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年金積立金の運用の基本方針(案)

 厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)第79条の4第1項及び国民年金法(昭和34年法律第141号)第77条第1項の規定に基づき、厚生保険特別会計の年金勘定に係る積立金及び国民年金特別会計の国民年金勘定に係る積立金(以下「年金積立金」という。)の運用に関する基本方針を以下のとおり定める。
 厚生年金及び国民年金の積立金については、本基本方針に沿って運用を行うこととし、年金資金運用基金(以下「基金」という。)においては本基本方針を踏まえた管理運用方針を定め、年金積立金の管理運用を行うものとする。

第1 積立金の運用の基本的な方向

一 運用の目的

 厚生年金保険及び国民年金における積立金の運用は、積立金が保険料拠出者年金加入者から徴収された保険料の一部であり、将来の年金給付の貴重な財源となるものであることに特に留意し、専ら被保険者の利益のために長期的かつ効率的に行うことにより将来にわたって年金事業の運営の安定に資することを目的として運用を行う。

二 基本的考え方

1 資産・負債の総合的管理を行うとともに、資産面について、分散投資を基本とする運用管理により、リスクを管理するポートフォリオによる管理を行う

2 より小さなリスクで必要なリターンの確保を図るため、特性の異なる資産による分散投資を行うとともに、長期的に維持すべき資産構成割合(以下「基本ポートフォリオ」という。)を策定し、運用を行う。

3 運用結果が年金財政に与える影響を分析し、必要に応じて本基本方針及び年金の財政再計算に反映させる。

三 運用における留意事項

1 実質的な運用収益の確保

 公的年金の給付額は物価や賃金の変動に応じて改定されるので、これに対応した実質的な運用収益の確保を目指す。

2 年金給付のための現金の確保

 年金制度の成熟化に伴い今後見込まれる年金給付費の増大を踏まえ、必要な現金収入を確保する。

3 市場への影響に対する配慮

 年金積立金の運用に当たっては、市場規模を考慮するとともに、市場の価格形成や民間の投資行動を歪めないよう配慮する。

四 責任体制の明確化

 年金積立金は保険料拠出者年金加入者から徴収した保険料の集積であり、その運用の結果は、将来の保険料負担の増減という形で保険料拠出者年金加入者に帰属する。
 したがって、年金積立金の運用に当たっては、責任体制の明確化を図り、年金積立金の運用に関わるすべての者について、受託者責任(忠実義務及び善良なる管理者としての注意義務の遵守)を徹底する。

五 情報公開の徹底

 運用の具体的な方針、運用結果、年金財政に与える影響等について、十分な情報公開を行い、年金積立金の自主運用に関して国民のより一層の理解と協力を得るよう努める。

第2 積立金の運用に係る長期的な観点からの資産の構成に関する事項

一 基本ポートフォリオの意義

 年金積立金の運用は、基本ポートフォリオに基づき行う。すなわち、年金財政や経済等その前提条件に著しい変化がない限り、資産ごとの構成比率を長期的に維持する。ただし、自主運用開始当初は、財投協力のための経過措置に係る一定の期間がある。したがって、基本ポートフォリオに基づく運用はその期間を経た後に始まることになる。

二 基本ポートフォリオ

1 基本ポートフォリオ

 資産の構成比率は長期的に維持するものであること、及びその適用は自主運用開始後一定期間を経たのちであることを前提に、基本ポートフォリオを策定する。
 基本ポートフォリオは、年金財政安定化の視点から変動リスクを一定範囲に抑える資産構成とする。また、平成11年度の年金財政再計算は、物価上昇率1.5%、賃金上昇率2.5%という前提のもと、名目の予定運用利回りを4.0%と設定している。このことを踏まえ、基本ポートフォリオは、実質的な運用収益を確保するため、名目の期待収益率と賃金上昇率等との差が一定以上確保されるような資産構成とする。さらに、給付に必要となる現金収入を効率的に確保できるよう、インカム及び流動性に配慮したものとする。
 このような視点から、基本ポートフォリオは、次のとおりとする。

目標収益率 標準偏差 予定利率
4.50% 5.43% 4.00%

国内債券 国内株式 外国債券 外国株式 短期資産
68% 12% 7% 8% 5%

2 乖離許容幅

 各資産クラス固有の収益率の変動の大きさ、基本ポートフォリオにおける組入比率の大きさ、取引コスト等を総合的に勘案し、次のとおり乖離許容幅を設定する。

(%)
  国内債券 国内株式 外国債券 外国株式
乖離許容幅 ±8 ±6 ±5 ±5
資産の変動幅 60〜68〜76 6〜12〜18 2〜7〜12 3〜8〜13

三 基本ポートフォリオの見直し

 基本ポートフォリオは、年金財政、運用環境等、現状で考え得る将来を想定して策定したものであるが、想定した運用環境が現実から乖離していないか、また基本ポートフォリオが年金制度の円滑な運営に適合しているか等の検証を行う。
 法律の定める(1)毎年1回の検証及び(2)少なくとも5年に1回行われる財政再計算の際に必ず検討することのほか、必要に応じて随時見直す。

四 移行期の資産構成割合

1 移行期の資産構成割合の考え方

 基本ポートフォリオは、年金積立金全額が自主運用されるとの前提で策定したものである。他方、年金積立金の自主運用が開始される平成13年(2001年)4月までは、年金積立金は資金運用部に預託されており、今後7年間で償還されること、7年間は財投協力(財投債の引受)が行われることになっていること、また、基金はこれまで年金福祉事業団が資金運用部からの借入れによって行ってきた運用事業の資産を承継するとともに資金運用部(平成13年度以降「財政融資資金」)への償還を行う必要があること等から、自主運用開始時(平成13年度)の資産構成割合は、基本ポートフォリオとは大幅に異なったものとなる乖離許容幅を超えて基本ポートフォリオとは異なる
 したがって、基本ポートフォリオは、平成13年度以降7年かけて財政融資資金から償還される預託金の配分を通じて実現する。
 基本ポートフォリオを実現するまでの経過的な資産構成割合(以下「移行ポートフォリオ」という。)については、効率的な運用を目指すと同時に、円滑に基本ポートフォリオを実現するということを考慮して策定する。
 移行ポートフォリオは毎年度策定し、当該年度の運用状況の評価を行う際に公表する。
 なお、基本ポートフォリオの実現時期については、預託償還期間中の毎年度の財投協力が未定であることを考慮すると償還終了時とすることは不確実な面があるが、他方、できるだけ速やかに基本ポートフォリオの実現を図る必要も大きいことから、預託金の償還が終了する平成20年度(2008年度)を目標時期とする。

2 平成13年度の移行ポートフォリオ

 平成13年度の移行ポートフォリオは別紙のとおりとする。

第3 年金資金運用基金における年金資金の管理及び運用に関し遵守すべき事項

一 リスク管理

1 年金積立金のリスク管理の基本的考え方

 リターン・リスク等の特性が異なる複数の資産クラスに分散投資することが、資産運用におけるリスク管理の基本であり、年金積立金の運用に当たっては、基本ポートフォリオを策定し、それによる運用を行う。また、財政計画上の予定積立金額、キャッシュフロー等、負債の状況を考慮し、年金給付のための収益及び流動性が長期的・安定的に確保できるよう、資産と負債を総合的に管理する。基金においてはこれを踏まえ、年金財政上の要請に対応し得るよう、リスク管理を行う。

2 基金におけるリスク管理

(1)ポートフォリオ管理によるリスク管理

 資産面においても、リスク・リターンの効率化を図ることができるよう、ポートフォリオ管理を適切に実施する。具体的には、基金は厚生労働大臣から寄託された資金を、民間運用機関への委託運用及び自家運用によって運用するとともに、資産全体、資産クラスごと及び運用受託機関ごとにリスク管理を行う。

(1)資産全体

 基金は運用受託機関からの報告に基づき、資産全体の市場リスクを確認し、リスク負担の程度について分析及び評価を行うとともに、必要な措置を採る。

(2)資産クラスごと

 市場リスク、流動性リスク、信用リスク等を管理する。
 また、金融・資本市場のグローバル化、緊密化の進展を踏まえ、ソブリン・リスク(外国政府の債務に投資するリスク)についても注視する。

(3)運用受託機関ごと

 基金は運用受託機関に対し運用ガイドライン及びベンチマークを示し、各社のリスク負担を把握するとともに、運用が基本ポートフォリオの目標達成に沿うよう管理する。

(2) キャッシュフローの確保

 基金は、年金特別会計の管理者(社会保険庁)との間で緊密な情報交換を行い、効率的な現金管理を行う。

(3) 運用受託機関の信用リスク等の管理

 基金は、運用受託機関及び資産管理機関の信用リスクを管理するほか、運用受託機関の運用体制の変更や資産管理機関の管理方法の変更等に注意する。

(4) 意思決定プロセスの明確化

 基金は、年金積立金の管理運用上重要な事項について意思決定を速やかに行い得るよう、管理運用体制を整備するとともに、意思決定プロセスの明確化を図る。

二 運用手法と運用機関の選定・評価

1 運用手法

 年金積立金は巨額であり、市場への影響に配慮する必要があること、長期的には市場は効率的であると考えられること等から、各資産クラスともパッシブ運用を中心とする。また、アクティブ運用は、市場の不均衡を利用するものであるが、そうした機会は存在するもののその規模は決して大きくないことを考慮し、確たる根拠がある場合に限るものとする。パッシブ運用とアクティブ運用の比率は、基金が各資産の特性を踏まえ定める。

2 運用受託機関の選定・評価

 基金は、運用受託機関の選定・評価基準を明確化するとともに、運用受託機関の採用、資金配分及び解約に関するルールを整備する。

三 市場への資金の投入及び回収の分散化

 基金は運用額の規模を考慮し、自ら過大なマーケット・インパクトを蒙ることがないよう努めるとともに、市場の価格形成等への影響に配慮し、特に、資金の投入及び回収に当たって、特定の時期への集中を回避するよう努める。

四 個別銘柄株の選択及び株主議決権の行使の制限

 基金は、企業経営等に与える影響を考慮し、株式運用において個別銘柄の選択は行わない。
 また、株主議決権を行使することは投資収益を目的とする株主として当然であるが、公的機関である基金が直接議決権を行使する場合、国が民間企業の経営に影響を与える等の懸念を生じさせるおそれがあるので、基金が直接行うのではなく、運用を委託した民間運用機関の判断に委ねる。
 この場合、基金は、運用受託機関への委託に際し、議決権行使の目的は長期的な株主利益の最大化を目指すものであることを示す。
 基金は、株式議決権に関する以上のような考え方を「管理運用方針」に定めるとともに、議決権の行使に関する運用受託機関の方針や行使状況について報告を求める。なお、企業に反社会的行為があった場合の運用受託機関の対応方針等についても基金は報告を求める。

五 同一企業発行銘柄への投資の制限

 分散投資による運用リスクの管理、当該有価証券の市場における価格形成が歪む可能性の排除の効率性の確保、公的資金による民間企業への影響の排除の観点から、基金は、同一企業発行有価証券の保有について以下のような制限を設ける。

(1) 運用受託機関ごとに、資産区分に従って受託資産に占める同一企業発行有価証券の割合を5%以下とし、この制限を超える場合には基金に報告すること。

 ただし、上の制限に依りがたい合理的な理由がある場合には、基金において対応を検討すること。

(2) 同一企業の株式の保有については、運用受託機関ごとに当該企業の発行済み株式総数の5%以下とすること。

六 金融派生商品の利用の制限

 金融派生商品の利用については、価格変動リスクのヘッジ、外貨建資産運用における為替変動リスクのヘッジや原資産の代替を目的とするものに限定し、投機目的の利用は行わない。

第4 年金資金運用基金における年金資金の管理及び運用の評価に関する事項

一 年金積立金の運用評価の基本的な考え方

 公的年金においては、実質的な運用利回りが維持される限り、基本的には、年金財政は影響を受けないことから、運用の財政評価は実質的な運用利回りについて行う。

二 基金の運用状況の評価

 運用結果は各資産ごとに各々のベンチマーク収益率により評価する。
 その上で、資産全体について基本ポートフォリオと各資産のベンチマーク収益率から計算される複合市場収益率により基金の運用結果を比較評価する。
 各資産のベンチマークについては、市場に近い構成であること、投資可能な有価証券により構成されていること、その指標の詳細が開示されていること等の条件を満たす適切な市場指標を用いる。

三 移行期間中の運用評価の留意点

 移行期間における年金積立金全体の運用評価は、償還時期が到来していない既往の預託分や直接引受の財投債も含め行う。
 年金資金運用基金の運用結果の評価においては、引受財投債が存在すること及び移行に伴いマーケットインパクト等が生じることに配慮する。

第5 その他積立金の運用に関する重要事項

一 義務預託の廃止に伴う経過措置

1 財投債の引受け

 年金積立金は、平成13年度から7年間にわたって財政融資資金から年金特別会計に償還される。一方、財政投融資制度改革の円滑な推進のため、年金特別会計が一定の財投債(国債)を毎年引き受けることが経過措置として法律に定められている。
 基金は、この間、厚生労働大臣から寄託される年金資金をもって、上記財投債を引き受け、管理運用を行う。

2 引き受けた財投債の管理運用

 財投債は国債として発行される債券であり、金融市場において運用を行っていくことが基本である。
 ただし、財投改革に伴い相当量の国債が市場に流入する可能性があり、その市場売買が債券市場を混乱させぬよう留意する必要がある。
 したがって、基金は、財投債の管理運用に当たって、経済全般の状況や金利水準、市場の状況等を考慮して、売買の時期や量等について慎重に判断する。

3 財投債の運用評価

 年金積立金全体の自主運用の評価においては、財投債の引受けが年金財政に与える影響が明らかとなるよう、運用の評価を行う。
 その際、既発行の国債に加え、財投改革により財投債が相当量発行されることから市場の状況を勘案すると、引き受けた財投債の一定部分は満期まで保有するという運用になることも考えられる。満期まで保有する意図をもって引き受ける財投債については、明確に区分した上で、企業会計原則にならい原価法(引受価格と券面額との間に差がある場合には、償却原価法)による運用評価と開示を行うこととし、参考情報として時価評価を行う。

二 運用の基本方針の見直し

 本基本方針については、少なくとも毎年1回検討を加え、必要があると認めるときは速やかに見直しを行う。


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