第2 平成19年度地方労働行政の課題

1 公正かつ多様な働き方の実現と働く人たちの安全・安心の確保

就業形態の多様化、個別労働紛争の増加に対応し、安心・納得した上で多様な働き方を実現できる労働環境の整備が必要となっている。

また、労働環境が変化する中で、全ての労働者が健康で安全かつ安心して働くことができ、また性別等にかかわりなく公正な働き方を実現することが必要となっている。

(1) 労使双方が安心・納得した上で多様な働き方を実現できるようにする労働契約法制の整備

労働者ひとりひとりの労働契約に関する基本的な事項を明確にするとともに、紛争の解決や未然防止に資する体系的で分かりやすいルールを整備することが必要となっている。

(2) パートタイム労働者の均衡ある待遇の推進等

人口減少社会が到来する中で必要な労働力を確保していく観点から、子育て中の労働者や高齢者等でも就業しやすいパートタイムという働き方の重要性は高まっている。しかしながら、賃金など待遇面において正社員との不合理な格差が見られるなど、格差の固定化などが懸念されることから、安心・納得して働くことのできる環境整備が必要である。また、多様な働き方の選択肢の整備を図るため、短時間正社員制度の導入促進、在宅ワークの健全な発展のための施策の推進等が求められている。

(3) 労働者派遣事業及び請負事業の適正化と雇用管理の改善

労働者派遣事業や請負事業で働く労働者の数が増加しているところであるが、偽装請負等の労働関係法令に違反する事案も少なくなく、その適正化に向けた取組が必要となっている。

また、これらの事業における労働者の福利厚生、能力開発等の雇用管理の改善についても重要な課題となっている。

(4) 労働条件の確保・改善

生産性の向上とコスト削減の追求のための経営戦略の強化とともに、労働力供給の構造の変化と勤労者意識の変化から就業形態の多様化が進められる中、これらに対応した法定労働条件の遵守徹底が求められている。 このため、労働条件の確保を図るために労働基準行政が果たすべき役割の重要性を踏まえ、一般労働条件の確保・改善対策を積極的に推進し、企業における基本的な労働条件の枠組み及びそれらに関する管理体制を適正に確立させ、これを定着させていくことが重要である。

(5) 労働者の安全と健康の確保

平成18年においては、休業4日以上の災害、重大災害が増加に転じているが、このような背景としては、熟練労働者が現場を去る中で、最近の景気回復による業務の繁忙化等により、事業場において、安全衛生に関する人材確保、未熟練労働者に対する安全衛生教育等が不十分となり、現場の安全衛生管理活動が低調になっていることが考えられる。さらに今後、団塊の世代が定年を迎え大量に退職し始めることも踏まえると、現場における安全衛生の知識・経験の伝承、安全衛生体制・活動の確保を図り、労働災害の減少を図るためには、まず経営トップの安全衛生の意識の啓発とともに、危険性又は有害性等の調査及びその結果に基づく措置(以下「危険性又は有害性等の調査等」という。)の実施等、事業場における自主的な安全衛生の取組についての具体的な指導等が重要となる。

また、第10次の労働災害防止計画の最終年度にあたることを踏まえ、労働災害の大幅な減少を図るため、当該計画に基づく業種別労働災害防止対策、特定災害防止対策、職業性疾病予防対策など、地域の実情に応じ、重点的かつ強力に取り組むことが必要である。

さらに、長時間労働による脳・心臓疾患や精神障害等の労災認定件数が高い水準で推移していることから、引き続き、事業場において過重労働による健康障害防止対策及びメンタルヘルス対策が適切に実施されるよう、支援・指導等に強力に取り組む必要がある。特に、小規模事業場における健康管理の徹底のための更なる支援の強化が必要である。

また、アスベスト使用建築物の解体作業等におけるばく露防止対策や、退職者を含めたアスベスト作業従事者に対する健康管理対策等の労働者の健康を確保するための施策を積極的に推進していく必要がある。

(6) 個別労働紛争の解決の促進

企業組織の再編や企業の人事労務管理の個別化、就業形態の多様化等を背景として増加する個別労働紛争について、その実情に即した迅速かつ適正な解決に向け、都道府県労働局において、的確な相談・情報提供、助言・指導及びあっせんの実施等の個別労働紛争解決制度の積極的な運用に努めるとともに、企業内における紛争の自主的な解決を促進する必要がある。

(7) 男女雇用機会均等の更なる推進

労働者が性別により差別されることなく、かつ、働く女性が母性を尊重されつつ、その能力を十分に発揮することができる雇用環境を整備するため、第164回通常国会で改正された「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」(以下「改正男女雇用機会均等法」という。)の履行確保を図るとともに、女性の能力発揮のための企業の積極的取組(ポジティブ・アクション)を促進すること等により、実質的な男女の均等確保の実現を目指すことが重要となっている。

(8) 労働保険制度の適正な運営

脳・心臓疾患事案及び精神障害等事案の労災請求件数が増加していることから、局署一体となった組織的対応の推進を図り、迅速・適正な労災補償の実施に引き続き努める必要がある。石綿関連疾患に係る労災請求についても、社会的関心が高く、早期処理が求められている状況にあり、迅速・適正な対応に努める必要がある。

また、労働福祉事業については、効率化、低コスト化を図っていく等の観点から、第166回通常国会に労働者災害補償保険法の一部改正を含む雇用保険法等の一部を改正する法律案を提出したところであり、同法案が成立した際には、より一層効率的、安定的に運営されるよう配慮する必要がある。



2 地域の活性化に向けた雇用対策の推進等
(1) 雇用情勢が厳しい地域に重点化した雇用対策

雇用情勢は、全般的には改善が進んでいるところであるが、地域別にみると、大都市圏をはじめとして、有効求人倍率が1倍を超える地域が増える一方で、依然として厳しい情勢が続いている地域もあるなど、雇用情勢には地域差がみられる。こうした状況に対応するためには、地域が自発的に創意工夫をし、雇用創出に取り組んでいくことが必要である。このため、雇用情勢が特に厳しい地域と雇用創出に向けた意欲が高い地域に支援を重点化し、地域の自主性と関係者間の連携を重視しつつ、地域の雇用創出を効果的に促進する。なお、雇用の改善が弱い北海道、青森県、秋田県、高知県、長崎県、鹿児島県、沖縄県の7道県に対しては、引き続き重点的・集中的な支援を実施する。

(2) ハローワークにおける求人充足サービスの拡充・強化

景気の回復を反映し、求人が増加している雇用環境の下で、公共職業安定所が労働力の需給調整を効果的に実施していくためには、求人者の採用ニーズを的確に捉え、求人充足に向けた強力な取組を行っていくことが必要である。求職者に魅力のある求人条件の提案等のコンサルティングや労働市場情報の提供サービスを実施するほか、未充足求人に対するフォローアップを着実に実施するなど、求人者サービスを積極的に実施する。

また、正社員有効求人倍率をみると、全体の有効求人倍率に比べて低い水準にとどまっていることから、正社員求人の確保に努め、積極的なマッチングを行い、求職者が希望する就職の実現を図る。

(3) 2007年問題への対応

本年以降、「団塊の世代」が徐々に引退過程を迎える中、熟練技能者の優れた技能を失うことなく、いかに次の世代へ円滑に継承していくかが重要であるため、技能継承・技能者育成に取り組む中小企業等への支援や若者を現場に誘導するための取組が必要である。

(4) 民間や地方公共団体との共同・連携による就職支援

公共職業安定所と民間や地方公共団体との共同・連携による就職支援や情報提供を効果的、効率的に実施することが必要である。



3 新たなチャレンジを目指す若者等の支援

国民一人一人がその能力や持ち味を十分発揮し、努力が報われる公正な社会の構築に向け、職業生活の各段階で再チャレンジができるよう支援することが必要である。

(1) 若者の職業意識啓発と就職支援

年長フリーターや若年無業者が依然として多い中、若者が意欲を持って働き、経済的にも自立できるようにすることが喫緊の課題となっている。このため、経済界、労働界、教育界、マスメディア、地域社会等関係者が一体となって若者の雇用問題に取り組む「若者の人間力を高めるための国民運動」を展開しており、各界が連携・協力しつつ、国民運動の趣旨を踏まえた具体的取組が行われるよう、引き続き、都道府県労働局が積極的に働きかけていくとともに、再チャレンジ支援総合プランに基づく各施策を着実に実施することにより、ひとりでも多くの若者が新たにチャレンジできる社会の実現を目指すことが重要である。

(2) 高齢者の雇用の確保

少子高齢化の急速な進行により、今後、労働力人口の減少が見込まれる中で、働く意欲と能力を有する高齢者が、長年にわたり培った知識や経験を活かし、社会の支え手として活躍していくことが重要である。また、再チャレンジ支援総合プランの行動計画では、「60歳以上の労働力人口を2005年から2015年に160万人増加させる」こととしているところである。このため、改正高齢法に基づき、65歳までの雇用機会の確保に取り組むとともに、今後は「70歳まで働ける企業」の普及促進を進め、意欲と能力のある限り「いくつになっても働ける社会」を目指す必要がある。

(3) 障害者の雇用の確保

障害者の社会参加が進展し、就業に対する意欲も高まる中で、障害者が職業生活において自立することを促進するため、雇用率達成指導の厳正な実施、きめ細かな職業相談・職業紹介、各種の雇用支援策の効果的な活用等により、障害者の雇用機会の拡大を図っていく必要がある。

また、障害者自立支援法の施行等を踏まえ、福祉施策との連携強化、さらには教育施策との連携強化など、積極的に他の分野との連携を図っていくとともに、精神障害、発達障害等、障害の特性に応じたきめ細かな支援を充実していくことが必要となっている。

(4) リストラ等による退職者の就職支援

中高年求職者の中には、リストラ等による退職後、計画的かつ効果的な求職活動ができないために、自らの能力を生かせる仕事を見つけられない者や退職、解雇、事業の失敗等で離職し、その後不安定就労を繰り返す者、若年期から不安定就労を繰り返す者等が存在する。

このような中高年求職者に対しては、キャリアの自己点検、能力再開発、求職活動のノウハウの付与、メンタル面や生活面の相談・助言等からなる総合的な支援を実施する必要がある。



4 仕事と生活の調和の推進

人口減少社会が到来するなか、平成16年12月に少子化社会対策会議において策定された「少子化社会対策大綱に基づく重点施策の具体的実施計画について」(「子ども・子育て応援プラン」)では、平成21年度までの5年間に講ずる具体的な施策内容と目標として、若者の就労支援の充実、仕事と家庭の両立支援と働き方の見直しなどが含まれており、また、同会議において平成18年6月に決定された「新しい少子化対策について」においても、新たな少子化対策の推進として、働き方の改革が挙げられていることから、都道府県労働局においても、これらの施策を強力に進めるため、局内外の連携を強める必要がある。

特に、出産を機に働く女性の約7割が退職する等、出産・子育て等と仕事との両立が困難であり、また、一旦退職すると、再就職・再就業が困難となっている。

しかしながら、就業継続を希望する女性は増加しており、子育てで離職した者の再就業希望も多い。

このため、「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(以下「育児・介護休業法」という。)及び「次世代育成支援対策推進法」(以下「次世代法」という。)について、引き続きその実効を確保していくとともに、出産・子育て等により離職した女性について、その能力を活かした再就職・再就業を支援していくことが必要である。

さらに、労働時間の現状は、「労働時間分布の長短二極化」の状況にあり、 また、年次有給休暇の取得率も低い状況の中で、労働時間、休日及び休暇が個々の労働者の健康や生活に配慮して定められるよう、所定外労働の削減、年次有給休暇の取得促進等これまでの取組も踏まえつつ、事業場ごとの労使の自主的取組を一層促進していくことが必要である。


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