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厚生労働省発表
平成15年8月8日(金)
担当 労働基準局労災補償部補償課
 補償課長  國常 壽夫
 課長補佐  渡辺 輝生
電話    5253−1111(内線5462)
夜間直通 3502−6748

神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基準について


「精神・神経の障害認定に関する専門検討会」(座長:原田憲一 元東京大学医学部教授)において、その検討結果が「精神・神経の障害認定に関する専門検討会報告書」(以下「専門検討会報告書」という。)として取りまとめられたことを踏まえて、厚生労働省では神経系統の機能又は精神の障害に関する認定基準を全面的に改正し、本日付けで厚生労働省労働基準局長から都道府県労働局長あて通達した。

 労災保険においては、業務や通勤が原因で負傷し、又は、疾病にかかり、その傷病が治っても身体等に後遺障害が残った場合には、その後遺障害の程度(等級)に応じた給付(障害(補償)給付)が行われる。
 この障害の程度は障害等級として認定されるが、これを認定する基準として障害等級認定基準(以下「認定基準」という。)が設けられている。 今般、専門検討会報告書の内容を踏まえ、精神・神経の認定基準について全面的に改正したものである。
 なお、精神・神経の認定基準の全面的な改正は昭和50年以来となる。

 主な改正内容
(1)脳の器質的な変化を伴わない精神障害(非器質性精神障害)である「うつ病」や「PTSD」等の後遺障害について、新たに基準を設けた。
(2)脳の器質的損傷による記憶、思考、判断等の能力の障害(高次脳機能障害)や脳又はせき髄の器質的損傷による麻痺の後遺障害について、より明確な基準に改めた。
(3)その他、外傷性てんかん等の後遺障害について、最新の医学的知見に基づく基準に改めた。

 厚生労働省としては、今回の認定基準の改正により障害認定がこれまでより迅速かつ適正に行われるものと考えている。
 なお、本認定基準は平成15年10月1日以降治ゆした後遺障害について適用となる。


参考1

改正認定基準の概要

 非器質性精神障害
 非器質性精神障害の認定基準については、外傷性神経症に係る認定基準のみ設けられていたところであるが、うつ病やPTSD等の精神障害の労災認定の増加傾向に鑑み、業務上の非器質性精神障害の後遺障害一般に関して適用する基準を設定するとともに、障害認定の時期を示したこと
(1) 非器質性精神障害の特質と障害認定
 非器質性精神障害は、その特質上、業務による心理的負荷を取り除き適切な治療を行えば、多くの場合完治するのが一般的であり、完治しない場合でも症状がかなり軽快するのが一般的であること
 また、通勤・勤務時間の遵守、対人関係・協調性等の能力のうち、複数の能力が失われている等重い症状を有している者については、非器質性精神障害の特質上、症状の改善が見込まれることから、症状に大きな改善が認められない状態に一時的に達した場合においても、原則として療養を継続することとしたこと
(2) 障害認定の基準
 「抑うつ状態」等の精神症状が認められるものについて、日常生活や通勤・勤務時間の遵守、対人関係・協調性等の8つの能力の障害の程度に応じ、原則として9級・12級・14級の3段階で障害等級を認定することとしたこと

 脳の器質的損傷による障害
 認定基準の明確性の向上を図る観点から、脳の器質的損傷に基づく障害については高次脳機能障害(注1)と身体性機能障害に区分した上で、高次脳機能障害と身体性機能障害のそれぞれについて以下のような基準を策定するとともに、両者が併存した場合の取扱いを示した
(1) 高次脳機能障害は、意思疎通能力、問題解決能力、作業負荷に対する持続力・持久力及び社会行動能力の4つの能力の喪失の程度(必要とされる支援の要否や程度)に着目して、障害等級(3、5、7、9、12、14級)を認定することとしたこと
 ただし、重篤な高次脳機能障害により食事・入浴・用便・更衣や外出等に介護を要するものについては、介護の程度を踏まえて障害等級(1、2級)を認定すること
(2) 身体性機能障害については、麻痺に着目し、麻痺している身体の範囲や程度により障害等級(1、2、3、5、7、9、12級)を認定することとしたこと

 せき髄損傷による障害
 せき髄損傷による後遺障害についても、認定基準の明確性の向上を図る観点から、せき髄損傷に通常伴って生じる神経因性膀胱障害等の障害も含めて評価する基準を設定したこと
 障害認定に当たっては、麻痺に着目し、麻痺の範囲及びその程度により障害等級を認定(1、2、3、5、7、9、12級)することとしたこと

 その他
(1) 外傷性てんかん
 外傷性てんかんについては、従来、てんかん発作の型にかかわらず障害等級を示していたが、発作の型により労働能力に及ぼす影響が異なることから、発作の型と頻度により障害等級(5、7、9、12級)を認定することとしたこと
(2) RSD(反射性交感神経性ジストロフィー)(注2)
 RSDの取扱いは、従来認定基準上明確ではなかったが、外傷後に残る特殊な型の痛みとして慢性期における一定の要件((1)関節拘縮、(2)骨の萎縮、(3)皮膚の変化(皮膚温の変化、皮膚の萎縮))を満たすものについて、症状の程度に応じて障害等級(7、9、12級)を認定することとしたこと


注1
 高次脳機能障害が存する場合には、耳が聞こえても言葉を理解することができず、「会話をすることができないこと」等の症状を呈することがある。
 また、「段取りをつけて物事を行うことができない」、「仕事に対する意欲や注意の集中を持続することができない」、「突然興奮したり、怒り出す」等の症状を呈することがある。

注2
 RSDとは、外傷後に生じる慢性疼痛であり、激しい痛みを生じることがある。


参考2

障害等級表(関係部分の抜粋)


第1級 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの
(給付基礎日額の313日分を年金(年額)として支給)

第2級 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの
(給付基礎日額の277日分を年金(年額)として支給)

第3級 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの
(給付基礎日額の245日分を年金(年額)として支給)

第5級  神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
(給付基礎日額の184日分を年金(年額)として支給)

第7級 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの
(給付基礎日額の131日分を年金(年額)として支給)

第9級 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
(給付基礎日額の391日分を一時金で支給)

第12級 局部にがん固な神経症状を残すもの
(給付基礎日額の156日分を一時金で支給)

第14級 局部に神経症状を残すもの
(給付基礎日額の56日分を一時金で支給)

※1 障害(補償)給付は、1〜7級までは年金として、9級以下は一時金としてそれぞれの障害等級に対応する給付基礎日額が支給される。
※2 給付基礎日額とは、給付額の算定の基礎となるものであり、原則として労基法第12条に定める平均賃金に相当する額をもってその額とするとされている。
 平均賃金に相当する額とは、原則として「算定すべき事由の発生した日以前3箇月間にその労働者に支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した」額のことである。


参考3

各等級に該当する障害の例

 非器質性精神障害
9級の例 「対人業務につけないもの」
12級の例 「職種制限は認められないが、就労に当たりかなりの配慮が必要であるもの」
14級の例 「職種制限は認められないが、就労当たり多少の配慮が必要であるもの」

 高次脳機能障害
1級の例 重篤な高次脳機能障害により食事・入浴・用便・更衣等の日常生活動作ができず常時介護を要するもの
2級の例 重篤な高次脳機能障害のため自宅内の日常生活動作は一応できるが、自宅外の行動が困難で、随時他人の介護を必要とするもの
3級の例 「職場で他の人と意思疎通を図ることができないもの」
5級の例 「実物を見せる、やってみせる、ジェスチャーで示す、などの色々な手段とともに話しかければ、短い文や単語くらいは理解できるもの」
7級の例 「職場で他の人と意思疎通を図ることに困難を生じることがあり、意味を理解するためには時々繰り返してもらう必要があるもの」
9級の例 「職場で他の人と意思疎通を図ることに困難を生じることがあり、意味を理解するためにはたまには繰り返してもらう必要があるもの」
12級の例 「職場で他の人と意思疎通を図ることに困難を生じることがあり、ゆっくり話してもらう必要が時々あるもの」

 脳損傷による麻痺
1級の例 両上肢及び両下肢を可動させることができないもの又はこれに近い状態にあるもの(高度の四肢麻痺)
2級の例 一側の上肢及び下肢を可動させることができないもの又はこれに近い状態にあるもの(高度の片麻痺)
3級の例 両上肢及び両下肢の麻痺により歩行できないもの(中等度の四肢麻痺)
5級の例 一下肢を可動させることができないもの又はこれに近い状態にあるもの(高度の単麻痺)
7級の例 一下肢の麻痺により「杖や硬性装具無しには階段を上ることができないもの」(中等度の単麻痺)
9級の例 一下肢の麻痺により「日常生活は概ね独歩であるが、不安定で転倒しやすく、速度も遅いもの」(軽度の単麻痺)
12級の例 運動障害は伴わないものの、感覚障害が概ね一上肢又は一下肢の全域にわたって認められるもの


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