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厚生労働省発表
平成16年12月15日(水)
職業安定局高齢・障害者雇用対策部
障害者雇用対策課
電話  03-5253-1111(5783)
夜間直通  03-3595-1173



労働政策審議会意見書
今後の障害者雇用施策の充実強化について
−就業機会の拡大による職業的自立を目指して−



 労働政策審議会(会長:西川俊作 慶應義塾大学名誉教授)は、本日、別添のとおり、厚生労働大臣に対し、「今後の障害者雇用施策の充実強化について−就業機会の拡大による職業的自立を目指して−」と題する意見書の提出を行った。
 厚生労働省としては、この意見書の趣旨に沿い、次期通常国会への法案提出に向け、法案要綱を作成し、労働政策審議会に諮問する予定である。


目次
別添 労働政策審議会意見書
参考1 労働政策審議会意見書の概要
参考2 労働政策審議会障害者雇用分科会委員等名簿
参考3 障害者雇用分科会の開催実績
参考4 参考資料



別添

労審発第183号
平成16年12月15日

厚生労働大臣 尾辻 秀久 殿

労働政策審議会
 会長 西川 俊作


今後の障害者雇用施策の充実強化について
−就業機会の拡大による職業的自立を目指して−
(意見書)


 当審議会は、今後の障害者雇用施策の充実強化について、本年9月から障害者雇用分科会において鋭意検討を行ってきたが、今般、別添のとおり分科会意見書が取りまとめられた。
 今後、この分科会意見書の趣旨に沿い、障害者の就業機会の拡大による職業的自立を目指して障害者雇用施策の充実強化を図ることが必要であると考えるので、この意見書を提出する。



別添

今後の障害者雇用施策の充実強化について
−就業機会の拡大による職業的自立を目指して−
(意見書)


 当分科会は、今後の障害者雇用施策の充実強化について検討を重ねた結果、別紙の通りその結論を得たので報告する。


平成16年12月15日


労働政策審議会
 障害者雇用分科会
 会長 諏訪 康雄


労働政策審議会
 会長 西川 俊作 殿



今後の障害者雇用施策の充実強化について
−就業機会の拡大による職業的自立を目指して−

目次

1. 精神障害者に対する雇用対策の強化
(1) 障害者雇用率制度の適用
(2) 雇用支援策の充実
1 休職から復職に至る過程の支援
2 新規雇用の促進
3 雇用を継続するための支援

2. 多様な形態による障害者の就業機会の拡大
(1) 障害者の在宅での就業に対する支援の充実
1 在宅勤務の普及促進
2 在宅就業に対する発注の奨励
3 在宅就業を支援する団体の育成
(2) 雇用形態の多様化と障害者雇用
1 短時間労働
2 派遣労働

3. 地域における協働による障害者雇用の促進
(1) 福祉的就労から一般雇用への移行の促進
(2) 職場適応援助のニーズの広がりと担い手の育成
(3) 企業等の協働による障害者雇用の創出

4. その他の諸課題
(1) 特例子会社に対する障害者雇用調整金・報奨金の支給
(2) 企業グループに対する障害者雇用率の算定
(3) 除外率の縮小による障害者雇用の促進等
(4) 障害者雇用に関する助成金の整理等



今後の障害者雇用施策の充実強化について
−就業機会の拡大による職業的自立を目指して−


 障害者が自己実現を図る上で、あるいは社会の構成員としての役割を果たす上で、職業生活において自立することの意義は極めて大きい。障害者が自らの能力、可能性を最大限活かし、職業生活におけるキャリアを切り拓いていくためには、障害種別による制度上の格差の解消を図るとともに、働き方の選択肢を広げることなどにより、就業機会の拡大がなされる必要がある。このことは、個人の尊厳にふさわしい生活を求める障害者基本法の理念にかなうものである。
 21世紀に我が国が目指すべき社会の在り方として共生社会の理念が浸透しつつあり、その流れの中で障害者の社会参加が進み、障害者の就業に対するニーズが高まっている。平成14年末に「障害者基本計画」、「重点施策実施5か年計画」が策定され、地域における自立の促進という施策の基本的方向が示されて以降、こうした傾向は一層強まっており、関連施策も大きくかつ急速な展開が求められてきている。
 特に精神障害者については、近年、有効求職者数、就職者数ともに増加しており、障害者雇用率制度(以下「雇用率制度」という。)の適用など精神障害者の雇用対策を早期に充実することが求められている。
 また、昨今、ITの進展等により、通勤が困難な重度障害者がインターネット等を活用して在宅で就業するケースが増えており、障害者の就業機会の拡大を図る上で、在宅就業に対する支援を行うことが重要となってきている。
 障害保健福祉の分野では、障害者が就労を含めてその人らしく自立して地域で暮らし、地域社会にも貢献できる仕組みづくりを進める自立支援型システムへの転換という視点から、福祉施設の在り方を就労移行支援型事業や要支援障害者雇用事業といった機能別の事業に再編成する改革が検討されている。障害者雇用対策においても、こうした動きにあわせて福祉施策との連携を一層強化しつつ、企業に対する支援も含め、福祉的就労から一般雇用への移行を促進するための取組を行うことが求められている。
 学校教育の分野においても、障害のある児童生徒等の自立や社会参加に向けた主体的な取組を支援するという視点に立った「特別支援教育」の理念が提唱され、現行の盲・ろう・養護学校を障害種別を超えた特別支援学校(仮称)とする構想が提案されており、障害者雇用を進めるに当たっては、こうした動向を踏まえた適切な対応が求められている。
 また、知的障害を伴わない発達障害者への支援ニーズも高まっており、今般の発達障害者支援法の成立も踏まえ、障害者職業センターにおける支援技法の開発等の取組を進めるとともに、学校教育や福祉関係機関との連携を図りながら適切に対応していくことが必要となってきている。
 このような状況を踏まえ、障害者の就業機会の拡大による職業的自立を目指して、以下のとおり、障害者の雇用の促進等に関する法律(以下「障害者雇用促進法」という。)の改正を含め、今後の障害者雇用施策の充実強化を図る必要がある。

1. 精神障害者に対する雇用対策の強化
 医療、福祉の進展等により精神障害者の社会参加が進み、精神障害者の就業意欲は一層高まりをみせている。また、経済・産業構造が転換し、労働者の就業意識の変化、働き方の多様化等がみられる中で、仕事や職業生活に対する強い不安、悩み、ストレスを訴える労働者が増加してきており、企業に採用されてから精神障害を有するに至った者(採用後精神障害者)の雇用の継続も、課題となっている。
 このため、精神障害者の雇用について、従来からの各般の施策に加え、さらに雇用率制度の適用を行うとともに、雇用支援策の充実を図る必要がある。
(1) 障害者雇用率制度の適用
 雇用義務制度は、障害ゆえに職業生活上の制約を有する障害者の雇用は企業の社会的責任であるという考え方から成り立っており、精神障害者についても障害者雇用促進法上に定義されたこともあり、将来的にはこれを雇用義務制度の対象とすることが考えられる。
 しかしながら、現段階では、このような企業の社会的責任を果たすための前提として、精神障害者の雇用に対する企業の理解と雇用管理ノウハウの普及を図り、精神障害者の雇用環境をさらに改善していく必要がある。そこで、雇用義務制度の本格的な実施を図る前に、採用後精神障害者を含め、精神障害者を雇用している企業の努力を評価する制度を整備し、その雇用の促進を図ることが必要である。
 具体的には、精神障害者を雇用している場合には、雇用率制度においてこれを実雇用率に算定するとともに、障害者雇用納付金制度の取扱いも同様とすることが適当である。また、疲れやすく長時間働くことが困難な精神障害者も少なくないことから、それらの特性に合わせた短時間労働(週20時間以上30時間未満労働をいう。以下同じ。)の評価も必要であり、実雇用率の算定等に当たっては、週30時間以上労働との均衡を踏まえ、これを0.5とカウントすることが適当である。
 また、精神障害者を実雇用率に算定するに当たっての対象者の把握・確認方法は、精神障害の特性やプライバシーへの配慮、公正、一律性等の観点から、精神障害者保健福祉手帳(以下「手帳」という。)の所持をもって行うことが適当であり、本人の意に反した雇用率制度の適用等が行われないよう、プライバシーに配慮した対象者の把握・確認の在り方について、企業にとって参考となるものを示すことが必要である。その内容としては、スムーズな把握・確認の方法や事例、手帳取得の強要の禁止といった禁忌事項を示すこと等が考えられるが、企業にとってわかりやすいものとなるよう、専門家による検討を行うことが適当である。
 さらに、手帳所持による雇用率制度の適用に当たっては、本人、家族や関係者、医療関係者に対し、手帳制度と職業リハビリテーションサービスの利用について十分な周知を図るとともに、精神障害に対する国民各層の理解の浸透を図っていくことが重要である。
 なお、このように精神障害者を実雇用率に算定することとした後においては、その適用状況を踏まえ、精神障害者を雇用義務制度の対象とすることについて、具体的に検討を進めていくことが適当である。
(2) 雇用支援策の充実
 精神障害者の雇用を進めていくためには、雇用率制度の適用とあわせ、精神障害者本人及び雇用する企業に対する支援による雇用環境の整備が必要である。精神障害者の雇用支援策は年々充実が図られてきているが、今後、さらに企業の精神障害者の雇用に対する理解を浸透させ、全体として精神障害者雇用の促進を図るために、新規雇用の促進はもとより、休職から復職に至る過程における支援や雇用継続のための支援等、企業が直面する在職精神障害者の雇用管理上の諸課題に対する支援に、これまで以上に重きをおく必要がある。
1 休職から復職に至る過程の支援
 精神障害により休職した者の復職を順調に進めていくためには、精神障害者、事業主、医療機関の三者の密接な連携のもと、復職の各段階に応じた相談支援が適切に行われる必要がある。
 このため、現在、一部の地域障害者職業センターが行っている精神障害者職場復帰支援事業(リワーク事業)をさらに発展させ、復職後の雇用継続に対する支援も含めた総合的な支援を全国各地の地域障害者職業センターで実施することが適当である。
 また、復職過程における企業の負担感を軽減するため、障害者雇用納付金制度において、企業内において復職の直接的な援助に当たるとともに、本人、産業医、上司等社内関係者や主治医、地域障害者職業センター等の外部の支援機関等との間の連絡調整を行う企業内の支援スタッフを配置することについて支援を行うことが必要である。
 なお、復職支援も含めた在職精神障害者への支援は、ストレスの予防をはじめとする心の健康づくり(メンタルヘルス)対策との密接な連携を図りながら実施される必要がある。また、復職支援に当たり、精神科デイケアなど地域における様々な保健福祉サービスの活用を図っていくことも重要である。
2 新規雇用の促進
 精神障害者が実際に職場において訓練ないしは試行的に雇用される機会を提供するため、企業等を委託先とする委託訓練、精神障害者社会適応訓練の活用や、職業能力開発校における効果的なカリキュラムの確立などが求められる。また、企業からの利用希望が多く期間終了後に本格的に雇用へ移行する可能性が高い障害者試行雇用事業のさらなる拡充に努める必要がある。
 また、(1)で述べたように精神障害者の雇用促進のためには短時間労働に対する支援も重要であり、短時間労働の実雇用率への算定に加え、週15時間労働からの雇用支援策をさらに充実させることが必要である。
 さらに、常用雇用への移行段階として、数人の精神障害者のグループが援助を受けながら職業準備性を高めるグループ就労も有効であり、期間を限定し、常用雇用への移行等を条件とした上で、支援を行うことが必要である。
 なお、精神障害者の新規雇用を促進するため、地域障害者職業センターや就労支援専門機関において、専門的な技法を活用した企業コンサルティングを行うことが適当である。
3 雇用を継続するための支援
 精神障害者が採用後ないしは復職後も雇用継続されるためには、日によって仕事の出来や体調に波があり得るといった障害特性にあわせ、周囲とのコミュニケーションをはじめとする環境調整や労働時間への配慮、生活面を含めた相談支援等を行う必要がある。
 このため、1の企業内の支援スタッフが中心となって、主治医はもとより、ハローワーク、地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センター、精神保健福祉センター、精神障害者地域生活支援センター等の外部の専門機関やそのサービスの活用を進めていくことが適当である。また、このような雇用継続のための支援に当たっては、都道府県、地域それぞれのレベルで、雇用、保健、福祉、医療等の関係機関各領域の専門スタッフが適切な連携を図りながら実施していくことが重要である。

2. 多様な形態による障害者の就業機会の拡大
 経済・産業構造の変化を背景として、労働市場も需給両面において構造変化が進展してきており、労働者の就業意識とともに働き方も多様化する傾向にある。働き方の多様化は、障害者にとって、就業場所や就業時間といった面での選択可能性が広がることにより、社会参加の制約要因を克服し、就業機会の拡大をもたらす可能性を有する点で、大きな意義を持つといえる。
 したがって、今後の障害者の職業的自立に向けた支援策は、週30時間以上労働を前提としたこれまでの支援策を基本としつつも、これに雇用以外の形態も含めた多様な働き方に対する支援策を組み合わせることによって、多様な就業形態に対応した施策の展開を図ることが重要である。このような施策の展開に当たっては、障害保健福祉施策と相まって、福祉的就労から一般雇用に至る様々な働き方に対する支援の充実を図ることが重要であり、そのような中で、通勤等移動に制約を抱える重度障害者等を念頭に、働き方の選択肢の一つとして、企業に雇用されて在宅で勤務する形態(以下「在宅勤務」という。)の普及促進を図るとともに、自宅等の場所における雇用以外の形態による就業(以下単に「在宅就業」という。)に対して、仕事の確保のための支援策や在宅就業を支援する団体の育成等を図っていくことが適当である。
 また、近年、短時間労働者や派遣労働者の雇用全体に占める割合が高まっている中で、短時間労働や派遣労働といった雇用形態への対応についても、障害者施策の観点からさらに検討を進めていくべき時期にきている。
(1) 障害者の在宅での就業に対する支援の充実
1 在宅勤務の普及促進
 障害者の就業機会の拡大のためには、事業所での勤務だけではなく、在宅での勤務が可能となるようその普及を進めていくことが重要である。
 障害者の在宅勤務の場合、企業においては、在宅勤務障害者の障害特性、健康状態等に留意しつつ、業務の配分・調整を行い、在宅勤務障害者との日常的な業務連絡・社内関係部門や取引先との連絡調整等を行う必要がある。このため、企業が在宅勤務障害者の雇用管理や業務管理、社内・社外の連絡調整を行うコーディネーターを配置することについて支援を行うことが適当である。
2 在宅就業に対する発注の奨励
 在宅就業を営む障害者にとって、仕事の安定的な確保は最も大きな問題であり、仕事を発注する側に障害者の在宅就業への発注の動機付けを与えることが必要である。
 そこで、障害者雇用納付金制度の仕組みを活用し、発注元企業が納める障害者雇用納付金(以下「納付金」という。)の減額又は発注元企業が受け取る障害者雇用調整金(以下「調整金」という。)・報奨金の加算という形で、障害者の在宅就業への発注に伴って発注元企業が負う特別な経済的負担を補填することが適当である。
 具体的な仕組みとしては、まず、障害者一人分の稼得を生み出すに足ると考えられる金額を評価基準額として設定し、この評価基準額を用いて、IT関連業務や物品の製造・加工、役務の提供等について、ある企業が年間に在宅就業障害者に発注した金額の合計が、障害者何人分の稼得に相当するかを算出する。そして、当該人数分に応じて、雇用との関係に配慮しつつ設定した納付金の減額単価及び調整金・報奨金の加算単価に基づき、当該企業の納めるべき納付金を減額し、あるいは受け取るべき調整金等に加算を行うことを制度の基本的な考え方とすることが適当である。その上で、実際の制度設計に当たっては、より多くの企業が制度を利用できるようにするため、年間の発注額が評価基準額に満たない場合であっても発注額に応じたメリットが受けられるような制度とすることを検討すべきである。
 なお、この発注奨励制度の運用に当たっては、制度が悪用されることの無いよう意を払いつつも、納付金の減額等の申請手続が企業にとって過度の事務負担とならないよう留意する必要がある。また、施行後の適用状況を踏まえ、必要に応じ制度のあり方について検討を加えることも重要である。
3 在宅就業を支援する団体の育成
 在宅就業障害者と発注元の企業との間に立ち、障害者の在宅就業を支援する団体(以下「支援団体」という。)は、障害者に対しては仕事の受注、最新の知識技能の習得機会の提供、基本的な労働習慣の付与や技術上のトラブルへの相談支援等の役割、企業に対しては納期、品質に対する保証を支援団体が担う等の役割を果たすことにより、在宅就業の促進において有効な機能を果たしている。
 そこで、支援団体の在宅就業支援に果たす意義、役割を明確化し、一定の要件等を満たし、障害者の在宅就業支援を適正に実施していると認められる支援団体を通じて仕事を発注した場合にも、障害者に直接発注したものと同様に取り扱うようにできることを検討すべきである。
 また、支援団体を全国各地で育成していくことも重要であり、福祉施策との連携を図りながら支援団体に対する支援策を充実していくことが適当である。
(2) 雇用形態の多様化と障害者雇用
1 短時間労働
 障害者の多様な働き方の選択肢として、短時間労働はその意義を増しつつある。障害特性を踏まえた短時間労働はもとより、障害者が加齢に伴い、短時間労働へ移行するというケースも考えられる。
 このため、現在は重度の身体障害者・知的障害者についてのみ特例として実雇用率に算定している短時間労働について、重度以外の身体障害者・知的障害者についても雇用率制度の対象とし、法定雇用率の算定において短時間労働を反映させることが考えられる。
 この点については、障害者雇用対策における短時間労働の位置付けや評価についてさらに検討を進め、現行の取扱いから法定雇用率算入への移行に当たって生じる影響も見極めつつ、今後とも引き続き検討を行うことが適当である。
2 派遣労働
 労働者派遣は、民間の労働力需給調整システムとして大きな進展をみせており、派遣労働者数、労働者派遣事業所数ともに年々増加の一途にあって、労働者のライフスタイルに合わせた働き方を可能にする選択肢の一つとしての評価も定着しつつある。
 しかしながら、障害者雇用の面からみると、派遣労働者としての障害者の雇用はほとんど進んでいないとの調査結果があることから、雇用労働者の中で派遣労働者が占める割合が大きくなってきている状況を踏まえつつ、派遣労働と障害者雇用との関係においてどのような対応をしていくことによって、障害者雇用の促進を図っていくことができるか、今後検討を行うことが適当である。
 その際には、まず職場定着に相当の配慮や時間を要することがある障害者にとって、そもそも派遣労働という働き方がどのように評価されるべきか、検討をすることが適当である。また、派遣先においてその指揮命令の下で就労するという派遣労働の特性が、派遣元における障害者雇用にどのような影響を及ぼしているか等の実情についても、把握を行うことが適当である。

3. 地域における協働による障害者雇用の促進
 障害保健福祉施策全般について、従来の保護等を中心とした仕組みから障害者のニーズと適性に応じた自立支援を通じて地域での生活を促進する仕組みへと転換しつつある中、雇用や就業に対する支援は、障害者の地域生活を支える柱の一つとして、ますますその重要性が高まってきている。
 しかしながら現状では、授産施設や作業所といった福祉施設の利用者の多くは、企業に雇用されることを望んでいるものの、実際に雇用に移行する割合はごくわずかである。そこで、こうした改革と連動しつつ、雇用関係機関と福祉関係機関が一層連携を密にし、福祉的就労から一般雇用への移行の促進を図っていく必要があり、障害者雇用促進法上にもこのような考え方が明確になるようにするべきである。
 また、企業や福祉関係の人材の有効活用、企業間の協働による雇用創出等により、地域レベルでの職場適応援助や、雇用促進の取組を進めていくことも重要である。
(1) 福祉的就労から一般雇用への移行の促進
 障害保健福祉の分野では、授産施設や作業所などの福祉施設を機能別に再編成することにより、福祉的就労から一般雇用への移行を促進する改革がなされようとしている。「今後の障害保健福祉施策について(改革のグランドデザイン案)」(平成16年10月)においては、機能再編後の類型として、企業等での就労へ円滑に移行するための支援を行う就労移行支援型事業や、障害者と雇用関係を結び継続的な就労を行う要支援障害者雇用事業などが提案されている。雇用分野においても、こうした改革の動向に留意しつつ、各地域における福祉、医療、教育等の分野と連携してネットワークを構築し、障害者本人に対して一般雇用移行へのきっかけづくりや意識啓発を行うとともに、就職支援、職場定着等のフォローアップ、離職後の再就職支援等の一連の支援を着実に実施し、充実を図ることが適当である。
 具体的には、ハローワークが中心となって、本人、本人が在籍する福祉施設、社会適応訓練事業の協力事業所(職親事業所)、地域障害者職業センター、盲・ろう・養護学校などの関係者からなる就労支援のためのチームを設置し、このチームにおいて、障害者一人一人の評価を踏まえて障害者の主体的な職業生活の設計、選択を支援する個別的な支援計画を作成し、様々なメニューを効果的に組み合わせて一般雇用に向けた総合的な支援を行うことが考えられる。
 支援に当たっては、企業における職場実習や委託訓練等を活用することが有効であるとともに、障害者が在籍していた福祉施設、職親事業所等も参加し、就職後の定着指導、離職した場合の再挑戦のための支援等を行うことが考えられる。また、一般雇用への移行についての福祉施設関係者や障害者本人の理解を深めるため、企業において障害者の雇用管理に豊富な経験を有する企業関係者による助言、指導を行うことも効果的であると考えられる。
 なお、これらの取組を進めるに当たっては、ハローワークの職員が障害特性に関する理解を深め、障害者雇用に関連する周辺施策に対する知識を深めることにより、障害者雇用対策を担当する機関としてのハローワークの専門性を強化することが重要である。
(2) 職場適応援助のニーズの広がりと担い手の育成
 知的障害者や精神障害者の雇用が進む中で、職場実習や職場定着段階における支援の必要性が高まっており、職場適応援助者(以下「ジョブコーチ」という。)の果たす役割は一層重要となってきている。また、福祉施設等に在籍する障害者の一般雇用への移行が課題となる中で、施設における就労支援機能の育成・強化が必要とされている一方、企業においても、職場定着や精神障害者の復職過程におけるジョブコーチの役割に対するニーズが一層高まっている。
 そこで、現行の職場適応援助者支援事業(以下「ジョブコーチ事業」という。)を抜本的に見直すこととし、地域障害者職業センターの行う職場適応援助に加え、福祉施設の機能再編等の施策も踏まえながら、身近な地域において就労移行支援機能を果たす福祉施設が、そのノウハウをいかしてより効果的な職場適応援助を行うことができるような制度とするとともに、障害者を雇用する事業主が会社の業務内容を熟知しているジョブコーチを自ら配置し職場適応援助を行うことが可能となるような制度とする必要がある。この制度は、職場適応援助によって事業主の雇用管理負担の軽減を図るという側面があることから、障害者雇用納付金制度に基づく助成制度として実施することが適当である。
 また、このような新たなジョブコーチ事業を実施するに当たっては、これまで本事業の実施により蓄積してきたノウハウがいかされるような研修の実施等により、支援の水準の維持・向上を図るとともに、企業において障害者の雇用管理に経験を有する者が、研修等を通じて知識技能を普遍的なものとし、職場適応援助の担い手として幅広く活躍できるようにしていくことが重要である。
 さらに今後、知的障害を伴わない発達障害者への支援ニーズが一層見込まれるところであり、支援技法の開発・導入に力を入れつつ、学校や発達障害者支援センターとの連携を深めながら適切な職場適応援助を行うとともに、企業の雇用管理の在り方について調査・研究し、その成果を普及していくことが適当である。
(3) 企業等の協働による障害者雇用の創出
 障害者本人に対する支援とともに、障害者雇用の受皿づくりも各地域それぞれの特色をいかした経済、産業活動の中で開拓していく発想が求められる。
 地域的に近接している企業どうしや、事業協同組合など同業の企業どうしが協働して障害者の雇用の場を創出するといった取組は、企業の地域社会における貢献として評価されるべきであり、例えば各企業の業務の再編、集約によって仕事を出し合い、障害者の雇用の場を生み出すといった取組を推奨していくことが適当である。

4. その他の諸課題
(1) 特例子会社に対する障害者雇用調整金・報奨金の支給
 現行制度では、特例子会社が設立され、雇用率制度が包括適用されている場合、調整金・報奨金は、親事業主が受給することとなっているが、多数の障害者を雇用することで実際に経済的負担が発生している特例子会社は調整金・報奨金を直接に受給できず、合理的とは言えない面がある。
 そこで、親事業主があらかじめ選択することにより、親事業主又は特例子会社のいずれかが調整金等を受給することができるよう柔軟な仕組みとしていくこととし、所要の手当を行うことが適当である。
(2) 企業グループに対する障害者雇用率の算定
 平成14年の障害者雇用促進法の改正においては、経済経営環境の変化により、特例子会社制度については、分社化による事業のスリム化の進展、持株会社制度の発展、国際会計基準の導入等に対応することが必要となっているとの認識の下、こうした状況において特例子会社制度を活用した障害者雇用の場の拡大を目指すため、特例子会社を保有する企業がその他の子会社も含め企業グループ全体で障害者雇用を進める場合について、企業グループでの包括的な雇用率制度の適用を可能としたところである。この特例は、特例子会社制度が障害者雇用を推進する有効な方法となっていることにかんがみ、特例子会社が存在することによって、企業グループ全体の障害者雇用の促進ということを明確に示す条件が整っていると認められることから設けられているものである。
 企業グループに対する包括的な雇用率制度の適用については、企業の経営環境の変化に対応した企業グループ全体の障害者雇用の促進ということを明確に示す条件として、事業主単位での障害者雇用の促進という障害者雇用促進法の基本的な原則に留意しつつ、特例子会社を保有すること以外の条件が考えられるか、引き続き検討を行うことが適当である。
(3) 除外率の縮小による障害者雇用の促進等
 技術革新、職場環境の整備等が進む中、従来、障害者にとって困難と考えられていた職種においても就業可能性が高まっている。平成14年の障害者雇用促進法の改正により、平成16年4月より、除外率の一律10%ポイント引き下げによる縮小が行われたところであり、今後とも除外率適用業種に対する周知・啓発に努めるとともに、除外率縮小による障害者雇用の進捗状況等についての評価を行った上で、段階的な縮小に向けて準備を進める必要がある。
 また、国・地方公共団体の除外職員制度についても、除外率制度への転換・縮小が行われ、公務部門においても障害者雇用の一層の促進を図ることとしたところであるが、このような中にあって、都道府県等の教育委員会については、特例的に低い法定雇用率(2.0%)の下、その実雇用率は、依然として法定雇用率を大きく下回る水準にとどまっている。このため、都道府県等の教育委員会においては、作成した採用計画の着実な実施等、障害者の採用拡大に向けてなお一層の取組を進めることが求められる。
(4) 障害者雇用に関する助成金の整理等
 障害者雇用に関する各種の助成金については、障害者雇用を進める企業にとって利用しやすい制度となるよう、常に見直しを行っていくことが必要であり、今般の上記3(2)において述べたジョブコーチに関する助成制度の創設等にあわせ、既存の助成金制度についても、類似の助成金の整理統合や手続きの見直し等所要の見直しを行うことが適当である。
 また、障害者技能競技大会(アビリンピック)については、障害者雇用をめぐる昨今の動向を踏まえ、精神障害者も含めた職域を念頭に、対象となる障害者に一層の広がりをもたせることが必要であることから、障害者雇用納付金に基づく普及啓発事業として発展させ、身体障害者のみならず障害者全体について、その雇用促進に対する理解を高める場としていくことが適当である。


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