平成18年5月22日
厚生労働省食品安全部監視安全課
桑崎 監視安全課長
担当:仲庭、小島(内線2478)


白インゲン豆の摂取による健康被害事例について



 平成18年5月6日に、株式会社東京放送系列で放送されたテレビ番組「ぴーかんバディ!」で紹介された調理法により調理した白インゲン豆を摂取した者が、嘔吐、下痢等の消化器症状を呈している件について、都道府県等に寄せられた健康被害事例を調査し、その結果について別添のとおり取りまとめた。
 また、生や加熱不足の白インゲン豆の摂取による健康被害を防止する観点から、本事例に関するQ&Aを作成した。
 なお、本日株式会社東京放送に対し、本件について文書により注意を行った。



(別添)

都道府県等からの報告の概要

健康被害事例の集計結果
 都道府県等から平成18年5月22日までに報告のあった健康被害事例は表のとおり。

 健康被害事例の概要(平成18年5月22日12時現在)

患者数/報告のあった自治体数 158名/38自治体注1 入院者数 30名
(内135名が5/8までに喫食・発症))
発症までに要した時間 10分〜23時間(大多数が2〜4時間)
主な症状 吐き気、嘔吐、下痢
喫食したとされる豆の種類 白花豆注2(51名)、手亡(てぼう)注2(1名)
不明(106名)
豆の調理法 2〜3分煎る(129名)、生のまま(1名)
5分茹でる(1名)、不明(27名)
喫食量 大さじ2杯と回答した人が多数

注1: 都道府県等において、患者本人に確認を行ったもの 130名
都道府県等に事例の通報があったが、患者本人に確認がとれていないもの 28名
注2: 豆の種類は販売時の表示などの聞き取りによる。いずれも「白インゲン豆」と総称される。

 患者はいずれも快方に向かい、重症化した患者の発生の報告はない。患者数は5月7〜8日を喫食のピークとして減少し、5月17日以降患者発生の報告はない。
 豆の調理法は「煎った」と答えた者が大多数を占めた。これは、番組で紹介された方法である。


原因物質の究明
 横浜市において、患者が喫食した白インゲン豆調理品(表示「白花豆」として販売されていた豆を2〜3分煎ったもの。以下、「残品」という。)におけるレクチン注1の残存の程度を確認するため、赤血球凝集試験注2を行ったところ、レクチンの活性が加熱していない豆(患者から提供された未調理の豆。以下、「生豆」という。)と同程度残存(いずれも最高希釈倍率16,000倍まで活性陽性)していることが判った。また、1時間茹でた豆はレクチン活性の残存は認められなかった。

 注1: インゲン豆中に多く含まれ、生や加熱不足の豆の摂取による食中毒の原因となることが知られているタンパク質で、十分に加熱調理を行えば熱変成により活性を失う。
 注2: インゲン豆レクチンの赤血球凝集作用を利用してレクチンの含有を確認する試験。本試験ではモルモットの赤血球(トリプシン未処理)を用い、特定の抽出・試験法により実施しており、条件により活性が認められる最高希釈倍率が変動する可能性がある。


まとめ
 インゲン豆は通常の調理法(水に十分浸してから、沸騰状態で柔らかくなるまで十分に煮る)を行えば、食品安全上全く問題はない。本事例の、白インゲン豆喫食後の患者の症状及び発症までの時間等が、生のままや加熱不足のインゲン豆の摂取による中毒で報告されている症状と一致した。実際に、患者が喫食した残品には生豆と同程度のレクチン活性が残存していた。このことから、不十分に加熱された白インゲン豆の摂取による中毒と推定した。
 都道府県等の調査によると、患者のほどんどが番組で紹介された「白インゲン豆を2〜3分煎り、粉末状にして食べる」という方法で白インゲン豆を調理したと答えており、この調理法では豆の中心まで火が通らず、レクチンが充分に熱変成しなかったものと考えられる。
 以上のことから、本事例は、テレビ番組で紹介された調理法に基づき調理した結果、加熱不足の状態となった白インゲン豆を摂取したことによるものと推察された。



白インゲン豆の摂取による健康被害事例に関するQ&A

 インゲン豆は通常の調理法(水に十分浸してから、沸騰状態で柔らかくなるまで十分に煮る)を行えば、食品安全上全く問題ありません。今般、テレビ番組で紹介された調理法により、加熱不足の状態となった白インゲン豆を摂取したことによる健康被害事例が発生したため、生のままや加熱不足の白インゲン豆の摂取による健康被害を防止するため、次のとおり本事例に関するQ&Aを作成しました。(さやいんげんなど未成熟のさやを利用するものは、本件に関係ありません。)


Q1  どうして生のままや加熱不足のインゲン豆(完熟した乾燥豆を指す。以下同じ。)を食べると消化器症状を発症するのですか?
A1  インゲン豆は中央アメリカ原産で、完熟した乾燥豆を煮豆、餡、スープ等に利用する乾燥子実用と、未成熟のさやを利用する野菜用に分けられ、それぞれ多くの品種があります。完熟した乾燥豆は昔から加熱調理を行わず生のままで食べると嘔吐、下痢等の消化器症状を起こすことが知られています。生のインゲン豆を食べることにより嘔吐、下痢等を起こす原因物質の一つとして、インゲン豆に含まれる「レクチン」という糖結合タンパク質が知られています。

Q2  レクチンとはどのような物質ですか?
A2  レクチンは、糖に結合するタンパク質の総称で、動物や植物に広く分布しています。植物の中でインゲン豆の仲間は特にレクチンを多く含むことが知られています。インゲン豆のレクチンは赤血球に結合して凝集させる性質があることから、赤血球凝集素(haemagglutinin)とも呼ばれます。インゲン豆には,白インゲンや赤インゲンといった栽培品種がありますが,学術的にはどちらも同じ植物種であり,レクチンを含んでいます。インゲン豆のレクチンは75℃での加熱では毒性が残るものの、沸騰状態で5〜10分の加熱で壊れた等の報告があります。また、不完全な加熱では、生のままのインゲン豆よりも毒性が強くなるという報告もあります。実際、海外において、生のままや加熱不足のインゲン豆を食べたために、レクチンによる中毒を起こした事例が多数報告されています。

Q3  生のままや加熱不足のインゲン豆の摂取による中毒の症状等について教えてください。
A3  生のままや加熱不足のインゲン豆を摂取すると、数時間(1〜3時間)以内にひどい吐き気、嘔吐を呈した後下痢、腹痛等の症状を発症します。しかし、重篤化することはなく、患者のほとんどは発症から数時間後に回復するといわれています。また、年齢や性別に関係なく全ての人に等しく中毒を起こすと報告されています。

Q4  今回、白インゲン豆を食べて嘔吐、下痢などを起こす人が多く発生したのはなぜですか?
A4  テレビ番組で、白インゲン豆の摂取によるダイエット法の特集があり、この番組の視聴者が、番組で紹介された調理法に基づき白インゲン豆を調理・摂取したところ、嘔吐・下痢などを発症したという事例が多数報告されました。患者さんに対する白インゲン豆の摂取方法の聞き取り調査によりますと、ほとんどの方が番組で紹介された「白インゲン豆を2〜3分煎り、粉末状にして食べる」という方法で調理を行ったようです。豆を煎るという行為は,ゆでるという行為と比較して熱の通りが確実ではありません。よって、2〜3分煎っただけでは中心まで火が通らず、レクチンが充分に熱変成しなかったため中毒を起こしたと考えられます。

Q5  生のままや加熱不足のインゲン豆による中毒を起こさないようにするにはどうしたらよいですか?
A5  インゲン豆中に含まれるレクチンは、十分に加熱すれば活性を失います。インゲン豆によって中毒を起こすことは昔から知られており、長年の経験で煮るという調理法でインゲン豆を食べてきました。よって、インゲン豆を食べる際には、通常の調理法である、十分に水に浸して戻した後、沸騰状態で柔らかくなるまで十分に加熱することが必要です。

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