日時: | 平成13年4月16日(月) 13:30~15:30 |
場所: | 厚生労働省別館第10会議室(中央合同庁舎第5号館別館7階) |
出席者: | 【研究会参集者・50音順】 毛塚 勝利(専修大学法学部教授) 柴田 和史(法政大学法学部教授) 内藤 恵(慶應義塾大学法学部助教授) 中窪 裕也(千葉大学法経学部教授) 西村 健一郎(京都大学大学院法学研究科教授、座長) 守島 基博 (一橋大学大学院商学研究科教授) 【厚生労働省側】 坂本政策統括官(労働担当) 鈴木審議官 岡崎労政担当参事官 荒牧室長補佐 |
【議事概要】
○ 大和総研投資調査部 山田克史氏より、資料に基づき企業の再編動向、企業組織再編を行う理由、マーケットの評価、組織再編の新たな動き等について、個別事例をまじえて説明が行われた。その内容は以下の通り。
グループ会社再編は、子会社を、親会社を支えるシステムの一部と捉える垂直型構造から、グループ価値の最大化に貢献する独立した企業群として捉える水平型構造に移行してきている。
この過程を2つのSTEPに分けることができる。STEP1は、不採算部門の整理統合、事業売却、子会社への不良資産の移管等従来型のリストラ過程であり、STEP2は株式公開制度を活用した完全子会社化、分離戦略(スピンオフ、カーブアウト、トラッキングストック)等グループ全体の利益を最大にする組織戦略と位置づけることができる。
時価会計基準、連結決算制度、組織改正に関する商法改正がこのSTEP2の動きを後押しするとともに、株式持合い比率の低下等に伴い安定株主の減少を招き、株主圧力の増大も影響する。
子会社に対する統制の必要性、親会社の資金需要により、親会社の子会社に対する資本政策は変容する。
日本の親会社は子会社に対する資本政策をほとんど行ってきておらず、アメリカでは子会社公開後、数年以内に売却、スピンオフによって完全分離を行ってきたという差異があり、必ずしもアメリカのように変わるわけではないが今後は柔軟な資本政策を行う必要性が高まっている。
○これを受けて、意見交換が行われた。その内容は以下の通り。
Q: 各企業は、グループ全体としての価値を高めるために再編を行っているとのことだが、例えば、コングロマリット・ディスカウントの解消にあたっては、いわゆる不良なものをはずすのか、いいものをはずすのか。価値顕在化のためにはどちらを採用すべきであるのか。
A(山田氏:以下同じ):
そもそも企業活動とは誰のためのものなのか。大原則を言えば、それは親会社の株主の利益を最大化することある。では、親会社の株主利益の最大化のためにどういうものを分離するか。グループ全体としてのコアからはずれているものを売るのが一般的だろう。ただし、2つの関連性のないコア事業を抱えている企業の場合、経営環境の効率化のためにそれぞれ分離した方がスピード化を図れて良い場合もある。単に不良部門だから、優良部門だから外すということではない。
Q: 組織再編についてアメリカでは親会社首脳の意図よりも、株主の意向が大きく働いてしまうものなのか。
A: 日本とアメリカの風土の違いが大きい。日本では株主代表訴訟も提起されにくいが、アメリカではよく見られる。また、アメリカでは有力自動車会社グループも、コア事業であり通信や衛星事業を営む関連会社についてスピンオフを検討しているところである。これは、本業と関連性の低い事業について「市場評価が下がるから売れ」という株主圧力が「親会社で保有していたい」という経営陣の意向を動かした結果である。親会社経営者は、株主の利益最大化というプレッシャーを常に背負わされている。
Q: 商法の伝統的考え方では、経営陣は株主の利益のために活動するとされるが日本の企業経営の現実ではそうはなっていないのではないか。もし資料No.1-3の1Pのような事例ならば、株主は「親会社より時価総額の高い子会社を分離せよ。」と言うはずだ。日本の株主は物を言わないため経営陣は子会社を手離すことはないだろうが、そういった状況で株主の声が高まるのか。
A: 最近は各企業の資本政策に対する声が強くなってきている。これは日本の信託銀行のアンケート調査からもその変化が感じられるが、特に海外投資家の視線が厳しいことが大きい背景となっている。子会社に対する資本政策という観点から見ると、大手電機メーカーなどでは子会社を再編するという意識が高まってきている。この背景には、IR化等に伴い企業グループ全体の価値を高めることこそ、株主の要求を満たすことであるという意識がある。確かに日本でも株主は物言うようになってきており、株主の機関化が進めばこの流れは加速すると思う。
Q: 従来の6大企業グループ、株式持合い構造などのしがらみが今後どうなっていくだろうか興味がある。何でもありの経済合理性で進むのか。
A: 一気に進むことはないと思うが、今年の3月からの時価会計導入で企業再編が進まざるを得ない状況下だ。国際基準を満たさなければ認められない。その中で、従来の持合い構造はやっていけなくなる。過去の慣行はゆるまっていくイメージを持っている。
Q: 低成長の子会社を取込み、自ら再編する手法を親会社が選択する決定要因は何か。
A: 低成長の子会社であっても一部光る要素がある場合、親会社主導で各部門を切り分け、使える部分を有効活用したいという要因だ。一部売却という選択肢も考えられるが、相手方との取引になってしまう問題がある。
Q: 労働法の観点から言って、企業グループ内で価値の低いものを分割して切り離すやり方は、株主に対して何らインセンティブを与えない。企業グループ全体の価値を高めるのであれば、分割により切り離すより潰すというやり方もある。どちらが効用は高いのか。
A: ケースバイケースであろう。例えば不良部門を買収しては建て直すことを得意とする、ある社長は、有用な部分があれば取り入れ、なければ売り払う、という手法をとっている。
Q: 資料No.1-1の1PのSTEP1にせよ、STEP2にせよ組織の再編に伴う人員の変動は避けられないのではないか。人員削減はスピーディーに行われうるのか。
A: STEP1,2と分類したが人員に関しては、完全に分かれているものではない。スピーディーな企業組織再編のためには、労働契約の承継の問題など労働関係が円滑に処理されていないとブレーキになるからだ。
いずれにせよ、一面的な捉え方は望ましくない。企業グループ全体の利益最大化を図る場合、親子企業間の利益、又は長期的視点と短期的視点に立った場合での利益は相反するものであり、それぞれの戦略の立て方で変化するものだ。
分割に際しての日本での立法措置は債権者保護が手厚いため、実際に活用する場合、使いにくい面がある。例えば、スピンオフと新設分割は制度としては似ているが、アメリカに比べて日本では活用にあたって克服すべきハードルが多い。
○事務局より、資料No.2-1,EU「企業、事業又は企業、事業の一部の移転の際の労働者の権利保護に関する加盟国法の接近に関する指令(既得権指令)」(77/187/EEC)の概要、資料No.2-4,EU既得権指令における企業譲渡範囲について説明が行われた。
○事務局より、資料No.4,研究会の今後のスケジュール(案)について説明が行われ、以下の意見が出された。
個別企業に対するヒアリングは2社のみということだが、企業規模によって組織再編の態様は異なるので、規模ごとに実施するべき。
いろいろなパターンがあるはずだから、2社では少ない。
組合のない企業の事例が重要ではないか。
○資料No.3における連合、日経連に対するヒアリング項目(案)は原案に掲げられた項目で実施することが了承された。
以上
担当:政策統括官付労政担当参事官室法規第3係(内線7753)