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1.家庭用品が原因と考えられる皮膚障害に関する報告

(1)原因家庭用品カテゴリー、種別の動向
 原因と推定された家庭用品をカテゴリー別に見ると、洗剤等の「家庭用化学製品」が57件で最も多く、次いで装飾品等の「身の回り品」が52件であった。(表1)。
 家庭用品の種類別では「洗剤」が23件(12.4%)で最も多く報告された。次いで「装飾品」が18件(9.7%)及び「ゴム・ビニール手袋」が18件(9.7%)、「時計バンド」が8件(4.3%)、「下着」、「ハンドバック・カバン」、「めがね」及び「時計」が5件(2.7%)、「洗浄剤」、「染料」及び「漆器」が4件(2.2%)、「時計バンド」と「時計」が6件(2.9%)、「スポーツ用品」、「くつした」及び「下着」が5件(2.4%)の順であった(表2)。
 報告件数上位10品目について平成13年度と比較すると、上位2品目について「洗剤」と「装飾品」の順位に変動があった。報告件数については、「装飾品」の報告件数は28件減少し、全体に対しての割合は約12ポイント減少した。「洗剤」の報告件数は22件減少し、全体に対する割合も約9ポイント減少したが1位に戻った。「ゴム・ビニール手袋」については、順位が1つ上昇し、報告件数は11件から18件に増加し、全体に対する割合も約4ポイント増加した(表2)。その他の上位品目については、報告数、割合に変動があったものの概ね過去の上位10品目と同様の品目で占められていた。

  注 「洗剤」:野菜、食器等を洗う台所用及び洗濯用洗剤
 「洗浄剤」:トイレ、風呂等の住居用洗浄剤

 上位10品目の全報告件数に占める割合を長期的な傾向から見ると、変動はあるものの「洗剤」と「装飾品」の割合が常に上位を占めており(図1)、平成14年度も同様であった。

(2)各報告項目の動向
 患者の性別では女性が127件(73.8%)と大半を占めた。そのうち20代が38件と全体の22.1%を占めた。前年度と比べると5ポイント近く減少しているが、依然として最も高い割合となっている。この38件中12件はアレルギー性の接触皮膚炎で、このうち11件が金属アレルギーによるものであった。
 障害の種類としては、「アレルギー性接触皮膚炎」が60件(34.9%)と最も多く、次いで「刺激性皮膚炎」55件(32.0%)、「KTPP型の手の湿疹」が22件(12.8%)、「湿潤型の手の湿疹」が11件(6.4%)、であった。

 *:KTPP(keratodermia tylodes palmaris progressiva:進行性指掌角皮症)
 手の湿疹の1種で、水仕事、洗剤等の外的刺激により起こる。まず、利き手から始まることが多く、皮膚は乾燥し、落屑、小亀裂を生じ、手掌に及ぶ。程度が進むにつれて角質の肥厚を伴う。

 症状の転帰については、「全治」と「軽快」を合計すると95件(55.2%)であった。なお、本年も「不明」が64件(37.2%)あった。このような転帰不明の報告例は、症状が軽快した場合に受診者が自身の判断で途中から通院を打ち切っているものと考えられる。

(3)原因製品別考察
 1)装飾品
 平成14年度における装飾品に関する報告件数は18件(9.7%)であった。前年度46件(21.6%)と比較すると報告件数は半減し、全報告件数に対する割合も半減した(表2)。
 原因製品別の内訳は、ネックレスが5件、ピアスが5件、イヤリングが2件、指輪が1件、ビューラーが1件、不明が4件であった。
 障害の種類では、全体としてアレルギー性接触皮膚炎が60件(34.8%)と昨年と比較して割合が減少した。原因となった素材は、装飾品を含む「身の回り品」が多かった。
 金属の装飾品について、16件のパッチテスト施行例が報告され、前年度同様、ニッケルにアレルギー反応を示した例が9件と最も多かった(表2)。それに次いでパラジウムと水銀が4件でパッチテストによりアレルギー反応が観察された。このパッチテストは同時に複数の金属について行われたが、ほとんどの場合、被験者は複数の金属に対して強弱の差はあるが、陽性反応を示していた。
 このような金属による健康障害は、金属が装飾品より溶けだして症状が発現すると考えられる。そのため、直接皮膚に接触しないように装着することにより、被害を回避できると考えられる。しかしながら、夏場や運動時等、汗を大量にかく可能性のある時には装飾品類をはずす等の気を配ることが被害を回避する観点からは望ましい。また、ピアスは耳たぶ等に穴をあけて装着するため、表皮より深部と接触する可能性が高いため、初めて装着したり、種類を変えたりした際には、アレルギー症状の発現などに対して特に注意を払う必要がある。症状が発現した場合には、原因製品の装着を避け、装飾品を使用する場合には別の素材のものに変更することが症状の悪化を防ぐうえで望ましい。さらに、早急に専門医の診療を受けることを推奨したい。ある装飾品により金属に対するアレルギー反応が認められた場合には、金属製の別の装飾品、眼鏡、時計バンド、ベルト、ボタン等の使用時にもアレルギー症状が起こる可能性があるので、同様に注意を払う必要がある。例えば、最も症例の多いニッケルアレルギーの場合、金色に着色された金属製品はニッケルメッキが施されている場合が多いので注意が必要である。

  ◎事例1【原因製品:ピアス】
 患者 32歳 女性
症状ピアスの穴から透明などろっとした液体が出るので他医で加療し、軽快したが、ピアスをして再び悪化
障害の種類アレルギー性接触皮膚炎
パッチテストニッケル(++)
治療・処置ステロイド薬外用

<担当医のコメント>
 パッチテストより、ピアスの金属成分のうちニッケルによるアレルギー性接触皮膚炎であると確認された。


  ◎事例2【原因製品:ビューラー】
 患者 22歳 女性
症状3年前から目の周りが赤くなる。そのころからビューラーを使用していた。
障害の種類アレルギー性接触皮膚炎
パッチテストビューラー金属(−)、ゴム(+)、ニッケル(++)
治療・処置ステロイド薬外用

 
<担当医のコメント>
 パッチテストより、ニッケルに陽性反応を示したが、ビューラーの金属部分ではなく、ゴム部分によるアレルギー性接触皮膚炎と確認された。


 2)洗剤
 平成14年度における洗剤に関する報告件数は23件(12.4%)であった。報告件数は前年度44件(21.0%)より減少し、全報告件数に対する割合も約9ポイント減少した。全報告件数の変動は、報告施設が1施設少なかったのが関係している可能性もあるが、昨年の装飾品をぬいて、14年度は洗剤が1位であった。(表2)。
 内訳を見ると、台所用洗剤が原因となった例が多かった。原因製品の種類が判明しているものを用途別に見ると、洗濯用が4件、台所用が7件、両製品による事例が1件であった。用途が特定できないものも5件あった。
 洗剤が原因となった健康障害の種類は、KTPP型の手の湿疹が14件(60.9%)、刺激性の皮膚炎が6件(26.1%)、アレルギー性接触皮膚炎が2件(8.7%)、湿潤型の手の湿疹が1件(4.3%)であった。
 事例のように、皮膚を高頻度で水や洗剤にさらすことにより、皮膚の保護機能が低下し、KTPP型の手の湿疹や刺激性皮膚炎が起こりやすくなっていたり、また高濃度で使用した場合に障害が起こったりというように、症状の発現には、化学物質である洗剤成分と様々な要因(皮膚の状態、洗剤の使用法・濃度・頻度、使用時の気温・水温等)が複合的に関与しているものと考えられる。基本的な障害防止策としては、使用上の注意・表示をよく読み、希釈倍率に注意する等、正しい使用方法を守ることが第一である。また、必要に応じて、保護手袋を着用することや、使用後、クリームを塗ることなどの工夫も有効な対処法と思われる。それでもなお、症状が発現した場合には、原因と思われる製品の使用を中止し、早期に専門医を受診することを推奨したい。

  ◎事例1【原因製品:台所用洗剤】
 患者 52歳 女性
症状毎年、冬になると手があれる。(10年以上前より)洗剤を使用するスポンジを掴む部分が特にひどい。
障害の種類手の湿疹(KTPP型)
パッチテスト未実施
治療・処置ステロイド薬外用

 
<担当医のコメント>
臨床及び病歴から台所用洗剤が原因と考えた。洗剤を使用するときには手袋をしたり、使用後、手のスキンケアを心がけることが重要である。


 3)ゴム・ビニール手袋
 平成14年度における報告件数は18件(9.7%)であった。全報告件数に対する割合は、前年度(5.7%)に比べ約4ポイント増加した。素材別の内訳は、ゴム手袋が4件、ビニール手袋が3件、不明のものが11件であった。
 障害の種類としては、刺激性皮膚炎、KTPP型手の湿疹及び湿潤型手の湿疹がそれぞれ5件(27.8%)、アレルギー性の接触皮膚炎が2件(11.1%)報告された。
 本年度については、ラテックス蛋白質を原因とする接触じん麻疹等の重篤な障害事例は報告されなかったが、前年度までの事例で紹介しているように、材質に対する反応は個人差があり、特にラテックスアレルギーは時にアナフィラキシー反応を引き起こし、じん麻疹の発疹、ショック状態等、重篤な障害をまねく恐れがあるので、製造者において、製品中のラテックス蛋白質の含有量を低減する努力が引き続き行われることが重要であるとともに、ラテックスに対するアレルギー反応の有無等、自己の体質にも注意が必要である。基本的には、既往歴があり、ゴム・ビニール手袋による皮膚障害が心配される場合には、以前問題が生じたものとは別の素材のものを使うようにする等の対策をまずはとる必要がある。はじめ軽度な障害であっても、当該製品の使用を継続することにより症状が悪化してしまうことがあり得る。また、原因を取り除かなければ治療効果も失われてしまうので、何らかの障害が認められた場合には、原因と思われる製品の使用を中止し、専門医を受診することを推奨したい。

  ◎事例1【原因製品:ゴム手袋】
 患者 30歳 女性
症状ゴム手袋を清掃の時につけていたら、紅斑が出現。
障害の種類手の湿疹
パッチテスト未実施
治療・処置ステロイド薬外用、抗ヒスタミン剤内服


 4)ハンドバック等
 平成14年度におけるハンドバック等に関する報告件数は5件(2.7%)であった。前年度0件(0%)であり、報告件数は過去5年間において、上位10位にも入っていなかったものだが、本年度は5位に入っている。(表2)。
 対策としては、皮膚に直接、取っ手部分や腕を通す部分に触れないように使用することが第一であるが、それでも症状が発現した場合には、原因となった部分の素材を別のものに変更することが必要である。また、このように革の部分でアレルギー症状が発現した場合には、ハンドバック、カバン以外の他の革製品の使用にあたっても注意が必要である。

  ◎事例1【原因製品:カバン】
 患者 56歳 男性
症状3年前にカバンを新しく購入、それ以降、右手を中心に両側手掌にかゆみを伴う落着性紅斑出現。
障害の種類アレルギー性接触皮膚炎
パッチテスト未実施
治療・処置ステロイド・保湿混合剤外用、抗ヒスタミン薬内服

 
<担当医のコメント>
革製のカバンの取っ手に含まれる革のなめし剤として使用されたクロムによるアレルギー性接触皮膚炎と考えられた。長年使用しているうちに汗で溶出したクロムで感作されたものと推測される。


 5)ナイロンタオル
 平成14年度におけるナイロンタオルに関する報告件数は2件(1.1%)であった。前年度9件(4.3%)と比べると報告件数、全報告件数に対する割合とも減少していた(表2)。
 障害の種類は、色素沈着が1件、刺激性皮膚炎が1件であった。

  ◎事例1【原因製品:ナイロンタオル】
 患者 72歳 男性
症状10年前より入浴時にナイロンタオルでごしごしこすっている。(1年位前から身体全体にかゆみあり)身体の色素沈着が気になり受診。
障害の種類色素沈着(摩擦黒皮症)
治療・処置ステロイド薬外用、抗ヒスタミン薬内服

 
<担当医のコメント>
 ナイロンタオルなどで摩擦を繰り返すことにより色素沈着をきたす摩擦黒皮症は、まれな疾患ではないが、患者自身は原因に気づいていないことが多い。今後も啓発が必要と思われる。


 6)その他
 その他、被害報告件数が多かったものは時計バンドが8件(4.3%)、下着、時計及びめがねが各5件(2.4%)、漆器が4件(2.2%)、くつした、おしめが各3件(1.6%)であった。

  ◎事例1【原因製品:時計バンド】
 患者 51歳 男性
症状金属の時計バンドをしたら手首に紅い発疹が出た。かゆみあり。革の時計バンドでかぶれたことあり。
障害の種類アレルギー性接触皮膚炎
パッチテストクロム(+?)
治療・処置時計の使用中止


  ◎事例2【原因製品:下着】
 患者 60歳 女性
症状レースの下着付ショーツを4か月前から時々はいていたが、受診の1か月前頃から皮疹時々かゆみ
障害の種類アレルギー性接触皮膚炎
治療・処置ステロイド薬外用

 
<担当医のコメント>
 ナイロン、ポリウレタン混紡のレース部分によるアレルギー性接触皮膚炎と考えられた。


  ◎事例3【原因製品:セーター】
 患者 30歳 女性
症状セーターの襟周りに1週間前頃より、頭部にそう痒を伴う紅色丘疹出現
障害の種類アレルギー性接触皮膚炎
治療・処置ステロイド薬外用


  ◎事例4【原因製品:めがね】
 患者 69歳 女性
症状5〜6年前から今のめがねを使用。1年位前からめがねのつるが当たる部位に痛み。紅斑。
障害の種類アレルギー性接触皮膚炎
パッチテスト未実施
治療・処置ステロイド薬外用


  ◎事例5【原因製品:くつした】
 患者 66歳 男性
症状化学繊維のくつしたを3日間はいていたところ、ゴムのあたるところに一致して紅斑出現
障害の種類刺激性皮膚炎
治療・処置ステロイド薬外用


  ◎事例6【原因製品:紙おむつ】
 患者 76歳 男性
症状1か月前から下腹部、腰にかゆみ、紅斑あり。今年になってから紙おむつに変更。
障害の種類アレルギー性接触皮膚炎
治療・処置ステロイド薬外用、布おむつに変更

 
<担当医のコメント>
高齢化社会となり、高齢者の紙おむつ使用が増加するので、このような症例が増加すると予想され、要注意である。


  ◎事例7【原因製品:ウェットティッシュ】
 患者 59歳 女性
症状ウェットティッシュで首を拭いたらそう痒を伴う発疹出現。
障害の種類アレルギー性接触皮膚炎
治療・処置ステロイド薬外用

 
<担当医のコメント>
近年の清潔志向によりウェットティッシュなど衛生用品の使用頻度が高くなっており、これらの製品による接触皮膚炎が増える可能性があり、要注意である。


  ◎事例8【原因製品:保冷剤】
 患者 26歳 女性
症状顔面に保冷剤を当てたところ、保冷剤の袋が破れており内容物に暴露。その後、口囲、両頬部に発赤、かゆみ、発疹出現。
障害の種類刺激性皮膚炎
パッチテスト水銀(+)、コバルト(+?)、クロム(+?)
治療・処置ステロイド薬外用、抗ヒスタミン薬内服

 
<担当医のコメント>
保冷剤の内容物に曝露する機会は稀であるが保冷剤の内容物による刺激性皮膚炎が原因と考えられる。保冷剤の正しい使用が望ましい。


  ◎事例9【原因製品:管弦楽器】
 患者 11歳 女性
症状管弦楽器を始め、口囲に痒みと皮疹を伴った。
障害の種類アレルギー性接触皮膚炎
治療・処置ステロイド薬外用

 
<担当医のコメント>
管弦楽器のマウスピース部に一致して皮疹を認めており、楽器の金属成分による金属アレルギーと考えられた。


 (4)全体について
 平成14年度の家庭用品を主な原因とする皮膚障害の種類別報告全185件のうち、60件はアレルギー性接触皮膚炎であった。この中でも、装飾品、眼鏡、ベルトの留め金、時計や時計バンドなどで見られた金属アレルギーが約6割を占めた。平成8年来、上位3品目の内容は変わっていない。
 家庭用品を主な原因とする皮膚障害は、原因家庭用品との接触によって発生する場合がほとんどである。家庭用品を使用することによって接触部位に痒み、湿疹等の症状が発現した場合には、原因と考えられる家庭用品の使用は極力避けることが望ましい。故意、もしくは気付かずに原因製品の使用を継続すると、症状の悪化をまねき、後の治療が長引く可能性がある。
 症状が治まった後、再度使用して同様の症状が発現するような場合には、同一の素材のものの使用は以後避けることが賢明であり、症状が改善しない場合には、専門医の診療を受けることが必要である。本年は報告されなかったが、ゴム手袋のラテックスタンパク質に対するアナフィラキシーショックのように重篤なものもあるので、注意が必要である。
 また、使用法の誤りから障害が起こった事例も依然見受けられており、これらの被害を避けるためにも、日頃から使用前には必ず注意書きをよく読み、正しい使用方法を守ることや、化学物質に対して感受性が高くなっているアレルギー患者等では、自分がどのような化学物質に反応する可能性があるのかを認識し、使用する製品の素材について注意を払うことも大切である。


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