審議会議事録  厚生労働省ホームページ

薬食審第221号
平成13年9月13日
薬事・食品衛生審議会
 会長 内山 充 殿
薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会
会長 寺田 雅昭

薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会報告書

 平成12年7月4日付厚生省発生衛第199号及び平成13年6月19日付厚生労働省発食第146号をもって諮問された食品の安全性について、「組換えDNA技術応用食品及び添加物の安全性審査基準」(平成12年5月1日 生衛発第825号−1 厚生省生活衛生局長通知。
 以下「審査基準」という。)に基づき審議した結果、別記のとおり決議したので報告する。


別紙1
報告書
品種: じゃがいも(商品名:「ニューリーフ・プラス・ジャガイモ」)
性質: 害虫(コロラドハムシ)抵抗性及びウィルス(ジャガイモ葉巻ウィルス)抵抗性
申請者: 日本モンサント株式会社
開発者: Monsanto Company (米国)

 日本モンサント株式会社から申請されたじゃがいも(商品名:「ニューリーフ・プラス・ジャガイモ」)について、「組換えDNA技術応用食品及び添加物の安全性審査基準」(以下「審査基準」という。)に適合した安全性評価がなされているか否かについて検討し、以下のような結果を得た。

I 申請された食品の概要

 ニューリーフ・プラス・ジャガイモには、コロラドハムシの防除に効果を発揮するBacillus thuringiensis subsp. tenebrionisが産生する蛋白質(以下「CryIIIA蛋白質」という。)を産生させる遺伝子(以下「cryIIIA遺伝子」という。)、及びジャガイモ葉巻ウィルス由来の天然replicase遺伝子(PLRV rep遺伝子)が導入されており、3つの系統(RBMT21-129系統、RBMT21-350系統、RBMT22-082系統)がある。
 CryIIIA蛋白質は、コロラドハムシの消化管において、中腸上皮細胞の特異的受容体と結合して陽イオン選択的小孔を形成する。その結果、消化プロセスが阻害されコロラドハムシは死に至る。また、ジャガイモ葉巻ウィルス抵抗性の機序は十分解明されていないが、極微量なPLRV rep蛋白質の発現が関与していると推察されている。
 選択マーカー遺伝子として、RBMT21-129系統及びRBMT21-350系統には、NPTII蛋白質を発現させるカナマイシン耐性遺伝子(以下「nptII遺伝子」という。)が導入され、RBMT22-082系統には、除草剤グリホサート存在下でも機能するCP4 EPSPS蛋白質を発現させるCP4 EPSPS遺伝子が導入されている。
 なお、以下の報告内容については、特に断りのない限りこれら3つの系統に共通のものとする。

II 審査結果

1 生産物の既存のものとの同等性に関する事項

 審査基準の第2章第1の各項に規定される資料(1.遺伝的素材に関する資料、2.広範囲な人の安全な食経験に関する資料、3.食品の構成成分等に関する資料、4.既存種と新品種との使用方法の相違に関する資料)について検討した結果、当該食品と既存のものが全体として食品としての同等性を失っていないと客観的に判断し、当該ニューリーフ・プラス・ジャガイモの食品としての安全性を評価するために、既存の食品を比較対象として用いる方法が適用できると判断した。そこで、既存のじゃがいもとの比較において、審査基準の第2章第2以下の各事項に掲げられた審査基準に沿って審査を行った。

1)遺伝的素材に関する資料

 宿主は、じゃがいもSolanum tuberosumの一品種であるRusset Burbank種であり、遺伝子供与体としては、PLRV rep遺伝子はジャガイモ葉巻ウィルスの天然分離株LR-7株に、cryIIIA遺伝子はBacillus thuringiensis subsp.tenebrionis BI256-82株に由来する。また、nptII遺伝子はE.coliに、CP4 EPSPS遺伝子はAgrobacterium sp.のCP4株に由来する。

2)広範囲なヒトの安全な食経験に関する資料

 Russet Burbank種は通常の食用の栽培種であり、広範囲なヒトの安全な食経験がある。cryIIIA遺伝子の供与体であるBacillus thuringiensis subsp. tenebrionisについては、ヒトの直接の食経験はないが、これを基材とする生物農薬等としてこれまで世界各国で安全に使用されてきた。nptII遺伝子の供与体であるE.coliはヒトの腸管内に存在する一般的な細菌である。 CP4 EPSPS遺伝子の供与体はAgrobacterium sp.CP4株であり、直接の食経験はないが、ヒトはこれまでにも安全な食経験のある植物や微生物由来の様々なEPSPS蛋白質を摂取してきている。また、PLRV rep遺伝子は、天然型ジャガイモ葉巻ウィルスのreplicase遺伝子と同一であり、PLRVウィルスはじゃがいも維管束の組織細胞中で増殖するため、これまでも、ヒトはじゃがいもの摂取を通じてPLRV rep蛋白質を摂取してきたと考えられる。
3)食品の構成成分等に関する資料
 ニューリーフ・プラス・ジャガイモは、構成成分等(蛋白質、脂質、繊維、炭水化物、有害生理活性物質等)に関し、既存のじゃがいもと同等であった。

4)既存種と新品種との使用方法の相違に関する資料

 ニューリーフ・プラス・ジャガイモは、食品としての利用方法は既存のじゃがいもと同等である。
 なお、既存のじゃがいもとの栽培上の相違は、コロラドハムシ及びジャガイモ葉巻ウィルスの防除に薬剤散布を必要とするか否かの点のみである。

2 組換え体の利用目的及び利用方法に関する事項

 ニューリーフ・プラス・ジャガイモは、CryIIIA蛋白質の発現によりコロラドハムシの食害を受けず、さらにPLRV rep遺伝子の導入によりジャガイモ葉巻ウィルスに抵抗性を持つため、それらの防除のための薬剤散布を軽減することができる。この点以外、栽培方法、利用目的及び利用方法は従来のじゃがいもと変わらない。

3 宿主に関する事項

 じゃがいもSolanum tuberosumは、通常の食用の栽培種であり、広範なヒトの安全な食経験がある。この品種の一つであるRusset Burbank種が、ニューリーフ・プラス・ジャガイモの親品種である。また、有害生理活性物質の生産等が知られているが、それらに関する情報は十分に得られている。

4 ベクターに関する事項

 RBMT21-129系統及びRBMT21-350系統の作出にはプラスミドPV-STMT21が、RBMT22-082系統の作出にはプラスミドPV-STMT22が用いられた。これらプラスミドは、主としてE.coli K-12株の誘導株であるE.coli MV1190株において構築されたバイナリーベクターである。
 プラスミドPV-STMT21は、それぞれ1コピーのPLRV rep蛋白質産生に関与する遺伝子(P-FMV/PLRVrep/E9 3')、CryIIIA蛋白質産生に関与する遺伝子(P-Arab-SSUIA/cryIIIA/NOS 3')及びNPTII蛋白質産生に関与する遺伝子(P-NOS/nptII/ NOS 3')を含み、そのサイズは15,731bpである。
 プラスミドPV-STMT22はそれぞれ1コピーのPLRV rep蛋白質産生に関与する遺伝子(P-FMV/PLRVrep/E9'3)、CryIIIA蛋白質産生に関与する遺伝子(P-Arab-SSUIA/cryIIIA/NOS 3')及びCP4 EPSPS蛋白質産生に関与する遺伝子(P-FMV/CP4 EPSPS/ E9 3')を含み、そのサイズは17,270bpである。
 また、PV-STMT21及びPV-STMT22には、ベクターを作成する際にマーカーとして用いたaad遺伝子が含まれているが、ともにT-DNAとしては含まれない。
 PV-STMT21及びPV-STMT22に存在する全ての遺伝子は、その特性が明らかとなっており、既知の有害塩基配列を含まない。また、伝達を可能とする配列を含まないので、伝達性はなく、植物細胞中では自立増殖しない。なお、PV-STMT21及びPV-STMT22のじゃがいも組織への導入には、アグロバクテリウム法が用いられている。

5 挿入遺伝子及びその遺伝子産物に関する事項

1)供与体に関する事項

 ニューリーフ・プラス・ジャガイモに導入されているPLRV rep遺伝子はジャガイモ葉巻ウィルスの天然分離株LR-7株に、cryIIIA遺伝子はBacillus thuringiensis subsp.tenebrionis BI256-82株に由来する。また、nptII遺伝子はE.coliに、CP4 EPSPS遺伝子はAgrobacterium sp.のCP4株に由来する。
 PLRV rep遺伝子は、天然型ジャガイモ葉巻ウィルスのreplicase遺伝子と同一であり、PLRVウィルスはじゃがいも維管束の組織細胞中で増殖するため、これまでも、ヒトはじゃがいもの摂取を通じてPLRV rep蛋白質を摂取してきたと考えられる。なお、1996年に米国で実施された調査によれば、非組換えじゃがいものPLRVウィルス平均感染は35〜68%であった。
 発現蛋白質であるCryIIIA蛋白質及びCP4 EPSPS蛋白質、NPTII蛋白質については、すでにニューリーフ・ジャガイモやラウンドアップ・レディ・大豆等において、厚生労働省の審査基準に基づく食品としての安全性が審査済みである。

2)遺伝子の挿入方法に関する事項

 PV-STMT21及びPV-STMT22の親品種であるRusset Burbank種への導入には、アグロバクテリウム法が用いられている。

3)構造に関する事項

 RBMT21-129系統及びRBMT21-350系統には、PLRV rep遺伝子、cryIIIA遺伝子及びnptII遺伝子が存在している。また、RBMT22-082系統には、PLRV rep遺伝子、cryIIIA遺伝子及びCP4 EPSPS遺伝子に加え、aad遺伝子が存在している。但し、aad遺伝子については、細菌の遺伝子発現調節下でのみAAD蛋白質を発現することから、植物体中では発現しないことが確認されている。なお、既知の有害塩基配列は含まれていない。

4)性質に関する事項

 CryIIIA蛋白質は、コロラドハムシ等特定の鞘翅目昆虫の消化管において、中腸上皮細胞の特異的受容体と結合し陽イオン選択的小孔を形成する。その結果、消化プロセスが阻害され昆虫は死に至る。またジャガイモ葉巻ウィルス由来の天然replicase遺伝子(PLRV rep遺伝子)を導入することにより、ウィルスに対する抵抗性を獲得する。
 NPTII蛋白質は、ATPの存在下でアミノ配糖体系抗生物質をリン酸化し不活化する。CP4EPSPS蛋白質はグリホサート存在下でも機能するため、植物や微生物に特有の芳香族アミノ酸合成経路(シキミ酸経路)が、グリホサートにより阻害されない。

5)純度に関する事項

 遺伝子導入に用いたプラスミドPV-STMT21及びPV-STMT22は塩基配列がすべて決定されており、その特性も明らかになっている。また、宿主に導入された遺伝子は、それらの特性が明らかとなった遺伝子のみである。

6)安定性に関する事項

 じゃがいもは栄養繁殖により種イモの増殖がなされるため、後代で遺伝子型が分離する可能性は極めて低く、野外試験の結果においても、4世代にわたり、表現型が安定して発現することが示されている。
7)コピー数に関する事項
 各系統におけるサザンブロット分析及びゲノムウォーキングの結果より、RBMT21-129系統では、2コピーの不完全なT-DNA断片の挿入が、RBMT22-082系統では、3コピーのT-DNA断片(1つは完全なT-DNA断片にベクター由来のori-322とaad領域が連結したものであり、2つ目は不完全なT-DNA断片、3つ目は完全な3つの遺伝子発現カセット)の挿入が示されている。
 また、RBMT21-350系統では、PLRVプローブを用いたノーザンブロット分析の結果も併せると、2コピーのT-DNA断片(1つは完全な3つの遺伝子発現カセットであり、もう1つは不完全なT-DNA断片にP-FMVとPLRV rep遺伝子断片が結合したもの)が挿入されている。

8)発現部位、発現時期及び発現量に関する事項

 PLRVに自然感染したじゃがいもの葉におけるPLRV rep RNA量が3.4ng/μg総RNAであるのに対し、ニューリーフ・プラス・ジャガイモの葉では検出限界(0.05ng/μg総RNA)以下であること等から推定すると、いずれの系統においても、PLRV rep蛋白質の発現量は塊茎中で0.2μg/g生組織重以下となる。また、CryIIIA蛋白質の発現量は、3系統の平均として、生組織重1g 当たり塊茎で0.42μgである。
 RBMT21-129系統及びRBMT21-350系統におけるNPTII蛋白質の発現量は、塊茎で検出限界(0.3ng/g生組織重)以下であり、RBMT22-082系統におけるCP4 EPSPS蛋白質の発現量は、生組織重1g 当たり塊茎で0.53μgである。

9)抗生物質耐性マーカー遺伝子の安全性に関する事項

 NPTII蛋白質は29kDの蛋白質であり、ATPの存在下でアミノ配糖体系抗生物質をリン酸化し不活化する。NPTII蛋白質については、すでにニューリーフ・ジャガイモ等における厚生労働省の審査において、安全性が確認されている。

10)オープンリーディングフレームの有無並びにその転写及び発現の可能性に関する事項

 外来のオープンリーディングフレームは、RBMT21-129系統においては、PLRV rep蛋白質、CryIIIA蛋白質及びNPTII蛋白質の発現に係るもののみであり、RBMT22-082系統においては、PLRV rep蛋白質、CryIIIA蛋白質及びCP4 EPSPS蛋白質の発現に係るもののみであり、これらのことはサザンブロット分析により確認されている。RBMT21-350系統においては、PLRV rep蛋白質、CryIIIA蛋白質及びNPTII蛋白質の発現に係るものがサザンブロット分析及びノーザンブロット分析により確認されている。

6 組換え体に関する事項

1)組換えDNA 操作により新たに獲得された性質に関する事項

 ニューリーフ・プラス・ジャガイモに新たに導入された性質は、CryIIIA蛋白質の発現によりコロラドハムシの食害を受けず、さらにPLRV rep遺伝子の導入によりジャガイモ葉巻ウィルスに抵抗性を示す点のみである。
2)遺伝子産物のアレルギー誘発性に関する資料
a 供与体の生物の食経験に関する事項
 cryIIIA遺伝子の供与体であるBacillus thuringiensis subsp. tenebrionisは、ヒトの直接の食経験はないが、これを基材とする生物農薬としてこれまで世界各国で安全に使用されてきた。
 nptII遺伝子の供与体であるE.coliは、ヒトの腸管内に存在する一般的な細菌である。
 また、CP4 EPSPS遺伝子の供与体はAgrobacterium sp.CP4株であり、直接の食経験はないが、これまでにも安全な食経験のある植物や微生物由来の様々なEPSPS蛋白質を摂取してきている。
 さらに、PLRV rep遺伝子は、天然型ジャガイモ葉巻ウィルスのreplicase遺伝子と同一であり、PLRVウィルスはじゃがいも維管束の組織細胞中で増殖するため、これまでも、ヒトはじゃがいもの摂取を通じてPLRV rep蛋白質を摂取してきたと考えられる。

b 遺伝子産物がアレルゲンとして知られているか否かに関する事項
 CryIIIA蛋白質、NPTII蛋白質、CP4 EPSPS蛋白質及びPLRV rep蛋白質が、アレルゲンとしてアレルギー誘発性を有するということは報告されていない。

c 遺伝子産物の物理化学的処理に対する感受性に関する事項
ア 人工胃液・人工腸液に対する感受性
 多くの既知アレルゲンは、ペプシン及びトリプシン消化に対して安定であることを踏まえ、CryIIIA蛋白質を人工胃腸消化液に反応させ、ウェスタンブロット分析した結果、人工胃液中でCryIIIA蛋白質の免疫反応性は、30秒後に完全に消滅することが確認された。人工腸液中では、68kDのCryIIIA蛋白質は速やかにトリプシン耐性の55kDのフラグメントに変換された。
 CP4 EPSPS蛋白質についても同様に分析を行った結果、人工胃液中で免疫反応性は15秒後に完全に消滅することが確認された。人工腸液中で免疫反応性は10分後に大半が、また100分後に完全に消失することが確認された。
 また、PLRV rep蛋白質については、十分な試料の調製もできなかったことから人工消化液等の試験は行われていないが、非組換えじゃがいもにおいてPLRV感染が報告されていることも考慮すれば、問題はないと判断できる。
 NPTII蛋白質については、nptII遺伝子が挿入されているRBMT21-129系統及びRBMT21-350系統の塊茎組織中で、それぞれ検出限界(0.3ng/g生組織重)以下、0.01μg/g生組織重である。
 なお、AAD蛋白質については、植物体中で発現していない。

イ 加熱処理に対する感受性
 CryIIIA蛋白質及びCP4 EPSPS蛋白質は、加熱により免疫反応性及び酵素活性の99%以上が失われることが、ELISA分析等により確認されている。

d 遺伝子産物の摂取量を有意に変えるか否かに関する事項
 ニューリーフ・プラス・ジャガイモ塊茎中の各発現蛋白質の平均発現量は、生組織重1g当たり、CryIIIA蛋白質で0.42μg、CP4 EPSPS蛋白質で0.53μg 、NPTII蛋白質で0.01μg以下、 PLRV rep蛋白質で0.2μg/g以下となっている。なお、AAD蛋白質については、植物体中で発現していない。
 日本人の一日一人あたりのじゃがいもの平均摂取量46.1g(国民栄養の現状2000、じゃがいもといも類加工品との合計摂取量)を全てニューリーフ・プラス・ジャガイモに置き換えて計算すると、加工損失等がないとして、一日一人あたりの予想摂取量は、CryIIIA蛋白質で19.36μg、CP4 EPSPS蛋白質で24.43μg 、NPTII蛋白質で0.46μg以下、PLRV rep蛋白質で9.22μg以下となる。
 ある蛋白質に対してヒトが抗体を産生するには、ある程度の量を摂取することが必要であり、また、これら蛋白質が速やかに消化されること等を考慮すると、これら蛋白質がアレルゲンとなるとは考えにくい。

e 遺伝子産物と既知の食物アレルゲンとの構造相同性に関する事項
 PLRV rep蛋白質について、既知のアレルゲンとの構造相同性を検索するため、276のアレルゲン及びグリアジンとの配列の比較をデータベースより抽出して解析した結果、PLRV rep蛋白質と7個以上隣接したアミノ酸配列が一致するような配列はなく、既知アレルゲンとの間に相同性は認められなかった。
 また、発現蛋白質であるCryIIIA蛋白質、CP4 EPSPS蛋白質及びNPTII蛋白質については、すでにニューリーフ・ジャガイモやラウンドアップ・レディ・大豆等において、厚生労働省の審査基準に基づき審査済みであり、問題はないと判断できる。

f 遺伝子産物が一日蛋白摂取量の有意な量を占めるか否かに関する事項
 日本人の一日一人あたりの蛋白質の平均摂取量79.2g(国民栄養の現状、2000)に基づいて計算すると、CryIIIA蛋白質、CP4EPSPS蛋白質、NPTII蛋白質及び PLRV rep蛋白質の一日平均予想摂取量の一日蛋白摂取量に対する割合は、それぞれ0.000024%、0.00003%、0.0000005%以下及び約0.000012%以下と極めて少ない。

3) 遺伝子産物の毒性に関する資料

 CryIIIA蛋白質、CP4EPSPS蛋白質及びNPTII蛋白質について、マウスを用いた強制経口投与試験を行った結果、それぞれ最大投与量5,220 mg/kg、572 mg/kg、5,000mg/kgまで投与しても有害な影響は認められなかった。この投与量は、日本人がじゃがいもから摂取するCryIIIA蛋白質、CP4EPSPS蛋白質及びNPTII蛋白質の一日最大予想摂取量19.36μg、24.43μg、0.46μg以下の、それぞれ1,343万倍、118万倍、54,348万倍に相当する。
 また、PLRV rep蛋白質についてのマウス急性毒性試験は行われていないが、毒素配列データベースを用いて検索を行った結果、PLRV蛋白質と既知の毒性蛋白質との間に相同性は認められなかった。
 なお、AAD蛋白質については、植物体中で発現していない。

4)遺伝子産物の代謝経路への影響に関する資料

 CryIIIA蛋白質は酵素活性をもたないため、代謝経路に影響を及ぼす可能性は低いと考えられる。また、PLRV rep蛋白質についても、RNAドットハイブリダイゼーション分析の結果から、PLRV rep mRNA量を推定しても、その発現レベルは非組換えのPLRV感染じゃがいもより低いことから、代謝経路に及ぼす影響はあるとしてもはるかに低いと考えられる。
 また、CP4EPSPS蛋白質は芳香族アミノ酸の合成経路であるシキミ酸経路を触媒する。本経路における炭素の流れは、経路の第1段階に関与する3-デオキシ-D-アラビノ-ヘプツロン酸-7-リン酸(DAHP)合成酵素の活性による調節を受け制御されることが証明されているが、DAHPからコリスミン酸が生成されるまでの段階は、中間代謝産物や最終生成物によって阻害されたり抑制されることはほとんどないことが知られていることから、CP4EPSPS蛋白質が本経路における律速酵素ではないことを示している。仮に、EPSPS蛋白質活性が増加したとしても、本経路の最終産物である芳香族アミノ酸の濃度が高くなることはないと推測される。
 さらに、EPSPS蛋白質はホスホエノールピルビン酸(PEP)及びシキミ酸-3-リン酸(S3P)と特異的に反応する。PEPとS3P以外にEPSPS蛋白質と反応することが知られているのはS3P類似体であるシキミ酸のみである。EPSPS蛋白質とシキミ酸の反応性は、EPSPS蛋白質とS3Pの反応性のおよそ200万分の1にすぎない。したがって、シキミ酸が植物体内でEPSPS蛋白質と反応することはない。

5)宿主との差異に関する資料

 主要構成成分(総固形分、ブドウ糖、ショ糖、ビタミンC及び蛋白質)及び有害生理活性物質(グルコアルカロイド)について、既存のじゃがいもとの間で比較したところ、ショ糖量と総固形量とで統計学的に有意な差が認められたものの、いずれも文献値の範囲内であり、生物学的に意味のある差異はないと考えられた。また、組成成分(水分、蛋白質、脂質、灰分、粗繊維質、炭水化物、熱量)の分析の結果についても、既存のじゃがいもに関する文献値の範囲内であることから、生物学的に意味のある差異はないと考えられた。

6)外界における生存及び増殖能力に関する資料

 1993年以来、米国及びカナダで野外試験が行われているが、ニューリーフ・プラス・ジャガイモの生存・増殖能力は非組換えじゃがいもと同等であった。

7)組換え体の生存及び増殖能力の制限に関する資料

 ニューリーフ・プラス・ジャガイモの生存・増殖能力は非組換え品種と同等であることから、生存・増殖能力の制限要因についても両者の間に変化はないと考えられた。

8)組換え体の不活化法に関する資料

 ニューリーフ・プラス・ジャガイモは、物理的防除(耕耘)や化学的防除(感受性を示す除草剤の散布)など、じゃがいもを枯死させる従来の方法によって不活化される。

9)諸外国における認可、食用等に関する資料

 ニューリーフ・プラス・ジャガイモについては、1998年に米国で、また1999年にカナダにおいて、食品としての安全性に関する協議が終了している。

10)作出、育種及び栽培方法に関する資料

 ニューリーフ・プラス・ジャガイモと既存のじゃがいもとの栽培方法の相違は、コロラドハムシ及びジャガイモ葉巻ウィルスに防除に薬剤散布を必要とするか否かの点のみであり、他の点では同等である。

11)種子の製法及び管理方法に関する資料

 ニューリーフ・プラス・ジャガイモの製法及び管理方法については、既存のじゃがいもと同様である。種イモについては、RBMT21-350系統についてのみ保存されている。

III 基準適合性に関する結論

 以上のことから、日本モンサント株式会社から申請されたニューリーフ・プラス・ジャガイモ(RBMT21-129系統、RBMT21-350系統、RBMT22-082系統)については、申請に際して提出された資料を審査基準に基づき審査した結果、人の健康をそこなうおそれがあると認められないと判断される。


別紙2
報告書
品種: なたね(名称等:「ラウンドアップ・レディー・カノーラ RT200系統」)
性質: 除草剤(グリホサート)耐性
申請者: 日本モンサント株式会社
開発者: Monsanto Company

 ラウンドアップ・レディー・カノーラ RT200系統(以下「RT200」という。)について開発者が行った安全性評価が、「組換えDNA技術応用食品及び添加物の安全性審査基準」(以下「審査基準」という。)に適合しているか否かについて審査した。その結果は次のとおりである。

I 申請された食品の概要

 RT200は、除草剤「グリホサート(商品名:ラウンドアップ、一般名:N-ホスホノメチルグリシン、農林水産省:農薬登録番号14360号、米国Chemical Abstract Service(CAS) 登録番号:1071-83-6、38641-94-0)」の影響を受けずに生育できる性質が付与されている。
 グリホサートは、植物や微生物に特有の芳香族アミノ酸合成経路(シキミ酸経路)中の酵素の一つである5-エノールピルビルシキミ酸-3-リン酸合成酵素(以下「EPSPS」という。)と特異的に結合し、その活性を阻害する。その結果、ほとんどの植物は生育に必要なアミノ酸を合成できずに枯死する。しかし、RT200は、グリホサート存在下でも機能するCP4EPSPS蛋白質を発現する遺伝子(以下「CP4EPSPS遺伝子」という。)とグリホサート分解酵素(GOX蛋白質)を発現する遺伝子(以下「GOX遺伝子」という。)を導入したので、グリホサートが散布されても枯死せずに生育することができる。

II 審査結果

1 生産物の既存のものとの同等性に関する事項

 審査基準の第2章第1の各項に規定される資料から判断した結果、当該食品と既存のものが全体として食品としての同等性を失っていないと客観的に判断し、当該RT200の食品としての安全性を評価するために、既存の食品を比較対象として用いる方法が適用できると判断した。そこで、既存の食品との比較において、審査基準の第2章第2以下の各事項に掲げられた審査基準に沿って審査を行った。

(1) 遺伝子素因に関する資料

 宿主はなたね(カノーラ種)であり、遺伝子供与体は非病原性の土壌微生物であるAgrobacterium CP4株とOchrobactrum anthropiのLBAA株に由来する。

(2) 広範囲な人の安全な食経験に関する資料

 なたね(カノーラ種)は、主要な食品油源として広く利用されており、広範囲なヒトの安全な食経験がある。

(3) 食品の構成成分等に関する資料

 RT200は既存のなたねと構成成分等(油分、炭水化物、タンパク質、繊維、灰分、有害生理活性物質)に関し同等であった。

(4) 既存種と新品種の使用方法の相違に関する資料

 RT200は、食品としての利用方法は既存のなたね(カノーラ種)と同等である。なお既存のなたねとの栽培上の相違は、グリホサートの影響を受けずに生育する点のみであり、栽培期間中にグリホサートが使用できる点である。

2 組換え体の利用目的及び利用方法に関する事項

 RT200には、グリホサート存在下でも機能するCP4EPSPS蛋白質を発現する遺伝子が導入されているので、栽培期間中にグリホサートが使用できる。この点以外、その栽培方法、利用目的、利用方法は従来のなたねと変わらない。

3 宿主に関する事項

 なたね(カノーラ種)は、通常の食用の栽培種であり、食品としての利用形態は食用油に限られる。有害生理活性物質の生産性等が知られているが、それらに関する情報は十分に得られている。

4 ベクターに関する事項

 RT200の作出に用いられたプラスミドpV-BNGT03は、E.coliプラスミドpBR322及び広宿主域プラスミドRK2を用いて作成されている。pV-BNGT03に存在する全ての遺伝子は、その特性が明らかとなっており、既知の有害塩基配列を含まない。また、細菌中で増殖が可能な塩基配列が含まれるが、植物や自然界では自立増殖しない。

5 挿入遺伝子及びその遺伝子産物に関する事項

1) 供与体に関する事項

 RT200に導入されたCP4EPSPS遺伝子は、非病原性の土壌微生物であるAgrobacterium sp.CP4株から、GOX遺伝子は、植物根中に最も多く存在する微生物の一つであるOchrobasterium anthropiのLBAA株から、単離した遺伝子に改変を加えたものである。
 Agrobacterium sp.は土壌中及び植物の根圏に存在する微生物類の一つであり、CP4EPSPS遺伝子には、植物の芳香族アミノ酸生合成の場である葉緑体中で直接機能できるように葉緑体輸送ペプチド配列(CTP2)が組み込まれれている。
 RT200に導入された遺伝子でAgrobacterium sp.CP4株に由来するものはCP4EPSPSのみである。 CP4EPSPS遺伝子及びその発現蛋白質であるCP4EPSPS蛋白質の配列は明らかになっており、これまでも、ヒトは、安全な食経験のある植物や微生物由来のEPSPS蛋白質を摂取してきている。なお、発現蛋白質であるCP4EPSPS蛋白質については、すでにラウンドアップ・レディー・大豆等において、厚生労働省の審査基準に基づく食品としての安全性が審査済みである。
 GOX蛋白質については、生化学的機能等について十分な知見が得られており、ヒトの健康に害を及ぼさないことが示されている。

2) 遺伝子の挿入方法に関する事項

 pV-BNGT03を導入したAgrobacterium tumefaciens ABI株を用いて、カノーラ品種Westerの組織に接種して除菌後、グリホサートを添加した組織培養培地に移して形質転換細胞の選抜を行って、選抜カルス再分化個体を得た。そして、再分化個体以降の後代について、除草剤ラウンドアップの散布検定及びCP4EPSPS蛋白質の発現検定を行って系統の選抜を行った。

3) 構造に関する事項

 RT200のゲノムにはGOX遺伝子発現カセットとCP4EPSPS遺伝子発現カセットが挿入されており、pV-BNGT03のT-DNA領域外の外骨格領域は導入されていない。なお、既知の有害塩基配列は含まれていない。

4) 性質に関する事項

 CP4EPSPS遺伝子は、グリホサート存在下でも阻害を受けずに機能するCP4EPSPS蛋白質を発現することにより、グリホサートの除草効果を妨げる。またGOX遺伝子はグリホサート分解能を持つGOX(グリホサート分解酵素)蛋白質を発現する。

5) 純度に関する事項

 遺伝子導入に用いたプラスミドpV-BNGT03は塩基配列が全て決定されており、その特性も明らかになっている。また、宿主に導入された遺伝子は、それらの特性が明らかとなった遺伝子のみである。

6) 安定性に関する事項

 RT200のR3世代とR4世代を用いた挿入遺伝子解析により同一性が確認されており、また再分化個体(R0世代)からR4世代まで実際に除草剤ラウンドアップを散布して、それぞれの世代でグリホサート耐性を示すことが確認されている。

7) コピー数に関する事項

 RT200にはゲノムの一カ所に1コピー挿入されている。

8) 発現部位、発現時期、発現量に関する事項

 CP4EPSPS蛋白質の発現量平均は、生組織重量1mg あたり葉で0.031μg 、種子では0.051μg であり、GOX蛋白質の発現量平均は、生組織重量1mg あたり葉で0.069μg 、種子では0.142μg である。

9) 抗生物質耐性マーカー遺伝子の安全性に関する事項

 RT200の挿入遺伝子には、抗生物質耐性マーカー遺伝子は存在しない。

10) オープンリーディングフレームの有無並びにその転写及び発現の可能性に関する事項

 T−DNA領域内はGOX遺伝子発現カセットとCP4EPSPS遺伝子発現カセットからなるオープンリーディングフレームのみが含まれており、それぞれGOX蛋白質及びCP4EPSPS蛋白質だけが発現する。

6 組換え体に関する事項

1) 組換えDNA 操作により新たに獲得された性質に関する事項

RT200に導入された性質は、グリホサートの影響を受けずに生育できる点のみである。

2) 遺伝子産物のアレルギー誘発性に関する事項

 (1) 供与体の生物の食経験に関する事項

(1) CP4EPSPS遺伝子の供与体であるAgrobacterium sp.CP4株はヒトの直接の食物源ではないが、これまでにもヒトはCP4EPSPS遺伝子がコードするCP4EPSPS蛋白質と同様の機能を持つEPSPS蛋白質類を摂取してきている。
(2) GOX遺伝子の供与体であるOchrobasterium anthropiのLBAA株はヒトの直接の食物源ではないが、これまでにもヒトはGOX遺伝子がコードするGOX蛋白質と同様の機能を持つGOX蛋白質類を摂取してきている。

 (2) 遺伝子産物がアレルゲンとして知られているか否かに関する事項

 CP4EPSPS蛋白質とGOX蛋白質は共に、アレルギー誘発性を有するとは報告されていない。
 (3) 遺伝子産物の物理化学的処理に対する感受性に関する事項
ア 人工胃液・人工腸液に対する感受性
(1) CP4EPSPS蛋白質を人工胃腸消化液に反応させ、ウェスタンブロット分析した結果、人工胃液中、15秒でCP4EPSPS蛋白質の免疫反応性が完全に消滅することが確認された。また、人工腸液中では、10分後にCP4EPSPS蛋白質の免疫反応性の大半が失われ、100分後には完全に消失することが確認された。このことから、この蛋白質が哺乳動物の消化器官から吸収される可能性が極めて低いことが示された。
(2) GOX蛋白質を人工胃腸消化液に反応させ、ウェスタンブロット分析した結果、人工胃液中、15秒でGOX蛋白質の免疫反応性が90%消失することが確認された。また、人工腸液中では、30秒後にGOX蛋白質の免疫反応性の大半が失われ、2分後には完全に消失することが確認された。
 このことから、この蛋白質が哺乳動物の消化器官から吸収される可能性が極めて低いことが示された。

イ 加熱処理に対する感受性
 CP4EPSPS蛋白質とGOX蛋白質は、加熱により酵素活性が消失するとともに、抗原性が消失する。

 (4) 遺伝子産物の摂取量を有意に変えるか否かに関する事項

 日本人が摂取するなたね由来の食品は、食用油のみであり、RT200から得た精製油中蛋白質は検出限界(1.28μg protein/g oil)未満である。従って、日本人の一日予想最大摂取量は、検出限界値の蛋白質(CP4EPSPS蛋白質とGOX蛋白質)が精製油中に存在し、このなたね油を日本人の油脂一日平均摂取量の7〜8g全量摂取すると仮定した場合、10.24μg以下である。
 (5) 遺伝子産物と既知の食物アレルゲンとの構造相同性に関する事項
(1) CP4EPSPS蛋白質と既知のアレルゲンとの構造相同性を検索するため、219のアレルゲン及びグリアジンとの配列の比較をデータベースより抽出して解析した結果、CP4EPSPS蛋白質と隣接したアミノ酸配列が8つ以上同一であるアレルゲンはなく、CP4EPSPS蛋白質と既知アレルゲンとの間に相同性は認められなかった。
(2) GOX蛋白質と既知のアレルゲンとの構造相同性を検索するため、219のアレルゲン及びグリアジンとの配列の比較をデータベースより抽出して解析した結果、GOX蛋白質と隣接したアミノ酸配列が8つ以上同一であるアレルゲンはなく、GOX蛋白質と既知アレルゲンとの間に相同性は認められなかった。
(6) 遺伝子産物が一日蛋白摂取量の有意な量を占めるか否かに関する事項
 日本人のCP4EPSPS蛋白質及びGOX蛋白質の一日予想摂取量は、加工損失が無いと仮定し、検出限界値の両蛋白が残存しているとしてもそれぞれ7.55μgずつとなる。これは一日一人当たりの平均蛋白摂取量80.5gに対する割合は94ppbと、極めて少ない。

3) 遺伝子産物の毒性に関する事項

 (1) 生化学的機能

(1) 植物及び微生物由来の食品中に広く存在するEPSPS蛋白質とCP4EPSPS蛋白質の類似性を活性部位残基、三次構造、アミノ酸配列から評価したところ、両者は機能的に同一であることが確認された。
(2) GOX蛋白質について知られている唯一の機能は、グリホサートをアミノメチルホスホン酸(AMPA)とグリオキシレートへ分解する酸化反応を触媒することである。AMPAは、既知の動物及び植物中の代謝産物であり、グリオキシレートも糖新生やグリシン合成及び脂肪酸代謝経路における中間代謝産物である。
 (2) 既知の蛋白質毒素との構造相同性の比較
 CP4EPSPS蛋白質及びGOX蛋白質の毒性影響について、データベース検索を行った結果、CP4EPSPS蛋白質及びGOX蛋白質と既知の毒素の間に相同性は認められなかった。
 (3) 人工胃液・腸液に対する感受性
 CP4EPSPS蛋白質及びGOX蛋白質は人工胃液・人工腸液により急速に分解され、免疫反応性が完全に消滅することが確認されていることから、CP4EPSPS蛋白質及びGOX蛋白質が活性を保ったまま消化管から吸収される可能性は極めて低い。
 (4) マウス急性強制経口投与試験
(1) マウスを用いたCP4EPSPS蛋白質の強制経口投与試験の結果、最大投与量572mg/kgまで投与しても有害な影響は認められなかった。この投与量は、日本人がなたねから摂取するCP4EPSPS蛋白質の一日最大予想摂取量の378万倍以上に相当する。
(2) マウスを用いたGOX蛋白質の強制経口投与試験の結果、最大投与量91.3mg/kgまで投与しても有害な影響は認められなかった。この投与量は、日本人がなたねから摂取するGOX蛋白質の一日最大予想摂取量の60万倍以上に相当する。
4) 遺伝子産物の代謝経路への影響に関する事項
(1) CP4EPSPS蛋白質は芳香族アミノ酸の合成経路であるシキミ酸経路を触媒する。本経路における炭素の流れは、経路の第1段階に関与する3-デオキシ-D-アラビノヘプツロン酸-7-リン酸(DAHP)合成酵素の活性による調節を受け制御されることが証明されているが、DAHPからコリスミン酸が生成されるまでの段階は、中間代謝産物や最終生成物によって阻害されたり抑制されることはほとんどないことが知られていることから、CP4EPSPS蛋白質が本経路における律速酵素ではないことを示している。仮に、EPSPS蛋白質活性が増加したとしても、本経路の最終産物である芳香族アミノ酸の濃度が高くなることはないと推測される。
 EPSPS蛋白質はホスホエノールピルビン酸(PEP)及びシキミ酸-3-リン酸(S3P)と特異的に反応する。PEPとS3P以外にEPSPS蛋白質と反応することが知られているのはS3P類似体であるシキミ酸のみである。EPSPS蛋白質とシキミ酸の反応性は、EPSPS蛋白質とS3Pの反応性のおよそ200万分の1にすぎない。したがって、シキミ酸が植物体内で EPSPS蛋白質と反応することはない。
(2) GOX蛋白質は基質特異性が極めて高く、その基質となり得る化合物または分子は、RT200中に存在しないことが示されている。
5) 宿主との差異に関する事項
 前述のとおり、RT200は、主要構成成分(灰分、炭水化物、酸性デタージェントファイバー(ADF)、中性デタージェントファイバー(NDF)、水分、総脂質、蛋白質、)、アミノ酸組成及び脂肪酸組成に関し、既存のなたね及び主加工製品の間で比較したところ、生物学的に意味のある差異はないと考えられた。

6) 外界における生存及び増殖能力に関する事項

 R200の圃場試験はカナダで行われているが、形態、生育、雑草性、生存・増殖能力に関し非組換え品種と同等であった。

7) 組換え体の生存・増殖能力の制限に関する事項

 RT200の生存・増殖能力は非組換え品種と同等であることが、カナダで行った圃場試験により確保されている。

8) 組換え体の不活化法に関する事項

 RT200は、物理的防除(耕耘)や化学的防除(感受性を示す除草剤の散布)など、カノーラを枯死させる従来の方法によって不活化される。

9) 諸外国における認可、食用等に関する事項

 RT200は、カナダ食品検査局により1996年3月に商業栽培への利用が承認され、1997年9月に食品及び飼料としての利用認可を、カナダ厚生省及び食品検査局よりそれぞれ得ている。

10) 作出、育種及び栽培方法に関する事項

 RT200と既存のなたねとの栽培方法の相違は、生育期の雑草防除にグリホサートが使用できるか否かの点のみであり、他の点では同等である。

11) 種子の製法及び管理方法に関する事項

 RT200の製法及び管理方法については、既存のなたねと同様である。また、R4世代の種子約100粒のみ(本系統は現在その開発が中断しているため。)を発芽能力を失わせずに保存している。

III 基準適合性に関する結論

 以上のことから、日本モンサント株式会社から申請されたラウンドアップ・レディ・カノーラRT200系統については、申請に際して提出された資料を審査基準に基づき審査した結果、人の健康を損なうおそれがあるとは認められないと判断される。


照会先:医薬局食品保健部監視安全課
担当者:三木、尾添(内2454、2455)
電話番号:03-5253-1111(代表)
     03-3595-2337(直通)

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