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疫学的手法を用いた研究等における生命倫理問題及び
個人情報保護の在り方に関する調査研究班

疫学の研究等における生命倫理問題及び
個人情報保護の在り方に関する指針(案)
010410版


目次

1. 基本理念及び適用範囲
 1-1. 基本理念
 1-2. 適用対象
 1-3. 適用範囲

2. 定義
 2-1. 疫学の研究等
 2-2. 研究等対象者
 2-3. 資料
 2-4. 人体由来試料
 2-5. 既存資料
 2-6. 研究代表者
 2-7. 研究責任者
 2-8. 倫理審査委員会
 2-9. 個人情報
 2-10. 個人識別情報
 2-11. 個人が同定される資料
 2-12. 匿名
 2-13. 連結可能
 2-14. 連結不可能
 2-15. 最小限の危険

3. すべての研究者等が遵守すべき基本原則
 3-1. 研究等の科学性・倫理性
 3-2. 研究等対象者の尊厳
 3-3. 研究等対象者の選択
 3-4. 倫理審査委員会の承認
 3-5. インフォームド・コンセント
 3-6. 個人情報保護

4. 研究等の体制
 4-1. 研究等実施機関の長の責務
  4-1-1. 倫理的配慮
  4-1-2. 倫理審査委員会の設置
  4-1-3. 倫理審査の手続き
  4-1-4. 倫理審査委員に対する研修・教育
 4-2. 研究代表者及び研究責任者の責務
  4-2-1. 主な責務
  4-2-2. 研究等実施の申請
  4-2-3. 研究等実施報告
  4-2-4. 研究等の計画の変更の申請
  4-2-5. 研究等資料の譲渡及び提供の申請
  4-2-6. 研究等の結果の報告
  4-2-7. 研究等の結果の公表

5. 倫理審査委員会の責務及び構成
 5-1. 倫理審査委員会の責務
 5-2. 倫理審査委員会の要件
  5-2-1. 規則
  5-2-2. 構成
   5-2-2-1. 委員の専門分野
   5-2-2-2. 委員の構成人数及び比率
 5-3. 委員会審査の成立要件
 5-4. 決定
 5-5. 関係委員の不関与
 5-6. 実施の確認
 5-7. 議事要旨等の公開
 5-8. 守秘の義務
 5-9. 略式審査
  5-9-1. 略式審査における決定
  5-9-2. 略式審査の適用範囲
  5-9-3. 略式審査の結果報告

6. インフォームド・コンセント
 6-1. インフォームド・コンセントの一般原則
 6-2. インフォームド・コンセントの要件
 6-3. 説明者の責務
 6-4. 研究代表者及び研究責任者の責務
 6-5. インフォームド・コンセントの要件が緩和・免除される場合
 6-6. 未成年者を対象とする場合
  6-6-1. 16歳以上の場合
  6-6-2. 16歳未満の場合
 6-7. 若年以外の理由から同意能力が認められない者を対象とする場合
 6-8. 死体
  6-8-1. 遺族の承諾
  6-8-2. 生前の拒否の意思の尊重
  6-8-3. 要件の緩和又は免除
 6-9. 公的に収集された情報を収集の目的以外に利用する場合

7. 個人情報保護

 7-1. 目的の限定
 7-2. 適正な取得
 7-3. 資料の取扱い方法
 7-4. 資料の廃棄
 7-5. 資料の譲渡又は提供
  7-5-1. 当初のインフォームド・コンセントにおいて資料の譲渡又は提供についての同意が得られている場合
  7-5-2. 当初のインフォームド・コンセントに資料の譲渡又は提供についての同意が得られていない場合
 7-6. 資料収集の公表
 7-7. 本人への開示・訂正請求
 7-8. 研究等の結果の発表


1. 基本理念及び適用範囲

1-1. [基本理念]

 疫学研究は人々の健康と公衆衛生の向上に不可欠であり,医学の進歩は疫学研究に大きく依存する。他方,疫学研究は人を対象とするものであることから,人間の尊厳に対する十分な配慮が払われなければならない。したがって,疫学研究の実施に当たっては,疫学研究の重要性と学問の自由を踏まえ,個人の自己決定権及び個人情報保護等の人権が守られるよう,疫学研究に関わる全ての関係者が以下の指針を遵守することが求められる。

1-2. [適用対象]

 本指針は,疫学の研究等に適用される。なお,本指針は,既存の資料で以下のものを用いる研究等には適用されない。

(1) 研究等の計画の立案時に匿名かつ連結不可能な状態にある資料
(2) ひろく一般に入手できる資料

1-3. [適用範囲]

 本指針は,国立高度専門医療センター,国立病院・療養所,厚生労働省所管の国立試験研究機関が実施する研究等及び厚生労働省から委託又は補助を受けて実施される研究等に適用される。
 なお,本指針は,疫学の研究等において一般的に守られるべきものとしてとりまとめられた。したがって,別の法律,規則の適用を受けるものを除いて,広くそれらの研究等において本指針が遵守されることが望ましい。

2. 定義

2-1. [疫学の研究等]

 本指針が適用される疫学の研究等とは,人を対象とする健康に関する研究で(1)にあげる手法を用いるもの,及び(1)と同様の手法を用いる(2)にあげる事業をいう。

(1) 疫学研究(患者の診療を直接の目的として行われるものを除く)
(a) 観察研究
(b) 介入研究(医療行為が関わるもの,医薬品を用いるものを除く)
(2) 疾病登録,患者登録等の登録,統計,調査事業
 なお,本指針において「研究等」とは「疫学の研究等」をいう。

2-2.[研究等対象者]

 研究等対象者とは,その者又はその資料が研究等の対象となる者をいう。

2-3. [資料]

 資料とは,以下のものをいう。

(1) 人体由来試料
(2) 人の健康に関する情報を収める資料

2-4. [人体由来試料]

 人体由来試料とは,人の生体又は死体に由来する試料をいう。

2-5. [既存資料]

 既存資料とは,研究等の計画の立案時に既に存在している資料をいう。

2-6. [研究代表者]

 研究代表者とは,研究等を総括する者をいう。なお,複数の機関に所属する研究者が参加する研究等においても1名とする。

2-7. [研究責任者]

 研究責任者とは,研究等が実施される各機関において,研究等を統括する者をいう。

2-8. [倫理審査委員会]

 倫理審査委員会とは,研究等の実施の適否その他の事項について,科学的観点及び研究等対象者の人権及び個人情報の保護等の倫理的観点から調査審議するため,研究等実施機関の長の諮問機関として置かれた合議制の機関をいう。

2-9. [個人情報]

 個人情報とは,個人に関する情報であって,当該個人を識別できるもの(当該情報のみでは識別できないが,他の情報と容易に照合することができ,それにより当該個人を識別できるものを含む。)をいう。

2-10. [個人識別情報]

 個人識別情報とは,当該個人を同定する情報(identifier)をいう。通常は,氏名,生年月日,住所,カルテ番号等をいう。

2-11. [個人が同定される資料]

 個人が同定される資料とは,個人識別情報が付されている状態(identified)の資料をいう。

2-12. [匿名]

 匿名とは,個人識別情報が付されていない状態(anonymous)をいう。

2-13. [連結可能]

 連結可能とは,匿名のものについて,他の情報と照合することによって,本人を同定することが可能な状態(linkable)をいう。

2-14. [連結不可能]

 連結不可能とは,匿名のものについて,他の情報と照合しても,本人を同定することが不可能な状態(unlinkable)をいう。

2-15. [最小限の危険]

 最小限の危険とは,日常生活や日常的な医学的検査で被る身体的,心理的,社会的危害の可能性の程度を超えない危険をいう。但し,社会的に許容されない種類の危険は含まない。

3. すべての研究者等が遵守すべき基本原則

3-1. [研究等の科学性・倫理性]

 研究等は,科学的合理性,実施可能性,社会的妥当性,及び倫理性が認められるものでなければ実施されてはならない。

3-2. [研究等対象者の尊厳]

 研究等は,研究等対象者及び研究等の対象となる資料に対して,敬意をもって実施されなければならない。

3-3. [研究等対象者の選択]

 研究等対象候補者の選択は,公正,公平,かつ合理的な方法でされなければならない。

3-4. [倫理審査委員会の承認]

 研究等を実施する場合には,事前に,所属機関の倫理審査委員会の承認を得なければならない。

3-5. [インフォームド・コンセント]

 研究等を実施する場合には,事前に,研究等対象者からインフォームド・コンセントを得なければならない。

3-6. [個人情報保護]

 研究等を実施する場合には,研究等対象者の個人情報が保護されなければならない。

4. 研究等の体制

4-1. [研究等実施機関の長の責務]

 4-1-1. [倫理的配慮]

 研究等実施機関の長は,当該機関において実施される研究等が,倫理的,法的又は社会的問題を引き起こす可能性があること,それゆえに研究等対象者の人権が尊重され,かつ個人情報の保護措置が講じられなければならないことを周知徹底しなければならない。

 4-1-2. [倫理審査委員会の設置]

 研究等実施機関の長は,当該機関における研究等の実施の適否その他の事項に関する審査を行わせるため,倫理審査委員会を設置しなければならない。但し,研究等実施機関が小規模であること等により機関内に倫理審査委員会を設置できない場合には,研究等を共同で実施する機関,公益法人もしくは学会に設置した倫理審査委員会,又は共同研究施設合同で設置した倫理審査委員会に審査を依頼できる。

 4-1-3. [倫理審査の手続き]

 研究等実施機関の長は,当該機関における研究等に関し,以下の場合,倫理審査委員会の審査に付し,その決定を尊重して,可否の判断を下し,当該判断を書面で研究責任者に通知しなければならない。研究等実施機関の長は,倫理審査委員会の意見に反して研究等対象者の不利益になるような判断をしてはならない。
(1) 研究等の実施
(2) 研究等の計画の変更
(3) 7-5-1(2)及び7-5-2(2)(3)にかかる研究等資料の譲渡又は提供で,研究等実施機関の長が倫理審査委員会の判断を求めることが必要又は適切と考えるもの

 4-1-4. [倫理審査委員に対する研修・教育]

 研究等実施機関の長は,倫理審査委員会委員が科学的,倫理的に適正な審査を行うことができるように,必要な研修・教育の機会を設け,委員の参加を得るよう努めなければならない。
4-2. [研究代表者及び研究責任者の責務]

 4-2-1. [主な責務]

 研究代表者及び研究責任者は,法令,本指針及び研究等の計画に従って研究等が実施され,研究等対象者の人権が尊重され,かつ個人情報の保護措置が講じられるように,研究等に携わる者を指導し,統括しなければならない。

 4-2-2. [研究等実施の申請]

 研究責任者は,研究等を実施するに際し,事前に研究等の計画について主要な事項を記載した研究等の計画書を作成し,所属する研究等実施機関の長に許可を求めなければならない。
<研究等の計画書に記載すべき事項についての細則>
(1) 研究等対象者選択の方針,基準。

(2) 研究等の意義,目的,方法,期間,予測される成果,研究等対象者に対して予測される危険や不利益,及び個人情報保護の方法。匿名化する場合はその具体的な方法。

(3) 研究等対象者の意思の確認方法。インフォームド・コンセントのための説明文書及び同意文書がある場合には,その文書。

(4) 未成年者や同意能力が認められない者を研究等の対象者に予定している場合は,研究等にその対象者が必須である理由。

(5) 資料を当該研究実施のために保存する場合には,その保存の方法,期間,場所及び個人情報保護の措置。又,当該研究以外の目的のために資料を保存する場合には,その保存の目的,方法,期間,場所及び個人情報保護の措置。

(6) 既存資料を用いる場合には,同意の有無,同意を得ている場合はその内容,同意がない又は不十分である場合は研究等の対象として用いる必要性及び新たな同意取得の予定。

 4-2-3. [研究等実施報告]

 期間が1年以上にわたる研究等に関しては,研究責任者は,研究等の実施に関する主要な事項が記載された研究等実施報告書を,少なくとも年1回,研究等実施機関の長を通して,倫理審査委員会に提出しなければならない。

 <研究等の実施報告書に記載すべき事項についての細則>

(1) 研究等の実施の概要及び完了までの見通し。
(2) 研究等対象者となった者の数,及び資料等の種類及び数。
(3) 研究等対象候補者に対する説明と同意の状況及び問題点。
(4) 研究等対象者に生じた危険・不利益があった場合,その内容と講じられた対応措置。
(5) 資料の保存および譲渡があった場合,その概要,その際の資料の匿名化及び連結可能性の有無。
 なお,研究等対象者に危険・不利益が生じた場合には,研究責任者は直ちに研究等実施機関の長に報告しなければならない。

 4-2-4. [研究等の計画の変更の申請]

 研究責任者は,研究等の計画を変更するに際し,研究計画の変更について主要な事項を記載した研究等の計画変更申請書を作成し,所属する研究等実施機関の長に許可を求めなければならない。

 <研究等の計画変更申請書に記載すべき事項についての細則>

(1) 研究等の計画の変更点。
(2) 研究等の計画の変更理由。
(3) 当該研究等の許可書の写し。

 4-2-5. [研究等資料の譲渡及び提供の申請]

 研究責任者は,研究等の資料を,当初の同意の範囲を超えて,当該研究に関わる者以外の者に対して譲渡又は提供する場合には,研究等の資料の譲渡又は提供についての主要な事項を記載した研究等資料の譲渡又は提供に関する申請書を作成し,所属する研究等実施機関の長に許可を求めなければならない。

 <研究等の資料の譲渡又は提供に関する申請書に記載すべき事項についての細則>

(1) 譲渡又は提供についての説明及び同意の有無とその内容。
(2) 譲渡又は提供の際の個人情報保護の措置(譲渡又は提供される資料の匿名化及び連結可能性の有無,方法等,できる限り具体的に示すこと)。
(3) 譲渡又は提供の理由。
(4) 譲渡又は提供先の個人情報保護の体制。

 4-2-6. [研究等の結果の報告]

 研究責任者は,研究等終了後,遅滞なく,研究等実施機関の長及び倫理審査委員会に当該研究等の結果の概要を報告しなければならない。

 4-2-7. [研究等の結果の公表]

 研究代表者及び研究責任者は,研究等終了後,研究等対象者の個人情報に対する保護措置を講じた上で,研究等の結果を広く社会に公表しなければならない。

5. 倫理審査委員会の責務及び構成

5-1. [倫理審査委員会の責務]

 倫理審査委員会は,研究等実施機関の長から研究等の計画実施の適否その他の事項について意見を求められた場合には,科学的観点及び研究等対象者の人権及び個人情報の保護等の倫理的観点から審査し,文書により意見を述べなければならない。

5-2. [倫理審査委員会の要件]

 倫理審査委員会は以下の要件を満たすものでなければならない。

 5-2-1. [規則]

 あらかじめ制定された規則において少なくとも以下の事項が規定されていること。
(1) 委員の選任方法(指名権者,委員となり得る者の範囲)
(2) 委員の任期
(3) 委員長の選任方法
(4) 委員会の成立要件
(5) 議決方法
(6) 審査に係る記録の保存期間
(7) 規則,倫理審査委員名,議事要旨の公開方法・閲覧手続き
 5-2-2. [構成]
 倫理審査委員会の構成は,多角的な視点からの審査を可能にするために,以下の要件を満たさなければならない。
5-2-2-1. [委員の専門分野]
 少なくとも以下の者を含む多様な専門分野の委員から構成されること。
(1) 医学・医療の専門家(研究等に関して学識を有する者が入ることが望ましい)
(2) 倫理・法律を含む人文・社会科学面の有識者
(3) 市民の立場の者
5-2-2-2. [委員の構成人数及び比率]
 倫理審査委員会は,構成について以下の要件を満たすこと。
(1) 委員は5名以上とする。
(2) 委員の2名以上は外部委員とする。なお,過去にその機関に所属した者であっても,所属解消後5年以上を経た者は外部委員とする。大学にあっては,他学部に所属する委員は外部委員とする。その機関の顧問弁護士は外部委員とは扱わない。
(3) 委員の2名以上は倫理・法律を含む人文・社会科学面の有識者又は市民の立場の者とする。

5-3. [委員会審査の成立要件]

 倫理審査委員会は,少なくとも1名の外部委員,かつ少なくとも1名の倫理・法律を含む人文・社会科学面の有識者又は市民の立場の者の出席がなければ,審査をすることができない。

5-4. [決定]

 倫理審査委員会は,提出された研究等の計画(計画等の変更も含む)について,以下の決定を下すことができる。

(1) 承認
(2) 条件付き承認
(3) 不承認

5-5. [研究等実施機関の長及び関係委員の不関与]

 研究等実施機関の長,及び審査対象となる研究等に関係する委員は審査に関与してはならない。
 ただし,倫理審査委員会の求めに応じて,委員会に出席し,説明することはさまたげない。

5-6. [実施の確認]

 期間が1年以上にわたる研究等に関しては,倫理審査委員会は,少なくとも年1回以上の頻度で研究等の適正な実施を確認するものとする。

5-7. [議事要旨等の公開]

 倫理審査委員会の規則,委員名,議事要旨は公開されなければならない。但し,個人情報や研究者の不利益になると客観的に判断される情報は公開してはならない。

5-8. [守秘の義務]

 倫理審査委員は,職務上知り得た情報を正当な理由なく委員会外に漏示してはならない。委員を退いた後も同様とする。

5-9. [略式審査]

 倫理審査委員会は,以下のものについて,委員長又は委員長が指名する1名以上の委員による略式審査に付することができる。

(1) 委員長が最小限の危険しか含まないものと認めた研究等の計画の審査
(2) 既に承認された研究等の計画の軽微な変更の審査
(3) 共同研究であって,研究代表者が所属する研究等実施機関の倫理審査委員会で既に承認を受けた研究等の計画について,他の研究責任者が所属する研究等実施機関の倫理審査委員会においてなされる審査

 5-9-1. [略式審査における決定]

 略式審査においては,研究等の計画又は研究等の計画の軽微な変更について,以下の決定を下すことができる。
(1) 承認
(2) 条件付き承認
(3) 直近の倫理審査委員会への回付
 5-9-2. [略式審査の適用範囲]
 略式審査においては,6-5.にかかる研究等の計画及び研究等の計画の変更を審査することはできない。
 5-9-3. [略式審査の結果報告]
 略式審査の結果は,その後,直近の倫理審査委員会に書面で報告されなければならない。

6. インフォームド・コンセント

6-1. [インフォームド・コンセントの一般原則]

 インフォームド・コンセントとは,研究等対象候補者が,研究等に関する十分な説明を受け,その目的,方法,予測される危険及び不利益等を理解し,自由意思に基づいて研究等の対象となることに同意することをいう。

6-2. [インフォームド・コンセントの要件]

 疫学研究を実施する際には,本章に定めるインフォームド・コンセントの手続きを経なければならない。但し,観察研究であって新たな人体由来試料の収集を含まない研究については,倫理審査委員会はインフォームド・コンセントの要件の一部又は全部を免除することができる(5-9(1)〜(3)の要件のいずれかが満たされる場合には,当該研究の倫理審査委員会による審査は略式審査によることができる)。

<インフォームド・コンセントの要件免除の判断の際の細則>

 倫理審査委員会は,インフォームド・コンセントの要件の免除について判断する際には

(1) 研究等対象者に対する危険・不利益
(2) 研究の有用性
(3) インフォームド・コンセントの要件が免除されない場合の研究実施の可能性
(4) 研究についての情報公開の実施状況・予定
 を考慮しなければならない。

6-3. [説明者の責務]

 インフォームド・コンセントのために説明をする者は,研究等対象候補者が自由意思に基づいて同意又は拒否することができるように説明しなければならない。

<1. インフォームド・コンセントにおける必要的説明事項についての細則>

 インフォームド・コンセントにおける説明は,一般的に以下の通りとするが,研究内容に応じて変更することが認められる。

(1) 研究等対象候補者は研究等の被験者となることを求められているということ。
(2) 研究等の意義,目的及び方法(追跡の有無・方法など,できる限り具体的に示すこと)。
(3) 研究等対象候補者として選ばれた理由。
(4) 研究等対象者に対して予測される利益の有無及びその内容。
(5) 研究等対象者に対して予測される危険や不利益の内容。
(6) 資料提供に伴う費用負担,報酬の有無・内容。
(7) 研究等の期間。
(8) 個人情報保護の具体的態様(収集される資料の匿名化及び連結可能性の有無,方法等,できる限り具体的に示すこと)。
(9) 研究等対象者に対する研究等の結果の開示の有無及びその方法。
(10) 研究等の結果の公表方法。
(11) 研究等終了後の資料の保存(既存資料として利用される可能性があること)又は廃棄の方法。
(12) 研究等対象者となることは任意であること。
(13) 研究等対象候補者が,対象者となることに同意しないことにより不利益を受けることはないこと。
(14) 同意はいつでも撤回でき,撤回による不利益を受けることはないこと。
(15) 同意の撤回の効果。
(16) 研究代表者及び研究責任者の氏名,職名及び連絡先。
(17) 研究等対象者に関わる資料が当該研究に関わる者以外の者に対して譲渡又は提供される場合には,その条件(資料の匿名化及び連結可能性の有無,方法等,できる限り具体的に示すこと)。

<2. インフォームド・コンセントにおける選択的説明事項についての細則>

 倫理審査委員会が必要と判断する場合には,インフォームド・コンセントを得る際に,以下の事項を説明することが求められる。

(1) 研究等対象者は研究等の計画に関する資料を請求できること。
(2) 収集される資料が匿名化されない場合にはその理由。
(3) 将来,研究等の成果として特許権などの知的財産権が得られる可能性があること,及びその帰属先。

6-4. [研究代表者及び研究責任者の責務]

 研究代表者及び研究責任者は,研究等に関する質問や問合せの機会を保障するとともに,質問や問合せに対して十分対応できるような体制を整えなければならない。

6-5. [インフォームド・コンセントの要件が緩和・免除される場合]

 以下の(1)〜(8)のすべての要件が満たされる場合には,倫理審査委員会は資料の収集又は利用に対するインフォームド・コンセントの要件を緩和又は免除することができる。なお,地方公共団体が実施する研究等については,当該地方公共団体の個人情報保護審議会が倫理審査委員会に代わってインフォームド・コンセントの要件を緩和又は免除することができる。

(1) 研究等が,研究等対象者に対して最小限の危険を超える危険を含まないこと。
(2) 緩和又は免除が,研究等対象者の不利益とならないこと。
(3) 緩和又は免除がなければ,実際上,研究等を実施し得ないこと。
(4) 適切な場合には常に,以下のいずれかの措置が講じられること。
(a) 研究等対象者が含まれる集団に対し,資料の収集・利用の内容を,その方法も含めて広報すること。
(b) できるだけ早い時期に,研究等対象者に事後的説明(集団に対するものも可)を与えること。
(c) 長期間にわたって継続的に資料が収集又は利用される場合には,社会にその実情を,資料の収集又は利用の方法も含めて広報し,社会へ周知される努力を払うこと。
(5) その資料を用いることなくしては行い得ない研究等であること。
(6) 研究等の重要性が高いと認められること。
(7) 不適切な利用,開示,漏洩から情報を保護する十分な対策がなされていること。
(8) 当該研究等の目的上個人識別情報を保持する合理的理由がなくなった場合には,できるだけ早い時期に,入手した資料を匿名かつ連結不可能なものにすること。

6-6. [未成年者を対象とする場合]

 研究等が未成年者の資料を用いなければ成り立たないと倫理審査委員会が認めた場合に限って,未成年者を対象とする研究等を行うことができる。

 6-6-1. [16歳以上の場合]

 本人に同意能力を認め,本人に対して説明をし,本人の同意を得ることが必要である。但し,本人が同意した場合であっても,親権者が認めないときには,本人を研究等の対象とすることはできない。

 6-6-2. [16歳未満の場合]

 本人に代わって親権者に説明をし,その代諾を得ることが必要である。但し,本人に対してもその理解度に応じた方法を用いて説明することが求められ,本人が拒否する場合には,その者を対象とすることはできない。

6-7. [若年以外の理由から同意能力が認められない者を対象とする場合]

 研究等がその者の資料を用いなければ成り立たないと倫理審査委員会が認めた場合に限って,その者を対象とする研究等を行うことができる。その場合には,本人に代わって家族等に説明をし,その代諾を得ることが必要である。但し,本人に対してもその理解度に応じた方法を用いて説明することが求められ,本人が拒否する場合には,その者を研究等の対象とすることはできない。

6-8. [死体]

 死体に由来する試料を用いることが研究等の目的に合理的に必要であると倫理審査委員会が認めた場合に限って,死体に由来する試料を用いる研究等を行うことができる。

 6-8-1. [遺族の承諾]

 死体に由来する試料を研究等に用いる場合には,遺族にその旨を説明をし,その承諾を得ることが必要である。但し,遺族がない場合にはその承諾を得る手続きは免除される。
 6-8-2. [生前の拒否の意思の尊重]
 死者が生前に研究等への試料の利用について拒否の意思を表明していた場合には,遺族の承諾があっても,その死体を研究等の対象とすることはできない。
 6-8-3. [要件の緩和又は免除]
 6-8-1, 6-8-2.の手続きを踏むことが実際上困難であると倫理審査委員会が認める場合には,その要件を緩和又は免除することができる。

6-9. [公的に収集された情報を収集の目的以外に利用する場合]

 公的に収集された情報を収集の目的以外に利用する場合には,法律が定める手続に従うことが必要である。

7. 個人情報保護

7-1. [目的の限定]

 研究等における資料(匿名かつ連結不可能なものを除く。本章において,以下同じ。)の収集は,それを用いる目的が明確にされ,その目的に関連して必要な範囲で収集,管理,利用,授受,保存などの取扱いがされなければならない。

7-2. [適正な取得]

 研究等における資料は,適法かつ適正な方法で取得されなければならない。

7-3. [資料の取扱い方法]

 研究代表者及び研究責任者は,資料の収集,管理,利用,授受,保存などの取扱いにあたっては,以下のような方法を用いて,個人情報の漏洩,混交,盗難,紛失その他が起らないよう安全管理のために必要かつ適切な措置を講じなければならない。

<安全管理のために必要かつ適切な措置に関する細則>

(1) 当該研究等に不必要な情報は破棄又は削除する。
(2) 資料はできるだけ匿名化を図る。
(3) 資料を利用できる者を制限し,資料の管理・利用の責任の所在を明らかにする。
(4) 第三者に資料の取扱いを委託する際には,委託契約において個人情報保護のための規定を定めるなど個人情報保護のための措置を講じる。

7-4. [資料の廃棄]

 研究責任者は,研究等の計画書に従い保存する場合を除き,資料の保存期間が研究等の計画書に定めた期間を過ぎた場合には,資料を,個人情報の漏洩,混交,盗難,紛失その他が起こらないように処理して廃棄しなければならない。

7-5. [資料の譲渡又は提供]

 当該研究実施中又は終了後に,資料を当該研究に関わる者以外の者に譲渡又は提供する場合,以下の手続きを経なければならない。

 7-5-1. [当初のインフォームド・コンセントにおいて資料の譲渡又は提供についての同意が得られている場合]

 当初のインフォームド・コンセントにおいて資料の譲渡又は提供についての同意が得られている場合には,次の各号に従うものとする。
(1)資料が譲渡先又は提供先において連結不可能となる条件で譲渡又は提供される場合は,同意の範囲内において資料の譲渡又は提供は認められる。

(2) 資料が譲渡先又は提供先において個人が同定される又は連結可能となる条件で譲渡又は提供される場合には,当初の同意書を添付して,研究等実施機関の長に譲渡又は提供の可否について判断を求める。
 7-5-2. [当初のインフォームド・コンセントにおいて資料の譲渡又は提供についての同意が得られていない場合]
 当初のインフォームド・コンセントにおいて資料の譲渡又は提供についての同意が得られていない場合には,次の各号に従うものとする。
(1) 譲渡又は提供について改めて同意を得た上で,譲渡又は提供を行う。

(2) 譲渡又は提供について改めて同意が得られていない場合であっても,資料が譲渡先又は提供先において連結不可能となる条件で譲渡又は提供される場合には,当該資料の入手の経緯及び譲渡又は提供の理由に関する説明文書を添付して,研究等実施機関の長に譲渡又は提供の可否について判断を求める。

(3) 譲渡又は提供について同意が得られていない資料については,原則として,譲渡又は提供について改めて同意が得られない限り,資料が譲渡先又は提供先において個人が同定される又は連結可能となる条件で譲渡又は提供することは認められない。但し,譲渡又は提供が6-5に定める(1)〜(8)のすべての要件を満たすものと倫理審査委員会が認め,資料が譲渡先又は提供先において個人が同定される又は連結可能となる条件での譲渡又は提供を承認した場合には,この限りではない。なお,地方公共団体が実施する研究等については,当該地方公共団体の個人情報保護審議会が倫理審査委員会に代わってこの承認を与えることができる。

7-6. [資料収集の公表]

 研究代表者及び研究責任者は,本人に通知する場合を除き,資料の収集に関する以下の事項について,公表しなければならない。又,公表される事項に変更があった場合には,速やかに訂正しなければならない。

(1) 資料収集の目的
(2) 研究責任者
(3) 開示等に関する事項

7-7. [開示・訂正請求]

 研究責任者は,その保有する資料の個人情報に関し,本人から開示の求めがあったときは,それを拒否する合理的な理由がない限り,当該個人情報を,申し出をした本人に対し開示しなければならない。研究責任者は,開示できない場合にはその理由を説明しなければならない。
 又,研究責任者は,本人から自己の個人情報の内容について,訂正等の申し出があった場合には,それを拒否する合理的な理由がない限り,申し出の内容を確認し,申し出の内容が正当と認められるときは,原則として,当該個人情報の必要な訂正等を行わなければならない。

7-8. [研究等の結果の発表]

 研究等の結果を学会や学会誌等により外部に発表する場合には,倫理審査委員会の事前の承認が得られた場合を除いて,研究等対象者を匿名かつ連結不可能にしなければならない。


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