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1. 家庭用品が原因と考えられる皮膚障害に関する報告

(1)原因家庭用品カテゴリー、種別の動向
 原因と推定された家庭用品をカテゴリー別に見ると、装飾品等の「身の回り品」が90件で最も多く、次いで洗剤等の「家庭用化学製品」が61件であった(表1)。
 家庭用品の種類別では「装飾品」が48件(21.7%)で最も多く報告された。次いで「洗剤」が38件(17.2%)、「ゴム・ビニール手袋」が18件(8.1%)、「時計バンド」が10件(4.5%)、「眼鏡」が9件(4.1%)、「洗浄剤」が8件(3.6%)、「時計」及び「ナイロンタオル」が各7件(3.2%)、「ベルト」が5件(2.0%)、「下着」及び「ズボン」は各4件(1.8%)の順であった(表2)。
 報告件数上位10品目について平成14年度と比較すると、上位2品目について「装飾品」と「洗剤」の順位に変動があった。報告件数については、「装飾品」の報告件数は30件増加し、全体に対しての割合は12ポイント増加した。「洗剤」の報告件数は15件増加し、全体に対する割合も約5ポイント増加した。「ゴム・ビニール手袋」については、報告件数は18件で昨年と同じであったが、全体に対する割合は約2ポイント減少した(表2)。その他の上位品目については、報告数、割合に変動があったものの概ね過去の上位10品目と同様の品目で占められていた。

  注  「洗剤」 :野菜、食器等を洗う台所用及び洗濯用洗剤
 「洗浄剤」 :トイレ、風呂等の住居用洗浄剤

 上位10品目の全報告件数に占める割合を長期的な傾向から見ると、変動はあるものの「洗剤」と「装飾品」の割合が常に上位を占めており(図1)、平成15年度も同様であった。

(2)各報告項目の動向
 患者の性別では女性が146件(75.3%)と大半を占めた。そのうち20代が43件と全体の22.2%を占め、依然として最も高い割合となっている。この43件中23件はアレルギー性の接触皮膚炎で、このうち18件が金属アレルギーによるものであった。
 障害の種類としては、「アレルギー性接触皮膚炎」が75件(33.9%)と最も多く、次いで「刺激性皮膚炎」58件(26.2%)、「KTPP型の手の湿疹」が27件(12.2%)、「湿潤型の手の湿疹」が20件(9.0%)、であった。

 * :KTPP(keratodermia tylodes palmaris progressiva:進行性指掌角皮症)
 手の湿疹の1種で、水仕事、洗剤等の外的刺激により起こる。まず、利き手から始まることが多く、皮膚は乾燥し、落屑、小亀裂を生じ、手掌に及ぶ。程度が進むにつれて角質の肥厚を伴う。

 症状の転帰については、「全治」と「軽快」を合計すると141件(72.7%)であった。なお、本年も「不明」が46件(23.7%)あった。このような転帰不明の報告例は、症状が軽快した場合に受診者が自身の判断で途中から通院を打ち切っているものと考えられる。

(3)原因製品別考察
 1)装飾品
 平成15年度における装飾品に関する報告件数は48件(21.7%)であった。前年度18件(9.7%)と比較すると報告件数は増加し、全報告件数に対する割合も増加した(表2)。
 原因製品別の内訳は、ネックレスが19件、ピアスが17件、指輪が4件、ペンダントが1件、複数の製品によるものが4件、不明が3件であった。
 障害の種類では、アレルギー性接触皮膚炎が29件(60.4%)と最も多かった。
 金属の装飾品について、25件のパッチテスト施行例が報告され、前年度同様、ニッケルにアレルギー反応を示した例が15件と最も多かった(表3)。それに次いでクロムが10件でパッチテストによりアレルギー反応が観察された。このパッチテストは同時に複数の金属について行われたが、ほとんどの場合、被験者は複数の金属に対して強弱の差はあるが、陽性反応を示していた。
 このような金属による健康障害は、金属が装飾品より溶けだして症状が発現すると考えられる。そのため、直接皮膚に接触しないように装着することにより、被害を回避できると考えられる。しかしながら、夏場や運動時等、汗を大量にかく可能性のある時には装飾品類をはずす等の気を配ることが被害を回避する観点からは望ましい。また、ピアスは耳たぶ等に穴をあけて装着するため、表皮より深部と接触する可能性が高いため、初めて装着したり、種類を変えたりした後には、アレルギー症状の発現などに対して特に注意を払う必要がある。
 症状が発現した場合には、原因製品の装着を避け、装飾品を使用する場合には別の素材のものに変更することが症状の悪化を防ぐうえで望ましい。さらに、早急に専門医の診療を受けることを推奨したい。ある装飾品により金属に対するアレルギー反応が認められた場合には、金属製の別の装飾品、めがね、時計バンド、ベルト、ボタン等の使用時にもアレルギー症状が起こる可能性があるので、同様に注意を払う必要がある。例えば、最も症例の多いニッケルアレルギーの場合、金色に着色された金属製品はニッケルメッキが施されている場合が多いので注意が必要である。

  ◎ 事例1【原因製品:ピアス】
 患者   30歳 女性
 症状 10年来ピアスをしていた。6カ月前からピアスをしているところに浸出液を伴う紅斑出現。
 障害の種類 アレルギー性接触皮膚炎
 パッチテスト ニッケル(+)、パラジウム(+)
 治療・処置 ステロイド薬外用

  ◎ 事例2【原因製品:指輪、ネックレス】
 患者   23歳 女性
 症状 2年ぐらい前より、指輪やネックレスで痒み、紅斑。
 障害の種類 アレルギー性接触皮膚炎
 パッチテスト コバルト(++)、ニッケル(+)、クロム(+)、パラジウム(+)
 治療・処置 ステロイド薬外用

 2)洗剤
 平成15年度における洗剤に関する報告件数は38件(17.2%)であった。全体に対する割合は2位に下がったものの、報告件数は前年度23件(12.4%)より増加し、全報告件数に対する割合も約6ポイント増加した。(表2)。
 内訳を見ると、台所用洗剤が原因となった例が20件(52.6%)と過半数を占めた。なお、洗濯用が2件、用途が特定できないものは16件であった。
 洗剤が原因となった健康障害の種類は、KTPP型の手の湿疹が16件(42.1%)、刺激性の皮膚炎が14件(36.8%)、湿潤型の手の湿疹が10件(26.3%)、アレルギー性接触皮膚炎が4件(10.5%)であった。
 皮膚を高頻度で水や洗剤にさらすことにより、皮膚の保護機能が低下し、KTPP型の手の湿疹や刺激性皮膚炎が起こりやすくなっていたり、また高濃度で使用した場合に障害が起こったりというように、症状の発現には、化学物質である洗剤成分と様々な要因(皮膚の状態、洗剤の使用法・濃度・頻度、使用時の気温・水温等)が複合的に関与しているものと考えられる。基本的な障害防止策としては、使用上の注意・表示をよく読み、希釈倍率に注意する等、正しい使用方法を守ることが第一である。また、必要に応じて、保護手袋を着用することや、使用後、クリームを塗ることなどの工夫も有効な対処法と思われる。それでもなお、症状が発現した場合には、原因と思われる製品の使用を中止し、早期に専門医を受診することを推奨したい。

  ◎ 事例1【原因製品:台所用洗剤】
 患者   67歳 男性
 症状 素手で洗剤を使用して水仕事をしていたら右手に紅斑が出現してきた。
 障害の種類 手の湿疹(湿潤型)
 パッチテスト 未実施
 治療・処置 ステロイド薬外用

 3)ゴム・ビニール手袋
 平成15年度における報告件数は18件(8.1%)であった。全報告件数に対する割合は、前年度(9.7%)に比べ約2ポイント減少した。素材別の内訳は、ゴム手袋が16件、ビニール手袋が1件、不明のものが1件であった。
 障害の種類としては、刺激性皮膚炎、KTPP型手の湿疹及び湿潤型手の湿疹がそれぞれ7件(38.9%)、アレルギー性の接触皮膚炎が6件(33.3%)報告された。
 本年度については、ラテックス蛋白質を原因とする接触じん麻疹等の重篤な障害事例は報告されなかったが、前年度までの事例で紹介しているように、材質に対する反応は個人差があり、特にラテックスアレルギーは、時にアナフィラキシー反応を引き起こし、じん麻疹や発疹、ショック状態等、重篤な障害をまねく恐れがあるので、製造者において、製品中のラテックス蛋白質の含有量を低減する努力が引き続き行われることが重要であるとともに、ラテックスに対するアレルギー反応の有無等、自己の体質にも注意が必要である。基本的には、既往歴があり、ゴム・ビニール手袋による皮膚障害が心配される場合には、以前問題が生じたものとは別の素材のものを使うようにする等の対策をとる必要がある。はじめ軽度な障害であっても、当該製品の使用を継続することにより症状が悪化してしまうことがあり得る。また、原因を取り除かなければ治療効果も失われてしまうので、何らかの障害が認められた場合には、原因と思われる製品の使用を中止し、専門医を受診することを推奨したい。

  ◎ 事例1【原因製品:ゴム手袋】
 患者   30歳 女性
 症状 5年前より手の湿疹あり。
 障害の種類 手の湿疹(乾燥型、いわゆるKTPP型)
 パッチテスト 製品を用いたスクラッチテスト陽性
 治療・処置 ステロイド薬外用

 4)時計バンド
 平成15年度における時計バンドに関する報告件数は10件(4.5%)であった。前年度は8件(4.8%)であり、報告件数は増加した(表2
 内訳をみると、金属によるものが1件、不明が9件であった。
 障害の種類としては、アレルギー性接触性皮膚炎が7件(70.0%)、刺激性皮膚炎、色素沈着がそれぞれ1件(10.0%)であった。
 これらの症状は皮膚と時計バンドの成分とが接触することにより発現するので、症状が発現した場合には、すみやかに別の素材のものに変更することにより被害を防ぐことができる。金属バンドでアレルギー症状が発現した場合には、イヤリング、ピアス、ネックレス等の他の金属製品の使用に際しても注意が必要である。また、革製の時計バンドで症状が発現した場合は、クロムによる金属アレルギーの恐れがあるので、金属バンドと同様、クロムを含有する他の金属製品の使用時にも注意を払いたい。

  ◎ 事例1【原因製品:時計バンド】
 患者   24歳 女性
 症状 3カ月前より腕時計着用部位に?痒を伴う紅斑、皮疹を認める。
 障害の種類 アレルギー性接触皮膚炎
 パッチテスト 未実施
 治療・処置 ステロイド薬外用

 5)めがね
 平成15年度におけるめがねに関する報告件数は9件(4.1%)であった。前年度5件(2.7%)と比べると報告件数、全報告件数に対する割合とも増加していた(表2)。
 障害の種類は、アレルギー性接触皮膚炎が5件(55.6%)、刺激性皮膚炎が4件(44.4%)であった。
 また被害を発症した原因を見ると、フレーム部分によるものが3件、つるの先端部分(先セル)によるものが4件、金属アレルギーの既往があり眼鏡全体によるものが1件(金属アレルギーの既往あり)であった。

  ◎ 事例1【原因製品:めがね】
 患者   54歳 男性
 症状 9カ月前よりめがねを替えてから、先セル(ツル)の当たる部分(両耳介)に紅斑出現
 障害の種類 アレルギー性接触性皮膚炎
 治療・処置 ステロイド薬外用

 6)その他
 その他、被害報告件数が多かったものは洗浄剤が8件(3.6%)、時計及びナイロンタオルが各7件(3.2%)、ベルトが5件(2.3%)、下着及びズボンが各4件(2.3%)であった。

  ◎ 事例1【原因製品:洗濯仕上げ剤(柔軟剤、糊等)】
 患者   18歳 男性
 症状 1〜2カ月前より頸部に?痒を伴う皮疹出現。襟のカラー部分に一致して紅斑を認める。
 障害の種類 刺激性皮膚炎
 治療・処置 ステロイド薬外用

  ◎ 事例2【原因製品:ナイロンタオル】
 患者   57歳 男性
 症状 10年前よりナイロンタオルを使用しており、背中から肩にかけて色素沈着を認めた。
 障害の種類 色素沈着
 治療・処置 使用中止を薦めた。

  ◎ 事例3【原因製品:電子レンジで暖める湯たんぽ】
 患者   63歳 女性
 症状 電子レンジで暖めるタイプの湯たんぽを使用していた。1週間くらい使用していたら、急に接触部位に発赤出現。
 障害の種類 刺激性皮膚炎、熱傷
 治療・処置 ステロイド薬外用

  ◎ 事例4【原因製品:下着】
 患者   33歳 女性
 症状 6年前より、胸部の色素沈着、接触皮膚炎が出現。下着をつけないでいると症状は軽快。その後も皮疹の軽快、再燃を繰り返す。
 障害の種類 色素沈着(色素沈着型接触皮膚炎)
 パッチテスト ニッケル(+)、PPDA(+)
 治療・処置 ステロイド薬外用

<担当医のコメント>
 染料などについても、パッチテストを行ったが陽性反応は認められなかった。

  ◎ 事例5【原因製品:革サンダル】
 患者   20歳 男性
 症状 革サンダルをはいて、1週間後雨で濡れた時からサンダルの当たった部位に発赤が出た。次第に増悪して水疱を形成し来院。
 障害の種類 光アレルギー性皮膚炎
 パッチテスト サンダル(+++)、p-tBTFR(+++)、ウルシオール(+++)、デスパースブルー(++)、 アンチモン(++)
 治療・処置 ステロイド薬内服及び外用

<担当医のコメント>
 製品分析及び確認パッチテストにより原因がカシューナッツオイルであることが強く疑われた。

  ◎ 事例6【原因製品:ウェットワイパー】
 患者   56歳 女性
 症状 酒?により通院中の患者。ウェットワイパーで手のかぶれ、荒れがひどくなる。
 障害の種類 刺激性皮膚炎
 治療・処置 ステロイド薬外用

  ◎ 事例7【原因製品:ゴーグル】
 患者   77歳 男性
 症状 プールでゴーグルをつけてから、目の回りに皮疹出現。
 障害の種類 刺激性皮膚炎
 治療・処置 ステロイド薬外用

<担当医のコメント>
 眼周囲に接触するゴムによる刺激あるいはアレルギーで生じた可能性がある。

  ◎ 事例8【原因製品:台所用漂白剤】
 患者   69歳 女性
 症状 初診の2週間前に台所用漂白剤を使用中両手指に皮疹が出現。
 障害の種類 刺激性皮膚炎
 治療・処置 ステロイド薬外用

<担当医のコメント>
 漂白剤の濃度は不明である。漂白剤は皮膚刺激が強いと思われ、適切な扱いが必要である。

  ◎ 事例9【原因製品:漆塗りテーブル】
 患者   54歳 男性
 症状 5日ほど前より左前腕に、昨日より右前腕にかゆい皮疹を生じた。10日ほど前より、新しいテーブル(漆塗り)を使用している。
 障害の種類 アレルギー性接触皮膚炎
 治療・処置 ステロイド薬外用

<担当医のコメント>
 テーブルに手をつくところに皮疹を生じており、原因として漆(ウルシオール)を疑った。交叉感作による銀杏やマンゴーでの接触皮膚炎にも、注意を促しておく必要があると思われる。

(4)全体について
 平成15年度の家庭用品を主な原因とする皮膚障害の種類別報告全194件のうち、75件はアレルギー性接触皮膚炎であった。この中でも、装飾品、めがね、ベルトの留め金、時計や時計バンドなどで見られた金属アレルギーが約6割を占めた。
 家庭用品を主な原因とする皮膚障害は、原因家庭用品との接触によって発生する場合がほとんどである。家庭用品を使用することによって接触部位に痒み、湿疹等の症状が発現した場合には、原因と考えられる家庭用品の使用は極力避けることが望ましい。故意、もしくは気付かずに原因製品の使用を継続すると、症状の悪化をまねき、後の治療が長引く可能性がある。
 症状が治まった後、再度使用して同様の症状が発現するような場合には、同一の素材のものの使用は以後避けることが賢明であり、症状が改善しない場合には、専門医の診療を受けることが必要である。本年は報告されなかったが、ゴム手袋のラテックスタンパク質に対するアナフィラキシーショックのように重篤なものもあるので、注意が必要である。
 また、日頃から使用前には必ず注意書きをよく読み、正しい使用方法を守ることや、化学物質に対して感受性が高くなっているアレルギー患者等では、自分がどのような化学物質に反応する可能性があるのかを認識し、使用する製品の素材について注意を払うことも大切である。


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