検査所見(4月24日 9:00から12:35まで) 体温:37.5℃ 血圧:96/50mmHg 心拍数:122/分 JCS:300 自発運動:なし 除脳硬直・除皮質硬直:なし けいれん:なし 瞳孔:固定し瞳孔径 左 5.0mm 右 5.0mm 脳幹反射:対光、角膜、毛様体脊髄、眼球頭、前庭、咽頭、咳反射すべてなし 脳波:平坦脳波に該当する(感度 7μV/mm、感度 2μV/mm) 診断内容 以上の結果から臨床的脳死と診断して差し支えない。 |
本症例では、バルビツレート療法が行われている。4月22日14:40に投与量3mg/kg/hで開始し、約2時間後の16:33に血圧が114/64mmHgに低下したため2mg/kg/hに減量、更にその約1時間後の17:50に血圧が104/72mmHgに低下したことを受け1mg/kg/hに減量、18:00には中止している。総投与量は約8mg/kg、投与時間は3時間20分間である。中止後約39時間経過しているので脳死判定への影響はないと考えられる。
脳波記録は、国際電極配置10−20法の単極導出(Fp1-A1, Fp2-A2, F3-A1, F4-A2, C3-A1, C4-A2, P3-A1, P4-A2, O1-A1, O2-A2, T3-A2, T4-A1, Cz-A1)、と双極導出(Fp1-C3, Fp2-C4, F3-P3, F4-P4, C3-O1, C4-O2, F7-T5, F8-T6, Fz-Pz, T3-Cz, Cz-T4, T5-T6)で行われている。さらに心電図ならびに手背電極からの同時記録も行われている。脳波は心電図以外のアーチファクトを殆ど伴わず、平坦脳波と判定できる。
2)法に基づく脳死判定
〈検査所見及び判定内容〉
検査所見(第1回) (4月24日22:30から4月25日0:23まで) 体温:37.6℃ 血圧:186/83mmHg 心拍数:105/分 JCS:300 自発運動:なし 除脳硬直・除皮質硬直:なし けいれん:なし 瞳孔:固定し瞳孔径 左 5.0mm 右 5.0mm 脳幹反射:対光、角膜、毛様体脊髄、眼球頭、前庭、咽頭、咳反射すべてなし 脳波:平坦脳波に該当する(感度 10μV/mm、感度 2μV/mm) 無呼吸テスト:陽性
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検査所見(第2回) (4月25日6:30から8:15まで) 体温:36.9℃ 血圧:159/79mmHg 心拍数:83/分 JCS:300 自発運動:なし 除脳硬直・除皮質硬直:なし けいれん:なし 瞳孔:固定し瞳孔径 左 5.0mm 右 5.0mm 脳幹反射:対光、角膜、毛様体脊髄、眼球頭、前庭、咽頭、咳反射すべてなし 脳波:平坦脳波に該当する(感度 10μV/mm、感度 2μV/mm) 無呼吸テスト:陽性
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判定内容 以上の結果より、第1回目の結果は脳死判定基準を満たすと判定 (4月25日 0:23) 以上の結果より、第2回目の結果は脳死判定基準を満たすと判定 (4月25日 8:15) |
脳死判定承諾書を得たうえで、指針に定める資格を持った専門医が行っている。判定者は、本症例が脳死判定の対象となる前提条件を満たし、かつ除外例でないことを確認しており、脳死判定に至る手順、方法、結果の記載と解釈にも問題はない。法的脳死判定における脳死判定記録、脳死判定の的確実施の証明書の記載は適切で、結果も明確に記載されている。第1回目の終了から6時間7分を経過して第2回目が開始されており、その時間間隔も基準を満たしている。
なお、治療として、22日14:40から約3時間20分間、バルビツレート療法が行われているが、中止後52時間30分後に法的脳死判定を実施しており、薬物による影響はないと考えられる。さらに、24日15:00に採血し、15:55に血中ペントバルビタールの濃度が測定感度以下であることを確認した上で脳死判定が行われている。
脳波は単極ならびに双極導出で行われており、心電図以外のアーチファクトを殆ど伴わず、平坦脳波と判定できる。また、法的脳死判定時に行われた聴性脳幹反応は無反応と判定できる。無呼吸テストは2回とも適切に行われており、必要なPaCO2レベルを得て無呼吸テスト陽性を確認している。テスト中の血圧はドパミン、ドブタミン、アドレナリン、ADH(抗利尿ホルモン)によって適切に維持されていた。
まとめ
本症例の脳死判定は、脳死判定承諾書を得た上で、指針に定める資格を持った専門
医が行っている。法に基づく脳死判定の手順、方法、結果の解釈に問題はなく、結果の記載も適切である。
以上から本症例を法的に脳死と判定したのは妥当である。
平成12年4月12日22:45に患者が路上で倒れているところが発見され、救急隊が患者を搬送し、23:15頃に病院に到着した。その後同月24日に家族から主治医に臓器提供意思表示シールが提示されたが、主治医は、まだその時期ではないとして当該シールを返却。12:35に主治医は患者を臨床的に脳死と診断した。 15:19に病院からネットワークの関東甲信越ブロックセンターに対して連絡があり、18:00にネットワークのコーディネーター2名及び都道府県コーディネーター1名が病院に到着。コーディネーターは、担当医と打合せを行うとともに院内体制等を確認した上、医学的情報を収集し一次評価を行った。 |
【評価】
2.家族への脳死判定等の説明及び承諾
4月24日19:20にネットワークのコーディネーター1名及び都道府県コーディネーター1名が家族(夫、長女)と面談し、脳死判定・臓器提供の内容、手続等を記載した文書を用いてこれらを説明。さらにコーディネーターが20:10に同様に家族(長男)に説明。20:20に脳死判定承諾書、臓器摘出承諾書をコーディネーターが受理している。なお、今回は家族から皮膚の提供意思が示されたため、別途、翌25日11:30に皮膚バンクのコーディネーターより家族への説明及び承諾書の受理等が行われている。 |
【評価】
3.ドナーの医学的検査及びレシピエントの選択等
4月24日22:48にレシピエント候補者の選定を開始。腎臓及び膵臓については、HLAの検査後、翌25日3:23にレシピエント候補者の選定を開始している。 また、同日8:19には、心臓、肝臓、腎臓、膵臓の各臓器別にレシピエント候補者の意思確認が開始された。 本事例の患者はかつて腫瘍の摘出手術を受けたことがあるため、レシピエント候補者の意思確認と並行してネットワークとして当該手術を行った医師にその腫瘍が悪性であったかどうかを確認するなど、ドナーとしての適応に問題がないことが確認されている。 肺については、1回目の脳死判定後に細菌が検出され感染が判明したこと及びレシピエント候補者の選定の結果適合する候補者がいないことにより、移植は見送られた。 心臓については第2候補者から移植を受ける意思の確認が得られたが、最終的にはダイレクト・クロスマッチの結果が陰性であることが判明した後、当該候補者が移植を受けることが確定している。腎臓及び膵臓については、膵臓が移植可能かどうかの判断が移植実施施設による第三次評価により行われたため、最終的なレシピエントの確定は同評価後となった。 感染症やHLAの検査等については、ネットワーク本部において適宜検査を検査施設に依頼し、特に問題はないことが確認されている。 |
【評価】
4.法的脳死判定終了後の家族への説明、摘出手術の支援等
第2回法的脳死判定終了後、4月25日8:15に主治医より家族に脳死判定の結果を説明。8:25にネットワークのコーディネーター1名及び都道府県コーディネーター1名がその後の手続や肺の提供は断念せざるを得ないことを説明するとともに、情報公開の内容等について家族の意向を確認している。 また、9:00には、コーディネーターが院内会議に参加し、レシピエントの決定状況等を報告するとともに、その後の手続等を説明している。 その後、15:15に、第三次評価の結果心臓、肝臓、腎臓、膵臓が提供可能と判断されたことも都道府県コーディネーターより家族に伝えられている。 |
【評価】
5.臓器の搬送
4月25日にコーディネーターによる臓器搬送の準備が開始され、参考資料2のとおり搬送が行われた。 |
【評価】
6.臓器摘出後の家族への支援
4月25日19:00にコーディネーターは、家族に対し臓器の提供が無事行われたこと等を報告し、病院の医師、看護婦等とともに御遺体をお見送りしている。 翌26日にネットワークのコーディネーター1名及び都道府県コーディネーター1名でお通夜に参列している。その際、移植手術がすべて無事終了したことを報告している。 6月3日には、皮膚バンクのコーディネーターとともにネットワークのコーディネーター2名が御霊前にお参りし、レシピエントの状況を報告するとともに厚生大臣感謝状を手渡している。なお、その際には、家族からはドナーが臓器提供意思表示シールを運転免許試験場で入手してきた当時の様子などの話があった。また、何か問題となっていることがないかどうかをコーディネーターが確認したところ、家族は特に問題となっているようなことはないとのことであった。 |
【評価】
4月12日 | |
22:45 | 路上で倒れているところを発見された。 |
22:49 | 覚知 現着に救急車到着時 意識 呼名にて反応なく、levelはJCS300、瞳孔両側2mm、 血圧220/100mmHg、呼吸24回/分、脈拍84回/分。 車中JCS10 その後JCS2に回復。 |
23:18 | 救急車で病院に到着 来院時 JCS300、GCS15 3次救急室にて、血圧管理(ペルジピン使用)、鎮静 (デュプリパン使用)、呼吸状態が安定したために気管内挿管はせず(PaO2 160.2mmhg/3LO2吸入下条件) |
23:30 | CT検査施行 所見 全脳底槽及び脳表にび慢性のくも膜下出血 第4脳室、第3脳室、側脳室に出血 |
4月13日 | |
10:30 | 脳血管撮影施行 所見 右内頚動脈前脈絡叢動脈分岐部に破裂動脈瘤 左内頸動脈に2個の未破裂動脈瘤(内頸動脈眼動脈分岐部、内頸動脈後交通動脈分岐部) 左中大脳動脈に未破裂動脈瘤 |
15:30 | 動脈瘤 clipping術施行 右内頚動脈前脈絡叢動脈分岐部動脈瘤にclipping術施行 意識JCS ファスジル3Vial/日開始 |
4月14日 | |
12:20 | 手術後意識レベルの回復を確認して抜管 抜管後の血液ガス(PaO2 145mmHg/O2 3L吸入下) |
4月15日 | 意識JCS1〜2 経口摂取開始 誤嚥、むせ込みなし。 |
4月16日 | 意識JCS1〜2 軽度の頭痛を訴えるのみ |
4月17日 | 意識JCS1〜2 CTにて右側頭葉に低吸収域あり |
4月18日 | 意識JCS3〜10 脳血管撮影 右前大脳動脈、中大脳動脈に脳血管攣縮所見あり 末梢の血流flowは良好 |
4月19日 | 低分子デキストラン500ml/day開始 意識JCS1〜2 脳血管攣縮に対し高心拍出量を維持するため ドブタミン使用開始(2γ/kg/min)。収縮期血圧180以上に維持される |
4月20日 | 意識JCS10〜20 左片麻痺MMT4/5。CTにて新たな脳梗塞なし。意識レベル不良のため、経口よりの全粥中止し経管栄養とする。 |
4月21日 | 意識JCS20〜30 脳血管攣縮に対して高圧酸素治療開始。 (加圧13分:1.0psi/分、2気圧60分、減圧20分:1.0psi/分) 高圧酸素療法後意識はやや改善。 |
4月22日 | |
7:00 | 意識JCS200に低下 瞳孔不同 右3.5左2.5対光反射 両側鈍麻 CT所見 左右前大脳動脈、右中大脳動脈領域の低吸収域 切迫脳ヘルニアの状態 気管内挿管、呼吸管理、マニトール静注施行する 呼吸器管理 FIO2 0.7 SIMV 25 TV 500 PEEP 6 血液ガス pH7.636 pCO2 24.1 pO2 376 FIO2 0.5 SIMV20へ変更 |
9:30 | 右減圧開頭術施行 |
14:00 | 術後瞳孔は両側散大(5mm) 意識JCS300 BP160/100 心泊100 術後も自発呼吸認めず、人工呼吸器にて管理。 自発呼吸は以降も消失 |
14:15 | 術後CT 両側半球の広範な低吸収域、びまん性脳腫脹。 |
14:40 | HR100 バルビツレート療法開始(BP140/80) |
18:00 | BP90/70 血圧低下の為バルビツレート療法中止 HR120 |
19:00 | 収縮期血圧50 mmHg台に低下 HR140 ドブタミン20γ, ノルアドレナリン使用を開始して収縮期血圧80mmHg台へ |
4月23日 | |
1:00 | 収縮期血圧60 mmHg台 |
12:40 | BP40/20 HR100 ボスミン持続投与にて収縮期血圧80mmHg台へ |
13:00 | 意識JCS300 両側瞳孔散大固定7mm 対光反射消失 BP70/40 HR130 意識状態と瞳孔径は散大固定で以降変化なし |
4月24日 | |
9:00 | 意識JCS300 両側瞳孔散大固定7mm 対光反射消失 BP60/40 HR140 意識状態と瞳孔径は散大固定で以降変化なし、平坦脳波の確認のため脳波検査施行 |
10:35 | 夫より本人の臓器提供意思表示カードの提示あり。 臨床的脳死診断以前であったため一度カードを返却する。 |
12:35 | 臨床的脳死の診断。 ADHの併用とNA,ADの減量 輸液の増量 抗生剤の変更 院内コーディネーターによる初期情報収集 |
14:30 | 家族はコーディネーターとの面談意思あり。 |
15:00 | 家族と面談(夫)。脳外科医、救急医、看護婦が同席。 脳死であることの再確認(家族全員が同意しているか否か) コーディネーターと面会する事についての承諾 |
15:10 | 院内マニュアルに準じ、病院長・救命救急センター長・脳神経外科診療科長へ連絡。 臓器提供院内対策本部招集依頼。 |
15:19 | 日本臓器移植ネットワークへ連絡する。 院内脳死臓器提供対策本部設置。 |
15:55 | 血中ペントバルビタール濃度の測定 法的脳死判定用脳波計設定の確認 |
17:00 | 第1回対策会議開催。 |
18:10 | 日本臓器移植ネットワークコーディネーター2名と都道府県コーディネーター1名が当救命センター到着。 院内コーディネーターと打ち合わせ、初期情報の確認。 |
19:00 | コーディネーターが家族と面談。再度、臓器提供の意思の確認。 説明の上、脳死判定承諾書及び臓器摘出承諾書作成。 感染症検査の施行。脳死判定同席の意思の確認。 |
20:00 | 院内脳死判定委員会開催。 |
21:30 | 家族面会(脳死判定の再確認) 麻酔科医と打ち合わせ |
22:00 | 脳波計作動を再チェック。 |
22:30 | 第1回目法的脳死判定施行。 途中から家族の希望で脳死判定に同席。 基準5項目をすべて満たしていた。 |
4月25日 | |
0:23 | 終了 |
3:00 | 警察に検視の有無について確認。検視官が必要なしと判断する。 |
6:30 | 第2回目法的脳死判定施行。 途中から家族の希望で脳死判定に同席。 |
8:15 | 終了。法的に脳死と判定される。ドナー候補者はドナー管理に入る。この時間をもって死亡宣告。死亡診断書作成。 |
9:00 | 第2回対策会議開催。 |
10:00 | 最終的なオペ室の確認 |
10:35 | 麻酔科医師と最終的な打ち合わせ(救急医、臓器移植ネットワークコーディネーター) |
11:30 | 家族に組織提供についての意思があることが確認され、組織移植コーディネーター(移植提供施設所属)が家族に面談。 組織(皮膚)についての説明がなされ、組織提供承諾書作成。 |
13:00〜 | 各摘出チーム当院到着。 |
15:31 | ドナーオペ室入室。 |
20:02 | オペ室退出。2階病棟にて家族面会。(病棟看護婦、コーディネーター) |
20:30 | 第3回対策会議 |
20:40 | 出棺。 |
21:30 | 院内にて記者会見(病院長、救命センター長、脳神経外科診療科長) |
社団法人日本臓器移植ネットワーク
氏名 | 所属 | |
宇都木 伸 | 東海大学法学部教授 | |
川口 和子 | 全国心臓病の子供を守る会幹事 | |
嶋 多門 | 福島県医師会会長 | |
島崎 修次 | 杏林大学医学部救急医学教授 | |
竹内 一夫 | 杏林大学名誉教授 | |
アルフォンス・デーケン | 上智大学文学部人間学教室教授 | |
新美 育文 | 明治大学法学部教授 | |
貫井 英明 | 山梨医科大学脳神経外科学教授 | |
平山 正実 | 東洋英和女学院大学人間科学部教授 | |
藤森 和美 | 聖マリアンナ医学研究所カウンセリング部長 | |
○ | 藤原 研司 | 埼玉医科大学第3内科教授 |
柳田 邦男 | 作家・評論家 |
氏名 | 所属 | |
大塚 敏文 | 日本医科大学理事長 | |
桐野 高明 | 東京大学医学部長 | |
島崎 修次 | 杏林大学医学部救急医学教授 | |
○ | 竹内 一夫 | 杏林大学名誉教授 |
武下 浩 | 宇部短期大学学長 | |
貫井 英明 | 山梨医科大学脳神経外科学教授 |
鈴川 正之 | 自治医科大学救急医学教授 |
鈴木 一郎 | 日本赤十字社医療センター脳神経外科部長 |
第7例目に関する検討経過
平成12年 6月23日 | 医学的検証作業グループ(第3回) |
11月 9日 | 医学的検証作業グループ(第4回) |
12月22日 | 第5回脳死下での臓器提供事例に係る検証会議 ・ 7例目の救命治療、法的脳死判定等及び臓器あっせん業務を検証。 |
問い合わせ先:厚生労働省健康局疾病対策課臓器移植対策室 担 当:木村、衣笠 電話番号:03−3595−2256