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○ はじめに(自殺防止対策有識者懇談会設置の経緯と趣旨)
 自殺は、すべての国民にとって起こり得る問題である。

 我が国における自殺による死亡数(厚生労働省人口動態統計)は、平成9年には23,494人であったものが、平成10年には3万人を超え、その後も横ばいの状態である。急増の原因は、主として、中年男性の自殺死亡数の増加であるが、問題はこれにとどまらない。高齢者の自殺は、我が国においては、従来から多く、加速する高齢化の進行とともに、ますます懸念される問題となっている。また、児童・思春期の自殺に関しては、自殺についての報道や、友人・有名人等の自殺に影響を受けやすく、少子化社会の中での大きな課題となっている。

 このように、自殺は、全ての国民にとって、身近に存在し得る問題である。また、自殺は、本人にとってこの上ない悲劇であるだけでなく、家族や周囲の者に大きな悲しみや困難をもたらすとともに、社会全体にとっても大きな損失である。このため、効果的な予防対策を実施することは緊急の課題となっている。

 自殺の原因については、統計上、健康問題、経済・生活問題、家庭問題が上位を占めるが、実際には、人生観・価値観や地域・職場のあり方等、統計には現れないさまざまな社会的要因も影響している。さらに、近年の自殺増加の背景には、「生きる不安」や「ひとりぼっち(孤独感)」の状況が存在している。これらは、他の先進諸国と同様、堅固な価値観や将来への明るい展望を見失いがちな転換期である現代に特徴的なものであるといえる。

 このため、自殺予防対策を推進していくに当たっては、このような自殺を取り巻く問題を考慮し、うつ病等対策などの精神医学的観点のみならず、心理学的観点、社会的、文化的、経済的観点等からの、多角的な検討と包括的な対策が必要となる。

 本懇談会は、自殺予防の基本的な考え方についての提言を行うとともに、社会全体として自殺予防に取り組む契機とすることを目的に発足し、今年2月以来7回にわたり、自殺や自殺予防対策の現状と、今後取り組むべき自殺予防対策について、多角的な検討を重ねてきた。検討に当たっては、身近に自殺した人がいる方々の意見や、地域での予防活動、経済学的研究、実態調査研究についての報告等を聴取する機会も設けた。

 今年8月には、自殺予防対策の理念や、早急に取り組むべき自殺予防対策を中心とした「中間とりまとめ」を公表した(https://www.mhlw.go.jp/houdou/2002/08/h0813-1.html)。その後、自殺の原因、背景の捉え方等について、さらに検討を進め、今般、「自殺予防に向けての提言」をとりまとめたので、ここに報告する。この提言が、多くの国民、専門家、関係者等の目に触れ、国民の心の健康の保持・増進、そして、自殺予防の契機となることを切に願うものである。


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