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4 コミュニティ・ビジネスと企業・行政


(はじめに)

 地域における社会的なニーズに対応することが求められるCBについては、その性質ゆえに、企業や行政との協働(注10)が期待されている。ここでは、双方が連携することによる利点について記述するとともに、新たな地域社会におけるつながりの形成に向け、CB、企業・行政の間で克服すべき課題について整理することとする。


(1)コミュニティ・ビジネスと企業
(1) 協働と支援
 企業は、企業活動に当たり社会的公正や環境への配慮等を組み込み、従業員、消費者、地域社会等のステークホルダー(利害関係者)に対して責任ある行動をとるべきであるという考え方が広まっている。こうした考え方はCSR(Corporate Social Responsibility 企業の社会的責任)と呼ばれ、地域社会に関しても、自社の経営資源等を活かし、社会貢献活動を推進するとともに、従業員のボランティア活動参加を支援すること等が求められる状況にある(注11)。

 企業がCSRを推進していくに当たって、地域社会の課題に精通し、中立性や専門性を持つCBは重要なパートナーとなりつつある。実際に、日本経団連「2002年度社会貢献活動実績調査」をみると、NPOと協働で取り組む事業があるとしている企業の割合は26.3%となっている(図14)。企業においては今後、一層のCBとの協働を図り、双方の強みを活かしつつ、地域社会への貢献を図っていくことが期待される。

 企業が経営資源を活用して、CBの事業運用を支援することも期待される。企業によっては、一定の審査の上NPO法人に寄付したり、NPO設立認証申請を行うことを計画している団体や個人に助成したりしている。また、従業員がNPO等に寄付する場合に、同じ団体に企業も同額又は一定割合を加えて寄付する仕組み(マッチング・ギフト制度)も、多くの企業で運用されている。こうした金銭的支援の他に、空いている会議室のスペースを提供したり、物品を提供することもある。
 前掲の日本経団連の調査によると、NPOに寄付・物品提供・施設開放等の支援をしている企業の割合は44.1%となっており、特に接点がない企業は38.8%となっている(図14)。今後、これら各般の支援がさらに進展することにより、CBの活動が促進され、地域社会の問題解決につながっていくことが望まれる。

 また、企業が、詳細な地域ニーズ等を把握しているCBの知見を活かしつつ、新たなビジネス展開を図るケースもみられる。こうした企業とCBのビジネス面での連携が進むことにより、地域社会の活性化が期待できる。

(2) 人的交流
 CBにおける活動経験者を企業の中に迎え入れたり、従業員がCBにおける活動を行えるようにすることは、企業にとって大きな意義を持つ(注12)。これらによって、社員構成が多様化するとともに、個々の従業員が多元的な思考・物の見方を獲得することは、新しいアイディアを生むことを通じて高い付加価値を創造する源となり、社会の急激な変化に企業が対応していくことを容易にする面がある。

 CBにとっても、事務局スタッフについては専門性に加えて、各種の実務経験を求めている。CB調査によってCB事業所の人員構成をみると、企業在職者が21.4%、企業退職者が12.2%を占めており(図15)、企業で得た経験・知識にCBが期待していることがうかがえる。

 ボランティアとしての活動体験や、会社とCBとの兼業、さらにはCBへの出向・派遣等は、企業とCB、さらには従業員本人にとって大きなメリットになり得る。企業においてはこれらが促進されるよう、ボランティア休暇制度の導入、ボランティア情報の提供など様々な環境整備を図るとともに、兼業禁止規定のあり方について考慮していくことが期待される。

(2)コミュニティ・ビジネスと行政
 国民の生活が豊かになる中、地域住民のニーズは個別化・多様化し、こうしたニーズに応える主体としての地域の役割は高まっている。また、国民の行政への要望は拡がっているものの、行政の守備範囲の拡大は、安易には認められない状況にある。こうした中で、地域住民が主体となるCBの可能性は広まっている。

 しかしながら、CBは、例えばNPOの形態をとりつつ単なる営利企業の1分野をアウトソーシングしたに過ぎないものもあるなど、千差万別の状況にあるとみられる。もちろん、CBの性格上、法的規制の枠に入れることは適当ではないが、個々のCBが地域密着性・創造性・機敏さ等を活かしたものとなっているか自己評価を行ったり、CB自身が業務方針等について積極的に情報開示を行うことは重要である。

 行政がCBを支援したり、一部事業を委託するに当たっても、適正なCBを選定したり、CBに対して行政課題を提示した上でアイディアを公募し、地域の有識者等による審査を行うなど、CB本来の創意工夫が活かされ、促されることを重視することが望まれる。

 CBが求める支援は資金や人材管理など多岐にわたるものであり、かつ、CBの活動分野も多様で輻輳していることから、今後、行政がCBを支援する場合にあっては、例えば、関係省庁が合同でCB関係の支援イベントを開催したり、前述のワンストップ窓口の運営に当たって、関係省庁による関連支援サービスを一体として情報提供するなど、できる限り縦割りの弊害を除去していく工夫が求められる。

 なお、CBは地域と密着していることから、CBに対する支援は本来的には市町村行政が行うべきである。また、政府が取り組んでいる「三位一体改革」においても、「地方にできることは地方に」が原則となっている。しかしながら、市町村行政によるCBの支援は端緒に着いたばかりであり、本格的に展開されているとはいえない状況にある。
 したがって、それまでの間、国がCBに対してモデル的な支援事業を行い、その成果を説明会や支援団体のホームページへの掲載等によって市町村に広め、市町村が施策を立案する際の参考に供することが望まれる。加えて、施策立案のノウハウ自体が十分ではない場合もあると考えられることから、国が市町村に対して当該ノウハウを提供すること等も検討に値しよう。

 核家族化や過疎化の進展等により地域社会の結びつきが弱まっている今日、地域における個人や社会の問題に対処するため、地域の新たな紐帯をどのように構築していくかは、今後、地域が真の主役となっていく上での大きな課題であるといえる。その課題を解決するためには、地域住民・地域社会に密着し機動的にニーズに対応し得るCBが、その機能を十全に果たしていくことが求められる。CBが企業や行政と適切に協働し、それぞれの本来の強みを相乗的に活かすとともに、CBが地域住民の活躍の場として人の成長を促し、地域住民や企業の積極的な参加を受け入れることを通じて、地域のつながりが新たな形で構築され、ひいては地域社会の再生の歩みが進んでいくことが期待される。


(注10)「協働」とは、相互の立場や特性を認め、共通する課題の解決や社会的目的の実現に向け協力することをいう。
(注11)例えば、企業がCSRに関する取組みを自主的に評価するため、経済同友会は2003年に「「市場の進化」と社会的責任経営(第15回企業白書)」の中で「企業評価基準」を提唱している。同基準においては、社会貢献活動の基本方針、従業員のボランティア活動支援、NPOとの協働、ボランティア休暇利用者数等が評価項目の一部として挙がっている。
(注12)従業員にとっても、グローバル化等を背景として企業間競争が激化している中、ゆとりが失われ、地域生活と職業生活とのバランスに悪影響が及ぶことが懸念されることから、従業員の地域生活とのバランスについて企業が各般の配慮を行うことは望ましいことといえる。


コラム

在職者の社会貢献活動を支援する
富士ゼロックス、三洋電機

 仕事に忙殺される在職者の方々にとって、地域における社会貢献活動に参加するのは時間的に難しい面もありますが、退職後に円滑に地域貢献活動に参入できるようにするためにも、また、在職中から自己実現を図るとともに多元的な物の見方を身につけるためにも、コミュニティ・ビジネスなどを通じた社会貢献活動に参加しやすい環境を整えていくことが重要です。

 また、在職者の方々が社会貢献活動を通じて、豊かな人間性と生活者としての視点が備わることは、企業にとっても、新たなビジネス展開や社会の急激な変化に対応していく面で大きなメリットがあると考えられます。

 富士ゼロックス株式会社(http://www.fujixerox.co.jp/)では、月5日までの短期のボランティア休暇制度に加え、社会福祉施設や青年海外協力隊などにおいて社会奉仕活動をする場合、3か月から2年の範囲でボランティア休職することができるソーシャル・サービス制度を設け、社員の社会貢献活動を支援しています。また、三洋電機株式会社(http://www.sanyo.co.jp/)では、ボランティア休暇制度、ボランティア休職制度に加え、社員が関わっているNPOに対し、商品の寄贈や備品・器材の購入援助金の寄付を行うコミュニティ・ギフト制度を設けています。


障害者福祉施設でのボランティア活動の風景

写真





コラム

NPOを支援する支援組織
大阪NPOセンター

 地域社会への貢献意識が高まる中、コミュニティ・ビジネスを立ち上げたいとする人々が増えている一方で、資金や人員、経営管理ノウハウの不足等から、実際の起業に至らないケースが見受けられます。

 こうした中で、これまでのベンチャー企業等中小企業に対する支援機関とは別に、NPOの設立や運営に関して、情報提供、相談や講習を行ったり、NPOとNPOで働きたい人のマッチング事業などを行ったりする支援組織の活動が広がりつつあります。

 大阪府にある特定非営利活動法人大阪NPOセンター(http://www2.osk.3web.ne.jp/~osakanpo/)では、NPO法人の設立・運営に関して、弁護士、公認会計士、税理士などの専門家による相談窓口を設けるとともに、専門家によるセミナーの開催を行っています。さらに、NPOなど非営利組織について体系的に教育する大学院講座事業で学んだ人材をはじめ、就職・起業したい人について研修を行い人材を紹介するジョブネットNPO事業の推進と、コンサルタントによる経営指導を行っています。


NPOへの人材紹介の流れ

写真





コラム

CBへの参加を通じた新たな地域の結びつき
(CB調査結果から)

 CB調査によってCBの活動を通じて個人が得たものをみると、「地域における人とのつながりやネットワーク」が最も多くの割合を占めています。就労や社会参加の大きな動機として、人との付き合いを広めることがあげられますが、CBはその舞台にふさわしいということができます。

年齢階級別 コミュニティ・ビジネスを通じて得たもの

 また、同調査により、CBの活動を通じて個人がどのようなコンピテンシー(知識、技能・技術を実際に活かす能力)が得られたかについてみると、「相手の話に耳を傾け、自分の考えを的確に伝えること」「周囲とチームワーク・連携を図って目標に向かうこと」「多様な価値観・考え方を尊重すること」が多くなっています。CBにおける活動経験は、他者に共感する能力を育むことがうかがえます。

事業で培われるコンピテンシー

 人と人との結びつきがいろいろな面で薄くなっている今日、他者に対する「思いやり」を育むことは、以前に比べ難しくなってきています。しかしながら、ポスト工業社会を迎えている中で、画一的ではなく個性豊かに生きたいと願う人々は増えており、彼らが望む社会を形成していくためには、「思いやり」といった共感能力を高めていくことが不可欠ではないかと考えられます。
 CBが健全に発展し、若年者など多くの人々がそこで活動することによって、共感能力が醸成されていくことが期待されます。


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