3.家庭用品等に係る吸入事故等に関する報告

  (財)日本中毒情報センターは、一般消費者若しくは一般消費者が受診した医療機関の医師からのあらゆる化学物質による急性の健康被害に関する問い合わせに応ずる機関である。毎年数万件の問い合わせがあるが、このうち、最も多いのが幼少児の化粧品やタバコの誤飲誤食で、それぞれ年間3,600件、2,800件に達し、これらは合わせると全問い合わせ件数の約20%を占める。
  この報告は、これら問い合わせ事例の中から、家庭用品等による吸入事故及び眼の被害に限定して、収集、整理したものである。

(1)原因製品種別の動向
    全事例数は835件で、前年度(724件)と比較して1.2倍に増加した。原因と推定された家庭用品等を種別で見ると、前年度と同様、殺虫剤の報告件数が最も多く、202件(24.2%)であった。次いで洗浄剤(住宅用・家具用)131件(15.7%)、芳香・消臭・脱臭剤82件(9.8%)、園芸用殺虫・殺菌剤53件(6.3%)、漂白剤51件(6.1%)、消火剤43件(5.1%)、洗剤(洗濯用・台所用)33件(4.0%)、除草剤20件(2.4%)、灯油20件(2.4%)、防虫剤17件(2.0%)の順であった(表5)。
  製品の形態別の事例数では、「スプレー式」が342件(41.0%)(そのうちエアゾールが187件、ポンプ式が155件)、「液体」234件(28.0%)、「粉末状」110件(13.2%)、「固形」72件(8.6%)、「蒸散型」57件(6.8%)、その他6件、不明が14件であった。ここでいう蒸散型とは、閉鎖空間等において一回の動作で容器内の薬剤全量を強制的に蒸散させるタイプの薬剤で、くん煙剤(水による加熱蒸散タイプを含む)、全量噴射型エアゾール等が該当する。蒸散型の健康被害は年々増加し、5年前の報告が22件であったのに対し、今年度は57件の報告があった。また、蒸散型は医療機関からの問い合わせが多いのも特徴である。

(2)各報告項目の動向
    年齢から見ると、0〜9歳の子供の被害報告事例が337件(40.4%)で、前年度と同様、最も多かった。次いで30歳代及び40歳代が多く、その他の年齢層は総件数、該当人口当たりの件数ともほぼ同じであった。年齢別事例数は製品によって偏りが見られるものがあり、漂白剤や洗浄剤(住宅用・家具用)、殺虫剤は0〜9歳以外に30歳代にピークが見られ、園芸用殺虫・殺菌剤は0〜9歳とともに、50歳代以上でも報告件数が多かった。
  性別では、女性が425件(50.9%)、男性が370件(44.3%)、不明が40件(4.8%)で男女比は前年度とほぼ同等であった。電話での問い合わせのため、記載漏れ等があり、被害者の性別不明例が多少存在する。
  健康被害の問い合わせ者は、一般消費者からの問い合わせ事例が601件(72.0%)、受診した医療機関等医療関係者からの問い合わせ事例が234件(28.0%)であった。
  症状別に見ると、症状の訴えがあったものは538件(64.4%)、なかったものは285件(34.1%)、不明のものが12件(1.4%)であり、症状の訴えがあったものの割合は前年度とほぼ同程度であった。症状の訴えがあった事例のうち、最も多かったのが、咳、喘鳴等の「呼吸器症状」を訴えたもの241件(28.9%)、次いで、悪心、嘔吐、腹痛等の「消化器症状」を訴えたもの192件(23.0%)で、頭痛、めまい等の「神経症状」を訴えたものが136件(16.3%)、眼の違和感、痛み、充血等の「眼の症状」を訴えたものが135件(16.2%)であった。前年度と比べて上位に占める症状はほとんど変動していない。
  発生の時期を見ると、品目別では、殺虫剤による被害が5〜11月に多い。洗浄剤(住宅用・家具用)については、前年度と同様、季節による目立った傾向は見られなかった。また、曜日別に見ても、曜日間で特に傾向は認められなかった。時間別では午前9時〜午後8時の間にほぼ均等に発生しており、午後11時から午前7時頃までが少なくなっていた。これらの発生頻度は前年度と比較して際だった変化はなく、生活活動時間に比例して多くなっている。

(3)原因製品別の結果と考察
 
1) 殺虫剤、防虫剤
    殺虫剤及び防虫剤に関する事例は219件(有症率74.0%)で、そのうち、殺虫剤が202件(前年度比1.2倍)、防虫剤17件(前年度比1.3倍)といずれも増加していた。なお、殺虫剤は、衛生害虫用、不快害虫用及び木材害虫用の製品を対象として集計している。
  被害事例の状況として
  1. 乳幼児、認知症患者など危険認識能力が十分にないものによる事例
2. 用法どおり使用したと思われるが、健康被害が発生した事例
3. 適用量を明らかに超えて使用した事例
4. 換気を十分せずに使用した事例
5. スプレーで噴射方向を誤ったことによる事例
6. 蒸散型の薬剤を使用中、入室してしまった事例
7. ヒトの近辺で使用し、影響が出た事例
8. 本来の用途以外の目的で使用した事例
9. 薬剤を使用中であることを周知しなかったことによる事例
10. 廃棄時に薬剤が残存していたことによる事例
等が挙げられる。手軽に使用できるエアゾールやここ数年で増加した蒸散型は、使用方法を誤ると健康被害につながる可能性が高く、使用の際には細心の注意が必要である。特に近年はハチ、アブ等の駆除を目的とした長距離噴射タイプのエアゾール等、新たな商品も販売されている。使用、保管及び廃棄の際には製品表示を熟読し、よく理解した上で正しく使用するべきである。また、従来から広く利用されている全量噴射型エアゾールにおいても、使用中に室内に在室した事例が認められ、使用方法等の確認を心掛けることが重要である。
  家庭用に販売される不快害虫防除を目的とした殺虫剤に関して、平成17年7月に「家庭用不快害虫用殺虫剤安全確保マニュアル作成の手引き」が作成された。製造及び輸入を行う事業者においては、当該手引きに基づき安全性の確保や表示の方法等に対する適切な取組みが期待される。

◎事例1 【原因製品:殺虫剤(スプレータイプ)】
  患者   2歳 男児
状況 目を離した隙に、スプレーの音がした。男児がエアゾール式の殺虫剤をいたずらし、顔に向けて噴射した様子。
症状 眼の痛み
処置・転帰 水洗後、家庭内で経過観察。

◎事例2 【原因製品:殺虫剤(全量噴射型エアゾール)】
  患者   22歳 女性
状況 引っ越しをした新居で、蒸散型の殺虫剤を使用した。3時間後、使用したことを忘れて換気をせずに室内で2時間過ごしたところ、症状が出現し、受診した。
症状 悪心
処置・転帰 外来にて輸液、制吐剤投与。通院(1日)。

◎事例3 【原因製品:殺虫剤(スプレータイプ)】
  患者   54歳 男性
状況 天井裏でミツバチの巣に向けてエアゾール式の屋外用殺虫剤を1本使用した。マスクをしていなかった。
症状 喉の違和感
処置・転帰 外来にて内服薬処方。

◎事例4 【原因製品:殺虫剤(全量噴射型エアゾール)】
  患者   52歳 男性
状況 くん煙剤の用法を十分に確認しておらず、白煙が出るものと思い、水を入れた後白煙が出るのを待っていたところ、蒸散ガスを3〜5分間吸入した。
症状 呼吸器の刺激感、悪心
処置・転帰 水分摂取後、家庭内で経過観察。

◎事例5 【原因製品:防虫剤】
  患者   53歳 女性
状況 ネズミ駆除に防虫剤が有効であると聞き、天井に防虫剤を800〜850g程度使用したところ、直後より症状が出現した。
症状 頭痛
処置・転帰 家庭内で経過観察後、しばらくして治まった。

2) 洗浄剤(住宅用・家具用)、洗剤(洗濯用・台所用)
    洗浄剤及び洗剤に関する事例は164件(有症率63.4%)で、前年度(129件)と比較し増加した。そのうち、洗浄剤(住宅用・家具用)に関する事例は131件(前年度比1.4倍)、洗剤(洗濯用・台所用)に関する事例は33件(前年度比1.0倍)であった。最も多いのは、次亜塩素酸ナトリウムなど、塩素系の製品によるもの(69件)であり、製品形態で多いのはポンプ式スプレー製品(87件)であった。
  被害事例の状況として
  1. 乳幼児、認知症患者など危険認識能力が十分にないものによる事例
2. 複数の薬剤が作用し、有毒ガスが発生した事例
3. 適用量を明らかに超えて使用した事例
4. 本来の用途以外の目的で使用した事例
5. 換気を十分せずに使用した事例
等があり、被害を防ぐには、眼鏡やマスク等の保護具を着用する、換気を十分に行う、長時間使用しない、適量を使用すること等に気を付ける必要がある。また、塩素系の洗浄剤と酸性物質(事故例の多いものとしては塩酸や有機酸含有の洗浄剤、食酢等がある)との混合は有毒な塩素ガスが発生して危険である。これらの製品には「まぜるな危険」との表示をすることが徹底されているが、いまだに発生例が見られ、一層の啓発が必要である。なお、乳幼児の事故事例は、保管場所を配慮することによって防止できるものが多い。

◎事例1 【原因製品:カビとり用洗浄剤(塩素系)/トイレ用洗浄剤(酸性)】
  患者   42歳 女性
状況 浴室掃除の際、カビとり用洗浄剤と酸性トイレ用洗浄剤を誤って混合した。発生した異臭の強いガスを吸入して息苦しくなり約1時間後に救急搬送された。
症状 鼻と喉の刺激感、息苦しさ、頭痛、眼の痛み、肺ラ音聴取
処置・転帰 入院(7日、酸素及びステロイド投与)。呼吸困難感は翌日には軽減、咽頭痛、頭痛は遷延。

◎事例2 【原因製品:カビとり用洗浄剤(塩素系)】
  患者   35歳 女性
状況 浴室でマスクを着用せず、ポンプ式スプレータイプのカビとり用洗浄剤を3本使用した。窓を開けて換気扇をつけていた。症状が持続したため、翌日受診した。
症状 鼻の刺激感、めまい、頭痛
処置・転帰 外来にて経過観察。症状は1週間程度で治まった。

◎事例3 【原因製品:カビとり用洗浄剤(塩素系)/漂白剤(塩素系)】
  患者   51歳 女性
状況 室内掃除中アリを発見し、ポンプ式スプレータイプのカビとり用洗浄剤と塩素系漂白剤を5〜10分程度まいた。その際に吸入し、症状が出現した。
症状 喉の違和感、悪心
処置・転帰 外来にて経過観察。症状は数時間で軽快。

◎事例4 【原因製品:洗濯用洗剤(粉末)】
  患者   1歳 性別不明
状況 棚の上の洗剤の箱を背伸びしてつかもうとして箱が下に落ち、中の洗剤をかぶってしまった。口にも少し入った。母親が催吐させた後、更に嘔吐し、しばらくつばを飲み込む事を繰り返していた。1時間後に受診した。
症状 口腔咽頭違和感
処置・転帰 家庭内で水洗、催吐、その後受診。

◎事例5 【原因製品:台所用洗剤】
  患者   57歳 男性
状況 台所用洗剤のフタを勢いよく開けたところ、飛散した液が眼に入った。
症状 眼の痛み
処置・転帰 水洗後、家庭内で経過観察。

3) 芳香・消臭・脱臭剤
    芳香・消臭・脱臭剤に関する事例は82件(有症率48.8%)で、前年度(73件)より増加した。被害状況としては、
  1. 乳幼児、認知症患者など危険認識能力が十分にないものによる事例
2. こぼれた薬剤を吸入した事例
3. 点眼薬と間違えて点眼した事例

等が見られた。多種多様な製品が販売されており、事故の発生状況も製品の形態や使用法により様々である。増加傾向にあり、今後も注意が必要である。
  なお、上向きに噴射されるタイプの芳香剤エアゾールにおいては、噴射方向を充分に認識していなかったために眼に入ってしまったという事故が過去に散見されたが、今年度は類似の問い合わせはなかった。当該製品においては平成16年度に製品表示が改良され、容器に「上からスプレーが出ますのでご注意ください」と明記されたものもあり、事故減少に結びついたと考えられる。また、携帯用液体消臭剤を点眼薬と間違える事故に関しては、今回の報告時期半ばで容器に大幅な変更を行った製品もあったことから、今後減少することを期待したい。

◎事例1 【原因製品:脱臭・消臭・芳香剤(スプレータイプ)】
  患者   5歳 男児
状況 子どもがトイレで新品の消臭スプレーをほぼ1本分使い切ってしまった。上に向けてスプレーしており、直接眼にスプレーしたりはしていない。換気扇は回していた。
症状 悪心、眼の違和感
処置・転帰 洗浄、点眼薬投与、外来にて経過観察。受診時には症状は治まっていた。

◎事例2 【原因製品:脱臭・消臭・芳香剤(液体タイプ)】
  患者   65歳 女性
状況 消臭剤をこぼし、拭いていたところ、症状が出現した。
症状 喉の刺激感、眼の痛み
処置・転帰 家庭内で経過観察。症状は当日中に治まった。

◎事例3 【原因製品:脱臭・消臭・芳香剤(液体タイプ)】
  患者   40歳 女性
状況 鞄の中に目薬と携帯用液体消臭剤(トイレ用)を入れていた。鞄から目薬を出したつもりであったが、容器の形が似ていたため間違えて消臭剤を点眼した。眼を約10分間洗ったが症状がある。
症状 眼の痛み、充血、違和感
処置・転帰 洗眼後、眼科にて点眼薬処方。違和感は翌日、充血は2日後に治まった。

4) 園芸用殺虫・殺菌剤類等
    園芸用殺虫・殺菌剤類等に関する事例は76件(有症率71.1%)、そのうち、園芸用殺虫・殺菌剤類に関する事例は53件、除草剤は20件、その他3件であり、前年度と同程度であった。成分別では有機リン含有剤30件、グリホサート含有剤10件、ピレスロイド含有剤7件、ジチオカーバメート含有剤3件、その他10件であった。
  被害状況としては
  1. マスク等の保護具を装着していなかったことによる事例
2. 乳幼児、認知症患者など危険認識能力が十分にないものによる事例
3. ヒトの近辺で使用し、影響が出た事例
4. 用法どおり使用したが、健康被害が発生したと思われる事例
5. 薬剤を使用中であることを周知しなかったことによる事例
等が見られた。屋外で使用することが多く、使用者以外にも健康被害が発生しているのが特徴である。家庭園芸用であっても十分な注意喚起を図る必要がある。

◎事例1 【原因製品:園芸用殺虫・殺菌剤(スプレータイプ)】
  患者   成人(年齢不明) 女性
状況 マスクをせずにピレスロイド系殺虫剤を30分間噴霧した際、吸入した。手に付いた殺虫剤もなめた。女性は3時間後に受診し、来院後30分の間に症状は軽快。
症状 咳き込み、呼吸器の刺激感、息苦しさ、血圧上昇、悪心、嘔吐、下痢、しびれ
処置・転帰 外来にて輸液、制吐剤、止瀉剤及び整腸剤投与。通院(1日)

◎事例2 【原因製品:園芸用殺虫・殺菌剤(液体タイプ)】
  患者   2歳 男児
状況 希釈してポンプ式スプレー容器に入れておいた殺虫剤をいたずらし、液が眼に入った。
症状 眼の痛み
処置・転帰 洗眼、その後不明。

◎事例3 【原因製品:園芸用殺虫・殺菌剤(液体タイプ)】
  患者   60歳 女性
状況 毛虫駆除目的で殺虫剤を希釈調整し、木に散布した。口にタオルを巻き、皮膚は露出しないようにしていた。調整時及び散布時に、吸入、経皮暴露した可能性がある。
症状 呼吸困難、頻脈、悪心、嘔吐、発汗、頻尿、全身倦怠感
処置・転帰 入院(2日)。症状は発生の翌日に改善。

◎事例4 【原因製品:除草剤】
  患者   7歳 男児
状況 祖父が庭の手入れをするのにポンプ式スプレータイプの除草剤を使用した。男児が近くにいたため、吸入した可能性がある。直接かかってはおらず、風もなかった。
症状 呼吸困難、腹痛
処置・転帰 外来にて胃腸薬処方。症状は数日で治まった。

5) 漂白剤
    漂白剤に関する事例は51件(有症率64.7%)で、このうち塩素系が40件と最も多く、大半を占めた。
  被害事例の状況として
  1. 複数の薬剤が作用し、有毒ガスが発生した事例
2. 乳幼児、認知症患者など危険認識能力が十分にないものによる事例
等があり、注意が必要である。塩素系の漂白剤と酸性物質とを混合し発生した塩素ガスを吸入した事例も相変わらず見られ、前述の洗浄剤と合わせると混合により塩素ガスが発生したと考えられる事例は12件(うち症状有9件)であった。塩素ガスを発生させる恐れのあるものには「まぜるな危険」の表示、あるいは「他剤と混合しない」という注意書きがなされているところではあるが、これら混合の危険性について更に一層の啓発を図る必要がある。

◎事例1 【原因製品:漂白剤(塩素系)/食酢】
  患者   33歳 女性
状況 換気をしていない浴室で、薄めた酢を使った。汚れが落ちなかったため、流さずに台所用漂白剤原液を上からかけたところ、ガスが発生し1分程度吸入した。マスクはしていなかった。
症状 鼻、喉の痛み、息苦しさ
処置・転帰 換気をして家庭内で経過観察後、症状はしばらくして治まった。

◎事例2 【原因製品:漂白剤(酸素系)】
  患者   1歳 男児
状況 見ていない隙にポンプ式スプレータイプの漂白剤を口の中に1回噴射した様子。
症状 元気がない
処置・転帰 水を飲ませた後、外来にて口腔内洗浄。

◎事例3 【原因製品:漂白剤(塩素系)】
  患者   71歳 女性
状況 浴室で台所用の塩素系漂白剤を1時間程度使用した。掃除中、症状が出現し、3時間後に受診した。
症状 動悸、頻脈、血圧上昇、悪心、顔面紅潮
処置・転帰 外来にて経過観察。

6) 消火剤
    消火剤に関する事例は43件(有症率62.8%)であり、前年度と同数であった。被害状況としては、消火器が倒れて消火剤が噴出した例、誤って噴射し吸入した例等、使用時以外の被害が目立ち、取扱いや保管には十分な注意が必要である。また、火災のため使用の際や、その後の清掃時に吸入する事例も見られ、清掃時にはマスクをする等の注意が必要である。
  なお、一般家庭に普及しているABC消火剤は、リン酸二水素アンモニウムや硫酸アンモニウムを主成分としている。
  健康被害の防止のためには、消火器の使用者はあらかじめ取扱説明書をよく読んで使用方法や清掃方法について確認し、いざという時に正しく使用する必要がある。また消火器設置者には、保管中の誤噴射を防ぐため、消火器格納箱へ収納する、転倒防止スタンドを使用するなどの工夫をすることが望まれる。

◎事例1 【原因製品:粉末消火剤】
  患者   14歳 男性
状況 学校でバスケットボールをしていて、誤ってボールが消火器に当たってしまった。消火器がひっくり返り、中身が漏出したので、止めようとして粉末を浴びてしまった。また、粉末を処理する際、鼻を押さえていたが、少量粉を吸入した様子である。
症状 咽頭異物感、結膜充血
処置・転帰 外来にて洗眼、点眼液処方。経過観察中に症状は治まった。

◎事例2 【原因製品:粉末消火剤】
  患者   44歳 女性
状況 自宅マンションが火災に遭い、マンションに備え付けの粉末消火剤を6〜8本使用して消火活動を実施した。その際、部屋中に煙と粉末消火剤が充満し、吸入してしまった。
症状 咳、喉の痛み、嗄声、一酸化炭素ヘモグロビン若干上昇
処置・転帰 外来にて経過観察中に症状軽快、X線上も異常なし。

7) その他
    防水スプレーに関する事例は13件であり、報告件数は前年度より若干減少した。乳幼児のいたずら、換気不良等による事故が相変わらず発生しており、使用にあたっては十分な注意を払うよう、改めて注意喚起したい。また、昨今色々な商品が発売されているが、それに伴って家庭の中でも様々な目新しい商品による事故の発生例が報告されている。

◎事例1 【原因製品:防水スプレー】
  患者   38歳 男性
状況 自室入り口付近の換気不十分な場所で、防水スプレー4〜5本を上着3着分に使用した。途中で咳が出現したため中断し、咳が治まってから再度使用したが、息苦しくなり動けなくなった。翌日、少し治まり、動けるようになったので、20時間後に来院した。
症状 息苦しさ、咳、胸部X線で炎症所見
処置・転帰 外来にて気管支拡張剤、抗菌剤投与、X線撮影。通院(16日)。

◎事例2 【原因製品:動物忌避剤】
  患者   13歳 女性
状況 部屋にコウモリが出現するため、予防目的で2階屋根裏にモグラ・コウモリ用の忌避剤を1箱使用した。部屋にも臭いがし、3日間換気したが、その後は閉め切って過ごした。
症状 倦怠感
処置・転帰 外来にて経過観察。症状は数日後より発症し、数日で治まった。

◎事例3 【原因製品:エアダスター】
  患者   成人(年齢不明) 女性
状況 閉め切った室内で、注意書きを読まずに、パソコンの掃除のためにエアダスターを通常より多く使用したところ、同室にいた母親が吸入した。その後窓を開けて30分ほど換気をした。
症状 鼻、喉に刺激感
処置・転帰 外来にて酸素投与。

(4)全体について
    この報告は、医療機関や一般消費者から(財)日本中毒情報センターに問い合わせがあった際、その発生状況から健康被害の原因とされる製品とその健康被害について聴取したものをまとめたものである。医療機関に対してはアンケート用紙の郵送により、また一般消費者に対しては電話によって追跡調査を行い、問い合わせ時以降の健康状態等を確認しているが、一部把握し得ない事例も存在する。しかしながら、一般消費者等から直接寄せられるこのような情報は、新しく開発された製品を含めた各製品の安全性の確認に欠かせない重要な情報である。
  本報告の情報収集の対象は、吸入事故及び眼の被害に限定しているが、製品については医薬品など「有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律」上の家庭用品ではないものも集計に加えている。
  今年度も前年度同様、子供の健康被害に関する問い合わせが多くあった。保護者は家庭用品等の使用時やその保管方法に十分注意するとともに、製造事業者等も子供のいたずらや誤使用等による吸入事故が生じないような対策を施した製品開発に努めることが重要である。
  製品形態別では、スプレー式の製品による事故が多く報告された。スプレー式の製品は内容物が霧状となって空気中に拡散するため、製品の種類や成分に関わらず吸入や眼に入る健康被害が発生しやすい。使用にあたっては換気状況を確認すること、一度にたくさんの量を使用しないこと等の注意が必要である。
  主成分別では、塩素系の洗浄剤等による健康被害報告例が相変わらず多く見られた。塩素系の成分は、臭いなどが特徴的で刺激性が強いことからも報告例が多いものと思われるが、使用方法を誤ると重篤な事故が発生する可能性が高い製品でもある。製造事業者等においては、より安全性の高い製品の開発に努めるとともに、消費者に製品の特性等について表示等による継続的な注意喚起をし、適正な使用方法の推進を図る必要がある。
  また、事故の発生状況を見ると、使用方法や製品の特性について正確に把握していれば事故の発生を防ぐことができた事例や、わずかな注意で防ぐことができた事例も多数あったことから、消費者も日頃から使用前には注意書きをよく読み、正しい使用方法を守ることが重要である。万一事故が発生した場合には、症状の有無に関わらず、(財)日本中毒情報センターに問い合わせをし、必要に応じて専門医の診療を受けることを推奨する。行政においては、一般使用者における安全使用を徹底する観点から、必要な措置を講ずるべきである。


トップへ