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「ヒト細胞組織等に由来する医薬品等による健康被害の救済問題に関する研究会」におけるこれまでの議論の中間的なまとめ


平成13年8月


 ヒト細胞組織等に由来する医薬品等による健康被害の救済問題に関する研究会(以下「研究会」という。)は、本年1月の発足以来、7回にわたって会合を重ねてきた。この間の議論において、いまだ結論には至っていないものの、論点も明確になってきていることから、この時点で一度、議論の中間的なまとめを行うこととした。

 研究会としては、引き続き、この中間的なまとめを基に議論を継続することとする。また、これまでも研究会の場で、各分野の専門家からのヒアリングを実施してきているが、今後、この中間的なまとめについて、更に意見を聴く機会を設けるものとする。


1 ヒト細胞組織等に由来する医薬品等の現状と想定される健康被害

○ 現状では、ヒト、動物の組織、細胞、抽出物、分泌物、血液、尿を用いた医薬品、医療用具が存在している。人工培養皮膚、人工培養軟骨、インシュリン分泌細胞、分離や増殖を行った幹細胞、トランスジェニック動物を用いた移植用臓器などが開発されており、今後も多種多様な製品の開発が予測されている。

○ こうした製品については、ドナースクリーニング、感染因子の不活化等の原材料に由来する感染症への対策、培養等の処理により細胞又は組織が有害な性質のものとならないことの確認等、品質及び安全性を確保するために特別の対策が必要とされる。

○ しかしながら、これらのヒト・動物の細胞組織等に由来する医薬品・医療用具については、最新の科学的知見に基づく安全対策を講じても、製品の特性もあり、健康被害を生ずるおそれを完全には否定できない。ここに、救済の新たな枠組みを設けることの必要性があり、研究会の設置意義も認められる。

○ もちろん、安全性確保のための規制と救済は裏腹の関係にある。すなわち、必要な規制が十分に行われ、その規制が遵守されたにもかかわらず、発生した健康被害については、何らかの救済の枠組みが必要になるということであって、規制が十分でないのに、他方で救済制度を作るということでは、施策に一貫性がないということになる。

○ 健康被害として考えられるものは、感染症(ウイルス、細菌、原虫等)、免疫学的反応(GVHD等)、プリオン病、再生医学を利用した場合のがん化がある。プリオン病は広い意味の感染と言えなくもないが、GVHDを含め、想定される健康被害を「感染」ということで括ってしまえるかについては、なお議論が必要である。

○ 健康被害には事前に想定できない未知のものがあり得る。未知の健康被害を対象と考えることは制度設計を難しくするものであるが、未知のものを排除し、発生後に対応するか否かを決めるという制度は適切ではないと考えられる。


2 製品の範囲

○ 新たな救済の枠組みの対象としては、規制と救済が裏腹であるという考え方から、製品としての安全性を確認した上で承認され、市場に流通する医薬品、医療用具を対象とする。(ヒト・動物の細胞組織等に由来するものであれば、医薬品と医療用具を区別する必要はない。)

○ 臨床試験のために使用された医薬品、医療用具は対象とせず、医療機関における治療行為として効能外で使用された場合にも対象とはすべきでないものと考えられるが、もう少し検討の必要がある。また、承認を得た製造工程を経ていない臓器を使用した移植は、除外して考える。

○ ヒト・動物の細胞組織等由来のものが最終製品には入っていないが、製造工程の中で使われるというケースについてはどう考えるかも課題である。

○ また、動物由来の成分を含む製品の対象範囲については、なお検討が必要である。


3 因果関係の認定

○ どのような救済の枠組みを作るとしても、実際に救済を行うためには、ヒト・動物の細胞組織等に由来する医薬品・医療用具によって健康被害が生じたという因果関係の認定が必要である。

○ しかしながら、感染ということであれば、そのルートには、医薬品・医療用具を介したものもあるが、感染症ごとに、飛沫、経口、接触等様々なルートがあり、医療機関内での院内感染もある。

○ したがって、因果関係の認定に当たっては、どこまで厳密に行うか、認定のための資料をいかにそろえられるか、ということが問題となる。

○ 血液製剤によるウイルス感染を例にとると、

(1)輸血されたロットの記録があり、
(2)患者がその輸血を受ける以前には感染していなかったという証拠があり、
(3)輸血を受けた後に合理的な期間内に発症、あるいは感染が判明し、
(4)原因となったロットの中にウイルスの核酸があって、患者のそれと一致した

場合には、因果関係の立証ができたことになるものと考えられる。

○ これを一般化すれば、製品の原料調達段階から製造、流通、使用に至る各段階における記録の作成と保存、換言すれば、製品のロット番号等の記録、診療上の記録及びこれらの資料の保存をきちんとしておき、問題が出た場合のルックバック体制を整備しておく必要があることになる。このためには、医療機関を含めた関係者の認識と体制整備が必須であり、逆に言えば、このような体制整備なしには、認定業務は著しく困難なものとなると予想される。

○ 資料収集ができたとしても、例えば、プリオン病でウシが原因となったとした場合には、発生してくるときのパターンは同じであり、医薬品由来か食品由来かの区別は難しいことなど、感染症によっては認定に相当の困難が予想される。

○ 実際には、認定資料が十分にそろわない場合、あるいは入手し得る限りの資料を集めても認定が困難であるという場合が想定できるが、こうした場合に、どのように対応すべきかが課題である。厳密さを重視すると救済されない者が増え、他方、認定が曖昧であると、公平性の面で問題が生じるおそれがあり、また、資金拠出者の理解を得ることが困難になる。


4 救済すべき健康被害の範囲

○ 「感染」以外に、再生医学を利用した場合のがん発生などを救済対象に含めるべきかについては検討の必要がある。

○ 感染被害の場合には、2次感染、3次感染のように被害が拡大する場合があるが、どこまでを救済の対象と考えるべきかということが問題となる。2次感染、3次感染の場合には、第三者が感染に関与しているという可能性があるからである。

○ また、一定の医療を行う上である程度の健康被害は覚悟すべきとの意見も一方にはあり、現行の医薬品副作用被害救済制度でも抗がん剤等が適用対象外とされている。ある程度の危険を覚悟で使用しなければならない医薬品・医療用具による健康被害を救済対象とすべきかどうかが問題となる。


5 救済制度の基本的考え方

○ 救済制度を設計するに当たっては、一般に、少なくとも以下のような点について、あらかじめ整理しておくことが必要であると考えられる。

(1) 目的(救済の必要性)
(2) 救済すべき被害状況
(3) 救済の対象者
(4) 救済制度の実施(運営)主体
(5) 救済対象者の認定方法
(6) 救済給付の内容(種類、金額等)
(7) 費用負担者(給付費及び事務費)
(8) 費用負担者の負担金額

○ 研究会では、現時点では、必ずしも、これらのすべてについて論議が行われたわけではない。しかし、いずれにしても、これらの点をある程度明確にしておかなければ制度設計は行い得ないし、救済対象者、費用負担者の双方が納得していなければ、そもそも制度は成り立たない。

○ 救済制度を考える場合、制度の性質として、(1)損害賠償のようなことで考えていくのか、(2)損害賠償を踏まえた行政上の救済制度として考えるか、(3)災害救助的な救済として考えるか、ということがある。

○ (1)の損害賠償については、裁判手続及び裁判に耐えられるだけの因果関係の証明が必要となり、また、(3)の災害救助的な救済は基本的には応急施策的なものである。したがって、ここで研究対象である救済制度としては、(2)の損害賠償を踏まえた行政上の救済制度ということになる。

○ 行政的な対応であれば、因果関係の認定等において患者側の負担を軽減できる可能性はある。ただし、裁判におけるほどの立証を要しないことに対応して、損害の完全な填補ということではなく、一定基準を満たすようような、ある程度重篤な被害に対して、医療費や障害年金など支払項目を定め、給付額は定額とするという仕組みが考えられる。

○ 2次感染、3次感染の問題についても、行政的な対応であれば、その範囲をあらかじめ区切っておく必要が生じる。基本的には、感染防止のために必要な措置を講じていてもなお感染を防ぎ得なかったという場合を対象とすることが考えられるが、具体的なスキームについてはなお検討を要する。

○ また、財源についても、民事的な解決に比較して、個別に支払責任を負うべき者が明らかとならないため、誰がどのような理由で負担するのかをあらかじめ明確にしておくという点が最も重要となる。

○ 現行の医薬品副作用被害救済制度の給付は、製薬企業等からの拠出金により賄われている。これは、この制度が、医薬品において有効性と副作用とは不可分の関係にあることを踏まえ、医薬品の使用に伴い生じる副作用被害について、民事責任とは切り離し、製薬企業等の社会的責任に基づく共同事業として運営されていることによる。

○ ヒト・動物の細胞組織等に由来する医薬品・医療用具による健康被害についても、医薬品副作用被害救済制度との共通の考え方を採れる部分は大きいと考えられるが、なお違いもある。医薬品において有効性と副作用とは不可分の関係にあるが、副作用以外の健康被害について、このような考え方が採れるかどうかである。

○ そのような考え方が採れれば、該当製品の製造企業等の社会的責任という構成自体は可能となる。しかし、それで実際に制度化ができるかどうかについては、更に実務的検討を要する。すなわち、

(1)想定される費用の大きさとそれに対して現実に費用を負担する者がどれほど存在しているのか、その負担は企業にとって耐えられるものであるのか

(2)感染被害の場合には突発的に大規模に発生する可能性があるが、それにどのように対応するのか、

といった問題であり、財政方式、安定的運営のための積立金のレベルとして、どのようなことが考えられるかということである。

○ なお、ヒト・動物の細胞組織等に由来する医薬品・医療用具の特性により、そのリスクの程度は大きく異なり得ることも想定されることから、そのリスクの程度に応じて費用負担を変えるということも考えられる。


6 制度創設以前の健康被害

○ 一般的に、新しく制度を作る場合には、適用も制度創設以降ということになる。

○ 現行の医薬品副作用被害救済制度においても、制度創設以前の被害は対象としていない。これは、この制度が、今後発生するかもしれない副作用被害に備え、あらかじめすべての製薬企業等が拠出を行い、発生した副作用被害に対し給付を行うという一種の保険システムを採用しているからである。

○ 過去の被害を救済対象とする場合には、新たに保険的に備えるという場合と異なり、その被害に責任があると言えない限りは、費用負担を求めることが難しい。

○ また、過去の被害については、因果関係の認定等にかなりの困難を来すものが多いものと予想される。

○ 以上のことからすると、過去の被害については対応せず、個別に救済すべき特別の事情がある場合には、その事情に応じた救済の方法を別途考慮すべきではないかと考えられる。


照会先 : 医薬局総務課医薬品副作用被害対策室
    篠原、野村
    03-5253-1111(内線: 2716, 2719)


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