第1 労働行政を取り巻く情勢
 社会経済情勢
(1) 経済社会の構造的な変化
 我が国の経済社会をみると、中国をはじめとしたアジアにおける国際分業や経済連携の進展に対応した産業の高付加価値化、サービス産業の拡大、通信の高速化・大容量化等の情報技術をはじめとした技術革新、規制改革に伴う新たな産業の拡大や、起業、新規参入の増加といった動向によって産業構造が変化している。
 また、平成16年においては合計特殊出生率が過去最低の値(1.29)を記録するなど少子化の進行が止まらず、平成17年には戦時中を除いて調査開始以来初めて人口が減少した。少子・高齢化が進み、人口減少社会に入ったことにより、経済成長の鈍化、税や社会保障における負担の増大など、その深刻な影響について多くの国民が危機感を抱いている。
 以上のように我が国の経済社会が大きく変化する中で、労働市場も変化がみられる。特に、非正規労働者が急増しており、正社員と非正規労働者の間の「二極化」ともいえる処遇格差の拡大が生じている。これが若年労働者の職業能力の低下や低所得層の拡大、ひいては晩婚化・少子化の進行に拍車をかけるのではないかと危惧される。
(2) 最近の経済情勢
 景気は、企業収益が改善し、個人消費は緩やかに増加しているなど、企業部門の好調さが家計部門へ波及しており、回復している。
 政府としては、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2005」に基づき、構造改革を加速・拡大する。また、重点強化期間内におけるデフレからの脱却を確実なものとするため、引き続き政府・日本銀行は一体となった取組を行う。

 雇用を巡る動向
(1) 最近の雇用失業情勢
 最近の雇用失業情勢は、厳しさが残るものの、改善が進んでいる。
 公共職業安定所で取り扱う新規求人数は、景気の回復を反映して、前年同月比で増加傾向で推移している。一方、新規求職者数は、景気の回復を受けて、よりよい労働条件を求める在職求職者が増加していることなどにより、前年同月比での減少幅が小さくなるなどの動きもみられるが、全体としては減少傾向で推移している。これらの結果、有効求人倍率は上昇し、平成17年12月には1.03倍と平成4年9月以来13年3ヶ月ぶりに1倍台となり、18年1月も同水準となっている。
 しかしながら、正社員等の安定した雇用形態での就職を希望する者が多い(全求職者のうち常用フルタイム求職者の割合は7割以上)一方で、平成18年1月の正社員有効求人倍率(常用フルタイム有効求職者1人当たりの正社員有効求人数)については、0.67倍と前年同月差で0.08ポイント上昇しているものの、全体の有効求人倍率に比べて低い水準にとどまっている。
 また、平成5年度以来20%後半で推移していた就職率は、平成16年度は30.7%となり、平成17年度の上半期は、前年同期差で1.0ポイント上昇して32.2%となっている。
 完全失業者数は、平成15年4月に過去最高の385万人となった後、減少傾向で推移し、平成18年1月は前年同月差4万人減の292万人となっている。完全失業率は、平成14年6月、8月、15年1月、4月にこれまでで最も高い水準の5.5%となった後、平成15年12月以降は4%台で、また平成17年4月以降は概ね4%台前半で推移し、6月には4.2%と平成10年7月の4.1%以来6年11か月ぶりの水準まで低下した。景気の回復を反映した動きとして転職活動が活発化していることなどから、完全失業率が一時的に上昇する局面もみられ、平成18年1月の完全失業率は4.5%となっているが、全体としてみれば、高水準ながらも低下傾向で推移している。
 その一方で、生活保護の保護率が上昇しており、被保護世帯数は平成16年度には過去最高となっている。
 就業者数、雇用者数とも前年と比較して増加が続いている。雇用者数を従業上の地位別にみると、増加を続けていた臨時雇に加え、常雇が平成16年に7年ぶりに増加に転じて以降、増加傾向を続けているが、雇用形態別にみると、非正規の職員・従業員の増加が続いている一方、正規の職員・従業員は減少傾向となっている。企業の雇用人員判断については、平成17年3月に12年6か月ぶりに不足超過となった後、不足感が高まり、12月には13年ぶりに全規模、全産業で不足超過となっている。また、雇用調整の実施事業所割合についても、引き続き低下傾向にある。
 地域別にみると、平成18年1月現在、有効求人倍率については6ブロック(東海、南関東、中国、北関東・甲信、北陸、近畿)で1倍台となっている一方、北海道ブロックにおいては0.6倍台、九州、東北の各ブロックにおいては0.7倍台となっており、失業率についても3%台から5%台までブロックごとにばらつきがみられるなど、雇用情勢には地域差がみられるところである。
(2) 若者の雇用状況
 若者の雇用情勢については、平成18年1月の15〜24歳層の有効求人倍率が1.79倍と全年齢層に比べて高く、求人は多いものの、それが就職に結びつかない状況がみられ、完全失業率は前年同月よりも0.1ポイント低下して7.8%と、改善が加速しているが、依然、年齢計の4.5%と比べ高水準で推移しており、早期離職率も高い状況にある。
 さらに、フリーターが201万人(平成17年)、ニートと呼ばれる学校に通っておらず、働いてもおらず、職業訓練を行っていない若者が64万人(平成17年)と多い状況にあり、このことが社会経済に与える影響の重大さが指摘されている。
 他方、平成18年3月高校新卒者の就職内定状況(平成18年1月末現在)をみると、全国の内定率は85.3%と、前年同期(平成17年1月末現在)に比べ3.7ポイント上昇しているが、地域別にみると、3ブロック(東海、北陸、山陽)で90%を超えている一方、北海道ブロックにおいては63.1%、東北、南九州ブロックにおいては80%前半となっており、地域差がみられる。また、平成18年3月大学新卒者の就職内定状況(平成18年2月1日現在)をみると、全国の内定率は85.8%と、前年同期(平成17年2月1日現在)に比べ3.2ポイント上昇している。
(3) 高齢者の雇用状況
 高齢者の雇用管理の現状(平成17年1月1日現在)をみると、少なくとも65歳まで働ける場を確保する企業は72.4%、そのうち、原則として希望者全員を対象とする企業は24.1%となっている。また、雇用情勢については、平成18年1月の60〜64歳層の有効求人倍率は0.59倍と改善傾向にあるものの依然として低水準にとどまっており、一旦離職すると再就職が厳しい状況にある。
(4) 女性の雇用状況
 女性雇用者数は平成17年には2,229万人となり、16年に比べ26万人増加(前年比1.2%増)した。
 また、年齢階級別労働力率をみると、M字型カーブの底である30〜34歳層の労働力率は前年と比べ最も上昇幅が大きく、62.7%(前年差1.3%ポイント上昇)であった。
(5) パートタイム労働者の雇用状況
 短時間雇用者(週間就業時間が35時間未満の非農林業の短時間雇用者)数は、平成17年においては1,266万人と、雇用者総数の約4分の1を占めるに至るとともに、近年では、勤続年数の伸張、基幹的な役割を担う者の増加もみられる。
(6) 障害者の雇用状況
 障害者の雇用状況については、公共職業安定所を通じた障害者の就職件数は平成16年度には年間3万5千件を超え、2年連続高い伸びを示しており、また、平成17年6月1日現在、民間企業の実雇用率は1.49%と前年に比べて0.03%ポイント上昇するなど、着実な進展がみられる。しかし一方で、有効求職者は14万9千人(平成18年1月末現在)と依然として多数であり、雇用率達成企業の割合も42.1%(平成17年6月1日現在)にとどまるなど、引き続き努力すべき点も多い。

 労働条件等を巡る動向
(1) 申告・相談等の状況
 労働基準監督署、総合労働相談コーナー等に寄せられる申告・相談等の状況をみると、労働条件その他労働関係に関する事項についての個々の労働者と事業主との間の紛争(以下「個別労働紛争」という。)に関する相談やあっせんの申請等は引き続き増加傾向にあり、その内容をみると解雇や労働条件の引下げに関するものが中心ではあるものの、いじめ・嫌がらせなどもあり、多様なものとなっている。また、労働基準関係法令上問題が認められる申告事案についても、景気の動向を反映し若干減少したとはいえ、賃金不払を中心として依然として数多く寄せられている状況がみられる。
 また、雇用均等室には、妊娠・出産等を理由とする解雇やその他不利益取扱い、定年・退職・解雇等の女性に対する差別的取扱い、セクシュアルハラスメント、母性健康管理措置、育児・介護休業の取得等に関する相談が非正規労働者からのものも含め多数寄せられており、複雑・困難化の傾向がみられる。
(2) 労働時間・賃金の状況
 平成17年における年間総実労働時間は1,829時間(所定内労働時間は1,680時間、所定外労働時間は149時間)となっており、前年に比べて11時間減少している。一般労働者(常用労働者のうち、パートタイム労働者を除いた労働者)については、年間総実労働時間は2,009時間(所定内労働時間は1,830時間、所定外労働時間は179時間)と前年に比べて12時間減少している。「労働力調査」により週労働時間別の雇用者の分布をみると、経済のグローバル化の進展に伴う企業間競争の激化等を背景に、35時間以上60時間未満の雇用者が減少する一方、35時間未満の雇用者と60時間以上の雇用者がともに増加し、いわゆる「労働時間分布の長短二極化」が近年進展する傾向にある。さらに、平成17年における年次有給休暇の取得率については、46.6%となっており、低下が続いている。
 また、一般労働者の所定内給与額の男女間賃金格差は男性を100としたときに女性は65.9となった。
 この他、パートタイム労働者と通常の労働者との賃金格差について、平成17年の賃金構造基本統計調査をみると、一般労働者の所定内給与額を時給換算したものを100とした場合、男性パートタイム労働者は52.5、女性パートタイム労働者は69.0となっている。こうした格差については、合理的な説明が困難な事例がみられることなど、パートタイム労働者の雇用管理の改善等が十分に図られているとはいえない状況にある。
(3) 労働災害・労災補償の状況
 労働災害による被災者数は長期的には減少傾向にあるものの、今なお年間約1,600人の労働者が死亡している。また、重大災害(一度に3人以上の労働者が死傷する災害)は近年増加傾向にあり、昭和60年の2倍近い件数に至っており、昨年においても、化学製品製造工場、金属製品加工工場等における爆発災害、列車の脱線事故等をはじめとして大規模な重大災害が頻発している。
 労働者の健康面については、一般健康診断の結果、脳・心臓疾患につながる血中脂質、血圧等に係る有所見率が増加傾向にあり、平成14年の労働者健康状況調査によると職場生活等において強い不安、ストレスを感じる労働者の割合が6割にも達している。
 また、未規制物質を含む化学物質による疾病は増減を繰り返しながら長期的に減少がみられない。
 労災補償の新規受給者数は、ここ数年60万件前後で推移しており、脳・心臓疾患、精神障害等事案の労災請求・認定件数は、依然として高水準で推移している。
 昨年、大きな社会問題となったことを契機として、アスベストにばく露したことにより発症したとする肺がん・中皮腫の労災請求件数が急増している傾向が見られる。

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