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資料4−1

将来人口推計の方法と平成9年推計の基本的な考え方
国立社会保障・人口問題研究所

I.将来人口推計の基本的な枠組み

1.将来人口推計の方法

1)将来人口予測の種類
2)コーホート要因法による人口推計
2.出生率仮定の考え方
1)出生率の考え方
2)出生率推計モデル
3)出生率の仮定設定
3.将来生命表の考え方

4.国際移動の考え方

5.出生性比の考え方

6.新推計における論点

II.平成9年1月推計と実績との比較


I.将来人口推計の基本的な枠組みについて

1.将来人口予測の種類

 将来人口予測には、

(1)過去の人口趨勢に指数関数等をあてはめる推計方法(関数あてはめ法)
(2)年齢階級別人口の変化率による推計方法(コーホート変化率法)
(3)死亡・移動等のコーホート変動要因による推計方法(コーホート要因法)などがあるが、我が国のように詳細な人口統計資料が得られる場合は、コーホート要因法が最も信頼できる方法として採用されている。

注:1.コーホートとは人口観察の単位集団で、通常、同一年に誕生した出生集団を指す(出生コーホート)。
2.国際連合における世界人口推計、アメリカ政府推計、イギリス政府推計など、各国の将来人口推計で用いられている方法は、すべてコーホート要因法である。

2.コーホート要因法による人口推計

 人口をコーホート集団としてとらえた場合、人口は時間の経過に即し、
 (1)「死亡」と「移動」(転出・転入)のコーホート変動要因により変化
 (2)当該人口の出生力によって新たな人口が誕生(=「出生」)
 そこで、このような人口学的なメカニズムを推計手法として定式化したものが、人口推計におけるコーホート要因法である。
 上記の考え方に基づいて将来の人口を予測するためには、コーホート要因である

(1)将来の出生率動向
(2)将来の死亡動向(将来生命表)
(3)将来の人口移動の動向
(4)出生児の男女性比の動向
に関して別途予測を行う必要がある。これらのコーホート変動要因に関する適切な将来見通しが将来人口予測の精度を高めることになる。以下これらの仮定の考え方について述べる。

3.出生率仮定の考え方

1)出生率の考え方
(1)出生率の人口学的概念
 人口学的に出生水準を捉えるに当たり、「合計(特殊)出生率(TFR)」という概念を考える。その定義は次の通りである。t年における合計特殊出生率(TFR(t))は、

TRF(t) 記号 B(a,t)
───── da
F(a,t)

 ただし、

B(a,t) :t年における年齢a歳の母親の出生数
NF(a,t):t年における年齢a歳の女子人口数
 ここで、右辺のB(a,t)/NF(a,t) は、女子の年齢別出生率であることから、合計特殊出生率とは女子の年齢別出生率の合計値である。
 ところで、我が国のように非嫡出子が極めて少なく、出産の大部分が有配偶女性から起きる社会では、近似的に上記式を次のように書き換えることができる。いま、t年の年齢a歳における有配偶女子人口数をNFmar(a,t)とし、右辺の分子、分母に代入すれば、次の式が得られる。

TRF(t) 記号 B(a,t) NFmar(a,t)
──── g ──── da
Fmar(a,t) NF(a,t)

 上記式は、年次別の合計(特殊)出生率は、

年齢別有配偶出生率 (B(a,t)/NFmar(a,t))  と
年齢別有配偶率   (NFmar(a,t)/NF(a,t))  の積和
であることを意味しており、出生率水準は、

(1) 結婚した女性の年齢別出生率
(2) 年齢別の有配偶率(別の言い方をすれば年齢別未婚率)

の2つの構成要素によって決まることとなる。これが、未婚化の進行により合計特殊出生率低下がもたらされる構造的メカニズムとなっている。

(2)期間合計(特殊)出生率とコーホート合計(特殊)出生率の特徴
 通常、毎年人口動態統計で公表されている「合計特殊出生率」は、ある年次(期間)に観察された女子の年齢別出生率により算定されるが、これは生年が異なる女子の出生率を合計したものであり、それぞれの生年毎では異なった結婚・出産行動を経験している。したがって、この合計特殊出生率は、仮に、ある年の女子の年齢別出生率が一人の女性の結婚・出産行動であると見なし合成した出生率指標である。これを、特に明示的に、「期間合計(特殊)出生率(PTFR)」と呼ぶ。
 一方、本来、一人の女子の一生での出生水準を考えるためには、同一年に誕生した出生集団(出生コーホート)の出生率(コーホート年齢別出生率(CASFR))を経時的に観察する必要があり、これが「コーホート合計(特殊)出生率(CTFR)」である。

 結婚や出産の行動は、コーホート(世代)を単位としてその行動が異なる。女性の就業機会の少ない時代に結婚適齢期を迎えたコーホート(世代)では、ある一定の年齢層で多くの女性が結婚していたが、女性の就業機会が広がったあとに結婚適齢期を迎えたコーホート(世代)では、結婚年齢が上昇し、従来の結婚適齢期の未婚率が上昇している。現在、このような結婚行動やそれに続く出産タイミング変化がコーホート(世代)間で見られている。
 出産タイミングが変化している状況では、「期間合計特殊出生率」は結婚・出産行動の異なる世代の出生率が合成されているため、見かけ上の出生率変動を引き起こす場合がある。したがって、出生率の将来予測においては、一般に「コーホート出生率」を予測し、将来の出生率を仮定する。

2)出生率推計モデル
(1)一般化対数ガンマ分布モデル
 コーホート年齢別出生率を出生順位別出生率に一般化対数ガンマ分布モデルを当てはめ、モデル・パラメターを推定する。

(2)目標コーホートについて、平均初婚年齢、生涯未婚率、夫婦子ども数の仮定に基づいて、目標コーホートの出生順位別出生率を推定し、モデル・パラメターを推定する。

(3)推計時点までのモデル推定されたコーホート出生率と目標コーホートの年齢別出生を補完推定し、推計に必要な将来出生率を求める。

3)出生率の仮定設定
 (1)平均初婚年齢と生涯未婚率
  平成4年推計では1950年出生コーホートの24.4歳から1973年出生コーホートの27.3歳まで上昇すると仮定した。平成9年推計では、1980年出生コーホートが27.4歳に上昇すると仮定した。
  生涯未婚率は、平成4年推計では1936〜40年出生コーホートの4.2%から1965年出生コーホートの11.0%へ上昇を仮定した。一方、平成9年推計では、1980年出生コーホートが18.3%へ上昇するものと仮定した。 平成4年と平成9年推計では、平成9年推計において、晩婚化と生涯未婚率の上昇がより厳しく仮定された。

 (2)夫婦の子ども数
夫婦が最終的に実現する夫婦子ども数は、平成4年推計においては、2.30人を仮定し、その後1965年出生コーホートで、2.13まで低下すると仮定した。平成9年推計では、2.18人から1980年出生コーホートの1.96人に低下するものと仮定した。

 (3)長期のコーホート出生率仮定(目標コーホート)

(1)平成4年推計は、1965年出生コーホートの初婚年齢、生涯未婚率、夫婦の完結出生児数を予測し、出生率推定に用いた。
(2)平成9年推計は、1980年出生コーホートの初婚年齢、生涯未婚率、夫婦の完結出生児数を予測し、出生率推定に用いた。
(3)長期の平均出生児数(合計特殊出生率)に関する考え方
将来における全女子の出生率は、(1)将来の女性の結婚割合(余数が生涯未婚率)、(2)夫婦の子ども数(完結出生児数)、ならびに(3)離死別によって出生過程が中断する夫婦の影響度(離死別効果係数)によって決まる。

平均出生児数=(女性の結婚割合)×(完結出生児数)×(離死別効果係数)

注:女性の結婚割合=1−生涯未婚率

3.将来生命表の考え方

 将来生命表は、過去の年齢別死亡率趨勢を将来に延長し、作成する。死亡率の趨勢を平均寿命でみると男女とも、年次によって振幅が見られるもの減速しながら改善している。したがって、将来生命表は、死亡率の全体趨勢が緩やかな改善方向を反映することになるが、基本的に前回推計の将来生命表の枠組みに準拠し考える。
 なお、現在の人口学において用いられる将来生命表の作成方法には、1)モデル生命表を用いる方法、2)最良生命表方式、3)年齢別死亡率補外方式、4)年齢別死因別死亡率補外方式、5)標準化死因別死亡率補外方式、ならびに、6)リレーショナル・モデル方式があり、従来の人口推計では、年齢別死亡率補外方式や標準化死因別死亡率補外方式を採用してきている。

4.国際移動の考え方

 近年、わが国経済社会の国際化が急速に進み、それに伴いわが国を巡る国際人口移動が年々活発化している。法務省の出入国管理統計によると、入国者、出国者とも年々増加しており、平成11(1999)年にはともに2千1百万人を超え、日本人だけで1千6百万人を超えている。ただ、その大部分は海外旅行者であり、長期滞在者の出入国の差は総人口に比してきわめて小さいのが現状である。
 最近の出入国の差を年齢別にみると、年次によりレベルが異なり、その変化の方向も一定しておらず、その将来を予測することは難しい。さらに、国際人口移動は、政府の外国人に対する政策変化(出入国管理法の改定など)によって左右される。また、国内の経済変動(景気)あるいは国際情勢によっても影響を受け、過去の趨勢だけで予測することも難しい状況にある。前回推計では、最近の国際人口移動率を将来も一定と仮定を置き、人口推計を行った。新推計においても、前回推計に準じた方法を検討する。

5.出生性比の考え方

 出生児の男女性比は、過去15年の趨勢でみれば、女児を100とした場合、男児が105から106の範囲で推移してきている。生態学の研究から環境ホルモンの影響などが指摘されているが、人口動態統計による趨勢からは、顕著な変化をみるには至っていない。また、男女の性別選好によって、出生児の産み分けが起きる可能性もあるが、今のところそれを支持するデータはない。
 前回推計では、出生性比の変動が極めて小さいことから、平成3(1991)年〜平成7(1995)年の出生性比の平均値(105.6)が今後も一定であると仮定した。

7.新推計における論点

1)未婚率の動向
 平成4年推計から平成9年推計にかけて、未婚率化の進行や平均初婚年齢の上昇が一層厳しく見込まれた。今後この動向はどのような趨勢に向かうのか検討する必要がある。すなわち、未婚化現象は今後も引き続き進行し、これまで見込まれた以上の生涯未婚率の上昇がもたらされるか、あるいは未婚化はいずれ収束して行くのかという論点である。さらに、晩婚化傾向は、結婚のタイミングの遅れを意味するのか、生涯未婚率の上昇に結びつくのかという論点もある。

2)夫婦の完結出生児数の動向
 1980年代半ば以降から見られるようになった結婚した夫婦の出生率低下は、今後一層拡大して行くのか、あるいは比較的根強い二人っ子規範のもとで、出産タイミングの調整に留まるのか。あるいは、女性就業の高まりのなかで、いよいよ出産を抑制する行動が顕著になるのかどうか議論する必要がある。

II.平成9年1月推計と実績との比較

1.総人口の予測結果と実績との比較
 平成9年推計に基づく、平成11(1999)年の総務庁推計人口と比較すると、推計結果が126,665千人(中位推計)であったのに対して、総務庁の推計人口は126,686千人で、2万1千人ほど推計結果が下回った。平成12年国勢調査の1%抽出推計結果と比較すると、推計結果が126,892千人(中位推計)であるのに対して、国勢調査1%抽出結果は126,920千人と、推計結果が2万8千人下回るという結果であった。

2.出生数の予測結果と実績との比較
 人口動態統計に基づく外国人を含む出生総数は、2000年推計数が1,239千件であるのに対して、人口動態統計は1,203千件と、推計結果が3万6千件過大であった。実績数と推計数の差は年次によって異なるが、おおむね中位推計と低位推計の間にある。

3.合計特殊出生率の予測結果と実績との比較
 人口動態統計による合計特殊出生率と推計の仮定値との差は、平成8年から平成10年まで、上下0.01の差の範囲であった。しかし、平成11(1999)年では0.04ポイント仮定値の方が大きく、平成12(2000)年では、実績と仮定値の差は0.03となっている。

4.死亡数・平均寿命の予測結果と実績との比較
 人口動態統計に基づく死亡数と人口推計によって得られた死亡数を比較すると、平成8年から平成11年までは、実績数と推計結果との間の差は1万件未満間にあった。しかしながら、平成12年はその差が3万7千件に拡大した。推計では、インフルエンザによる死亡数などが平準化されモデル化されているため、平成12年のようなインフルエンザによる死亡が少ない年では差が生じる。
 平均寿命も死亡数と同様の傾向を示し、平成11年まではおおよそ実績と寿命仮定値は同程度の水準にあったが、平成12年は死亡数と同様の理由から実績が仮定値を上回っている。


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