厚生労働省発表
平成19年5月9日
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G8労働大臣会合(ドイツ・ドレスデン)の結果概要

G8労働大臣会合は、先進主要国の共通の雇用問題に対処し、その解決策について討議することを目的に、年に1回程度、首脳サミット参加国(G8)の労働担当大臣及びEU、ILO、OECDの代表が参加して行う会合である。

今般、ドイツ・ドレスデンにおいて開催されたG8労働大臣会合の結果概要は下記のとおり。

なお、会合では、2008年のG8労働大臣会合を日本で開催することが合意された。

1.会期及び場所

2007年5月6〜8日  ドイツ・ドレスデン

2.出席者

(1)首脳サミット参加国(G8;日本、ドイツ、英国、米国、フランス、ロシア、カナダ、イタリア)の労働担当大臣等、EU労働担当委員、ILO事務局長、OECD事務総長が出席。

(2)日本からの出席者は、松野厚生労働大臣政務官、妹尾大臣官房国際課長 ほか

3.テーマ

「グローバル化の社会的側面の形成」
さらに、サブテーマとして、

[1]G8諸国におけるより多くのより良い雇用の創出のための戦略
[2]発展途上国及び新興経済圏における社会保護の拡大と強化
[3]企業の社会的責任(CSR)

が取り上げられた。
4.議事の概要

<5月7日>

全体会合[1]「G8諸国におけるより多くのより良い雇用の創出のための戦略」

○ 各国・各機関の出席者からの発言に先立ち、OECDより、基調講演として、グローバル化の社会的側面の形成のためには、その果実を適切に配分するための各国の国内政策が重要であること等が述べられた。

○ 続いて、G8諸国・EU・ILOの出席者から、グローバル化がもたらす経済成長の促進等のポジティブな影響をいかに強めるか、また、企業間の競争激化に伴う失業や労働条件の切下げ等のネガティブな影響をいかに弱めるかについての評価や分析、それらを踏まえて各国や各機関で実施されている施策の紹介等が行われた。

○ 日本からは、松野政務官より、

[1] 我々は、世界に富をもたらし得るグローバル化という状況を受け入れながら、これを世界の人々にとってより公平で公正なものにしていくことに取り組んでいく必要があること

[2] こうした取組を進めることは、ILOが掲げる「すべての人にディーセント・ワークを」という目標の実現につながるものであること

[3] 日本では、競争激化の結果として発生している「勝ち組、負け組」を固定させないための施策として、「再チャレンジ支援」に政府を挙げて取り組んでおり、今国会に多数の関連法案を提出するとともに、予算上も多様な施策を講じることとしていること

等が述べられた。

全体会合[2]「発展途上国及び新興経済圏における社会保護の拡大と強化」

○ 各国・各機関の出席者からの発言に先立ち、ILO・世界銀行・ブラジル(ゲスト)より、基調講演が行われた。ILOからは、途上国では、社会の安全網を整備するとともに社会の基盤を確立することがまず必要であり、ILOとしてもそのための各国の取組を支援すること等が、世界銀行からは、発展途上国に対する開発援助について質・量の両面から向上させることが必要であること等が、ブラジルからは、世界的には社会保護の充実した国がリーダーとなっており、社会保護はコストのかかるものと考えるのではなく、成長への投資と考えることが必要であること等が、それぞれ述べられた。

○ 続いて、G8諸国・EU・OECDの出席者から、発展途上国において社会保護を整備することの意義(貧困の削減など)やその実現可能性の評価、それらを踏まえて各国や各機関で実施されている発展途上国の支援のための施策の紹介等が行われた。

○ 日本からは、松野政務官より、

[1] 世界の中で急速に経済発展してきている国々では、農村の高齢化や都市化といった社会構造の大きな変化が起こる中で、社会保障の必要性が高まっていること

[2] 我が国の社会保障は、高度経済成長と平行して整備が進められ、高度経済成長の終了までに社会保障の基礎的部分の整備は完了していたこと

[3] アジア諸国を見ると、まだまだ社会保障の整備が追いついていないケースが多い中で、多くの国ではすでに少子高齢化という状況も現れており、十分な経済成長が達成される前に高齢化の波が押し寄せる危険性があること

[4] 日本としては、自らが得てきた経験を伝えることで、こうした国々の社会保障の整備を支援していきたいこと

等が述べられた。

<5月8日>

全体会合[3]「企業の社会的責任(CSR)」

○ 各国・各機関の出席者からの発言に先立ち、ドイツの製鉄メーカーであるアルケローア社より基調講演が行われ、自社におけるCSRに関する実例が紹介された。

○ 続いて、G8諸国・EU・ILO・OECDの出席者から、企業によるCSRへの自発的な取組の意義、CSRの取組を支援するための政府の役割、それらを踏まえて各国や各機関で実施されているCSRの実施支援のための施策の紹介等が行われた。

○ 日本からは、松野政務官より、

[1] 近年、我が国においては、働き方の見直しの議論が行われる中で、CSRに対する感心が高まってきており、健康面などで従業員の働き方に十分配慮を行っていくことは、社会の一員としての企業の本来的な責務であること

[2] 労働に関するCSRとして企業に望まれるのは、人材育成やキャリア形成支援、個人の生き方に応じた労働環境の整備などであり、企業がこうした取組を進めることは、優れた人材の定着、人材の多様化による新しい発想の獲得、市場での評価の高まりなど、企業自身にとってもプラスの効果が期待できること

[3] 企業が適切にCSRを推進していくために、国としても企業に情報や判断材料の提供を行い、側面から支援していくことが必要であること

等が述べられた。

議長総括のとりまとめ

○ 個別テーマに関する議論が終了した後、議長国ドイツより議長総括案(別添)が示された。

○ その際、松野政務官より、来年のG8労働大臣会合を日本で開催する意向が伝えられ、この点も含め、議長総括案全体について全会一致で合意された。

以上



仮訳


G8労働大臣会合
グローバル化の社会的側面の形成
ドレスデン、2007年5月6−8日

議長総括


1. G8諸国の労働大臣及びEU雇用・社会・機会均等の担当委員は、ILO、OECDの代表者とともに「グローバル化の社会的側面の形成」というテーマについて話し合うために会合を持った。また、ブラジルの社会的供給大臣や世界銀行の代表者がゲストとして招待された。なお、2007年5月6日、この会合の準備のため、各国大臣とソーシャル・パートナーの代表者との会合が催された。

2. 議長国ドイツの提案に従い、我々G8労働大臣は、3つの行動分野に着目して、グローバル化の社会的側面のもたらす機会と挑戦について議論した。それらは、

−G8諸国におけるより多くのより良い雇用の創出のための戦略
−発展途上国及び新興経済圏における社会保護の拡大と強化
−企業の社会的責任(CSR)

3. このことを背景として、我々は次のような基本的状況について合意した:

−我々は、グローバル化が世界経済に対してより多くの富、成長、雇用、人々のより良い生活を提供するものであることを強調する。政府の政策は、人々がこれらの機会を有効に利用するよう、助けることができるし、助けるべきである。

−グローバル化はまた、不平等と適応困難という結果も導き得るものであり、それゆえ我々は、グローバル化の社会的側面の形成に向けた雇用と社会保護に関する戦略が必要であると、固く信じる。

−我々は、変化の逆効果に関する市民の懸念を認識している。社会保護に関して譲歩することなく、職間の移動を受け入れ、それが成功裏に行われることを可能にするためのサポートが必要である。

−我々はまた、国際的な労働基準の効率的な奨励・実施及び社会保護を開発するニーズは、社会保護が未発達又は全く存在しない国や地域において、最も緊急の課題であると認識している。

−政府、国際機関、ソーシャル・パートナーは、この課題に取り組む役割を有しており、産業界も同様である。

4. 労働大臣として、我々は、本会合の議題がハイリゲンダムにおけるG8サミットでの政府首脳の注意をグローバル化の社会的側面に向けるものとなることを、また、その形成のための政策的アプローチのポイントを示すものとなることを、望んでいる。

G8諸国におけるより多くのより良い雇用の創出のための戦略

5. 我々は、各国における労働市場の発展と改革について報告を行った。この文脈においては、OECD新雇用戦略が重要な役割を果たしている。我々は、成長指向型のマクロ経済政策のフレームワークにおいて、労働大臣が、経済成長の達成とより多くのより良い雇用創出に積極的に貢献できるということに、賛同する。

6. OECD新雇用戦略において宣言されているとおり、マクロ経済政策・労働市場政策・社会政策間の相互作用の促進と創設は、雇用における効率、成長、社会的包摂を改善することができる。我々は、成長と雇用のための経済・構造・技術に関する政策の基礎的な意義に加え、十分に代表されていないグループを含む労働市場全体の参加向上、効果的なマッチング、雇用可能性の向上を増進することができると信じる。

7. グローバル化の時代における変化の最良の受容のために、柔軟性及び個人に対する労働市場での適切な保護を向上させることが必須である。これを達成するために単発で成功する政策パッケージが存在しないことは、経験が示している。実に、柔軟性と保護とを組み合わせる方法は、各国内の情勢に依拠している−世界規模の競争が行われている世界では、各国は革新的になる必要がある。しかし、いずれの政策パッケージも、よくデザインされた雇用ルールと契約で保証された解決、雇用指向型の適切な社会保護、それに効率的な積極的労働市場と生涯学習政策を必要としている。

8. 労働市場政策は、賃金労働者と社会保障受給者が職を得る機会とインセンティブを有し、また相互義務アプローチ(mutual obligation approach)を通じたキャリア形成の見通しを持つことができることを保証すべきである。我々は、より多くのトレーニングと技能の発達のためのプログラムの創設を奨励し、2006年のモスクワでのG8労働大臣会合の議長総括に従って、プログラムの発展と労働移動を促進するメカニズムをサポートする。政府は、職業紹介・失業給付・積極的労働市場政策を統合する、よく機能する効果的な雇用機関があることを保証しなければならない。

9. これらの手段のいくつかは、相当の公的投資とその効率性を改善するための継続的な評価を必要とする。これらのステップは、雇用と成長の増加を保証するため、そしてより安定的な財政の達成のために必要である。

10.これらの政策は、十分に代表されていないグループの参加を増大させることにより、先進国が直面している労働力人口の減少への対応を助けるものにもなる。多くの国においては、高齢者グループに対して、より長い労働市場への参加を促進し、また、彼らが労働力として貢献するために必要な知識やツールを有していることを保証するための、特別な注意が向けられるべきである。

11.政府・事業主・労働組合は、職業生活のすべての局面における雇用可能性の創設・保持・再生のための方法を検討すべきである。また、彼らは、仕事と生活の調和により良く取り組むための、家庭に優しい政策を検討すべきである。目的は、男女平等を促進し、労働参加を向上させるものであるべきである。

12.移民労働者の問題や彼らの労働市場への生産的な参加は重要である。彼らの労働市場への統合は、安定性と労働参加の増大における重要な要素を構成し得る。この観点から、我々は2006年モスクワにおけるG8労働大臣会合の議長総括を引用する。

13.このような認識の下、

発展途上国及び新興経済圏における社会保護の拡大と強化

14.我々は、社会保護が貧困との闘いと経済的・社会的発展の促進において、非常に重要であり、また多くの側面が決定的な役割を果たすことを認識する。それはすなわち、グローバル化の社会的側面の要点である。我々は、十分な社会保護は世界全体の人口の概ね20%にのみ利用可能であり、従って80%ほどの人々には不十分な社会保護しかないというILOや世界銀行の調査結果に留意する。この状況は、とりわけ非公式な経済の中で働く労働者にとって緊急であり、特に健康保障、児童への給付、高齢者への給付という観点において、また、職場における安全衛生手段の欠如において、問題となっている。

15.我々は、社会保護の拡大と強化が、仕事における基本原則(いわゆる中核的労働基準)、雇用の促進、社会的対話の強化に支持を与え見守ることと並んで、1999年に採用されたILOの「ディーセント・ワーク・アジェンダ」に端を発していることを指摘する。これは、2005年のサミット成果文書と2006年に開催された国連経済社会理事会の大臣宣言において強調されているように、国際開発の構成要素である。

16.我々は、このように、社会保護の強化と拡大を、グローバル化の過程の文脈の中で最も重要な任務であると認識している。ILOは数十年もの間、この分野における最低基準の開発に尽力してきた。しかし、これらの基準のいくつかや社会保護プログラムの実施状況は、低調なままである。我々は、ILOに対し、これらの基準の原則の観察と実施に向けた努力を強めることを狙いとして、その理由の分析と解決策の提示を依頼する。我々は、また、ILOに対して、世界銀行、WTOや他の国際機関とともにこれらの問題に取り組むよう促す。

17.我々の二国間又は多国間の開発協力政策は、既に社会保護の増進に寄与してきた。我々は、国家間の協力のもと、これらを基礎として、また我々の努力を強化して、効果的な健康保障、児童への給付、高齢者の年金や雇用の改善を目指した給付やサービスを含むより広い社会保護の構築を促進する。

18.G8各国は、それぞれの国が自らの判断で社会保障制度を設立し、財政管理する方法を決めなければならない。しかしながら、我々G8各国は、社会保障制度が、機会平等と参加を促進するために、ユニバーサルな要素と、社会的な平等・公平・正義といった価値観に基礎を置かれるべきであると信じる。

19.これを念頭に置きながら、

企業の社会的責任(CSR)

20.政府の責任を補完するものとして、企業は、社会的責任を自発的に引き受けることにより、グローバル化の進行する世界経済の中で、社会的側面の形成に重要な貢献をすることができる。我々は、地域社会において、経済、社会、環境上の要素や、これらに関する利害関係者との協力を等しく考慮することによって、持続可能な経済的成功を達成している印象的な企業活動例を見てきた。

21.我々は、CSRが、大規模な企業・組織と同様、国内外で活動している中小企業(例えば、新興経済圏や発展途上国におけるチェーンや下請け業者を含む。)においても関心事項となっていることを知っている。

22.人権と労働基準を実施し、改善していくことは、政府にとって最優先の任務である。企業は、自発的な係わりにより、法的責任の遵守を超えて行くことができる。企業は、法の支配、透明性、良いガバナンス、汚職撲滅の増進や健全な労使関係の実現を通じて、労働者に対する彼らの責任を認識すべきである。この文脈において、我々は、多くの企業と世界労働組合連合(Global Unions)の間における枠組み合意の発展を、興味を持って注視する。

23.ILOの「多国籍企業及び社会的政策に関する原則の三者宣言」、OECDの「多国籍企業ガイドライン」、国連の「グローバル・コンパクト」は、特定の国の特別な法的・政治的文脈の中で機能しなければならない企業が注意を向けさせられるべきCSRに関するイニシアティブの国際的な枠組みを提供するものである。配慮を増すために、G8諸国は最も妥当なCSR原則の包括的な編纂を歓迎する。

24.これらの認識の見地から、

G8サミットと次のステップ

25.我々は、国や政府の首脳に対し、ハイリゲンダム・サミットにおける、グローバル化の過程における社会形成の安定的、支持的な役割を支持するよう求める。我々は、とりわけ以下について重視する。

26.我々は、2008年の次回G8労働大臣会合をホストするという日本政府の申し出を歓迎する。


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