研究会報告書【骨子】
I 経済社会の変化と企業・労働者を取り巻く状況
1 企業を取り巻く状況
- 経済・雇用の回復、人手不足感の強まり
- グローバル化等→短期的利益を重視する経営姿勢の強まり
- サービス経済化等→人材の重要性が高まる一方、非正規労働者が増加
- 少子高齢化、労働力人口の減少→就業率と生産性の向上が課題
2 労働者を取り巻く状況
- 職業生涯の長期化→就業環境の整備や働き方のあり方の見直しが課題
- 働く者の就業意識の変化、就業形態の多様化
- 長時間労働等に伴う過労やメンタルヘルスの問題など健康上の問題の深刻化
II 企業と働く者の関係
1 状況と課題
○ 集団的関係から個別関係への移行
- 働く者自らが自立的にキャリアを切り開いていくことが求められるとともに、企業も個々人のキャリア開発・形成を支援することが必要に
○ 人材育成・スキルマネジメント
- 優れた人材の確保・育成が経営戦略の要に。
- 納得感・公平感のある評価制度の構築、短期的な経営動向と中長期的な人材育成との両立等が課題
○ 技能継承の問題
- 非正規労働者の増加、若年世代の絶対的不足、ものづくり人材育成機能の弱体化等の中で、円滑な技能継承が課題
○ キャリア支援
- キャリアの自立化に向けた支援、特にキャリアコンサルティングやFA制度等の専門的な仕組みを設けて行う企業は未だ少数
○ 人材の多様化
- キャリアの自立化が求められる中で、プロフェッショナル人材のあり方は、今後の人材育成の一つの方向性を示すものとして注目
- 非正規労働者が増加。本来、多様な就業形態は、働く者の主体的な選択に支えられることが望ましく、キャリアコースの多様化を図る中で、適切に位置付け、能力開発やキャリア支援を行っていくことが必要
○ ワークライフバランス
- 健康上の視点にとどまらず、家庭・地域の生活と調和のとれた働き方を実現するなど、活き活きと働ける環境づくりが必要
○ 中小企業の経営環境と人材
- グループ化等により環境変化への対応を図る例もみられる一方で、極めて厳しい経営環境の下、キャリアの持続可能性に懸念
2 世代別のキャリア形成の状況と課題
○ 若年期における課題
- 年長フリーター等の問題、キャリア教育のあり方と学生側の働くリアリティの欠如の問題、教育内容と企業・産業界のニーズとのミスマッチの問題
○ 中年期におけるキャリアの節目の問題
- 40歳前後の「キャリアの中年期問題」が今後の重要テーマに
- 長時間労働の正規労働者と不安定な非正規労働者との働き方の二極化
○ 定年前後における課題
- 中年期(ミドル)の段階からの準備、高齢者の能力と価値観に合った職務の開発、多様な就業実態に応じた賃金・処遇や職場環境の改善が必要
III 政策の展開
1 政策のあり方
○ これまでの職業能力開発行政
- 平成13年の能開法改正で、職業キャリア(「職業生活設計」)支援を法律に位置付け。仕事そのものを遂行する過程を能力開発という視点で支援していくことや、職業能力の継続的蓄積が可能となるよう職業経験のつながりに配慮すること=「職業キャリア支援」の概念が政策を導く理念に。
○ 「生涯キャリア支援」の必要性
- 少子高齢化の進展等に伴い、「個人」「企業」「社会」のいずれにとっても、職業生涯の観点から、職業キャリアのあり方の見直しが必要に。
- 長期にわたる職業生涯を持続可能なものとし、発展させていくためには、単に「職業」の視点にとどまらず、家庭や地域の生活のあり方との関係も視野に入れて、働き方を見直していくことが必要
- 働く者一人ひとりについて、「ひと」としての多様な活動を可能とし、成長できる働き方を実現していく観点に立って、職業キャリアを生涯にわたり持続可能かつ発展性のあるものとしていくことが必要であり、そのための様々な活動を包括する理念・考え方が「生涯キャリア支援」
- 「生涯キャリア支援」の視点に立って、働く者のキャリアのあり方を見直していくことが必要。見直しの主なポイントとしては、(1)働く者のキャリアの自立化支援、(2)キャリアの転機・節目における客観視の機会やまとまった能力開発機会の提供、(3)再チャレンジできる社会づくり、(4)ライフステージ等に応じた多様で柔軟な働き方の実現、(5)ワークライフバランスの実現
2 企業の取組
○ 生涯キャリア支援と企業の役割
- 企業の人材育成の役割は、企業の社会的責任の中でも大きなものであり、企業の経済合理性にも合致するもの
- キャリア支援は、最も深いレベルでのモチベーション施策でもある。企業は狭義の人材育成にとどまらず、生涯キャリア支援まで考えることが必要。
○ 従業員に対するキャリア支援
- キャリア支援を本格的に進めるには、「時間の確保」「場の提供」「力の養成」の条件整備に併せ、スキルマネジメントの深化、多様なキャリアマネジメントなどを含めた戦略的対応と、そのための専門的体制の確保が必要。
○ キャリアの転換期における支援
- 長期にわたる職業生涯を充実して過ごすためには、何回か訪れるキャリアの「転機」において、これを乗り越えるための集中的なキャリア支援が必要。
- 特に、職業生涯が長期化する中で、「中年期」におけるキャリアの再生のための企業内外の集中的なキャリア支援、「定年を迎える前後」における生き生きと働ける状況づくり、エージフリーで働ける社会へ向けた支援が重要
○ ワークライフバランス
- ワークライフバランスの確保は、働く者個々人のみならず、企業にとっても、競争力や活力の維持向上、人材の確保定着に資するもの
○ 集団的・共同体的な働き方との関係
- 働き方の法的仕組みや意識は、なお集団的・共同体的な枠組みに基づいている面も。チームワークの良さ等につながり効率的な経済活動を可能にした面がある一方で、ワークライフバランスの進展の支障となったり、正規・非正規の処遇面での壁を生み出している側面も。
- 今後、働き方の個別化が進む中で、集団的・共同体的特質との関係をどうしていくか、模索が求められる。
○ 企業の社会的経営責任(CSR)
- CSRの問題を考えるに当たっては、従業員との関係が重要であり、特に生涯キャリア支援の視点を含めていくことが重要
3 今後の政策の展開
○ 教育システムとの連携
- 市場や企業の求める人材像と能力を明らかにするとともに、その中で学校教育や大学教育の果たすべき役割をしっかりと位置付けていく必要
- 家庭や地域における教育力の向上
○ キャリアの持続可能性の確保
- 高齢者に見合った職務の開発・普及等
- 節目におけるキャリア支援が重要であり、休暇制度に対する助成のほか、年休未消化分の教育訓練休暇への切替等の政策的対応も検討
- キャリアにブランクができた者等に対する再チャレンジ支援
- ワークライフバランス対策の推進
○ インフラづくり
- 企業現場の技術・技能の開示促進、産業界が主体となった訓練や能力評価の基準作り、優れた指導者や評価者等が不可欠。そのための専門家集団の育成も必要。団塊世代等の活躍に期待
○ 市場の形成と社会性
- キャリアの個別化・自立化に対応した契約等のあり方見直し
- 一つの企業内における「雇用」の安定を旨とした政策から、「職業」を中心としてEmployabilityを高める政策を本格的に検討することも必要
- 個々人の自立的活動を支えるネットワークや中間的組織のような場づくりが重要。団塊世代を嚆矢として、新たな「公」の場の形成を。
- CSRの議論や、SRIの動きも活発。市場の圧倒的な影響力の前にともすればキャリア支援政策が後退を余儀なくされる面もあるが、「ひと」としての立場に立つことで、市場自体に「社会性」を持たせることにより、キャリア支援政策等の推進力にしていく視点も重要