生涯キャリア支援と企業のあり方に関する研究会
報告書のポイント
平成19年7月
【検討の背景・体制】
○ グローバル化等に伴う競争激化、ポスト工業化社会の到来、少子高齢化の急速な進展、職業生涯の長期化など、企業・労働者を取り巻く状況が大きな「転機」を迎えている中で、「働く者個々人の持続的な成長」、「企業活動の活性化」、「活力ある社会の発展」をともに実現していく観点から、それらの共通項である「働く者」(「ひと」)の「職業生涯」を軸として、それと最も関わりの深い「企業」(「企業社会」)に関わる問題状況と、今後の職業キャリア支援策のあるべき方向を探ることとしたものである。
○ こうした趣旨から、企業の実務家や企業における人材育成・キャリア支援の実態に詳しい実務家の参集を得て、幅広く検討を行った。
【報告書のポイント】
○ 企業・労働者を取り巻く状況や、企業と働く者の関係は、大きな「転機」を迎えており、「働く者個々人」「企業」「社会」のいずれにとっても、働く者の職業生涯の観点から、職業キャリアのあり方を見直すことが重要な課題となっている。 <I、II>
- 働く者個々人の持続的な成長のために・・・働く者個々人が、長い職業生涯の各段階において、能力を修得し積み重ねられるような方策や、メンタル面を含め健康を維持し、活き活きと働き、暮らせる方策等が必要。
- 企業活動の活性化のために・・・中高年になっても従業員が活力をもって働き続けられるための方策(ミドル層を如何に活性化させるかが企業の競争力に関わる重要な案件になるが方法論は未整備)や、男性も女性も長期的に仕事と生活のバランスのとれるような環境整備等が必要。
- 活力ある社会の発展のために・・・高齢者等の就業率の向上を図るとともに、再チャレンジ、多様な働き方の実現等により、様々な資質・能力を持つ個人が仕事と生活のバランスを図りつつ、充実したキャリアを歩めるような社会づくりが必要。
○ 「生涯キャリア支援」が、今後のキーワードになる。 <III-1>
- 働く者は、経済活動の主体であると同時に、次世代を生み育てる生活者でもあり、付加価値を創造する文化的・社会的活動主体でもあるといった多様な側面を有している。
- 少子高齢化やポスト工業化等が進む中にあって、働く者の「ひと」としての多様な活動を可能とし、成長できる働き方を実現していくことが、本人の能力開発・発揮という点のみならず、企業や経済社会の均衡ある発展にとっても極めて重要。
- 働く者一人ひとりについて、こうした働き方を実現していく観点に立って、職業キャリアを将来にわたり「持続可能」かつ「発展性」のあるものとしていくことが必要であり、そのための様々な支援の取組を包括する理念・考え方が「生涯キャリア支援」。
- 今後、「生涯キャリア支援」の観点から、働く者の職業キャリアのあり方を見直すとともに必要な支援を行っていくことが必要。
○ 「生涯キャリア支援」の観点からのあり方のポイント <III-2,3>
[1] 過度に企業に依存した職業キャリアや意識から、「自立」できる方向へ支援していくこと。
※働く者個人が自ら職業キャリアの方向付けを迫られる機会が拡大してきていることや、長い「生涯」キャリアを考える場合、会社におけるキャリアは一時期のものであり、家庭や地域での生活を含めた「ひと」としてのキャリアのあり方を重視する必要があること等から、本報告においては、キャリアの「自立」という表現を使うとともに、同時に企業の様々な「支援」の必要性を指摘。
※企業の支援として、プロフェッショナル人材の育成、「時間の確保・場の提供・力の養成」による「専門軸」の強化、中長期的視点に立ったスキルマネジメントとキャリア支援の専門的体制等を指摘。
[2] 長い職業生涯におけるキャリアの転機や節目で、今後のキャリアを考える機会やまとまった能力開発機会などが与えられること。
※キャリアの転機や節目における支援策として、キャリア・ブレイク、転機におけるキャリア・コンサルティング、選択肢や場の提供など、転機を乗り越えるための集中的なキャリア支援が重要。
※「生涯」キャリアの発展を考えると、中年期(ミドル)の節目において、自らのキャリアを振り返る(自己を「客観視」する)機会づくりや、「強み」を生かす戦略などが今後重要に(キャリアの中年期問題)。
[3] 失敗しても、教育訓練が受けられることなどにより、再チャレンジできる社会であること。
[4] 働く者個人のライフステージ等に応じて、多様な働き方が柔軟に選択できること。
※非正規労働者が増加。本来、多様な就業形態は、働く者の主体的な選択に支えられることが望ましく、キャリアコースの多様化を図る中で、適切に位置付け、能力開発やキャリア支援を行っていくことが必要。
[5] 育児・介護に限らず、広い意味で家庭生活や地域での活動等と調和の取れた働き方(ワーク・ライフ・バランス)が図られること。
※ 「生涯」キャリアを持続可能なものとして発展させていくためには、「職業キャリア」自体の範囲を、雇用労働に限らず、自営、NPO活動など幅広く視野に入れるとともに、単に、「職業」の視点にとどまらず、次世代を生み育てる生活者や付加価値を創造する文化的・社会的活動主体としての視点を含め、調和のとれた働き方(ワーク・ライフ・バランス)を進めていくことが不可欠。
○ キャリア支援を推進するためには、「企業」のキャリア支援の取組が重要となるが、企業のできないことについては、企業を超えた取組や、公的な政策を進めていくことが必要になる。<III-3>
- キャリア支援インフラの整備が必要であり、具体的には、産業界主導による訓練や能力評価基準の整備と支援、教育訓練を担う機関・団体の育成、個人のキャリア形成と企業組織の活性化の双方を進めるキャリア・コンサルティングの高度化などが重要。
- また、企業内だけで、多様なキャリア展開に見合う選択肢を提示することは困難であり、企業グループ内でのキャリア開発を含め、中高年齢者などを中心に、キャリア支援政策に併せ、様々な職務の開発や起業を支援していくこと、NPO等の活動を含め地域貢献的活動などの受け皿の開発を講じていくこと等が必要。
- さらに、各世代の従業員の意識調査(サーベイ)などを起点として、企業内において、各世代が生き生き働けるような環境づくりにつなげていくことも重要。
○ 以上のように、企業内の実態を踏まえ、キャリア支援に係る多様な論点について、整理、方向づけがなされたが、同時に、今後、さらに議論すべき課題として、いくつかの問題提起もなされている。 <III-3>
- 働く者のキャリアの自立化やワーク・ライフ・バランスのとれた働き方を進めていくためには、企業における過度に共同体的・集団的働き方から、個人が契約に基づいて働き方を選択できる仕組みに変えていくことなど、働き方の意識や慣行、制度面・法律面の仕組みを見直すことの必要性も指摘。
- 企業と働く者の関係が、依存から自立へと次第に変わろうとする中で、これまでの一つの企業内における雇用の安定を旨とした政策に加え、「職」を中心としてEmployabilityを高める施策や個人の多彩な活動を支えるネットワーク・組織をつくる施策、さらには、こうしたネットワークや中間組織を核として、新たな「公」を形成していくことの重要性も指摘。
- また、企業の社会的責任(CSR)の問題を考えるに当たっては、生涯キャリア支援の視点を含めて考えていくことが重要。競争市場の圧倒的な影響力の前に、キャリア支援施策が後退を余儀なくされる傾向にある中で、消費・投資市場、労働市場を含め、人材育成・キャリア支援が市場で評価されるようなあり方を模索し(市場自体に社会性を持たせ)、政策の推進力にしていくことの必要性についても指摘。