究対象者の人権を尊重し、かつ、個人情報の保護のための措置を講じなければならないことを周知徹底しなければならない。
(注)研究班指針案4−1−1参照。

○ 倫理審査委員会の審査

●研究を実施する場合には、事前に、所属機関の倫理審査委員会の意見を聴かなければならない。
(注)研究班指針案3−4参照。

○ 研究成果の公表

●研究責任者は、研究終了後、研究対象者の個人情報の保護のための措置を講じた上で、研究の成果を広く社会に公表しなければならない。
(注)研究班指針案4−2−7参照。

第2 倫理審査委員会

4. 倫理審査委員会

○ 倫理審査委員会の責務

●倫理審査委員会は、研究実施機関の長から研究計画の適否その他の事項について意見を求められた場合には、科学的観点並びに研究対象者の人権及び個人情報の保護等の倫理的観点から厳格に審査し、文書により意見を述べなければならない。
(注)研究班指針案5−1参照。

○ 倫理審査委員会の設置

●研究実施機関の長は、当該機関における研究の審査を行わせるため倫理審査委員会を設置しなければならない。ただし、研究実施機関が小規模であること等により機関内に倫理審査委員会を設置できない場合には、研究を共同で実施する機関、公益法人、学会等に設置された倫理審査委員会に審査を依頼できるものとする。

●倫理審査委員会は、多角的な視点からの審査を行うため、医学・医
療の専門家、法律学の専門家を含む人文・社会学の有識者及び一般の立場を代表する者から構成され、外部委員を含まなければならない。

● 倫理審査委員会は、審査の過程で得られた情報を委員会外に漏示してはならない。委員を退いた後も同様とする。

(注)研究班指針案4−1−2、5−2−2−1、5−8参照

○ 倫理審査委員会の運営

● 審査対象となる研究に関係する委員は、当該研究の審査に関与してはならない。ただし、倫理審査委員会の求めに応じて、委員会に出席し、説明することを妨げない。

● 倫理審査委員会の運営に関する規則、委員名、委員の構成及び議事
要旨は公開されなければならない。ただし、研究対象者に係る個人情報や知的財産権の保護に必要な情報については、この限りでない。

●倫理審査委員会は、既に共同研究機関の倫理審査委員会の意見に基づき許可された共同研究の研究計画の審査その他軽易な事項の審査について、委員長が指名する委員による略式審査に付すものとすることができる。

(注)研究班指針案5−5・7・9参照。

○ 倫理審査委員会への付議

● 研究責任者は、研究を実施する場合には、事前に研究計画書を作成し、所属機関の長の許可を得なければならない。既に許可を得た研究計画書を変更するとき及び本指針9ただし書に基づき研究資料を第三者に提供しようとするときも同様とする。

● 研究機関の長は、前項の規定により許可を求められたときは、倫理審査委員会の意見を聴かなければならない。

● 研究機関に属しない研究者が研究を実施する場合には、研究分野に応じ、自ら倫理審査委員会の意見を聴くことが求められる。

(注)研究班指針案4−2−2・4・5参照。

○ 研究機関の長による許可等

●研究機関の長は、倫理審査委員会の意見を尊重し、研究の実施その他の事項について許可又は不許可を決定しなければならない。
この場合において、研究機関の長は、倫理審査委員会の意見に反して研究対象者の不利益となる判断をしてはならない。
(注)研究班指針案4−1−3参照。

○ 研究に係る報告

● 研究責任者は、研究期間が1年を超える場合には、研究機関の長を通じて研究実施報告書を倫理審査委員会に提出しなければならない。

●研究責任者は、研究対象者に危険又は不利益が生じたときは、直ちに研究機関の長を通じ倫理審査委員会に報告しなければならない。
 この場合において、研究機関の長又は倫理審査委員が研究の変更又は中止を指示し又は中止の意見を述べた場合には、その意見を踏まえ、研究を中止又は変更しなければならない。

●研究責任者は、研究終了後遅滞なく、研究機関の長を通じ倫理審査委員会に研究結果の概要を報告しなければならない。

(注)研究班指針案4−2−3・6参照。

第3 インフォームド・コンセント等

5.インフォームド・コンセント等の取得

○ インフォームド・コンセントの手続は、以下の原則によるものとする。
 ただし、研究方法・内容、研究対象者の事情その他の理由により、原則によることができない場合は、当該理由を考慮し、倫理審査委員会の承認を得て適切なインフォームド・コンセント等の方法を選択することができる。

(1)人体から採取された資料を用いる疫学研究

(1) 資料の提供が侵襲性を有する場合

● 文書によるインフォームド・コンセントを原則として必要とする。

(2) 資料の提供が侵襲性を有しない場合

● インフォームド・コンセント(口頭でもよい)を原則として必要とする。

(2)人体から採取された資料を用いない疫学研究

(1) 介入研究

個人単位で割付を行う介入研究については、インフォームド・コンセント(口頭でもよい)を原則として必要とする。

集団単位で割付を行う介入研究については、インフォームド・コンセントを受けることまでは必ずしも要しないが、研究実施について積極的に情報を提供し、かつ、研究対象となることを拒否できるものとしなければならない。

(2) 観察研究

● 研究立案時以後に収集した資料を用いる研究については、イン
フォームド・コンセントを受けることまでは必ずしも要しないが、研究実施についての情報公開をし、かつ、研究対象となることを拒否できるものとしなければならない。

● 研究立案時において既に存在する資料(既存資料)のみを用いる研究については、インフォームド・コンセントを受けることまでは必ずしも要しないが、研究実施についての情報公開をしなければならない。

6 代諾者等からの取得

○ 提供者本人からインフォームド・コンセントを受けることが困難な場合には、当該研究に高い重要性が認められること及び当該研究の実施に当たっては当該提供者からの資料の提供が必要不可欠であることについて、研究機関の長が倫理審査委員会の意見を聴いた上で許可した場合に限り、代諾者等からインフォームド・コンセントを受けることができる。

第4 資料の取扱等

7 研究実施に当たっての措置

 研究責任者は、研究の実施に当たり情報管理の体制を整備しなければならない。

8 資料等の取得、保存の方法等

○ 研究責任者は、研究等の計画書に従い研究に関する資料を保存する場合は、個人情報の漏洩、混交、盗難、紛失等が起こらないように、かつ、研究結果の確認に資するように適切に管理しなければならない。

○ 研究実施前に人体から採取された資料を利用する場合には、資料採取時又は研究開始時に本人の同意を得ることを原則とする。ただし、これによることができない場合は、倫理審査委員会の承認を得て、次のいずれかによることができる。

(1) 匿名化されていること。

(2) (1)によらない場合には、次のすべてを満たすこと
  ・ 研究の実施についての情報の公開を行っていること。
  ・ 研究対象となることを拒否できるものとすること。

9 他の機関に研究資料を提供する場合の措置

研究責任者等は、研究資料を第三者に提供する場合には、資料採取時又は資料提供時に本人の同意を得ることを原則とする。ただし、これによることができない場合は、倫理審査委員会の承認を得て、次のいずれかによることができる。

(1) 匿名化されていること。

(2) (1)によらない場合には、次のすべてを満たすこと。
  ・ 研究の実施についての情報の公開を行っていること
  ・ 研究対象となることを拒否できるものとすること

10 研究結果の公表時の措置

 研究の結果の公表時においては、研究等対象者を特定できないようにする。

第5 見直し

11 この指針は、必要に応じ、又は時期を定めて見直しを行う。

第6 用語の定義

 ※ 以下の項目を含め、当委員会においての検討等を踏まえて、記載する。

(1)「疫学研究」について

(参考)「疫学−基礎から学ぶために−」(日本疫学会編集)
・疫学とは、「明確に規定された人間集団の中で出現する健康関連のいろいろな事象の頻度と分布およびそれらに影響を与える要因を明らかにして、健康関連の諸問題に対する有効な対策樹立に役立てるための科学」と定義することができる。(同書1項より引用)

(2)「観察研究」について

(参考)「疫学−基礎から学ぶために−」(日本疫学会編集)
・ 観察的疫学研究とは、疫学研究者自身が、集団、集団構成員に対して何の介入もしない研究である。しかし、当該研究者以外の者が、介入することを問わない。単に、健康、疾病などの自然の姿を観察する。疫学の定義に示されているように、人間集団における健康に関連する事象の頻度を測定し、その分布を観察し、それらに影響を与える要因(規定要因 determinant)を明らかにする。(同書41項より引用)

(3)「介入研究について」

(参考)「疫学−基礎から学ぶために−」(日本疫学会編集)
・ (介入研究とは)研究者が研究プロトコールにしたがって研究参加者(患者あるいは一般集団)を2群あるいはそれ以上のグループに分け、それぞれに異なるプログラムの割り付けを行って、結果を比較する研究手法である。標準的治療法と新しい治療法の比較など、異なる治療法、予防法の比較を通じてプログラムの有効性を実験的手法で検証する。
 一般の疫学研究(すなわち、観察的研究)では、対象者がある要因を持つか否かは対象者の意思に委ねられている場合が多いが、介入研究では逆に研究者が能動的に割り付けを行うのが最大の特徴である。(同書63項より引用)


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