審議会議事録  厚生労働省ホームページ

第2回厚生科学審議会科学技術部会疫学的手法を用いた
研究等の適正な推進の在り方に関する専門委員会資料


資料1疫学研究等に関する倫理指針の策定について[基本方針素案]
資料2疫学研究等に関する倫理指針(仮称)骨子案(たたき台)について
参考資料1大島委員から意見について
参考資料2疫学的手法を用いた研究等における生命倫理問題及び個人情報保護の在 り方に関する指針(案)[疫学的手法を用いた研究等における生命倫理問 題及び個人情報保護の在り方に関する調査研究班]
参考資料3ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針(平成13年3月29日: 文部科学省、厚生労働省、経済産業省


照会先 厚生労働省大臣官房厚生科学課
   代表 03−5253−1111(内線3808)
   直通 03−3595−2171


資料1

疫学研究等に関する倫理指針の策定について[基本方針素案]

1.倫理指針策定の必要性

○ 疫学研究等(がん登録事業等を含む)については、研究資料として人体由来試料、カルテに記載された診療情報等が用いられ得る。
○ 個人情報保護法案の国会提出や、先端医療分野における倫理指針の策定といった状況の中、疫学研究等についても、個人情報保護への十分な配慮等、倫理的な観点からのガイドラインを策定する必要性が認識されつつあるところである。

2.倫理指針策定の根拠(個人情報保護法案等との関係)

○ 個人情報保護法案との関係では、この倫理指針は、「国民又は事業者等が個人情報の適正な取扱いの確保に関して行う活動を支援するため」に策定する「事業者等が講ずべき措置の適切かつ有効な実施を図るための指針」(法案第13条)として位置付けられることとなる。

* ここでいう「事業者等」には、「大学その他の学術研究を目的とする機関若しくは団体」が、また「講ずべき措置」には、「個人情報の適正な取扱いを確保するために必要な措置」(法案第55条)が含まれる。

○ なお、「規制改革推進3か年計画(平成13年3月30日閣議決定)」において、「疫学研究等について、医学全体の発展を通じた公衆衛生の向上等の公益の実現を図る観点から、個人情報の保護を図りながら、情報の適正な利活用を可能にする仕組みについて検討し、早急に整備する。」とされているところである。

3.「倫理指針」の形式

○ この倫理指針については、文部科学省と共同のものとすることを念頭に置き、形式としては、官報告示とすることを想定。

4.作業スケジュール

○ パブリックコメントを実施した上で、本年中の策定を目指すこととする。


疫学的研究手法の倫理問題に関する特徴

(独自のもの)
  • 大量の個人情報を収集・使用すること
  • インフォームド・コンセントの取得について特別な事情を抱える者があること
(その他)
  • 被験者由来の組織を採取する場合があること
下矢印

必要とされるルールの特徴

  • 主として個人情報の管理
  • 研究の多様性に応じたインフォームド・コンセント等のあり方
  • 一般的な規範の具体化
    (1)研究の倫理的・科学的妥当性の確保
    (2)研究等の公表と社会の理解の増進


資料2

疫学研究等に関する倫理指針(仮称)骨子案(たたき台)

 疫学研究等に関する倫理指針については、
   ◎ ヘルシンキ宣言(世界医師会)
   ◎ 個人情報保護法案
等との整合性を十分に考慮しつつ、以下のような基本的事項について、今後、整理していくことといたしたい。

第1 基本的な考え方

1.目的

 本指針を策定する目的として、次のように定める方向でどうか。
 「疫学研究の重要性と学問の自由を踏まえ、個人の自己決定権及び個人情報保護等の人権が守られるよう、疫学研究に関わる全ての関係者が」遵守すべき内容を定めることにより、「人間の尊厳及び人権が尊重され、社会の理解と協力を得て、研究の適正な推進が図られることを目的と」する。

(参考) 引用例
○ 「疫学の研究等における生命倫理問題及び個人情報保護の在り方に関する指針(案)」(疫学的手法を用いた研究等における生命倫理問題及び個人情報保護の在り方に関する調査研究班)(以下「研究班指針」という。)1-1基本理念
○「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」(平成13年3月29日 文部科学省、厚生労働省及び経済産業省)(以下「3省共同指針」という。)1 基本方針

2.本指針の適用範囲

○ 本指針の適用範囲として、対象となる疫学研究に携わる研究者等全てに遵守を求めること等を定める方向でどうか。

※ 本指針は、介入研究に手術や投薬等の医学的介入を含むものとするか。
※ がん登録等の疾病登録事業については、疫学研究についての基本的な考え方が整理された後に検討することとする。

3. すべての研究者等が遵守すべき基本原則

 すべての研究者等が遵守すべき基本原則として、次のような事項等を定める方向でどうか。

第2 倫理審査委員会

4. 倫理審査委員会

 倫理審査委員会の責務、運営等について、次のような事項を定める方向でどうか。

第3 インフォームド・コンセント等

5.インフォームド・コンセント等の取得

○ 以下のように、当該疫学研究が、(1)人体から採取された資料を用いるか(この場合においては、資料の提供が侵襲性を有するか)、(2)用いない場合は介入研究又は観察研究かに応じて、必要とする対応を定めるものとするか。

(1)人体から採取された資料を用いる疫学研究
(1) 資料の提供が侵襲性を有する場合
● 文書によるインフォームド・コンセントを原則として必要とするか。
(参考)
  • 個人情報保護の理念からすれば、個人情報の取扱いを本人にコントロールさせる機会を与える必要があるため、インフォームド・コンセントを受けることを原則とすべき。
  • さらに、資料の提供が侵襲性を有する場合には、事後的な救済等も視野に入れて、文書によることを原則とすべき。

(2) 資料の提供が侵襲性を有しない場合
● インフォームド・コンセント(口頭でもよい)を原則として必要とするか。
(参考)
  • 個人情報保護の理念からすれば、個人情報の取扱いを本人にコントロールさせる機会を与える必要があるため、インフォームド・コンセントを受けることを原則とすべき。
  • ただし、資料の提供が侵襲性を有する場合と異なり、文書によることまでを求める理由に乏しく、個人情報保護法案でも文書によることを求めていないため、口頭で良いこととする。

(2)人体から採取された資料を用いない疫学研究
(1) 介入研究
● 介入の効果を徹底する介入研究については、インフォームド・コンセント(口頭でもよい)を原則として必要とするか。
(参考)
  • 個人情報保護の理念からすれば、個人情報の取扱いを本人にコントロールさせる機会を与える必要があるため、インフォームド・コンセントを受けることを原則とすべき。
  • ただし、人体から採取された資料を用いる研究の場合と異なり、文書によることまでを求める理由に乏しく、個人情報保護法案でも文書によることを求めていないため、口頭でも良いこととする。
● 介入の効果を徹底しない介入研究については、インフォームド・コンセントを受けることまでは必ずしも必要としないが、研究実施についての情報公開をし、かつ、研究対象となることを拒否する機会を保障しなければならないものとするか。
(参考)
  • 「介入の効果を徹底しない介入研究」とは、例えば、保健指導に従う集団と従わない集団とを比較するような研究を念頭に置いているが、このような場合には、必ずしも研究対象者全員からインフォームド・コンセントを受けることまで求める理由に乏しい。
  • ただし、研究の透明性を確保するため、研究実施についての情報公開及び研究対象となることを拒否する機会の保障は必要とする。

(2) 観察研究
● 研究立案時以後に収集した資料を用いる研究については、インフォームド・コンセントを受けることまでは必ずしも必要としないが、研究実施についての情報公開をし、かつ、研究対象となることを拒否する機会を保障しなければならないものとするか。
● 研究立案時において既に存在する資料(既存資料)のみを用いる研究については、インフォームド・コンセントを受けることまでは必ずしも必要としないが、研究実施についての情報公開をしなければならないものとするか。
(参考)
  • 本指針では、プライバシー権と、学問の自由の一環である研究の自由との調和を図る必要がある。
  • 特に、観察研究においては、研究対象が大規模な集団である、研究実施に関する説明を行うこと自体が介入となる、等の指摘がある。
  • 個人情報保護法案では、個人データをあらかじめ公表された目的で利用することを求めるとともに、個人情報取扱事業者による個人情報の第三者提供について、

      (1) 本人の求めによる提供の停止
      (2) 所定の事項を本人が容易に知り得る状態に置くこと

    の2つを条件に、本人の同意を得ないで提供する途を開いている(同法案第28条第2項)ことにも鑑みれば、観察研究についても、同様の途を開くことができるのではないかと考えられる。

  • ただし、研究の透明性を確保するため。研究実施についての情報公開をしなければならないものとする。さらに、研究立案以後に収集した資料を用いる研究の場合には、研究対象となることを拒否する機会を保障しなければならないものとする。
  • また、後述するように、他の機関に研究資料を提供する場合、研究結果を公表する場合等については、個人情報の保護の観点から、一定の規制を課することとする。

6 代諾者等からの取得

○ 代諾者等からインフォームド・コンセント等を受ける場合の取扱については、3省共同指針と同様の整理でよいか。

(参考)3省共同指針における代諾者等に係る規定の要旨

第4 資料の取扱等

7 研究実施に当たっての措置

 研究責任者は、研究の実施に当たり情報管理体制を整備しなければならないものと定める方向でどうか。

8 資料等の取得、保存、廃棄の方法等

○ 研究責任者は、研究等の計画書に従い保存する場合を除き、
資料の保存期間が研究等の計画書に定めた期間を過ぎた場合には、資料を、個人情報の漏洩、混交、盗難、紛失その他が起こらないように処理して廃棄しなければならないこととする方向でどうか。

(注)研究班指針7-4を参考にした。

○ 研究実施前に提供された資料を利用する場合、次のいずれかによることを原則とする方向でどうか。

(1) 本人の同意を得ること
(2) 匿名化されていること。
(3) (1)・(2)によらない場合には、次のすべてを満たすこと

9 他の機関に研究資料を提供する場合の措置

○ 研究責任者は、研究等の実施中又は終了後に、資料を第三者に譲渡する場合には、次のいずれかによらなければならないものとする方向でどうか。

(1) 本人の同意を得ること
(2) 匿名化されていること。
(3) (1)・(2)によらない場合には、次のすべてを満たすこと。

10 研究の発表時の措置

 研究の結果の発表時においては、研究等対象者を匿名化することを原則とする方向でどうか。

第5 見直し

11 この指針は、必要に応じ、又は時期を定めて見直しを行うものとする方向でどうか。

第6 用語の定義

12 前回の専門委員会で提示した以下の項目を含め、当委員会においての検討等を経て、記載するものとする。

(1)「疫学研究」について
(参考)「疫学−基礎から学ぶために−」(日本疫学会編集)

(2)「観察研究」について
(参考)「疫学−基礎から学ぶために−」(日本疫学会編集)

(3)「介入研究について」
(参考)「疫学−基礎から学ぶために−」(日本疫学会編集)


参考資料1
2001年5月29日

疫学研究等に関する倫理指針の策定について(基本方針素案) 及び
疫学研究等に関する倫理指針(基本的事項の整理)に対するコメント

大阪府立成人病センター調査部 大島 明

1. 「1. 指針の必要性について」の「指針を策定する場合、個人情報保護法案との関係をどのように考えるか。」について

疫学的手法を用いた研究とにおける生命倫理問題及び個人情報保護のあり方に関する調査研究班による「疫学の研究等における生命倫理問題及び個人情報保護のあり方に関する指針(案)010410版」(以下、丸山班指針案)では、「本指針は、国立高度医療センター、国立病院・療養所、厚生労働省所管の国立試験研究機関が実施する研究等及び厚生労働省から委託又は補助を受けて実施される研究等に適用される」とし、さらに「本指針は、疫学の研究等において一般的に守られるべきものとして取りまとめられた」とされていた。
今回策定の指針と個人情報保護法案との関係について、この「倫理指針」は「大学その他の学術研究を目的とする機関若しくは団体」が自ら講ずべき「個人情報の適正な取扱いを確保するために必要な措置」の適切かつ有効な実施を図るための指針(同法案13条)としているが、これは同法案55条第2項の間違いではないか。それとも、「国は、地方公共団体が策定し、又は実施する個人情報の保護に関する施策及び国民又は事業者等が個人情報の適切な取扱の確保に関して行う活動を支援するための、情報の提供、事業者等が講ずべき措置の適切な実施を図るための指針の策定その他の必要な措置を講ずるものとする」(同法案13条)の指針と位置づけるのか。

2.「3. インフォームド・コンセントの問題」の(2)の(1)の「介入研究」について:

介入の効果を徹底する介入研究と介入の効果を徹底しない介入研究に分類して述べられているが、介入の効果を徹底しない介入研究とは何か、[参考]として示された説明を読んでもわからない。このような定義はどこかに示されているのか。なお、「2.疫学研究の定義・分類」では日本疫学会編集のモノグラフを引用しているが、このモノグラフでは、同意を得る必要がないと考えられる介入研究の例として、集団単位で割付が行われた冠疾患予防マスメデイアキャンペーンの地域比較研究 (community health trial) をあげている。

3.「(2) 観察研究 ・研究立案時以降に収集した資料を用いる研究については、インフォームドコンセントを受けることまでは必ずしも必要としないが、研究実施についての情報公開をし、かつ、研究対象となることを拒否する機会を保証しなければならないものとするか。」について:

研究対象とコンタクトをとる研究の場合は可能であっても、研究対象とコンタクトをとらない研究のばあい、研究実施について情報公開をし、かつ、研究対象となることを拒否する機会を保証することは極めて困難であり、実行不可能な場合が多い。ここでは「研究立案時以降に本人とコンタクトをとって資料を収集する研究については」と限定して「…しなければならないものとする」として、それ以外のばあいについての判断は倫理審査委員会が行うようにするべきである。

4.「(2) 観察研究 ・研究立案時においてすでに存在する資料(既存資料)のみを用いる研究については、インフォームドコンセントを受けることまでは必ずしも必要としないが、研究実施についての情報公開をしなければならないものとするか。」について:

このばあいの研究実施についての情報公開はどの程度のものを想定しているのかを例示してほしい。また、情報公開によって研究対象となることを拒否したいというものが現われても対象から除外しないこともありうることを明示しておくべきである。なお、この場合の判断は倫理審査委員会が行うようにするべきである。

5.(2) 観察研究の[参考]について:

6.「4. 個人情報保護の問題(インフォームドコンセント以外)」の(2)他の研究機関に研究資料を提供する場合について:

(3) (1)(2)によらない場合には、次のすべてを満たすこととして、ア、イ、ウの3つの要件をあげ、「イ 研究対象となることを拒否する機会を保証していること」をあげているが、研究対象とコンタクトをとらない研究のばあい、研究対象となることを拒否する機会を保証することは極めて困難であり、実行不可能な場合が多い。この要件は、「研究立案時以降に本人とコンタクトをとって資料を収集する研究」に限るべきである。

7.「4. 個人方法保護の問題(インフォームドコンセント以外)」の(4)研究実施前に提供された資料を用いる場合について:

(3) (1)(2)によらない場合には、次のすべてを満たすこととして、ア、イ、ウの3つの要件をあげ、「イ 研究対象となることを拒否する機会を保証していること」をあげているが、研究対象とコンタクトをとることは極めて困難で、研究対象となることを拒否する機会を保証することは事実上不可能であることが多い。この要件は削除するべきである。3の(2)の(2)では、人体から採取された資料を用いない疫学研究で、研究立案時にすでに存在する資料(既存資料)のみを用いる研究については、拒否する機会を保証することを要件とはしていない。

8.その他

これまでの専門委員会や丸山班などでの議論を生かすためにも、ほぼ1年間をかけて作成された丸山班指針案との異同について示すべきである。
丸山班指針案では、6-2のインフォームドコンセントの要件免除の判断の際の細則や、6-5のインフォームドコンセントの要件が緩和・免除される場合の8要件を示している。[私は、丸山班指針案の6-5について(4)の(c)を削除するべきであると考え主張してきた(理由:(3)と矛盾しており、適切な場合はないと考えられるため)]。今回策定の指針で、「倫理審査委員会の承認を得ること」と示すだけに留めて、判断の条件や満たすべき要件を示さないと、倫理審査委員会は混乱し、倫理審査委員会によって、判断がまちまちとなることが予想される。また、適用対象についても、丸山班指針案では、「既存資料で以下のものを用いる研究等には適用されない」とし、「(1)研究等の計画の立案時に匿名かつ連結不可能な状態にある資料、(2)広く一般に入手できる資料」としているが、今回の指針でも適用対象を明示するべきである。[私は、「匿名で、連結不可能な資料」は対象から除外するべきだと考え主張してきた]。
また、個人情報保護法案では、利用目的による制限や第3者提供の制限について「公衆衛生の向上のために特に必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき」は適用除外するとしているが(第21条、28条)、これに該当するか否かの判断も倫理審査委員会で行うことが必要であり、その判断の条件や満たすべき要件を示す必要があると考える。

以上


参考資料2

疫学的手法を用いた研究等における生命倫理問題及び
個人情報保護の在り方に関する調査研究班

疫学の研究等における生命倫理問題及び
個人情報保護の在り方に関する指針(案)

010410版




目次

1. 基本理念及び適用範囲
 1-1. 基本理念
 1-2. 適用対象
 1-3. 適用範囲

2. 定義
 2-1. 疫学の研究等
 2-2. 研究等対象者
 2-3. 資料
 2-4. 人体由来試料
 2-5. 既存資料
 2-6. 研究代表者
 2-7. 研究責任者
 2-8. 倫理審査委員会
 2-9. 個人情報
 2-10. 個人識別情報
 2-11. 個人が同定される資料
 2-12. 匿名
 2-13. 連結可能
 2-14. 連結不可能
 2-15. 最小限の危険

3. すべての研究者等が遵守すべき基本原則
 3-1. 研究等の科学性・倫理性
 3-2. 研究等対象者の尊厳
 3-3. 研究等対象者の選択
 3-4. 倫理審査委員会の承認
 3-5. インフォームド・コンセント
 3-6. 個人情報保護

4. 研究等の体制
 4-1. 研究等実施機関の長の責務
  4-1-1. 倫理的配慮
  4-1-2. 倫理審査委員会の設置
  4-1-3. 倫理審査の手続き
  4-1-4. 倫理審査委員に対する研修・教育
 4-2. 研究代表者及び研究責任者の責務
  4-2-1. 主な責務
  4-2-2. 研究等実施の申請
  4-2-3. 研究等実施報告
  4-2-4. 研究等の計画の変更の申請
  4-2-5. 研究等資料の譲渡及び提供の申請
  4-2-6. 研究等の結果の報告
  4-2-7. 研究等の結果の公表

5. 倫理審査委員会の責務及び構成
 5-1. 倫理審査委員会の責務
 5-2. 倫理審査委員会の要件
  5-2-1. 規則
  5-2-2. 構成
   5-2-2-1. 委員の専門分野
   5-2-2-2. 委員の構成人数及び比率
 5-3. 委員会審査の成立要件
 5-4. 決定
 5-5. 関係委員の不関与
 5-6. 実施の確認
 5-7. 議事要旨等の公開
 5-8. 守秘の義務
 5-9. 略式審査
  5-9-1. 略式審査における決定
  5-9-2. 略式審査の適用範囲
  5-9-3. 略式審査の結果報告

6. インフォームド・コンセント
 6-1. インフォームド・コンセントの一般原則
 6-2. インフォームド・コンセントの要件
 6-3. 説明者の責務
 6-4. 研究代表者及び研究責任者の責務
 6-5. インフォームド・コンセントの要件が緩和・免除される場合
 6-6. 未成年者を対象とする場合
  6-6-1. 16歳以上の場合
  6-6-2. 16歳未満の場合
 6-7. 若年以外の理由から同意能力が認められない者を対象とする場合
 6-8. 死体
  6-8-1. 遺族の承諾
  6-8-2. 生前の拒否の意思の尊重
  6-8-3. 要件の緩和又は免除
 6-9. 公的に収集された情報を収集の目的以外に利用する場合

7. 個人情報保護
 7-1. 目的の限定
 7-2. 適正な取得
 7-3. 資料の取扱い方法
 7-4. 資料の廃棄
 7-5. 資料の譲渡又は提供
  7-5-1. 当初のインフォームド・コンセントにおいて資料の譲渡又は提供についての同意が得られている場合
  7-5-2. 当初のインフォームド・コンセントに資料の譲渡又は提供についての同意が得られていない場合
 7-6. 資料収集の公表
 7-7. 本人への開示・訂正請求
 7-8. 研究等の結果の発表


1. 基本理念及び適用範囲

1-1. [基本理念]

 疫学研究は人々の健康と公衆衛生の向上に不可欠であり,医学の進歩は疫学研究に大きく依存する。他方,疫学研究は人を対象とするものであることから,人間の尊厳に対する十分な配慮が払われなければならない。したがって,疫学研究の実施に当たっては,疫学研究の重要性と学問の自由を踏まえ,個人の自己決定権及び個人情報保護等の人権が守られるよう,疫学研究に関わる全ての関係者が以下の指針を遵守することが求められる。

1-2. [適用対象]

 本指針は,疫学の研究等に適用される。なお,本指針は,既存の資料で以下のものを用いる研究等には適用されない。

(1) 研究等の計画の立案時に匿名かつ連結不可能な状態にある資料
(2) ひろく一般に入手できる資料

1-3. [適用範囲]

 本指針は,国立高度専門医療センター,国立病院・療養所,厚生労働省所管の国立試験研究機関が実施する研究等及び厚生労働省から委託又は補助を受けて実施される研究等に適用される。なお,本指針は,疫学の研究等において一般的に守られるべきものとしてとりまとめられた。したがって,別の法律,規則の適用を受けるものを除いて,広くそれらの研究等において本指針が遵守されることが望ましい。

2. 定義

2-1. [疫学の研究等]

 本指針が適用される疫学の研究等とは,人を対象とする健康に関する研究で(1)にあげる手法を用いるもの,及び(1)と同様の手法を用いる(2)にあげる事業をいう。

(1) 疫学研究(患者の診療を直接の目的として行われるものを除く)
(a) 観察研究
(b) 介入研究(医療行為が関わるもの,医薬品を用いるものを除く)
(2) 疾病登録,患者登録等の登録,統計,調査事業
 なお,本指針において「研究等」とは「疫学の研究等」をいう。

2-2.[研究等対象者]

 研究等対象者とは,その者又はその資料が研究等の対象となる者をいう。

2-3. [資料]

 資料とは,以下のものをいう。

(1) 人体由来試料
(2) 人の健康に関する情報を収める資料

2-4. [人体由来試料]

 人体由来試料とは,人の生体又は死体に由来する試料をいう。

2-5. [既存資料]

 既存資料とは,研究等の計画の立案時に既に存在している資料をいう。

2-6. [研究代表者]

 研究代表者とは,研究等を総括する者をいう。なお,複数の機関に所属する研究者が参加する研究等においても1名とする。

2-7. [研究責任者]

 研究責任者とは,研究等が実施される各機関において,研究等を統括する者をいう。

2-8. [倫理審査委員会]

 倫理審査委員会とは,研究等の実施の適否その他の事項について,科学的観点及び研究等対象者の人権及び個人情報の保護等の倫理的観点から調査審議するため,研究等実施機関の長の諮問機関として置かれた合議制の機関をいう。

2-9. [個人情報]

 個人情報とは,個人に関する情報であって,当該個人を識別できるもの(当該情報のみでは識別できないが,他の情報と容易に照合することができ,それにより当該個人を識別できるものを含む。)をいう。

2-10. [個人識別情報]

 個人識別情報とは,当該個人を同定する情報(identifier)をいう。通常は,氏名,生年月日,住所,カルテ番号等をいう。

2-11. [個人が同定される資料]

 個人が同定される資料とは,個人識別情報が付されている状態(identified)の資料をいう。

2-12. [匿名]

 匿名とは,個人識別情報が付されていない状態(anonymous)をいう。

2-13. [連結可能]

 連結可能とは,匿名のものについて,他の情報と照合することによって,本人を同定することが可能な状態(linkable)をいう。

2-14. [連結不可能]

 連結不可能とは,匿名のものについて,他の情報と照合しても,本人を同定することが不可能な状態(unlinkable)をいう。

2-15. [最小限の危険]

 最小限の危険とは,日常生活や日常的な医学的検査で被る身体的,心理的,社会的危害の可能性の程度を超えない危険をいう。但し,社会的に許容されない種類の危険は含まない。

3. すべての研究者等が遵守すべき基本原則

3-1. [研究等の科学性・倫理性]

 研究等は,科学的合理性,実施可能性,社会的妥当性,及び倫理性が認められるものでなければ実施されてはならない。

3-2. [研究等対象者の尊厳]

 研究等は,研究等対象者及び研究等の対象となる資料に対して,敬意をもって実施されなければならない。

3-3. [研究等対象者の選択]

 研究等対象候補者の選択は,公正,公平,かつ合理的な方法でされなければならない。

3-4. [倫理審査委員会の承認]

 研究等を実施する場合には,事前に,所属機関の倫理審査委員会の承認を得なければならない。

3-5. [インフォームド・コンセント]

 研究等を実施する場合には,事前に,研究等対象者からインフォームド・コンセントを得なければならない。

3-6. [個人情報保護]

 研究等を実施する場合には,研究等対象者の個人情報が保護されなければならない。

4. 研究等の体制

4-1. [研究等実施機関の長の責務]

4-1-1. [倫理的配慮]

 研究等実施機関の長は,当該機関において実施される研究等が,倫理的,法的又は社会的問題を引き起こす可能性があること,それゆえに研究等対象者の人権が尊重され,かつ個人情報の保護措置が講じられなければならないことを周知徹底しなければならない。

4-1-2. [倫理審査委員会の設置]

 研究等実施機関の長は,当該機関における研究等の実施の適否その他の事項に関する審査を行わせるため,倫理審査委員会を設置しなければならない。但し,研究等実施機関が小規模であること等により機関内に倫理審査委員会を設置できない場合には,研究等を共同で実施する機関,公益法人もしくは学会に設置した倫理審査委員会,又は共同研究施設合同で設置した倫理審査委員会に審査を依頼できる。

4-1-3. [倫理審査の手続き]

 研究等実施機関の長は,当該機関における研究等に関し,以下の場合,倫理審査委員会の審査に付し,その決定を尊重して,可否の判断を下し,当該判断を書面で研究責任者に通知しなければならない。研究等実施機関の長は,倫理審査委員会の意見に反して研究等対象者の不利益になるような判断をしてはならない。

(1) 研究等の実施
(2) 研究等の計画の変更
(3) 7-5-1(2)及び7-5-2(2)(3)にかかる研究等資料の譲渡又は提供で,研究等実施機関の長が倫理審査委員会の判断を求めることが必要又は適切と考えるもの

4-1-4. [倫理審査委員に対する研修・教育]

 研究等実施機関の長は,倫理審査委員会委員が科学的,倫理的に適正な審査を行うことができるように,必要な研修・教育の機会を設け,委員の参加を得るよう努めなければならない。

4-2. [研究代表者及び研究責任者の責務]

4-2-1. [主な責務]

 研究代表者及び研究責任者は,法令,本指針及び研究等の計画に従って研究等が実施され,研究等対象者の人権が尊重され,かつ個人情報の保護措置が講じられるように,研究等に携わる者を指導し,統括しなければならない。

4-2-2. [研究等実施の申請]

 研究責任者は,研究等を実施するに際し,事前に研究等の計画について主要な事項を記載した研究等の計画書を作成し,所属する研究等実施機関の長に許可を求めなければならない。

<研究等の計画書に記載すべき事項についての細則>

(1) 研究等対象者選択の方針,基準。

(2) 研究等の意義,目的,方法,期間,予測される成果,研究等対象者に対して予測される危険や不利益,及び個人情報保護の方法。匿名化する場合はその具体的な方法。

(3) 研究等対象者の意思の確認方法。インフォームド・コンセントのための説明文書及び同意文書がある場合には,その文書。

(4) 未成年者や同意能力が認められない者を研究等の対象者に予定している場合は,研究等にその対象者が必須である理由。

(5) 資料を当該研究実施のために保存する場合には,その保存の方法,期間,場所及び個人情報保護の措置。又,当該研究以外の目的のために資料を保存する場合には,その保存の目的,方法,期間,場所及び個人情報保護の措置。

(6) 既存資料を用いる場合には,同意の有無,同意を得ている場合はその内容,同意がない又は不十分である場合は研究等の対象として用いる必要性及び新たな同意取得の予定。

4-2-3. [研究等実施報告]

 期間が1年以上にわたる研究等に関しては,研究責任者は,研究等の実施に関する主要な事項が記載された研究等実施報告書を,少なくとも年1回,研究等実施機関の長を通して,倫理審査委員会に提出しなければならない。

<研究等の実施報告書に記載すべき事項についての細則>
(1) 研究等の実施の概要及び完了までの見通し。
(2) 研究等対象者となった者の数,及び資料等の種類及び数。
(3) 研究等対象候補者に対する説明と同意の状況及び問題点。
(4) 研究等対象者に生じた危険・不利益があった場合,その内容と講じられた対応措置。
(5) 資料の保存および譲渡があった場合,その概要,その際の資料の匿名化及び連結可能性の有無。
なお,研究等対象者に危険・不利益が生じた場合には,研究責任者は直ちに研究等実施機関の長に報告しなければならない。

4-2-4. [研究等の計画の変更の申請]

 研究責任者は,研究等の計画を変更するに際し,研究計画の変更について主要な事項を記載した研究等の計画変更申請書を作成し,所属する研究等実施機関の長に許可を求めなければならない。

<研究等の計画変更申請書に記載すべき事項についての細則>
(1) 研究等の計画の変更点。
(2) 研究等の計画の変更理由。
(3) 当該研究等の許可書の写し。

4-2-5. [研究等資料の譲渡及び提供の申請]

 研究責任者は,研究等の資料を,当初の同意の範囲を超えて,当該研究に関わる者以外の者に対して譲渡又は提供する場合には,研究等の資料の譲渡又は提供についての主要な事項を記載した研究等資料の譲渡又は提供に関する申請書を作成し,所属する研究等実施機関の長に許可を求めなければならない。

<研究等の資料の譲渡又は提供に関する申請書に記載すべき事項についての細則>
(1) 譲渡又は提供についての説明及び同意の有無とその内容。
(2) 譲渡又は提供の際の個人情報保護の措置(譲渡又は提供される資料の匿名化及び連結可能性の有無,方法等,できる限り具体的に示すこと)。
(3) 譲渡又は提供の理由。
(4) 譲渡又は提供先の個人情報保護の体制。

4-2-6. [研究等の結果の報告]

 研究責任者は,研究等終了後,遅滞なく,研究等実施機関の長及び倫理審査委員会に当該研究等の結果の概要を報告しなければならない。

4-2-7. [研究等の結果の公表]

 研究代表者及び研究責任者は,研究等終了後,研究等対象者の個人情報に対する保護措置を講じた上で,研究等の結果を広く社会に公表しなければならない。

5. 倫理審査委員会の責務及び構成

5-1. [倫理審査委員会の責務]

 倫理審査委員会は,研究等実施機関の長から研究等の計画実施の適否その他の事項について意見を求められた場合には,科学的観点及び研究等対象者の人権及び個人情報の保護等の倫理的観点から審査し,文書により意見を述べなければならない。

5-2. [倫理審査委員会の要件]

 倫理審査委員会は以下の要件を満たすものでなければならない。

5-2-1. [規則]

 あらかじめ制定された規則において少なくとも以下の事項が規定されていること。

(1) 委員の選任方法(指名権者,委員となり得る者の範囲)
(2) 委員の任期
(3) 委員長の選任方法
(4) 委員会の成立要件
(5) 議決方法
(6) 審査に係る記録の保存期間
(7) 規則,倫理審査委員名,議事要旨の公開方法・閲覧手続き

5-2-2. [構成]

 倫理審査委員会の構成は,多角的な視点からの審査を可能にするために,以下の要件を満たさなければならない。

5-2-2-1. [委員の専門分野]

 少なくとも以下の者を含む多様な専門分野の委員から構成されること。

(1) 医学・医療の専門家(研究等に関して学識を有する者が入ることが望ましい)
(2) 倫理・法律を含む人文・社会科学面の有識者
(3) 市民の立場の者

5-2-2-2. [委員の構成人数及び比率]

 倫理審査委員会は,構成について以下の要件を満たすこと。

(1) 委員は5名以上とする。
(2) 委員の2名以上は外部委員とする。なお,過去にその機関に所属した者であっても,所属解消後5年以上を経た者は外部委員とする。大学にあっては,他学部に所属する委員は外部委員とする。その機関の顧問弁護士は外部委員とは扱わない。
(3) 委員の2名以上は倫理・法律を含む人文・社会科学面の有識者又は市民の立場の者とする。

5-3. [委員会審査の成立要件]

 倫理審査委員会は,少なくとも1名の外部委員,かつ少なくとも1名の倫理・法律を含む人文・社会科学面の有識者又は市民の立場の者の出席がなければ,審査をすることができない。

5-4. [決定]

 倫理審査委員会は,提出された研究等の計画(計画等の変更も含む)について,以下の決定を下すことができる。

(1) 承認
(2) 条件付き承認
(3) 不承認

5-5. [研究等実施機関の長及び関係委員の不関与]

 研究等実施機関の長,及び審査対象となる研究等に関係する委員は審査に関与してはならない。ただし,倫理審査委員会の求めに応じて,委員会に出席し,説明することはさまたげない。

5-6. [実施の確認]

 期間が1年以上にわたる研究等に関しては,倫理審査委員会は,少なくとも年1回以上の頻度で研究等の適正な実施を確認するものとする。

5-7. [議事要旨等の公開]

 倫理審査委員会の規則,委員名,議事要旨は公開されなければならない。但し,個人情報や研究者の不利益になると客観的に判断される情報は公開してはならない。

5-8. [守秘の義務]

 倫理審査委員は,職務上知り得た情報を正当な理由なく委員会外に漏示してはならない。委員を退いた後も同様とする。

5-9. [略式審査]

 倫理審査委員会は,以下のものについて,委員長又は委員長が指名する1名以上の委員による略式審査に付することができる。

(1) 委員長が最小限の危険しか含まないものと認めた研究等の計画の審査
(2) 既に承認された研究等の計画の軽微な変更の審査
(3) 共同研究であって,研究代表者が所属する研究等実施機関の倫理審査委員会で既に承認を受けた研究等の計画について,他の研究責任者が所属する研究等実施機関の倫理審査委員会においてなされる審査

5-9-1. [略式審査における決定]

略式審査においては,研究等の計画又は研究等の計画の軽微な変更について,以下の決定を下すことができる。

(1) 承認
(2) 条件付き承認
(3) 直近の倫理審査委員会への回付

5-9-2. [略式審査の適用範囲]

 略式審査においては,6-5.にかかる研究等の計画及び研究等の計画の変更を審査することはできない。

5-9-3. [略式審査の結果報告]

 略式審査の結果は,その後,直近の倫理審査委員会に書面で報告されなければならない。

6. インフォームド・コンセント

6-1. [インフォームド・コンセントの一般原則]

 インフォームド・コンセントとは,研究等対象候補者が,研究等に関する十分な説明を受け,その目的,方法,予測される危険及び不利益等を理解し,自由意思に基づいて研究等の対象となることに同意することをいう。

6-2. [インフォームド・コンセントの要件]

 疫学研究を実施する際には,本章に定めるインフォームド・コンセントの手続きを経なければならない。但し,観察研究であって新たな人体由来試料の収集を含まない研究については,倫理審査委員会はインフォームド・コンセントの要件の一部又は全部を免除することができる(5-9(1)〜(3)の要件のいずれかが満たされる場合には,当該研究の倫理審査委員会による審査は略式審査によることができる)。

<インフォームド・コンセントの要件免除の判断の際の細則>
 倫理審査委員会は,インフォームド・コンセントの要件の免除について判断する際には
(1) 研究等対象者に対する危険・不利益
(2) 研究の有用性
(3) インフォームド・コンセントの要件が免除されない場合の研究実施の可能性
(4) 研究についての情報公開の実施状況・予定
を考慮しなければならない。

6-3. [説明者の責務]

 インフォームド・コンセントのために説明をする者は,研究等対象候補者が自由意思に基づいて同意又は拒否することができるように説明しなければならない。

<1. インフォームド・コンセントにおける必要的説明事項についての細則>
 インフォームド・コンセントにおける説明は,一般的に以下の通りとするが,研究内容に応じて変更することが認められる。
(1) 研究等対象候補者は研究等の被験者となることを求められているということ。
(2) 研究等の意義,目的及び方法(追跡の有無・方法など,できる限り具体的に示すこと)。
(3) 研究等対象候補者として選ばれた理由。
(4) 研究等対象者に対して予測される利益の有無及びその内容。
(5) 研究等対象者に対して予測される危険や不利益の内容。
(6) 資料提供に伴う費用負担,報酬の有無・内容。
(7) 研究等の期間。
(8) 個人情報保護の具体的態様(収集される資料の匿名化及び連結可能性の有無,方法等,できる限り具体的に示すこと)。
(9) 研究等対象者に対する研究等の結果の開示の有無及びその方法。
(10) 研究等の結果の公表方法。
(11) 研究等終了後の資料の保存(既存資料として利用される可能性があること)又は廃棄の方法。
(12) 研究等対象者となることは任意であること。
(13) 研究等対象候補者が,対象者となることに同意しないことにより不利益を受けることはないこと。
(14) 同意はいつでも撤回でき,撤回による不利益を受けることはないこと。
(15) 同意の撤回の効果。
(16) 研究代表者及び研究責任者の氏名,職名及び連絡先。
(17) 研究等対象者に関わる資料が当該研究に関わる者以外の者に対して譲渡又は提供される場合には,その条件(資料の匿名化及び連結可能性の有無,方法等,できる限り具体的に示すこと)。

<2. インフォームド・コンセントにおける選択的説明事項についての細則>
 倫理審査委員会が必要と判断する場合には,インフォームド・コンセントを得る際に,以下の事項を説明することが求められる。
(1) 研究等対象者は研究等の計画に関する資料を請求できること。
(2) 収集される資料が匿名化されない場合にはその理由。
(3) 将来,研究等の成果として特許権などの知的財産権が得られる可能性があること,及びその帰属先。

6-4. [研究代表者及び研究責任者の責務]

 研究代表者及び研究責任者は,研究等に関する質問や問合せの機会を保障するとともに,質問や問合せに対して十分対応できるような体制を整えなければならない。

6-5. [インフォームド・コンセントの要件が緩和・免除される場合]

 以下の(1)〜(8)のすべての要件が満たされる場合には,倫理審査委員会は資料の収集又は利用に対するインフォームド・コンセントの要件を緩和又は免除することができる。なお,地方公共団体が実施する研究等については,当該地方公共団体の個人情報保護審議会が倫理審査委員会に代わってインフォームド・コンセントの要件を緩和又は免除することができる。

(1) 研究等が,研究等対象者に対して最小限の危険を超える危険を含まないこと。
(2) 緩和又は免除が,研究等対象者の不利益とならないこと。
(3) 緩和又は免除がなければ,実際上,研究等を実施し得ないこと。
(4) 適切な場合には常に,以下のいずれかの措置が講じられること。
(a) 研究等対象者が含まれる集団に対し,資料の収集・利用の内容を,その方法も含めて広報すること。
(b) できるだけ早い時期に,研究等対象者に事後的説明(集団に対するものも可)を与えること。
(c) 長期間にわたって継続的に資料が収集又は利用される場合には,社会にその実情を,資料の収集又は利用の方法も含めて広報し,社会へ周知される努力を払うこと。
(5) その資料を用いることなくしては行い得ない研究等であること。
(6) 研究等の重要性が高いと認められること。
(7) 不適切な利用,開示,漏洩から情報を保護する十分な対策がなされていること。
(8) 当該研究等の目的上個人識別情報を保持する合理的理由がなくなった場合には,できるだけ早い時期に,入手した資料を匿名かつ連結不可能なものにすること。

6-6. [未成年者を対象とする場合]

 研究等が未成年者の資料を用いなければ成り立たないと倫理審査委員会が認めた場合に限って,未成年者を対象とする研究等を行うことができる。

6-6-1. [16歳以上の場合]

 本人に同意能力を認め,本人に対して説明をし,本人の同意を得ることが必要である。但し,本人が同意した場合であっても,親権者が認めないときには,本人を研究等の対象とすることはできない。

6-6-2. [16歳未満の場合]

 本人に代わって親権者に説明をし,その代諾を得ることが必要である。但し,本人に対してもその理解度に応じた方法を用いて説明することが求められ,本人が拒否する場合には,その者を対象とすることはできない。

6-7. [若年以外の理由から同意能力が認められない者を対象とする場合]

 研究等がその者の資料を用いなければ成り立たないと倫理審査委員会が認めた場合に限って,その者を対象とする研究等を行うことができる。その場合には,本人に代わって家族等に説明をし,その代諾を得ることが必要である。但し,本人に対してもその理解度に応じた方法を用いて説明することが求められ,本人が拒否する場合には,その者を研究等の対象とすることはできない。

6-8. [死体]

 死体に由来する試料を用いることが研究等の目的に合理的に必要であると倫理審査委員会が認めた場合に限って,死体に由来する試料を用いる研究等を行うことができる。

6-8-1. [遺族の承諾]

 死体に由来する試料を研究等に用いる場合には,遺族にその旨を説明をし,その承諾を得ることが必要である。但し,遺族がない場合にはその承諾を得る手続きは免除される。

6-8-2. [生前の拒否の意思の尊重]

 死者が生前に研究等への試料の利用について拒否の意思を表明していた場合には,遺族の承諾があっても,その死体を研究等の対象とすることはできない。

6-8-3. [要件の緩和又は免除]

 6-8-1, 6-8-2.の手続きを踏むことが実際上困難であると倫理審査委員会が認める場合には,その要件を緩和又は免除することができる。

6-9. [公的に収集された情報を収集の目的以外に利用する場合]

 公的に収集された情報を収集の目的以外に利用する場合には,法律が定める手続に従うことが必要である。

7. 個人情報保護

7-1. [目的の限定]

 研究等における資料(匿名かつ連結不可能なものを除く。本章において,以下同じ。)の収集は,それを用いる目的が明確にされ,その目的に関連して必要な範囲で収集,管理,利用,授受,保存などの取扱いがされなければならない。

7-2. [適正な取得]

 研究等における資料は,適法かつ適正な方法で取得されなければならない。

7-3. [資料の取扱い方法]

 研究代表者及び研究責任者は,資料の収集,管理,利用,授受,保存などの取扱いにあたっては,以下のような方法を用いて,個人情報の漏洩,混交,盗難,紛失その他が起らないよう安全管理のために必要かつ適切な措置を講じなければならない。

<安全管理のために必要かつ適切な措置に関する細則>
(1) 当該研究等に不必要な情報は破棄又は削除する。
(2) 資料はできるだけ匿名化を図る。
(3) 資料を利用できる者を制限し,資料の管理・利用の責任の所在を明らかにする。
(4) 第三者に資料の取扱いを委託する際には,委託契約において個人情報保護のための規定を定めるなど個人情報保護のための措置を講じる。

7-4. [資料の廃棄]

 研究責任者は,研究等の計画書に従い保存する場合を除き,資料の保存期間が研究等の計画書に定めた期間を過ぎた場合には,資料を,個人情報の漏洩,混交,盗難,紛失その他が起こらないように処理して廃棄しなければならない。

7-5. [資料の譲渡又は提供]

 当該研究実施中又は終了後に,資料を当該研究に関わる者以外の者に譲渡又は提供する場合,以下の手続きを経なければならない。

7-5-1. [当初のインフォームド・コンセントにおいて資料の譲渡又は提供についての同意が得られている場合]

 当初のインフォームド・コンセントにおいて資料の譲渡又は提供についての同意が得られている場合には,次の各号に従うものとする。

(1)資料が譲渡先又は提供先において連結不可能となる条件で譲渡又は提供される場合は,同意の範囲内において資料の譲渡又は提供は認められる。
(2) 資料が譲渡先又は提供先において個人が同定される又は連結可能となる条件で譲渡又は提供される場合には,当初の同意書を添付して,研究等実施機関の長に譲渡又は提供の可否について判断を求める。

7-5-2. [当初のインフォームド・コンセントにおいて資料の譲渡又は提供についての同意が得られていない場合]

 当初のインフォームド・コンセントにおいて資料の譲渡又は提供についての同意が得られていない場合には,次の各号に従うものとする。

(1) 譲渡又は提供について改めて同意を得た上で,譲渡又は提供を行う。
(2) 譲渡又は提供について改めて同意が得られていない場合であっても,資料が譲渡先又は提供先において連結不可能となる条件で譲渡又は提供される場合には,当該資料の入手の経緯及び譲渡又は提供の理由に関する説明文書を添付して,研究等実施機関の長に譲渡又は提供の可否について判断を求める。
(3) 譲渡又は提供について同意が得られていない資料については,原則として,譲渡又は提供について改めて同意が得られない限り,資料が譲渡先又は提供先において個人が同定される又は連結可能となる条件で譲渡又は提供することは認められない。但し,譲渡又は提供が6-5に定める(1)〜(8)のすべての要件を満たすものと倫理審査委員会が認め,資料が譲渡先又は提供先において個人が同定される又は連結可能となる条件での譲渡又は提供を承認した場合には,この限りではない。なお,地方公共団体が実施する研究等については,当該地方公共団体の個人情報保護審議会が倫理審査委員会に代わってこの承認を与えることができる。

7-6. [資料収集の公表]

 研究代表者及び研究責任者は,本人に通知する場合を除き,資料の収集に関する以下の事項について,公表しなければならない。又,公表される事項に変更があった場合には,速やかに訂正しなければならない。

(1) 資料収集の目的
(2) 研究責任者
(3) 開示等に関する事項

7-7. [開示・訂正請求]

 研究責任者は,その保有する資料の個人情報に関し,本人から開示の求めがあったときは,それを拒否する合理的な理由がない限り,当該個人情報を,申し出をした本人に対し開示しなければならない。研究責任者は,開示できない場合にはその理由を説明しなければならない。
 又,研究責任者は,本人から自己の個人情報の内容について,訂正等の申し出があった場合には,それを拒否する合理的な理由がない限り,申し出の内容を確認し,申し出の内容が正当と認められるときは,原則として,当該個人情報の必要な訂正等を行わなければならない。

7-8. [研究等の結果の発表]

 研究等の結果を学会や学会誌等により外部に発表する場合には,倫理審査委員会の事前の承認が得られた場合を除いて,研究等対象者を匿名かつ連結不可能にしなければならない。


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