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> | OFF-JT実施企業は、昨年度調査に比べ大幅に低下し、過半数を切る | |
> | 自己啓発を行った従業員の比率は、昨年度調査に比べ微増 | |
> | 業界横断的な職業能力評価基準の整備は、企業の教育訓練や自己啓発を実施する上で有効 |
[企業における教育訓練、職業能力評価の実施状況]
[従業員の自己啓発の実施状況]
[業界横断的な職業能力評価基準について]
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1. | 「能力開発基本調査」は、我が国の企業、労働者の能力開発の実態を明らかにすることを目的として、平成13年度より実施しており、平成15年度は「職業能力評価」を中心に調査を実施した。 |
2. | 調査は「企業調査」「従業員調査」からなり、前者は「教育訓練の実施」、「職業能力評価の実施状況」等、後者は「自己啓発の実施状況と外部教育訓練機関の活用」、「職業能力の把握と会社の求める職業能力」等について、平成16年1月に調査した。 |
3. | 調査の対象は、全国・全業種の従業員規模30人以上の企業から無作為に抽出した企業1万社とその従業員3万人であり、回答を得たのは企業2,077社(有効回収率20.8%)及び従業員5,039人(有効回収率16.8%)であった。 |
II 調査結果の概要
1 企業調査
(1) | 人材育成の実態 |
ア. | OFF-JTの実施状況(図表1、図表2) 平成14年度に従業員(正社員)に対して、OFF-JT(通常の仕事を一時的に離れて行う教育訓練(研修))を「実施した」企業は48.7%、「実施しなかった」企業は49.4%となり、半数近くの企業でOFF-JTが実施されている。昨年度調査と比較すると、11.5ポイント減少した。 業種別にみると、金融・保険・不動産業では69.5%と実施率が高くなっている。反対に、運輸・通信業(31.3%)、電気、ガス、水道、熱供給業(40.0%)では実施率が低くなっている。 従業員規模別にみると、30人未満の企業では29.1%であるのに対して、300人以上の企業では82.6%となっており、従業員規模が大きくなるほどOFF-JT実施率が高くなっている。 OFF-JTを実施したと回答した企業における平成14年度のOFF-JT(本社の人事教育部門が管理するもの)の費用総額は全体平均で368.14万円となった。従業員一人当たりのOFF-JTの費用総額は全体平均で2.09万円となり、昨年度とほぼ同じ金額となった。 |
イ. | 計画的なOJTの実施状況(図表3、図表4) 平成14年度に従業員(正社員)に対して計画的なOJT(日常の業務につきながら行われる教育訓練のことであり、教育訓練に関する計画書を作成するなどして教育担当者、対象者、期間、内容などを具体的に定めて段階的・継続的に実施するもの)を「実施した」企業は41.6%、「実施しなかった」企業は53.8%となり、昨年度調査と比較すると、実施率が3.2ポイント減少した。 業種別にみると、OFF-JTの実施状況と同様に、金融・保険・不動産業で57.6%と高く、運輸・通信業で33.3%と低い実施率となっている。 従業員規模別にみると、従業員が30人未満の企業では「実施している」が29.1%であるのに対して、300人以上の企業では73.0%と、従業員が増加するほど計画的なOJTの実施率が高かった。また、昨年度調査と比較すると、従業員が300人以上の企業のみ、計画的なOJTの実施率が上昇した。 |
図表1 OFF-JTの実施状況(業種別)
図表2 OFF-JTの実施状況(企業規模別)
図表 3 計画的なOJTの実施状況(業種別)
図表 4 計画的なOJTの実施状況(従業員規模別)
ウ. | 教育訓練の方針 |
(ア) | 「選抜教育」か「底上げ教育」か(図表5) 企業での教育訓練対象者の方針としては、従業員全員の能力レベルを高めることをねらいとした「全体的な底上げ教育」を重視する方針と、教育投資価値のある従業員を対象とする「選抜教育」を重視する方針の2つに大別される。 これまでの教育訓練対象者の方針については、「全体的な底上げ教育」を重視(「社員全体の底上げをする教育を重視」と「社員全体の底上げをする教育を重視に近い」の回答計)した企業が、全体の6割近く(58.2%)を占めたが、それに対して「選抜教育」を重視(「選抜教育を重視」と「選抜教育を重視に近い」の回答計)した企業は、全体の4割弱(35.8%)であり、半数以上の企業において全体的な底上げ教育が重視されてきたことがわかる。 今後の方針についても、「全体的な底上げ教育」を重視する企業が多く、将来に向かって方針が維持される見込みである。 |
図表5 教育訓練対象者の方針
(イ) | 「本社主導」か「事業部・事業所主導」か(図表6) 教育訓練の主導主体に対する考え方としては本社主導での教育を行う「本社主導」と教育に対する権限・責任を事業部等のライン部門に移管する「事業部・事業所主導」とに大別される。これまでの教育訓練の主導主体に対する考え方については、「本社主導」(「本社主導の教育を重視」と「本社主導の教育を重視に近い」の回答計)である企業が、全体の6割近く(56.9%)を占めた。それに対して「事業部・事業所主導」(「権限・責任を事業部等のライン部門に移管」と「権限・責任を事業部等のライン部門に移管に近い」の回答計)である企業は36.7%であり、これまでは多くの企業で本社主導での教育訓練が行われてきたことがわかる。 今後の方針については、「事業部・事業所主導」と回答した企業が48.5%と多く、今後本社主導の教育訓練から事業部・事業所単位の教育訓練へと方針が変化していく見込みである。 |
図表6 教育訓練主導主体の方針
(ウ) | 「OJT」か「OFF-JT」か(図表7) 教育訓練方法の方針としては、OJTを重視した教育とOFF-JTを重視した教育とに大別される。これまでの教育訓練の方法に対する考え方については、「OJTを重視」(「OJT重視」と「OJTを重視に近い」の回答計)する企業が、全体のおよそ7割(71.2%)を占めている。それに対して「OFF-JTを重視」(「OFF-JTを重視」と「OFF-JTを重視に近い」の回答計)である企業は23.0%であり、多くの企業でOJTを重視した教育訓練が行われてきたことがわかる。 今後の方針についても、「OJTを重視」と回答した企業が68.3%と多く、将来に向かって方針が維持される見込みである。 |
図表7 教育訓練方法の方針
(エ) | 「社内」か「外部委託」か(図表8〜10) 教育訓練実施方法の方針としては、教育訓練を外部委託やアウトソーシングする方法と、社内で研修を実施する方法に大別される。これまでの教育訓練実施方法に対する考え方については、「社内で実施」(「社内で実施する」と「社内で実施するに近い」の回答計)する企業が、全体の6割弱(56.2%)を占めた。それに対して「外部委託・アウトソーシングを進める」(「外部委託・アウトソーシングを進める」と「外部委託・アウトソーシングを進めるに近い」の回答計)企業は38.0%であり、これまでは社内で教育訓練を実施する企業が多かった。 今後の方針については、「社内で実施」すると回答した企業が53.2%と多い一方、「外部委託・アウトソーシングを進める」方針の企業も41.7%に上り、今後はこれまでと比べ、「外部委託・アウトソーシングを進める」方針の企業が多くなる傾向が見られる。この傾向は業種を問わず同様である。 |
図表8 教育訓練実施方法の方針
図表9 教育訓練実施方法の方針(これまで)(業種別)
図表10 教育訓練実施方法の方針(今後)(業種別)
(オ) | 「企業責任」か「従業員個人責任」か(図表11) 能力開発の責任の主体については企業責任と従業員個人の責任に大別される。これまでの能力開発の責任主体に対する考え方については、「企業責任」(「従業員に教育訓練を行うのは、企業の責任である」と「従業員に教育訓練を行うのは、企業の責任に近い」の回答計)であるという企業が、全体の8割弱(76.0%)を占めた。それに対して「従業員個人の責任」(「教育訓練に責任を持つのは、従業員個人である」と「教育訓練に責任を持つのは、従業員個人に近い」の回答計)であるという企業は全体の2割弱(18.6%)であり、能力開発の責任は企業にあるとしている企業が多かったことがわかる。 今後の方針については、「企業の責任」と回答した企業が71.2%と依然として多いものの、「従業員個人の責任」についても23.5%となっており、これまでの方針を転換する企業があることが伺える。 |
図表11 能力開発責任主体の方針
エ. | 能力開発の積極度(図表12、図表13) 従業員に対する能力開発の積極性については、「積極的である」(「非常に積極的である」、「積極的な方である」の回答計)が43.9%、「積極的ではない」(「あまり積極的ではない」、「消極的である」の回答計)が54.1%であった。 能力開発の積極性と、企業の売上高との関係をみると、売上高が多いほど能力開発に「積極的である」企業の割合が高い。 |
図表12 能力開発の積極度
図表13 能力開発の積極度(売上高別)
(※) | 「既存の各種資格」とは、次のような資格を指す。
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ア | 職業能力評価の実態(図表14) 職業能力評価についての実施状況を尋ねたところ、「行っている」企業は全体の46.1%であった。 職業能力評価を「行っている」と回答した企業のうち、既存の各種資格を利用した職業能力評価を実施しているのは全体の53.1%であった。 |
図表14 職業能力評価の実施状況
イ | 職業能力評価のねらい(図表15) 職業能力評価のねらいについて尋ねたところ、「人事考課の判断基準」との回答が55.1%と最も多く、次いで「従業員に必要な能力開発の明確化」(48.0%)、「人材配置の適正化」(36.5%)であった。 |
図表15 職業能力評価のねらい(M.A.)
(3) | 職業能力評価の評価項目(図表16) 職業能力評価の評価項目については、「職務遂行に必要となる技能の評価」が最も多く、82.9%であった。次いで、「実践的職業能力の評価(注)」(64.3%)、「勤務態度の評価」(60.8%)、「人材育成・指導面の評価」(50.6%)、「就業環境・生産性の改善に関する評価」(28.6%)、「自社の対外アピールへの貢献の評価」(12.7%)であった。 (注)実践的職業能力とは、実務経験や実績、判断力や洞察力等の経験によって裏打ちされた能力や長年のキャリアによって培われた思考特性や行動特性を指す。 |
図表16 職業能力評価の評価項目(M.A.)
(4) | 職業能力評価の効果(図表17) 職業能力評価の効果について、人事考課の判断基準に対して「効果あり」(「効果があった」、「どちらかといえば効果があった」の回答計)は81.7%、従業員に必要な能力開発の明確化に対しては72.9%、人材配置の適正化に対しては66.9%、人材戦略・計画の策定の把握に対しては60.1%、社内人材ニーズの把握に対しては60.6%、応募してきた人材の能力判断基準に対しては49.1%であった。 |
図表17 職業能力評価の効果
(5) | 職業能力評価の持つ問題点(図表18) 現行の職業能力評価制度に関して問題であると感じている点は、「公平な評価項目の設定が難しい」が最も多く65.8%であった。次いで、「評価内容にばらつきが見られる」(45.3%)、「評価者の負担が大きい」(24.3%)、「能力評価結果の開示が行われてない」(20.6%)、「従業員のコンセンサスが得られない」(11.4%)であった。 |
図表18 職業能力評価の持つ問題点(M.A.)
(6) | 職業能力評価を導入していない企業における導入意向(図表19、図表20) 職業能力評価を導入していない企業に対して導入していない理由を尋ねたところ、「従業員の職業能力は把握できるから」との回答が最も多く29.5%であった。次いで、「どのような基準がよいか分からないから」(18.9%)、「適切な運用方法が分からないから」(18.8%)となった。「特段の理由はない」は24.2%であった。 |
図表19 職業能力評価を導入していない理由
今後の職業能力評価制度の導入意向については、「近いうちに導入したい」が10.4%、「時期は分からないがいずれ導入したい」が53.4%、「特に導入したいとは思わない」が34.3%であった。 |
図表20 職業能力評価を導入していない企業における導入意向
(7) | 社会基盤としての職業能力評価制度(図表21) 就業者もしくは就業希望者の適切な職業能力評価を行うために、職業ごとに求められる職業能力を業界横断的に整理した職業能力評価基準を作成した場合のメリットについて尋ねたところ、「従業員の教育訓練の基準として活用できる」が54.2%と最も多く、次いで、「社内制度の創設、改善に効果的に活用」(45.4%)、「評価制度に対して従業員からの信頼を得やすい」(35.4%)、「人事制度の改革に応用できる」(33.7%)、「就職希望者の能力を効率的に把握できる」(23.7%)、「自己主導的なキャリア開発の支援に役立つ」(21.6%)、「社内で作成するよりも精度が高いものができる」(13.1%)であった。業界横断的な職業能力評価基準に対しては、従業員の教育訓練や、社内制度創設・改善の指針としてのメリットが期待されていることが分かる。 |
図表21 業界横断的に整理した職業能力評価基準のメリット
2 従業員調査
(1) OFF-JTの受講状況(図表22、図表23)ア. | 受講した者の割合 平成15年にOFF-JTを受講した者の割合は26.6%であり、昨年度調査に比べて5.5ポイント低下した。 |
図表22 「OFF-JT」の受講状況
OFF-JTの受講状況を従業員の勤務先企業業種別にみると、「金融・保険・不動産業」が34.3%、「製造業」が29.5%と高い一方で、「運輸・通信業」が16.0%と低かった。 |
図表23 勤務先企業業種別「OFF-JT」の受講状況
イ. | 受講内容(図表24、図表25) 受講したOFF-JTの内容をみると、最も多いのは「階層別教育研修」(52.4%)であり、以下「技術系職能別教育研修」(32.3%)、「事務系職能別教育研修」(30.8%)であった。 その一方で、各内容における受講者の平均受講時間をみると、最も長いのは「技術系職能別教育研修」(35.2時間)であり、以下「階層別教育研修」(28.3時間)、「事務系職能別教育研修」(18.7時間)であった。 |
図表24 受講内容別「OFF-JT」の受講率(M.A.)
図表25 受講内容別「OFF-JT」の平均受講時間
ア. | 自己啓発を実施した者の割合(図表 26、図表27) 平成15年に自己啓発(注)を行った者の割合は35.8%であった。昨年度調査と比較すると2.6ポイント上昇した。 年齢階層別にみると、「24歳以下」の実施率が25.0%と最も低くなっており、他の年齢階層間では実施率に大きな差はみられなかった。 |
図表26 年齢階層別自己啓発の実施状況
(注)自己啓発とは、職業に関する能力を自発的に開発し、向上させるための活動をいい、職業に関係ない趣味、娯楽、スポーツ、健康の維持増進等のためのものは含まない。 |
自己啓発の実施状況を従業員の勤務先企業業種別にみると、「金融・保険・不動産業」の実施率が最も高く、次いで「サービス業」、「卸売・小売業、飲食店」であった。「建設業」、「電気、ガス、水道、熱供給業」、「運輸・通信業」は実施率が下降し、それ以外の業種は実施率が上昇した。 |
図表27 勤務先業種別自己啓発の実施状況
イ. | 自己啓発の実施目的(図表28) 自己啓発実施者の実施目的をみると、昨年度調査と同様に「現在の仕事に必要な知識・能力を身につけるため」(77.6%)が最も多かった。次いで、「将来の仕事やキャリアアップに備えて」(37.7%)、「資格取得のため」(32.8%)と続き、「資格取得のため」という回答は昨年度調査に比べ、5.3ポイント減少した。 |
図表28 自己啓発の実施目的
ウ. | 自己啓発の実施形態(図表29、図表30) 最も参加者割合の高い自己啓発の実施形態は、昨年度調査と同様「ラジオ・テレビ・専門書・パソコン通信等による自学・自習」であり、40.4%であった。全体として公的機関の行う講習会やセミナーではなく、自らが主体的に行う事のできる形態での自己啓発の実施が多かった。 |
図表29 自己啓発の実施形態(M.A.)
実施形態別の平均的な実施時間をみると、「専修学校・各種学校」が96.7時間と最も多かった。逆に「社内勉強会・研究会」(24.5時間)、「社外の勉強会・研究会」(18.3時間)といった勉強会の形態をとる自己啓発は、その実施時間が他と比べて短かった。 |
図表30 自己啓発の実施形態別平均実施時間
ア. | 職業能力の把握(図表31) 職業能力の把握方法についてみると、「先輩、後輩などと相対的に比較して」(41.1%)が最も多く、次いで「特になし」(29.1%)、「上司との面接を通じて」(14.0%)となっている。勤務先企業の業種別にみると、「会社の評価基準に照らし合わせて」という回答は他の業種に比べると、「電気、ガス、水道、熱供給業」「金融・保険・不動産業」において多かった。また、「建設業」「製造業」では他の業種に比べて「上司との面接を通じて」という回答が少なくなっており、「運輸・通信業」では「特になし」が最も多かった。 |
図表31 勤務先業種別 職業能力の把握方法
イ. | 職業生活の設計に対する意識(図表32) 職業生活の設計に対する意識をみると、自分で考えるべき(「自分でキャリアパスを考えるべき」及び「どちらかといえば自分で考えるべき」)という回答が6割を超えている。業種別にみると、「自分でキャリアパスを考えるべき」(35.8%)、「どちらかといえば自分で考える」(35.8%)という回答が「金融・保険・不動産業」で多かった。また、「どちらかといえば会社に従うべき」(16.3%)「会社が提示したパスに従うべき」(10.8%)という回答は「運輸・通信業」で比較的多かった。 |
図表32 勤務先業種別 職業生活の設計に対する意識
ウ. | 職業能力評価基準のメリット(図表 33、図表34) 業界横断的に整理された職業能力評価基準のメリットについて、「業界における自己の職業能力の位置付けを知ることができる」(36.8%)という回答が最も多く、職種別にみた場合に、「専門・技術職」において特に多かった。 |
図表33 職種別 職業能力評価基準のメリット
業種別にみると「電気、ガス、水道、熱供給業」「金融・保険・不動産業」では、「業界における自己の職業能力の位置付けを知ることができる」「将来のキャリア開発検討に有効」という回答の割合が他の業種に比べて高かった。 |
図表34 勤務先業種別 職業能力評価基準のメリット