3.家庭用品等に係る吸入事故等に関する報告

(財)日本中毒情報センターは、一般消費者や医療機関からの化学物質による急性の健康被害に関する問い合わせに応ずる機関である。以下の報告は、年間数万件に達するこれらの問い合わせ事例の中から、家庭用品等による吸入事故及び眼の被害に限定して、収集・整理したものである。

(1)原因製品種別の動向

全事例数は728件で、昨年度(835件)と比較して10.0%減少した。原因と推定された家庭用品等を種別で見ると、前年度と同様、殺虫剤(医薬品等を含む)の報告件数が最も多く、165件(22.7%)であった。次いで住宅用・家具用洗浄剤111件(15.2%)、芳香・消臭・脱臭剤85件(11.7%)、消火剤50件(6.9%)、漂白剤48件(6.6%)、洗濯用・台所用洗剤33件(4.5%)、園芸用殺虫・殺菌剤30件(4.1%)、灯油18件(2.5%)、防水スプレー17件(2.3%)、除草剤16件(2.2%)の順であった(表5)。なお、防水スプレーは平成14年度に12件、平成15年度11件、平成16年度14件、平成17年度13件の報告があった。

製品の形態別の事例数では、「スプレー式」が301件(41.2%)(そのうちエアゾールが164件、ポンプ式が137件)、「液体」200件(27.5%)、「粉末状」109件(15.0%)、「固形」62件(8.5%)、「蒸散型」40件(5.5%)、その他7件、不明が9件であった。ここでいう蒸散型とは、閉鎖空間等において一回の動作で容器内の薬剤全量を強制的に蒸散させるタイプの薬剤で、くん煙剤(水による加熱蒸散タイプを含む)、全量噴射型エアゾール等が該当する。蒸散型の健康被害は平成12年度までは年間20件前後で推移し、以後増加したが、平成15年度の63件をピークとして、若干減少の傾向がみられる。なお、蒸散型は医療機関からの問い合わせが多いのも特徴である。

(2)各報告項目の動向

年齢から見ると、0〜9歳の小児の被害報告事例が311件(42.7%)で、前年度と同様、最も多かった。次いで30歳代が多く、40歳代及び50歳代が続き、その他の年齢層は総件数、該当人口当たりの件数とも大きな差は見られなかった。年齢別事例数は製品によって偏りが見られるものがあり、芳香・消臭・脱臭剤は0〜9歳にピークが見られ、漂白剤や洗浄剤(住宅用・家具用)は0〜9歳以外に40歳代と30歳代の報告件数が、殺虫剤は30歳代と50歳代の報告件数が多かった。

性別では、女性が399件(54.8%)、男性が302件(41.5%)、不明が27件(3.7%)で男女比は前年度とほぼ同等であった。電話での問い合わせのため、記載漏れ等があり、被害者の性別不明例が多少存在する。

健康被害の問い合わせ者は、一般消費者からの問い合わせ事例が543件(74.6%)、受診した医療機関等医療関係者からの問い合わせ事例が185件(25.4%)であった。

症状別に見ると、症状の訴えがあったものは513件(70.5%)、なかったものは207件(28.4%)、不明のものが8件(1.1%)であり、症状の訴えがあったものの割合は前年度より若干増加して70%を超えた。症状の訴えがあった事例のうち、最も多かったのが、咳、喘鳴等の「呼吸器症状」を訴えたもの220件(30.2%)、次いで、悪心、嘔吐、腹痛等の「消化器症状」を訴えたもの173件(23.8%)で、眼の違和感、痛み、充血等の「眼の症状」を訴えたものが148件(20.3%)、頭痛、めまい等の「神経症状」を訴えたものが107件(14.7%)であった。前年度と比べて上位に占める症状はほとんど変動していない。

発生の時期を見ると、品目別では、殺虫剤による被害が5〜10月に多い。また、曜日別では、特に傾向は認められなかった。時間別では午前8時〜午後8時の間にほぼ均等に発生しており、午後11時から午前7時頃までが少なくなっていた。これらの発生頻度は前年度と比較して際だった変化はなく、生活活動時間に比例して多くなっている。

(3)原因製品別の結果と考察

1)殺虫剤・防虫剤

殺虫剤・防虫剤に関する事例は178件(有症率74.2%)で、そのうち、殺虫剤が165件(前年度より約20%減)、防虫剤13件(前年度より約20%減)といずれも減少していた。

被害事例の状況として、発生頻度順に見ると、

1.乳幼児・認知症患者など危険認識能力が十分にないものによる事例

2.適用量を明らかに超えて使用した事例

3.ヒトの近辺で使用し、影響が出た事例

4.用法どおり使用したと思われるが、健康被害が発生した事例

5.蒸散型の薬剤を使用中、入室してしまった事例

6.換気を十分せずに使用した事例

7.用法を十分確認せずに使用したことによる事例

8.薬剤を使用中であることを周知しなかったことによる事例

9.本来の用途以外の目的で使用した事例
使用時に風下にいたため、吸入した事例
スプレーで噴射方向を誤ったことによる事例

等が挙げられる。手軽に使用できるエアゾールや蒸散型は、使用方法を誤ると健康被害につながる可能性が高く、使用の際には細心の注意が必要である。蒸散型薬剤の使用中に在室した、全量噴射型エアゾールを手に持って操作した等、用法を十分に確認せず使用した事例も散見されたことから、使用前に製品表示を熟読し、よく理解した上で正しく使用するべきである。また保管、廃棄の際にも注意が必要である。

家庭用に販売される不快害虫防除を目的とした殺虫剤に関して、平成17年7月に家庭用不快害虫用殺虫剤安全確保マニュアル作成の手引きが作成された。製造・輸入を行う事業者においては、当該マニュアル作成の手引きに基づき安全性の確保や表示の方法等に対する適切な取組みが期待される。

◎事例1 【原因製品:殺虫剤(スプレータイプ)】

患者     2歳 男児
状況    エアゾール式の殺虫剤の噴射口を口に入れ、自分で噴射した。直後に咳き込み、嘔吐した。現在症状は治まっているが、口の中が気持ち悪そうである。
症状    咳き込み、嘔吐、流涎(10分後には治まった)
処置・転帰    外来にて経過観察。

◎事例2 【原因製品:殺虫剤(スプレータイプ)】

患者     59歳 女性
状況    台所の出窓にアリが出たので、エアゾール式の殺虫剤を3〜4日のうちに7回ほど、窓枠が濡れるくらい散布してしまった。換気扇は回していたが、窓は開けなかった。3月の寒い日で暖房していたため、ガスが部屋中に充満した。
症状    喘鳴、喘息様症状
処置・転帰    外来にてステロイド吸入、2週間ほどで軽快。

◎事例3 【原因製品:殺虫剤(液体蚊取り)】

患者     49歳女性、19歳、14歳(性別不明)
状況    約5畳の部屋で窓を閉め切って、夜から朝まで液体蚊取りを使用した。就寝していた3名が症状を訴えて受診した。
症状    咳き込み、悪心、脱力
処置・転帰    外来にて処置。

◎事例4 【原因製品:殺虫剤(蒸散型)】

患者     35歳 女性
状況    店舗でくん煙剤を使用した。隣の店の客などが吸引し、13名中3名が救急車で搬送された。自分はその現場にいたが大丈夫だと思い、経過観察を行っていたが、咳がひどく、頭痛も激しいため、心配になった。
症状    咳き込み、鼻・喉の刺激、頭痛、悪心
処置・転帰    外来にて輸液。

◎事例5 【原因製品:殺虫剤(スプレータイプ)】

患者     5歳 男児
状況    母親が虫よけ剤と間違えて、エアゾール式の殺虫剤を子どもにスプレーした。殺虫剤の隣に虫よけ剤がおいてあり、どちらも緑だったので、間違えてしまった。首筋、腕、足に1〜2秒づつスプレーした。
症状    咳
処置・転帰    家庭内で経過観察。
2)住宅用・家具用洗浄剤、洗濯用・台所用洗剤

洗浄剤及び洗剤に関する事例は144件(有症率70.1%)で、前年度(164件)と比較し減少した。そのうち、洗浄剤に関する事例は111件(前年度より約20%減)、洗剤に関する事例は33件(増減無し)であった。最も多いのは、次亜塩素酸ナトリウムなど、塩素系の製品によるもの(59件)であり、製品形態で多いのはポンプ式スプレー製品(76件)であった。

被害事例の状況として、発生頻度順に見ると、

1.乳幼児・認知症患者など危険認識能力が十分にないものによる事例

2.適用量を明らかに超えて使用した事例

3.複数の薬剤が作用し、有毒ガスが発生した事例

4.換気を十分せずに使用した事例

5.マスク等の保護具を装着していなかったことによる事例

6.液体や粉末の薬剤が飛散し、吸入した又は眼に入った事例

等があり、被害を防ぐには、保護具を着用する、換気を十分に行う、長時間使用しない、適量を使用すること等に気を付ける必要がある。

特に、塩素系の洗浄剤と酸性物質(事故例の多いものとしては塩酸や有機酸含有の洗浄剤、食酢等がある)との混合は有毒な塩素ガスが発生して危険である。これらの製品には「まぜるな危険」との表示をすることが徹底されているが、いまだに発生例が見られ、一層の啓発が必要である。また、喘息等の呼吸器疾患のある患者において、塩素系薬剤、酸性薬剤の使用時にそのミストやガスの吸入がきっかけとなって原疾患の症状を発症したと思われる事例もあり、このような疾患のある方は使用しないことが望ましいが、やむを得ず使用する場合には、体調が良い場合であっても、自らの基礎疾患を念頭において、吸入を防ぐために、使用量や換気、保護具等に万全を期す必要がある。

なお、乳幼児の事故事例は、保管場所を配慮することによって防止できるものが多い。

◎事例1 【原因製品:台所用洗剤】

患者     46歳 女性
状況    台所用洗剤がはねて眼に入った。その時は大した事はないと思い、コンタクトレンズを外したり眼を洗ったりはしなかった。
症状    眼の痛み、充血
処置・転帰    症状が出てから洗眼、家庭内で経過観察。

◎事例2 【原因製品:洗濯用洗剤(粉末)】

患者     4か月 女児
状況    入浴後、小児を下に置いた状態で母親が棚のバスタオルを取ろうとした時に、近くにあった洗剤を落としてしまい、小児の頭から洗剤がかかった。眼に入った可能性はあるが、吸い込んではいない。
症状    皮膚の発赤 
処置・転帰    家庭内で水洗、経過観察。翌日に症状が現れたが、その日の内に治まった。

◎事例3 【原因製品:ガラス用洗剤】

患者     2歳 女児
状況    ポンプ式スプレーのロックをし忘れて台所の床に住居用洗剤を置いていたところ、小児がいたずらし、顔に向けて1回噴射した。眼に入ったが吸入した様子はない。
症状    眼の痛み
処置・転帰    家庭内で洗眼後、経過観察。

◎事例4 【原因製品:カビとり用洗浄剤(塩素系)】

患者     56歳 男性
状況    浴室掃除のため、カビ取り用洗浄剤3本分を洗面器にあけ、窓掃除用ワイパーのスポンジ部分にカビ取り剤を含ませて2時間にわたり壁や天井を掃除した。浴室は1.5畳で換気扇を回し、水泳用のゴーグル、カッパ、マスク、手袋を着用したが、手袋は破れていたので指先に洗浄剤が付いてしまった。
症状    鼻・喉の刺激感、悪心、口渇(2週間後も具合が悪い)
処置・転帰    換気、水洗後、経過観察

◎事例5 【原因製品:カビとり用洗浄剤(塩素系)/食酢】

患者     39歳 男性
状況    浴室でカビ取り用洗浄剤を使用し、軽く流した後に食酢で拭き取った。浴室の窓は閉めていて換気扇を回していた。その後、症状が発現した。
症状    喉の刺激感、足のしびれ、倦怠感、気分不良、頭痛
処置・転帰    家庭内で経過観察、2,3日で徐々に軽快。
3)漂白剤

漂白剤に関する事例は48件(有症率60.4%)で、このうち塩素系が36件と最も多く、大半を占めた。

被害事例の状況として

1.乳幼児・認知症患者など危険認識能力が十分にないものによる事例

2.複数の薬剤が作用し、有毒ガスが発生した事例

等があり、注意が必要である。塩素系の漂白剤と酸性物質とを混合し発生した塩素ガスを吸入した事例も相変わらず見られ、前述の洗浄剤と合わせると混合により塩素ガスが発生したと考えられる事例は12件(有症率66.7%)であった。塩素ガスを発生させる恐れのある漂白剤には「まぜるな危険」の表示、そうでなくとも「他剤と混合しない」という注意書きがなされているところではあるが、これら混合の危険性について一層の啓発を図る必要がある。また、スプレー製剤に一部共通するところがあるが、前項の住宅用・家具用洗浄剤と同様に、喘息等の呼吸器疾患のある患者において、塩素系薬剤、酸性薬剤の使用時にそのミストやガスの吸入がきっかけとなって原疾患の症状を発生したと思われる事例があった(事例2)。

◎事例1 【原因製品:漂白剤(塩素系)/漂白剤(酸素系)】

患者     48歳 女性
状況    大量のタオルを漂白する目的で、水をはった洗濯機に塩素系と酸素系の漂白剤をそれぞれ100mL以上いれたところ白く濁った。フタを開けて覗き込んだところ頭がクラクラした。窓を開けて直ぐに喚気した。洗濯槽の水は排水し、洗濯物は水でゆすいだ。
症状    めまい(翌日まで続いた)、眼の痛み、喉の違和感
処置・転帰    家庭内で経過観察。

◎事例2【原因製品:漂白剤(塩素系)/塩酸】

患者     61歳 男性
状況    喘息の既往のある成人が浴室の掃除をした際、塩素系漂白剤と塩酸を混ぜ、発生したガスを吸入したため受診した。塩酸は仕事場で使っているものを持ち帰っていた模様。
症状    咳込み,息苦しさ,喘鳴,喘息様発作
処置・転帰    酸素投与,輸液,気管支拡張薬投与。入院(2日)

◎事例3 【原因製品:漂白剤(塩素系)/カビ取り用洗浄剤】

患者     49歳 女性
状況    カビ取り用洗浄剤の空の容器を洗ってから塩素系漂白剤の希釈液をいれて浴室で使用した。マスクをして換気扇はつけていた。窓は開けていなかった。
症状    悪心、嘔吐、動悸(悪心は30分後には治まった)
処置・転帰    不明

◎事例4 【原因製品:漂白剤(塩素系)】

患者     38歳 女性
状況    布を漂白するため、布に漂白剤の原液をかけたところ、溶け始めて変な臭いがしたため、あわてて水をかけた。布に塩素サラシ禁止と書かれていたが、それに気付かなかった。
症状    鼻・喉の刺激感、口腔咽頭痛み(その日のうちに治まった)
処置・転帰    うがい・水分摂取後、受診。外来にて経過観察。

◎事例5 【原因製品:漂白剤(酸素系)】

患者     1歳 男児
状況    母親が台所で料理中に、小児が洗濯機の上に置いてあったポンプ式スプレータイプの漂白剤を取り、顔にかけた。洋服が濡れており、眼、口に入った可能性がある。手で眼をこすった可能性もある。
症状    咳き込み(直後のみ)
処置・転帰    洗眼・洗顔・水分摂取後、家庭にて経過観察。
4)芳香・消臭・脱臭剤

芳香・消臭・脱臭剤に関する事例は85件(有症率54.1%)で、前年度(82件)からほぼ横ばいである。被害状況としては、

1.乳幼児・認知症患者など危険認識能力が十分にないものによる事例

2.スプレーで噴射方向を誤ったことによる事例

3.用法どおり使用したと思われるが、健康被害が発生した事例

等が見られた。多種多様な製品が販売されており、事故の発生状況も製品の形態や使用法により様々であることから、今後も注意が必要である。

なお、上向きに噴射されるタイプの芳香剤エアゾールにおいては、噴射方向を充分に認識していなかったために眼に入ってしまったという事故が過去に散見されたが、今年度も類似の事例があり、引き続いて注意喚起が必要である。また、携帯用液体消臭剤(トイレ用)を点眼薬と間違える事故に関しては、前回報告時期半ばで容器の大幅な変更がなされた製品があり、今回は類似の事故報告はなかったものの、今後も動向を確認していく。

◎事例1 【原因製品:脱臭・消臭・芳香剤(スプレータイプ)】

患者     74歳 男性
状況    施設で認知症の高齢者がエアゾール式の消臭剤を口に向けて噴射した。容器は軽くなっているが元の量は不明である。口から臭いがする。鼻から入ったかは分からない。
症状    顔面紅潮、酩酊
処置・転帰    不明

◎事例2 【原因製品:脱臭・消臭・芳香剤(スプレータイプ)】

患者     52歳 女性
状況    エアゾール式芳香剤が、誤って眼に入ってしまった。噴射口が上向きになっており、眼に入りやすいため、3〜4日前にも同様のことがあった。
症状    翌朝、目やにが出た
処置・転帰    2日後受診、外来で洗眼処置。

◎事例3 【原因製品:エッセンシャルオイル】

患者     成人(年齢不明) 女性
状況    目薬と間違えてユーカリ油を1滴目にさしてしまったと薬局に電話相談があった。
症状    角膜損傷
処置・転帰    不明
5)園芸用殺虫・殺菌剤類等

園芸用殺虫・殺菌剤類等に関する事例は52件(有症率82.7%)、そのうち、園芸用殺虫・殺菌剤類に関する事例は30件、除草剤は16件、肥料4件であり、前年度と比較して減少していた。成分別では有機リン含有剤20件、ピレスロイド含有剤7件、グリホサート含有剤6件であった。

被害状況としては

1.マスク等の保護具を装着していなかったことによる事例

2.ヒトの近辺で使用し、影響が出た事例

3.薬剤を使用中であることを周知しなかったことによる事例

4.乳幼児・認知症患者など危険認識能力が十分にないものによる事例

等が見られた。屋外で使用することが多く、使用者以外にも健康被害が発生しているのが特徴である。家庭園芸用であっても十分な注意喚起を図る必要がある。

◎事例1 【原因製品:園芸用殺虫剤(顆粒)】

患者     成人(年齢不明) 男性
状況    2時間程度、農薬を散布した。マスクをせず、手袋を着用していた。今回この農薬の使用は初めてであり、作業中から気分が悪かったが、天候のせいだと思っていた。症状が治まらないため受診した。
症状    頭痛、悪心
処置・転帰    不明

◎事例2 【原因製品:園芸用殺虫殺菌剤(スプレータイプ)】

患者     小児(年齢・性別不明)
状況    ポンプ式スプレータイプの園芸用殺虫・殺菌剤を自分の顔に向けて噴霧した。口の周りが濡れており、むせて嘔吐したため受診した。
症状    咳き込み・嘔吐
処置・転帰    不明

◎事例3 【原因製品:園芸用殺菌剤、園芸用展着剤】

患者     47歳 女性
状況    農薬を混合し、水でかなり薄めて家庭用の霧吹きで庭木に散布した。噴霧した際に、霧が微量に目に入った。手袋、マスクを使用、眼鏡をしていたため専用の眼鏡はしなかった。風のない日を選んだが一瞬風が吹いて、目に入った。
症状    目の違和感(視力検査、眼底検査では異常なし)
処置・転帰    全身洗浄、洗眼。翌日受診し外来にて点眼薬処方

◎事例4 【原因製品:園芸用殺虫剤】

患者     36歳 男性、他4名 
状況    有機リン系園芸用殺虫剤1本を台所の流しに廃棄したところ、臭いが充満してその場にいた4〜5人に悪心、頭痛などの症状が出現した。
症状    悪心、頭痛
処置・転帰    不明
6)消火剤

消火剤に関する事例は50件(有症率66.0%)であり、前年度(43件)と比較して増加した。被害状況としては、消火器が倒れて消火剤が噴出した例、誤って噴射し吸入した例等、使用時以外の被害が目立ち、取扱いや保管には十分な注意が必要である。また、火災のため使用の際や、その後の清掃時に吸入する事例も見られ、清掃時にはマスクをするなど、吸い込んだり、目や皮膚に付着したりしないよう注意が必要である。

健康被害の防止のためには、消火器の使用者はあらかじめ製品表示や取扱説明書をよく読んで使用方法や清掃方法について確認し、いざという時に正しく使用する必要がある。また消火器設置者には、保管中の誤噴射を防ぐため、消火器格納箱へ収納する、転倒防止スタンドを使用するなどの工夫をすることが望まれる。

◎事例1 【原因製品:粉末消火剤】

患者     両親、5歳及び1歳
状況    小児が消火器のストッパーを抜いてしまっていたのに気付かず放置していたところ、棚の上から物が落ちて、消火器が作動してしまった。舞い上がった粉を家族4人が一瞬吸い込んだ。
症状    咳(すぐに治まった)
処置・転帰    新鮮な空気下へ移動後、家庭内で経過観察。

◎事例2 【原因製品:粉末消火剤】

患者     21歳 男性、23歳 男性
状況    消火器で消火にあたった調理師が気分不良で受診した。
症状    悪心、嘔吐、喉の不快感
処置・転帰    外来にて、酸素投与。
7)防水スプレー

防水スプレーに関する事例は17件であり、報告件数は前年度より若干増加した。防水スプレーについては、過去に、死亡事故を含む、呼吸困難、咳等の呼吸器系中毒症状を主訴とした急性中毒事故が多発した。その後、エアゾール協会によるエアゾール防水剤の安全性向上のための暫定指針(平成6年)や防水スプレー安全確保マニュアル作成の手引き(平成10年)が策定され、一旦、事故が減少していたが、近年、再び増加傾向にある。また過去には冬場に多く事故が発生する傾向があったが、今年度の事例は必ずしも特定の季節に集中しておらず、使用する目的の幅が広がっていることが推測される。

しかし、いずれの事故も咳、呼吸困難等、呼吸器を中心とした症状を来たしており、一部製品によっては重症化し、呼吸管理のため入院を必要とした事例が複数見られた。防水スプレーは、本来は屋外で使用すべきものであるが、室内で使用したため換気がなされず吸入したと考えられる事例が大半を占めた。また風が強い屋外で使用したために吸入した事例もあった。また過量使用と思われる事例も複数あった。使用にあたっては、使用する場所や周囲の環境、使用量に十分な注意を払うよう、改めて注意喚起したい。

◎事例1 【原因製品:防水スプレー】

患者     51歳 男性
状況    玄関で自分の上着に防水スプレーを噴霧した直後、その上着を着てタバコを吸いながら、車を運転してゴルフ場に向かった。ゴルフプレー後、呼吸苦を訴えて14時間後に受診した。
症状    息苦しさ、悪心、湿性ラ音、血液ガス異常
処置・転帰    酸素投与、ステロイド剤投与。入院(10日間)。

◎事例2 【原因製品:防水スプレー】

患者    30歳 男性
状況   1か月程前、室内でエアゾール式の防水剤を1本使用した。直後に症状が出現し、4時間後に受診、3日後に退院となった。その半月後から息切れが出現したとのことで医療機関を受診した。
症状   咳、呼吸困難、悪心、脱力、胸部X線異常、過敏性肺臓炎
処置・転帰   不明
8)その他

また、昨今色々な商品が発売されているが、それに伴って家庭の中でも様々な目新しい商品による事故の発生例が報告されている。

ケミカルライトに関する事故については、子どもに集中していた。子どもが使用するあるいは子どもの周囲で使用する際には、親など周囲の大人が注意することが必要である。

◎事例1 【原因製品:ケミカルライト】

患者     1歳 男児
状況    腕輪型のケミカルライトを噛んで液が飛散し、顔中にかかった。眼や口にも入った。
症状    眼の充血
処置・転帰    水洗後、外来にて経過観察し、翌日には軽快した。
注 「ケミカルライト」: ポリエチレンチューブの中にガラスアンプルが入った2重構造の棒状やリング形の製品が多い。チューブを軽く曲げて、中のガラスアンプルを割ることで、アンプル内外の液体が混ざり合い、発光する。主成分として、フタル酸エステル、シュウ酸化合物、過酸化水素等が使用されているものがある。

◎事例2 【原因製品:シールはがし】

患者     66歳 女性、72歳 男性
状況    台風対策で窓枠に貼った粘着テープを剥がそうとして、エアゾール式のクリーナーを20〜30分使用し、その間、粘着テープで密閉された室内で吸入した。
症状    悪心、皮膚の違和感
処置・転帰    換気後、軽快、家庭内で経過観察。

◎事例3 【原因製品:スノースプレー】

患者     5歳 男児
状況    窓ガラスディスプレー用のスノースプレーを使用した。換気をしながら行っていたが、男児が症状を訴えている。
症状    頭痛(少しずつ軽快)
処置・転帰    不明

(4)全体について

この報告は、医療機関や一般消費者から(財)日本中毒情報センターに問い合わせがあった際、その発生状況から健康被害の原因とされる製品とその健康被害について聴取したものをまとめたものである。医療機関に対してはアンケート用紙の郵送により、また一般消費者に対しては電話によって追跡調査を行い、問い合わせ時以降の健康状態等を確認しているが、一部把握し得ない事例も存在する。しかしながら、一般消費者等から直接寄せられるこのような情報は、新しく開発された製品を含めた各製品の安全性の確認に欠かせない重要な情報である。

今年度も前年度同様、小児の健康被害に関する問い合わせが多くあった。保護者は家庭用品等の使用時やその保管方法に十分注意するとともに、製造事業者等も小児のいたずらや誤使用等による吸入事故が生じないような対策を施した製品開発に努めることが重要である。

製品形態別では、スプレー式の製品による事故が多く報告された。特に防水スプレーの使用に伴う事故は近年再び増加傾向にあり、今年度は入院加療が必要な重症例もみられた。スプレー式の製品は内容物が霧状となって空気中に拡散するため、製品の種類や成分に関わらず吸入や眼に入る健康被害が発生しやすい。使用にあたっては換気状況を確認すること、一度にたくさんの量を使用しないこと等の注意が必要である。形態的に誤使用及び事故を生じやすいと考えられる商品も存在するため、事業者においては、出来る限り使用状況についての情報を収集し、改良を施す等の適切な対応をとることが求められる。また、消費者においても、製品を使用する際には使用上の注意を良く読み、適正な使用方法を守ることで、誤使用等を防ぐように努めることが大切である。また、今回報告されたケミカルライトなどの事故にみられるように、新しいタイプの製品では、予期しない事故が生じる可能性も考えられるため、事業者においては成分の安全性や類似製品による事故情報等の収集に努め、安全性に留意した対応を取るべきである。また、消費者においては、たとえ使用上の注意に書かれていないことであっても、小児が使用する際には最大限注意することが、新たな事故防止につながると考えられる。

主成分別では、塩素系の洗浄剤等による健康被害報告例が相変わらず多く見られた。塩素系の成分は、臭いなどが特徴的で刺激性が強いことからも報告例が多いものと思われるが、使用方法を誤ると重篤な事故が発生する可能性が高い製品でもある。また、呼吸器疾患のある患者において、塩素系薬剤、酸性薬剤の使用時にそのミストやガスの吸入がきっかけとなって原疾患の症状を発症したと思われる事例もあった。消費者が使用法等に特に注意を払うことも必要であるが、製造事業者等においては、より安全性の高い製品の開発に努めるとともに、消費者に製品の特性等について表示等による継続的な注意喚起をし、適正な使用方法の推進を図る必要がある。

事故の発生状況を見ると、使用方法や製品の特性について正確に把握していれば事故の発生を防ぐことができた事例や、わずかな注意で防ぐことができた事例も多数あったことから、消費者も日頃から使用前には注意書きをよく読み、正しい使用方法を守ることが重要である。万一事故が発生した場合には、症状の有無に関わらず、(財)日本中毒情報センターに問い合わせをし、必要に応じて専門医の診療を受けることを推奨する。行政においては、一般使用者における安全使用を徹底する観点から必要な措置を講ずるべきである。


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