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2 働く側からみたコミュニティ・ビジネスの可能性


(はじめに)

 CBについては、1でみたような社会的な意義があるのみならず、働いたり社会参加する側からみても、大きな可能性を有している。その内容については、若年者、高齢者等の属性によって異なるものと考えられることから、以下において、属性ごとにどのような可能性を有しているかまとめることとする。


(1)属性別にみたCBの意義
(1) 若年者
 昨今若年者は、安定した就職機会をなかなか得ることができず、このことがキャリア形成に支障を及ぼすことが懸念される状況にある。

 若年者をとりまく雇用失業情勢についてみると、フリーターが約200万人、失業者・無業者が約100万人と増加しており、完全失業率が10%前後となる状態が続いている。また、就職後3年以内に離職する割合も高い値を示している(概ね、中卒7割・高卒5割・大卒3割)。需要不足に加え、企業の即戦力志向が高まっている中、若年者の雇用失業情勢は厳しい状況が続いている。

 さらに、社会や労働市場が複雑化・高度化していることや、職住分離が進んでいること等を背景に、若年者にとって職業に関するイメージを的確に把握することは困難になっている。こうした状況を放置すると、若年期に必要な技能・知識の蓄積を図ることができず、キャリア形成が十分に行われなくなるおそれがあり、ひいては、中長期的な経済社会発展の基盤を揺るがす可能性があるといえよう。

 若年期において、無業期間が長期化するのを回避し、無業から脱して本格的な就労につなげていくためには、まずもって職業意識の形成が不可欠である。このため、キャリア教育や在学中からの職業体験など様々な施策が推進されているが、これらと並んで、若年者が実際にCBで働いたり社会参加するルートを開拓していくことは、勤労観・職業観を醸成する上で極めて有効なのではないかと考えられる。

 具体的には、CBが提供するサービスの多くは、身近な地域の高齢者等に向けられており、直接受益者から感謝される場合も多い。また、小さな組織で事業展開を図るため、一人でいろいろな職務を経験する機会に恵まれている(注3)。こうした特性から、CBでの就労・ボランティア体験は、成功体験を得たり、何か一つの事を為し遂げたという達成感を持つことにつながりやすく、これがひいては、若年者の職業意識の形成に好影響を及ぼしていくことが期待される。そうなれば、若年者の中にはCBを一つのステップとして、さらに本格雇用の道を目指す者も現れよう。若年者のキャリア形成のための一つの「踊り場」として、CBが活用されることが望まれる。

 受け入れるCBの側をみても、若年者を受け入れる意向は比較的強いものと考えられる。コミュニティ・ビジネスにおける働き方に関する調査((株)三菱総合研究所(2004年)。以下「CB調査」という。)により、今後半年以内に一人以上採用したいと回答した事業所について属性別にみると、「就業未経験者」や「学生」の数は小さくない値を示している(図1)。

 なお、CBの意義は参加することに止まらず、例えば中学生・高校生が身近なところで職業を体感する上でCBにおける活動を見学することも大いに有益であると考えられる。

(2) 在職者
 在職者がCBで地域貢献を行うことは、在職中の勤労者生活の視野を広げ、退職後における生きがいを持つことを容易にする。また、地域社会における様々な人々との付き合い・ネットワークの形成を通じて、心身のリフレッシュを図ることができ、ひいては本業の仕事に好影響を与えることも期待できる。

 CB調査によると、CB事業所の人員構成のうち、主婦に次いで多くの割合を占めているのが企業在職者である(21.4%)。CB側からみても、事業の遂行に当たって企業の実務経験を求めており、在職者は貴重な戦力となっている。

(3) 高齢者
○ 高齢者については、いわゆる「団塊の世代」(1947〜49年生まれ)を中心に、これまで企業一辺倒の働き方をしてきた者(いわゆる「会社人間」)が多くいたものとみられる。独立行政法人労働政策研究・研修機構が推計した誕生年ごとの生涯労働時間をみると、1950年以降、誕生年が遅くなるにつれて生涯労働時間は短くなっている。このため、「団塊の世代」の生涯労働時間は、他の世代と比較して長いと考えられ(図2)、企業で働くことに重点を置いた生き方をしてきたことがうかがえる。

 しかしながら、高齢者の多くは、必ずしも「会社人間」的な生き方を望んでいるものではないと想定される。経済企画庁「国民生活選好度調査」(2000年)によると、地域社会に参加したくてボランティア活動に参加したいと思うようになった者の割合は世代別にみて50代、次いで60代が高くなっており(図3)、地域社会に貢献したいという意識は高齢者において相対的に高いものとみられる。こうした意識に応えることは、例えば、高齢者が若年者に対し蓄積してきた知識・能力を教えるといった形で、世代間の相互交流にも資することとなる。

 「団塊の世代」は、その多くが、今後10年間で定年等により企業を退職する時期を迎える。地域貢献意識の高い、「団塊の世代」を含めた高齢者が、新たな生きがいをみつけたり、これまで企業で蓄えた知識・経験を地域に還元できるようにするためには、地域における活動の受け皿を幅広く用意していかなければならない。高齢者が地域で活躍できる環境をさらに整備していくことによって、高齢者の生きがいの形成のみならず、増大する地域社会のニーズに対応することにもなり、こうした観点から、CBが大きな役割を果たしていくことが期待される。

(4) 障害者
 障害者がその能力と適性に応じて就労することは、地域での自立した生活を可能とするのみならず、自己実現を図り、自らが納税者になり社会に貢献したいという意欲に応えるという点でも重要である。しかしながら、障害者の中には、直ちにフルタイムで働くことが困難であり、短時間の雇用形態を望む者もみられる。CBにおける職務については、短時間勤務の者が対応する余地が相対的に大きいとみられることから、CBは障害者の短時間就労の受け皿としても期待される。また、CBにおける短時間の就労が、本格的な就労への一つのステップとなるケースも想定されよう。

 さらに、就労までいかなくても、障害者の身近な地域に存するCBにおいて社会参加することは、生活の質(QOL=Quality Of Life)の向上に資する面がある。様々な社会活動に参加することは、日常生活の中において生きがいを見出し、人生を豊かにしていく。障害者がそれぞれの人生を豊かに生きられるよう支援するという観点から、CBで障害者が活躍するための環境を整備していくことは重要である。

 受け入れるCBの意向をみると、障害者に対して雇用の場を提供することについては約3割の事業所が、また、生きがいの場を提供することについては約4割の事業所が、重点的又は積極的に取り組みたいとしている(図4 CB調査)。今後、こうした事業所が増えることが望まれる。

(5) 専業主婦
 専業主婦の比率は低下しているものの、総務省「労働力調査特別調査報告」でみるとサラリーマンの専業主婦世帯数は約900万となっており、依然として大きな数を示している(図5)。

 既婚女性に「現在の就労形態」「希望する就労形態」を聞いた調査結果(注4)をみると(図6)、現在専業主婦である者は46.9%であるが、今後希望する者は16.3%に過ぎず、非正規雇用やフルタイムの希望が高くなっている(それぞれ56.3%、22.2%)。専業主婦の中でも就労を希望する者が多いことがうかがわれる。

 しかしながら、専業主婦については、育児や介護に専念する期間が長く、長期間無業のままでいることがある。こうした場合、いきなり本格的な就労を行おうとしても困難であることから、その前の一つのステップとして、CBにおける就労・社会参加が有効ではないかと考えられる。特に高学歴の専業主婦はなかなか就労しない傾向があるとの指摘もあり、CBに就労することは有益と考えられる。また、育児等をしながら就労する場合にあっては短時間勤務が望まれるところであり、こうした点でも短時間就労が相対的に多いCBで働く環境を整備していくことは有益であろう。

 さらに、主婦の日々の生活実感は、地域生活に密着しているCBの活動に結び付く場合が多い。例えば親を介護したとか、子どもが引きこもりだったということが、CB設立の契機になっていることがある。実際にCBで活動している人は女性が多く、CB調査をみても女性が男性を上回っている。こうしたことから、主婦はCBの主要な担い手としても期待されているといえる。

(2)CBの就労条件
(1) CBにおける報酬水準の実態
 働く側からみてCBは種々の可能性を持っているとしても、就労条件が悪いのではないかという懸念がある。CB調査をみても、CBに常勤で勤める者の平均年収は264万円であり、一般の就労者の年収より低くなっている。

 CBに就労する目的は、単に報酬を得ることのみにあるものではない。活動を通じて自己実現を図ろうとする個人も、多く存在するものとみられる。実際、CBから得る収入を家計を支える主収入ととらえている個人は少なく(図7)、また、CBの活動から得たいと考えている最低限の年収額も、200万円以上400万円未満が最も多くを占めている(図8)。

 しかしながら、CBが今後社会的な認知を高めるとともに、期待する報酬が変わることも考えられ、CBの報酬のあり方については、さらに検討を深めていく必要があろう。

(2) 「有償ボランティア」の就労条件
 CBで働く人の中には、「有償ボランティア」と称し、賃金以外の名称で報酬が支払われていても、労働者性が存在するとみられる場合がある。例えばNPOにおいては賃金以外の名称で報酬が支払われていることがしばしばあるが、中には、従事者が時間を指定されて働いている場合があり、この場合、使用者の指揮命令の下にあるとして労働基準法上の「労働者」に該当する可能性があり、その場合には、最低賃金額以上の賃金を支払う必要がある。

 そこで、NPOにおいて従事者が時間を指定されて働いており、かつ報酬を賃金以外の形態で支払われている場合における額の分布を調査結果によってみると、時間当たり報酬額が600円(地域別最低賃金のうち全国で最も低いもので605円)に満たない事業所の割合は、「謝礼・実費」として支払っている場合が約3割、明確に識別していない場合が半数弱にのぼっている(図9)。正確にはより詳細な実態を把握しないと判断できないが、CBにおいては、最低賃金額以上の賃金を支払うべきところ、そうしていない事業所が存在する場合もあり得る。

 CBにおいて「ボランティア」と称していれば処遇は考慮しなくて良いということにはならず、使用従属関係があり、労働者性が認められる場合には、最低賃金額以上の額を支払ったり、労働安全衛生法令上の措置を講ずる等、労働関係法令に基づく措置を講じるとともに、労働者である旨を明確にするなど、サービス提供者の処遇の明確化を図ることが望ましい。
 なお、CB事業者においては、労働者として認められない場合であっても、事故が起きた時に備えて「ボランティア保険」への加入を勧奨するなど、一定の配慮は必要である。

 また、労働者性の有無について混乱が生じないようにするために、CBで活動する者をどのように分けて管理することが望まれるのかについては、今後、他国の実態などを参照しながら、検討を行う必要がある。加えて、報酬の原資であるサービスの対価に関しても、その適正なあり方について考慮していくことが望まれる。


(注3)CB調査によると、CBにおける職務の分担のあり方として、「一人でいくつかの職務を兼務している」に近いとする事業所の割合(74.1%)は、「それぞれの職務を一人一人が分担して担当している」に近いとする割合(25.9%)を上回っている。
(注4)(財)生命保険文化センター「生活設計と金融・保険に関する調査 第4回−既婚女性の生活設計に関する調査−」(2003年)


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