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年金制度改正に関する意見

平成15年9月12日
社会保障審議会年金部会

 本部会は、次の年金改革に向けての検討を行うため、平成14年1月に設置された。以来、26回にわたり、「女性のライフスタイルの変化等に対応した年金の在り方に関する検討会」での検討(平成13年12月報告)、雇用と年金に関する研究会報告「多様な働き方に対応できる中立的な年金制度を目指して」(平成15年3月)、社会保障審議会「今後の社会保障改革の方向性に関する意見」(平成15年6月)、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003」(平成15年6月閣議決定。以下「基本方針2003」)などを踏まえ、「公的年金制度に関する世論調査」(平成15年2月実施)、「年金改革に関する有識者調査」(平成15年3月実施)、関係方面での検討、意見を参考にしながら、年金制度の体系の在り方、年金制度における給付と負担の在り方、多様な働き方への対応、女性と年金の問題を軸に検討を重ねてきた。また、平成15年3月から9月にかけて全国8か所で開催された年金対話集会では一般の方々との意見交換も行ってきた。

 これまでの検討の結果を以下のとおり取りまとめたところであり、政府においては、これまでの審議の経過も十分に参酌しつつ、改正案の立案に当たられたい。


I.はじめに

 ○ 公的年金は、いまや、高齢期の生活の基本的な部分を支えるものとして国民生活に不可欠の存在となっている。
 高齢者世帯の所得のうち公的年金が占める割合は約7割に達しており、公的年金を高齢期の生活設計の中心と考えている人の割合も7割を超えている。
 また、公的年金は、現在年金を受けている高齢者世代はもとより、若い世代にとっても、親の高齢期の生活費についての心配や自分自身の高齢期の心配を取り払う役割を果たしており、ひいては個々人の自立や経済・社会の発展にもつながっている。

 ○ 公的年金制度については、先の平成12年改正において、少子高齢化の進行に対応するため、将来の給付水準を適正化し、最終的な保険料負担を現在のヨーロッパ諸国並みである年収の2割程度に抑制したところである。
 しかしながら、いくつかの課題も残された。凍結された厚生年金、国民年金の保険料の解除、安定的な財源を確保しての基礎年金の国庫負担割合の2分の1への引上げ、さらに、女性と年金の問題、広くは男女問わず個人の生き方、働き方の選択の多様化に現在の年金制度が十分に対応できていないという問題である。

 ○ さらに、平成14年の新人口推計によると、未婚、晩婚が更に進むことに加え、結婚した夫婦の子供の数が減少し、少子高齢化は一層進行することが予想されている。このため、現行の給付水準を維持した場合、厚生年金の最終保険料率は現行の13.58%から23.1%(基礎年金に対する国庫負担割合2分の1の場合。3分の1の場合は26.2%)にも上昇すると見込まれ、現在の制度のままでは将来の世代の負担が過重なものとなるおそれがある。また、雇用状況などを反映した国民年金の若年層の増加や所得の伸び悩み等により、国民年金の未納者は一層増加している。

 ○ これらの問題を解決し、高齢期の生活の基本的な部分を支えるものとしての年金制度を守り、将来にわたり持続可能な制度とする改革が急務である。

 ○ 本部会では、改革に向けての検討の中で、将来の年金制度のあるべき姿、制度体系の基本的見直しについて議論を積み重ねてきた。年金制度は、個人の一生に関わり、人々の人生設計に組み込まれているものであるがため、その急激な変更には慎重でなければならないが、社会経済の変動とともに、その時代に合った年金制度にしていくことも必要である。しかしながら、次の改正での制度体系の在り方の基本的な変更については、本部会においては、意見の一致を見るに至らなかった。今後とも議論の積み重ねが必要であるが、その答えが見出されるまで何の改革も行わないとすることはできない。次の改正で制度の持続可能性など以下に述べるような視点に立脚しつつ、将来の制度体系も展望しながら、改革に踏み出さなければならない。

 ○ また、年金制度は次世代とその経済活動によって支えられていくものであり、制度を持続可能なものとするためには、次世代育成支援施策の充実を図り年金制度を支える次の世代を育成する環境づくりを進めるとともに、経済の回復、活性化が不可欠であり、全力を挙げてその努力を続けていくべきである。


II.年金改革の基本的な考え方

1.年金改革の基本的な視点

 ○ 改革に当たっては、(1)社会経済と調和した持続可能な制度とする、(2)制度に対する信頼を確保する、(3)多様な働き方に対応し、より多くの者が能力を発揮できる社会につながる制度とする、(4)個人のライフコース(生涯にわたる生き方、働き方の選択。以下「ライフコース」)に対して中立的な制度とする、という視点を基本とすべきであり、また、(5)他の社会保障制度や税制等の諸制度との整合性なども念頭に置く必要がある。

 <国民皆年金の堅持・持続可能な制度の構築と制度に対する信頼の確保>
 ○ I.で述べたとおり、公的年金は国民生活や社会経済に不可欠な存在であるからこそ、将来にわたり国民皆年金を堅持し、少子高齢化が進む中にあっても、持続可能な制度として国民の信頼を確保し、将来の世代に健全な年金制度を残していかなければならない。

 ○ 公的年金制度は、現役世代の保険料負担で高齢世代の年金給付を支える世代間扶養の考え方を基本にしており、現役世代の理解、納得と合意なくして制度を維持することはできない。

 ○ 制度に対する信頼を確保していくためには、以下の点が特に重要である。

 公的年金制度は、現役時代の所得の喪失を補填することにより高齢期の所得保障を行うものであり、高齢期の生活の基本的な部分を支えるものとしての給付水準を確保すべきである。
 また、公的年金給付は、高齢者個々人の生活設計に組み込まれており、その水準の過度の調整や急激な変更を行うことは適切でない。
 さらに、高齢期の生活のニーズは多様であり、高齢期の所得保障のすべてを公的年金により賄うことは困難であることから、公的年金に、自助努力に基づく所得源泉を組み合わせて高齢期の生活をカバーするという考え方の下に、企業年金、確定拠出年金や個人年金の充実も図っていくべきである。

 制度に対する信頼を確保していくためには、将来の現役世代の負担が過重なものとならないように配慮しつつ、世代間・世代内の公平の観点から、給付と負担の在り方の見直しを行うべきである。
 また、人口、社会経済の変動に柔軟に対応でき、安定して運営されるような仕組みを目指した改革を行うべきである。

 国民年金は国民皆年金の基本であることから、国民年金の未納・未加入問題は、制度に対する信頼を損ね、社会連帯に基づく制度の根幹を揺るがしかねない重大な問題であり、制度面の整備を含めて徹底した対応を図るべきである。

 なお、給付と負担の在り方や国民年金の在り方については、税方式化を含む制度体系の抜本的な改革が必要との意見があった。また、後述の世代別の給付と負担の比率も参考にして、その差をできるだけ改善し、年金制度の安定を図るため、給付と負担の見直しを速やかに行うべきであるとの意見があった。

 高齢者世代にとってのみならず、若い世代にとっても、公的年金の役割は重要であり、他の仕組みでは代替できないものであるにもかかわらず、特に若い世代から年金制度への不安感、不信感が向けられているのも事実である。このような若い世代の抱く意識をよく分析し、対応していくことが必要であり、誤解や説明の不足から来るものについてはあらゆる方法により年金制度をわかりやすく説明し、誤解を解いていかなければならない。さらに、若い世代の公的年金制度に対する理解と信頼を高めるためには、数十年先の自分の高齢期において受給する年金を、少しでも実感のあるものとしていくため、どの程度保険料を負担したか、それが将来の年金給付にどう反映するかについて、分かりやすく情報を提供し、把握しやすいようにしていくことが必要である。

 <多様な働き方に対応し、より多くの者が能力を発揮できる社会につながる年金制度>
 ○ 少子高齢化の急速な進行の中で、我が国の経済社会を活力あるものにしていくためには、働く意欲を持つ者が多様な形で働き、能力を発揮できる社会を構築していくことが重要である。年金制度についても、女性や高齢者の就労を抑制することなく中立的な仕組みとなるよう見直し、次世代育成支援等の方策についてもできるだけ制度に組み込むとともに、次に述べるように、個人のライフコースに中立的な制度とする観点からも、厚生年金の適用の在り方や在職老齢年金制度の在り方を見直すべきである。

 <ライフコースの多様化への対応>
 ○ 人々は、就職、転職、起業、結婚、出産、子育て等の転機を通じて様々な生き方、働き方を選択するようになり、また、高齢期になっても引き続き就労を続けるなど、男女を問わず、人々の生き方、働き方は多様なものになっている。これに対し、現行の年金制度は、個々人の多様な生き方、働き方の選択に十分に対応できていない点もあり、人生の様々な選択に対して中立的な制度となるよう見直していくべきである。
 あわせて、雇用システム、次世代育成支援施策、税制等の関連施策との連携を図っていかなければならない。

 <社会保障制度や税制との関連等総合的な視点>
 ○ 給付と負担の水準などの制度設計に当たっては、医療、福祉、税制などの在り方との関連を含めて総合的な検討が必要である。
 また、将来の現役世代の負担を過重なものとしないようにして、国民負担率の上昇を極力抑制するという観点を念頭に置くことが必要である。
 なお、国民の生活の視点からは、国民負担率の上昇だけを抑制したとしても、それに伴い、医療や介護の自己負担や家族内の扶養などの個人の負担が重くなりかねないことにも留意が必要である。

2.公的年金制度の体系について

 ○ 公的年金制度の体系は、適用の仕方、給付設計、財源調達方法などによって相違があるが、これまでにも、昭和36年の国民年金の創設に至る時期、また昭和61年の基礎年金制度の創設に至る時期を中心に制度体系の基本的在り方が検討された。
 その結果として、現在の全国民共通の基礎年金の上に被用者の報酬比例年金を組み合わせる体系となり、いずれも社会保険方式による方式となっている。

 ○ 前述の通り、本部会においても、制度体系の基本的な見直しについて議論を行ってきたが、意見の一致を見るには至らなかった。以下、議論の概要について述べる。

 <公的年金制度体系の在り方>
 ○ 公的年金制度の体系については、今後の社会経済の変化等に柔軟に対応できる安定的な制度を目指す観点から、(1)現行の全国民共通の基礎年金に被用者については報酬比例年金を上乗せする体系を維持するか、被用者か否かを問わず報酬比例方式へ一本化し税財源による補足的給付を組み合わせる方式とするか、(2)基礎年金について、社会保険方式とするか税方式とするか、との論点について議論があった。

 <報酬比例年金への一本化>
 ○ 現行の公的年金制度体系の考え方は、高齢期の生活の基礎的部分を保障する基礎年金は全国民共通の仕組みとし、その上に、現役時代の生活の大部分を賃金によって支えている被用者グループについては、稼得の手段を失う退職後も退職前の生活水準を一定程度反映した生活を送ることができるようにすることである。
 これに対して、(1)被用者、自営業者という立場により制度が変わる現行体系では就業形態の多様化・流動化に対応することが困難であり、(2)また、現役時代の所得喪失を一定程度補填するという公的年金制度の役割を考えると公的年金制度は報酬比例年金とすべきであるとの意見があり、その観点からは、無・低年金者を対象に税財源による補足的な給付を導入しながら、自営業者や無業者も含め報酬比例方式へ一本化すべきであるとの意見があった。
 この方式については、(1)現状では被用者以外の所得把握が困難であること、(2)賃金が低い者や就労期間の短い者の給付水準が大きく低下するおそれがあること、(3)補足的給付の水準によっては相当な財源が必要となること、補足的給付の水準を抑制すれば低年金者の増加につながること、補足的給付について所得や資産による制限を付すとすれば、公正な所得・資産調査がコスト面や実務面から現実的に可能かなどの問題があり、十分に時間をかけて検討する必要があるとの意見があった。

 <基礎年金の税方式化>
 ○ また、基礎年金については、税方式とすべきとの意見があった。
 これは、(1)すべての高齢者の基礎的な生活保障を行う役割をより明確にするとともに、(2)未納・未加入問題が深刻になる中で、未納者や未加入者の分の負担が他の被保険者の負担となっていること、さらに、基礎年金について社会保険方式のままでは、国民皆年金制度の維持が困難になること、(3)税財源の税目によっては、現行の国民年金の定額保険料・定額給付の方式において生じる逆進性の問題が緩和される可能性があること、(4)第3号被保険者などの問題が生じないこと、(5)消費税を活用する場合、高齢者を含めた全国民が広く負担する仕組みとなることなどから、所得制限を伴わない形での税方式とすべきとの意見であった。
 これに対しては、(1)社会保険方式では保険料拠出に基づき所得・資産に関わらず給付が受けられる一方、税方式では保険料拠出がなくても居住要件と年齢要件だけで給付が受けられることになるため、自助・自律を基本とする我が国の経済社会の在り方と整合的でない、(2)拠出と給付の対応しない税を財源とする現金給付である以上、社会扶助制度であり、所得・資産調査に基づく給付制限や最低生活に必要な給付水準の抑制にもつながりかねず、所得保障の機能が大きく制限される、(3)給付と負担の関係が明確でないため、制度の健全性、持続可能性について、現行よりわかりにくい仕組みとなる、(4)給付費の増大に要する税財源の確保には困難があるのではないか、(5)租税徴収においても脱税、滞納等があり、税方式にしたとしても確実かつ公平な徴収が担保されるものではないなどの意見があった。

 ○ 以上のように、報酬比例年金プラス補足的給付の方式、基礎年金の税方式については、それぞれ利点を主張する意見があったものの、問題点の指摘も多く、またその導入に向けては様々な制約があり、少なくとも、現行制度に替わるものとして平成16年改正で実現を目指すべき選択肢となる状況には至っていない。
 公的年金の制度体系をどう選択していくかは、社会経済との調和、世代間、世代内、職業間、男女間等のバランスの観点や、実務面での実現可能性、現行制度からの移行に係る問題などについて総合的に検討を行うべきものであり、今後とも議論を進めていくべきである。
 この点については、検討の方向性とスケジュールを示して議論を続けていくべきであるとの意見があった。また、将来の制度体系における国庫負担の意義についても検討を続けていくべきとの意見があった。

 ○ しかしながら、前述のとおり、制度に対する不信感・不安感を払拭し、少子高齢化の進行や経済状況の変化の中にあっても年金制度を持続可能で安定的なものとしていくための改革は急務である。平成16年改正では、現行制度について、このような観点から可能な限りの見直しの努力を行うことが必要不可欠であり、それにより、将来世代の負担を過重なものとせず、必要な給付を確保していける措置を講じるべきである。
 このように基礎年金の将来の在り方について意見があった中でも、安定した財源を確保しての基礎年金の国庫負担割合の2分の1への引上げについては、平成16年改正における最大の課題であるとの認識で一致しており、実現を図るべきである。
 それとともに、厚生年金、国民年金の保険料の引上げ凍結の解除、女性と年金の問題などの解決も図るべきである。

 ○ 制度体系の基本について、現行体系を維持するか、他の方式としていくかについて意見の一致に至らなかったものの、本部会で検討された給付と負担の見直しの方法、具体的には保険料水準固定・給付水準自動調整の仕組みは、負担の上限を明示するもので、これまでの給付と負担の見直しの方式を大きく転換するものである。これにより、年金制度を支える力と給付のバランスがとれた安定した制度とすることができ、頻繁な改正が必要なくなる。
 また、年金課税や既裁定年金の水準の調整なども、少子高齢化が進む中で高齢世代もともに痛みを分かち合うという考え方に基づくものであり、これまであまり触れられて来なかった問題である。
 さらに、男女を問わずライフコースが多様になり、これに年金制度が対応できていない点についても、できるだけ将来の在り様を展望し、個人のライフコースに年金制度が円滑に対応していけるよう、重ねて議論を行ってきた。その中で、短時間労働者や離婚時の年金等について具体的な方向性も示したところである。
 今後これらについて議論を更に積み重ね、国民的合意の下に実現を図ることは、年金制度の大きな改革である。

 ○ なお、現行の基礎年金の仕組みについては、
 基礎年金制度を通じて、結果として未納者や未加入者の分の負担が他の被保険者の負担となっていることから、厚生年金保険料の1階分と2階分を分離して負担の構造を見直すべきであるとする意見があった。 また、さらに被用者グループの中において、基礎年金拠出金を制度間で応能負担化し、報酬額に応じた額とすべきとする意見があった。

 一方、基礎年金は全国民で負担すべきものであり、就労構造も多様化している中で、自営業者グループと被用者グループに分けて負担を論じることは適当ではないとの意見があったところである。

3.世代別の給付と負担の比率の違いについて

 ○ これまでの何回かの年金改正のたびに、現在の公的年金制度における世代別の給付と負担の比率が違うことをもって、世代間で不公平があるということが言われてきた。これに対し、厚生労働省から見直しの案に沿って世代別の給付と負担の考え方とその比率の提示がなされたところであり、その比率をみる上での留意事項及び本部会としての考え方を述べておきたい。

 ○ 事実の確認として、まず第1に、世代ごとに給付と負担の比率に違いがあることから、現在、先行世代の高齢者の方がより年金額が高いのではないかという見方があるようであるが、これは事実ではない。現在支給されている老齢厚生年金は、65歳から80歳までの年齢別にみても、いずれも男子の平均で約20万円程度である。
 第2に、後世代ほど負担総額に対する給付総額の比率の数値が小さくなるが、計算の際65歳時点の価値に給付総額と負担総額を換算するために用いる数値の大小によって、比率の数値は変化する。一般には、被保険者として負担してきた毎年の保険料を65歳時点で評価し直して、それらを合計して、負担総額を算出し、一方、給付については、支給開始年齢以降に受給する毎年の年金額を65歳時点まで割り戻して、それらを合計して、給付総額を算出する。毎年の保険料額、年金額を一定の率で、増加させ、あるいは割り引く数値(「割引率」)が大きければ、負担と給付の比率は小さく、小さければ比率は大きくなっていく。したがって、この比率を参考として検討を行うときは、割引率の大小により比率が変わることに留意する必要がある。

 ○ 世代別の給付と負担の比率の違いについては、戦後、段階保険料方式の下で、必要な年金給付の水準が逐次改善され、年金制度が成熟する中で、
(1) 都市化、核家族化等の進展とともに、子どもによる老親の扶養が公的年金によって代替されてきたこと、

(2) 高齢者の扶養の負担そのものが、少子高齢化によって、次第に高まってきており、公的年金制度がなければ子どもによる扶養負担が高じるところが、年金制度により代替され、その負担が上昇するという形で現れていること、
という背景を十分に踏まえるべきである。

 ○ このように、年金制度の中の給付と負担の比率の違いは、こうした戦後の我が国の人口構造や扶養構造の変化等に起因するところが大きく、公的年金以外の私的扶養の変化を度外視して、これまでの年金制度の中だけの比率の大小を議論することは適切でない。また、将来に向かっても、賦課方式を基本とする年金制度の下で少子高齢化が進めば、世代別の年金の給付と負担の比率は当然異なってくる。
 また、世代間の公平を論じるのであれば、扶養負担のみならず、教育や相続や社会資本の充実など家族や社会の営み全体で論じることが必要であり、先行世代から世界的にみても高い経済水準をはじめとする多くのものを引き継いでいることを考えるべきである。

 ○ しかしながら、これまでの歴史の結果としての世代間の違いとは別に、将来に向けて少子化が進行し、平均余命が延びる中にあっては、現役世代に一方的に負担を求めるだけでなく、高齢者も痛みを分かち合うことが必要であろう。社会保障全体の中で、次世代育成支援施策の充実などを図り、特定の時期に給付や負担が偏らないよう配慮し、若い世代の理解を得ていくことが重要である。年金制度における給付と負担の在り方を考えていく場合には、このことを十分念頭に置いていかなければならない。


III.次期制度改正における個別論点についての考え方

1.給付と負担の在り方

(1)給付と負担の水準

 <給付水準>
 ○ 年金制度は、高齢期の生活の基本的な部分を支えるものとしての年金を終身にわたって確実に保障することをその役割としている。年金の給付と負担の水準を考えるに当たっては、年金制度がこの役割を今後とも確実に果たしていけることを基本として考える必要がある。
 年金制度を持続可能な仕組みとしていくためには、年金を支える現役世代の保険料負担が過大にならないよう配慮しながら、給付水準(現役世代の平均的なボーナス込みの手取り賃金に対する年金額の割合)の見直しを行っていくことが必要である。その場合においても、年金制度がその役割を果たすことができるよう、給付は高齢期の生活の基本的な部分を支えるものとして一定の水準を確保することが必要である。
 一方、高齢期の生活の基本的部分を保障するため、将来にわたり現在の給付水準を維持すべきとの意見があった。
 また、裁定後の年金も含め、少なくとも過去3年間特例措置として停止している物価スライド分(1.7%分)を全て反映させた後の水準を前提に今後の水準を検討すべきとの意見があった。

 <保険料負担>
 ○ 「基本方針2003」においては、「保険料は引き上げざるを得ないが、将来の最終的な保険料については、国民負担率の上昇抑制と、将来の現役世代の過重な負担の回避という視点を重視し、決定する。保険料の引上げは早期に行う。」とされている。

 ○ 少子高齢化が進む中で、最終的な保険料水準をできるだけ抑制するためにも、保険料負担については適切に引き上げていく必要があり、年金財政が単年度で実質赤字となっている現状も踏まえると、現在の保険料引上げの凍結は速やかに解除すべきである。
 その場合の保険料引上げの具体的方法としては、経済状況への配慮という観点から、毎年小刻みに引き上げて1回ごとの引上げ幅を抑制することが適当であるとの意見がある一方、世代間の公平の観点や、最終保険料率を低くするためにも、保険料を早めに前倒しで引き上げるべきとの意見があった。
 なお、保険料負担については、企業活力の維持や経済活性化のため安易に引き上げるべきでなく、慎重に検討すべきであるとの意見があった。
 また、保険料の凍結解除は基礎年金の国庫負担割合の引上げと同時とすべきであるとの意見、また、前回の財政再計算では、その際保険料は一旦引き下げる等の試算が示されたことを踏まえて検討すべきとの意見があった。
 これに対し、このような保険料引上げの先送りは、後の世代の負担を高め、世代間の負担の格差を拡大するとの意見があった。

 ○ 厚生年金の保険料負担の上限については、前回改正で設定された最終保険料の水準や今回の有識者調査の結果から、最終保険料水準を年収の20%程度とすることが適当との意見、最終保険料率20%程度であればヨーロッパ諸国と比較しても妥当な水準であるとの意見があった。
 一方、最終保険料率20%は高すぎるとする次のような意見があった。
 国際競争の観点からは保険料率だけでなく退職金、法定外福利費なども含めた総労務コストで検討すべきであるとの意見、保険料率については現行の13.58%を極力上回らない水準で長期間固定すべきであるとの意見、また、負担の上限を考える場合には、給付水準の見直し、基礎年金の税方式への移行等についても道筋を明確にすべきであるとの意見があった。
 これに対し、保険料率を現行水準で固定した場合は給付水準を大きく下げる必要が生じるとの指摘があった。
 また、基礎年金の税方式化などにより15%程度の保険料率で現行の給付水準の維持は可能との意見もあった。これに対し、税方式化して保険料は抑制できても租税負担は上昇することを考慮すべきであるとの意見があった。

(2)給付と負担の見直し方法

 <給付と負担の見直し方法>
 ○ 年金制度の将来にわたる財政の均衡をみる場合、給付と負担の関係は、想定した人口構造や賃金をはじめとする経済状況などの社会経済情勢に変動が生じた場合、その変動に応じて変化する。
 このような社会経済情勢の変動に対して、これまでは5年ごとの財政再計算の際に、人口推計や将来の経済の見通し等の変化を踏まえて、給付内容や将来の保険料水準を見直してきたが、その結果として、若い世代にとっては将来の給付水準も保険料水準も不透明なものとなり、年金制度に対する不安につながっているとの意見が強まっている。

 ○ 最終的な保険料水準に向けて、保険料は適切に引き上げていかざるを得ないが、年金制度をめぐるこのような現状を踏まえれば、世代間の負担の公平の観点や現役世代の負担についての不安を解消するためには、最終的な保険料水準を法律上も明示し、負担の限度を明確に示すべきである。
 このように最終的な保険料水準を法定し、その上で、少子化等の社会経済情勢の変動の状況、年金を支える力である現役世代の保険料負担能力の動向に応じて、給付水準が自動的に調整される仕組み、すなわち、保険料水準固定・給付水準自動調整の仕組み(以下「保険料水準固定方式」)を導入することが適当である。保険料水準固定方式は、経済の活性化等に努めたり、少子化の流れが改善されれば、給付は高く維持できるという国民全体の社会経済の力を向上させる意欲につながる仕組みを制度自体に組み込むものであり、望ましいものである。
 一方、保険料水準固定方式で負担は明示されても、年金水準が裁定時まで分からない、さらに、今の少子化の流れが変わらなければ給付水準は下がるという点で、若い世代の不信感は払拭できず、高まるおそれもあり、保険料水準固定方式は導入すべきではないとの意見があった。

 <マクロ経済スライド>
 ○ 保険料水準固定方式における給付水準の自動調整の具体的な方法については、高齢期の生活の基本的な部分を支えるものとしての公的年金は個々人の高齢期の生活設計に組み込まれており、その役割を踏まえれば、給付水準が急激に調整される方法は適当でない。現役世代全体の保険料負担能力とバランスのとれた給付水準とするという観点や、国民生活に急激な影響を及ぼさないよう時間をかけて緩やかに調整していくという観点から、年金改定率(スライド率)の調整を基本とすることが適当である。
 賦課方式を基本とした社会保険方式を採る年金制度は、現役世代を中心として社会全体が生み出す所得や賃金の一部を保険料負担として求め、これを年金給付に充てる仕組みである。従来、厚生年金は、年金を支える被保険者の一人当たり賃金の伸び率に応じて給付水準が改定されてきたが、給付水準の自動調整の具体的な方法としては、賃金や労働力人口といった社会全体の保険料負担能力(支える力)の伸びに見合うよう年金改定率(スライド率)を調整する方法(マクロ経済スライド)とすることが適当である。
 マクロ経済スライドは、制度改正後速やかに適用を始め、最終的な保険料水準による負担の範囲内で年金財政が安定する見通しが立つまでの間(スライド特例期間)適用し、その後は現行の年金改定方法に復帰することとなる。
 一方、マクロ経済スライドは、少子化の進行で給付水準が低下し、高齢期の生活の基本的な部分を支えるものとしての年金の役割が損なわれるおそれがあり、低額の年金や障害年金なども一律に調整するものであり、導入すべきでなく、基礎年金への税方式の導入を前提として、基礎年金と厚生年金をあわせた給付水準は、可処分所得スライドを復活し、現状の水準を実質的に維持すべきであるとの意見があった。

 <実績準拠法と将来見通し平均化法>
 ○ マクロ経済スライドによる調整の具体的方法としては、一人当たり賃金の伸び率から、労働力人口等の減少率(スライド調整率)を減じて行う方法(例:新規裁定者の年金改定率=1人当たり賃金の伸び率−労働力人口の減少率)が考えられる。

 ○ その際、少子化による労働力人口(被保険者数)の減少等が社会全体の賃金総額等の実績に現に反映され始めたときに、それに応じて自動的に給付水準を調整する方法(実績準拠法)が、将来予測の変動に左右されない点でより望ましい(例えば労働力人口の見通しによれば、2025年までは平均で毎年0.3%程度、2025年から2050年までは平均で毎年1.18%程度の調整率と見込まれる)。
 その場合にも、給付調整に時間をかけすぎると、より将来の世代に給付削減のしわ寄せが生じることから、実績を踏まえながらも、それに平均余命の伸び等を加味(例えば将来推計人口によれば、2000年から2025年の65歳の平均余命の伸び率の平均値である0.36%を加えてスライド率を調整)したできるだけ早期の調整方法とするよう検討すべきである。

 ○ また、実績ではなく少子化による労働力人口(被保険者数)の見通し等、将来に向けての変動の見通しを踏まえて、その長期間の見通しの平均をあらかじめ織り込んで自動的に給付水準を調整する方法(将来見通し平均化法。例えば労働力人口の見通しにより2050年までの平均を織り込んだ場合には、毎年0.65%程度の調整率と見込まれる。)により、給付水準の適正化を前倒しすべきであるとの意見があった。

 <年金改定率の下限、裁定後の年金の給付水準の調整>
 ○ マクロ経済スライドによる調整は、(1)一人当たり賃金や物価が上昇する場合に行うものとし、(2)一人当たり賃金や物価が下落する場合には、通常の賃金再評価、物価スライドによる年金改定を行うものとすることが考えられる。
 マクロ経済スライドによる調整を行う場合、年金改定率の下限について、名目年金額下限型と物価下限型の二つの方法が考えられる。
 また、下限を設けず調整すべきであるとの意見もあった。

(名目年金額下限型)
 ・ 一人当たり賃金や物価が上昇しているが、その上昇率よりスライド調整率が大きく、そのままスライド調整を行うと前年度の名目年金額を下回る場合(例えば、物価上昇率が0.2%で、スライド調整率が0.3%の場合)、前年度の名目年金額を維持する方法(マイナス0.1%の年金改定とせず、年金改定率をゼロにとどめる。)

(物価下限型)
 ・ 一人当たり賃金や物価が上昇しているが、通常の賃金再評価、物価スライドによる年金改定率からスライド調整率を減じると、物価スライドによる年金改定率を下回ることとなる場合(例えば、名目賃金上昇率が1.0%、物価上昇率が0.8%で、スライド調整率が0.3%の場合)、物価上昇率により改定する方法(新規裁定者の年金については0.7%の年金改定とせず、また、裁定後の年金については0.5%の年金改定とせず、いずれも年金改定率を0.8%とする。)

 裁定後の年金は物価の変動率で改定されているが、物価下限型では、裁定後の年金の改定率には全く影響がないこととなり、保険料水準固定方式による給付水準調整は裁定後の年金には及ばないこととなる。世代間の公平の観点からは、全ての世代が痛みを分かち合うことが望ましいことから、裁定後の年金も給付水準の調整対象とすべきであり、物価下限型よりも名目年金額下限型の方が望ましい。
 ただし、上記のとおり、名目年金額下限型であれば、このマクロ経済スライドによる調整で、前年度の名目年金額を下回ることはない。
 なお、世代間の負担と給付の不公平を解消するためには、年金改定率には下限を設けず、名目年金額を減らすことも検討すべきであるとの意見があった。

 <基礎年金の給付水準の調整>
 ○ 基礎年金の給付水準についても、第1号被保険者の定額保険料を負担可能な範囲内に収めるため、調整することはやむを得ない。なお、基礎年金は高齢期の基礎的生活の保障のためのものであり、その給付水準は調整すべきでないとの意見があった。

 <給付水準の下限>
 ○ 保険料水準固定方式では、少子化等の社会経済情勢に応じて、給付水準が幅をもって変動することとなる。この場合においても、年金が高齢期の生活の基本的な部分を支えるものとしてふさわしいものであるよう、給付水準の調整には一定の限度(給付水準の下限)を設けるべきである。
 なお、持続可能な制度としていくために、下限を設けず調整すべきであるという意見があった。また、マクロ経済スライド導入後において、それにより、給付水準が大きく下がり過ぎるような場合には、制度の総合的見直しが必要との意見があった。

(3)スライド制(賃金再評価、物価スライド)の在り方

 <裁定後の年金の物価スライド>
 ○ 裁定後の年金の物価スライドについては、賃金下落率が物価下落率を上回るような状況では、支える側の現役世代の賃金に比べ年金水準が相対的に大きくなってしまうため、それを踏まえた調整をすべきであるとの意見、さらに具体的には、賃金変動率と物価変動率のどちらか低い方に合わせてスライドさせ、賃金・物価の上昇局面についても同様に考えるべきとの意見があった。
 なお、賃金変動率と物価変動率のどちらか低い方に合わせてスライドさせた場合、年金水準は現役世代の賃金水準との差がつく一方になることから、人口減少分の調整は別としても、現役世代とのバランスを踏まえて給付水準を考えるべきであるとの意見や、裁定後の年金にも可処分所得スライドを復活させ、現役世代の手取り賃金の伸びを反映した調整を行うべきであるとの意見があった。

(4)高所得者に対する給付の在り方・年金課税

 <高額所得者給付制限>
 ○ 一定以上の高額所得者については給付制限をすべきとの意見があった。これに対しては、同額の保険料を同期間拠出したにもかかわらず、所得・資産によって、給付を制限するのは、拠出に応じた給付の関係という社会保険方式の基本の考え方が損なわれ、保険料拠出意欲を損なうものであり、社会保険制度として問題がある。また、実際にも、現状では、公正な所得調査が現実的に可能かとの問題があると考えられ、慎重な検討が必要である。

 <年金課税>
 ○ 現行の公的年金等控除の仕組みは、高齢者を一様に税制上で優遇しており、また、給与所得のある年金受給者にとっては給与所得控除と併せて適用されることになる。このため、世代間・世代内の公平を図る、高齢者も負担を分かち合うという観点から、公的年金等控除を見直し、縮小すべきであり、その場合、年金だけでなく収入全体に応じた適切な税負担の在り方を検討していくことが適当である。なお、公的年金等控除の水準を給与所得控除の水準程度に下げるべきとの意見があった。
 また、公的年金等控除の見直しに当たっては、高齢者世代は若い世代よりも所得格差が大きいこと、年金だけに頼っている高齢者世帯への配慮が必要である。
 このほか、現在非課税の取扱いとなっている遺族年金・障害年金についても、老齢年金と同様、見直しが必要との意見があった。

 ○ 公的年金等控除の見直しによる税収については、基礎年金国庫負担割合の2分の1への引上げの財源の一部とすべきである。なお、あわせて、次世代育成支援にも充てるべきとの意見があった。

2.積立金の役割と経済前提等

 <積立金>
 ○ 積立金は、少子高齢化の急速な進行の中で、先行世代の保険料の一部を積み立て、その運用益により、将来の高齢化のピークにおいても保険料水準を抑えるとともに、その後も最終保険料率を賦課保険料率よりも低く一定に維持する役割を果たすものであり、将来世代の負担を抑え、世代間の公平にも寄与する。
 巨額の積立金を保有することについては、早期に年金積立金を取り崩して、当面の保険料の抑制に充てるべきであるという意見、積立金の規模については、長期的には金融市場への影響の大きさも考慮して検討すべきであるとの意見があるが、高齢化のピークやその後における保険料の水準を考える必要があり、将来の世代の保険料負担を考えると、一定程度の積立金は必要である。

 ○ その規模について「基本方針2003」では、「その水準は将来に向けて、年金の支払に支障のない程度まで抑制する。」とされており、長期の将来に向けては、人口や経済の見通しも踏まえながら、将来の世代の負担を一定にとどめつつ、必要な給付を確保していける積立金の規模について十分な検討が必要である。

 ○ この場合において、積立金の機能を踏まえた給付と負担の在り方を検討するに当たっては、現行のように将来のすべての期間にわたり恒久的に均衡を図る方法と、アメリカのように一定の長期の期間で均衡を図りつつ定期的に見直しを行っていく方法が考えられる。

 <積立金の運用>
 ○ 年金積立金の運用については、現在、厚生労働大臣の定める「運用の基本方針」において示された基本ポートフォリオに基づき、国内債券を中心としつつ、国内外の株式を一定程度組み入れた分散投資を行っている。
 今後、平成16年改正における運用利回りの変更に伴い、基本ポートフォリオを見直すに当たっては、本年3月の年金資金運用分科会の意見(株式を含む分散投資の是非に関する意見)を踏まえて行うことが適当である。
 なお、年金積立金の運用については、安全性を最優先させる立場から市場リスクの高い株式投資は行うべきではなく、また、市場運用を行う場合は、運用結果について、財政再計算期に検証を行うべきであるとの意見があった。

 <経済前提等>
 ○ 財政再計算に用いる経済前提については、過去の実績を基礎としつつ、長期的な将来の潜在成長率の見通し等と整合のとれたマクロ経済的推計手法により、年金資金運用分科会で推計された賃金・運用利回りについての見込み値を基本として考えることが適当である。
 また、人口推計については、国立社会保障・人口問題研究所の中位推計によることとし、あわせて、人口の厳しい見通しによる推計や、改善した場合等の推計も示していくことが適当である。

3.国庫負担の2分の1への引上げと安定的財源の確保

 ○ 平成12年改正法附則に規定された基礎年金に対する国庫負担割合の2分の1への引上げについては、将来の保険料水準が過大なものにならないようにし、給付も適切な水準を保つことができるようにするため不可欠なものであることから、安定的な財源を確保し、今回改正で実現すべきである。また、これは国会が国民に約束した事項であり、年金に対する国民の信頼を確保していくためにも実現すべきものである。
 その場合、2分の1への引上げに当たっては、将来の全額税方式の導入を念頭におくべきであるとする意見や、税財源という形の負担で賄われる国庫負担の位置付けや年金水準の関係、あるべき年金の制度設計の姿を踏まえて検討すべきであるとの意見もあった。

 ○ 国庫負担の引上げのために必要な財源については、安定財源として消費税の税率引上げによらざるを得ないのではないかとの意見、年金課税や相続税等の見直しによる税収を併せて活用すべきとの意見があった。また、歳出の徹底的な見直しにより対応すべきとの意見があった。なお、消費税は逆進性が強く不適当との意見があった。

4.多様な働き方への対応・次世代育成支援

 ○ 今後、急速な少子高齢化の進行が見込まれる中で、我が国の経済活力を維持していくためには、女性や高齢者をはじめ働く意欲を持つ者が多様な形で働き、その能力を発揮できる社会を構築していくことが重要な課題である。
 就労形態を含めて個人の生き方が多様化する中で、短時間労働者等が急速に増加しており、これに対応して、社会保障制度や雇用を含む社会・経済制度全体を改革していくことが強く求められている。

 ○ 年金制度についても、短時間労働者等の急速な増加や、雇用の流動化などに対応して、被用者としての年金保障の充実を図るとともに、個人の働き方の選択や企業の雇用形態の選択に対してより中立的な制度とすることにより、少子高齢社会においても給付と負担の均衡のとれた安定的な制度運営を行っていくことが重要である。

 ○ また、急速な少子化の進行に対して総合的な次世代育成支援施策が講じられており、「次世代育成支援に関する当面の取組方針」(平成15年3月少子化対策推進関係閣僚会議決定)では、年金制度における支援策の検討も求められている。
 本来、世代間扶養の仕組みを基本に成り立っている公的年金制度において、少子化の進行は極めて重大な問題であり、年金制度においても次世代育成支援に向けた対応をどのように考えていくかは大きな課題である。

(1)短時間労働者に対する厚生年金の適用

 ○ 就労形態の多様化に対応し、年金制度についても、個人の働き方や雇用形態の選択に中立的な仕組みとし、個人が十分能力を発揮していくことができ、被用者としての年金保障を充実させる観点から、短時間労働者に対して厚生年金の適用拡大を図っていくことが求められている。また、「基本方針2003」等においても、その必要性は繰り返し指摘されている。

 ○ このような働き方の多様化への対応、短時間労働者自身の年金保障の充実の観点のほか、就業調整問題の解決、事業主間の保険料負担の不均衡是正、雇用労働者としての均衡処遇等の観点からも、基本的には短時間労働者への厚生年金の適用拡大を行うべきである。
 その際には、適用拡大による雇用への影響、短時間労働者が多く就労する産業・企業への影響、事務負担や保険料負担の増加等に十分配慮して慎重に検討することが必要である。また、適用拡大に伴う労働者及び事業主の保険料負担の増大については、経過措置等一定の配慮を行うべきである。

 ○ また、5人未満の個人事業所及び任意適用業種への厚生年金の適用及びその在り方や方法についてまず検討すべきであるとの意見があった。

 ○ 所定労働時間を基本的な基準として適用してきた厚生年金の考え方や、年収要件をなくして20時間という週の所定労働時間だけでみることにした雇用保険の適用基準を考慮すると、今回の適用拡大に当たっては、週の所定労働時間が一定以上の者を適用することが適当である。
 具体的なこの基準については、週20時間以上という意見があった。
 この点については、所定労働時間が20時間より短い者であっても、相当の賃金を得ている場合もあり、週の所定労働時間の要件に収入要件(例えば年間賃金65万円以上)を併用すべきであるとの意見があった。

 ○ 短時間労働者への厚生年金の適用拡大を行った場合、その給付と負担の在り方については、短時間労働者は比較的低い賃金で就労している者が多いことから、負担については、現行の厚生年金の応能負担の考え方から、何らかの形で標準報酬の下限(月額98,000円)を引き下げて適用することが適当である。
 この場合、適用を受ける短時間労働者の保険料が、第1号被保険者の保険料(月額13,300円)を下回ることとなるが、両者の均衡を考えるべきであるとの意見がある一方、厚生年金は応能負担であり、国民年金の定額負担の仕組みと同等には考えられないとの意見があった。また、年金財政全体への影響も十分検討すべきであるとの意見があった。
 年金給付については、負担を一般の被保険者よりも軽減したものとするのであれば、給付についても、被扶養配偶者の給付を行わないなど、負担に応じた一定の調整を行うべきである。

(2)高齢者の就労促進・支給開始年齢

 ○ 現在の60歳台前半又は60歳台後半の老齢厚生年金における、在職して被保険者である間の支給停止の仕組み(いわゆる「在職老齢年金制度」)は、高齢者の生活水準や保険料を負担している現役世代とのバランスを考慮して、在職中は、年金を支給しつつも、賃金や年金の額に応じてその一部あるいは全部を支給停止する仕組みである。

 ○ この仕組みは、年金受給権を有する者の就労に抑制的に機能し、また、就労する場合にも低賃金の就労を促進することとなり、高齢者の就労促進を妨げている側面が指摘されており、高齢者の就労を阻害しない、働くことに中立的な制度とするため、在職老齢年金の在り方を見直すことが求められている。

 ○ 今後、60歳台前半の老齢厚生年金の定額部分の支給開始年齢が引き上げられる中で、報酬比例部分のみの比較的低い額の年金を受給する者が多くなる。また、短時間労働者に厚生年金の適用拡大を行った場合、比較的低い賃金の被保険者で在職老齢年金制度の適用を受ける者が多くなる。これらを考慮すると、働いて被保険者となった場合、賃金や年金の額にかかわらず一律に年金の2割を支給停止する現行の仕組みは、廃止することが適当である。
 なお、現行制度において、年金と賃金の合計が28万円を超える場合に、賃金が2増えれば年金を1支給停止するという調整率の緩和や、この調整開始点を引き上げることについては、高所得の者のみが有利となり、望ましくない。

 ○ 高齢者の本格的な就労を促進するためには、60歳台前半の老齢厚生年金の65歳以後への繰下げ受給の仕組みを取り入れることが考えられるとの意見があった。
 しかし、これについては、60歳台前半において、年金なしでも生活できる高賃金の者を優遇することになること、繰下げを選択した者についても事業主は繰下げがないものとして賃金額を決定し、賃金抑制効果は現行制度と変わらないおそれがあること等の問題があり、慎重な検討が必要である。

 <支給開始年齢>
 ○ 支給開始年齢について更なる見直しを検討すべきであるとの指摘もあるが、支給開始年齢は、前々回及び前回の改正により、65歳に向けて引上げ途上にある。雇用情勢も極めて厳しい中で、65歳の支給開始年齢を更に引き上げることは、国民の年金制度に対する不信・不安を高めることになりかねない。支給開始年齢の在り方は、雇用と年金の連携を考慮しつつ検討していくべきものであり、当面見直しは行うべきではない。

(3)派遣労働者・失業者

 ○ 厚生年金は適用事業所と使用関係を有する労働者に適用され、登録型の派遣労働者の待機期間や失業期間中の者については、原則として国民年金の第1号被保険者又は第3号被保険者となるが、そのような期間に係る所得保障が不十分となるのではないかとの指摘がある。

 ○ このような指摘に対応するものとして、登録型の派遣労働者の待機期間や失業中の者に対し、厚生年金の任意継続加入制度を設けるべきであるとの意見があった。これについては、求職中の失業者や非労働力化する者との区別が難しいこと、待機期間中の者や失業者にも国民年金が適用されることを考えると、慎重に検討すべきである。
 なお、派遣労働者が待機期間のたびに国民年金の種別変更を行わなければならないという事務手続について、簡素化を検討すべきであるとの意見があった。

(4)次世代育成支援

 ○ 世代間扶養を基本とする年金制度は、少子化の影響を大きく受けるものであり、制度を持続可能なものとして安定的に維持していくためには、次世代育成支援は本質的に重要な課題である。このため、年金制度においても次世代育成支援施策に取り組んでいくべきであるが、その場合、まず、出産・育児のために年金制度において不利になっている状況を解決することを基本とすべきである。

 ○ 次世代育成支援施策として年金制度において考えられる具体的な方策としては、現行の育児休業中の保険料免除期間の延長、勤務時間の短縮等の措置を受けながら就業を継続する者の年金保障が不利にならないよう育児期間前の標準報酬で保険料納付が行われたものとして扱うなどの配慮がある。
 さらに、出産等に伴い離職した後再就職した場合の何らかの配慮、育児期間中の第1号被保険者の保険料負担への配慮措置なども必要との意見があった。

 ○ 一方、公的年金制度の財源を制度本来の趣旨と異なる目的に流用すべきではないとの慎重な意見もある。

 ○ 次世代育成支援施策の一環として、年金資金を活用した教育資金貸付制度を創設するという提案については、様々な意見があった。若い世代が年金制度のメリットを受けられるよう貸付制度を創設すべきである、少子化の一因となっている教育費負担を軽減する等の観点から貸付制度の意義がある、という意見がある一方で、既に他の貸付制度が存在しており年金資金を本来の目的である年金給付以外の目的に流用する必要はない、年金資金の損失リスクを招きかねないことや特殊法人の整理合理化の方向性に逆行すること等から新たな貸付制度を創設すべきでない、という意見があった。

5.女性と年金

 ○ 女性の社会進出、家族や就業の形態の多様化等が進み、年金制度をこうした男女を通じたライフコースの多様化に対応できるものとしていくことが求められてきている。
 このため、「女性のライフスタイルの変化等に対応した年金の在り方に関する検討会」において、「女性自身の貢献がみのる年金制度」を目指して、個人の多様な選択に対して中立的な制度を構築するとともに、女性に対する年金保障の充実を図るという観点から、第3号被保険者制度や遺族年金、離婚時の年金分割等について、年金制度の設計上検討していくべき具体的な課題について、その考え方や論点が整理された。

(1)検討を行う際の共通の視点

 ○ 第3号被保険者制度の見直しをはじめ、遺族年金の在り方や離婚時の年金分割等を検討していく場合に見られる意見の違いの基本には、基本的に男女の雇用機会や賃金の格差についての現状や将来の見方についての次のような考え方の違いがある。

(1) 現実に約1,100万人を超える第3号被保険者が存在し、現状では男女間で雇用機会や賃金にも格差がある中で、社会経済の実態を踏まえて、制度の変更は慎重に考えるべきであるとする考え方。

(2) 雇用機会や賃金の男女格差は縮小してきている状況を踏まえて、可能な見直しは速やかに行うとともに、更に今後の状況を踏まえつつ、個人単位化に向けて段階的に見直しを進めていくべきであるとする考え方。

(3) 現行制度が個人の多様な生き方、働き方の選択や就労に抑制的に働いている面があることを踏まえて、見直しはできるだけ速やかに行い、それによって雇用機会や賃金の男女格差を是正していこうとする考え方。

 ○ さらに、女性と年金の問題は、個人単位と世帯単位、応能負担と応益負担、公平性の確保といった社会保障制度としての年金制度の基本に関わるものであり、現状を踏まえるとともに、将来の展望をもった改革が行われることが適当である。

 ○ いずれにしても、第3号被保険者制度や遺族年金の見直し、離婚時の年金分割等についての考え方は、男女の雇用機会や賃金の格差の現状と将来をどう考えるか、年金制度の基本的な在り方をどう考えるか等によって大きく変わってくるものである。
 個人の生き方、働き方が多様化している中で、基本的には年金制度も、社会保障審議会意見や「基本方針2003」に示されたように、生き方、働き方に中立的であることが求められており、男女が格差なく働ける社会が現実のものとなることを前提に、できるだけ一人一人が負担能力に応じて保険料を納め、その拠出に応じた給付を受ける仕組みとなることが望ましい。
 第3号被保険者制度や遺族年金の見直し、離婚時の年金分割等について検討を進めるに当たっては、このような将来の展望の下に、ライフコースを通じ、相互に整合性のとれた見直しの観点に立って議論を進めるべきである。

(2)ライフコースの多様化と世帯モデル

 ○ 女性に限らず男女を通じて生き方、働き方の多様化が進展している中で、個人の多様な生き方、働き方の選択に中立的な年金制度を構築することにより、働く意欲を持つ者が多様な形で働き、国民が一層の能力を発揮していけることが重要である。

 ○ 現行の年金制度の被用者に対する給付設計は、40年間平均的な賃金で働いた夫及び全期間専業主婦だった妻からなる夫婦世帯を標準に、夫の厚生年金と夫婦2人の基礎年金を含めた世帯全体の年金額が、平均的な現役男子労働者の手取り年収の6割相当の水準となるように設計されている。
 この点については、男女を通じて生き方、働き方が多様化し、多くの女性が就労期間を有するようになっている実態も踏まえ、被用者世帯における給付水準を所得代替率で示す場合、片働きだけでなく、共働きや単身を含めた複数の世帯類型を併せてみていくことが妥当である。

(3)第3号被保険者制度

 ○ 第3号被保険者制度は、第2号被保険者に扶養される配偶者(主に妻)の年金権の確立という観点から昭和60年改正において導入されたものである。これにより、1階部分の基礎年金の給付については個人単位の給付とされたが、2階部分の厚生年金の給付は従来どおり第2号被保険者(主に夫)名義のままとなっている。
 その後、女性の社会進出や世帯類型の多様化などを受け、片働き世帯と共働き世帯・単身世帯との間の給付と負担の不公平の問題が指摘されることとなった。

 ○ 現行制度においては、片働き世帯と共働き世帯について、夫婦の標準報酬の合計額が同じであれば夫婦2人でみた保険料負担も年金給付も同額であり、世帯単位でみれば、給付と負担の公平性は保たれている。しかしながら、第3号被保険者が、直接の保険料負担はなくても基礎年金給付を受けられることについて、個人単位でみて給付と負担の公平を図っていくという観点から見直すべきであるとする考え方がある。あるいは、世帯単位でみた場合の給付と負担の公平を維持しつつ、個人単位化を進めるべきであるという考え方もある。

 ○ 本部会の議論では、前述の(1)の観点に立つ場合であっても、少なくとも就業形態の多様化等の状況を踏まえ、基本的には短時間労働者への厚生年金の適用拡大等により、第3号被保険者を縮小していく方向性については一致した。
 ただし、現実の第3号被保険者の短時間労働者としての就労状況からみて、現時点での縮小効果は小さいとの意見があった。

 <年金分割案>
 ・ さらに、前述の(2)の観点に立ち、現行制度における世帯単位での給付と負担の均衡を踏まえながらも、できるだけ個人単位での給付と負担の関係に向けて整理していくという考え方から、「年金分割案」(第2号被保険者が納付した保険料について、給付算定上夫婦が共同して負担したものとみなすこととして、納付記録を分割しておき、この記録に基づき夫婦それぞれに基礎年金と厚生年金の給付を行うこととするもの)も、女性の貢献が目に見える形になり、現段階における一つの現実的な案であるという意見があった。

 ・ この場合、第3号被保険者であった者が就労すれば、分割された納付記録に自らの実際の就労による納付記録が継続され、年金保障は充実していくこととなる。
 この第3号被保険者期間についての年金分割案は、男女が格差なく働ける社会が現実のものとなり、分割によらなくても、第2号被保険者として自らの就労により負担し給付を受けられることが一般的となるまでの過渡的なものとして位置付けられるべきであるという意見があった。

 ・ なお、年金分割案については、将来受給権として発生する年金権は一種の財産権であり、納付記録を分割される側への十分な情報提供と同意を得るための仕組みが必要との意見があった。
 一方で、分割を認めることとした場合でも、実際には負担することなく基礎年金が支給される点は変わりがない、離婚しない大多数の夫婦にとって、年金を分割する意味はあまりないとの意見があった。
 また、第3号被保険者に限定した年金分割だけでは理解が得にくいのではないか、共働き世帯等についても分割を検討していくべきではないかとの意見があった。一方で、婚姻継続中の分割については、その必要性や夫婦間の財産関係についての他の社会制度との整理について問題が多いとの意見があった。

 <負担調整案>
 ・ また、前述の(2)の観点に立ちながらもより公平性に配慮した場合、基礎年金という受益に着目した一定の負担を求める「負担調整案」が考えられる。この場合、現実に第3号被保険者も保険料を負担して給付を得るものであり、共働き世帯や単身世帯との不公平感を是正する上で現実的という意見があった。
 一方で負担調整案については、応能負担という厚生年金の原則を変更するのは不適当である、また、世帯の合計賃金が同じでも、片働き世帯にだけ特別な負担を求めると共働き世帯よりも保険料が高くなるので公平ではないという意見、事業主の負担や保険料徴収事務の問題があるとの意見があった。

 <給付調整案>
 ・ 同様に、(2)の観点に立ちながらもより公平性に配慮した場合において、受益に応じた負担が現実に困難であれば、基礎年金の給付をある程度減額する「給付調整案」が考えられる。
 給付調整案については、第1号被保険者の負担との公平性からみて適切であるとの意見がある一方で、全国民共通のものとして高齢期の基礎的費用を賄う基礎年金の趣旨に反するという意見があった。

 ○ 本部会においては、見直し案のそれぞれについて各委員から様々な観点から多様な意見が出される中、第3号被保険者制度の見直しについて、将来を展望し、ライフコースの多様化に対応できる方向で見直しに取り組むべきであるという意見が多かった。

 ○ その見直しに当たっては、男女を問わずライフコースの中で育児、介護その他の事由から被扶養配偶者となる時期は誰にも生じうるものであり、働いて第2号被保険者となっている者や第1号被保険者と、第3号被保険者期間にある者とを対立するものであるかのようにとらえることは適当ではない。生き方、働き方の個々人の多様な選択と移行に年金制度も円滑に対応していけることを基本に見直しを進めるべきである。

 ○ なお、第3号被保険者制度の在り方は、基礎年金制度をどのように見直していくかという問題と関係しており、税方式化する場合は問題はなくなる、報酬比例方式化する場合には無・低年金を防ぐ年金分割案が意味を持つ、という意見があった。

(4)遺族年金

 ○ 遺族年金についても、女性の就労の増加、生き方、働き方の多様化に対応し、年金制度における公平性を確保するという観点から、給付と負担の関係を見直すことが求められている。この見直しに当たっても、前述のような男女を取り巻く社会経済の現状と将来をどうみるかという観点の違いを踏まえつつ、将来を展望した見直しを進めるべきである。

 ○ なお、夫婦間の年金分割の導入が図られたり、男女の雇用の格差の解消が進み、高齢期は自分自身の年金で暮らすことが基本となれば、将来は遺族年金は不要となるとの意見があった。

 <高齢の遺族配偶者に対する年金給付>
 ○ 現行制度では、遺族厚生年金(死亡した被保険者の老齢厚生年金の4分の3)を選択した場合や、遺族厚生年金と自分自身の老齢厚生年金の併給を選択した場合に、自分自身の保険料納付に基づく給付が全部又は一部受けられなくなるという指摘がある。
 この点については、基本的には、就労した期間については自らの保険料納付が給付額に反映される仕組みとすることが望ましく、その観点から、本人の老齢厚生年金の全額受給を基本とし、現行の遺族となった場合に受給できる額との差額を支給する仕組みとすべきである。

 ○ 現行制度においては、遺族厚生年金の水準(死亡した被保険者の老齢厚生年金の4分の3)と遺族厚生年金と自分自身の老齢厚生年金の併給を選択した場合の水準(死亡した被保険者の老齢厚生年金と自分自身の老齢厚生年金の合計額の2分の1)が異なるため、世帯で標準報酬の合計額が同じ場合、片働き世帯と共働き世帯の間で、遺族年金の額が同一とならない。
 この課題に対応するものとして、遺族厚生年金の水準を「遺族配偶者自身の老齢厚生年金と死亡した配偶者の老齢厚生年金の合計額」の一定割合(例えば5分の3)とすることによって、共働き世帯と片働き世帯の公平を図るべきであるとの意見があった。また、この一定割合は、男女の雇用の格差が解消するまでの経過的なものとして考えられるとの意見があった。しかし、この点については、遺族年金の低い者の年金額を下げたり、より高い共働き等の者の年金額を引き上げたりすることとなり、女性の就労状況や雇用条件に格差がある現状において、夫の遺族年金(厚生年金の4分の3)を受給する者の比率が高いことを踏まえると、必ずしも適当でないとの意見があった。この点は、これからの男女の雇用の在り方も展望しつつ、将来に向けた課題として検討していくことが適当である。

 <若齢期の妻等に対する年金給付>
 ○ 子のいる若齢期の妻については、子の養育のため就業等の制約も多いと考えられ、そのような制約がある中では現行制度を維持することは必要である。
 子のいない若齢期の妻については、遺族厚生年金は有期給付とするなどの見直しを行い、就労支援に重点を置く方が望ましい。これについては、例えば一定期間又は一定年齢までの支給や一時金とすべきとの意見があった。
 子のいない中高齢期の妻については、中高齢の女性の雇用機会、雇用条件等を考えると、なお遺族年金の必要性がある。

 ○ なお、遺族年金の支給要件における男女格差が残存する間は、子のいる若齢期の妻及び子のいない中高齢期の妻についても、有期給付とするべきとの意見があった。

 <支給要件における男女差>
 ○ 男女で雇用機会、雇用条件等に格差がある現状では、現行制度の支給要件における男女差はやむを得ないものと考えられるが、将来の雇用の動向を踏まえつつ、その在り方を検討していくべきである。一方、若年層に現れている格差の縮小の動向を踏まえるべきであるとの意見、生計維持要件の収入基準を見直して支給要件を絞る方向で男女差を速やかに解消していくべきとの意見があった。

 <生計維持要件>
 ○ 生計維持要件の850万円については、高すぎるとの指摘があった。この要件は、死亡時点において判断するものであり、将来の収入を見通すことは困難であることから、広く受給権が発生するよう設定されているものであることも考慮して検討していくべきである。
 なお、基準以上の収入が見込まれ受給権が発生しなかった遺族は、その後予測できない収入の変化があった場合でも遺族年金の支給を受けることができないことについても、併せて検討すべきである。

(5)離婚時の年金分割

 ○ 近年、離婚件数、とりわけ中高齢者等の比較的婚姻期間の長い夫婦における離婚件数が増加しているが、男女の雇用の格差がある中で、十分な就労所得を得ることが難しい中高齢期に離婚した女性は、賃金も年金も低く、高齢期の所得水準が低いことが多いという問題が指摘されている。
 こうした社会の実態を踏まえれば、現状では離婚した妻自身の年金だけでは生活保障は不十分であり、離婚時に夫婦の間で年金の分割が可能となるような仕組みを設けるべきである。

 ○ 年金の分割には、受給権の発生した年金の年金額を分割する方法と、受給権の発生前も含め、保険料納付記録を分割し、分割を受ける者自身に「年金受給権」が発生する方法とが考えられる。
 分割の有無及び分割割合等については、夫婦の合意により決定し、合意が得られない場合は、裁判所の審判等により決定するという考え方がある。

 ○ 合意が得られない場合に、保険料納付記録(「年金受給権」)の分割を財産分与の一環として裁判上請求できることとするためには、配偶者が保険料納付記録(「年金受給権」)の分割請求権を有することとする必要がある。しかしながら、通常の権利の分割と異なり、具体的に発生している権利を単純に分割するものではない保険料納付記録(「年金受給権」)の分割というものについて、民事上の権利として請求権を法的に与える根拠等について、なお整理すべき点が多い。また、裁判実務での対応についても体制整備等の検討が必要とされる問題である。
 次期改正では、合意に基づく保険料納付記録(「年金受給権」)の分割をまず導入することは必要であるが、分割の請求を裁判上できることとすることについては、これらの点について引き続き検討していくことが適当である。

 ○ 受給権発生後の年金については、保険料納付記録(「年金受給権」)の分割以外にも、年金法上の受給権保護規定(譲渡禁止規定等)を見直し、「年金額の分割」ができる仕組みの導入も併せて考えることが適当である。

 ○ 分割は制度改正後の離婚に限るとしても、分割の対象となる「年金受給権」については改正前の婚姻期間を含めるべきである。

 ○ 離婚の場合の年金分割あるいは第3号被保険者期間の年金分割だけでなく、共働き世帯などについての婚姻継続中の分割についても認めるべきであるとの意見があった。一方、そのような婚姻継続中の分割は、その必要性や夫婦間の財産関係についての他の社会制度との整理について問題が多いとの意見があった。

6.障害年金

 ○ 障害を持ちながらも働ける可能性が広がっている中で、老齢又は障害という一事由による一人一年金の原則の下では、障害基礎年金を受けながら働いた期間に基づく老齢厚生年金が併せて受給できないことから、障害基礎年金及び老齢厚生年金という組み合わせを考えるべきとの意見があった。

 ○ 年金制度に加入していなかったり、保険料を拠出すべきであったにもかかわらず拠出せず無年金になった者に年金を支給することは、社会保険方式の年金制度では困難である。年金を受給していない障害者の所得保障については、「拠出制の年金制度をはじめとする既存制度との整合性などの問題に留意しつつ、福祉的観点からの措置で対応することを含め、幅広い観点から検討する」とした障害者基本計画を踏まえた検討を進めるべきである。

7.被用者年金の一元化

 ○ 公的年金制度の一元化については、 被用者年金制度の統一的な枠組みの形成を図るために、厚生年金保険等との財政単位の一元化も含め、更なる財政単位の拡大と費用負担の平準化を図るための方策について、関係者の合意を得つつ、21世紀初頭の間に結論が得られるよう検討を急ぐべきである。
 なお、公的年金制度の安定化と公平化を図るため、被用者年金の統合を早期に実施すべきであるとの意見があった。

8.企業年金等

 <企業年金等の役割>
 ○ 厚生年金基金等の企業年金は、現在おおむね民間サラリーマンの半数をカバーしているが、運用環境、母体企業の経営状況等企業年金を取り巻く状況には厳しいものがある。一方、公的年金の改革が進む中で、高齢期の所得保障に関する企業年金等の役割はますます重要になってきており、また、企業にとっても、企業の活性化のため、よりよい人材を集める上で重要な方策となってきている。
 企業年金等については、平成13年に確定給付企業年金制度及び確定拠出年金制度の創設等大きな改革が行われたところであり、この改革の着実な進展を図ることが重要である。

 ○ このため、公的年金の改革と合わせ、企業・従業員が多様化した企業年金をその実情に応じてより一層活用できるものとし、企業年金等の一層の普及及び充実を図ることが必要である。このような観点から、自助共助に対する政策上のインセンティブ、とりわけ税制上の支援措置についても充実すべきである。また、現下の状況にかんがみ、厚生年金基金制度の改革を急ぐ必要がある。

 <厚生年金基金制度>
 ○ 代行部分に独自の年金を上乗せした厚生年金基金制度は、これまで我が国における企業年金の普及や受給権の保全に大きな役割を果たしてきたが、長引く不況による運用環境の低迷等により、財政上の問題が発生している。
 平成12年の年金改正においては、厚生年金本体の保険料の引上げの凍結と連動し免除保険料率が凍結されたため、現在の免除保険料率は直近の平均寿命、厚生年金本体の予定利回り等の運用環境の状況に対応しておらず、事前積立に必要な保険料となっていない。
 そこで、厚生年金基金制度を持続可能なものとするため、免除保険料率の凍結解除を行い、予定利率の引下げ分、死亡率の改善分等を反映させるべきである。その際、免除保険料率の個別化を進め、少なくとも上下限を拡げるべきである。
 また、基金は自己責任の下に財政健全化を図ることが基本であるが、予定利率の変更や死亡率の改善等、基金の責任とは言えない過去期間に係る負担増の部分については、一定の調整を行うべきである。なお、凍結解除に伴う最低責任準備金の見直しの際には、現在の仕組みとの連続性に留意すべきである。
 いわゆる代行割れ基金(解散を希望するものの、最低責任準備金に不足が生じている基金)についても、基金の自己責任による財政健全化が基本であるが、国民に対する十分な説明の下、解散時の分割納付や納付額の特例を行うべきである。また、分割納付に際しては、将来の返済が確実に行われるための措置が必要である。

 <確定給付企業年金制度>
 ○ 平成13年の確定給付企業年金法等により事業所単位や企業年金単位の企業年金等の間の移行は可能となっているが、個人単位での企業間等の移動に対応したポータビリティについては、現状においては十分とは言えない。
 このため、確定給付企業年金等のポータビリティについては、中途脱退時や制度終了時における通算制度の拡大(例えば厚生年金基金連合会の活用による)、及び厚生年金基金・確定給付企業年金間や厚生年金基金・確定給付企業年金から企業型・個人型確定拠出年金への資産移換が可能となる措置を講ずるべきである。

 ○ 確定給付企業年金の支払保証制度については、受給者保護のため導入すべきという意見と、モラルハザードや全体的コストの観点から導入すべきでないとの意見があった。

 <確定拠出年金制度>
 ○ 確定拠出年金の拠出限度額は、厚生年金基金の望ましい給付水準を基本にして算定されている。公的年金の給付の在り方に応じ、また、長期的な運用環境を踏まえ、拠出限度額の引上げを図り、公的年金とあいまって高齢期の所得保障を充実すべきである。
 また、確定拠出年金の脱退一時金は、現在は加入期間が極めて短く、かつ、企業型又は個人型確定拠出年金の加入資格喪失後確定拠出年金に加入できない場合に限り例外的に認められているが、少額資産の場合等受給要件の緩和を図るべきである。
 なお、企業拠出と従業員拠出を合わせて行ういわゆるマッチング拠出については、自助努力による高齢期の生活保障の確保を支援するため認めるべきという意見と、現時点では従業員拠出の位置付けが不明確であるため認めるべきでないとの意見があった。

 <企業年金等に係るその他の論点>
 ○ 企業年金等の積立金に課税される特別法人税については、現在課税が停止されているが、「拠出時・運用時非課税、給付時課税の原則を徹底していくべき」との考え方もあり、企業年金等の役割が今後ますます重要になること等を踏まえ、廃止すべきである。

 ○ 給付減額の要件の緩和や財政検証の弾力化等、企業年金の運営の弾力化について検討が必要との意見があった。

 ○ 企業会計基準については、代行部分は退職給付債務の算定対象から除外するなど、中長期的観点から運営される年金制度の実態を反映したものとなるよう早急に修正すべきとの意見があった。


IV.公的年金制度の運営

(1)国民年金保険料の徴収

 ○ 国民年金の納付率は、現行制度となった昭和61年以降平成4年度の85.7%をピークに徐々に低下し、平成14年度には62.8%となった。近年のこのような大幅な低下の背景には、20歳到達者に対する職権適用等により納付率の低い若年層が増加してきていることや、雇用情勢の悪化等による第2号被保険者から第1号被保険者となった者の増加、若年失業者の増大、フリーターの増加など、社会経済情勢による側面もある。
 また、納付者と未納者の所得分布ではそれほど大きな相違は見られないことや、未納者の半数が生命保険や個人年金に加入しその保険料を負担していることなどからもわかるように、未納者の公的年金制度に対する認識の低下による側面もある。

 ○ 国民年金は国民皆年金の基本であることから、国民年金の未納・未加入問題は、制度に対する信頼を損ね、社会連帯に基づく制度の根幹をゆるがしかねない重大な問題であり、制度面の整備を含めて徹底した対応を図るべきである。
 厚生労働省においても、厚生労働大臣を本部長とする「国民年金特別対策本部」を本省及び地方社会保険事務局に設置し、今後5年間で納付率80%という目標の下に、全省を挙げて、(1)要因分析を踏まえた新たな個別収納対策を実施するとともに、(2)保険料納付は国民の義務であるという意識の徹底を図り、着実な収納体制の確立に取り組むこととしているが、具体的には、以下の取組を徹底すべきである。
(1) 国民に対して、年金広報や年金教育を強化し、制度の意義・役割、更に保険料納付の有利さ、大切さについて正しく理解してもらうとともに、保険料納付は国民の義務であるという意識の徹底を図るべきである。

(2) 現実に負担能力がない又は低い者については、全額免除又は半額免除の仕組みがあるが、負担能力に応じたよりきめ細かい対応が可能となるよう、免除の仕組みを更に見直すことが必要である。

(3) 未納者に対して、徹底した納付督励活動を行うとともに、制度的対応も含め、口座振替の促進など納付しやすい環境づくりや、地域に根ざした納付協力組織の活用などによる収納活動を強化すべきである。

(4) 度重なる納付督励によっても納付義務を果たさない者に対しては、強制徴収の実施により世代間連帯の下の納付義務の履行を求めるとともに、強制徴収を確実に行うための仕組みを構築すべきである。
 なお、この点について、保険料と税の一体的な徴収について検討すべきであるとの意見があった。

 ○ このほかにも、税制の面で、未納者に対しては、国民年金保険料の社会保険料控除が行われないよう納付額に関する書類の添付を義務付けることが必要であり、また、個人年金の保険料控除の適用を除外することも検討すべきである。
 さらに、国民健康保険被保険者証の取得・更新の際に国民年金保険料の納付実績等の提出等の義務付けを検討すべきではないかとの意見があった。
 また、納付の意欲を持たせるため、定期的に納付実績や将来の受給見込みなどについて自ら確認できる仕組みを構築し、保険料納付を促進していくことも必要である。

(2)制度の理解を深めるための取組

 ○ 現役世代、特に若い世代の年金不信や不安を解消するため、また、年金制度に対する理解と信頼を高めるため、将来の年金給付を実感できる分かりやすい仕組みや運営が必要である。
 このような観点から、個人に対して被保険者記録や年金見込額等の年金個人情報を提供する体制を整備すべきであり、とりわけ、年金個人情報提供に向けた当面の取組を確実に実施すべきである。
 また、社会保険事務所は、受給者や被保険者に対し最も身近な機関として、的確で丁寧な相談や情報の提供に一層努力すべきである。
(1)社会保険事務所における年金見込額試算対象年齢の引下げ(58歳以上を50歳以上とする)
(2)58歳以上の者に対する被保険者記録・年金見込額の直接通知
(3)インターネット等を利用した年金個人情報の提供

 ○ さらに、被保険者個々人が自らの拠出実績を確認し、将来受給する年金が着実に増加していくことを実感できるように、被保険者個々人の保険料納付実績を年ごとに点数化する仕組み(ポイント制)を導入することについても、個人への情報提供の在り方や費用等の留意点を踏まえつつ検討すべきである。

 ○ また、学校教育での年金制度や社会保障制度についての教育の充実などを通じ、子どもの時から、年金制度の意義や役割についての理解を深める取組が必要である。

(3)福祉施設等

 ○ 厚生年金保険及び国民年金の被保険者等の福祉を増進する観点から行ってきた年金の福祉施設事業については、被保険者等の公的年金制度に対する理解を深めること等に一定の役割を果たしてきたところであるが、厚生年金保険及び国民年金の厳しい財政状況、福祉施設を取り巻く社会環境や国民ニーズの変化等を踏まえ、その見直しを行う必要がある。

 ○ 年金資金運用基金(旧・年金福祉事業団)が行ってきた大規模年金保養基地(グリーンピア)事業及び年金加入者住宅等融資事業については、「特殊法人等整理合理化計画」(平成13年12月閣議決定)のとおり、早期に廃止すべきであり、また、年金政策上の被保険者還元融資の在り方については、さらに検討すべきである。これに対しては、特殊法人改革の趣旨から慎重を期すべきとの意見があった。


(照会先)
厚生労働省年金局総務課企画係
(代)03-5253-1111(内線3316)


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