労働災害防止計画(案)

厚 生 労 働 省

労働災害防止計画(案)


1 計画のねらい・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2 労働災害を巡る動向・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(1)産業・就業構造、産業現場等の変化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(2)現状分析及び課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ア 労働災害の発生状況等・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

イ 労働者の健康を巡る状況等・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ウ 安全衛生全般に関わる状況 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

3 計画における安全衛生対策に係る基本的な考え方・・・・・・・・・・・・・・

(1)労働災害全体を減少させるためのリスク低減対策の推進・・・・・・・・

(2)重篤な労働災害を防止するための対策の充実・・・・・・・・・・・・・・・・・

(3)目標の設定、計画的な実施等による対策の的確な推進・・・・・・・・・・

4 計画の期間・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

5 計画の目標・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(1)目標・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(2)重点対策及びその目標・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

6 計画における労働災害防止対策・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(1)自主的な安全衛生活動の促進・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ア 「危険性又は有害性等の調査等」の実施の促進・・・・・・・・・・・・

イ 労働安全衛生マネジメントシステムの活用等・・・・・・・・・・・・・・・

ウ 自主的な安全衛生活動促進のための環境整備等・・・・・・・・・・

エ 情報の共有化の推進等・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(2)特定災害対策・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ア 機械災害防止対策・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

イ 墜落・転落災害防止対策・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ウ 交通労働災害防止対策・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

エ 爆発・火災災害防止対策・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(3)労働災害多発業種対策・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ア 製造業対策・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

イ 建設業対策・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ウ 陸上貨物運送事業対策・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

エ 林業対策・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

オ 第三次産業対策・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

カ その他の業種対策・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(4)職業性疾病(石綿及び化学物資関係を除く)等の予防対策・・・・・・・

ア 粉じん障害防止対策・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

イ 腰痛予防対策・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ウ 振動・騒音障害防止対策・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

エ 熱中症予防対策及び酸素欠乏症等防止対策・・・・・・・・・・・・・・

オ その他の職業性疾病等の予防対策・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(5)石綿障害予防対策・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ア 全面禁止の徹底等・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

イ 解体作業等におけるばく露防止対策の徹底・・・・・・・・・・・・・・・

ウ 離職者の健康管理対策の推進・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(6)化学物質対策・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ア 化学物質による労働災害の防止対策・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

イ 化学物質管理対策・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(7)メンタルヘルス対策及び過重労働による健康障害防止対策・・・・・・

ア メンタルヘルス対策・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

イ 過重労働による健康障害防止対策・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(8)産業保健活動、健康づくり及び快適職場づくり対策・・・・・・・・・・・・・

ア 産業保健活動の活性化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

イ 健康づくり対策・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ウ 快適職場づくり対策・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(9)安全衛生管理対策の強化について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ア 安全衛生教育の効果的な推進等・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

イ 中小規模事業場対策の推進・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ウ 就業形態の多様化等に対する対策・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

エ 高年齢労働者対策等の推進・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

オ グローバル化への対応・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(10)効率的・効果的な施策の推進について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ア 労働安全衛生研究の促進・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

イ 地域における労働災害多発業種等対策の推進・・・・・・・・・・・・・

ウ 関係機関との連携等・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

エ 各対策の効果の分析・評価等・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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労働災害防止計画(案)

1 計画のねらい

労働者の安全と健康はかけがえのないものであり、労働者本人にとってはもちろんのこと、家族、事業場、産業界、そして国全体にとって最大限尊重すべきものである。事業場の生産活動を優先するあまり、労働者の安全と健康の確保がおろそかになってはならないことであり、事業者をはじめとする関係者は、常に労働者の安全と健康の確保を優先しなければならない。労働者自身もこのことを十分に理解し、安全衛生に関わる活動に積極的に取り組み、協力しなければならない。

労働者の安全と健康の確保を目的とする労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)においては、事業者が遵守すべき最低基準を義務として示すだけでなく、積極的に労働者の安全と健康を確保する措置を講ずることを求め、また、労働者に対しても必要な事項の遵守や事業者の安全衛生に関する措置への協力に努めなければならないとしている。

労働災害防止を図るためには、国、事業者、労働者をはじめとする関係者が一体となり、対策を総合的かつ計画的に実施する必要がある。このため、国は、労働災害防止についての総合的な計画を長期的な展望に立って策定し、自ら今後とるべき施策を明らかにするとともに、労働災害防止の実施主体である事業者等において取り組むことが求められる事項を示し、その自主的活動を促進することとしているところであり、今般、平成20年度を初年度とし、平成24年度を目標年度とする労働災害防止計画を策定するものである。

事業者、労働者をはじめ、関係者においては、本計画の趣旨、対策の内容等を理解し、自ら積極的に安全衛生水準の向上に努めることが求められる。

2 労働災害を巡る動向

(1)産業・就業構造、産業現場等の変化

近年の労働災害の発生状況については、産業構造、就業構造、産業現場の変化等が大きな影響を及ぼしている。

産業構造については、1990年代後半からの景気の低迷に伴う製造業の生産活動の減退、建設事業の縮小等の一方で、国民生活の多様化等により、サービス業等の第三次産業の拡大が進んでいる。

就業構造においては、産業構造の変化に伴い、業種ごとの労働者の増減が生じており、非正規雇用の拡大による就業形態の多様化、労働時間分布の長短二極化等が認められる。また、定年年齢の引上げ等により、高年齢労働者が増加し、その就業率は高まっている。さらに、女性の雇用者数は増加傾向にあり、少子化への対応の観点からも、母性健康管理が重要となっている。

一方、産業現場においては、生産工程の多様化、複雑化が進展するとともに、新たな機械設備・化学物質が導入される等、事業場内の危険・有害性が多様化している。

化学物質については、国内外での有害性に係る知見を踏まえて、有害性の評価等を行い、遅滞なく必要な規制を進めていく必要があるとともに、規制等の国際的な動向への対応も必要となっている。さらに、人体に有害なおそれのある化学物質については、近年、有害性が完全に証明されていない時点でも予防的に必要な措置を取るという考え方が国際的にも重視されてきている。

このほか、これまで現場の安全衛生を支えてきた団塊の世代の大量退職、非正規雇用労働者の増加等により安全衛生のノウハウがうまく伝承されないことが懸念されており、加えて、経験年数の短い労働者が増加していること等にも適切な対応が必要である。

さらに、国際的には、国際労働機関(ILO)において、労働者の安全と健康の確保は、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の実現に向けた課題の一つとして位置付けられている。

(2)現状分析及び課題

ア 労働災害の発生状況等

平成15年度を初年度とし、平成19年度を目標年度とする労働災害防止計画(以下「前計画」という。)においては、労働災害による死亡者数について年間1,500人を大きく下回ること、労働災害総件数については計画期間中において20%以上減少させることを目標としていたが、死亡者数は、平成18年に初めて1,500人を下回ったことに続いて、平成19年も引き続き減少傾向にあることから、1,500人を大きく下回り、前計画の目標を達成することが見込まれる。

一方、労働災害による休業4日以上の死傷者数(以下「死傷者数」という。)は、昭和53年以来27年間にわたり逐年減少し、その間3分の1となったが、平成18年には28年ぶりに増加し、前計画期間中の減少率は約10%にとどまることが見込まれるなど、目標の達成は困難な状況にあり、今後更なる減少を図るためには予断を許さない状況にある。

(ア)業種別

主な業種における労働災害の発生状況等は以下のとおりである。

[1] 製造業

製造業における労働災害は、減少傾向を維持しているものの、全産業の死亡災害のうち、製造業の割合は5分の1、休業4日以上の死傷災害(以下「死傷災害」という。)では4分の1となっている。

起因物別に見ると、一般動力機械、金属加工用機械等の機械による労働災害(以下「機械災害」という。)が4割近くを占め、その中では指の切断等の障害が残る重篤な労働災害も多い。

また、転倒災害及び墜落・転落災害も多く発生しており、合わせて死傷災害の4分の1を占めている。

このほか、製造業においては派遣労働者や請負人に雇用される労働者(以下「請負労働者」という。)が増加しており、安全衛生の知識に乏しい当該労働者に係る労働災害の増加が懸念されている。また、団塊世代の大量退職等による安全衛生水準の低下等が懸念される。

[2] 建設業

建設業における労働災害は、減少傾向を維持し、特に死亡災害においてその減少が顕著であるが、依然として全産業の死亡災害のうち、建設業の割合は3分の1以上、死傷災害では5分の1以上となっている。

事故の型別に見ると、墜落・転落災害が、建設業の死亡災害の4割以上、死傷災害の3分の1以上を占めている。また、建設機械等による災害、土砂崩壊災害も減少傾向にあるものの依然として多発している。

このほか、低価格で受注された建設工事において、その一部で労働者の安全衛生の確保に影響を与えることが懸念される。

[3] 陸上貨物運送事業

陸上貨物運送事業における労働災害は、減少傾向を維持しているものの、全産業の死亡災害及び死傷災害のうち、陸上貨物運送事業の割合はそれぞれ1割以上となっている。

事故の型別に見ると、交通労働災害が死亡災害の3分の2を、荷役作業中の墜落・転落災害が死傷災害の3割を占めている。

[4] 林業

林業における労働災害は、死傷災害の年千人率(以下「年千人率」という。)が全業種平均の10倍を上回るなど労働災害発生率が著しく高い状況にある。また、死亡災害については、伐木作業中に発生したものが半数以上を占めている。

[5] 第三次産業

第三次産業(交通運輸業、陸上貨物運送事業及び港湾貨物運送業を除く。以下同じ。)における労働災害は、労働者数の増加等を背景に近年微増の傾向にあり、死傷災害の4割に至っている。

業種別に見ると、卸売・小売業においては労働災害が多発し、また、社会福祉施設、通信業等においては増加している。さらに、産業廃棄物処理業等、労働災害発生率が他の業種と比べて高い業種も見られる。

(イ)事業場規模別

事業場規模別の労働災害の発生状況は、死傷者数で見ると労働者数50人未満の事業場で全体の3分の2を占め、労働者数300人未満で全体の9割以上を占めている。

規模別の年千人率は、労働者数50人未満の事業場は、労働者数300人以上の事業場に比べて約2倍である。また、労働災害発生率の規模間格差は、必ずしも縮小していない。

(ウ)年齢別

年齢別の労働災害の発生状況は、労働災害全体に占める高年齢労働者の割合で見ると、死亡災害、死傷災害がそれぞれ50歳以上の労働者では6弱、4割強、60歳以上では3割弱、2割弱となっている。また、50歳以上の労働者の年千人率は20歳〜49歳の労働者と比べて高い状況にある。今後、高年齢労働者数のさらなる増加が見込まれることから、高年齢労働者の安全衛生対策の充実が重要となる。

(エ)事故の型別

事故の型別の労働災害の発生状況は、死亡災害では交通労働災害、墜落・転落災害が多く、死傷災害では墜落・転落災害、はさまれ・巻き込まれ災害及び転倒災害が多い。墜落・転落災害は建設業のほか、製造業、陸上貨物運送事業等においても多発している。また、一度発生すると深刻な被害を出すおそれのある爆発・火災災害も依然として発生している。

イ 労働者の健康を巡る状況等

(ア)過重労働による健康障害及び精神障害の発生状況等

労働者の健康状況は、定期健康診断によると、脂質異常症、高血圧、糖尿病などに関連する所見を有する労働者が増加しており、およそ2人に1人が有所見という状況にある。

脂質異常症、高血圧、糖尿病などの基礎疾患を有した労働者に、業務による明らかな過重負荷が加わると、脳・心臓疾患を発症することがあり、近年、脳・心臓疾患に係る労災認定件数は年間300件を超え、高い水準で推移している。

また、平成14年厚生労働省実施の労働者健康状況調査によると、職業生活等において強い不安、ストレス等を感じる労働者は6割以上に上っている。さらに、業務による心理的負荷を原因とする精神障害等に係る労災認定件数は増加する傾向にあり、平成18年度は200件を上回っている。

(イ)職業性疾病の発生状況

じん肺の新規有所見者は、長期的には大幅な減少が見られるものの、ここ数年は減少しておらず、今なお年間約250人発生している。

腰痛は、職業性疾病全体の6割を占めており、高年齢労働者の増加や介護関係業務の増大等により今後増加が懸念される。

振動障害及び騒音障害の労災認定件数は、長期的には減少しているものの、依然としていずれも年間300件以上となっている。

また、熱中症及び酸素欠乏症等により、依然として、毎年それぞれ20人前後、10人前後の労働者が死亡している。

(ウ)化学物質等による健康障害の発生状況

化学物質による職業性疾病は、年間約300件と横ばいが続いている。また、一酸化炭素などによる急性中毒で死亡する事案も依然として発生している。

石綿による肺がん及び中皮腫の労災認定件数は、平成18年度には約1,800件と増加している。また、今後も石綿を使用した建築物の解体作業等の増加が予想されることから、これらの作業に従事する労働者の石綿による健康障害の発生が懸念される。

(エ)産業保健活動、健康づくり及び快適職場づくり対策に係る状況

定期健康診断の有所見率は年々増加し、また、過重労働による健康障害及び精神障害の労災請求・認定件数が増加している。これらの課題に対処するため、事業場における産業保健活動の一層の活性化が求められている。

また、労働力人口が減少する中で、高齢者や女性の就業率を高めていくことが国民的課題の一つになる中、すべての労働者を対象とした心身両面にわたる健康づくりや快適職場づくりはその重要性を増している。

さらに、たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約の動向等を踏まえ、受動喫煙の防止対策を一層充実していくことも課題となっている。

ウ 安全衛生全般に関わる状況

(ア)危険性又は有害性等の調査及びそれに基づく措置の実施状況等

近年の生産工程の複雑化、多様化に伴い、事業場内の危険性又は有害性の要因が多様化している。

このような状況に対応するためには、義務化された最低基準である労働安全衛生関係法令を遵守するのみならず、事業者が事業場における危険性又は有害性の特定、リスクの見積り、リスク低減措置の検討等を行い、それに基づく措置の実施を行う「危険性又は有害性等の調査等」の普及が必要であるが、その実施率は、人材不足、実施方法がわからない等を理由に、労働者数10人以上の事業場で約2割にとどまっている。

(イ)安全衛生管理活動の状況

雇入れ時教育、作業内容変更時教育をはじめとする安全衛生教育の実施や、安全パトロール等の安全衛生活動は、低調になりつつある。

また、労働安全衛生マネジメントシステムを導入している事業場の割合は、労働者数10人以上の事業場で1割弱にとどまっている。

(ウ)就業形態の多様化等の状況

短期間で事業場を変わることの多い派遣労働者、請負労働者、短時間労働者等の非正規雇用労働者が増加し、既に3人に1人が非正規雇用労働者となっており、経験年数が短い被災労働者の割合が増加している。

また、高齢化の進展等により、高年齢労働者の割合が今後ますます高まっていくことが予想される。

3 計画における安全衛生対策に係る基本的な考え方

本計画における安全衛生対策については、労働災害全体を減少させるためのリスク低減及び重篤な労働災害の防止という二つの観点から取り組むとともに、目標の設定、計画的な実施等により的確な推進を図ることとする。

(1)労働災害全体を減少させるためのリスク低減対策の推進

死傷災害等の労働災害全体を一層減少させるため、事業場における危険性又は有害性の特定、リスクの見積り、リスク低減措置の検討等を行い、それに基づく措置の実施を行う「危険性又は有害性等の調査等」が広く定着することが必要であり、その取組を促進する。

(2)重篤な労働災害を防止するための対策の充実

死亡災害等の重篤な労働災害の一層の減少を図るため、これらの労働災害が多く発生している作業、機械設備等について、労働災害防止対策の効果的な推進を図るとともに、その強化について検討し、必要な対策の充実を図る。

(3)目標の設定、計画的な実施等による対策の的確な推進

最近の行政においては、計画的な行政運営、評価等が必要であり、平成19年度に批准された「職業上の安全及び健康を促進するための枠組みに関する条約」(ILO第187号条約)においても、同様な考え方が安全衛生の国内計画に求められているため、本計画については、目標の設定、評価等を行うことにより的確な推進を図る。

4 計画の期間

本計画は、平成20年度を初年度とし、平成24年度を目標年度とする5か年計画とする。

ただし、この計画期間中に労働災害防止に関し、特別の事情が生じた場合は、必要に応じ計画の見直しを行うものとする。

5 計画の目標

(1)目標

労働災害の防止並びに労働者の健康の確保及び快適職場の形成促進を図り、安全衛生水準の向上を期すために、次の目標を設定する。国、事業者、労働者をはじめとする関係者は、それぞれの立場で、目標達成に向けて積極的に取り組むこととする。

なお、平成24年までの間、これらの目標に向けた逐年での減少等を図る。

ア 死亡者数について、平成24年において、平成19年と比して20%以上減少させること。

イ 死傷者数について、平成24年において、平成19年と比して15%以上減少させること。

ウ 労働者の健康確保対策を推進し、定期健康診断における有所見率の増加傾向に歯止めをかけ、減少に転じさせること。

(2)重点対策及びその目標

本計画において特に重点とすべき行政施策、それを踏まえて事業場で実施される安全衛生対策等について、以下のとおり定める。

ア 「危険性又は有害性等の調査等」について、作業内容等に即した具体的な実施方法の公表及びその普及、事業場内外の人材養成の促進等を図ることにより、その実施率を着実に向上させること。

イ 化学物質における「危険性又は有害性等の調査等」について、化学物質等安全データシート(以下「MSDS」という。)等を活用することにより、その実施率を着実に向上させること。

ウ 機械災害の防止について、労働災害が多発している又は重篤度の高い労働災害が発生しているなどの機械の種類ごとの安全対策の充実を検討し、必要な措置を講じることにより、機械災害の更なる減少を図ること。

エ 墜落・転落災害の防止について、災害が多い足場、建築物における作業、荷役に係る作業等における墜落・転落災害防止対策の充実について検討し、必要な措置を講じることにより、これらの作業での墜落・転落災害の更なる減少を図ること。

オ 粉じん障害の防止について、トンネル建設工事、アーク溶接作業、金属等の研ま作業等に係る粉じん障害防止対策を重点とした総合的な対策を推進することにより、じん肺新規有所見者数の減少を図ること。

カ 化学物質による健康障害の防止について、化学物質に係る有害業務における作業主任者の選任及び職務遂行の徹底、作業環境管理の徹底、安全衛生教育の促進を図るなど必要な措置を講ずることにより、特定化学物質及び有機溶剤による中毒、一酸化炭素中毒等の化学物質による職業性疾病の減少を図ること。

キ 労働者に対する健康診断について、労働者の自主的な取組を促進するとともに、「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針(平成8年健康診断結果措置指針公示第1号)」に基づく措置を徹底し、高齢者医療確保法に基づく医療保険者が行う措置とも連携することにより、健康診断結果等に基づく健康管理措置の実施率の着実な向上を図ること。

ク メンタルヘルスについて、過重労働による健康障害防止対策を講じた上で、労働者一人ひとりの気づきを促すための教育、研修等の実施、事業場内外の相談体制の整備、職場復帰対策等を推進することにより、メンタルヘルスケアに取り組んでいる事業場の割合を50%以上とすること。

6 計画における労働災害防止対策

(1)自主的な安全衛生活動の促進

ア 「危険性又は有害性等の調査等」の実施の促進

(ア)中小規模事業場に対する支援、担当者の養成等の促進

「危険性又は有害性等の調査等」の適切な実施の促進を図るため、中小規模事業場を重点とした専門家による指導、中小規模事業場や特定の業種等における典型的な作業等に係るマニュアル等の作成を行うとともに、業界団体による普及活動の支援等を行う。

事業場における担当者の養成、事業場の担当者への指導等を行う専門的人材の養成を促進する。

(イ)機械の製造者、化学物質の譲渡・提供者等による情報提供の促進

機械については、製造者が「危険性又は有害性等の調査等」を実施し、対策を講じた機械への表示及び機械の譲渡時における「危険性又は有害性等の調査等」の結果を含む使用上の情報の提供を促進する制度について検討を行う。

化学物質については、MSDSの交付による化学物質の危険有害性情報等の提供や化学設備等の改造等の作業を外注する際の注文者による請負業者への情報の提供の徹底を図る。

(ウ)「危険性又は有害性等の調査等」の実施促進のための情報の提供等の推進

「危険性又は有害性等の調査等」が効果的に実施されるように、労働災害事例、安全衛生に係る活動事例・改善事例等の情報の提供を推進する。

また、「危険性又は有害性等の調査等」を前提とした労働安全衛生関係法令の適用の柔軟化等の検討を行う。

イ 労働安全衛生マネジメントシステムの活用等

「危険性又は有害性等の調査等」の実施とともに、労働安全衛生マネジメントシステムの自主的な導入を促進し、労働災害の防止を図る。

厚生労働省が定めた「労働安全衛生マネジメントシステムに関する指針(平成11年労働省告示第53号)」にそった業界別団体等による自主的なマニュアルの作成を促進する。

さらに、労働安全衛生マネジメントシステムの実施等を要件とした計画届の免除認定制度の一層の周知等を図る。

公共事業等の調達制度において労働安全衛生マネジメントシステム等安全衛生に関する取組を評価する制度の発注者における導入を促進する。

ウ 自主的な安全衛生活動促進のための環境整備等

(ア)企業において安全衛生が優先される環境の整備の促進

労働者の安全と健康を最優先する「安全文化」について、企業トップをはじめ企業全体への浸透を図る。

企業間取引等において積極的な安全衛生対策の取組が考慮されるなど、安全衛生への積極的な取組が社会的に評価される仕組みについて検討を行う。

また、就業前の学生、労働者の家族等をはじめ、広く国民一般に対して安全衛生の重要性の認識を高めるための広報等を推進する。

(イ)安全衛生委員会等の活性化等の促進

安全衛生委員会等における「危険性又は有害性等の調査等」、安全衛生に係る計画の作成・実施・評価・改善等に関する事項の調査審議の徹底を図り、安全衛生委員会等の活性化を促進する。

低調になりつつある安全パトロール等の日常的な安全衛生活動の充実を促進する。

自主的な安全衛生活動を促進するため、安全衛生情報の提供の充実を図る。

事業場における労働災害の記録の制度化を図り、これらの記録を活用した再発防止対策の徹底を図る。

エ 情報の共有化の推進等

労働災害事例、化学物質の危険有害性等の情報を広く提供し、関係者がこれらの情報を共有できるようにすること等により、企業等における労働災害防止対策の充実を図るとともに、労働災害防止の重要性等について国民、企業の認識を高め、業界団体、企業等の積極的な労働災害防止活動への取組を促進する。

(2)特定災害対策

ア 機械災害防止対策

(ア)機械の設計段階等での「危険性又は有害性等の調査等」の実施促進等

労働安全衛生法第28条の2の規定及び「機械の包括的な安全基準に関する指針(平成19年7月31日付け基発第0731001号)」に基づき、機械の設計、製造及び使用段階における機械の「危険性又は有害性等の調査等」の実施を促進する。機械の譲渡時における「危険性又は有害性等の調査等」の結果を含む使用上の情報の提供を促進する。

機械の製造者がこれらの取組を行った場合の機械への表示、譲渡時における使用上の情報の提供等を促進する制度について検討を行う。

(イ)労働災害多発機械等の対策の充実

労働災害が多発している、又は重篤度の高い労働災害が発生しているなどの機械について、機械の種類ごとの安全対策の充実について検討を行い、必要な措置を講じる。

(ウ)構造規格の計画的な見直し

技術の進展、性能規定化等の観点から、機械等の構造規格の見直しを計画的に行う。

イ 墜落・転落災害防止対策

(ア)足場先行工法、手すり先行工法の普及

足場の組立・解体作業における手すり先行工法、木造家屋等低層住宅建築工事を対象にした足場先行工法の普及を図る。

(イ)足場からの墜落・転落災害防止対策の充実

検討を進めている足場からの墜落防止措置に関する新たな安全対策に基づく墜落・転落災害防止対策について、周知徹底を図る。

(ウ)建築物、車両等からの墜落・転落災害の防止対策の充実

建設業以外でも発生している建築物や荷役作業中の車両等からの墜落・転落災害の防止対策の充実について検討を行い、必要な措置を講じる。

ウ 交通労働災害防止対策

(ア)ガイドラインの徹底等

運転実態と労働災害発生の関係に関する調査結果を踏まえ、交通労働災害防止のためのガイドラインの周知徹底等を図る。

(イ)リアルタイム遠隔安全衛生管理手法の開発・普及

IT技術を活用してトラックの走行状況をリアルタイムに把握し、運転者に必要な安全衛生管理のための指示を行う「リアルタイム遠隔安全衛生管理手法」を開発し、その成果の普及を図る。

(ウ)関係行政機関との連携

国土交通省、警察庁等関係行政機関との連携を図り、交通労働災害防止対策の徹底を図る。

エ 爆発・火災災害防止対策

ガス、蒸気及び粉じんに起因する爆発・火災災害については、労働安全衛生関係法令に定める措置の徹底を図るとともに、MSDS等を活用した、化学物質に係る「危険性又は有害性等の調査等」の普及促進を図る。

(3)労働災害多発業種対策

ア 製造業対策

(ア)「危険性又は有害性等の調査等」の実施促進

広く「危険性又は有害性等の調査等」の適切な実施の促進を図る。特に、中小規模事業場を重点とした専門家による指導、中小規模事業場における典型的な作業等に係るマニュアル等の作成、業界団体による普及活動の支援等を行う。

(イ) 機械災害、墜落・転落災害等の労働災害多発分野における対策の徹底

労働災害が多発している機械等の安全対策、建築物等からの墜落・転落災害の防止対策等の充実について検討を行い、必要な措置を講じる。

(ウ)IT技術を活用した安全衛生管理手法の普及促進

団塊の世代の大量退職に伴う安全衛生分野の知識、技術、ノウハウの喪失、労働者の熟練度の低下等に対応するため、PDA(個人用の携帯端末)、ICタグ等のIT技術を活用して安全衛生の確保のための情報提供、警告等を可能とする「ITを活用した安全衛生管理手法」の普及促進を図る。

(エ)就業形態の多様化等に対する対応

雇入れ時等の安全衛生教育を徹底するとともに、経験年数が短い労働者等作業に慣れていない者に対して、実際の機械等を使用して労働災害を模擬的に実体験させること等を通じて作業における危険に対する感受性を向上させる危険感受性向上教育を推進する。

請負労働者等が混在する作業での労働災害の発生を防止するため、作業間の連絡調整をはじめとする法令及び「製造業における元方事業者による総合的な安全衛生管理のための指針(平成18年8月1日付け基発第0801010号)」に基づく措置の周知徹底を図る。

また、化学物質を製造し、又は取り扱う設備の改造等の作業の際の労働災害を防止するため、注文者による請負業者への情報提供の徹底や注文者、事業者等が行う非定常作業時の安全衛生対策の徹底を図る。

派遣労働者については、関係法令に基づく派遣元・派遣先の措置義務の履行の徹底を図る。

イ 建設業対策

(ア)元方事業者による統括管理の充実

重層的な請負構造が見られる建設業における労働災害を防止するため、引き続き、元方事業者による統括安全衛生管理の徹底を図る。特に、中小地場総合工事業者の現場においては、大手総合工事業者の現場に比べて労働災害発生率が高いことから、その指導力の向上等を図る。

(イ)専門工事業者の安全衛生管理能力等の向上

専門工事業者の自律的な安全衛生管理能力の向上を図るため、専門業種別のマニュアルの活用等により、「危険性又は有害性等の調査等」の適切な実施の促進等を図る。

(ウ)発注者による安全衛生への配慮の促進

建設工事の発注者による安全衛生への配慮の促進として、安全衛生対策経費の確保や公共事業等の調達制度において労働安全衛生マネジメントシステム等に対する取組を評価する制度の導入促進等を図る。

(エ)墜落・転落災害防止対策等の強化等

木造家屋等低層住宅建築工事を対象とした足場先行工法、足場の組立・解体作業における手すり先行工法の普及を図るとともに、足場からの墜落・転落災害防止対策の周知徹底を図る。また、建築物の開口部、梁等からの墜落、スレート屋根の踏み抜きなどによる墜落・転落災害防止対策等、労働災害が多発している作業等の安全対策の充実について検討を行い、必要な措置を講じる。

建設機械災害防止対策として、クレーン機能付きドラグ・ショベルの一層の普及、危険検知システムの工事現場への普及、転倒時等の運転者防護措置の導入等を促進する。

土砂崩壊災害防止対策として、発注者に対して、「土止め先行工法ガイドライン(平成15年12月17日付け基安発第1217001号)」に基づく工法を採用するよう要請することにより、土止め先行工法の一層の普及定着を図る。

ウ 陸上貨物運送事業対策

(ア)交通労働災害防止対策の推進

交通労働災害防止のためのガイドラインの周知徹底等を図る。

「リアルタイム遠隔安全衛生管理手法」を開発し、その成果の普及を図る。

国土交通省、警察庁等関係行政機関との連携を図り、交通労働災害防止対策の徹底を図る。

交通労働災害防止のための安全な運行について、荷主関係者とトラック事業者との連携を促進する。

(イ)荷役作業に係る墜落・転落災害等防止対策の強化

作業ごとのマニュアルの活用等により、「危険性又は有害性等の調査等」の適切な実施を促進する。

荷役作業中のトラック等からの墜落・転落災害防止対策の充実について検討し、必要な措置を講じる。

エ 林業対策

作業ごとのマニュアルの活用等により、「危険性又は有害性等の調査等」の普及促進を図る。

死亡災害が多発しているかかり木の処理作業等の安全対策の充実について検討を行い、必要な措置を講じる。

近年導入されている高性能林業機械等の大型林業機械について、安全対策の周知徹底を図る。

オ 第三次産業対策

(ア)労働災害多発業種等の対策の推進

卸売・小売業、社会福祉施設、廃棄物処理業等の労働災害の多発している業種、増加している業種、労働災害発生率の高い業種等について、業種別モデル安全衛生管理規程、「労働災害防止のためのガイドライン」等を活用した対策を推進する。

(イ)「危険性又は有害性等の調査等」の実施促進

「危険性又は有害性等の調査等」について、中小規模事業場を重点とした専門家による指導、中小規模事業場における典型的な作業等に係るマニュアル等の作成、業界団体による普及活動の支援等を行う。

(ウ)交通労働災害防止対策の推進

交通労働災害防止対策のためのガイドライン等の周知徹底を図るとともに、運転者教育の実施について必要な支援、援助等を行う。

(エ)労働災害事例等を活用した自主的な安全衛生活動の促進

労働災害事例等の安全衛生情報の公開を進めるとともに、これらの情報を活用した自主的な安全衛生活動を促進する。

カ その他の業種対策

港湾貨物運送事業、鉱業その他の労働災害発生率の高い業種についても、引き続き積極的に業種の実態等を踏まえた労働災害防止対策を推進する。

(4)職業性疾病(石綿及び化学物質関係を除く)等の予防対策

ア 粉じん障害防止対策

対策の見直しが行われたトンネル建設工事やじん肺新規有所見者が多く発生しているアーク溶接作業、金属等の研ま作業等に係る粉じん障害防止対策を重点として、粉じん障害の実態を踏まえた総合的な対策を推進する。

トンネル建設工事については、工事に従事する労働者への粉じんへのばく露を低減するため、坑の大きさ等に応じた効果的な換気の実施、「ずい道等建設工事における粉じん対策に関するガイドライン(平成12年12月26日付け基発第768号の2)」方式の粉じん濃度測定及びこの測定結果に基づく換気装置の風量の増加等必要な措置の実施、コンクリート等を吹き付ける場所における作業等での電動ファン付き呼吸用保護具の使用、適切な発破退避時間の確保等の対策の徹底を図る。

また、個人サンプラーによる粉じん濃度測定方法等についての調査研究を行い、その成果を踏まえて粉じんばく露低減対策の検討を行う。

イ 腰痛予防対策

腰痛の発生が多い介護作業等を重点に、適切な介護用機器の導入等腰部への負担を軽減する具体的手法を検討し、「職場における腰痛予防対策指針(平成6年9月6日付け基発第547号)」の必要な見直しを行い、その周知徹底を図る。

事業者及び労働者に各作業の腰痛危険度を具体的に認識させる手法の検討を行い、その普及促進を図る。

ウ 振動・騒音障害防止対策

振動障害の防止については、振動工具の振動のレベルに応じた作業時間基準に基づく作業管理等を含めた振動障害防止対策の普及促進を図る。また、振動工具の使用者が的確に振動レベル等の情報を把握することができるよう、製造者等による振動工具への振動レベルの表示の促進を図る。

騒音障害の防止については、騒音レベルの低減化の推進等「騒音障害防止のためのガイドライン(平成4年10月1日付け基発第546号)」に基づく作業環境管理等の徹底を図る。

エ 熱中症予防対策及び酸素欠乏症等防止対策

熱中症の予防については、具体的な対策についての検討を行い、ガイドラインとしてまとめるとともに、その対策の普及を図る。また、熱中症が多く発生している業種、時期等を重点とした対策の普及促進を図る。

酸素欠乏症等の防止については、酸素欠乏危険場所であることの認識の向上、作業内容等に応じた手順の確認等、その防止対策の徹底を図る。

オ その他の職業性疾病等の予防対策

電離放射線障害の防止については、被ばくの低減化等の対策の徹底を図る。

VDT作業における健康障害の防止については、引き続き「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン(平成14年4月5日付け基発第0405001号)」の周知徹底を図る。

今後発生が危惧されている新型インフルエンザ等の新たな伝染性の疾病については、関係機関との連携のもと、発生に備えた危機管理体制の構築を推進する。

(5)石綿障害予防対策

ア 全面禁止の徹底等

製造等の全面禁止の措置の徹底を図る。なお、例外的に全面禁止の措置が猶
予されている特殊な用途の石綿製品については、安全の確保に配慮しつつ非石綿製品への代替化を促進し、当該猶予措置を撤廃する。

イ 解体作業等におけるばく露防止対策の徹底

建築物の解体作業や建築物に吹き付けられた石綿等の損傷等による労働者のばく露防止対策の徹底を図る。また、吹付け石綿等の除去作業における電動ファン付き呼吸用保護具の使用の義務付けなど石綿ばく露防止対策等の充実についての検討を行い、必要な措置を講じる。

ウ 離職者の健康管理対策の推進

交付要件の見直しが行われた石綿に係る健康管理手帳について、広くその周知を図るとともに、診断技術の向上を図り、健康診断実施医療機関の拡大を行うなど、健康診断の実施体制を整備し、労働者の離職後の健康管理措置を適切に推進する。

さらに、職業性間接ばく露者に係る離職後の健康管理の在り方についての検討結果を踏まえ、必要な措置を講じる。

(6)化学物質対策

ア 化学物質による労働災害の防止対策

(ア)危険性又は有害性等の調査等の普及促進

MSDS等を活用した化学物質に係る「危険性又は有害性等の調査等」の普及促進を図る。このための基盤として、危険性又は有害性があるとされている物質について、海外の動向も踏まえ、計画的に化学品の分類及び表示に関する世界調和システム(GHS)に基づく分類を行い、モデルMSDSの作成を行うとともに、表示対象物質及び文書交付対象物質の拡大について検討し、その推進を図る。また、事例集の作成、研修の実施、モデル事業場の選定等の支援を行う。

(イ)化学物質による健康障害防止に係る措置の徹底

特定化学物質、有機溶剤、一酸化炭素等の化学物質による健康障害を防止するため、作業主任者の選任及び職務遂行の徹底等、法令に定める措置の徹底を図るとともに、安全衛生教育の促進を図るなど、必要な措置を講ずる。

(ウ)作業環境管理の一層の推進

作業環境中の種々の有害要因を取り除いて良好な作業環境を確保するため、適切に作業環境測定を行い、結果の評価を行うとともに、その評価結果に基づき、事後措置を徹底することにより、作業環境管理の一層の推進を図る。

イ 化学物質管理対策

(ア)リスク評価に基づく化学物質管理の一層の推進

発がんのおそれがある物質等については有害物ばく露作業報告制度等に基づき、国においてリスク評価を行い、リスクが高いとされた化学物質等については順次規制を行うとともに、規制と自主管理の適切な組合せによる化学物質管理を一層推進する。

新規化学物質の有害性調査や、国による有害性調査の結果、動物に対する発がん性等が判明した物質については、健康障害を防止するための対策について指導を行う。

(イ)国際動向を踏まえた化学物質管理の在り方の検討及びその推進

化学物質管理については、全世界的な課題として捉え、国際的な協調の下で進められる動きもある。

よって、化学物質管理の在り方については、2002年の持続可能な開発に関する世界サミット(WSSD)における長期的な化学物質管理に関する国際合意、その目標実現のための「国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ(SAICM)」、「化学物質の登録、評価、認可及び制限に関する規則(REACH)」等の国際的な動向を踏まえ、官民の役割分担を含め検討を行い、対応を進める。

(7)メンタルヘルス対策及び過重労働による健康障害防止対策

ア メンタルヘルス対策

職場におけるメンタルヘルス対策について、労働者のメンタルヘルス不調に対する早期の気づき等を促すための教育、研修等の実施を促進するとともに、相談体制の整備、事業場外資源との連携の促進、職場復帰のための対策の推進を図る。

メンタルヘルス対策及び職場復帰のための対策に取り組み、成果をあげている事業場の事例を収集し、分析を行うことにより、他の事業場においても取組が可能な具体的かつ効果的な手法の検討を行い、その普及を図る。

精神障害に関する労災認定事案等について、再発防止の検討を中心とした調査を実施し、これらの調査結果を活用した再発防止対策の徹底を図る。

さらに、自殺対策基本法(平成18年法律85号)に基づく取組が政府一体となって推進されているところであるが、職場におけるメンタルヘルス対策は労働者の自殺の予防にも資するという観点から、メンタルヘルス対策を通じた自殺予防の一層の推進を図る。

(ア)相談体制の整備

職場の相談体制を強化するため、すべての事業場において事業場内の管理監督者や産業保健スタッフに対し、労働者のメンタルヘルス不調についての気づき、職場環境等の把握と改善及び相談対応、個人情報の保護、うつ病等の早期発見・早期治療に係る教育、研修を促進することにより、事業場内相談体制の整備を図る。

また、職場においてメンタルヘルスの不調を感じた労働者がいつでも相談できるようにするため、メンタルヘルス相談担当者の配置や事業場外資源の有効な活用についての啓発指導を行う。

(イ)事業場外資源との連携の促進

事業場外資源であるメンタルヘルス相談の専門機関について、一定の要件を満たしたものについて登録・公表することにより、メンタルヘルスに係る優良な事業場外資源の確保を図り、その利用を促進する。

長時間労働者に対する面接指導、メンタルヘルスの相談、周囲の気づきなどを端緒としてメンタルヘルス不調者が発見された場合において、迅速に医療機関や専門相談機関に取り継がれるような仕組みを構築し、積極的な利用の促進を図る。

(ウ)職場復帰のための対策の推進

「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」を充実し、円滑な職場復帰が図られるよう対策を推進する。

職場復帰については産業医と精神科医の連携が不可欠であるため、産業医と精神科医のネットワークの強化を図る。

イ 過重労働による健康障害防止対策

(ア)長時間労働の抑制

長時間にわたる過重な労働は疲労の蓄積をもたらす最も重要な要因と考えられ、脳・心臓疾患の発症との関連性が強いという医学的知見を踏まえ、長時間にわたる過重な労働を排除するため、時間外・休日労働の削減、年次有給休暇の取得促進などの労働時間等の設定の改善により、長時間労働を容認しない社会的気運を醸成する。また、過重労働による業務上の疾病が発生した場合の原因究明及び再発防止対策の徹底を図る。

(イ)面接指導の徹底等

長時間労働による疲労の蓄積が認められる者に対し、すべての事業場において医師による面接指導及びその結果に基づく措置の徹底を図るため、産業医の選任義務を有する事業場における事後措置までの実施の徹底を図るとともに、産業医の選任義務のない労働者数50人未満の事業場においても面接指導及びその結果に基づく措置が適切に実施されるよう、地域産業保健センターにおける面接指導の実施体制を整備し、その活用を促進する。

(8)産業保健活動、健康づくり及び快適職場づくり対策

ア 産業保健活動の活性化

(ア)産業医等の選任等の徹底

労働者の健康の確保を図る上で、産業医や衛生管理者等の活動が重要であることから、その選任による労働衛生上の効果を十分に説明すること等により、産業医や衛生管理者等の選任及び職務遂行の徹底を図る。

(イ)産業保健活動の充実

産業医等の産業保健スタッフに対する研修や相談等を実施する産業保健推進センター及び労働者数50人未満の事業場に対する産業保健サービスを提供する地域産業保健センター事業の有効活用や、その連携を図ることにより、地域における産業保健活動の活性化を図る。

メンタルヘルス、過重労働等産業保健を巡る課題が多様化していることから、産業医に対する研修の充実を図ること等により、職業性疾病に加えて過重労働、メンタルヘルス、生活習慣病等幅広い課題に対する産業医活動の促進を図る。

事業場における産業保健活動の展開には、産業医が保健師等の産業保健スタッフと連携して活動する必要があることから、保健師等の産業保健スタッフの積極的な活用及び連携の促進を図る。

これらの取組に加え、地域・職域連携推進協議会を活用した地域保健との連携強化及び高齢者の医療の確保に関する法律(昭和57年法律第8号)に基づく医療保険者が行う措置との連携を図りつつ、健康診断の実施及びその結果に基づく健康管理の徹底を図る。この際、労働者が、事業者の行う健康診断を受診するとともに、健康診断の結果及び保健指導を利用して、その健康の保持に努めるよう、普及啓発を行う。

イ 健康づくり対策

すべての労働者を対象とした心身両面にわたる健康づくりのため、中小規模事業場においても取り組みやすいような仕組みとするために改正した「事業場における労働者の健康保持増進のための指針(昭和63年健康保持増進のための指針公示第1号)」に基づき、健康づくり対策に係る目標の設定と評価の明確化及びその計画的な推進等による健康づくりの一層の普及・定着を図る。

なお、その推進に当たっては、地域・職域連携推進協議会を活用した地域保健との連携強化及び高齢者の医療の確保に関する法律に基づく医療保険者が行う措置との連携を図る。

ウ 快適職場づくり対策

(ア)職場の快適化の推進

これまでの空気環境や温熱条件等に対するハード面の対策にとどまらず、職場の人間関係などのソフト面の観点から職場の快適化に資する方法・手段について調査研究を行い、総合的な快適職場づくりに向けた快適職場指針の見直しについての検討を行う。

(イ)受動喫煙防止対策の推進

受動喫煙による健康への影響についての周知、受動喫煙防止のための効果的な手法の普及等により、適切な受動喫煙防止対策の徹底を図る。また、国内外の情勢等を踏まえつつ、受動喫煙の防止対策の充実についての検討を行う。

(9)安全衛生管理対策の強化について

ア 安全衛生教育の効果的な推進等

(ア)雇入れ時等の安全衛生教育の徹底等

経験年数が短い労働者が被災する労働災害の割合が増加していること等を踏まえて、雇入れ時や作業内容変更時等の安全衛生教育の徹底を図るとともに、危険感受性向上教育の促進を図る。

(イ)熟練労働者からの知識、技能等の伝承の促進

団塊の世代の大量退職等により、安全衛生分野の知識、技術、ノウハウの喪失が懸念されること等から、「IT技術を活用した安全衛生管理手法」の普及促進等を図る。

(ウ)安全衛生担当者の能力向上と評価等

安全管理者等の安全衛生担当者の能力向上教育を促進する。また、安全衛生担当者の能力の自主的な第三者による評価等により、安全衛生担当者の能力の向上・評価及び活動の活性化を図る。

(エ)「危険性又は有害性等の調査等」に係る人材養成の促進

「危険性又は有害性等の調査等」の普及促進のため、事業場内の担当者の養成、事業場担当者への指導等を行う専門的人材の養成を促進する。

イ 中小規模事業場対策の推進

中小規模事業場に対して、あらゆる機会を利用して安全衛生に対する認識の向上を図るとともに、中小規模事業場を対象とした安全衛生対策の普及、そのための支援等を推進する。

また、安全衛生対策を実施するための環境づくりなどのための内部人材の養成、外部の人材・機関の活用の促進、情報の提供等を推進する。これらについては、中小規模事業場が協力して、集団的に取り組むことが有効であることから、その促進を図る。

(ア)注文者の安全衛生面の配慮の促進等

中小規模事業場では、他の企業からの注文による生産等を行っている場合が多く、注文者が注文に当たって受注事業者の安全衛生の状況に配慮することは、受注事業者の安全衛生に対する認識、安全衛生水準の向上に資することから、好事例の収集、提供等によりその促進を図る。

(イ)中小規模事業場を対象とした安全衛生対策の普及等

中小規模事業場が多い労働災害多発業種等に対して、多発災害の防止対策の徹底を図るとともに、中小規模事業場向けの安全衛生対策として、中小規模事業場において「危険性又は有害性等の調査等」の適切な実施を促進するためのマニュアルの作成、中小規模事業場でも取り組みやすい仕組みとなった健康づくり対策の普及・定着、化学物質の管理を担当する者の能力向上等を図る。

これらの対策の推進のため、中小規模事業場における基本的な安全衛生対策の実施、ノウハウの蓄積等のための集団的な取組に対する支援、「危険性又は有害性等の調査等」の実施、健康づくり対策の推進等自主的な安全衛生対策に対する支援等を行う。

労使による労働災害防止活動を推進するという観点から、労災防止指導員を効果的に活用することにより、中小規模事業場等における安全衛生管理の向上を図る。

(ウ)中小規模事業場における内部人材の養成等

「危険性又は有害性等の調査等」の適切な実施のための事業場における担当者の養成、管理監督者に対するメンタルヘルス教育の実施等、中小規模事業場の安全衛生対策を推進するための事業場内の人材の養成を促進する。

安全衛生に関する人材の確保が困難な中小規模事業場における安全衛生水準の確保・向上を図るため、外部の専門機関等による安全衛生業務の代行等についての検討を行う。

(エ)情報提供の推進

労働災害事例等の安全衛生情報の提供を進めるとともに、これらの情報を活用した自主的安全衛生活動の促進を図る。

ウ 就業形態の多様化等に対する対策

(ア)雇入れ時等の安全衛生教育の徹底・危険感受性向上教育の促進

派遣労働者、請負労働者及び短時間労働者に係る労働災害の防止を図るため、雇入れ時や作業内容変更時等の安全衛生教育の徹底及び危険感受性向上教育の促進を図る。

(イ)製造業の元方事業者による作業間の連絡調整等の徹底

製造業の事業場において、請負労働者等が混在する作業での作業間の連絡調整をはじめとする法令及び「製造業の元方事業者による総合的な安全衛生管理のための指針」に基づく措置の周知徹底を図る。

また、派遣労働者については、関係法令に基づく派遣元・派遣先の措置義務の履行の徹底を図る。

エ 高年齢労働者対策等の推進

高年齢労働者の活用、雇用機会の確保に伴い、高年齢労働者の安全と健康の確保が重要となっていることから、事業場における対策の推進に当たって必要な取組事例の収集、身体的特性等についての調査研究及びその結果の提供等を労使とも連携しつつ推進する。また、地域保健で実施されるサービス及び高齢者の医療の確保に関する法律に基づく医療保険者が行う措置との連携を図りつつ、事業場の健康づくりの一層の普及・定着を図る。

また、母性保護の見地から、妊産婦の危険有害業務の就業制限の徹底を図る。

(ア)作業環境等の改善等に係る対策の普及

高年齢労働者の身体的特性に配慮した安全衛生対策は、すべての労働者の労働災害防止にも資するものであり、一層の推進が必要である。このため、高年齢労働者の身体的特性に配慮した作業環境、作業方法等の改善及び快適職場の形成等を促進するとともに、これらの当該取組事例の収集及び公表を推進する。

(イ)高年齢労働者の身体的特性等についての調査研究の推進等

高年齢労働者の身体的特性等についての調査研究等を推進し、その結果等を広く提供することにより、事業場における高年齢労働者に配慮した安全衛生対策の実施の促進を図るとともに、これらの成果も踏まえて、効果的な高年齢労働者の安全衛生対策等についての検討を行う。

オ グローバル化への対応

(ア)国際動向を踏まえた対策の推進

諸外国、国際機関等において、安全衛生に関する新たな知見が得られた場合、新たに規制が行われた場合等に、情報を速やかに把握し、必要な対応を迅速・的確に実施する。

(イ)国際協力、協調的な取組の推進

独立行政法人国際協力機構(JICA)等の関係機関と連携しつつ、アジア圏を重点とした安全衛生分野の国際協力を積極的に推進する。また、労働安全衛生マネジメントシステムに関し、諸外国との協調的な取組を推進する。

(ウ)外国人労働者対策の推進

日本の安全衛生関係情報を外国語で提供すること等により、コミュニケーションギャップの解消等の対策を推進する。

(10)効率的・効果的な施策の推進について

ア 労働安全衛生研究の促進

安全衛生対策は、常に国内外の最新の知見に基づいて推進していく必要があることから、労働安全衛生に関する調査研究機関等と協力し、労働災害防止、職業性疾病予防等に関する調査研究、労働災害の調査・分析、国内外の情報の収集等を行い、これによって得られた知見に基づいて安全衛生対策の充実・強化を図るとともに、広く安全衛生分野の研究の振興を図る。

イ 地域における労働災害多発業種等対策の推進

労働局及び労働基準監督署において、地域の産業構造等により労働災害が多発している業種や中小規模事業場集団等がある場合には、それらを重点対象として計画的かつ効果的に労働災害防止対策を推進することにより、労働災害の減少を図る。

ウ 関係機関との連携等

(ア)労働災害防止団体等の活動の促進

労働災害防止団体等の安全衛生関係団体が、事業場等のニーズを踏まえた有効な支援サービスの開発を進める等、独自に行う安全衛生活動を推進することを促進する。

特に、労働災害防止団体が、関係業種の実態を踏まえ、本計画等を踏まえた効果的な事業展開を図るため、各関係業種別の目標を含む計画を策定し、「危険性又は有害性等の調査等」の普及促進等、中小規模事業場への安全衛生対策の普及に配慮しつつ労働災害防止活動に取り組むことを促進する。

(イ)関係行政機関との連携

交通労働災害防止対策、石綿障害予防対策等については、安全、環境、健康等の他の行政施策との連携によって、効果的に推進することができる場合が多いことから、厚生労働本省、都道府県労働局、労働基準監督署のそれぞれの段階において、他の関係行政機関との緊密な連携を図る。

エ 各対策の効果の分析・評価等

本計画に基づいて実施する対策の進捗状況、成果、目標の達成状況等について評価を行うとともに、その結果を踏まえて対策の内容、手法等について適宜見直しを行う。


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