定例事務次官記者会見概要

(H18.08.31(木)14:00〜14:20  省内会見場)
【広報室】

《次官会議等について》

(次官)
 本日の事務次官等会議でありますけれども、厚生労働省関係につきましては、事後報告でありますが、8月29日に公表しました有効求人倍率について、「7月の有効求人倍率が、季節調整値で1.09倍、前月の1.08倍を0.01ポイント上回ったということで、雇用失業情勢は厳しさは残っておりますけれども、改善が進んでいます。」という話をいたしました。有効求人倍率1.09倍というのは、平成4年6月が1.10倍だったわけで、それ以来14年1か月ぶりの高水準ということですし、総務省から報告のありました失業率は4.1%ということで、これも平成10年以来8年ぶりくらいの水準になっているというところだろうと思います。新規求人倍率が5月をピークに2か月続けて下がっていますし、失業率も2月以来、4.1%を軸に、4.2%、4.0%というあたりを行ったり来たりということであります。雇用情勢が良くなってくると、今まで仕事を諦めていた方々が、仕事を探し始めるというようなこともありますので、指標的には、有効求人倍率についても、失業率についても、一進一退という状態がしばらく続くのかなという印象でありますが、ここにきて、原油の動きですとか、あるいはアメリカの経済がどうなるのかとか、そのあたりが今後の先行きにどう影響してくるのかということではないかと思いますが、雇用情勢が改善基調にある時に、若年者の問題ですとか、非正規雇用の問題ですとか、上向いている時でないと、なかなか思い切って取り組むことが難しい課題がありますので、このあたりについて、今後さらに積極的に取り組んでいくということが課題なのかなという気がいたします。以上ですけれども、何かご質問があれば。


《質疑》

(記者)
 やや抽象的な質問でありますけれども、次官は今日を最後にご勇退されるということなんですけれども、この間、特に小泉首相になられてからのここ数年、構造改革、規制改革、様々ありまして、特に、次官のご専門の労働の分野なんかでは、雇用市場もかなり様変わりして、今結果として、非正規雇用が広がっているというようなことも言われているんですけれども、一方で、5%を超える失業率という時も経験し、今それがようやく、こういう状況に落ち着いてきて、この間の構造改革路線の中での、いろいろな政策の舵取りをされてきたご経験を振り返ってみてですね、今の雇用情勢も含めて今どのような所感をお持ちか伺えればと思うのですが。

(次官)
 一つは、グローバル化が急速に進んだという中で、国内要因だけで、企業経営ができなくなっているということが一つあると思います。特に、中国を始めとする東アジアの諸国、あるいはBRICsの国々が、非常に経済力、競争力を高めているということがあると思います。それから、もう一つは、バブルが崩壊して、企業が大変な額の不良債権を抱え込んで、それを処理しなければいけない。こういう状況の中、小泉内閣で、構造改革をすることによって、日本の経済、あるいは社会の活力を回復しようと、こういうことで取り組まれたのだろうというふうに思います。そういった中で、アジア諸国との競争上で、様々なコスト負担の軽減といったものを図らないと、とても国内企業が競争できないということで、海外に進出した企業もありますし、国内では、なるべく効率的な経営をしようと、それから、もう一つは、長期的な視野に立った経営というのがなかなか難しくて、短期的にみて収益の上がる経営を各企業が目指すようになってしまった。こういったことの中で、雇用需要がどんどん減退しているという状況になって、そういった中で、仕事を求める人達にどういった形で、職業に就く機会を確保していくのかというのが、労働行政としては大きな課題だったのではないかというふうに思います。そうなると、一つは、できるだけ雇用を維持してもらうというのが伝統的な手法で、これは、いったん労働者を解雇すると、雇用保険の財源というのは非常にかかるわけです。一時は、雇用保険の積立金が5千億ぎりぎりで、手を打たないと雇用保険が破綻しかねないという状況まで行ったわけですけれども、それで、なるべく雇用を維持してもらうというのが一つの方向だったのだろうと思いますけれども、とても雇用を維持するだけの企業の体力がなかった。それから、そういった長期的な観点からの経営というのが、株主との間あるいは取引先の関係などのいろいろな関係でできない企業も増えてしまった。こうなると、限られた雇用機会をいかに無駄なく生かして就職を実現するかということになるわけで、そうなると、労働市場の改革をして、人を求めている企業がなるべくスピーディーに効率的に的確に人材を確保できるようにしていくというシステムを作っていくということが一つ求められたのではないかと思っていまして、そういった意味で、労働者派遣事業の整備をしたということだろうと思っています。これは、もともと労働者派遣事業というのは、専門的な分野の人材を即戦力として必要なときに確保する。それから、能力を持っている人たちですから、自分の好きな時間、好きな仕事の場で働きたいという希望を実現できるということで、需給両面のニーズに合致していたわけですけれども、そういった派遣制度の思想を大きく転換して、臨時的・一時的な労働力の需給を迅速にかつ円滑に調整するシステムに切り替えたということだろうと思っています。そういう意味で、製造業も含めて、労働者派遣事業の対象にしたということが一つあるのだろうと思いますし、併せて、民間の人材紹介会社が創意工夫をもって職業紹介をできるようにという観点からの職業安定法の見直しも行うということで、求人があるにもかかわらずそれが充足されずに、うまく充足されれば失業せずに済む人たちがなるべく失業状態にならなくて済むように、ということで持ってきたわけですけれども、それが、派遣という形態以外に業務請負という形態が同時進行で非常に広がってきているというのが今の状況だろうと思います。製造業の派遣が派遣法上認められないという状況の中で業務請負事業が製造業に普及していくということになると、なかなか打つ手も難しかったわけですけれども、今や派遣法で製造業の派遣が適正に行えるわけですから、違法な請負事業は正しく派遣に切り替えてもらうということが可能になったという意味で、派遣法の改正というのは、そういった意味でも意味があったのではないかというふうには思っています。
 もう一つは、労働条件面でも個々の企業、あるいは産業を引っ張っていく能力のある人たち、あるいは意欲のある人達が存分にその意欲、能力を発揮できるような労働時間制度にしていくということは意味があったのだろうと思いますし、それから労働契約期間の見直しもしたわけですけれども、そういった意味で、日本の産業界なり、企業を引っ張っていく意欲、能力のある人たちが存分に能力を発揮できるようにしようという形でこれまで取り組んできた。景気の回復もあり、構造改革も成功したということもあり、ということで雇用情勢が良くなっているわけですが、これまで取り組んできたいろいろな労働政策も雇用の改善に相当程度あずかっていったのではないかと思っています。一面で、企業が安易に非正規雇用に頼ろうというふうな傾向も強まっているのも事実ですし、長期的な視点に立てば、働いている人の企業に対するロイヤリティーだとか、あるいはそれぞれの職場で創意工夫をしてみようとすることなどを考えると、長期雇用、正規雇用のメリットというのも大きいので、景気が上向き、雇用が改善している中で、その辺りについて企業の意識をもう一度喚起するということも重要だと思います。もう一つ、最近企業の社会的責任ということが言われていますけれども、企業というのは一体何なんだということについての社会的なコンセンサスというのをきちんともう一度再構成するということも重要ではないかというふうに思っています。株主のためにという、株主本位的な企業観というのが一時かなり強くなっていましたけれども、企業も社会的な存在ですし、企業というのは人を雇っているという責任が当然あるのではないかと思うので、そのあたりについて産業界・労働界、それから行政でどういった方向が働く人たちにとって幸せなのか、望ましいのかという辺りについての新たなコンセンサス作りというのが、これからの課題になるのかなという気もいたします。

(記者)
 昨日判決の言い渡しがありました薬害肝炎に関しての訴訟の件なのですけれども、薬害肝炎を巡っては、大阪地裁判決に続く国の敗訴という形で、早ければ年内にも東京地裁で同一訴訟の判決言い渡しが予想されていますけれども、昨日の福岡地裁判決についての受け止め方、それから、この東京地裁判決に対する今後の対応方針、その2点についてお尋ねしたいのですが。

(次官)
 今お話のように、昨日、福岡地方裁判所でフィブリノゲン製剤等によってC型肝炎ウィルスに感染したということで、国、それから企業の損害賠償責任が争われた裁判についての判決が言い渡されて、国側が一部敗訴ということであったわけであります。現時点で、判決の内容の詳細をまだ分析するに至っていないわけですけれども、我々としては、当時の医学の水準、それから、治療の薬剤の状況、そういったものから見ると、大阪地裁でも同様なのでありますけれども、多くの妊産婦の方を出血死から救ったということは、これは事実だろうと思います。薬の場合は、そういう作用と副作用をどう考えるのかということで、その時々の科学的な知見、医学あるいは薬学の進歩の水準、そういった中で、薬害の副作用を最小限に抑えて薬効の高いものをどう使うかという、これは永遠の課題のようなものだと思いますけれども、そういった中でぎりぎりの行政を当時も行って、判断を行っていたということではないかと思いますので、我々としては、判決内容の詳細をまだ十分分析するに至っていませんけれども、国の主張が認められない部分があったわけで、厳しい判決だし、残念なことだというふうに思っています。今後の対応につきましては、判決内容を十分検討をいたしまして、関係省庁と協議をした上で決定するということで、現段階では考えているということであります。厚生労働省としては、この訴訟等の対応と併せてC型肝炎等の緊急総合対策を実施いたしまして、感染経路の如何を問わずに、感染ウィルス検査の実施ですとか、あるいは治療体制の整備ですとかに取り組んでいるところでありまして、引き続きC型肝炎対策の充実に努めていきたいというふうに考えているところであります。


(了)

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