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平成13年4月17日(火)

大規模災害救助研究会報告書について

 平成7年1月17日に発生した阪神・淡路大震災について、平成8年5月に旧厚生省の「災害救助研究会」において震災直後の状況や経験等をもとに災害救助全般のあり方について検討し、報告書にまとめたところです。
 その後、兵庫県の検証事業や旧国土庁の「被災地における住宅再建支援の在り方に関する検討委員会」等各種の調査研究等が行われ、また、有珠山等最近の災害を踏まえて各種の課題が指摘されており、阪神・淡路大震災から5年が経過したことを契機として、平成12年6月に社会・援護局長の私的懇談会として「大規模災害救助研究会」を設置したところです。
 今般、大規模災害時における災害救助のあり方について報告書が取りまとめられたので資料提供します。


(報告書の概要)
1 検討の前提(規模の想定等)

 内陸直下型地震等極めて被害の甚大な災害が発生し、地方公共団体の対応能力を超える事態になった場合、例えば避難所をどのように確保し、どの程度の水準まで対応できるのかなど、段階的な対応方策や対応水準の設定等が必要。
 このため、南関東直下型地震に係る東京都の被害想定等を前提として検討。

2 生活再建の基本的な考え方

 被災者の生活再建の過程においては、行政による一方的な救済措置だけでは十分なニーズに応えられず、被災者の努力や助け合い、ボランティア等による自発的な支援等を引き出すことが重要である。このため行政は、被災者等の自立支援を生活再建の基本理念としつつ、長期的なビジョンを示して支援を行うべき。
 また、被災者が自らの状況に応じて適切に生活再建の見通しをたてるためには、支援策の多様な選択肢を早い段階で提示することが重要。

3 応急救助の実施体制等のあり方

(1)都道府県の役割の増大

 昨年4月の地方分権一括法の施行に伴い、都道府県の自主性が高まり、その役割が大きくなっているが、災害救助について一定の水準を確保し、広域連携を図るため、国等において災害救助実務の標準化を図ることが重要。

(2)広域的な応援体制等

 都道府県間等での応援協定の締結・見直しは進んでいるが、災害時に実効を上げるためには、普段から協議や訓練等を通じて連携・協力関係を強化しておくことが必要。
 また、救助実務に精通した職員を登録しておき、災害発生時に活用するとともに、被災経験の少ない地方公共団体にアドバイザーとして派遣すべき。

(3)ボランティア、NPOとの連携

 ボランティアは災害対策に不可欠の存在となっており、防災訓練や研修の実施、ネットワーク化、情報通信機器、活動拠点の提供等を通じ、活動を支援。

(4)情報収集・提供体制

 情報を迅速に収集・集約して災害の全体像を明らかにし、地域外へ避難する被災者も含め、避難所の情報拠点化や居所登録に基づく広報紙の送付、インターネットの活用等により適切に情報提供を行うべき。
 また、今後、携帯電話に入力された避難先等個人情報を集約するシステムを開発するなどITの積極的な活用を図るべき。

4 避難所のあり方等

(1)避難所の防災拠点化

 従来、水・食料等の物資やトイレ、入浴、災害情報等については、避難所への避難者を中心に提供されているが、住家に被害のない住民についても、ライフラインや流通の途絶等により生活に困難を来たす。
 そのため、避難所を避難所以外で生活する被災者に対しても必要なサービス提供を行う機能をもった、地域やコミュニティの防災拠点と位置づけることを検討すべき。

(2)避難所の確保

 想定を上まわる避難者が生じた場合に備え、地域内外の公共施設や民間施設を含むあらゆる社会資源を活用して避難所の追加指定が行えるよう、施設所有者等と事前協議しておくべき。
 また、高齢者、障害者等の要援護者については、防災拠点型地域交流スペース整備事業を活用して、入所施設を福祉避難所として整備すべき。

(3)避難所の管理・運営

 災害時、被災地の市町村職員等は他の災害業務にも従事することから、避難所内の避難者による自主的な運営を進めるため、ボランティアの協力を得ながら、避難所ルールの早期確立や班編成、リーダーの選出、当番制等を検討すべき。

(4)避難所の情報拠点化

 避難所を防災拠点とすることに合わせ、情報面についても地域の拠点として位置づけ、各種情報通信機器等を配備し、情報ボランティアと連携して、地域の被災者がいつでも利用できるようにすべき。

(5)帰宅困難者対策

 都市部の被災に伴う交通途絶により、多数の通勤、通学、買い物客等が帰宅できなくなる事態に備え、これらの人々に対する情報提供や避難誘導、帰宅支援等のため、事業者等と連携を図るとともに、近隣地方公共団体との間で協議しておくべき。

5 応急仮設住宅等のあり方

(1)仮住まい対策等

 住居確保支援に当たっては、多様な選択肢をパッケージとして提示し、被災者の状況に応じた支援を図るとともに、住宅再建支援策等の情報を早期に住民に提供することが重要。

(2)既存の住宅ストックの活用

ア 公営住宅、民間賃貸住宅の活用

 公営住宅の空き家の一時的な使用も緊急避難的な措置として現実的な対応策の 一つと考えられる。また、民間賃貸住宅の空き家等の活用も図るべき。

イ 応急修理制度の活用

 仮住まいではなく、できる限り自宅に居住できるよう応急修理制度の周知や標準化等による利用拡大を図るべき。

(3)応急仮設住宅

ア 供給の確保等

 関東地域への応急仮設住宅の供給能力は3ヶ月で7万3千戸とされるが、例えば東京都区部直下型地震の場合約10万戸が必要とされていることなどから、資材の生産、供給能力の向上を図るとともに、用地を確保することが大きな課題。

(1) 供給能力の確保のため、資材の備蓄、ユニットハウスの活用、用地の事前点検、関係建設業者等との協定、小規模単位での完成・引渡し等により早期入居の実現を図るべき。

(2) 建設用地の確保のため、候補地リストの事前作成、民有地借上の事前協定、被災民有地の暫定借上、自己敷地への共同型仮設住宅の設置等について検討が必要。

(3) 用地が不足する中で、恒久住宅確保対策としての公営住宅の用地の確保を優先する一方で、応急仮設住宅は、地区単位での郊外等への仮移転や被災企業の移転に合わせた移転等弾力的な対応を図るべき。

(4) 規格仕様については、省スペース化のため、水廻りを共同化した寮タイプや2階建ての推進等についても検討が必要。

イ 生活支援

 応急仮設住宅において、生きがいを持って生活できるよう、自治組織やボランティア、行政の役割分担を明確にし、コミュニティの確保、生きがいづくり、仕事づくり等ハード、ソフト両面にわたる生活支援メニューを用意しておくべき。

(1) 入居者選定における地区抽選方式や数世帯単位での募集枠の設定

(2) 空きスペースを活用した生きがいづくり支援

(3) 簡易な環境整備等に対する入居者の雇用等

6 今後の課題等

ア 災害時に生じる価値対立の予防に向け、平常時の住民啓発が必要。

イ 応急対策、復旧・復興対策に係る多様な施策の運用に当たっては的確な総合調整を図るとともに、さらに施策の総合化、体系化を図る努力が必要。

ウ 地方公共団体等の関係者が大規模災害に備えた各般の研究・検討の成果を防災対策に取り入れることを期待。


1 はじめに

・ 平成7年1月17日に発生した阪神・淡路大震災は、人口の集中する大都市とその周辺地域を襲った震度7を記録する直下型地震であった。
 その人的被害は、死者6,432名、行方不明者3名、負傷者43,792名、住家の被害は全壊約10万5,000棟、約18万2,000世帯、半壊約14万4,000棟、約27万6,000世帯にのぼり、交通、ライフライン等の都市基盤が壊滅し、経済活動や社会生活に大きな混乱をもたらすなど、国全体の経済社会システムにも甚大な影響を及ぼした。
 このような未曾有の大規模災害に対し、国、地方公共団体はもちろんのこと、被災地の住民をはじめ、全国から駆けつけたボランティアが、災害からの応急対策や復旧・復興対策に懸命の努力を惜しまず、国を挙げての取組みが展開された。
 平成12年1月でその震災から5年が経過したが、この間の被災地の復興にはめざましいものがあり、5万戸近くに及んだ応急仮設住宅からも全ての入居者が転出するに至った。
 しかし、高齢社会下におけるかつてない規模の都市直下型地震の経験は、我が国の防災対策に大きな課題を残しており、災害直後の避難から、仮住まい、恒久住宅への入居へと続く被災者の生活再建のプロセスにおいても、水・食糧の確保、避難所、応急仮設住宅の設置・運営、生活支援等について様々な問題や課題が明らかになった。

・ 平成8年5月には、旧厚生省の「災害救助研究会」において、震災直後の状況や経験等をもとに災害救助全般のあり方について検討し、報告書にまとめたところであるが、その後も、兵庫県の検証事業や旧国土庁の「被災地における住宅再建支援の在り方に関する検討委員会」のほか、被災地内外で様々な研究等が行われている。
 また、最近では、平成12年3月の有珠山噴火や6月以降の伊豆諸島の火山活動、9月の愛知県等の大雨、10月の鳥取県西部地震等災害が相次いでおり、海外でも、平成11年以来トルコ、台湾、インド等で大地震が発生したが、阪神・淡路大震災での経験や教訓を生かした取組みが少なからず行われている。

・ 本研究会においては、前述の災害救助研究会の災害救助全般を網羅した検討結果を踏まえつつ、その後の、応急仮設住宅での生活支援や恒久住宅確保対策の状況、被災地内外での各般の検証・検討等の成果、各種災害への取組み状況、都道府県等における防災体制の整備状況、ボランティア活動の普及、さらには近年のITの進展等を考慮しながら、大規模災害における救助の基本的な考え方や実施体制、避難所、応急仮設住宅等のあり方に関して、今何が一番問題なのか、また、どのような対策が必要なのかについて、重点的に検討を行うこととした。
 その検討方法としては、研究会に専門分科会を置き、専門分科会委員の平素の問題意識を中心に自由な議論を行い、それをもとに、さらに研究会において意見交換を行った。本報告書は、その結果をとりまとめたものである。

2 検討の前提

(1)災害種類、規模の想定等

 災害には、風水害、地震災害、火山災害等多様な種類、形態、規模があるが、その中で特に地震災害は予測が困難で、極めて大きな被害をもたらす可能性がある。これを大きく2つのタイプに分けると、一つは、プレートの沈み込みにより発生する海溝型地震で、地震の規模が大きく、津波の被害を含めて被害が広域にわたるものであり、もう一つは、プレートの運動に起因した内陸域の活断層の運動等に伴う内陸直下型地震で、被害は相対的に狭い地域に限られるものの、建物の倒壊率が高く被害は極めて甚大になる可能性があるものである。このように同じ地震災害であっても、その形態によって被害を受ける範囲が広域であったり、局地的に激甚であったりするため、市町村や都道府県の対応能力によっては相互の応援が困難であったり、逆に近隣都道府県等からの応援を活用できるなど、異なる対応が求められることも考えられる。
 しかし、国や地方公共団体におけるこれまでの防災計画等においては、いくつかの規模想定を行っている場合でも、それぞれ異なるシナリオのもとに対応水準を変えることまではほとんど行われていない。
 そのため、実際にどのような災害が起きるかを正確に予測することは困難であるが、できるだけそれぞれの都道府県や市町村で想定される災害とその規模を科学的に検証し、あらかじめ多段階のシナリオと対応水準を検討して、比較的小規模な風水害等については対応能力に応じた十分な水準を確保する一方で、前述のような異なるタイプの大規模地震が発生した場合には、それぞれどのようなシナリオで、どこまでの水準での対応が可能かを明らかにし、住民のコンセンサスを得ておく必要がある。
 さらに、今後半世紀を見据えた長期的な視野に立って、次の大規模地震の発生等に備え、我が国の防災対応能力の向上を計画的に図っていくことも重要な課題である。
 このような課題を踏まえて、本研究会においては、ある程度の切迫性を有し甚大な被害が生じ得るとされる南関東直下型地震に係る東京都の被害想定を前提としつつ、発生の可能性があるとされる東海地震や南海地震等の海溝型地震やこれらに関連する内陸部での直下型地震、あるいは局面は異なるが多数の住民が長期的に避難する事態となる可能性のある噴火災害や大規模な風水害等も考慮に入れながら、基本的事項について検討を行った。

(2)災害救助法の位置づけ

 災害救助法は、災害に際し、食料品その他生活必需品の欠乏、住居の喪失、傷病等に悩む被災者に対する応急的、一時的な救助を規定しており、災害対策関係法の中では、消防法などとともに、災害発生直後の応急対策に関する法として位置づけられる。
 したがって、本格復興に向けた生活支援や生業・雇用対策、住宅の再建支援等、復旧・復興対策とは基本的な性格を異にしているが、住宅の応急修理と本格補修、応急仮設住宅の供与と公営住宅建設のように、応急対策と復旧・復興対策は連続して一体的に実施されるものであることから、それら施策の体系化が図られるとともに、運用に当たっても災害対策本部や復興本部等による的確な総合調整が行われる必要がある。

3 生活再建の基本的な考え方

(1)被災者等の自立支援

 阪神・淡路大震災においては、その救助の初動期において、倒壊した家屋に閉じこめられた人々を家族や近所の人や地元の消防団等が救出したといわれる。その後も、長期に及んだ避難生活や仮住まい生活において、多くのボランティアが支援に活躍するなど、住民の市民意識や互助・連帯意識がかつてない高まりをみせた。このような事例が端的に示すとおり、大規模な災害においては、行政のみによる対応には限界があり、住民自身の対応やボランティアの協力が不可欠である。
 特に、被災者が生活再建を成し遂げるためには、住まいの再建や心身の健康、コミュニティ等人間関係の回復、生業・雇用の確保、社会基盤の復旧等各般の要素が関わり、長期的な視野に基づく支援が必要であるが、行政による一方的な救済措置だけでは必ずしも十分なニーズに応えられず、被災者自身の自立への意欲や努力、相互の助け合い等も重要である。
 このため、初動期における防災対策の基本である自助努力の考え方を生活再建過程全体を通じての基本とするとともに、近隣やコミュニティにおける助け合い、ボランティア・NPO等による自発的支援、さらには企業による経済活動としての雇用や物資・サービスの提供等被災地全体の潜在力を引き出し、活性化することが肝要である。
 このような視点から、行政は、被災者及び被災地域・コミュニティの自立支援を生活再建の基本理念に据え、被災地全体の活性化等に配慮しつつ、自立に向けた長期的なビジョンを示して各種支援を行うべきである。その際、自立促進の観点から、行政による支援について、事前にその終期を明示して取り組むことも必要な場合がある。
 このことは、災害救助の実施に当たっても同様であり、生活再建過程全体を視野に置きながら、被災者等の自立支援の観点に立って、平時における自主防災組織の育成や住民による水・食料等の備蓄、災害発生後の避難所の自主的な運営、応急仮設住宅での自治・交流活動を支援するとともに、復旧・復興事業に地元労働力や地元事業者等を活用することなどにも配慮し、地域への貢献意識の醸成と仕事の確保に資するべきである。
 なお、自力による避難や生活再建が困難で、特別の配慮が必要な高齢者、障害者等の要援護者等に対しては、地域住民やボランティアの協力のもとに、行政において適切な支援を行うことが必要である。

(2)多様な選択肢の早期提示

 被災者の自立能力には、住家等の被害状況や年齢、世帯構成、コミュニティとのつながり、経済力等に応じて大きな格差がある。
 そのため、行政において被災者に対する支援を行う場合、画一的な支援策を講じるのではなく、例えば住居の確保に当たって、応急仮設住宅や災害公営住宅の建設以外にも地域内外の既存の公営住宅や民間賃貸住宅、社宅の活用等被災者の状況等に応じた支援が受けられるよう、いくつかの選択肢を提供することが重要である。
 また、阪神・淡路大震災においては、県、市による復興基金等を活用して様々な住宅支援、生活支援事業が実施され、変化する被災地の状況や被災者の要望に応じ、次々に事業の追加、拡充が図られたが、その事業の周知に時間を要したため所期の効果を十分上げることができなかったことや、新たな支援策追加への過度の期待を招き、被災者の満足につながらなかったのではないかとの指摘もある。
 そのため、行政としてできることとできないことを明確にしたうえで、支援策を事前または早期に提示することによって、今後の生活再建を考える機会を作り出し、被災者が行政に過大な期待や失望感を抱くことなく、迅速に住宅再建や生活再建の見通しをたて、シナリオを作ることができるようにすることが必要である。
 なお、行政が多様な支援の選択肢を提示するに当たっては、行政や被災者等に対するアドバイスができる中立的な第三者の立場に立った支援者・組織の参加を求めることも必要であり、また、効果的な手法である。

4 応急救助実施体制等のあり方

(1)都道府県の役割の増大

 平成12年4月の地方分権一括法の施行により、国と地方との間に対等・協力の新しい関係を築くため、機関委任事務制度が廃止された。これに伴い、機関委任事務制度下での国による包括的な指揮監督権が廃止され、都道府県に対する国の関与は、法令による根拠を要するなど新しいルールのもとに置かれることとなった。
 災害救助法に基づく応急救助についても、従来の都道府県知事に対する機関委任事務から新たに法定受託事務とされたことに伴い、災害救助法適用に当たっての大臣協議を不要とし、都道府県の判断による適用が可能となるなど都道府県等の自主性が高められ、その役割は一層増大している。
 しかし、都道府県の裁量が拡大し、地域の実情に応じた対応が可能となる一方で、災害ごと、地域ごとに、水準のアンバランスが生じ、広域的な応援に当たって的確な連携を図ることが困難になったり、経験の不十分さから迅速な対応がとられないおそれも生じる。また、多くの都道府県が救助の実施を市町村に委任していることから、市町村の間においても同様の問題が考えられる。
 そのため、地域間の公平性を確保するとともに、迅速、円滑な救助の実施に資するため、国または都道府県において都道府県または市町村の救助実務についての標準化を図ることが引き続き重要であり、その上に立って各地域の創意工夫を引き出すことが必要と考えられる。

(2)広域的な応援体制等

ア 連携の強化等

 阪神・淡路大震災においては、防災や福祉、水道、建築、衛生、環境、土木など様々な分野で広域応援活動が実施され、災害発生から3月末までだけでも、都道府県・市町村職員(警察・消防職員を除く)延べ約20万人が神戸市内等で活動した。
 その後、こうした経験を踏まえ、より機動的かつ効果的な応援活動を実施するため、全国の都道府県をはじめとする地方公共団体において広域応援協定の締結・見直しが行われている。
 こうした広域応援協定等については、災害時における要援護高齢者の施設受入れなど福祉の分野における協力事項についても盛り込まれることが望ましい。
 しかし、こうした協定等について形式的に締結・見直しを行うだけでは災害の実践場面において、必ずしも有効に機能するものではない。
 そのため、普段からの国、近隣都道府県、市町村間での協議や実践的な防災訓練等を通じて連携・協力関係を維持し、強化するよう努めるべきである。
 また、都道府県境等を越える災害が発生した場合、地方公共団体相互間の応援や国の現地対策本部の設置等による調整が行われることになるが、必要に応じ、国、関係都道府県等による合同会議の開催等による共同対応体制を構築すべきである。

イ 職員の派遣等

 大規模災害の発生に伴い、市町村職員等が特定の災害対策業務に忙殺されたり、災害対策に当たるべき職員や市役所、町村役場自体が被災し、機能しなくなることも十分考えられる。
 そのため、都道府県や近隣市町村等から、情報収集や物資の配分、避難所運営等の災害救助業務に従事する応援要員を迅速に派遣する体制を整備しておく必要がある。
 この場合において、被災地域の状況等に通じているのは当該被災地方公共団体の職員であることから、災害業務には当該団体の職員をあて、他の応援職員はむしろ後方支援として通常業務等の応援を行うなど、事情に応じた機動的な役割分担を工夫することが重要である。
 また、災害を経験した地方公共団体においては、災害業務の実践を経験して災害救助実務に精通した職員を登録しておき、災害時に活用するとともに、被災の経験が少なく、実践を経験した職員の少ない地方公共団体にアドバイザー等として派遣し、状況によっては長期にわたって出向する制度を整備するべきである。

ウ 防災研修の強化

 災害対応のための人材育成については、地方公共団体の防災担当職員や学校等避難所施設での対応に当たる教職員等だけでなく、一般職員全体としての災害対応能力の向上を図ることも重要であり、一般職員の研修においても防災関係科目を積極的に取り入れるべきである。

(3)ボランティア、NPOとの連携

 阪神・淡路大震災においては、「ボランティア元年」といわれるように、全国から若者を中心とする多くのボランティアが駆けつけ、1年間で延べ約140万人が救援物資の配分、避難所運営、医療介護、運送等の救援活動や生活支援、まちづくり等復旧・復興に向けた活動を展開し、その後も様々な分野で活躍したことから、災害対策におけるボランティア活動の重要性が認識された。
 これを契機として、平成7年の災害対策基本法の一部改正において、国及び地方公共団体がボランティアによる防災活動の環境整備の実施に努めるべきことが明記され、平成10年には特定非営利活動促進法が制定され、ボランティア団体等のNPOが法人格を取得する途が開かれるに至っている。また、地方公共団体においても、地域防災計画等における位置づけが明確化され、受入窓口や事前登録制度の整備、リーダーやコーディネーター養成の講習等が行われている。
 災害時におけるボランティア活動は、行政や企業では手が行き届かない領域において、被災地のニーズの変化に応じ、柔軟できめ細かに対応できる特性を有しており、近年の国内での災害における活躍はもちろん、さきのトルコ、台湾の大地震を見ても、救援活動から生活再建支援等に至るまでNGOが大きな役割を演じるなど、もはや災害対策に不可欠の存在となっている。
 しかしながら、我が国における災害ボランティアの歴史はなお浅く、技術レベルも必ずしも十分なものばかりではない。また、平常時から活動の場がある福祉ボランティア等と異なり、災害がない期間が続くとモチベーションの確保が難しい。
 そのため、地方公共団体等において、防災訓練や研修の実施、他のボランティア団体や防災関係機関、自主防災組織等との交流によるネットワーク化、地域防災計画やマニュアル策定への参画等を通じ、自主性を尊重しつつ技術レベルの向上やポテンシャルの維持が図られるような支援を工夫する必要がある。
 また、災害時に地方公共団体等とボランティアが緊密な連携を図るためには、防災訓練やマニュアル作成等を通じてその役割分担の明確化を図るとともに、地方公共団体等の災害救助実務に習熟したボランティアの養成とそのネットワーク化を図る必要がある。
 さらに、災害発生時には必要に応じ、避難所以外への対応も迅速に行われるよう地方公共団体等においてボランティアやNPOの活動拠点を提供し、ボランティア団体等に対しファクシミリ、パソコン、携帯電話等情報通信機器や関係資料を供与・貸与することなどにより、情報の共有を推進すべきである。

(4)情報収集・提供体制

ア 情報の収集体制

 災害発生時にいち早く求められるものは情報であるが、阪神・淡路大震災においては、電話回線の寸断や輻輳、通信関連機器の損壊、職員の被災等により、被災地における初動期の情報収集や関係機関への連絡等に重大な支障を来した。
 その後、各都道府県等において、職員の参集体制の見直し、防災行政無線や防災情報システム等による通信の多ルート化、バックアップシステムの整備、訓練の強化をはじめ防災体制全般にわたる見直しが進められている。
 こうした要員確保、通信体制強化の取組みをさらに推進することは極めて重要であるが、さらにその拠点となるべき市役所・町村役場等自体が甚大な被害を受け、当該団体の職員等による連絡ができなくなる事態も想定し、都道府県職員等を現地派遣し、モバイル等最近のIT機器を活用して直接情報収集に当たる体制も整備すべきである。

イ 情報の提供体制

 災害発生時には、住民等に対し、時間の経過に伴い変化する被災者ニーズに応じ、災害情報や避難情報、安否情報、生活情報等を適切に伝え、無用の不安を抱かせることのないよう努める必要がある。
 そのため、国、地方公共団体等において、収集した様々な情報を迅速に集約し、被害状況や各機関の対応状況、今後予想される問題点等といった災害の全体像を明確化し、防災を担当する機関相互で共有する仕組みが必要であり、こうした災害の全体像は、広報車や広報紙、掲示、防災行政無線、有線放送等の方法で提供するとともに、近年急速に普及しているインターネットを活用するなど、多様な広報手段を用いて被災者をはじめ一般の人々にもわかりやすい形で情報提供することが重要である。
 また、殺到する問合せや各種相談に迅速に対応するため、総合的な相談窓口を設置すべきである。
 さらに、被災者の避難先は広く他府県に及ぶことから、これら地域外への避難者が情報過疎に置かれることのないようマスコミの活用や駅等でのチラシ配布等による情報提供に併せて居所登録の呼びかけを行い、広報紙の送付やインターネット(Eメール、ホームページ)によるきめ細かな情報提供等に努めるべきである。
 なお、影響力の大きいテレビ、ラジオ(コミュニティFMを含む。)、新聞等のマスコミについては緊密な連携を図る必要があることから、マスコミ相互あるいは地方公共団体等との間で平常時から災害発生時の広報についての具体的なとりきめ、協定等を行っておくことが重要である。

ウ 安否情報の提供

 阪神・淡路大震災においては、電話回線の断絶に加え、安否確認等に伴う回線の輻輳により3日間にわたって通話しにくい状態が継続し、行政をはじめとする関係機関の連絡に大きな障害となった。
 これを契機として、事業者等により災害伝言ダイヤル171やインターネットの災害伝言板等のサービスが提供されているが、その一層の利用が図られるよう地方公共団体等において利用方法等について住民への普及啓発に努めるべきである。
 また、地域に密着したCATV、コミュニティFM放送等の活用も効果的と考えられる。

エ ITの積極的な導入等

 最近のITの進展には目覚ましいものがあり、国、地方公共団体等においては、その成果を防災対策に積極的に取り入れる努力が必要である。
 そのため、例えば、今後関係事業者、国等により、次のような取組みを行うことが期待される。

(1) 衛星デジタル放送の開始や今後の地上放送のデジタル化に伴い、データ放送を活用した安否情報の提供等。

(2) 急速に普及している携帯電話を活用し、災害発生時において、携帯電話に入力された避難先や個人データ等を集約し、被災者情報として利用するシステムの開発。

(3) 全国の郵便局の情報ネットワークを活用した被災者情報収集システムの開発。

(4) 電子政府の実現に伴う防災関係情報の提供。

オ 情報バリアフリー化の推進

 ITが進展する一方で、機器に不慣れな高齢者等について、デジタルデバイド(情報格差)が生じることも懸念されるため、地方公共団体等においては、関係事業者や情報ボランティアとの連携・協力等により、高齢者・障害者等を含む誰もが手軽にインターネット等により情報に接することができるよう、情報のバリアフリー化を推進することが必要である。

5 避難所等のあり方

 阪神・淡路大震災における避難所への避難はピーク時で1,235箇所、約32万人にのぼり、避難所の設置期間については、ライフラインの復旧、応急仮設住宅の設置等に時間を要したことなどから、最長で7ヶ月の長期にわたった。そのため、被災者は、従来想定されていた期間を大幅に上回る避難生活を余儀なくされ、施設・設備や管理・運営、生活支援等について、多くの課題を残すこととなった。
 一方、被災者の避難先としては、避難所以外に、親戚・知人宅や企業の社宅等民間施設へ避難した人も多く、また、地域的には近隣市町、近隣府県はいうまでもなく、広く全国各地にわたった。しかし、これら地域外への避難の状況が明かでなかったことから、地域外への避難者の把握と情報提供等が課題となった。
 また、有珠山噴火に際しても、ピーク時で1万5千人以上の住民が避難する事態となり、火山活動の終息の見通しが立たない中で、避難が長期化した。そのため、阪神・淡路の教訓を踏まえた各種支援策が講じられたものの、避難所の確保や地域外への避難者の把握等について課題を残した。

(1)避難所の機能と時間的変化

 避難所は、災害の直前、直後において住民が一時的に避難し、生活する施設として重要な役割を果たしているが、ここで提供されるサービスを含めた主な機能を整理すると、次のものがあげられる。

(安全、生活等)

(1) 安全の確保

 地震発生後の余震や風水害による家屋の倒壊、河川の決壊のおそれがある場合等、災害発生の直前または直後において、安全な施設に、迅速・確実に避難者を受け入れ、避難者の生命・身体の安全を守る機能であり、第一に優先されるべきものである。

(2) 水・食料・生活物資の提供

 避難者に対し、飲料水や非常食、食材の供給、被服・寝具の提供等を行う機能である。原則として、ライフラインの復旧、流通経路の回復等に伴い必要性が減少する。

(3) 生活場所の提供

 家屋の損壊やライフラインの途絶等により、自宅での生活が困難になった避難者に対し、一定期間にわたって、就寝や起居の場を提供する機能である。
 季節や期間に応じて、暑さ・寒さ対策や炊事、洗濯等のための設備のほか、プライバシーへの配慮等生活環境の改善が必要となる。

(医療、衛生)

(4) 健康の確保

 避難者の傷病を治療する救護機能と健康相談等の保健医療サービスを提供する機能である。初期の緊急医療、巡回健康相談等が中心であるが、避難の長期化に伴い、心のケア等が重要になる。

(5) 衛生的環境の提供

 避難者が生活を送るうえで必要となるトイレ、風呂・シャワー、ごみ処理、防疫対策等衛生的な生活環境を維持する機能であり、避難者の生活が続く限り継続して必要である。

(情報、コミュニティ)

(6) 情報の提供等

 避難者に対し、災害情報や安否情報、支援情報等を提供するとともに、避難者同士が安否の確認や情報交換を行い、また、避難者の安否や被災状況、要望等に関する情報を収集し、行政等外部へ発信する機能である。時間の経過とともに必要とされる情報の内容は変化することに留意する必要がある。

(7) コミュニティの維持・形成

 避難している近隣の住民同士が、互いに励まし合い、助け合いながら生活することができるよう従前のコミュニティを維持したり、新たに避難者同士のコミュニティを形成する機能であり、避難の長期化とともに重要性が高まる。

 これらの機能を時系列で見た場合、初期においては安全の確保を第一に、緊急医療等による健康の確保、水・食料等の確保及び初動期の情報の提供・交換等が最優先されるべき機能であり、それに続いて他の機能が必要となってくる。その後、ライフラインの復旧や避難者の住居の確保等に伴い、各機能の必要性は減少し、避難所を撤収することとなる。
 しかし、災害発生直後の混乱時においては管理・運営体制が整わず、避難所の機能を完全に発揮することが困難な場合も生じることから、時間の経過に応じて優先されるべき機能について重点化を図ることも必要である。

(2)避難所の防災拠点化

ア 趣旨

 災害によって日常生活に支障をきたす被災者は、避難所にいる避難者だけではない。住家には大きな被害がない住民であっても、ライフラインや流通の途絶により、水、食料、トイレ、入浴や各種情報の入手、交換等が困難になる者も多い。
 前述の避難所の機能のうち、水・食料・生活物資の提供、健康の確保、衛生的環境の提供、情報の提供等といった各機能は、これら避難所以外の被災者についても、必要に応じて公平にサービスが受けられるようにすべきである。
 そのため、国、地方公共団体においては、小中学校等の指定避難所が住民にとって地域防災のシンボルになっていることも考慮し、生活に支障を生じている全ての被災者にサービスを提供する機能をもった、地域やコミュニティの防災拠点として位置づけることを検討すべきである。

イ サービス提供基準の明示

 避難所を地域等の防災拠点として位置づけ、避難所以外の被災者への公平なサービス提供を打ち出すことにより、在宅での生活を促進する効果が期待できるが、他方で避難所への殺到や依存という問題の発生も懸念される。
 そのため、地方公共団体等においては、サービス提供の基準を明示し、被災者の居住地域の被害状況等サービスの必要性を確認するとともに、サービスの種類によっては、ライフラインや流通の復旧等を契機としてそのサービス提供を終える等終期設定を行うことも考えられる。
 なお、学校施設については、本来の教育機能の早期回復にも十分配意する必要がある。

ウ 地域内での連携体制

 避難所を地域等の防災拠点として位置づけることにより、避難所においてサービスの提供を受ける者が増加し、物資配送等の管理面で十分な対応が困難となる場合も考えられる。
 そのため、市町村等の適切な統括のもとに、小・中学校区など日常生活圏域内等で避難所を相互に連携させ、運営していくシステムも検討すべきである。

(3)避難所の確保

ア 地域外の施設や民間施設の活用

 避難所の量的確保については、想定を上まわる避難者数が生じた場合に備える必要があるため、避難所として指定された学校、集会施設等の公共施設について受入れのための整備を進めるとともに、地域内外のあらゆる社会資源を活用して追加指定を行い、受入体制を増強することが必要である。
 そのため、市町村等においては、近隣地方公共団体の公共施設や民間の社宅、保養所、スポーツ施設等についても、あらかじめ所有者等と協議し、可能な場合は協定・契約しておくべきである。
 なお、この場合の優先順位としては、管理上の便宜から公共施設の利用を優先し、(1)地域内の公共施設、(2)地域外の公共施設、(3)地域内の民間施設、(4)地域外の民間施設、とすることが考えられる。

イ 避難所の適正配置と追加指定

 阪神・淡路大震災の実例を見ても、避難者は突発的な災害の発生に際し身近で安全と思われる施設へ避難するため、指定避難所以外の施設にも多数の避難者が避難することが予想される。
 そのため、避難所の配置については、避難者が歩いて行ける身近な地区を単位とし、途中に崖地や橋梁等のない安全な場所への適正配置に努め、市町村等において、平常時からハザード・マップの配布等に合わせ、指定避難所の所在について住民への周知を図る一方で、それ以外の施設についても、災害時に多数の避難者が避難しているときは柔軟に追加指定し、必要な支援を行うことも想定しておくべきである。
 ただし、この場合状況が落ち着いた段階で、必要に応じ近隣の環境の整った指定避難所等への集約を行うべきであり、また、その旨を住民等に周知し、啓発しておくことが必要である。

ウ 小部屋の利用

 避難所の施設としては、体育館、ホール等いわゆる大部屋の利用が中心であるが、コミュニティの維持・形成や避難所の自主運営の促進、プライバシーの確保を図る上からは、比較的少人数単位で生活することが望ましい。
 そのため、市町村等においては、避難が長期化する場合においては、避難所の集約に合わせ、できる限り小部屋があって生活環境の良好な施設の利用を図るべきである。

エ 福祉避難所等

 高齢者、障害者のほか妊産婦、乳幼児、病弱者等の要援護者については、福祉避難所として指定した老人福祉センター等の社会福祉施設等の利用を図ることとしているが、現状では十分な指定がなされているとは言えない。
 そのため、市町村等においては、平成12年度補正予算から補助対象とされた入所施設附設の防災拠点型地域交流スペースの整備等も図りながら、これら福祉避難所をさらに確保すべきである。

(4)避難所の管理・運営等

ア 避難者の把握

 被災者の被害状況や避難先に関する情報は、地方公共団体等が被災者対策を行う上での基本となるべきものである。現状では被災者情報の把握は、避難所において食料や物資の配分数を見込むため、避難所において名簿や被災者台帳へ記載すること等により行われているが、災害直後の混乱期において十分な把握を行うことは極めて困難である。
 そのため、避難所の利用や避難所におけるサービスの利用等の際には、被災者としての登録を行うよう呼びかけることなどにより、市町村等において正確な被災者情報の把握に努めるとともに、こうして得た情報をより迅速に処理・加工するため、電算処理等によりデータベース化し、各種支援等に活用することも検討すべきである。
 また、被災者登録の実効をあげるためには、平常時から、自主防災組織等を通じて被災者情報の重要性等を住民に周知し、理解を得ておくことも必要である。

イ 避難所の自主的な運営の支援

 市町村の行政職員や教職員等は各種の災害対応業務等に追われ、これらの職員だけで避難所の運営に当たることは困難であり、また、避難者の自立を促す意味からも、ボランティアの協力を得ながら避難者による自主的な運営が行われることが望ましい。
 そのため、避難所におけるルールを早期に確立し、避難者の班編成やリーダーの選出、当番制等避難者やボランティアの役割分担を明確にして、いわば生活の構造化を図ることが必要である。
 また、このような観点から、日本赤十字社や地方公共団体等において避難所の管理・運営に当たる専門ボランティアの養成を行うことによって、行政職員や教職員が他の業務等に従事できることも期待できる。
 さらに、災害発生後に自主的な運営を円滑に行うためには、地方公共団体等において平常時から自主防災組織の育成や防災訓練、避難所マニュアルの作成等を通じて住民の理解とコンセンサスを得ておくべきである。

ウ 要援護者に対する福祉サービスの提供等

 在宅福祉の進展する中、自力では安全の確保等が困難な高齢者、障害者等の要援護者については、福祉事務所等行政において、民生委員をはじめ広く地域住民や介護等に係る事業関係者の協力を得ながら迅速に安否確認を行い、適切に避難誘導を行うとともに、必要な福祉サービスを提供することが必要である。
 そのため、平常時から行政と住民等が要援護者に関する情報を共有し、地域ぐるみでネットワークを構築しておくことが望ましい。
 その際、これらの情報がプライバシーにかかわるものであることから、自主申告制とすることなどにより、災害時に取扱いが問題にならないよう十分な検討を行っておくことが必要である。

(5)水・食料等生活物資の提供

ア 備蓄

 災害によりライフラインや食品の流通が途絶する場合に備え、各都道府県や市町村において水、食料、生活必需品、仮設トイレ等物資や資材の備蓄が行われており、今後とも災害救助基金の活用等により、必要な備蓄の推進を図るべきである。
 しかし、地元市役所・町村役場や備蓄倉庫等が被災し、備蓄物資が利用できなくなる可能性もあることから、備蓄の地域分散にも配慮しつつ、地震、火災、風水害等あらゆる災害に備え、平素から備蓄倉庫の場所、構造等の点検を行い、被災防止に努力するとともに、万一そのような事態が生じた場合には、都道府県等による水・食料等の生活物資や救助用資機材、通信機材等の迅速な搬送等支援体制の構築を図るべきである。
 また、住民に対して、自ら3日分程度の水・食料等を備蓄しておくよう、平常時から啓発しておくことも重要である。

イ 食事メニューの多様化等

 食事の提供に当たっては、避難の長期化に伴い、栄養バランスへの配慮や適温食の提供とともに、避難者の嗜好に応じて食事メニューを多様化することも求められるが、市町村等行政がきめ細かく対応することには限界がある。
 そのため、必要な炊事設備や食材を配備・供給し、避難所における当番制等の生活の構造化を図って自炊を推進すること等によりメニューの多様化を図るべきである。
 また、流通の回復状況に応じ、避難者が個別事情に応じた生活必需品等を入手できるよう、近隣の商店情報の提供、あっせん等を積極的に行うことなども考えられる。

(6)避難所の情報拠点化(情報の提供等)

 これまで、避難所においては、主に避難所内の避難者を対象として、掲示や広報紙の配布、テレビ、ラジオの設置、巡回相談等により情報の提供に当たってきた。
 しかし、避難所以外の被災者についても、同様に情報入手への欲求は極めて大きいことから、国、地方公共団体においては、避難所を情報面においても地域やコミュニティの拠点として位置づけ、情報通信体制を強化し、地域の被災者が自由にアクセスできるようにすべきである。
 そのため、地方公共団体においては、テレビ、ラジオ、ファクシミリ、パソコン等を避難所に迅速に配備するとともに、停電や電話回線の途絶時等においても、市町村や近隣避難所等との通信・連絡が可能となるよう、防災行政無線の設置や直接伝達するための自転車の配備等に努め、さらに、情報ボランティア等との連携により、被災者がインターネットによる情報入手やメール交換、外部への情報発信等をいつでも自由に行えるよう環境整備を行うことが考えられる。

(7)帰宅困難者対策

 都市部の災害においては、昼間等災害発生の時間帯によっては、住民が被災するだけでなく、交通途絶により、通勤・通学者や買い物客等多数の帰宅困難者が発生するおそれがある。
 こうした事態に対しては、オフィス、金融機関、大規模商業施設、映画館・劇場等の集客施設や交通機関等において、地方公共団体や関係機関等との連携を図りながら、適切な情報提供や避難誘導により混乱を回避するとともに、水・食料、トイレ、休息場所の提供等を行う必要がある。
 そのため、これら事業所等の役割が極めて重要であることから、地方公共団体等においては、防災対策における役割の明確化を図るとともに、積極的な啓発を行い、協力を求めていくことが必要である。
 また、近隣市町村や都道府県との間で、帰宅困難者への情報提供や支援等に関する連携、協力が図られるよう、平常時から協議、協定を行うとともに、防災訓練にも組み込むべきである。

6 応急仮設住宅等のあり方

 阪神・淡路大震災においては、兵庫県で4万8,300戸、大阪府で1,381戸合計4万9,681戸の応急仮設住宅が設置されたが、その用地の確保や資材の生産、建設に大きな困難を伴うこととなった。
 そのため、最終的に設置を完了するまでには約7ヶ月の期間を要し、この間、住家を失った被災者は避難所等での長期にわたる避難生活を余儀なくされることとなっ た。
 また、恒久住宅の確保に時間を要したことなどから、応急仮設住宅等における入居期間も長期化し、完全退去までには5年を要した。
 こうした状況の中で、設置場所が従前居住地から遠かったこと、当初の規格・仕様が画一的であったこと、入居選定に当たって高齢者等を優先した抽選方式をとったため、従前のコミュニティが維持できなかったこと、高齢者等に対する見守り活動等をはじめとする生活支援が必要となったこと、また、既存の住宅ストックをもっと活用すべきことであった等多くの課題を残した。

(1)仮住まい対策等についての考え方

ア 仮住まいの期間

 阪神・淡路大震災においては、応急仮設住宅への入居開始は最も早いもので震災から2週間後、神戸市においては約1ヶ月後であり、最も遅いものでは約7ヶ月後となった。一方、退去については、震災から5年を経た平成12年1月が最後となっている。
 学校の体育館や集会施設等を利用し、多数の人々が起居する避難所の生活環境はもともと十分なものではなく、応急仮設住宅等の仮住まいや恒久住宅への入居ができる限り迅速に進むことが望ましい。また、応急仮設住宅についても、仮設建築物であることから構造及び居住性能上長期間の生活に適しておらず、安定した居住環境が確保できる恒久住宅への早期入居が進められるべきである。
 しかし、一方では、災害公営住宅の建設や自宅の再建等には相当の時間を要することも事実であり、地方公共団体等において一律に仮住まい期の早期化、短期化を進めるのではなく、被災者の住居確保の状況に応じた配慮も必要である。

イ 既存の住宅ストックの活用

 阪神・淡路大震災においては、応急仮設住宅の設置に多大な経費と時間を要したが、ストックとして残るものではなく、再利用を図るとしても結局は大量の廃棄物が生じることとなる。
 また、公営住宅等の空き家については速やかに一時入居の受入れが行われたが、民間賃貸住宅の空き家についても、その活用を図るべきではないかとの指摘がある。
 また、半壊した持家等についても、できる限り居住を続けながら本格補修へとつなぐことができるよう、住宅の応急修理制度の一層の活用を図るべきである。

ウ 多様な支援策の早期提示

 阪神・淡路大震災においては、約45万世帯が全・半壊したのに対し、応急仮設住宅の入居数は約4万8,000世帯であり、他の多くの被災者が仮住まいまたは恒久住宅として、地域内外の勤務先の施設や親戚・知人宅、民間アパート、公営住宅等へ入居し、あるいは自宅の補修、再建等を行っている。
 被災者の住居の地域・形態については、住家の被害状況、年齢、世帯構成、経済力、勤務先等により様々なものが考えられ、既存住宅ストックの活用を図る観点からも、国、地方公共団体において、住居確保の支援に当たっては、従来のような避難所→応急仮設住宅→恒久住宅といった単線的な支援ではなく、多様な選択肢をパッケージとして提示し、被災者の状況に応じた公平な支援を図るべきである。
 また、阪神・淡路大震災においては、住家が損壊した被災者の半数以上の人が最初の1週間以内に住まいに関して最も情報を必要とし、また、全壊世帯の半数以上が災害発生から1ヶ月以内にその後の住まいを決定しているとの調査結果があり、被災者の住宅に関する情報については極めて早い段階での提供が求められていることがうかがわれる。
 そのため、地方公共団体等においては、ボランティアの協力のもとに、住み続けることができるかどうかを判断するための応急危険度判定や補強、解体・復旧を判断するための被災度区分判定等を早期に実施するとともに、住宅再建支援策等の情報を早期に住民に提供することが重要である。

エ 生活支援対策等

 仮住まい対策には、当面の住宅の提供だけではなく、被災者の生活支援という側面がある。
 そのため、応急仮設住宅等仮住まいの確保に当たっては、できる限り従前の生活圏やコミュニティの維持を図るとともに、他地域へ移転せざるを得ない場合においても、生活利便の確保やコミュニティの維持・形成、情報提供・交換、生業・雇用の確保等の生活支援を一体的に考えることが必要であり、被災者の状況に応じ、ケア・サービスや見守り活動等の各種生活支援が適切に行われるよう、関係機関と連携して十分な体制整備を図る方策を事前に講じておくべきである。

(2)既存の住宅ストックの活用

ア 公営住宅への一時入居

 阪神・淡路大震災においては、住家を失った被災者に対し、公営住宅や公社・公団住宅の一時使用が認められ、ピーク時には全国で約1万2,000世帯が一時使用し、最近の伊豆諸島火山活動に際しても、約1,000世帯が一時使用している。
 これは、公営住宅が、空き家使用に当たって修繕等を要する場合があるものの、早期に使用が可能であることによるものと思われる。
 公営住宅の一時使用は、災害時の仮住まい確保のための一般的な措置として公営住宅法に位置づけられているものではないが、今後とも、地方公共団体において、状況に応じつつ、公営住宅の本来目的の達成に支障のない範囲での緊急避難的な措置として、公営住宅の空き家を被災者の一時使用に提供することも現実的な対応策の一つと考えられる。

イ 民間賃貸住宅の活用

 阪神・淡路大震災においては応急仮設住宅の建設に時間を要したこと等から、県が民間アパート等の民間賃貸住宅を応急仮設住宅として借り上げ、健康面で不安の大きい高齢者、障害者等に提供したが、その入居戸数は139戸に止まっている。
 民間賃貸住宅は、一般に応急仮設住宅に較べ居住環境が良好であり、今後一層の活用を図るべきであるが、災害発生時には民間事業者等との競合もあって大量の需要が発生し、家賃相場が上昇したり、量的確保が困難になることが考えられる。
 そのため、災害発生時には地方公共団体が優先的に確保できるよう、あらかじめ業界団体等と協議、協定等を行っておくことが考えられる。
 また、阪神・淡路大震災においては、復興基金による家賃補助が行われたところであるが、これは既存住宅の活用を図るとともに、被災者が自ら入居先を選択し、一定期間にわたって安定した居住を確保できる制度であり、被災者の住宅支援策の選択肢の一つとして考えられる施策である。

ウ 住宅の応急修理

 災害救助法に基づく応急修理は、住家が半壊し自ら修理する資力のない世帯について、地方公共団体が居室、台所、トイレ等日常生活に必要な最小限度の部分を応急的に修理するものである。
 阪神・淡路大震災においても、ベニヤ、トタン、ビニール・シートによる屋根の修理や、内外壁・建具等の応急修理が行われたが、実施世帯数は約1万に止まり、1戸当たり平均単価も少額であった。
 これは、業者の確保が困難であったことや、制度自体があまり知られていなかったこと等によるものと考えられる。
 しかし、住宅が被害を受けても被災者ができる限り自宅で生活を続けながら本格補修を行うことなどによって、応急仮設住宅等の需要を抑制するとともに、被災者が可能な限り地域にとどまって復興まちづくりを進める足がかりを確保することにもつながるため、地方公共団体において、本制度の一層の普及、活用が図られるべきである。
 そのため、地方公共団体等において、本制度を被災者への支援策の一つとして事前又は災害発生後早期に周知するとともに、応急危険度判定・被災度区分判定等と連動した迅速な施工を図るための標準化等について検討し、事前に業界団体等と協議、協定を行う必要がある。
 また、被災者が応急修理に続いて効率的に本格補修を実施することができるよう、施行業者を被災者が選択できるシステムの導入も検討すべきである。
 なお、阪神・淡路大震災においては、本格的な補修に対する支援策として復興基金による大規模住宅補修への利子補給や被災マンション共用部分補修への利子補給が行われたところであるが、半壊した家屋ができるだけ取り壊されず、活用されるよう、こうした支援の充実が図られるべきである。

(3)応急仮設住宅

ア 資材生産・供給能力の確保

 現状では、関東地域での供給能力は3ヶ月で7万3,000戸程度と推計されているが、例えば、東京都の直下型地震に係る被害想定に基づく必要数は約10万戸とされ、それ以上の期間を要することとなるため、今後さらに迅速な供給が可能となるよう、業界等による研究、工夫が求められる。
 阪神・淡路大震災においては、プレハブメーカーの生産能力は月産約1万戸に止まったため、一般住宅メーカーの協力を得るとともに、外国から約3,300戸を輸入することにより資材の確保を図ったところであるが、このほか、次のような方策が考えられるところであり、国、地方公共団体、関係業界において、引き続き具体的な実施方法について検討する必要がある。
 なお、阪神・淡路大震災の経験を踏まえ、建物の耐震基準の見直し、既存建築物の耐震改修の促進等が進められているが、今後とも建築物の耐震性の向上により、住宅被害の低減、ひいては応急仮設住宅需要の減少につながることが期待される。

(1) 資材の備蓄

 資材を地方公共団体等が分担して備蓄しておくことにより、迅速な供給が可能になる。
 ただし、大量の資材の備蓄には、多大なコストを要することから、その経費負担等が課題となる。

(2) ユニットハウスの活用

 ユニットハウスについては、組立ハウスに比べ設置が容易であるため、業界において現状以上にウェートを高めることができれば供給の迅速化につながる。

(3) 用地の事前点検

 地方公共団体と業界等において用地を事前点検することにより、建設予定地の進入路の状況、土地の高低差、ライフラインの敷設、周囲の環境等の諸条件を把握することができれば、工期の短縮が可能になる。

(4) 関係建設業者等との協定

 地方公共団体において、事前に関係建設業者等と応急仮設住宅建設への協力について協定等を行うことにより、迅速な立ち上がりが可能となる。

(5) 小規模単位での完成等

 大規模な団地の建設に当たっては、建物本体の建設後も電気、水道等の敷設に時間を要しているため、発注者の地方公共団体や応急仮設住宅建設業者において、ライフライン施行業者との連携を図り、小規模単位で完成・引渡しを行うことにより、入居時期を早めることができる。

イ 建設用地の確保

 応急仮設住宅の大量かつ迅速な設置が困難な最大の理由の一つは、市街地において従前居住地の近隣に適当な用地を確保することが困難なことにある。
 そのため、地方公共団体において、平常時からその確保に努めるべきであり、また、建設時に近隣住民との摩擦を避けるためには、あらかじめそのことを公表しておく必要がある。
 用地確保の具体的方策としては次のようなものが考えられ、その具体化に向けて引き続き検討する必要がある。

(1) 応急仮設住宅候補地リストの事前作成

 事前に応急仮設住宅建設のために土地の形状やライフライン敷設の状況等について調査しておくことは重要である。
 しかし、応急仮設住宅用地としてのみ指定すると、災害時において他の用途に使うことができなくなることも考えられる。
 そのため、広域避難場所、救出・救護活動の拠点、応援車輌・緊急物資・応急復旧資機材の集結場所、瓦礫の収集場所、復興事業用地等として時系列的に使い分ける多目的オープン・スペースとして活用できるよう、候補地リストを作成する。

(2) 民有地の災害時借上利用の事前協定等

 空地やグランド、農地等オープンスペースとして利用されている民有地で一定の条件にある場合は、災害時において借上げ利用することを事前に協定する等。

(3) 被災民有敷地の暫定借上制度

 被災により大規模な民有敷地等が更地となった場合に、一定期間応急仮設住宅用地として借り上げる制度をあらかじめ準備し、広報する。

(4) 自己敷地への設置

 全壊した住宅跡地に当該被災者のための応急仮設住宅を設置することについては、単独設置に伴うコストの増大や他の入居待ち被災者との公平性の問題、地域によっては復興事業の支障となる等の問題も考えられる。
 そのため、例えば、数戸以上の設置が可能で、ライフライン整備が容易である等の一定条件を満たす場合に限って積極的に活用することとし、自己居住用の1戸以外については地区別抽選で近隣の被災者の優先入居を認める。

ウ 設置場所

 市街地の場合、大量の応急仮設住宅を従前の居住地近くに設置することは難しい課題であるが、従前の生活圏やコミュニティ、通勤の利便等を維持するため、できる限り自区市町村内に建設することを原則とすべきである。
 しかし、阪神・淡路大震災における応急仮設住宅入居者の退去先の6割以上が公営住宅等の公的借家である実態を考えると、用地が不足する場合公営住宅用地を近隣に確保することを優先し、公営住宅完成までには時間がかかることを示して、その間は別の地域の応急仮設住宅に地区単位で仮移転することも考えるべきである。
 また、地域の企業が被災により遠隔地へ移転する場合に合わせて、被災した従業員世帯等が当該地域の応急仮設住宅等へ移転することも考えるべきである。
 なお、雲仙岳噴火災害において、木造応急仮設住宅を改良し、公的賃貸住宅として活用した例があるが、高齢者等の場合は同じ場所で引き続き暮らせるように、仮設住宅を改良して恒久住宅化することも選択肢として用意すべきである。

エ 入居者選定

 阪神・淡路大震災においては、市区町を単位として、高齢者・障害者等を優先しつつ、抽選による入居者選定が行われた結果、従前地区のコミュニティが壊されたことが問題となった。
 そのため、コミュニティを維持しつつ、従前居住地の近隣に入居できるように、地方公共団体において、地区別抽選方式を開発すべきである。
 また、近隣に必要戸数を確保できないときは他の地域を含む範囲で抽選等により決定せざるを得ないが、この場合においても単一世帯ごとではなく、当該地域又はその付近の数世帯単位での募集枠を設ける方法等が考えられる。

オ 規格・仕様

(1) 規格の多様化と水準の向上

 阪神・淡路大震災においては、当初、3月までに3万戸を設置するという早期大量供給を第一の目標として、2Kタイプを標準に建設が行われたが、その後家族数に応じた1Kタイプや共同炊事場・風呂を備えた寮タイプ、生活援助員の常駐する高齢者・障害者向け地域型の建設が行われるとともに、手すり、スロープの設置等によるバリアフリー化や空調設備の配備等の改善が図られており、その後の有珠山噴火災害等においてもこうした改善が図られている。
 応急仮設住宅の規格・仕様については、寒暖の差が大きい日本の気候、風土等を考慮すると、現在の仕様が最低限度のものであると考えられるが、基本的には、他の仮住まい支援を充実し、応急仮設住宅の需要を減らすことに重点を置くべきであって、そうした措置をとらず応急仮設住宅の水準の引上げのみを行うことについては慎重に考える必要がある。
 なお、災害直後の心理的なケアを考慮し、デザイン、色彩等を工夫することによって、より潤いのある快適な生活環境を造ることも検討すべきである。

(2) 省スペース化

 市街地等で建設適地が得られない場合には、省スペース化のため、炊事場、トイレ、風呂等を共用する寮タイプや2階建仕様の設置を推進すべきである。
 ただし、2階建て仕様については、階下への騒音や防災上の問題点もあり、引き続き検討が必要である。

(3) 再利用の推進

 阪神淡路大震災においては、設置した応急仮設住宅のうち約2万6千戸がリース、約2万2千戸が買取りによるものであったが、買い取りによるものについては、撤去後、県が大部分を海外へ無償提供し、再利用を図っている。
 しかし、一時に大量の資材を生産した場合、リース物件を含め、いずれは廃棄物として処理せざるを得ず、環境への大きな負荷となることから、業界等においてできる限り再転用可能な仕様、工法を研究・開発すべきである。

(4) 新たに考えられる応急仮設住居形式

 現状では、応急仮設住宅としては主にプレハブ住宅が想定されているが、著しく大規模な災害が発生した場合等においては、倒壊した住宅の跡地や近隣の小公園等の空地に、大型テントやコンテナを設置し、それにユニット形式の洗面台、トイレ、シャワー等の衛生設備を組み合わせた応急的な仮設住居を設置することも考えるべきであり、それらの資材を公園、学校等へ分散備蓄しておくことも考慮すべきである。
 今後、業界等においてプレハブ住宅以外の様々な仮設住居形式について、研究開発が進められることが期待される。

カ 生活支援

 阪神・淡路大震災においては、大規模な応急仮設住宅団地等において、仮設診療所や心のケアセンターの設置、小売店舗の誘致、バス路線の新設等により生活利便の向上を図るとともに、ふれあいセンター(集会施設)を拠点とした入居者やボランティア等による様々な自治・交流活動、高齢世帯等の見守り活動、防犯活動、保健・福祉、住宅、就労に係る巡回相談等の生活支援が展開され、成果を上げており、有珠山噴火等その後の災害においてもこの経験が生かされている。
 そのため、応急仮設住宅においては、従前の生活圏やコミュニティを離れた被災者が、生きがいを持って生活できるよう、地方公共団体等において入居者の自治組織やボランティア、行政の役割分担を明確にし、ハード、ソフト両面にわたる各般の生活支援メニューを用意しておくべきである。
 また、その際、生きがいづくりや仕事づくりのため、空きスペースを活用して菜園を設けたり、舗装、植栽等の簡易な環境整備等に当たって入居者を雇用したり、あるいは仮設店舗等を含め、すまいと暮らしを総合的に支援するための柔軟な対応を図るなど、様々な工夫を行うことが考えられる。
 さらに、被災者が避難所から応急仮設住宅に移った後も同水準の情報入手が可能となるよう、集会施設等への情報通信機器の配備や情報ボランティアとの連携等を図るべきである。

7 終わりに

(価値対立とコンセンサス)

 災害規模の大きさによっては、公的支援として提供できる総量に限界があり、被災者の様々なニーズに十分応えるだけの支援内容にはなりにくい場合がある。そのため、限りある支援総量をいかに配分するかが重要となる。
 阪神・淡路大震災における公的支援でも、配分の公正性の確保について様々な配慮がなされた。しかし、救援物資の配分に当たって公平性を重視した結果、少量の物資配分が柔軟・迅速に行えなかったり、応急仮設住宅への高齢者等の入居を優先した結果、特定箇所に高齢者だけが集中し、健全なソーシャル・ミックスが行われなかったといった問題が生じた。
 このように、災害時においては普段想定していない事態が突発的に発生し、一定目的のために打ち出した対策が他面ではマイナスに働くという「価値対立」が生じることがある。これは、十分な検討を行い、住民や関係者のコンセンサスを得るための時間的余裕がなく、短時間での解決を迫られることによる場合が多いと考えられる。
 そのため、地方公共団体においては、平常時から地域防災計画の改訂や対応のための指針、マニュアルづくり等を通じ、幅広く関係者や住民と十分な検討、議論を重ねたり、自主防災組織の育成、防災訓練、防災教育等の場でワークショップの手法を活用することなどにより、住民等のコンセンサスを形成する努力が不可欠といえよう。

(施策の体系的推進)

 本報告書においては、災害救助法に規定する応急対策を中心とする様々な施策について提言を行うとともに、これらの体系的な推進についても述べてきたところである。 しかし、災害から復旧・復興に至る過程における施策は多種多様であり、これらは相互に密接に関連していることから、その運用に当たって的確な総合調整を図るとともに、さらに施策の総合化、体系化を図る努力が必要である。

(今後の研究等への期待)

 冒頭に述べたとおり、本研究会においては各委員等の問題意識をもとに議論を交わしながら、重点的な検討を行ったものである。
 したがって、災害救助に係る全ての事項を網羅的に検討したものではなく、これまで述べてきた事項以外にも、災害医療や、被害認定、遺体の取扱い、あるいは予防対策としての住宅の耐震改修の促進など重要と考えられる項目について時間的制約から検討項目を絞り込まざるを得なかったことをご了承いただきたい。
 なお、災害医療に関しては、別に厚生労働省の「災害医療体制のあり方に関する検討会」において、また、被害認定に関しては、内閣府の「災害に係る住宅等の被害認定基準検討委員会」において検討が行われているところである。
 阪神・淡路大震災から6年あまりを経過した今日においても、震災を貴重な教訓として、今後の大規模災害等に備えた各般の研究や検討が進められている。都道府県、市町村等の関係者におかれては、これらの成果も十分参考にし、地方公共団体の防災対策に具体化していただくことを期待したい。


(問い合わせ先)
厚生労働省社会・援護局保護課
        災害救助対策室
 担当者:河原、熊崎
 電 話:内線 2819
     直通 03-3503-3780

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