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第2部 石綿について

1. 石綿及び石綿製品の状況
 (1) 石綿の種類
 石綿とは、天然に産出する繊維状の含水珪酸鉱物の総称であり、蛇紋石系のクリソタイル(白石綿)と角閃石系のクロシドライト(青石綿)、アモサイト(茶石綿)、アンソフィライト、トレモライト、アクチノライトの6種類がある。
 日本では、クロシドライト、アモサイトについては1995年に労働安全衛生法に基づき製造・輸入・譲渡・使用等が禁止されており、現在も使用されているのはクリソタイルである。アンソフィライト、トレモライト、アクチノライトについてはまれにしか産出せず、他の石綿鉱床に不純物として含まれることがあるが、石綿原料として国内の産業界では使用されていない。
 (2) 石綿の輸入量の推移
 日本で使用される石綿原綿はほぼ輸入に頼っている。年間の輸入量は、1960年代に急激に増加し、1974年の35万トンを最高に、1970年代及び1980年代は25万トンから35万トンの高水準で推移してきたが、1990年代に入り年々減少し、2001年は7万9千トン、2002年は4万3千トンであり前年の45%減、ピーク時の88%減と大幅に減少している。
 日本への主な輸入元は、カナダ56.4%、ジンバブエ25.8%、ブラジル6.9%である(2002年)。
 (3) 石綿製品の種類と用途
 石綿はその9割以上が建材製品に使用されており、押出成形セメント板、住宅屋根用化粧スレート、繊維強化セメント板、窯業系サイディング、石綿セメント円筒に加工され、建築物の壁材、屋根材、外装材、内装材等に使用されている。
 建材製品以外では、ジョイントシートやシール材に加工され、化学プラント等の配管や機器のガスケット、漏洩防止用のグランドパッキン等に広範に使用されているほか、耐熱・電気絶縁板やエスカレータのブレーキ等の産業用摩擦材等に使用されている。

2.職場における石綿による健康障害防止対策

   1971年
 労働安全衛生法に基づく特定化学物質等障害予防規則が制定され、石綿の取扱作業に関して石綿の発散防止設備の設置、作業環境測定の実施、特定化学物質等作業主任者の選任等が義務付けられた。
   1975年
 特定化学物質等障害予防規則の改正により、石綿の吹付け作業の原則禁止、石綿等の湿潤化による発散の防止等が義務付けられた。また、健康管理対策として、労働者の雇入れ時、石綿の取扱業務への配置換え時及びその後6月以内ごとの特殊健康診断の実施が義務付けられた(それ以前はじん肺法により健康診断が義務付けられていた。)。
   1995年
 労働安全衛生法施行令の改正により、アモサイト及びクロシドライトの製造・輸入等が禁止された。
 また、労働安全衛生規則の改正により、耐火建築物等における吹付け石綿除去作業の計画を事前に労働基準監督署に届け出ることが義務付けられた。
 特定化学物質等障害予防規則の改正により、石綿等の切断作業等における湿潤化、呼吸用保護具・保護衣の使用、石綿除去作業場の隔離等が義務付けられた。

3. 石綿の代替繊維の種類と有害性
 (1)石綿の代替繊維
 石綿の主な代替繊維には、人造鉱物繊維、天然鉱物繊維、合成繊維等がある。
 人造鉱物繊維はガラス、岩石等を溶融し繊維状に加工したものであり、主に、グラスウール、ロックウール、スラグウール、ガラス長繊維等が、断熱材、建材、摩擦材、シール材等に使用されている。
 天然鉱物繊維は天然に産出する繊維状の鉱物であり、主に、セピオライト、ワラストナイト等が、建材、接着剤等に使用されている。
 その他、化学的に合成した繊維や天然の有機繊維があり、主に、アラミド繊維、ビニロン繊維、パルプ、炭素繊維等が、建材、摩擦材、シール材等に使用されている。
 (2)石綿の代替繊維の有害性の評価
 国際がん研究機関(IARC)において、従来、石綿の全種類がグループ1(ヒトに対して発がん性がある物質)に分類されるとともに、その他の人造鉱物繊維についてグループ2B(ヒトに対して発がん性の可能性がある物質)又はグループ3(ヒトに対する発がん性については分類できない物質)に分類されていたが、2001年10月、グラスウール、ロックウール、スラグウールについてグループ2Bからグループ3に再評価された。

4. 石綿の使用等に関する国際動向
 (1)ヨーロッパ
 欧州連合(EU)では、1999年に、加盟国が2005年1月1日までに全種類の石綿の売買・使用を禁止する所要の法令等を施行することを定めた欧州委員会指令を公布した。
 指令では、既存の電解設備用のダイアフラム、各国での禁止措置の実施以前に既に設置・使用されている石綿製品の使用、各国での禁止措置の実施以前に市場に出回っていた石綿繊維・石綿含有製品(在庫品)の売買、研究分析目的での使用等は禁止措置の適用を除外されている。
 なお、ドイツは1993年、フランスは1996年、英国は1999年に、一部例外を除き全種類の石綿の使用等を原則禁止する法令を既に整備している。
 (2)アメリカ
 アメリカでは、環境保護庁(EPA)において、1993年に製造・使用等が可能な製品18種類が指定されるとともに、波形紙、ロールボード、商業用紙、特殊用紙、フローリングフェルト、新たな用途への使用が禁止された。

5.石綿及び石綿製品の代替化等の調査結果の概要
 2002年8月、厚生労働省化学物質調査課において、石綿の代替化等の状況を把握するため、アンケート方式の調査を実施した。調査対象は、石綿製品の製造企業26社、石綿製品の製造企業の団体10団体、石綿・石綿製品の輸入事業者8社、石綿製品のユーザーの団体19団体であった。
 (1)石綿製品の製造企業の回答の集計結果
 197種の石綿含有商品について回答があり、そのうち、「石綿を使用しなければ安全確保等が困難か」との設問に対し、石綿の使用が必要でないと回答があったものが140商品(71.1%)、必要であると回答があったものが57商品(28.9%)であった。さらに、その57商品のうち、安全確保のため必要と回答があったものが25商品、安全確保以外の理由で必要と回答があったものが32商品であった。石綿の使用が必要との回答がなかった製品は、押出成形セメント板、住宅屋根用化粧スレート、断熱材用接着剤、耐熱・電気絶縁板、その他石綿製品であった。
 197種の商品のうち、建材は107商品であり、そのうち石綿の使用が必要でないと回答があったものが64商品、必要と回答があったものが43商品、うち、安全確保のため必要と回答があったものが11商品、安全確保以外の理由で必要と回答があったものが32商品であった。一方、90種の非建材商品のうち、石綿の使用が必要でないと回答があったものが76商品、必要と回答があったものの14商品はすべてが安全確保のため必要と回答があった。
 (2)石綿製品のユーザー団体の回答の集計結果
 建材については、「安全確保等の観点から石綿の使用がやむを得ないか」との設問に対し、繊維強化セメント板(平板)、繊維強化セメント板(波板)、窯業系サイディングのそれぞれについて1団体から石綿の使用が必要と回答があり、それらを除き、すべての団体から安全確保等のためには石綿の使用が必要でないと回答があった。
 非建材については、ジョイントシート、シール材、その他石綿製品について多くの団体から石綿の使用が必要と回答があった。また、断熱材用接着剤についてはすべての団体から石綿の使用が必要でないと回答があり、耐熱・電気絶縁板については2団体から石綿の使用が必要と回答があった。
 (3)石綿の代替化についての全般的な意見の概要
 石綿の代替化について、
 ・建材の石綿製品の代替化は可能である
 ・石綿製品は、耐久性、耐熱性等の性能,価格,維持管理のコスト面で総合的に非石綿製品より優れており、代替化は困難である
 ・化学プラント、発電所等で使用するシール材で、特に、高温、高圧、危険な化学物質の接触下等で使用するものを非石綿製品に代替化した場合のリスクが不明であり代替化は困難である
 等の意見があった。


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