日時: | 平成13年2月27日(火) 10:00〜12:00 |
場所: | 厚生労働省省議室(中央合同庁舎第5号館9階) |
出席者: | 【研究会参集者・50音順】 毛塚勝利(専修大学法学部教授) 柴田和史(法政大学法学部教授) 内藤恵(慶應義塾大学法学部助教授) 中窪裕也(千葉大学法経学部教授) 長岡貞男(一橋大学イノベーション研究センター教授) 西村健一郎(京都大学総合人間学部教授) 守島基博(慶應義塾大学大学院経営管理研究科教授) 【厚生労働省側】坂本政策統括官(労働担当)、岡崎労政担当参事官 |
【議事概要】
◯ 冒頭、西村京都大学総合人間学部教授の研究会座長就任が了承された。
◯ 今後の研究会のスケジュールについて了承された。
その際、第2回目の議事に労使団体からの聴取項目の検討を含めること、議論の進展によっては報告書案の取りまとめの時期が異なることがあり得ること、本研究会の報告書が企業組織再編に伴う労働諸問題への対応についての示唆を与える性格を有するものとなることについて了承された。
◯ 事務局より、資料No.3「企業組織再編に係る諸手続(表)」、資料No.4「企業組織再編に係る諸手続」、資料No.5「企業組織変更の諸類型」、資料No.6「営業譲渡における労働契約の承継に関する学説」について説明が行われ、引き続き議論が行われた。主な議論の内容は以下のとおり。
〈資料No.5について〉
「事業統合・合弁設立型」と「売却益実現型」の違いは、前者は、合弁事業を行うのが目的であり、譲渡会社は譲渡後も事業目的を追求し続けるものである。一方後者は、売却自体が目的であり、譲渡後の業務については、譲渡会社は関与しないものである。
資料No.5については、企業組織の構造上の問題と目的の違いとを分けて整理した方が良いと思う。
事業統合・合弁設立型は新会社を設立して事業統合することから、新会社であるZの株式を譲渡企業であるXとYが何らかの形で持っていることになり、ZはXとYの子会社となる。会社分割においても分社型の吸収分割によって同じ事が実現できる。一方、売却益実現型の場合は売却益を得るのが目的であり、その後は資本関係はなく、経営には関与しないことになるのではないかと思う。
売却益実現型について、普通は収益部門の売却は行わない。収益部門であれば他社に売るよりは、そのまま保有していた方が、自らの利益につながるからである。
売却益実現型については、実際には不採算部門を売却することがよく行われるのであろう。
資料No.5の分類に従って、それぞれの類型の企業組織再編がどの程度行われているかの実態調査をしてもらうと議論がしやすい。
〈資料No.6について〉
営業譲渡における労働契約の承継に関する学説は、目的的に議論している。
学説については、労働者の承継について当事者間に明確な合意がない場合にどのように考えるかという違いであって、一見したほど大きな違いはないのではないかと思う。
会社と労働者との関係は労働法の世界であり、商法の議論では対象にしていないのが実情である。営業が移ったので、その営業に従事していた労働者も一緒に移るべきであるとは、商法における通説においては考えていない。
譲渡会社と譲受会社との間と、会社と労働者との間という2つの場面を明確に分けて議論を行う必要があるのではないか。会社間では営業として適切な範囲を定めれば労働契約は包括的に承継されるものとし、その上で、労働者個人の承継について本人に拒否権を与えるということも考えられるかもしれない。
営業譲渡の際の労働者の承継については、契約論的に考えれば、承継される労働者の範囲は当事者間で自由に定められるということになるであろうが、一方ではEU指令及びEU諸国の国内法令のように労働者を営業と一体のものとして取り扱っている例もある。
◯ 事務局より、資料No.7−1「平成11年度における独占禁止法第4章関係届出等の動向について」、資料No.7−2「新聞等にみる合併、営業譲渡の事例」、資料No.8「営業譲渡に関する主な裁判例の概要(昭和50年代以降)」、「営業譲渡に関する主な不当労働行為事案の概要」資料No.9「合併に関する主な裁判例の概要」について説明が行われ、引き続き議論が行われた。主な議論の内容は以下のとおり。
営業譲渡については労働者側の了解がなければスムーズに進行しない。労働者側が勝っているケースが多い。
譲渡会社が存在しているか存在していないかで分類することは有益であろうと思う、裁判所は目的的に法理を使い分けている。明確な法理はない。最近のケースでは、契約論で解釈しようとするケースも増えている。
事業を直接譲渡せず、間に別のものを介在させているケースについての労働者の承継については、学会でも議論になっているが、日本の法理では救えないものである。EUの法理ならば、営業の移転、賃貸等のケースも救済の対象となる。経営主体の変更と関係なく営業に伴う責任を構成する。
昭和20年代から昭和50年代以前の古いケースについても整理していただけると良い。
裁判例では原告側が何を求めているかによって柔軟に対応している。理論の整合性を見出すのは難しい。
転籍については労働者本人の同意を必要としているが、企業のグループ化の際にグループ内の労働条件の同一化を行っているものについては、転籍の場合でも本人の同意なしでも良いというものはある。
営業譲渡の際の労働契約の承継について検討する際には、営業の観点でアプローチするのか、契約の観点からアプローチするのか、2つの方法がある。営業の観点でアプローチすれば、営業の同一性の面を考慮して、その営業に従事していた労働者はある程度一緒に連れて行くことを原則とし、例外として本人が行きたくない場合に行かないということができる。契約の観点からのアプローチであると、当事者の合意した範囲で承継されるという議論になりやすい。
特別の合意がないときに承継されるものとみなすということはできるのか。会社側が承継する労働者の範囲を明確に定めている場合に、承継させないと会社側が明瞭に判断している労働者についてまで、どのようにして承継させるのかという点が、法的構成として一番難しい。一律に労働者を承継させることが労働者にとって本当に有利なのか否かもよく分からない。同意だけではなく、情報提供も必要であろう。
会社側は事業規模の適正化などにより、身軽にして譲渡したいと考えているであろう。商法上の要望をみても、アメリカの影響が強いので、解雇することは日常的であり、企業の様々な部門を自由に再編したいという声が強い。企業組織再編の際に必ず全ての労働者を連れていくこととすると、経営側の負担が大きくなり、組織再編を行いにくくなる。
EUでは企業組織再編に際しての労働者の承継について規制が強いが、組織再編の際に身軽にしたいという要請もあって譲渡先で解雇せざるを得ない場合には、譲渡する前でも解雇を認めるという議論もある。EUで規制が強いのは、伝統的に解雇法制の僭脱を防ぐということにある。
今後の議論のための資料として、現実問題として、労働法の考え方と経済学の考え方とは立場が違うので、すりあわせをしておかないと、片寄った結論となってしまい、実際の措置の参考に資さないこととなるおそれがある。
ヒアリングの際に営業譲渡を行う上での問題点や何を心懸けるのかについて聴取することが良い。
裁判例は問題にならないと出てこないものである。その背後には上手くいっているケースもある。上手くいったケースについて、何故上手くいったのかが分かるようにしておく必要がある。
労使からの意見聴取で何を聞くのかも大事である。次回の会議で議論する。また、裁判例はいわば臨床例であるから、一般的にどのようにしてスムーズに営業譲渡を行っているのかについても知る必要がある。
◯ 次回の研究会は、4月16日(月)13:30〜とされた。
以上
担当:政策統括官付労政担当参事官室法規第3係(内線7753)