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疫学研究に関する指針等の国際比較

項目 疫学研究のための国際的指針
(CIOMS)国際医科学評議会
ヒトを対象とする研究に関する合衆国規則
1 指針等の性格、経緯  エイズの蔓延等を背景に疫学研究のための特別な倫理指針の必要性が強調されたことから1991年に、国際医科学評議会が世界保健機構と共同して作成した。
564

 各国が、疫学研究と実践の倫理について国の政策を策定し、それぞれの国の明確なニーズに備えて倫理基準を採用し、疫学研究の倫理審査のための適切な機構を設立することができるように意図されている。

56
米国厚生省(Department of Health and Human Service)の規則(45 C.F.R Part 46)
242

※:本指針が適用されるよう措置を講じる連邦の省庁が、実施し、補助し、又は別に規制対象とするヒト被験者を対象とする研究のすべてに適用。

240
2 適用範囲 ・指針が取り扱うタイプの活動に従事する者すべてに適用される。
565

・疫学とは、健康に関連する状態または出来事の特定の集団内における分布と決定因子を研究し、また、その研究を健康問題の対策に応用することと定義。

565
・適用除外例:既存のデータ、文書、記録、病理標本、または診断標本の収集または研究を内容とする研究で、これら資料が公的に利用できるものであるか、研究者が情報を、直接にもまたは被験者に関連づけられた標識によっても、被験者が識別できない方法で記録する場合
239
3 倫理審査委員会
 (1)設置
・倫理審査委員会は、国もしくは、自治体の保健行政当局、国立医学研究評議会、または、その他国の代表的な保健機関などの後援で設置して差し支えない。

・委員会の権能は、一つの施設に限定されるか、あるいは一定の行政管轄区域内で行われるすべての生物医学的研究に広げられ得る。

572
・『IRB』とは、本指針において明示された目的に従って、かつそのために設置された施設内審査委員会をいう。
236

・連邦によって補助または実施される研究においては、本指針の要件に従って設置され、会議の場所およびその審査と記録の作成・保存の義務を支えるに十分な職員が用意されたIRBが審査することが確約されなければならない。

235
 (2)責務 ・提案されているすべての(身体的)干渉の安全性が能力のある専門家集団により事前評価されていることを確かめること。

・他の倫理問題が申し分なく解決されていることを確保すること。

572
・IRBは、本指針の適用を受けるすべての研究活動について審査を行うものとし、かつ、それらに対して、承認し、修正を求め、不承認の決定を下す権限を持つものとする。
231

・IRBは、インフォームド・コンセントの要素として被験者に与えられる情報がこの規則に適合していることを求める。

230

・IRBは、この規則に従ってインフォームド・コンセントの記録を求め、又は記録の免除を認める。

230

・IRBは、研究者及びその施設に対して、書面で、提案された研究活動に対する承認・不承認の決定や、承認に必要な修正を通知する。

230

・IRBは、本指針の適用を受ける研究について、危険の程度に応じた適切な頻度(ただし年1回以上)で継続的な審査を行う。また、同意の過程と研究を観察する又は第三者に観察させる権限を持つものとする。

230
 (3)規則の制定、委員の構成等 ・例えば会議の回数、定足数、意志決定手続き、決定の再審理などについて運営規則を設けるべき。
572

・構成メンバーは、疫学者、他の保健従事者、地域社会・文化・倫理の領域を代表する資格のある素人を含むべき。委員会は、種々様々な構成を持ち、研究がとくに目標にする集団の代表を含むべき。

572

・メンバーは、個人が不当に影響力が強くならないように、そして倫理審査に伴うネットワークを広げるために、定期的に交替すべきである。提案に直接利害関係のあるメンバーを事前評価に参加させないことにより研究者からの独立性を確保すべきである。

572
・各施設内審査委員会(IRB)は、当該施設により通常実施される研究活動を完全かつ適切に審査することができるように、異なる分野からの少なくとも5名の構成員から構成される。
232

・いかなるIRBも男性または女性だけで構成されることがないよう、あらゆる非差別的努力が講じられなければならない。

232

・各IRBはその主たる関心が科学的領域にある者と非科学的領域にある者を各々少なくとも1名は含んでいなければならない。

231

・各IRBは、当該施設に所属しておらず、かつ当該施設に所属している者の近親の家族でない者を少なくとも1名は含んでいなければならない。

231

・IRBは、構成員が利害の衝突を有する計画について、その構成員をIRBの当初のまたは継続的な審査に参加させてはならない。

231

・IRBは、その裁量で、内部で用意できる専門知識を超えまたはそれに追加される専門知識を必要とする問題の審査の助けとするため、特別の領域で能力を有する者の出席を求めることができる。これらの者は、IRBで投票することはできない。

231
 (4) 研究に対する承認の基準 ・個人の自由なインフォームド・コンセントの確保は不可欠だが、もしその個人の所属する地域社会が研究に異論の余地ありと認定する場合は、そのようなインフォームド・コンセントのみでは研究を倫理的とするのに十分ではないかもしれない。
 例えば病原生物の中間宿主をコントロールする処置を広範に適用する提案において、審査委員会は、研究者がそれらの処置の適用を監視し、望まない結果を予防するのに十分な備えがあることを確保する。
572

・通常、倫理審査委員会は、科学的視点及び倫理的視点の両方を検討する。審査委員会は、提案が科学的に妥当であることに納得した場合に、次に、対象者へのリスクが、予期される利益によって正当化されるかどうか、および提案がインフォームド・コンセントやその他の倫理条件の点で満足できるものかどうかを検討する。

573

・すべての倫理原則に等しい重みがあるわけではない。例えばデータの秘密保持など通常の倫理的な期待に包括的に沿わないときでも、見込まれる利益が明確にリスクを上回り、かつ研究者がリスクを最小にすることを確約するときは、研究は倫理的と評価されるかもしれない。研究を拒否することが一つの地域社会に対しその研究がもたらす利益を否定することになる場合は、その研究の拒否は反倫理的ですらあるかもしれない。

567
本指針の適用を受ける研究を承認するためには、IRBは以下の要件がすべて満たされていることを認定しなければならない。
229

・被験者に対する危険が所定の方法によって最小化されていること。

229

・被験者に対する危険が、被験者に対する何らかの利益が期待される場合にはその利益及び成果として合理的に期待できる知識の重要性に照らして合理的であること。

229

・被験者の選択が公平であること。

228

・被験者に予定されている者または法的な権限を持つ被験者の代理人のすべてからインフォームド・コンセントが求められること。

228

・規定に従ってインフォームド・コンセントが適切に記録されること。

228

・必要に応じて、研究計画に、被験者の安全を確保するために収集されるデータを監視するための必要な措置が講じられていること。

228

・必要に応じて、被験者のプライバシーを保護し、データの守秘を維持するための適切な措置が存在すること。

228

・被験者の一部または全部が、子ども、囚人、妊婦、精神障害者、経済的または教育的弱者のような、強制や不当威圧に負ける可能性が高い者である場合には、これらの被験者の権利と福祉を守るための追加的な保護措置が研究中に含まれていること。

228
4 インフォームド・コンセント 1.個人の同意

・諸個人が疫学研究の対象とされるとき、通常かれらのインフォームド・コンセントが求められる。

568

・研究者は、インフォームド・コンセントを求めずに研究しようとするときは、倫理審査委員会に対し、インフォームド・コンセントがなくてもいかに倫理的であるかを説明する義務を負う。

例:(1)研究の対象候補者が説明によって研究が提案されている問題の行動を変えるかもしれないこと。
(この場合には、研究者は、秘密を守るために厳重な保護手段がとられること及び研究は健康の保護ないし増進を目的にしていることを保証する)。

(2)対象者が、個人データを疫学研究に利用するのが通例であることを、公の知らせにより知らされている場合。

568

・研究は、何ら害をもたらすおそれはないとしても、職業に関する記録、医療に関する記録、組織サンプルなどを使う場合には、一般に本人またはかれらの公的な代表は、かれらのデータが疫学研究に使われるかもしれないこと、及び秘密を守るためにどのような手だてが講じられるかについて、説明されるべきである。

568

・法律ないし雇用契約によって、研究の対象者の同意なしにデータを利用することを許された疫学者であっても、与えられた状況において、個人データを利用する権能を公使することが倫理的かどうかを考えなければならない。倫理的には、同意なしに利用することが正当化されないなら、個人の同意を求めることが期待されている。 568
個人に対するリスクが最小限であること、公益、秘密についての研究者による保護などの根拠があれば、利用は倫理的であり得る。

568

2.地域社会の同意

・研究されるそれぞれの個人のインフォームド・コンセントを求めることができないときは、地域社会またはグループの代表者の合意が求められるが、その代表者は、地域社会または、グループの性質、伝統および政治哲学に従って選ばれるべきである。

568

・集合的な意思決定が慣行である地域社会では、地域社会の指導者は集合的な意思を表明できる。しかし、研究への参加を個人が拒否するとき、その拒否は尊重されなければならない。

568

・グループの成員を代表する人々が政府の部局などグループ外の機関によって指名される場合は、研究者や倫理審査委員会は、これらの人々がそのグループを真正に代表しているかどうかを検討し、必要なら他の代表者たちの合意も求めるべきである。

568

3.例外

・医療上の記録の検討のみを行うケース・コントロール研究の場合は、インフォームド・コンセントは必要とされないし実際に実行不可能であろう。

566

・連結された医療上の記録を用いる後向きコホート研究の場合は、最終またはエンド・ポイントの観察は、しばしば死亡証明書から得られ、対象者の人数は大変多く、何百万人にもなろうから、かれらのインフォームド・コンセントを得るのは実行不可能であろう。

566

・疫学研究においては、容認されている研究方法の中に情報の選択的開示を伴うものがある。それは、不開示によって、調査される行動の随意性に影響を与えず、回答者が質問者を喜ばせようとして与える回答を得ることを回避するためである。選択的開示は、対象者がそうでなければ同意しないことを同意させるものでない限り、良性であり倫理的に許容され得る。倫理審査委員会は、この過程が正当化されるとき、選択された情報のみの開示を許可することができる。

569

・連結されない情報(情報が関係する人と連結され、関連され、または結合され得ない情報)の場合、研究者はこの人を知らないから、秘密性は危険にさらされず、インフォームド・コンセントの問題は起こらない。

571
・本規則で規定する場合をのぞいて、研究者は被験者または法的な権限を持つ代理人の法的に有効なインフォームド・コンセントを得ていない限り、ヒトを本指針の適用を受ける研究に被験者として参加させることはできない。
226

・インフォームド・コンセントの基本的要素
インフォームド・コンセントを求めるさいには、以下の情報を被験者に与えなければならない

226

・調査が研究を含んでいるという説明、研究の目的及び被験者の予定参加期間の説明、行われる処置・手続きの説明、実験的である処置・手続きの指摘

226

・被験者に対する危険または不快で合理的に予測できるものについての説明

225

・研究から合理的に期待できる被験者または他者に対する利益の説明

225

・被験者に有益でありうる他の適切な治療処置・方法がある場合には、それについての説明。

225

・被験者が識別される記録の守秘が維持される場合には、その程度についての説明

225

・最小限の危険を超える危険を伴う研究については、被害が発生した場合に利用できる補償と医療の有無とその内容、またはより詳しい情報が得られる場所、について説明。

225

・研究及び研究の被験者の権利について関係する質問に対する回答を求めるべき者、及び研究関連の被害が被験者に生じた場合に連絡すべき者、についての説明。

225

・参加は任意であって、参加を拒否しても、制裁を受けたり被験者に本来与えられるべき利益を喪失したりすることはなく、また、被験者は、制裁を受けたり被験者に本来与えられるべき利益を喪失したりすることはなく、いつでも参加を中止できることの説明。

226

・IRBは、以下のことをすべて認定し、記録する場合は、インフォームド・コンセントの要素の一部または全部を含まないまたはそれを変更する同意手続きを承認し、または、インフォームド・コンセントを得るという要件を免除することができる。
ア 研究実証活動が州または地方公共団体の担当官よって実施されるか、またはその承認を受けなければならないものであり、かつ、その目的が公的な給付・サービス事業その他所定の事項の研究、評価、または他の方法による検討であること。
イ 免除または変更なくして、実際上、研究を実施しえないこと。

224

・IRBは以下のことをすべて認定し、記録する場合は、インフォームド・コンセントの要素の一部または全部を含まないまたはそれを変更する同意手続きを承認し、または、インフォームド・コンセントを得るという要件を免除することができる。

・研究が被験者に対して最小限の危険を超える危険を含まないこと。

・免除または変更が、被験者の権利と福祉に悪影響を及ぼさないこと。

・免除又は変更なくして、実際上、研究を実施しえないこと。

・必要な場合にはいつでも、被験者は、参加の後に、関連する追加的情報が与えられること。

224
5 個人保護情報のための措置 ・研究者はデータの秘密性を確保するために、たとえば個々の対象者の身元がわかる情報を省略したり、データへのアクセスを制限するなどの取り決めをするべきである。
571

・疫学研究者は、統計解析の目的でデータを結合するとき、個人の身元を同定する情報を捨てる。個人の身元を同定するものが記録に残っているときには、研究者が、倫理審査委員会に対し、なせそれが必要か、どのようにして秘密性を保護するのかを説明すべきである。

571
・必要に応じて、被験者のプライバシーを保護し、データの守秘を維持するための適切な措置が存在すること。
228

参考:「疫学研究の倫理審査のための国際的指針(国際医科学評議会、1991年)」(訳:光石忠敬、臨床評価20巻3号、1992年)及び 「ヒトを対象とする研究に関する合衆国の規則(1)−厚生省の規則(1)」(丸山英二、神戸法学雑誌第46巻第1号、1996年)に基 づき、基本的に抜粋により作成。(一部、表現を変更した部分がある。)


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