こころの病気を知る

PTSD

PTSD(Post Traumatic Stress Disorder :心的外傷後ストレス障害)は、死の危険に直面した後、その体験の記憶が自分の意志とは関係なくフラッシュバックのように思い出されたり、悪夢に見たりすることが続き、不安や緊張が高まったり、辛さのあまり現実感がなくなったりする状態です。PTSDは決して珍しいものではなく、精神医療においては「ありふれた」病気のひとつであると言えます。
生死に関わる体験をすると、多くの人には不安、不眠、動悸などの症状が生じますが、多くの場合は一過性です。またフラッシュバックのような症状が生じたとしても、数ヶ月のうちに落ち着く人が少なくありません。しかし時間が経っても楽にならなかったり、かえってますます辛くなることもあります。また、数ヶ月から数年間経ってから、PTSD症状がはっきりとしてくる場合もあります。つらい症状が続いているときは、専門機関に相談しましょう。


PTSDは、とても怖い思いをした記憶が整理されず、そのことが何度も思い出されて、当時に戻ったように感じ続ける病気です

1ヶ月以上たってからも、その体験の記憶が自分の意志とは無関係に思い出され、その時と同じ感情、身体の感覚を感じたり、実際に当時の光景が見えたり、加害者がすぐ近くにいるように感じるというものです。直面というのは、自分自身の体験だけではなく、他人が死亡したり重症を負うのを目撃することを含みます。近親者や親しい友人が、突然の暴力的な出来事によって死亡したり重症を負ったことを知らされることも含まれます。

PTSDとは、命の危険を感じたり、自分ではどうしようもない圧倒的な強い力に直面したりといった、強い恐怖感を伴う体験をした人に起きやすい症状です。あまりにも強い恐怖やショックを感じたために、その体験を落ち着いて整理することができません。そのために、非常に良く覚えている部分と、覚えていない部分が混じり合ったり、体験したこと、感じたこと、考えたことの関係が混乱したり、時間的な順序や、何が原因で結果なのかといったつながりも分からなくなります。これを記憶の断片化と呼びます。そのような記憶は、「いつ、どこで、どのように、なぜ起こったのか、その結果はどうなったのか」という枠組みができていませんので、大変に不安定な状態となっています。そのために、ふとしたことで、あるいは突然に記憶が意識の中に侵入し、フラッシュバックや悪夢を生じます。トラウマ体験は断片化していますので、その一部を思い出すと、それが色々な断片的なイメージと結びついて、何もかもが怖くなってしまったりします。あたかも常に被害が生じているように感じられますので、不安や緊張が消えることがありません。時にはこうした辛さから心を守るために、現実感がなくなり、ぼんやりとしたり、記憶の一部が飛んでしまうこともあります。
また落ち着いて記憶をふりかえって考えることができませんので、必要以上に自分を責めたり、自信を失ったり、周りの人に不信感を向けたりもします。極端な場合には、世の中に安全な場所などないとか、自分には何も良いところがないと思い詰めたりもします。過去の体験についての恐怖が強くなりすぎると、過去の被害を思い出すことで、もう一度現実に被害を受けているかのように感じられます。

 

リスク

生死に関わる体験をしたからといって、全員がPTSDになるわけではありません。では、PTSDになる人はこころの弱い人なのでしょうか?実際にはそんなことはなく、これまでは何の問題も無く生活していた人がPTSDに悩まされている例もたくさんあります。どんな人がPTSDになりやすいのかについてはいくつかのことが分かっています。まず、どのような出来事を体験したのかが重要です。一口に事故、災害、犯罪被害といっても、実際に何を体験したのかは人によってまちまちです。本当に死の危険を意識するほどのことがあったのかどうか、ということです。米国の研究ですが、被災者のうちでPTSDを発症する人は数パーセントですが、これは同じ被害者でも死の危険に直面した人は必ずしも多くは無いことによります。これに対して、レイプ、戦闘体験の場合は過半数がPTSDを発症します。これは、こうした体験は常に重度の恐怖への直面を伴っているためだと思われます。次に、被害の後の社会的サポートが足りなかったり、生活のストレスが大きかった人にはPTSDが発症しやすいことが知られています。そして恐怖反応の引き金となりやすいアドレナリンの分泌が大きい人、つまりスポーツマンタイプの人や、危機に直面して人を救出する人々もまた、PTSDのリスクが高いことが分かっています。カフェインによって不安が増強することも少なくありません。被害のあとで、元気をだすためにカフェインが増えている人は注意が必要です。最後に、以前にトラウマ体験や児童期の虐待などの逆境体験が複数ある人にはPTSDのリスクが高くなります。

その症状がPTSDだと気がつかないこともあります

生命の危機に直面するほどの体験をしていても、今悩まされている症状とその体験を結びつけることができないこともあります。
原因がわからないまま、こころの不安定な症状が続くと、原因がわかっている時以上に本人も周りの人もつらく、疲れてしまいます。それが過去の体験に関係していると気づくことができれば、それは回復への第一歩となります。

「PTSDかもしれない」と思ったら、どこに行けばいい?

その体験が犯罪被害の場合は、警察には犯罪被害についての相談窓口がありますので、カウンセリングを受けたいと警察でおっしゃってください。または行政の相談窓口でも結構です。犯罪被害者支援センター等に相談するのも良いでしょう。犯罪被害者等基本法に基づく医療費の給付金制度もあります。
地震などの大きな災害の時は、救護チームの中に精神科医や公認心理師が派遣されることもありますので、救援スタッフに相談できないかを尋ねることもひとつの手段です。 その他、地元の精神保健福祉センターや、精神科や心療内科など、PTSDに知識のある医師や公認心理師のいる施設もあります。 とはいっても、性的被害や家庭内の虐待などは人に相談しにくく、とくに女性や子供など立場の弱い人の中には誰にも相談できず一人で悩み、がまんしている人が少なくありません。
今あなたがつらい思いをしているのなら、一人でがまんせず、精神科を受診するか、保健所などの相談窓口を通じて、信頼できる精神科やカウンセラーを紹介して貰うのも良いでしょう。思い切って相談窓口のある施設に連絡をとってみてください。

 

PTSDのサイン・症状

PTSDでよく見られる症状には次のようなものがあります。

突然、つらい記憶がよみがえる

事件や事故のことなどすっかり忘れたつもりでいても、ふとした時に、つらい体験の時に味わった感情がよみがえります。
それは恐怖だけでなく、苦痛、怒り、哀しみ、無力感などいろいろな感情が混じった記憶です。
周りからみると、何もないのに突然感情が不安定になり、取り乱したり涙ぐんだり怒ったりするので、理解に苦しむことになります。
その事件や事故を、もう一度体験しているように生々しく思い出されることもあります。また、同じ悪夢を繰り返し見ることもPTSDによくある症状です。

常に神経が張りつめている

つらい記憶がよみがえっていない時でも緊張が続き、常にイライラしている、ささいなことで驚きやすい、警戒心が極端に強くなる、ぐっすり眠れない、などの過敏な状態が続くようになります。

記憶を呼び起こす状況や場面を避ける

何気ない日常の中につらい記憶を思い出すきっかけがたくさん潜んでいます。多くのPTSD患者さんは何度も記憶を呼び起こすうちに、そうしたきっかけを避けるようになります。
どんなことがきっかけになるかは本人でなくてはわからず、本人も意識できないままでいることもあります。
意識できない場合でも、自分で気づかないうちにそうした状況をさけるようになるのです。 その結果、行動が制限されて通常の日常生活・社会生活が送れなくなることも少なくありません。

感覚が麻痺する

つらい記憶に苦しむことを避けるために、感情や感覚が麻痺することもあります。そのために家族や友人に対してこれまで持っていたような愛情や優しさなどを感じられなくなったり、人に心を許すこともできなくなりがちです。
これは、つらい経験の記憶からこころを守るための自然の反応なのです。

いつまでも症状が続く

こうした症状は、つらく怖い経験の直後であればほとんどの人に現れるものです。ですので、事件や事故から1か月くらいの間は様子をみて、自然の回復を待ってみます。
数ヶ月たっても同じような症状が続いたり、悪化する傾向がみられたら、PTSDの可能性を考えて専門家に相談してみてください。

 

PTSDの治療

こころの傷の回復と、つらい症状の軽減の2本柱で考えます

自然の回復力を引き出すことと、苦しい症状を軽減することがPTSD治療の基本となります。
PTSD治療の上で最も効果があるのは、トラウマを扱う認知行動療法です。代表的なものに持続エクスポージャー療法(PE)、認知処理療法(CPT)、眼球運動脱感作療法(EMDR)があります。
こうした特殊な治療を受けることができなくても、信頼できる先生によく話しを聞いて理解して貰えたと感じるだけでも、ある程度は良くなる場合があります。トラウマというデリケートな問題を扱う場合、特定の治療法より、治療者の能力や、相性に左右される部分もあります。特殊な技法を求めるよりもまず、自分の話をよく聞いてくれる、信頼のできる医師や公認心理師をみつけることが先決です。
またPTSDにはSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)等の抗うつ薬も有効です。その他、うつ病や不安症の症状を併発しているときには、それらの治療によってかなり楽になることがあります。

 

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