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別添


医学研究等における個人情報の取扱いの在り方等について

平成16年12月24日

ライフサイエンス研究におけるヒト遺伝情報の取扱い等に関する小委員会
医学研究における個人情報の取扱いの在り方に関する専門委員会
個人遺伝情報保護小委員会


はじめに

 医学研究等における個人情報の取扱い等については、これまで各種指針を策定し、研究者が遵守すべき事項を定め、研究の適正な実施に努めてきたところである。一方で、近年、個人遺伝情報等を取り扱う研究等を巡る状況について変化がみられ、また、平成15年5月に個人情報の保護に関する法律(以下「個人情報保護法」という。)が成立し、平成17年4月の同法の全面施行を控えていることから、医学研究等における個人遺伝情報を含む個人情報の取扱いに関し、特に適正な取扱いを確保すべき分野としてその在り方を検討する必要がある。
 このため、本年5月から、文部科学省の科学技術・学術審議会生命倫理安全部会に「ライフサイエンス研究におけるヒト遺伝情報の取扱い等に関する小委員会」、厚生労働省の厚生科学審議会科学技術部会に「医学研究における個人情報の取扱いの在り方に関する専門委員会」、経済産業省の産業構造審議会化学・バイオ部会に「個人遺伝情報保護小委員会」をそれぞれ設置して、ヒトゲノム・遺伝子解析研究については三省の委員会を合同開催し、遺伝子治療臨床研究及び疫学研究については文部科学省と厚生労働省の二省の委員会を合同開催し、臨床研究については厚生労働省の委員会を開催し、それぞれ検討を行った。
 これら委員会では、この数ヶ月の間、それぞれ議論を重ねてきたところであり、個人情報保護等の観点から、現行のそれぞれの研究ごとの指針について検討を行い、その後、個人情報を保護するための個別法の必要性について検討を行った。その際、個別法の必要性については、いずれの研究にも共通の論点が数多くあることから、まず、ヒトゲノム・遺伝子解析研究における個別法の必要性について集中的に検討を行い、その後、各研究に固有の問題があればその点についてさらに検討を行った。今般、以下のとおり委員会としての意見を取りまとめた。


I. ヒトゲノム・遺伝子解析研究における個人情報の取扱いの在り方及び研究の進展に対応した倫理指針の見直しについて

ライフサイエンス研究におけるヒト遺伝情報の取扱い等に関する小委員会
医学研究における個人情報の取扱いの在り方に関する専門委員会
個人遺伝情報保護小委員会


1 ヒトゲノム・遺伝子解析研究における個人情報の取扱いの在り方

(1)ヒトゲノム・遺伝子解析研究における個人情報保護の必要性

 ○ 個人情報の保護に関する法律(以下「個人情報保護法」という。)において、「政府は、個人情報の性質及び利用方法にかんがみ、個人の権利利益の一層の保護を図るため特にその適正な取扱いの厳格な実施を確保する必要がある個人情報について、保護のための格別の措置が講じられるよう必要な法制上の措置その他の措置を講ずるものとする」(第6条)とされている。

 ○ また、衆議院の個人情報の保護に関する特別委員会における個人情報保護法案への附帯決議として、「医療、金融・信用、情報通信等、国民から高いレベルでの個人情報の保護が求められている分野について、特に適正な取扱いの厳格な実施を確保する必要がある個人情報を保護するための個別法を早急に検討すること」とされており、さらに参議院の個人情報の保護に関する特別委員会における附帯決議として、「医療」については、「遺伝子治療等先端的医療技術の確立のため国民の協力が不可欠な分野についての研究・開発・利用を含む」ものとされ、それらの分野については個別法を早急に検討し、個別法の検討について個人情報保護法の全面施行時(平成17年4月1日)には少なくとも一定の具体的結論を得ることとされている。

 ○ 「個人情報の保護に関する基本方針」(平成16年4月2日 閣議決定)においても、個人情報の性質や利用方法等から特に適正な取扱いの厳格な実施を確保する必要がある分野については、各省庁において、個人情報を保護するための格別の措置を各分野(医療、金融・信用、情報通信等)ごとに早急に検討し、法の全面施行までに、一定の結論を得るものとされている。

 ○ 一方、個人情報保護法においては、安全管理措置、第三者提供の制限、本人の求めに応じた開示等、個人情報取扱事業者の義務等に関する各種の規定を設けているが、大学その他の学術研究を目的とする機関若しくは団体又はそれらに属する者が学術研究の用に供する目的で個人情報を取り扱う場合等には、学問の自由を損なってはならないという憲法の趣旨を踏まえ、こうした各種規定が適用除外とされている(第50条第1項)。また、行政機関個人情報保護法や独立行政法人等個人情報保護法においては、その機関や事業の公的な性格等にかんがみ、国の行政機関や独立行政法人等(国立大学法人を含む)については、学術研究機関であっても一定の適用除外はあるが個人情報の保護が義務づけられている。

 ○ ヒトゲノム・遺伝子解析研究により得られた個人遺伝情報は、提供者等の遺伝的素因を明らかにする可能性があり、その取扱いによっては、様々な倫理的、法的又は社会的問題を招くおそれがある。提供者等の人権を保障するためにも、個人遺伝情報を保護し、研究が適正に実施されることが重要である。


(2)個人情報保護の観点からの倫理指針の見直し

 ○ 現行の「ヒトゲノム・遺伝子解析研究等に関する倫理指針」においても、人間の尊厳及び人権を尊重する観点から、個人情報の漏えいを防止するための厳格な匿名化を基本として、研究者等の守秘義務、個人情報管理者の設置等、個人情報の保護を図るための様々な規定が盛り込まれている。

 ○ さらに、今般、個人情報保護法等が成立したことを踏まえ、法律に規定されている個人情報保護に関する規定については、原則として指針の中に盛り込む必要がある。

 ○ このため、現行指針について、
(1) ヒトゲノム・遺伝子解析研究の実施に関する最終的な責任者は、現行指針では研究機関の長(大学医学部であれば医学部長)としてきたが、個人情報保護法において事業者単位で個人情報保護を図るべきとされていることを踏まえ、研究機関も含めた法人全体の長を最終的な責任者として整理すること
(2) 個人情報の保護に関する法人全体の長の責務として、個人情報保護のための安全管理措置、委託者に対する必要かつ適切な監督、個人情報のデータ内容の正確性の確保、苦情相談に対する配慮、提供者等からの求めに応じた情報の訂正・追加・削除等の規定を盛り込み、個人情報保護法とのバランスを図ること
等の見直しを行う必要がある。

 ○ また、指針の対象とする個人情報の範囲(データーベース化されていない個人情報や5,000件以下の個人情報も対象)、死者に関する個人情報の保護に関する安全管理措置等については、個人情報保護法に上乗せした措置を講ずるなどの対応を図る必要がある。

 ○ なお、同一法人内における連結可能匿名化情報について、本委員会としては、匿名化された情報及びその対応表を有する部門と当該部門から匿名化された情報のみ提供される部門が存在する場合に、前者の部門において厳格な安全管理措置を講じることなどの条件を設けた上で、後者の部門においては当該情報を個人情報に該当しないと整理することが研究の円滑な実施の観点から適当と考えた。しかるに、個人情報保護法、行政機関個人情報保護法及び独立行政法人等個人情報保護法の解釈との関係から、最終的には当該情報を個人情報に該当するものとして整理せざるを得なくなった。しかしながら、こうした整理により、委員の中から、研究の実施に支障を及ぼす可能性にも十分留意する必要がある。したがって、今後、同一法人内における連結可能匿名化情報の取扱いに関する問題点等について適宜フォローアップを行って実態を把握するとともに、必要に応じて研究の実施に支障を及ぼさないような適切な措置が検討されるべきものと考える。


(3)個人情報保護に関する規定の法制化

 (1)  法制化に関する基本的な視点

 ○ ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する個人情報の保護の必要性については、既に記述したとおりであり、提供者等の人権の尊重に関わる重要な問題であるという認識の下に、個人情報の保護に関する措置が講じられる必要がある。

 ○ 一方で、ヒトゲノム・遺伝子解析研究は、生命科学及び保健医療科学の進歩に大きく貢献し、人類の健康や福祉の発展、新しい産業の育成等に重要な役割を果たそうとしており、こうした科学研究の推進は重要な課題である。

 ○ したがって、ヒトゲノム・遺伝子解析研究における個人情報の保護に関する規定の法制化の問題については、個人情報が保護されるような枠組みを構築するということを基本的な前提とした上で、人類の利益に資する研究を推進するという点にも配慮しながら、検討を行う必要がある。

 (2)  個人情報保護に関する規定の法制化

 ○ ヒトゲノム・遺伝子解析研究における個人情報の保護に関する規定の法制化については、
法律に基づかない指針では違反したときの罰則がなく、実効性が担保される保障がない
法制化して適切な仕組みが構築されることで研究がやりやすくなる
個人情報の保護は、憲法が保障する個人の保護・尊重に深く関わるものであり、同様に憲法が保障する学問の自由との関係については、法律による妥当な解決が目指されるべき
など、法制化することの効果が期待される一方で、
法制化によって研究者が過剰に萎縮し、研究の推進に悪影響を及ぼすおそれがある
学問の自由を損なうおそれがある
法律では、指針と異なり、研究の進展に対応して迅速かつ柔軟に見直すことが困難
現場では指針といえども法律と同じようなレベルで捉えて基本的に遵守されており、法制化する必要性がうすい。
など、法制化に伴う問題も懸念されるところである。

 ○ また、ヒトゲノム・遺伝子解析研究から得られる個人遺伝情報の示す内容は、現状では、多くの場合決定的に個人の特質を示す又は予測するものとは言えず、法制化を考えるに当たっては、国民の個人遺伝情報に対する理解と評価に基づくべきであるとの指摘にも十分留意する必要がある。

 ○ 本委員会は、今般、(2)に述べられたとおり指針の見直しの提言を行った。これは、個人情報保護法が求める個人情報保護を十分に担保できるばかりでなく、死者に関わる情報の保護に関する安全管理措置やデーターベース化されていない個人情報、5,000件以下の個人情報への対応等の措置が講じられ、従来から規定されていたインフォームド・コンセント、研究者等の守秘義務、試料等又は個人遺伝情報の匿名化、個人情報管理者の設置等とともに、個人情報保護法に上乗せした保護を求める等、現行指針に比べてより厳しい内容を含むものである。

 ○ この改正後の指針が遵守されることにより、個人遺伝情報等の個人情報保護の必要性という点を考慮したとしても、「個人情報の保護に関する基本方針」等で求められる個人情報を保護するための格別の措置が講じられているものと考えられる。

 ○ これまで研究分野では、多くの指針が策定されてきているが、基本的には、これらは我が国において、研究の適正な実施の確保を図る上で有効な一手法と考えられる。しかしながら、指針は法的な罰則や強制力を有せず、国民の不安の解消にとって十分ではないと疑問を呈する指摘がある中で、研究者等に指針を遵守させ、個人情報保護についてより高い実効性をどう確保していくのかということが、法制化を議論するための重要なポイントである。

 ○ このため、
現状では、指針等に違反した場合には、国において研究費の補助や助成を受けられないなどの措置を講じているところであることから、当該措置を引き続き厳格に実施するとともに、他の国からの資金提供や国のプロジェクト等についても、同様の措置を講じるなど予算面等から指針の実効性を確保する措置を講じること
大学や公益法人等に対して、所管省庁としての監督権限の中で指針の実効性が確保されるような指導監督を実施すること
などの対応を講じることで、指針の実効性を更に確保することが必要である。

 ○ さらに、こうした指針の遵守状況について、一定期間後に調査・評価を行うなどフォローアップを実施し、その結果に基づいて、必要に応じて法制化を含めた措置を講じることで、指針の実効性を一層確保するとともに、問題発生・事後処理型の対応ではなく、未然防止型の対応を講じることができるものと考えている。

 ○ なお、ヒトゲノム・遺伝子解析研究に限った個別法ではなく、他の領域や分野も含んだ包括的な法律(4つの研究指針を統括した研究一括法、医療分野も含んだ個人情報保護法の特別法、医療・医学研究や産業における利用も含めた個人遺伝情報の適正な取扱いの確保のための法律)もしくは基本法的な法律(生命倫理全般について基本的な原則等を示す生命倫理基本法)による個人遺伝情報の保護、又は保険や雇用等における個人遺伝情報等に基づく差別の禁止を定めた法等の策定を検討すべきではないかという指摘があった。しかし、これらの策定は、いずれも研究にとどまる問題でないことはもとより、人権の尊重、インフォームド・コンセント、個人情報の保護等規定すべき項目が多岐にわたること、領域や分野によっては規制の程度や態様も一様ではないと考えられること等から慎重かつ十分な検討を要すべきであり、拙速な対応は適当ではないことを理由に、中長期的な課題と位置づけられるべきものと考えられる。今後の国際的な動向なども見据え、適切な時期にこの課題に対する検討が開始されるよう望む。

 ○ また、中長期的な課題として法制化を検討する際には、個人情報保護に関する規定を検討するばかりでなく、法律によって一層の促進が期待される研究環境の整備に関する規定についても併せて検討する必要がある。

 ○ さらに、個人遺伝情報に基づく差別が生じないよう、そもそも差別をなくすような社会づくりが必要であり、国をあげて精力的に国民の理解の促進に取り組むべきであることを確認した。

 (3)  法制化に関する委員会の議論のまとめ

 ○ 本委員会としては、個人情報保護の視点からの現行指針の見直しを行うとともに、その実効性を確保するための各種の対策、改正後の指針の遵守状況のフォローアップ等を実施することで、個人情報を保護するための格別の措置が講じられるものと考え、現段階において、個人情報保護法の全面施行に際し、ヒトゲノム・遺伝子解析研究において別途個別法を創設するなど個人情報保護の観点から別途の法制化の必要性はうすいものと考える。なお、既述のように中長期的には法制化の課題も含めて検討する必要があることも忘れてはならない。


2 研究の進展等に対応した倫理指針の見直し

近年のこの分野における科学技術の進歩はめざましいものがあり、研究の進展を阻害しないためには、こうした科学技術の進歩等諸情勢の変化を踏まえた、適時に指針の適切な見直しが必要である。

具体的には、現行指針が策定された当時と比べ、生活習慣病に関するSNP(一塩基多型)等の解析技術の進歩、一定の特徴を有する集団を対象とした追跡型研究の進展、国内における共同研究の進展等の状況の変化が認められるところである。

このため、今回の改正指針策定においては、(1)国内で複数機関が共同で研究を行う場合(いわゆる多施設共同研究)の執り得る倫理審査の手続の明確化、インフォームド・コンセントの手続、地域や集団を対象とした研究における透明性の確保のための説明と対話、海外の機関との共同研究における指針の運用のあり方等について、見直しを行うとともに、(2)個人遺伝情報の定義やプロテオーム情報の取扱いについて整理することとしたものである。

しかしながら、本委員会では、個人情報保護の視点からの指針の見直しに重点をおいて検討を実施したため、研究の進展等を踏まえた指針の見直しについては、今回、必ずしも十分に議論を行えなかった状況にあり、今後、以下の点を中心に検討することが必要である。
(1) 遺伝カウンセリング
遺伝カウンセリングを誰が行うべきか、どのような知識やノウハウを有する者に行わせることとするのか。
現在、学会等において臨床遺伝専門医制度を運営しているほか、遺伝カウンセラーの認定制度を開始するところであるが、こうした中で、遺伝カウンセリングを行う者に対する資格を創設すること等について、どう考えるか。
カウンセリングとして一括りに捉えるのではなく、遺伝カウンセリングとそれ以外のものとの区別に応じて、その対応の手続が明らかになるように規定することについてどう考えるか。
(2) ヒト細胞・遺伝子・組織バンク
非営利のバンクと営利のバンク、連結不可能なバンクと連結可能なバンク、クローズドなバンク等様々な態様が考えられる中で、どのようなものを「バンク」として議論していくのか。
連結可能匿名化された試料であることも念頭に置いた上で、バンクの機能に対応できる個人情報の保護の方法、インフォームド・コンセント取得時の利用目的の説明方法等や同意の態様を検討する必要があるのではないか。
バンクの永続性を確保するための仕組みやバンクの閉鎖の際の手続の構築を検討する必要があるのではないか。



II.遺伝子治療臨床研究における個人情報の取扱いの在り方について

ライフサイエンス研究におけるヒト遺伝情報の取扱い等に関する小委員会
医学研究における個人情報の取扱いの在り方に関する専門委員会


 遺伝子治療は、現在有効な治療法がない疾患に対して画期的な治療法につながる可能性があり、研究の推進を図ることは医学的に重要な課題である。一方、遺伝子治療臨床研究は患者を対象に行われるものであり、その安全性及び有効性を確保することが重要な前提であるとともに、患者の疾病情報を知り得ること等から、個人情報の保護を図ることが必要である。
 このため、本委員会において、遺伝子治療臨床研究における個人情報の取扱いの在り方について検討を行ったものである。
 まず、個人情報保護の観点からの現行指針(遺伝子治療臨床研究に関する指針)の見直しについては、基本的には、ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針の見直しの考え方と同様、(1)個人情報保護に関する最終責任者を法人全体の長とし、個人情報の安全管理措置、個人情報の開示、訂正、追加、削除等の個人情報保護法の趣旨を踏まえた見直しを実施、(2)必要に応じて、個人情報保護法に上乗せした措置を盛り込むべきものであり、さらに、改正後の指針の遵守状況について、適宜フォローアップを行うべきと考える。
 また、遺伝子治療臨床研究における個人情報保護に関する規定の法制化の議論については、当該研究が治療分野と密接に関係する等の面で、ヒトゲノム・遺伝子解析研究とは異なる特徴を有している点に配慮する必要がある。しかしながら、診療情報とみなされる個人情報については、「診療情報の提供等に関する指針」に従って適正に取り扱われる必要があり、また、一般的には医療関係の資格者が遺伝子治療そのものに携わることになるが、当該資格者については、刑法や保健師助産師看護師法等で守秘義務が課せられている。さらに、今般、厚生労働省における「医療機関等における個人情報保護のあり方に関する検討会」において、医療機関等における個人情報の保護に係る当面の取組方針について意見が取りまとめられたが、この中でも、「現段階においては、個人情報保護法の全面施行に際し、これらの措置に加えて個別法がなければ十分な保護を図ることができないという状況には必ずしもないと思われる」とされている。
 したがって、法制化の議論については、遺伝子治療臨床研究の特性を踏まえたとしても、基本的にはヒトゲノム・遺伝子解析研究と同様の理由から、現段階において個別法を創設する必要性はうすいものと考える。
 なお、本委員会では、今回、個人情報の保護を中心に検討を行ったものであり、研究の進展等の観点からの指針の見直しについては、別途検討の場を設けるなどにより、技術の進歩等諸情勢の変化を踏まえながら、速やかに対応すべきものと考える。


III.疫学研究における個人情報の取扱いの在り方について

ライフサイエンス研究におけるヒト遺伝情報の取扱い等に関する小委員会
医学研究における個人情報の取扱いの在り方に関する専門委員会


 医学の発展や国民の健康の保持増進を図る上で、疫学研究は重要な役割を担っており、疾病の成因を探り、疾病の予防法や治療法の有効性を検証し、又は環境や生活習慣と健康との関わりを明らかにするなど、様々な面での役割が期待されている。
 疫学研究においては、一部に個人情報保護の必要性が高い情報を取り扱うこともあるが、一般的には、ヒトゲノム・遺伝子解析研究や遺伝子治療臨床研究により得られる個人情報と比較して、その取扱いによって個人情報の保護の観点から様々な倫理的、法的又は社会的問題を招く可能性は相対的には低いものと考えられる。しかしながら、疫学研究では、多数の研究対象者について具体的な情報を取り扱うとともに、多くの関係者が研究に携わるという特色があり、情報管理について細心の注意を払うなど、個人情報の取扱いについて、他の研究と同様に、しっかりとした対応を講じる必要があり、本委員会において、個人情報の取扱いの在り方について検討を行ったものである。
 まず、疫学研究に関する倫理指針の見直しについては、基本的には、他の指針と同様に、個人情報保護に関する最終責任者を法人全体の長とし、個人情報の安全管理措置、個人情報の開示、訂正、追加、削除等の個人情報保護法の趣旨を踏まえた見直しを行うとともに、必要に応じて、個人情報保護法に上乗せした規制を盛り込むべきと考えている。その際、疫学研究においては、インフォームド・コンセントを必須要件としていない研究もあり、個人情報保護に関する本人の同意の規定について、明示する必要がある。また、改正後の指針の遵守状況について、適宜フォローアップを実施すべきものと考える。
 また、疫学研究における個人情報保護に関する規定の法制化の議論については、基本的にはヒトゲノム・遺伝子解析研究と同様の理由から、現段階において個別法を創設する必要性はうすいものと考える。
 なお、本委員会では、今回、個人情報の保護を中心に検討を行ったものであり、疫学研究についても、遺伝子治療臨床研究と同様、研究の進展等の観点からの指針の見直しについては、別途検討の場を設けるなどにより、現行指針の見直し規定の趣旨を踏まえて速やかに対応すべきものと考える。


IV.臨床研究における個人情報の取扱いの在り方について

医学研究における個人情報の取扱いの在り方に関する専門委員会


 臨床研究は、医療における疾病の予防方法、診断方法及び治療方法の改善、疾病原因及び病態の理解並びに患者の生活の質の向上を目的としており、国民の保健医療水準の向上や医学の発展に大きく寄与するものである。
 また、医学の進歩は、臨床研究に依存するところが大きいが、その際、被験者の人権に対する配慮が科学的・社会的利益よりも優先されなければならない。このため、研究者等が円滑に臨床研究を行うことができるようにするとともに、臨床研究の実施に当たって被験者の個人の尊厳及び人権を守られるようにしなければならない。
 こうしたことを踏まえ、臨床研究における個人情報の取扱いについては、基本的には、他の指針と同様に、個人情報保護に関する最終責任者を法人全体の長とし、個人情報の安全管理措置、個人情報の開示、訂正、追加、削除等の個人情報保護法の趣旨を踏まえた見直しを行ったところである。一方で、臨床研究においては、診療情報とみなされる個人情報を取り扱う場合が多いため、これについては、「医療機関等における個人情報保護のあり方に関する検討会」における議論を踏まえ、その開示の手続について「診療情報の提供等に関する指針」に従って適正に取り扱う旨を規定したところである。さらに、個人情報保護に係る各義務の実施主体については、研究現場の利便性に配慮し、具体的に明示したところである。また、改正後の指針の遵守状況について、適宜フォローアップを実施すべきものと考える。
 また、臨床研究における個人情報保護に関する規定の法制化の議論については、基本的にはヒトゲノム・遺伝子解析研究等と同様の理由から、現段階において個別法を創設する必要性はうすいものと考える。
 なお、臨床研究についても、遺伝子治療臨床研究や疫学研究と同様、研究の進展等の観点からの指針の見直しについては、別途検討の場を設けるなどにより、現行指針の見直し規定の趣旨を踏まえて速やかに対応すべきものと考える。


おわりに

 医学研究等は、生命科学及び保健医療科学の進歩に大きく貢献するものであり、提供者の個人の人権に十分配慮した上で研究が適正に推進されることが重要な課題である。
 このためには、まずは、この意見書の内容及び既に委員会として合意に至った検討結果を踏まえ、速やかに各種指針の見直しを行うとともに、特に個人情報の保護に関して、指針が遵守されるような方策を実施する必要があることは言うまでもない。
 さらに、関係各省庁においては、今後とも、研究の進展や国際的な動向などを十分に踏まえつつ、個人情報保護が実施されるような指針の不断の見直しを行うとともに、生命科学及び保健医療科学等に関する教育のより一層の充実や、研究に対する理解の浸透や差別のない社会の構築のための国民に対する普及啓発などの重要性にも十分に留意して、研究の推進や個人情報保護の確保が一層図られるような所要の支援を講じるよう要望するものであり、これにより、人々が健やかで心豊かに生活できる社会の実現につながることを期待するものである。



科学技術・学術審議会 生命倫理・安全部会
ライフサイエンス研究におけるヒト遺伝情報の取扱い等に関する小委員会


<主査>
 黒木登志夫  岐阜大学学長

<委員>
 位田 隆一  京都大学大学院法学研究科教授
 小幡 純子  上智大学大学院法学研究科教授
 鎌谷 直之  東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター所長
 具嶋  弘  (株)バイオフロンティアパートナーズ常勤顧問
 辻  省次  東京大学大学院医学系研究科教授
 富永 祐民
 (財)愛知県健康づくり振興事業団
あいち健康の森健康科学総合センター センター長
 豊島久真男
 (独)理化学研究所 横浜研究所
遺伝子多型研究センター センター長
 南条 俊二  (株)読売新聞東京本社論説副委員長
 橋本 信也  (社)日本医師会常任理事
 福嶋 義光  信州大学医学部教授
 堀部 政男  中央大学大学院法務研究科教授
(敬称略・五十音順)




厚生科学審議会科学技術部会
医学研究における個人情報の取扱いの在り方に関する専門委員会


<委員長>
 垣添 忠生  国立がんセンター総長

<委員>
 位田 隆一  京都大学大学院法学研究科教授
 宇都木 伸  東海大学法科大学院教授
 大山 永昭  東京工業大学教授
 具嶋  弘  (株)バイオフロンティアパートナーズ常勤顧問
 栗山 昌子  (財)エイズ予防財団理事
 菅  弘之  国立循環器病センター研究所長
 武田 隆男  (社)日本病院会副会長
 橋本 信也  (社)日本医師会常任理事
 廣橋 説雄  国立がんセンター研究所長
 福嶋 義光  信州大学医学部教授
 堀部 政男  中央大学法科大学院教授
 柳川  洋  埼玉県立大学学長
 吉倉  廣  国立感染症研究所名誉所員
(敬称略・五十音順)




産業構造審議会化学・バイオ部会
個人遺伝情報保護小委員会


<委員長>
 位田 驤  京都大学大学院法学研究科教授

<委員>
 江口 至洋  (株)三井情報開発常務取締役
 小幡 純子  上智大学大学院法学研究科教授
 勝又 義直  名古屋大学大学院医学系研究科教授
 具嶋  弘  (株)バイオフロンティアパートナーズ常勤顧問
 佐々 義子  くらしとバイオプラザ21主任研究員
 高芝 利仁  弁護士
 辻  省次  東京大学大学院医学系研究科教授
 南条 俊二  (株)読売新聞東京本社論説副委員長
 福嶋 義光  信州大学医学部教授
 藤原 靜雄  筑波大学大学院ビジネス科学研究科教授
 吉倉  廣  国立感染症研究所名誉所員
(敬称略・五十音順)



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