戻る

3.家庭用品等が原因と考えられる吸入事故等に関する報告


 (財)日本中毒情報センターは、一般消費者もしくは一般消費者が受診した医療機関の医師からのあらゆる化学物質による健康被害に関する問い合わせに応ずる機関である。毎年数万件の問い合わせがあるが、このうち最も多いのが幼少児のタバコの誤食で、これのみで年間4,000件に達する。
 この報告は、これら問い合わせ事例の中から、家庭用品等による吸入事故及び眼の被害に限定して、収集・整理したものである。なお、医薬品など、「有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律」上の家庭用品ではないものも一部含まれている。


(1)原因製品種別の動向
 全事例数は681件で、昨年度より1割ほど増加した。原因と推定された家庭用品等を種別でみると、前年度と同様、殺虫剤類の報告件数が最も多く、171件(25.1%)であった。次いで洗浄剤(住宅用・家具用)95件(14.0%)、芳香・消臭・脱臭剤70件(10.2%)、消火剤46件(6.8%)、漂白剤43件(6.3%)、園芸用殺虫・殺菌剤類36件(5.3%)、洗剤(洗濯用・台所用)18件(2.6%)、灯油17件(2.5%)、除草剤16件(2.3%)、防虫剤14件(2.1%)、ベビーパウダー14件(2.1%)の順であった。防水スプレーは年々減少していたが、前年度の3件から今年度は12件になった。また、防虫剤は前年度の6件から14件に増加した。これらの変化については今後も経時的に追う必要があると考える。
 製品の形態別の事例数では、「スプレー式」が254件(そのうちポンプ式が91件)、「液体」191件、「粉末状」109件、「蒸散型」60件、「固形」51件、その他14件、不明が2件であった。ここでいう蒸散型とは、閉鎖空間等において一回の動作で容器内の薬剤全量を強制的に蒸散させるタイプの薬剤で、くん煙剤(水による加熱蒸散タイプを含む)、全量噴射型エアゾール等が該当する。蒸散型は平成12年度22件、平成13年度33件と年々増加し、かつ医療機関からの問い合わせが多いのが特徴である。


(2)各報告項目の動向
 年齢から見ると、0〜9歳の子供の被害報告事例が265件(38.9%)で、前年度と同様、最も多かった。次いで30代が多く、その他の年齢層は総件数、該当人口あたりの件数ともほぼ同じであった。年齢別事例数は製品によって偏りが見られるものがあり、殺虫剤は0〜9歳以外に60代にピークが見られ、洗浄剤(住宅用・家具用)、芳香・消臭・脱臭剤、漂白剤は0〜9歳以外に30代にピークが見られ、消火剤も同様に0〜9歳の子供が多く、次に10代であった。
 性別では、女性が372件(54.6%)、男性が270件(39.6%)、不明が39件(5.7%)で男女比は過去とほぼ同等であった。電話での問い合わせのため、記載漏れ等があり、被害者の性別不明例が多少存在する。
 健康被害の問い合わせ者は、一般消費者からの問い合わせ事例が455件、受診した医療機関等医療機関関係者からの問い合わせ事例が226件であった。
 症状別に見ると、症状の訴えがあったものは475件(69.8%)、なかったものは196件(28.8%)、不明のものが10件(1.5%)であり、前年に比べて症状の訴えがあったものの割合が増加した。症状の訴えがあった事例のうち、最も多かったのが、咳、喘鳴等の「呼吸器症状」を訴えたもの205件(30.1%)で、次いで、悪心、嘔吐、腹痛等の「消化器症状」を訴えたもの159件(23.3%)、眼の違和感、痛み、充血等の「眼の症状」を訴えたものが142件(20.9%)、頭痛、めまい等の「神経症状」を訴えたものが101件(14.8%)、であった。前年度と比べて上位に占める症状はほとんど変動していない。
 発生の時期を見ると、品目別では、殺虫剤類による被害が4〜10月に多い。洗浄剤(住宅用・家具用)について、昨年度は季節による目立った傾向はみられなかったが、今年は年末に被害が増加した。曜日別にも解析を行ったが、際だった特徴はなかった。時間別では午前9時〜午後9時の間にほぼ均等に発生しており、午前1時から午前7時頃までが少なくなっていた。発生頻度は前年度と比較して、際だった変化はなく、生活活動時間に比例している。


(3)原因製品別考察

 1)殺虫剤・防虫剤
 殺虫剤・防虫剤に関する事例は185件(有症率73.5%)で、殺虫剤が171件(前年比1.3倍)、防虫剤14件(前年比2.3倍)といずれも増加していた。
 被害事例の状況として
  1.乳幼児・痴呆症患者などのうち、危険認識能力が十分にないものによる事例
  2.用法どおり使用したが、健康被害が発生したと思われる事例
  3.燻煙剤を使用後、十分換気せずに入室してしまった事例
  4.隣の部屋で燻煙剤を使用し、煙を吸入してしまった事例
  5.適応量を明らかに超えて使用した事例
  6.蒸散型の薬剤を使用中、入室してしまった事例
  7.ヒトや動物の近辺で使用し、影響が出た事例
  8.本来の用途以外の目的で使用した事例
等があり、使用の際には細心の注意が必要である。

   ◎事例1 [原因製品:殺虫剤(エアゾールタイプ)]
 患者 1歳 男児
状況兄からピレスロイド系殺虫剤を顔面に噴射された。
症状眼の赤み
処置・転帰経過観察


   ◎事例2 [原因製品:殺虫剤(エアゾールタイプ)]
 患者 35歳 男性
状況トイレにてピレスロイド系殺虫剤を5分間使用し、吸入した。
症状顔面蒼白、嘔気、上半身のしびれ
処置・転帰経過観察


   ◎事例3 [原因製品:殺虫剤(蒸散タイプ)]
 患者 53歳 男性
状況火災報知機が作動した為、5分ほど入室し、吸入した。
症状呼吸困難、気分不快感、眼前暗黒感
処置・転帰外来で点滴


   ◎事例4 [原因製品:殺虫剤(蒸散タイプ)]
 患者 47歳 女性
状況使用法をよく読まずに使用し、噴射された薬剤を吸入した。
症状咳嗽、嘔気、頭痛、動悸、鼻閉感
処置・転帰外来にて輸液処置、内服薬を処方、鼻粘膜腫脹により加療


   ◎事例5 [原因製品:殺虫剤(液体タイプ)]
 患者 34歳 女性
状況薬剤が手に付着しているのに気づかずに眼をこすった。
症状眼の刺激感
処置・転帰受診せず


 2)洗浄剤(住宅用・家具用)、洗剤(洗濯用・台所用)
 洗浄剤(住宅用・家具用)・洗剤(洗濯用・台所用)に関する事例は113件(有症率74.3%)で、年末に被害発生のピークが見られたが、本年の被害発生は前年に比べてやや減少傾向にある。最も多いのは、次亜塩素酸系の製品によるもの(53件)であり、製品形態で多いのはポンプ式スプレー製品(65件)である。また、洗剤(洗濯用・台所用)に関する事例は、18件(前年比0.8倍)であった。
 被害事例の状況として
  1.乳幼児・痴呆症患者などのうち、危険認識能力が十分にないものによる事例
  2.複数の薬剤が作用し、有毒ガスが発生した事例
  3.適用量を明らかに超えて使用した事例
  4.液体や粉末の薬剤が飛散し、吸入したあるいは眼に入った事例
  5.用法どおり使用したが、健康被害が発生したと思われる事例
等があり、被害を防ぐには、換気を十分に行う、長時間使用しない、適量を使用すること等に気をつける必要がある。また、塩素系の洗浄剤と酸性物質(事故例の多いものとしては塩酸や有機酸含有の洗浄剤、食酢等がある)との混合は有毒な塩素ガスが発生して危険である。これらの製品には「まぜるな危険」との表示をすることが徹底されているが、いまだに発生例がみられ、一層の啓発が必要である。なお、乳幼児の事故事例は、保管場所を配慮することによって防止できるものが多い。

   ◎事例1 [原因製品:住居用洗浄剤(ポンプ式スプレー、アルコール系溶剤含有)]
 患者 1歳 女児
状況いたずらして、顔に向けて噴射し、眼に入った。
症状充血
処置・転帰洗眼処置、点眼薬の処方


   ◎事例2 [原因製品:カビ取り用洗浄剤(ポンプ式スプレー、塩素系)]
 患者 47歳 女性
状況マスクをせずにカビ取り剤を1/2本使用した。
症状嘔気、嘔吐、呼吸時の胸痛
処置・転帰胸部レントゲン検査 異常なし


   ◎事例3 [原因製品:トイレ用洗浄剤(塩素系製品、塩酸含有製品)]
 患者 55歳 男性
状況トイレの清掃のため、2剤を混合し、ガスが発生した。
症状鼻の刺激感、眼の刺激感
処置・転帰経過観察


   ◎事例4 [原因製品:住居用洗浄剤(粉末)]
 患者 32歳 女性
状況洗濯槽の洗浄に住居用洗剤を使用しようとして舞い上がった粉末を吸入した。
症状喉の痛み
処置・転帰受診せず


   ◎事例5 [原因製品:排水口用洗浄剤(粉末)]
 患者 30歳 女性
状況袋をあけたところ粉末が舞い上がって吸入した。
症状喉の痛み
処置・転帰受診せず


 3)漂白剤
 漂白剤に関する事例は43件(有症率60.5%)で、このうち次亜塩素酸系(塩素系)が38件と最も多く、大半を占めた。
 被害事例の状況として
  1.複数の薬剤が作用し、有毒ガスが発生した事例
  2.乳幼児・痴呆症患者などのうち、危険認識能力が十分にないものによる事例
等があり、注意が必要である。また、塩素系の漂白剤と酸性物質とを混合し発生した塩素ガスを吸入した事例も相変わらず見られ、前述の洗浄剤と合わせると混合による塩素ガス発生事例は21件(うち症状有19件)にものぼる。塩素ガスを発生させる恐れのあるものには「まぜるな危険」の表示、そうでなくとも「他剤と混合しない」という注意書きはなされているところではあるが、これら混合の危険性についてさらに一層の啓発をはかる必要がある。

   ◎事例1 [原因製品:塩素系漂白剤、トイレ用洗浄剤]
 患者 26歳 男性
状況換気を行った浴室にて2剤を混合して使用した。
症状気分不良、呼吸困難、酸素分圧の低下
処置・転帰不明


   ◎事例2 [原因製品:塩素系漂白剤]
 患者 17歳 女性
状況排水口の殺菌に原液で使用し、その後、熱湯を流したところその蒸気を吸入した。
症状咳、胸やけ
処置・転帰受診せず


   ◎事例3 [原因製品:塩素系漂白剤]
 患者 成人女性
状況生ゴミに塩素系漂白剤をかけたところ異臭がした。
症状胸やけ
処置・転帰不明


 4)消火剤
 消火剤に関する事例は46件(有症率78.3%)とあいかわらず多い。被害状況としては、消火器が倒れて消火剤が噴出した例、誤って噴射し吸入した例等、使用時以外の被害が目立った。使用中はもちろんのこと、保管場所、取扱いには十分な注意が必要である。

   ◎事例1 [原因製品:粉末消火器]
 患者 62歳 女性
状況誤作動させ、後片付け中に吸入した。
症状口唇のしびれ、味覚異常
処置・転帰経過観察


   ◎事例2 [原因製品:粉末消火器]
 患者 13歳 男性
状況学校の消防訓練で噴射された消火器が風により教室内に入り吸入した。
症状咽頭不快感、気分不良
処置・転帰経過観察


 5)芳香・消臭・脱臭剤
 芳香・消臭・脱臭剤に関する事例は70件(有症率55.7%)で、前年比1.8倍に増加した。被害状況としては、
  1.乳幼児・痴呆症患者などのうち、危険認識能力が十分にないものによる事例
  2.エアゾールで噴射方向を誤ったことによる事例
  3.用法どおり使用したが、健康被害が発生したと思われる事例
  4.使用方法を十分確認せずに使用した事例
  5.薬剤を別の薬剤と間違って使用した事例
等が見られた。多種多様な製品が販売されており、事故の発生状況も製品の形態や使用法により様々である。中でも、蒸散型の自動車用消臭剤を用法どおりに使用したところ健康被害が発生したという事例が複数見られ、原因は不明であるが、今後も注意が必要である。

 ◎事例1 [原因製品:消臭剤(エアゾール)]
 患者 35歳 女性
状況噴射口の向きを誤り、顔に向けてスプレーした。
症状眼の充血、かゆみ
処置・転帰洗眼により改善、受診せず


   ◎事例2 [原因製品:消臭剤(蒸散型)]
 患者 38歳 女性
状況車内で用法どおりに使用し、換気を行った。
症状乗車時に咽頭痛、眼の違和感
処置・転帰受診せず


   ◎事例3 [原因製品:消臭剤(液体)]
 患者 38歳 女性
状況目薬と間違えて眼にさした。
症状眼のかすみ、刺激感、充血
処置・転帰不明


 6)園芸用殺虫・殺菌剤類
 園芸用殺虫・殺菌剤類に関する事例は56件(有症率78.6%)、除草剤は16件、肥料4件であり、いずれも増加傾向にある。成分別では有機リン含有剤25件、グリホサート含有剤6件、ピレスロイド含有剤5件、尿素系除草剤含有剤5件であった。
被害状況としては
  1.マスク等保護具を装着していなかったことによる事例
  2.乳幼児・痴呆症患者など危険認識のない者による事例
  3.用法どおり使用したが、健康被害が発生したと思われる事例
  4.使用時に風下にいたため、吸入した事例
等が見られた。屋外で使用することが多く、使用者以外にも健康被害が発生しているのが特徴である。家庭園芸用であっても十分な注意喚起を図る必要がある。

   ◎事例1 [原因製品:有機リン含有剤]
 患者 69歳 男性
状況マスクを着用せずに薬剤を散布したところ、吸入した。
症状コリンエステラーゼ低下、縮瞳、中枢神経障害、肺水腫
処置・転帰入院32日


   ◎事例2 [原因製品:ピレスロイド含有剤(ポンプ式スプレー)]
 患者 3歳 男児
状況頭や口にむけて髪の毛から液が垂れるほどスプレーした。
症状嘔吐
処置・転帰無処置


   ◎事例3 [原因製品:石灰硫黄合剤]
 患者 75歳 男性
状況マスクを着用して使用したが吸入した。
症状悪心、心窩部重圧感
処置・転帰経過観察


 7)その他
 防水スプレーに関しては、過量使用、換気不良等による事故が相変わらず発生しており、使用にあたっては十分な注意をはらうよう、あらためて注意喚起したい。また、昨今色々な商品が発売されているが、それに伴って家庭の中でもさまざまな目新しい商品による事故の発生例が報告されている。

   ◎事例1 [原因製品:防水剤(フッ素樹脂含有、エアゾール)]
 患者 51歳 男性
状況室内で1本使いきり、その後喫煙した。
症状呼吸困難、発熱、肺炎
処置・転帰入院(8日)


   ◎事例2 [原因製品:昆虫忌避剤(ポンプ式スプレー)]
 患者 2歳 女児
状況いたずらしてダニ忌避剤を顔面に噴射した。
症状頬の赤み、眼の充血
処置・転帰不明


   ◎事例3 [原因製品:防錆剤(エアゾール)]
 患者 15歳 男性
状況自転車の修理に使用していたところ眼に入った。
症状眼の痛み、充血
処置・転帰不明


(4)全体について
 この報告は、医療機関や一般消費者から(財)日本中毒情報センターに問い合わせがあった際、その発生状況から健康被害の原因とされる製品とその健康被害について聴取したものをまとめたものである。医療機関に対してはアンケート用紙の郵送により、また一般消費者に対しては電話によって追跡調査を行い、問い合わせ時以降の健康状態等を確認しているが、一部把握し得ない事例も存在する。しかしながら、一般消費者等から直接寄せられるこのような情報は、新しく開発された製品を含めた各製品の安全性の確認に欠かせない重要な情報である。
 情報収集の対象は、吸入事故及び眼の被害に限定しているが、製品については医薬品、一部の殺虫剤など「有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律」上の家庭用品ではないものも集計に加えている。
 今年度も前年度同様、子供の健康被害に関する問い合わせが多くあった。保護者は家庭用品等の使用時やその保管方法に十分注意するとともに、製造者も子供のいたずらや誤使用等による健康被害が生じないような対策を施した製品開発に努めることが重要である。
 製品形態別では、スプレー式の製品による事故が多く報告された。スプレー式の製品は内容物が霧状となって空気中に拡散するため、製品の種類や成分にかかわらず吸入、眼による健康被害が発生しやすい。使用にあたっては換気状況を確認すること、一度にたくさんの量を使用しないこと等の注意が必要である。
 主成分別では、次亜塩素酸系の洗浄剤等による健康被害報告例が相変わらず多くみられた。次亜塩素酸系の成分は、臭いなどが特徴的で刺激性が強いことからも報告例が多いものと思われるが、使用方法を誤ると重篤な事故が発生する可能性が高い製品でもある。製造者においては、より安全性の高い製品の開発に努めるとともに、消費者に製品の特性等について表示等による継続的な注意喚起と適正な使用方法の推進をはかる必要がある。
 また、事故の発生状況をみると、使用方法や製品の特性について正確に把握していれば事故の発生を防ぐことができた事例や、わずかな注意で防ぐことができた事例も多数あったことから、消費者にあっては、日頃から使用前には注意書きをよく読み、正しい使用方法を守ることが大切である。万一事故が発生した場合には、症状の有無にかかわらず、(財)日本中毒情報センターに問い合わせをし、必要に応じて専門医の診療を受けることを推奨したい。


トップへ
戻る