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世代間格差の正体~若者って本当に損なの?

疑問「世代間格差が広がって若い世代は損だってみんな言うけど、実際どうなの?」ガイド「なにをもって世代間格差なのか整理しましょう!」

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いま、若い方々を中心に、公的年金に対して「自分たちの世代では、払った保険料が戻ってこない(受け取れる年金額<払った保険料)のでは?」という、損得に関する意見が聞かれます。

また、「今の受給者と現役世代では、給付される年金額に大きな差がある」という、世代間の差についての意見もあります。

これらの意見の中には誤解もありますが、そもそも公的年金制度は、現役世代が受給世代を扶養する「世代間扶養」の仕組みのもとで運営されている、社会保障制度です。本来、個人や世代の差による損得を論じる性質のものではありません。

しかし、高齢になったとき、あるいはご自分の身になにかあったときの生活を支えるものとして、重要な課題だと考える方も多いと思います。

次女うーん、損得じゃないって言われてもやっぱり気になるよ

ガイドそうですね。では問題を分けて
・そもそも公的年金のメリットはなにか(若い世代は本当に損なのか)
・具体的に世代間でどんな差があるのか
について詳しくみていきましょう

1.公的年金のメリットってなに?(若い世代は本当に損なの?)

公的年金は広義の保険であり、老齢・障害が残るようなけがや病気・死亡などに対してみんなで支えあう仕組みです。公的年金に加入して保険料を納めていくことで、生涯にわたって安心を得ることができます。
 公的年金が皆さんに提供するもっとも大きな価値は、金額ではなくこの安心です。そのため、制度を維持し、皆さんがずっと安心して暮らしていけることが、公的年金の最大の意義ともいえます。
 このように、経済的な損得ではなく、公的年金のメリットである生涯にわたる安心に、もっと目を向けてもいいのではないでしょうか。 

ガイドたとえば、皆さんは国民健康保険、協会けんぽや組合健保の保険料を払っていると思います。ですが、こうした公的医療保険は、けがをしたり、病気になったりしなければ給付は受けられません。これを損だと思いますか?

長男いつ病気になるかはわからないし、万一のことを考えると安心できるから、病気にならなかったからといって損だとは思わないよな

ガイドそうですね。公的年金も同じで、予測できない事態に備えて、『安心』を得られることが一番のメリットなんです。安心というのはお金に換算できないものです。でも、それこそが公的年金の最大の価値といえますので、金額の損得だけに着目すると、本質を見逃してしまう恐れがありますね

長女もともと、経済的に得をするための制度ではないってことよね

ガイドええ、公的年金に限らず、社会保障制度はどれも社会全体で支えあい、みんなで『安心』を得るためのものですから

長女そうはいっても、私たちの世代は、支払う保険料より受け取る年金のほうが少ないんでしょ?

ガイドあえて比較しても、そんなことはないですよ。どの世代でも、平均すると自分が保険料として納めた以上の年金を受け取ることができます

保険料負担と給付の関係

少子高齢化が進んだことで「若い世代は、払った分の保険料が年金として戻ってこない」という意見があります。これは本当でしょうか。

下の表は、現役時代にどの程度保険料を負担し、どのくらいの給付を受けることができるかという平均的な姿を、一定の条件下で出生年別に計算したものです。

この表によると、生まれた年代に関係なく、保険料の負担額に対する年金給付額の比率が1倍を超えていることがわかります。つまり、平均するとどの世代でも、保険料として負担した額以上の給付を受けられる見通しになっているのです。

  • <経済 : ケースC  人口 : 中位>

    (注)それぞれ保険料負担額及び年金給付額を賃金上昇率を用いて65歳時点の価格に換算したものをさらに物価上昇率を用いて現在価値(平成26年度時点)に割り引いて表示したもの。

  • <経済 : ケースE  人口 : 中位>

    (注)それぞれ保険料負担額及び年金給付額を賃金上昇率を用いて65歳時点の価格に換算したものをさらに物価上昇率を用いて現在価値(平成26年度時点)に割り引いて表示したもの。

  • <経済 : ケースG 人口 : 中位>

    - 機械的に給付水準調整を進めた場合 -

    (注)それぞれ保険料負担額及び年金給付額を賃金上昇率を用いて65歳時点の価格に換算したものをさらに物価上昇率を用いて現在価値(平成26年度時点)に割り引いて表示したもの。

※上表の数値は、現役時代の賃金や受給期間などについて、一定の条件下で計算した平均的な負担額や給付額です。そのため、実際の負担総額や給付総額は個人によって異なります。

現在の公的年金制度は少子高齢化に比較的弱いと言われていますが、それでも負担に対する給付はどの世代でも1倍以上になる見通しです。これはなぜでしょうか。
 ひとつは、公的年金制度には国庫負担があり、基礎年金給付費の1/2を国が負担しているためです。
 また、厚生年金では、事業主(勤務先)が厚生年金保険料の半額を負担(労使折半)しています。
これらの仕組みによって、皆さんの負担を上回る給付が受けられるようになっているのです。

上で紹介した表では、厚生年金で事業主(勤務先)が負担した分は、皆さんの負担した保険料としては含まれていません。皆さんの給料の額に直接影響しませんし、普段は意識していないと思います。もし、事業主(勤務先)が負担した分を含めて計算すると、保険料の負担額が倍になりますから、この比率は半分になります。でも、半分になったとしても1倍を切る世代はありません。

このように、現在の見通しでは、まだ年金に加入していない方も含めたどの世代でも、負担した保険料よりも年金額が少ないということにはなりません。

2.世代間格差って本当はどういうこと?

現在の受給世代と将来の受給世代(今の現役世代や若年層)を比べると、年金給付に差があるという意見があり、これが公的年金における世代間格差の問題だといわれています。

次女どうして差が出るの?

ガイド原因のひとつは少子高齢化です。いまの公的年金制度は、現役世代が納める保険料を主な財源にしているため、若い世代の人口が減っていく見通しのもとでは給付水準を維持することが難しいのです

世代間の違い (1)高齢者を扶養する仕組み

公的年金制度があってもなくても、高齢者は誰かが扶養する必要があります。

現在の受給世代が若かった頃は、公的年金も今のように多くの人が受給していたわけではなく、受給していたとしても額が少ないこともありました。そのため、多くの人が自分の収入から親を扶養していました(私的扶養)。

現在では公的年金制度が充実し、生活の支えとなることで、個人で親を扶養する負担は昔と比べれば軽くなりました。これまで自分の収入で親を養っていたのが、公的年金に移行していったのです(社会的扶養)。

公的年金制度が無くなると、従来の私的扶養に戻らなければならない

※ 私的扶養と社会的扶養については、「公的年金制度の仕組み」もご覧ください。

現在の受給者が保険料として納めた額は現在と比べて少ないものですが、実際は、それに加えて私的扶養の負担がありました。公的年金制度が成熟し、私的扶養から社会的扶養に移り変わっていく中で、こうした事情も含めて見ると、現在の受給世代の負担はそれほど軽くはなかったとも考えられます。

昭和30~40年代(今の受給世代が若いころ)は、年金保険料は少なかったが、その分自力で親を支えていた。保険料が少ないからといって負担も少ないわけではなかった

このように、世代間の負担の公平さを考えるときには、現在の高齢者が現役だった頃の私的扶養という負担も考慮する必要があります。

高齢期の年金給付額だけを比較して考えることは、適当ではないのです。

世代間の違い (2)生活の水準

現在の受給世代が若い頃は、戦後の復興期にあたり、医療や物資がまだ十分ではありませんでした。けれど、そうした環境の中で日本を支え、産業やライフラインなどをここまで発展させてきました。

今の若い世代は、生まれたときから生活インフラが整い、充実した教育や医療を受けることができています。その結果、生活水準が向上し、豊かな暮らしをしやすくなりました。

また、保険料の負担についても、額だけではない世代間の違いがあります。

戦後の経済が混乱する中、公的年金は当時の人々の負担能力を考慮し、それに見合う低い保険料としていました。その後、経済が安定するにつれて保険料を段階的に引き上げてきたのですが、今ほどには平均的な生活水準が高くなく、保険料が低くても、生活費に占める割合で考えるとかなりの負担であったと思われます。

一方、今の現役世代は、保険料の水準は高くなりましたが、同時に生活水準も向上し、実質的な負担能力は向上しているといえます。

保険料がどの程度の負担なのか、という実感にも、世代で違いがあるのです。

次女あたしたち、好きな学校に行けていつでもお医者さんにかかれるもんね

ガイドええ、時代によっていろいろと社会情勢も違いますし、世代で違いがあるのは年金だけではないですね

世代間の違い (3)高齢者扶養にかかる負担の差

もし公的年金がなかったら、私たちは両親や祖父母を自分たちで扶養することになります。

兄弟姉妹が多くいた時代は、みんなで手分けをして両親や祖父母を自力で扶養することができました。けれど、少子高齢化が進んだ現在、高齢者の私的扶養には、昔以上の大きな負担が必要になると考えられます。

長女私的扶養になると、お父さんとお母さんの老後は私たちが支えるのよね。あと、田舎に住んでるおばあちゃんも一緒に暮らしたほうが安心だわ

長男でも、結婚して子供ができたら、自分の家庭を優先するだろうなぁ

次女あたしはまだ働いてないから、今すぐはお金を出せないし……

長女私一人で養うにも限度があるわよ。それに、うちはまだ3人いるから少しずつ協力できるかもしれないけど、1人っ子とかはほんとに大変じゃない?

ガイドそうですね。高齢者をどのように支えていくかを考えるときは、公的年金という制度があるかどうかは関係なく、社会的な状況や各家庭の私的な事情が影響します。こういう事情も時代が違えば大きく異なっていて、それが結果的に世代間の差として表れてくるんです。よく言われる世代間の差は、そうした背景の違いによるものが大きいんですよ

長女確かに公的年金って扶養の負担をみんなで分け合うから、お年寄りだけじゃなくて若い人も助かる制度よね。だとすると、公的年金で世代間格差を考えるのも単純な話じゃないわね……

3.公的年金の状況をよくしていくために

次女これから公的年金をよくしていくために、できることってないの?

ガイドもちろん、ありますよ

公的年金の負担や給付水準を左右するのは、少子高齢化だけではありません。

公的年金の給付は、実質的な価値を保障するため経済状況に連動しています。つまり、日本経済の規模自体が拡大すれば、年金給付に使える金額も大きくなるのです。

ガイド同じ1切れでも、MサイズのパイよりLサイズのパイの方がたくさん食べられますよね!

日本経済(パイ)が大きくなれば、公的年金の額(ピース)も大きくなる

現状の少子高齢化がこのまま続いていくかどうかはまだ分かりませんが、景気が上昇し、日本経済が活性化することによって、給付水準が改善していくことも十分に考えられます。

みんなで、子どもを産み育てやすい社会にしながら、同時に日本経済をより良くしていくことが大切ではないでしょうか。そのためにも、皆さんが安心して生活できる仕組みである公的年金制度を長期にわたって持続していくことが重要になります。

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