厚生労働省改革元年:新入職員に与う
2008年4月1日
厚生労働大臣 舛添要一
本日、厚生労働省職員となられた皆さん、入省、おめでとうございます。諸君のうち、多くは、学業を終えて、社会人としての第一歩を踏む日が今日であります。様々な希望や抱負を胸に、この時を迎えられたことと思います。まずは、初心忘れるべからず、皆さんがこの道を選ぶに当たって、心に決めたことを、しっかりと守っていくことが肝要であります。
今日の厚生労働省をめぐる状況は、まことに厳しいものであります。年金記録問題は、過去何十年にもわたる社会保険庁の使命感と責任感の欠如がもたらしたものであり、私は、目下、全力をあげてこの問題の解決に努力しているところです。この問題は、国家や政府に対する国民の信頼を失墜させた重大な問題であり、私の責務は、この失われた信頼を回復することにあります。また、薬害肝炎訴訟問題は、何とか和解にまでたどり着きましたが、まだ残された問題は山積しています。さらに、医師不足や緊急医療体制の不備、フリーターや派遣労働などをめぐる労働問題、新型インフルエンザへの備えと、国民生活に直結する課題を多くかかえています。
国民の期待が高いだけに、私たちの仕事がその期待に十分応えられないとき、大きな失望と不満が残ることになります。今日、まさに国民からの厳しい批判にさらされているのが、厚生労働省の置かれている現状です。だからこそ、その現状を抜本的に改める必要があるのです。わが省に対する国民の信頼を回復するために、私は、今年を厚生労働省改革元年と位置づけ、全職員が総力をあげて、二度と薬害や年金記録問題を起こさないような体質に改めることを決意しました。諸君もまた、改革への挑戦に参加してくれるように心から望みます。後世になって、2008年が厚生労働省が甦った年だと記憶されるように、そしてその栄光の年に入省したことを誇りに思えるように、皆で力を合わせて平成の大改革を実現しようではありませんか。
新しい人生の出発点に当たり、人生の先輩として、諸君の門出を祝って、三つのことを申し上げたい。
第一は、現場を重視せよということです。医療であれ、介護であれ、労働環境であれ、机上の空論では、国民の役に立つ仕事はできません。できるかぎり現場に足を運び、人々の声に耳を傾けることが肝要です。そのような体験を通じて民を愛することが、国民本位の政策を立案することにつながります。
第二は、読書に励めということです。およそ人の上に立とうとする者は、古今東西の万巻の書に通じてなければなりません。一人の人間の体験が限られたものである以上、読書によって時間と空間の制約を超える必要があります。凡庸な人間で終わりたくなかったら、是非ともこのことは実行して下さい。
第三は、厚生労働省の栄光と威厳は、一人一人の職員にかかっていることを忘れるなということです。年金記録問題や薬害問題などの過去の失敗を省みれば、そのことはよく理解できるでしょう。日本が、19世紀後半の帝国主義の時代に、列強の植民地となることなく独立を保ち、近代化に成功したのは、国家百年の大計を論じることのできる優れた政治家や官僚たちがいたからです。これからの諸君一人一人の仕事ぶりに、まさに日本国家の浮沈がかかっているのであります。
厚生労働大臣として、新入職員に以上のような注文をつけておきますが、このような厳しい時代に、わが省を選んでくれた諸君の見識を高く買いたいと思います。国民の幸福に直結する厚生労働行政こそ、官僚冥利に尽きるものであり、私はその先頭に立てることを誇りに思います。
最後に、皆さんに一つの言葉を贈ります。それは、かつての日本人が子弟の教育に使った朱子の『小学』の一節です。「丹書に曰く、敬、怠に勝つ者は吉なり。怠、敬に勝つ者は滅ぶ。義、欲に勝つ者は従い、欲、義に勝つ者は凶なり。」敬、つまり「現実に甘んじず、高邁で高貴なものを追求して努力する心」が怠惰に勝ち、また正義の心が欲望を克服するときは、物事は順調に進むが、逆のときには滅亡の道を歩むというのが、この言葉の意味するところです。厚生労働省、そしてわが日本の未来を担う者は、この言葉の重みをひとときも忘れてはなりません。国民の幸せのために、ともに研鑽を重ねましょう。