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雇用創出企画会議第二次報告書の概要


1 コミュニティ・ビジネスの社会的意義
 ○ 福祉、教育、環境保護など社会需要を満たす分野で、多様で柔軟なサービスを提供する地域密着型のスモールビジネスであるコミュニティ・ビジネス(以下「CB」という。)の果たす機能は、雇用創出にとどまらず、若年者や高齢者などの社会参加・自己実現の場の提供など多岐にわたり、様々な問題を抱える地域社会の再生の担い手として期待を集めている。
 ○ EUにおいても、CBに類似した概念として、公共部門・利潤を追求する民間企業部門のいずれにも属さない集団的活動を「第3のシステム」と称し、長期失業者や高齢者、学校中退者などを優先的に雇用することで、雇用可能性の向上や社会統合を助け、活力ある地域コミュニティの再生につながることが期待されている。
 ○ 今後、CBが着実に拡大することで、CBが「日本版第3のシステム」として確立され、地域コミュニティの大きな柱となることが期待されており、CBが活躍していくための環境整備を進めていくことが必要である。

2 働く側からみたコミュニティ・ビジネスの可能性
 ○ CBにおいて働いたり社会参加する側からみて、CBは、次のような可能性を有している。
(若年者)
 ・ 非常に厳しい雇用失業情勢の中、若年者が無業から脱して本格的な就労につなげていくためには、職業意識の形成が不可欠である。CBにおける就労・ボランティア体験は、成功体験や達成感につながりやすく、職業意識の形成に好影響が期待できる。
(在職者)
 ・ 在職者がCBで地域貢献を行うことは、在職中の勤労者生活の視野を広げ、退職後における生きがいを持つことを容易にする。心身のリフレッシュを通じた本業の仕事への好影響も期待できる。
(高齢者)
 ・ 団塊の世代を中心に、企業一辺倒の働き方をしてきた者も多かったが、地域貢献意識の高い高齢者が、CBにおける就労・ボランティア活動を行うことは、退職後の新たな生きがいをみつけたり、企業で蓄えた知識・経験を地域に還元することにつながる。
(障害者)
 ・ 障害者がその能力と適性に応じて就労することは、地域での自立した生活を可能とするのみならず、自己実現を図り、障害者の納税者になりたいという意欲に応える面でも重要である。こうした中、直ちにフルタイムで働くことが困難な障害者等を中心に、CBが短時間就労の受け皿として期待される。また、CBにおける社会参加活動によって、QOL(生活の質)の向上も期待できる。
(専業主婦)
 ・ 専業主婦の多くが就労を希望するものの、育児や介護等に専念する期間が長く、無業のままでいることもある。こうした場合、本格的な就労の前の一つのステップとして、CBにおける就労や社会参加は有効である。また、主婦の日々の生活実感は、地域生活に密着しているCBの活動に結び付く場合が多く、主婦はCBの主要な担い手としても期待される。

 ○ CBに就労する目的は単に報酬を得るのみではなく、自己実現とする者も多い。しかしながら、CBで「有償ボランティア」と称していても、法令上労働者と認められる場合は、最低賃金額以上の額を支払う、労働安全衛生法令上の措置等を講ずるとともに、労働者である旨を明確にするなど、サービス提供者の処遇の明確化を図ることが望ましい。

3 コミュニティ・ビジネスの多様な展開のための課題と方策

【多様な分野における事業展開を促進するための課題と方策】
 ○ CBは増加しているものの、その活動は、福祉分野が中心である。今後、地域住民・地域社会のニーズに応じた様々な分野で事業展開が図られることが望ましい。
 ○ 個人が新たにCBを設立したり、既存のCBの業務展開を図ろうという場合、克服すべき多くの課題がある。
 CBには有給の常勤職員・無給のボランティアや、CBにおける収入で主に生計を立てている者・副収入に過ぎない者など、様々な人材がいる中、これらの人材をコーディネートし、創業の精神を共有できるような環境を醸成できる人材(「中核的人材」)が少ない。
 中核的人材が事業展開を図ろうとする際、人員不足や顧客開拓など様々な分野について一箇所で相談できる機関に乏しい。
 既にCBを設立した「先達」等と交流し、成功・失敗体験等を学ぶ機会が必ずしも十分にない。
 家賃負担が重いこと等から活動場所を確保することが難しい。
 行政からの委託事業において、委託費を人件費に充当できないといった制約が付されることがある。

 ○ 上記の課題を解決するためには、地方自治体や国が、以下のような施策を講ずることが有効と考えられる。
 厚生労働省がCBの支援組織に委託して、雇用管理などに関する相談や情報提供を行うワンストップ窓口(全国2箇所)の取組状況を広く全国の自治体やCBの支援組織に提供することで、地域におけるCB相談窓口を設立するための呼び水とする。
 今後、ワンストップ窓口について、地域のニーズに係る情報収集・提供、コーディネート人材の育成、人材のマッチングなど、多面的な支援を行う窓口に改組していくことが求められる。
 ワンストップ窓口に経験交流コーナーを設け、参加者間の触発を図るとともに、CBの成功・失敗事例等の情報提供を行う。
 地方自治体等がCBに対して遊休公共施設を無償又は低額で一定期間貸与する。国も、地方自治体が支援するCBに対し、創業費用を支援することなどは検討に値する。
 委託費の使い方について、一定の範囲内で弾力性をもたせる。

 ○ また、国においては離職者を対象にNPOへの委託訓練を実施しているが、そのカリキュラムは福祉やNPO起業に関するものが中心で、他の分野におけるカリキュラム開発は必ずしも十分進んでいない。今後は幅広い分野でカリキュラムの開発を行うとともに、カリキュラム策定のノウハウを集約・整理し、広くCBに提供していくことが望まれる。

【多様な主体がCBに参加するための課題と方策】
 (若年者)
  ○ 指導・サポートできる人材が少なく、日々の業務に忙しいCBにおいて若年者の受入れを進めるため、CBの支援組織等において、活動開始前に職業マナー等の講習を行う、受け入れるCBの情報を若年者に提供することなどが効果的である。
 これらの支援を行うに当たり、地域の既存のネットワークを活用することは、事業展開を円滑化する上で有益と考えられる。
  ○ 政府としても、当面の間、上記の講習等の取組みを支援するとともに、CBにおける就労・ボランティア体験をデュアルシステムの仕組みにつなげるなど、諸施策の連携を図る必要がある。

 (在職者)
  ○ 在職者がCBで活動しようにも、時間がない、情報に乏しい、兼業ができない等の面があり、社員のボランティア活動に対する企業の支援も不十分である。
  ○ このため、ボランティア休暇制度、活動情報・機会の提供など企業における各般の取組み・好事例を国が収集し、企業に情報提供することが有益である。また、企業において、兼業禁止規定の在り方について考慮することが望ましい。さらに、勤労者マルチライフ支援事業において、マッチング機能の強化等を図ることで、在職者の社会貢献活動を推進する必要がある。

 (高齢者)
  ○ 特に企業社会しか体験しなかった高齢者については、地域社会にとって自己のどのような能力が役に立つか等を把握するのは困難である。
  ○ 高齢者がCBにおいて就労・ボランティアを行うことが容易になるよう、在職中から地域活動に参加できる環境を整備する必要がある。また、CBの支援組織が、個々の高齢者がどういう能力をもち、地域社会にいかに活かせるかについて相談したり、受入れ情報等の提供・マッチングに努めることが有益である。

 (障害者)
  ○ 指導・サポートできる人材が不足していることなどにより、多くの障害者が就労・社会参加できていないのが現状である。
  ○ 国としても、障害者の職場適応に当たっての指導・サポートを行うジョブコーチの派遣や、身近な地域で障害者の就業・生活面の支援を一体的に行うための「障害者就業・生活支援センター」事業はNPO等も実施主体とされているところであり、これを通じた支援の促進を図っていく必要がある。

 (専業主婦)
  ○ 専業主婦については、育児や介護等に専念することで長期間就労から離れている者もいる。
  ○ CBの支援組織が主婦向けの基礎的な社会参加講習を開講したり、マッチングのための情報提供を行うことが有益であり、国においても、支援組織による取組に対して一定期間支援を行い、整備の促進を図ることが望まれる。

4 コミュニティ・ビジネスと企業・行政
 【CBと企業】
 ○ 企業における社会的責任(CSR)の考え方が広まる中、企業は、地域社会において、社会貢献活動を推進するとともに、従業員のボランティア活動参加を支援すること等が求められる状況にある。
 ○ 企業がCSRを推進していくに当たり、地域社会の課題に精通し、中立性や専門性を持つCBは重要なパートナーとなりつつあるが、企業においては今後、一層のCBとの協働を図り、地域社会への貢献を図っていくことが期待される。
 また、企業が金銭的支援や会議室の空きスペースの提供、物品の提供など経営資源を活用してCBの事業運用を支援することも期待される。
 ○ CBにおける活動経験者を企業の中に迎え入れたり、企業在職者がCBにおける活動を行えるようにすることは、活動経験者や在職者のみならず、企業にとっても、新しいアイディア・付加価値を創造する源になるとともに、社会の急激な変化に企業が対応していくのを容易にする面があることから、大きな意義を持つ。CBにとっても、企業で得た知識、経験に期待している。
 このため、企業においては、こうした人的交流が促進されるよう、ボランティア休暇制度の導入など様々な環境整備や、兼業禁止規定のあり方について考慮していくことが期待される。

 【CBと行政】
 ○ 国民の生活が豊かになる中、地域住民のニーズは個別化・多様化し、こうしたニーズに応える主体としての地域の役割は高まっている。また、国民の行政への要望は拡がっているものの、行政の守備範囲の拡大は、安易には認められない状況にある。こうした中で、地域住民が主体となるCBの可能性は広まっている。
 ○ しかしながら、CBは、千差万別の状況にあるとみられることから、個々のCBが地域密着性・創造性・機敏さ等を活かしたものとなっているか自己評価を行ったり、CB自身が業務方針等について積極的に情報開示を行うことは重要である。
 ○ また、行政がCBを支援したり、一部事業を委託するに当たっても、適正なCBを選定したりアイディアを公募するなど、CB本来の創意工夫が活かされ、促されることを重視することが望まれる。さらに、行政がCBを支援するに当たっては、できる限り縦割りの弊害を除去していく工夫が必要である。
 ○ なお、CBは地域と密着していることから、CBに対する支援は本来的には市町村行政が行うべきであるが、市町村行政によるCB支援が本格的に展開されるまでの間、国は、その呼び水となるべく、CBに対してモデル的な支援事業を行い、その成果を説明会や支援団体のホームページへの掲載等によって市町村に広め、市町村が施策を立案する際の参考に供することが望まれる。加えて、国が市町村に対して当該ノウハウを提供することも検討に値する。
 ○ 今後、CBが企業や行政と適切に協働し、それぞれの本来の強みを相乗的に活かすとともに、CBが地域住民の活躍の場として人の成長を促し、地域住民や企業の積極的な参加を受け入れることを通じて、地域のつながりが新たな形で構築され、ひいては地域社会の再生の歩みが進んでいくことが期待される。


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