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厚生労働省発表
平成15年11月20日
担当 厚生労働省労働基準局監督課
課長及川  桂
副主任中央労働基準監察監督官
吉松 美貞
中央労働基準監察監督官
木下 正人
電話 03(5253)1111(内線5428)
夜間直通 03(3502)6742


最近における「労災かくし」事案の送検状況

 近年、労災かくし事案が多発している中、労働基準局においては「労災かくし」の排除に係る対策に重点的に取り組んでいるが、平成14年において97件、平成15年1月〜10月において106件の「労災かくし」による送検を行ったところである。

 1 「労災かくし」とは、労働災害の発生事実を隠ぺいするため、
(1) 故意に労働安全衛生法に基づく労働者死傷病報告を所轄労働基準監督署長に提出しないもの
又は
(2) 虚偽の内容を記載した労働者死傷病報告を所轄労働基準監督署長に提出するもの
をいい、労働安全衛生法第100条違反又は第120条違反の罪に該当するものであるが、その背景には労働災害発生の原因となった法律上の措置義務違反に係る責任の追及を免れようとするなどの意図が存在するものであり、場合によっては被災者に犠牲を強いるものとなるなど許しがたい行為である。
 このため、厚生労働省としては、「労災かくし」の排除については、これまでも労働基準監督機関において、監督指導等あらゆる機会を通じ、このようなことが行われることがないよう、事業者に対し指導を徹底してきたところである。また、監督・安全衛生を担当する部署と労災補償を担当する部署とが密接な連携を図ることにより、なかなか表にあらわれない「労災かくし」の発見に努めるとともに、この存在が明らかになった場合には、労働安全衛生法違反として、必要に応じ送検手続をとるなど厳正に対処しているところである。
 2 今般、「労災かくし」に係る送検件数等について、以下のとおり取りまとめたところである。厚生労働省としては、引き続き、「労災かくし」の排除に向けて積極的に取り組んでいく決意である。


 送検件数

 平成10年以降において、労働基準監督機関が労働安全衛生法第100条及び第120条に基づく労働者死傷病報告義務違反で送検した件数は、次のとおりである。

平成15年1月〜10月 106
平成14年 97
平成13年 126
平成12年 91
平成11年 74
平成10年 79

 平成14年及び平成15年1月〜10月における業種別の状況としては、次のとおりである。

業種 平成14年 平成15年1〜10月 業種 平成14年 平成15年1〜10月
製造業 13 17 映画・演劇業
鉱業 通信業
建設業 65 78 教育・研究業
運輸交通業 10 保健・衛生業
貨物取扱業 接客娯楽業
農林業 清掃・と畜業
畜産・水産業 官公署
商業 その他
金融・広告業      

 (参考)監督指導で是正を指導した事業場数
 過去5年間において、労働基準監督機関が定期監督等を実施した際、労働安全衛生法第100条及び第120条に係る労働者死傷病報告義務違反(注:労働者死傷病報告義務違反の全てが「労災かくし」というわけではなく、現実的には労災を隠す意図を持たない単なる手続違反が多く、このうち何件が「労災かくし」に該当するかは不明。)を指摘した事業場数は、次のとおりである。
平成14年 837
平成13年 849
平成12年 705
平成11年 673
平成10年 669

 平成14年における業種別の違反状況は、次のとおりである。

業種 事業場数 割合 業種 事業場数 割合
製造業 359 42.9% 映画・演劇業 0.1%
鉱業 0.2% 通信業 0%
建設業 244 29.2% 教育・研究業 0.2%
運輸交通業 57 6.8% 保健・衛生業 14 1.7%
貨物取扱業 10 1.2% 接客娯楽業 20 2.4%
農林業 11 1.3% 清掃・と畜業 21 2.5%
畜産・水産業 0% 官公署 0%
商業 65 7.8% その他 27 3.2%
金融・広告業 0.5%      


 送検事例

<事例1>
 [被疑者]建設会社A(2次下請)、A社代表取締役B
元請建設会社の現場代理人C(共犯)
 [発覚の端緒] Bは被災労働者Dの治療について労働災害には適用されない健康保険をDに使用させていたが、退院から仕事に復帰するまでの約4か月もの間、一切の休業補償を行わず、生活に困窮したDからE労働基準監督署の労災補償担当部署に休業補償給付に関する相談が寄せられたことにより、「労災かくし」が発覚したもの。
 [概要] E署は、市発注の終末処理場の建設工事現場において、Dが右足かかとを骨折し、約6か月休業したにもかかわらず、BとCは共謀の上、労働者死傷病報告を遅滞なく同署に提出しなかったとしてA、B及びCを労働安全衛生法違反の疑いで地方検察庁に書類送検した。
 [動機] 労災事故の発生を知った発注者から元請建設会社が指名停止となること、労災保険制度上の保険料の還付を受けられなくなることをおそれたため。

<事例2>
 [被疑者]建設会社Aを経営する事業主B、社会保険労務士C(共犯)
 [発覚の端緒] D労働基準監督署が災害調査を進める中で、災害発生当時の現場の状況が労働者死傷病報告の内容と異なっていることを突き止めたもの。
 [概要] D署は、住宅新築工事現場において、Aの労働者が、作業床を設けず、労働安全衛生法に違反する状態での作業により、約2.1メートル墜落し、死亡したにもかかわらず、作業床を設けた適法な状態での作業において発生した労働災害であるという虚偽の労働者死傷病報告を同署に提出したとしてBを労働安全衛生法違反の疑いで地方検察庁に書類送検した。
 本事例は、捜査の中でBから労働者死傷病報告の作成、提出の依頼を受けた社会保険労務士Cが共謀していたことが判明したため、Cについても同法違反の共犯で書類送検したもの。
 [動機] 労働安全衛生法違反による刑事責任の追及をおそれたため。

<事例3>
 [被疑者]食料品製造会社A
A社の取締役B、経理部長C及び工場長D(共犯)
 [発覚の端緒] 被災労働者の一人から解雇予告手当に関する申告を受けたE労働基準監督署の労働基準監督官が、解雇予告手当を算定する際、労働者死傷病報告が提出されていない労災事故による休業期間があることをE署の労災補償担当部署に確認・把握したことにより、「労災かくし」が発覚したもの。
 [概要] E署は、Aについて、約8か月の間に、スライサーで卵焼きを切断中に右指を負傷するなどにより労働者合計3名が約2〜3週間休業したにもかかわらず、B、C及びDは共謀の上、3件の労働災害について労働者死傷病報告を同署に提出しなかったとしてA、B、C及びDを労働安全衛生法違反の疑いで地方検察庁に書類送検した。
 [動機] Aが安全管理に問題があるとのことで特別に安全指導の対象とする事業場として、2年連続、都道府県労働局長から指定を受けており、当該労災事故の発生により更に引き続き指定を受けることを避けようとしたため。


(別添)
【根拠条文】

労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)
(報告等)
100条 厚生労働大臣、都道府県労働局長又は労働基準監督署長は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、厚生労働省令で定めるところにより、事業者、労働者、機械等貸与者、建築物貸与者又はコンサルタントに対し、必要な事項を報告させ、又は出頭を命ずることができる。
 (第2項及び第3項 略)
120条 次の各号のいずれかに該当する者は、50万円以下の罰金に処する。
 (第1号から第4号まで 略)
 第100条第1項又は第3項の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又は出頭しなかつた者
122条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して、第116条、第117条、第119条又は第120条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、各本条の罰金刑を科する。

労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号)
(労働者死傷病報告)
97条 事業者は、労働者が労働災害その他就業中又は事業場内若しくはその附属建設物内における負傷、窒息又は急性中毒により死亡し、又は休業したときは、遅滞なく、様式第23号による報告書を所轄労働基準監督署長に提出しなければならない。
 前項の場合において、休業の日数が4日に満たないときは、事業者は、同項の規定にかかわらず、1月から3月まで、4月から6月まで、7月から9月まで及び10月から12月までの期間における当該事実について、様式第24号による報告書をそれぞれの期間における最後の月の翌月末日までに、所轄労働基準監督署長に提出しなければならない。

刑法(明治40年法律第40号)
(共同正犯)
60条 2人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。
(身分犯の共犯)
65条  犯人の身分によって構成すべき犯罪行為に加功したときは、身分のない者であっても、共犯とする。
 (第2項 略)


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