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はじめに

 平成13年10月、米国において炭疽菌を混入した郵便物によるテロ事件が発生し、死亡者を含む健康被害を生じた。世界保健機関(WHO)では、生物テロに使用される可能性が高い病原体として29の病原体を挙げているが、なかでも、天然痘は、特に危険性が高く、優先して対策を立てる必要があるものの一つとされている。
 我が国では、1976年に天然痘のワクチン接種が廃止されていることから、天然痘に対する免疫力を全く持たない者は若年者を中心に約3750万人にものぼる。天然痘は根本的な治療法が存在せず、免疫を有しない者が感染し発症した場合の死亡率は30%にも達すると言われており、また、ヒトからヒトへ飛沫感染することから、適切なまん延防止のための措置がとられない場合には、二次感染による被害拡大も懸念されている。
 厚生労働省では、平成13年12月に、厚生科学審議会感染症分科会感染症部会のもとに大規模感染症事前対応専門委員会を設置し、平成14年3月に生物テロへの対応方法等を報告書にまとめた。それによると、生物テロ発生時には、政令制定等の所要の手続きを行い、感染症法、予防接種法といった感染症対策関連の法律に基づき対応することを基本的な考え方としている。したがって、天然痘テロ対策においては、国はもちろんのこと、自治体の感染症担当者にも、まん延防止のための適切な対応が求められることになる。この指針は、米国疾病管理予防センター(CDC)ガイドライン、英国保健社会保障省ガイドライン、「痘そう防疫の手引き−痘そう発生時における保健所活動−(東京都衛生局公衆衛生部防疫課編)」等の資料を参考に、天然痘患者発生時の対応方法を暫定的に取りまとめたものである。今後、関係者とともに、社会情勢の変化等に伴い適宜見直しを行っていくべきものであるが、本指針が天然痘テロへの体制整備を進めていくための一助となれば幸甚である。


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