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1 コミュニティ・ビジネスの社会的意義


(はじめに)

 近年、福祉、教育、文化、環境保護など社会需要を満たす分野で、多様で柔軟なサービスを提供する地域密着型のスモールビジネスであるコミュニティ・ビジネス(以下「CB」という。)が注目されている。ここでは、雇用創出はもとより、多岐にわたる機能を持つCBの社会的意義についてみていくこととする。


(1)コミュニティ・ビジネスとは何か

 近年、福祉、教育、文化、環境保護など社会需要を満たす分野で、多様で柔軟なサービスを提供する地域密着型のスモールビジネスであるコミュニティ・ビジネス(以下「CB」という。)が注目されている。

 CBは、NPO、小規模の有限会社、株式会社や、ワーカーズコレクティブ、企業組合などといった多様な形態で、地域住民が中心となって、地域社会において発生している課題を解決するための様々な事業を実施しており、地方公共団体からの行政サービスの外部委託化などに伴って、今後、一層の拡大が見込まれている。

 雇用創出企画会議第一次報告書(2003年5月21日)では、CBについて、主に雇用機会の拡大の観点から、(1)人材確保、雇用管理改善のための支援、(2)資金支援の実施、(3)中間支援組織を通じたネットワーク支援の実施、を提言(注1)としてとりまとめたところであるが、CBの果たす機能は、雇用創出にとどまらず、例えば、若年者、高齢者、障害者などの社会参加・自己実現の場の提供など多岐にわたっており、様々な問題を抱える地域社会の再生の担い手として期待を集めている。

(2)コミュニティ・ビジネスの社会的意義
 こうした多岐にわたる機能を持つCBは、次の点で地域社会にとって大きな意義を有していると考えられる。

 我が国は、戦後、荒廃した国土の中から立ち上がり、重化学工業を中心とする高度経済成長を経て、奇跡的とも言われる復興をとげた。
 しかしながら、キャッチアップ型の経済成長が終焉を迎えるとともに、バブル崩壊後の長期不況と公的部門の財政悪化もあいまって、政策面において、これまでの全国一律的な対応から各地域の個性・実情を踏まえた個別的対応に、行政主導から住民・民間主導に転換しようとしているところである。
 また、高度経済成長により豊かな社会がもたらされた反面、都市部では核家族・単身世帯の増加や長時間労働等により、地方では働き盛りの人口流出・高齢化を背景とした自治会・商店街の機能の脆弱化等により、家庭内の支え合い機能や地域における紐帯は、長期的に希薄化の一途を辿っているものと考えられる。
 こうした中、例えば、一人暮らし高齢者に対しての地域の見守りの体制が十分でなかったり、児童虐待・ひきこもり・自殺等といった社会的病理が広がるなど、様々な社会問題が生じている。
 こうした事態について、行政が入り込むのには限界があり、また、その解決のためには、地域における個別の事情に、迅速かつきめ細かく対応することが求められる。
 このように、行政主導から住民・民間主導に転換していく中、各地域の個性・実情により大きく異なる社会問題に対して、CBは、行政とは異なるアプローチで、柔軟かつ機敏な対応を行うことが可能であり、今後とも、こうしたCBが、地域住民によって立ち上げられ、活発な活動をすることで、地域コミュニティの再生につながることが期待される。

 また、EUにおいても、CBに類似した概念として、公共部門・利潤を追求する民間企業部門のいずれにも属さない集団的活動を「第3のシステム」(注2)と称し、支援を進めている。

 この第3のシステムは、ホームヘルプ、子供のケア、若者への援助などといった既存の公共部門、営利部門のいずれによっても適切に充足されないサービスを提供することで、地域の雇用創出に資するとともに、長期失業者や高齢者、障害者、学校中退者などを優先的に雇用することで、これらの者の雇用可能性の向上や社会統合を助け、最終的には、活力ある地域コミュニティの再生につながることが期待されている。

 このような社会的意義を有するCBが着実に拡大をしていくことで、我が国社会においてCBが、公共部門・利潤を追求する民間企業部門のいずれにも属さない「日本版第3のシステム」として確立され、地域コミュニティの大きな柱となることが期待されることから、今後とも、CBが活躍していくための環境整備を進めていくことが必要と考えられる。


(注1) 詳細は、雇用創出企画会議第一次報告書中「II-1.コミュニティ・ビジネスによる雇用創出」(P13〜P24)を参照。
(注2) 詳細は、濱口桂一郎「EUの地域雇用創出政策と第3のシステム(ソシアル・エコノミー)」(月刊自治研2000年2月号)を参照。


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