平成18年1月10日
健康局結核感染症課
課長 塚原
担当 金成 (内線 4609)

茨城県及び埼玉県の鳥インフルエンザの抗体検査の結果について

 概要
 平成17年6月以降、高病原性鳥インフルエンザが確認された茨城県及び埼玉県の養鶏場の従業員等(養鶏場の業務に従事している者及びその家族であって家きんと濃厚に接触する機会があった者)及び防疫従事者の一部に対し、感染発症の有無を確認するために健康状態及びウイルス検査を実施したが、インフルエンザ様症状を示す者はなく、PCR検査によるウイルス遺伝子検査の結果はすべて陰性であった。
 これに加え、過去の感染を含めた感染の有無を確認するため、血清中和抗体検査を実施し、今般、中間的なとりまとめを行った。なお、対照群として、家きんの殺処分等に従事しなかった茨城県の職員31名に対し、血清抗体検査を実施した。

 血清抗体検査結果
 血清抗体検査については、家きんの感染が確認された直後の検査(第1回抗体検査)及びその約1か月後の採血による検査(第2回抗体検査)を実施した。
 結果表は次のとおりであるが、弱毒型であるH5N2インフルエンザウイルスに対する抗体測定法の判断基準は確立されたものではないため、疫学的背景とともに総合的に評価することが必要である。

 第1回抗体検査第2回抗体検査抗体価上昇者数
(4倍以上)
人数陽性者数※人数陽性者数※
養鶏場従業員等319442313415
防疫従事者3433
(平成17年末までに抗体検査終了分)
  ※今回の場合、対照群31名の血清抗体検査の結果において、中和抗体価40を超える例がなかったことから、抗体価40以上を仮の陽性の判定基準とした。なお、この判定基準については、あくまでも暫定的なものであることに留意する必要がある。

 結果の考察
 第1回抗体検査と第2回抗体検査との間で4倍以上の抗体価の上昇が認められた者は15例あった。これについては、現時点では第1回採血前後の比較的近い段階で感染したことが推測される。また、それ以外の陽性者62例については、感染時期は特定できないが、いずれかの時点で感染した可能性が示唆される。
 ウイルスに汚染された養鶏場では、家きんにおける感染が確認される前から、長期にわたり適切な感染防御手段を講じることなく、家きんとの接触や汚染環境との接触などが行われていたことによって、ウイルスに暴露して感染が起こったものと考えられる。
 一方、防疫従事者について、第1回抗体検査において陽性が確認されていた者については、第2回抗体検査で抗体価が下がっている。よって、少なくとも防疫作業への従事による感染はなかったと考えられる。
 なお、鳥インフルエンザには、持続感染はなく、感染から発症するまでの潜伏期間は1日から3日程度であるので、抗体陽性者において今後の発症のおそれはない。また、感染者がウイルスを排泄する期間は通常1週間以内であるので、今後他に感染させる可能性もない。

 調査の意義
1) 茨城県での家きん感染例が見つかったH5N2型の弱毒型鳥インフルエンザウイルスは、ヒトへの病原性は認められなかったものの、ヒトへの感染性はあり得ることが現時点で推測された。
2) 今回のH5N2型の鳥インフルエンザウイルスは家きんに対して病原性が低く、明らかな臨床症状を示さないことも多いことから、家きんにおけるウイルス伝播が完全に制圧されるまでは、家きんと接触するすべての者は、作業時にマスクの着用、手洗い等の感染防御対策の施行が望まれる。
3) 通常のインフルエンザに感染した患者が、鳥インフルエンザウイルスに混合感染しないよう、インフルエンザに罹患した場合には、養鶏場での作業を避けるなどの対応が必要である。

 なお、厚生労働省として、上記趣旨を踏まえた通知を本日、農林水産省及び都道府県衛生部あて発出した。(通知



平成18年1月10日

茨城県・埼玉県における高病原性鳥インフルエンザ血清抗体調査結果中間報告

国立感染症研究所

要旨
 平成17年6月に初発として報告された茨城県・埼玉県における一連のA/H5N2型の鳥インフルエンザウイルスの養鶏場での流行においてヒトへの感染の有無を確認することを目的として、血清中の中和抗体価の測定を実施した。全数の調査は終了していないが、暫定的な基準に基づく現時点の結果によると、感染鶏に接触した者のうち血清学的調査では抗体陽性者の存在が判明し、A/H5N2型のウイルスに感染した可能性のある者がいたと考えられる。詳細は更なる検討が必要である。

調査実施方法
 平成17年6月末から茨城県、埼玉県にて採血され、12月末までに国立感染症研究所が検査依頼を受けた感染鶏接触者群の第1回採血分385検体中353検体と第2回採血分264検体の全数について、茨城県で分離された鳥インフルエンザウイルスA/Ck/Ibaraki/1/2005 (H5N2)に対する中和抗体価を測定した。第2回採血は基本的に第1回採血から1ヶ月後に実施している。
 血清学的判定は基本的に第1回採血時と第2回採血時のペア血清で4倍以上の有意な抗体価の上昇に基づいて行った。一方で、流行したウイルスは弱毒性であり養鶏場でトリにおける流行時期を特定するのは容易ではなく、接触者の実際のウイルスへの曝露時期が必ずしも特定できない。第1回採血時には既にウイルスに曝露後一定期間経過し抗体が産生されていることも予想されるため、ペア血清で有意な抗体価の上昇が認められない可能性がある。そこで、ペア血清によらず単一の中和抗体測定値で陽性と判定するためには新たに基準を設定する必要がある。ヒトのA/H5N2型インフルエンザウイルスに対して中和抗体陽性とする基準は確立されていないため、判定基準値の設定を感染鶏非接触者群31名の血清を対照群として中和抗体価を測定して行った。

調査実施結果
 血清学的診断の基本となる第1回採血時と第2回採血時のペア血清で4倍以上の有意な抗体価の上昇が認められたのは15例あった。鶏処分作業従事者で作業後に抗体価の上昇が認められた者はいなかった。
 対照群である非接触者群の97%が抗体価10以下であり、抗体価40を越える例はなかった。従って抗体価40以上を示した検体は暫定的に陽性と判定することとした。この基準に従えばペア血清で有意な抗体価の上昇が認められた15名を除くと、表に示すように第1回採血分の49検体が、第2回採血分24検体が陽性と判定され、その内11検体は第1回及び第2回検査でともに陽性であった。
 その結果全体としては、この血清学的調査からは353名中77名が陽性と判定された。

表

結果の考察

 血清学的調査は、病原体を直接検出する方法ではなく間接的に病原体の感染による宿主の抗体応答を測定することによって感染を推測する方法である。病原体への曝露時と曝露後の厳密なペア血清を用いない時には、感染者群と非感染者群での抗体価の分布の比較によって陽性判定値を設定して調査結果を解釈することになるが、ヒトを対象とした調査では今回の場合も含めて明確な感染者群と非感染者群の検体を入手することは必ずしも容易ではない。従ってその調査結果には暫定的な側面があることに留意する必要がある。
 第1回採血時と第2回採血時のペア血清で有意な抗体価上昇が認められた者が15例で、単一の抗体測定値により陽性と判定した62例に比較すると4分の1程度であることから、仮にこれら陽性例がウイルスに感染していたとすると、第1回採血が実施された時には、既にウイルスに曝露を受け抗体を産生していた者の占める割合が高いことが示唆される。このことは養鶏場で鳥インフルエンザの感染が確認されたときには、多くの養鶏場で鶏よりウイルスは分離されず抗体のみが検出されウイルス感染が終息していたことと矛盾しない。
 感染した可能性のある者の大部分は養鶏場作業員であるが、これはウイルス感染を起こした養鶏場では感染が確認される前より適切な感染防御手段をとらなかったために、ウイルスに汚染された鶏や糞尿などとの接触によって感染が成立したものと考えられる。
 一方、防疫従事者については、作業開始時に第1回採血が実施されており、防疫作業による感染を検出することは比較的容易である。防疫従事者ではペア血清で有意な抗体価の上昇があった者は認められず、少なくとも防疫作業への従事による感染はなかったと考えられる。第1回検査で5名の陽性者が確認されているが、このうち3名は過去に家禽などとの接触歴がなかった。過去に家禽などとの接触歴のあった2名は、防疫作業開始以前に感染した家禽などから感染した可能性が考えられる。残りの接触歴のない3名については作業開始以前に何らかの類似したウイルスへの曝露や抗ウイルス剤服用による影響の可能性が考えられるが、現時点では明らかではない。
 今回、暫定的な基準を用いた血清学的調査では77名の感染の可能性が示唆される陽性例が存在したが、調査時にはインフルエンザ様症状は確認されなかった。鳥インフルエンザには持続感染はなくH5N1ウイルスでは潜伏期間は2日から7日間で、従ってこれらの感染の可能性がある者が今後発症することはないと考えられる。


照会先
健康局結核感染症課特定感染症係 清水(2379)
 平塚(2386)

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