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雇用保険制度の見直しについて

( 中間報告 )




平成14年7月19日


 当部会では、平成13年4月1日の改正雇用保険法の施行以後、雇用保険を取り巻く状況が大きく変化する中で、平成14年4月5日から、雇用保険制度の在り方について議論を重ねてきた。今般、その結果を「雇用保険制度の見直しについて(中間報告)」としてとりまとめたので報告する。

 平成14年7月19日

労働政策審議会職業安定分科会
雇用保険部会
部会長   諏訪 康雄

職業安定分科会
分科会長  諏訪 康雄 殿


雇用保険制度の見直しについて(中間報告)

第1 雇用保険制度の現状

1 雇用保険制度の概要
 (1) 目的等
  ○ 雇用保険制度は、労使連帯からなる雇用のセーフティ・ネットであり、労働者の生活及び雇用の安定を図るとともに、求職活動を容易にする等その就職を促進することを目的とし、労使折半で負担する保険料及び国庫負担を財源とする「失業等給付」と、付帯事業として失業の予防、雇用状態の是正及び雇用機会の増大、労働者の能力の開発向上その他労働者の福祉の増進を図ることを目的とし、使用者が財源を負担する「三事業」からなる。

 (2) 失業等給付
  イ 求職者給付
   ○ 失業等給付の中心をなす求職者給付は、被保険者が離職し、失業状態(労働の意思及び能力を有するにもかかわらず、職業に就くことができない状態)にある場合に必要な給付を行い、その生活の安定を図りつつ再就職を援助するものである。
   ○ 一般求職者給付のうち基本手当については、平成13年4月以降、給付の重点化を図る観点から、定年退職者を含め離職前から予め再就職の準備ができるような者に対する所定給付日数を圧縮(90〜180日)する一方、特定受給資格者(倒産・解雇等により離職を余儀なくされた者)には中高年齢層を中心に手厚い所定給付日数(90〜330日)が確保されている。
   ○ 短時間労働被保険者であった者の所定給付日数は、それ以外の者より30日程度短くなっている。
   ○ 給付率は、離職前の賃金日額に応じて6〜8割(60歳以上は5〜8割)とされている。なお、60歳以上の者については、離職前の賃金日額に代えて60歳時点の賃金日額を用いる特例が設けられている。
○ 賃金日額には、年齢一律の下限(4,250円(短時間労働被保険者は2,160円))と、年齢区分別の上限(30歳未満14,590円、30歳以上45歳未満16,210円、45歳以上60歳未満17,840円、60歳以上65歳未満19,450円)が定められている。
   ○ 「失業」は「労働の意思」という主観性を伴う概念であるため、求職者給付の支給に当たっては、公共職業安定所において4週間ごとに受給者が失業状態にあることの認定を行うとともに、受給者が公共職業安定所の行う職業紹介等を拒んだ場合には求職者給付の支給を制限するなど、制度の趣旨に適った支給のための仕組みが設けられている。
   ○ 延長給付制度として、訓練延長給付、広域延長給付及び全国延長給付が設けられている。なお、訓練延長給付に関連して、平成14年1月1日から平成17年3月31日までの臨時特例の措置として、45歳以上60歳未満の中高年齢者に対して、訓練延長給付を受けながら複数の訓練受講(最長2年間)ができる制度が設けられている(「経済社会の急速な変化に対応して行う中高年齢者の円滑な再就職の促進、雇用機会の創出等を図るための雇用保険法等の臨時の特例措置に関する法律」)。
   ○ 一般求職者給付以外の求職者給付として、65歳以上の者に係る高年齢求職者給付、短期雇用特例求職者給付及び日雇労働求職者給付がある。

  ロ 就職促進給付
   ○ 雇用保険受給者の再就職を促進するための給付として、再就職手当及び常用就職支度金がある。
   ○ 再就職手当は、受給者の早期再就職意欲を喚起するため、基本手当の支給残日数が一定以上である場合において、受給資格者が安定した職業(1年を超えた雇用が確実であること等が要件)に就いたときに支給される。
   ○ 常用就職支度金は、受給資格者等のうち就職困難者が安定した職業に就いた場合に支給される。
   ○ 再就職手当の一部及び常用就職支度金は、公共職業安定所の紹介により就職したことが支給要件となっている。

  ハ 教育訓練給付
   ○ 教育訓練給付は、労働者が主体的に能力開発を行うことを支援するため、被保険者等が厚生労働大臣の指定する教育訓練を修了した場合に、当該教育訓練費用の8割(上限30万円)を支給するものである。
   ○ この給付は、職務に必要とされる知識・技能の変化、労働移動の増加等に伴い、労働者の雇用の安定及び就職の促進を図っていくためには、事業主の行う職業訓練や公共職業訓練に加え、労働者自らが主体的に能力開発に取り組むことが必要となっており、その費用負担に対応するため、失業等給付の一環として創設された(平成10年12月施行)。

  ニ 雇用継続給付
   ○ 高年齢雇用継続給付は、60歳以上65歳未満の期間において賃金が60歳時点に比して15%を超えて低下した場合に、原則賃金の25%を65歳に達するまでの期間支給するものである。
   ○ 育児休業給付及び介護休業給付は、育児休業又は介護休業を取得した被保険者に対し、休業前賃金の40%を支給するものである。
   ○ これらは、高齢期における労働能力の低下や通常勤務の困難化等に伴う賃金低下あるいは育児休業・介護休業の取得に伴う賃金の全部又は一部の喪失を、雇用継続が困難になるという意味で「失業」に準じた事故ととらえ、これに対し保険給付を行い失業を回避することを目的として創設された(高年齢雇用継続給付及び育児休業給付は平成7年4月、介護休業給付は平成11年4月施行)。

 (3) 三事業
  ○ 三事業(雇用安定事業、能力開発事業及び雇用福祉事業)は、労働者の雇用の安定、能力の開発向上、福祉の増進を目的とした雇用保険の付帯事業であるが、雇用保険制度本体の保険事故である「失業」の予防(円滑な労働移動を含む。)、失業した場合の積極的な再就職の促進などを通じて失業等給付を減少させる効果を有しており、失業等給付とあいまって、我が国雇用対策に大きな役割を果たしている。
  ○ なお、かつては移転就職者用宿舎及び福祉施設の設置・運営を雇用福祉事業として行っており、具体的には雇用促進事業団が業務を行っていたが、平成10年度以降新設を打ち切り、雇用促進事業団を解散し雇用・能力開発機構を設立した際(平成11年10月)には法律上の業務としても廃止され、施設の新規設置は行われていない。
 現在は、雇用・能力開発機構法に基づき、同機構が既存施設の譲渡業務及び譲渡までの間の管理運営業務を行っている。また、平成13年12月19日に閣議決定された「特殊法人等整理合理化計画」により、「勤労者福祉施設は、廃止期限を明確にし(遅くとも改革期間内)、特に自己収入で運営費さえも賄えない施設については、できるだけ早期に廃止する。移転就職者用宿舎は、現に入居者がいることを踏まえた早期廃止のための方策を検討し、できるだけ早期に廃止する。」と定められ、現在、この方針に則って具体的処理が進められている。

 (4) 負担
  イ 失業等給付
   ○ 失業等給付に係る保険料率は、賃金の原則12/1000(労使折半)とされている。また、求職者給付の一部及び雇用継続給付に対しては一定の国庫負担がなされており、その割合は、求職者給付費の原則4分の1、雇用継続給付費の8分の1とされている。
   ○ 雇用失業情勢の変化に機動的に対応して雇用保険制度の安定的運営を確保するため、積立金制度が設けられている。さらに、積立金の額が失業等給付費の額の2倍を超え、又は1倍を下回った場合には、労働政策審議会の意見を聴いて保険料率を原則料率±2/1000の範囲で変更できる「弾力条項」が設けられている。
   ○ 失業等給付費を支弁するため必要があるときは、「労働保険特別会計法」に基づいて借入金をすることができる。この借入金は、金利も含めて後の保険料負担により償還する必要がある。

  ロ 三事業
   ○ 三事業の保険料率は原則3.5/1000(使用者負担)とされている。
   ○ 雇用失業情勢の変動の影響を強く受ける雇用安定事業については、三事業の決算上の剰余金を積み立て、雇用安定事業費を支弁するため必要なときに使用することができる「雇用安定資金」制度が設けられている。

2 適用給付等の現状
 (1) 適用状況
  ○ 雇用保険の適用事業所数は、平成13年度において約203万事業所(年度月平均)となっている。
  ○ 被保険者数は、平成13年度において約3,390万人(年度月平均)となっている(短期特例・日雇を除く。)。
 被保険者数は平成10年度以降概ね横ばいとなっているが、平成13年4月の短時間労働者に係る適用要件の見直しの影響等により、短時間労働被保険者数は対前年30%以上の極めて高い伸びを見せている(平成13年度は約128万人(年度月平均))。

 (2) 失業等給付の状況
  ○ 雇用失業情勢の厳しさを反映して、基本手当の受給者実人員(月平均受給者数)の増加が続いており、平成13年度の受給者実人員は約111万人(対前年比7.5%増)と過去最高の規模となっている。
  ○ 平成13年度の制度改正により給付の重点化を図り、倒産・解雇等により離職した者については手厚い給付を行うこととなったが、このような特定受給資格者の受給資格決定を受けた者に占める割合は、平成13年度平均は35.9%となった。なお、特定受給資格者割合を年齢階層別に見ると、若年層及び高齢層(60歳以上65歳未満)で低く、中高年齢層(45歳以上60歳未満)で高くなっており、特定受給資格者のうち中高年齢層の占める割合は45.2%にのぼっている。

 (3) 三事業の状況
  ○ 三事業の給付金については、平成12年度から中央職業安定審議会及び中央職業能力開発審議会(平成13年から労働政策審議会)において雇用対策の方向に即した見直しが行われた。具体的には、(1)円滑な労働移動の実現、(2)安定した雇用の維持・確保、(3)良好な雇用機会の創出、(4)労働力需給調整機能の強化、(5)労働者の主体的なキャリア形成の促進への重点化という5つの方向を踏まえ、重点化及び簡素合理化を図り、各種給付金を整理(61本→39本)し、申請・支給に係る諸手続きの簡素化等を行い、平成13年10月から実施された。
  ○ その結果、平成13年9月、厳しさを増す雇用情勢に対処するため「総合雇用対策」に基づき緊急的な雇用対策の実施に必要な措置を講じたことによる支出増はあったものの、平成14年度予算の三事業費は、対前年度当初予算比約1割減の約6,100億円となっている。その内訳は、雇用安定事業費が約3,100億円、能力開発事業費が約1,900億円、雇用福祉事業費が1,100億円と、雇用安定事業費が半分以上を占めている。

3 雇用保険財政の現状
 (1) 失業等給付の状況
  ○ 厳しい雇用失業情勢を受けて受給者が急速に増加したこと等を受け、平成6年度以降、単年度での赤字が続き、平成6年度以降の累積赤字額は4兆円強に達している。
  ○ 特に平成10年度から平成12年度にかけては3年続けて1兆円前後の赤字を記録し、平成13年度に給付体系の見直し、保険料率の引上げ、国庫負担の原則復帰等の制度改正を行ったが、平成13年度(補正後ベース)は、単年度の赤字幅は縮小したものの、予想を上回る雇用失業情勢の悪化(注)により、収入約2.4兆円、支出約2.7兆円、収支差▲約3,500億円(平成12年度は▲約10,400億円)となった。
注)平成13年度の制度改正時点において想定していた雇用失業情勢(「4%台半ば」の完全失業率、完全失業者数310万人程度)より、現在の雇用失業情勢は大幅に悪化しており、完全失業率は実際には平成12年度4.7%、平成13年度5.2%と急上昇した。
  ○ 積立金は、(1)景気変動に対応し、好況期に資金を積み立て、不況期にこれを財源として使用することで収支を必要な積立金を維持しつつ中長期的にバランスさせる、(2)年度当初の保険料納期前の期間などにおける短期的な資金需要に対応する、という2つの機能を有しているが、現在は積立金残高が大幅に減少し、双方の機能が発揮できなくなりつつある。
 平成6年度以降の収支差を積立金の取崩しで対応してきた結果、平成5年度末に4.7兆円にのぼった積立金残高は平成13年度末には約5,000億円(補正後ベース)にまで減少した。これは同年度の失業等給付費の約20%程度である。
 ちなみに、労働保険徴収法上、毎会計年度において積立金が失業等給付費の1〜2倍の範囲内にない場合、保険料の弾力的変更が可能とされており、補正後ベースで、現時点で弾力条項の発動要件を満たしている。(法律上弾力条項が発動できるようになった平成13年4月時点では既に発動要件を満たしていた。)
 平成14年度予算上、約3,600億円の積立金取崩しを見込んでおり、平成14年度末の積立金残高は約1,400億円に減少する見込みである。この金額は年間の失業等給付費の約6%、日数にして約半月分に相当する。
 このままでは、平成15年度中には積立金が枯渇することがほぼ確実である。また、平成15年度当初の資金繰りが難しくなるなどのおそれもある。

 (2) 三事業の状況
  ○ 平成10年度から12年度にかけて厳しい雇用失業情勢に対応して必要な雇用対策を積極的に講じてきたこと等から、支出規模が経年的に拡大したことを受けて、平成13年10月に財政状況を踏まえ、政策目的の達成のため効果的・効率的な制度運営を目指し、前述の見直しを行った。平成13年度の「総合雇用対策」で追加した施策項目の平年度化分等を含めて、平成14年度予算においては、収入約5,400億円、支出約6,100億円(対前年度当初予算比約1割の削減)と、収支差▲約700億円となっている。この収支差は雇用安定資金(平成13年度末残高見込は約1,800億円(補正後ベース))の取崩しで対応することとしている。

第2 雇用・失業をめぐる動向

1 労働市場の動向
 (1) 最近の動向
  ○ 景気は、依然として厳しい状況にあるが、輸出の大幅な増加や、生産の持ち直しの動きがみられ、また、設備投資が減少しているものの、先行きについて下げ止まる兆しもみられるなど、一部に持ち直しの動きがみられるとされている。雇用は景気に遅れて動く性格があり、完全失業率も平成13年度は過去最悪の5.2%を記録し、平成14年5月も5.4%と高水準であるなど、雇用失業情勢は依然として厳しい状況にある。また、企業経営者の経済に対する厳しい見方等を反映し、企業の雇用過剰感はなお高い水準にある。
  ○ 完全失業者の中では、失業期間が1年以上の長期失業者が増加しており、失業者の3割(最近5年間で倍増)を占めるに至っている。
 また、非自発的失業者が傾向的に増加し、特に昨年11月以降、非自発的失業者数が自発的失業者数を上回り、その差も拡大している。平成14年5月の非自発的失業者の内訳をみると勤め先・事業の都合による離職者が4分の3を占めている。
  ○ 過去3年間に離職した失業者の属性を見ると、男性では55〜64歳の「製造業」出身者が、女性では25〜34歳の「サービス業」出身者がそれぞれ最も多くなっている。

 (2) 雇用・失業をめぐる構造的変化
  ○ 労働力需要面では、国際化、IT化等に伴う産業・職業構造の変化が急速に進展し、国内における雇用機会の減少、新たな雇用機会を生み出す産業のシフト、求められる能力の高度化等が生じている。また、事業環境の変化に企業が機動的に対応する等のため、雇用就業形態の多様化が進んでいる。
  ○ 労働力供給面では、少子・高齢化に伴い労働力の年齢構成が変化し、年齢間の労働力需給の不均衡の原因となるとともに、新卒者の入職分野のシフトによる産業間・職業間の労働力再配置が進みにくくなっている。また、勤労者意識の変化に伴い多様な就業形態に対するニーズが高まるとともに、特に若年者を中心に転職希望率の上昇がみられる。このような希望に基づく転職に対しては、円滑な労働移動や早期再就職を支援するなど、労働力需給調整機能の強化を図っていくことが大変重要である。
  ○ 以上から、今後の労働市場においては、中高年齢者を含め労働移動が更に増加するとともに、人材ニーズの高度化や雇用就業形態の多様化が一層進展するものと見込まれ、これらに的確に対応することが雇用保険制度を含めた雇用政策全体の課題となると考えられる。

 (3) 完全失業率の将来見通し
  ○ 「平成14年度の経済見通しと経済財政運営の基本的態度」(平成14年1月25日閣議決定)では、平成14年度の完全失業率を5.6%と見込んでいる。これは平成13年度実績の5.2%よりさらに悪化するという見通しである。
  ○ また、平成15年度以降については、「構造改革と経済財政の中期展望」(平成14年1月25日閣議決定)の審議過程にあたって内閣府が作成し、経済財政諮問会議へ提出した参考資料に示された試算では、平成15年度も引き続き5.6%と高止まりし、その後構造改革の成果により平成16年度5.4%、平成17年度5.2%と順次低下するという見通しが示されている。

2 雇用対策の動向と雇用保険制度
 ○ 前回の制度改正以降、雇用対策法等の改正(一部を除き平成13年10月施行)、総合雇用対策等により、
(1) 良好な雇用機会の創出(地域の主体性をいかした雇用創出や、企業の経営革新に伴う雇用創出の支援等)
(2) 失業なき労働移動の実現・早期再就職の促進(官民連携した雇用情報の提供、募集・採用時の年齢制限の緩和、在職中からの計画的な再就職援助等)
(3) 労働者の主体的なキャリア形成の促進(労働者の職業生活設計に即した自発的能力開発の促進、試行就業を通じた実践的能力の付与等)
(4) 安定した雇用の維持・確保(業種にとらわれない雇用維持支援、緊急対応型ワークシェアリングに対する支援等)
(5) セーフティ・ネットの整備(訓練延長給付の拡充等)
のため種々の対策が講じられてきた。
 ○ これらの中で、雇用保険制度においても、訓練延長給付に係る中高年齢者向けの特例措置の創設や三事業の助成金の見直し等雇用対策の一環としての政策的対応を行ってきている。
 ○ 去る6月25日に閣議決定された「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2002」においては、経済活性化戦略の一つとして「高齢者、女性、若者等が、ともに社会を支える制度の整備」、「挑戦者支援」などの「人間力戦略」を挙げ、具体的には、「企業による離職者の再就職支援システム(企業の再就職あっせんや教育訓練に対する支援)や官民による労働力需給調整機能の強化など、離職者の再就職インフラを強化」、「民間活用によるキャリアカウンセリングを促進」、「不安定就労若年者等に対する効果的なカウンセリングや職業訓練の一層の推進」などが取り上げられている。
 ○ また、7月18日に、平成11年の第9次雇用対策基本計画策定後これまでの雇用・失業情勢をめぐる変化についての分析結果を踏まえた雇用政策の課題と、我が国経済の集中改革期間に当たる今後2〜3年の時期を見据えて重点的に展開する雇用対策について「雇用政策研究会(注)」が報告をまとめた。
 この報告では、個人の個性と能力に応じた働き方が複線型でかつ随時選択可能となる「多様選択可能型社会」の実現に向けて、
(1) 労働市場のインフラ整備の推進
 官民の職業紹介機関による積極的な役割の発揮、情報提供機能の強化、労働者派遣事業等の規制改革等を通じた労働力需給調整機能の強化
 キャリアコンサルティングの体制整備、職業能力評価制度の整備の支援等による相談・評価機能の充実
 多様な能力開発機会の提供、自発的な能力開発を行うための時間の確保や経済的支援等による職業能力開発の推進
(2) 雇用・就業機会の整備
 雇用創出の可能性がある分野における制度改革等による雇用創出
 パートタイム労働の公正・均衡処遇のあり方に関する検討、社会保障制度の所要の見直し等による多様な働き方に係る環境整備等
(3) 重点的な支援を要する者への対応
 早期の相談援助の実施、多様な職業訓練の推進、募集・採用時の年齢制限緩和の促進、トライアル雇用や中高年齢者についての派遣期間の特例措置の活用等による長期失業者の再就職の促進
 職業意識の涵養、職業教育の充実、インターンシップ等の就業体験付与、若年者トライアル雇用の利用等を通じた若年者への対応
(4) セーフティネットとしての雇用保険制度の在り方
 再就職意欲を阻害しないような給付の在り方、雇用形態との関係での中立性の確保、労働者の年齢を問わない公平な資源配分等の観点からの失業等給付の見直し、円滑な労働移動の促進と早期再就職の支援の観点からの三事業の見直し等
等が当面展開する雇用政策として示されている。
(注)厚生労働省職業安定局長が参集を委嘱した学識経験者(12名)による研究会(座長:小野旭 東京経済大学経済学部教授)

第3 雇用保険制度の見直しに当たっての視点

1 基本認識
 ○ 雇用失業情勢が依然として厳しい状況にあり、さらに倒産・解雇等の非自発的理由による離職者が増加傾向にある中では、総合雇用対策等に基づき雇用対策に万全を期すことと併せて、支援を要する者について適切に対応しつつ、雇用のセーフティ・ネットとしての雇用保険制度の安定的運営を確保することが極めて重要になっている。
 ○ 雇用保険制度については、平成13年度に給付・負担両面にわたる制度の抜本的な再構築が行われ、安定的運営が期されたところであるが、制度改正において見込んでいた雇用失業情勢よりも実際の雇用失業情勢が悪化したことや労働市場の構造変化により、収支均衡には至らず、依然として積立金の取崩しが続いている。
 ○ この結果、平成15年度中には積立金が完全に枯渇し、資金不足を生ずることがほぼ確実となっているほか、平成15年度当初の資金繰りが難しくなるなどのおそれもあり、引き続き総合雇用対策等に基づく雇用対策に万全を期すとともに、適切な収支改善措置を早急に実施することが不可欠な状況にある。
 ○ 雇用保険制度に係る収支改善措置としては、現行制度の下で採り得る措置と法律改正を要する措置とがあるが、特に前者については積立金の枯渇を回避するためにも早急に、また後者についても、雇用政策全体における雇用保険制度の役割に留意しつつできるだけ早期に実施に移す必要がある。なお、法律上、雇用保険制度に組み込まれている収支改善措置である弾力条項の発動要件は、現時点で満たされている。
 ○ 雇用失業情勢は当面厳しい状況が続くものと見込まれるとともに、それ以降も、中高年齢者を含め自発・非自発を問わず労働移動が確実に増加するほか、雇用就業形態の多様化が一層進展し、保険料収入が減少傾向で推移するなど雇用保険制度を取り巻く構造的変化を踏まえ、雇用政策全体との関連に留意しつつ、改めて雇用保険制度を給付・負担の両面から全般的に見直す必要がある。この見直し内容については、平成15年度の早期に実施に移すことが不可欠な状況にあり、そのための法律改正を、遅くとも次期通常国会で行い、改正法の可能な限り速やかな施行を期す必要がある。

2 留意すべき事項
 ○ 見直しに当たっては、雇用保険制度の意義、機能等を踏まえ、次のような点に留意すべきである。
 雇用保険制度の在り方としては、前回制度改正後の予想を超える雇用失業情勢の悪化等短期的な雇用・失業の動向に加え、労働移動の増加、雇用就業形態の多様化等中長期的な労働市場の構造的変化に対応し、その機能を十分に発揮できるようにするため、制度全般の見直しが必要となっている。
 見直しに当たっては、雇用保険が将来にわたり雇用のセーフティ・ネットとして安定的に機能するようにすることが重要である。このため、給付と負担の見直しが避けられないが、この検討に当たっては、まず給付の在り方について、再就職を支援するという制度の趣旨に適う者への給付に絞り込むなど、受給者の生活の安定及び早期再就職の促進をはじめとする制度本来の機能が適切に発揮されるよう見直した上で、必要な負担措置を検討することが重要である。
 この場合、我が国の雇用保険制度においては諸外国の雇用保険制度における国庫負担水準に比して高水準の国庫負担が行われている事実も踏まえつつ、雇用保険制度が本質的には労使の共同連帯による保険制度であるという性格に立ち返り、給付を受ける立場・負担をする立場のそれぞれが、制度の安定的運営の確保のためにいかなる対応をすべきか、という観点から建設的な議論を尽くしていく必要がある。
 経済変動等があっても制度が安定的に維持できるようにすることが必要であり、雇用保険のビルトインスタビライザーである積立金や弾力条項など、制度の安定的運営を確保するための制度が十分に機能を発揮するようにする必要がある。このため、積立金がほぼ枯渇している状況にかんがみ、必要な積立金水準を達成するまでの間は基本的には単年度黒字となるような収支構造を目指し、必要な積立金水準の確保を図ること等が必要である。さらに、今後とも事態の推移を見つつそれを着実に運用すべきである。
 雇用保険制度は雇用政策の一環をなすものであり、その見直しについては、雇用政策全体の方向性を十分に踏まえる必要がある。さらに、職業相談・職業紹介や職業能力開発等の事業は三事業を財源とするものが多く、その意味で雇用保険のいわば現物給付としての性格を有するが、そうした「現物給付」の施策をどのように進め、それとの関係で雇用保険給付という「金銭給付」の在り方をどうするかという視点が必要である。
 政府の雇用政策の在り方が雇用保険制度の運営に重要な影響を及ぼすこと、最近非自発的理由による離職者が増加していることを踏まえ、雇用保険受給者の早期再就職等に資する観点からも、総合雇用対策等に基づく雇用対策を適切に講じていく必要がある。
 「失業」は「労働の意思」という主観性を伴う概念であるため、雇用保険制度を持続可能とするためには、受給者の早期再就職意欲が喚起され、あるいは阻害されないよう、求職者給付や就職促進給付等の制度設計を行うとともに、その運営状況を常に注視する必要がある。
 倒産・解雇等により離職を余儀なくされた者と離職前から予め再就職の準備ができるような者との相違や保険制度における給付の在り方を踏まえ、それぞれ公正・効率的な給付内容となるよう見直す必要がある。
 雇用保険制度は社会連帯に基づく相互扶助の強制保険であり、信認性を確保するためには公平・公正なものであることが求められるが、この公平・公正さは、様々な立場の事業主や労働者の間で確保される必要がある。
 ○ 平成13年度の制度改正の根拠となった平成11年12月の中央職業安定審議会専門調査委員雇用保険部会の報告は、産業構造の変化等に伴う雇用慣行の変化、労働移動の増加、雇用就業形態の多様化や少子・高齢化の進展など雇用を取り巻く状況の構造的な変化を背景に、
(1) 早期再就職を促進するための給付体系の整備(中高年齢者を中心とした倒産・解雇等による離職者への給付の重点化等)
(2) 雇用就業形態の多様化への対応(短時間労働者及び登録型派遣労働者に係る適用基準等の改正)
(3) 少子・高齢化の進展に対応した就業支援対策の見直し(育児休業給付及び介護休業給付の充実)
(4) 雇用保険財政の在り方の見直し(保険料率、弾力条項の見直し、国庫負担に係る暫定措置の廃止)
の4つの方向性に立脚して雇用保険制度の再構築を提言したものであるが、これらの方向性は今日なお基本的には妥当するものと考える。

 見直しの視点
 雇用保険制度の見直しに当たっては、上記1の基本認識及び上記2の留意すべき事項とともに、労使をはじめとする関係者の意見を十分に踏まえて対応することが必要である。
 これまで当部会においては、以下に示すように、平成13年度の制度改正の4つの方向性を踏まえた5つの検討事項に関連する論点に関して様々な議論が行われてきたところであるが、今後さらにこれらの議論を深めていく必要がある。
 なお、以下は、今後新たな論点について議論することを妨げるものではない。

  [5つの検討事項]
 (1) 能力開発を含めた、早期再就職の促進
 (2) 多様な働き方への対応
 (3) 再就職の困難な状況等への対応
 (4) 三事業の見直し
 (5) 安定した制度運営の確保と当面の対応

 (1) 能力開発を含めた、早期再就職の促進

  イ 基本手当
   (イ) 給付水準
 基本手当の給付水準については、基本手当日額が高い層や60歳以上の年齢層を中心として、基本手当日額と再就職時賃金との逆転現象が生じており、このことが再就職の意欲を阻害している可能性があるのではないかとの観点から、次のような議論が行われた。
 雇用保険給付の基本的な在り方として「給付が再就職を阻害することがあってはならない」のは当然であり、この趣旨にそぐわない事態が生じているのであれば見直しが必要ではないか。
 労働市場の賃金水準そのものを政策的に誘導することは困難であることを踏まえるならば、受給者の早期再就職が促進されるよう、基本手当の給付水準について、再就職時賃金の実勢も考慮されるようにすべきではないか。その際雇用保険の基本的役割は失業前の生活の保障ではなく、求職活動への支援であることも勘案すべきではないか。
 給付率(6〜8割)について、再就職時賃金と基本手当日額の逆転が見られる基本手当日額の高い層の給付率を見直し、併せて上限額も見直すべきではないか(60歳以上65歳未満層(給付率5〜8割)についても、再就職時賃金と基本手当日額の逆転が見られる層の給付率を見直し、併せて上限額も見直すべきではないか。)。
 支給終了後1ヶ月に再就職時期が集中していること、基本手当日額の高い層で基本手当日額と手取りの再就職時賃金との逆転が生じていること、支給中と支給終了後とで再就職時賃金の逆転が一部に見られること等を踏まえれば、円滑な再就職を進めていくためには給付率や上限額の見直しが必要ではないか。
 60歳以降いつ離職しても60歳時の賃金に基づいて基本手当日額が算定され、他の年齢層と不均衡が生じていること、再就職時賃金との逆転が特に顕著になっており、前職の賃金とさえ逆転が生じていること等を踏まえ、60歳時賃金日額の算定の特例を廃止すべきではないか。
 雇用保険受給者の再就職等の実態については、現在入手可能なデータに基づいて、検討に必要な把握・分析がなされているのではないか。

 一方、次のような議論もあった。
 基本手当日額と再就職時賃金との逆転現象の問題については、対象となる層の属性や失業実態、労働市場の状況についてもっと把握し分析した上で判断すべきではないか。そのような吟味なく、これを見直しの基本的な考え方とすべきでないのではないか。
 失業者が再就職時賃金と比較するのは前職時の賃金であり、基本手当日額の給付率・上限額の設定に当たって再就職時賃金の動向を反映するのは、生活の安定を図りつつ再就職を支援するという制度の趣旨に反するのではないか。
 中高年の非自発的失業者が増大しているが、この層は非常に再就職が厳しく、低い再就職時賃金でも生活のために就職しているのが実態ではないか。支給終了後1ヶ月に再就職時期が集中しているのも、賃金をはじめとする大きなミスマッチの下で、失業者がギリギリの努力をし、これに対し、雇用保険がセーフティ・ネットとして機能していることを示している面もあるのではないか。雇用保険の給付水準が高いためもらい切るまで再就職をしないのが、本当に大多数の実態と考えられるのか。
 基本手当日額の高い層は中高年層とかなり重なるのではないか。そうだとすれば、現状でも痛みが集中しているこの層に更に痛みを与えるようなことは雇用政策として正しい方向とはいえないのではないか。
 65歳までの雇用就業機会の確保は、少子・高齢化が進行する下で雇用政策の中期的な中心課題である。60歳時賃金日額算定の特例は、60歳以上の労働市場の需給関係が非常に厳しい現実を踏まえ、「定年等による離職→基本手当の受給→非労働力化」という悪循環を是正し、高齢労働者の継続雇用、再就職を促進する機能を持っている。この特例の見直しについては、雇用政策と雇用保険制度の役割分担の在り方、雇用政策全体の中でどうするのかを含めた議論が必要ではないか。

   (ロ) 所定給付日数
 所定給付日数については、平成13年度の制度改正により、中高年齢者を中心に倒産・解雇等による離職者に給付を重点化したが、更なる問題はあるかとの観点から、次のような議論が行われた。
 所定給付日数について、前回の改正で一定の見直しを行ったが、その後の状況を踏まえて更に補正すべき点があるか。
 年齢階層や離職理由にかかわらず、所定給付日数が長いほど給付期間中の就職率が低くなっていること等からすると、現行の所定給付日数には再検討の余地があるのではないか。
 年齢層が同じでも所定給付日数が長いほど給付期間中の就職率が低くなっているのは、制度の一部に不適切な部分があるからではないか。
 特に離職前から予め再就職の準備ができるような特定受給資格者等以外の者については、自己責任の観点も踏まえ、さらなる給付日数の縮減等の見直しを行うことについてどう考えるか。

 一方、次のような議論もあった。
 給付期間中の就職率は、雇用・失業の構造変化や労働市場の状況が大きな決定要因ではないか。雇用保険制度の不備というより、雇用政策全体との関連で検討していく必要があるのではないか。
 中高年非自発的失業者を中心に、受給期間中の再就職が非常に厳しくなっている状況にあるのではないか。

  ロ 失業認定等

   (イ) 失業認定等基本手当の受給手続においては、雇用保険制度本来の機能である生活の安定と早期再就職の実現に反するような事態が生じている場合もあるのではないかとの観点から、次のような議論が行われた。
 基本手当については、失業認定の厳格化を図り、制度の趣旨に適う求職者に給付されるよう、失業の認定において、例えば直近の認定日以後に求人への応募等の求職活動を一定回数以上行った実績を確認できた場合に支給することについてどう考えるか。また、給付制限期間中の求職活動実績を初回の失業認定に当たって考慮することについてどう考えるか。
 求職活動の確認として、ハローワーク又は民間の需給調整機関等による職業紹介の実績等を失業の認定時に確認することにより行うことについてどう考えるか。
 受給者の求職活動実績の確認等により失業認定の厳格化を図り、制度の趣旨にかなう求職者に給付されるようにする必要があるのではないか。雇用保険の給付は退職金ではないので、結婚退職をする人や、年金で暮らす予定の人については失業認定を厳しくするべきではないか。
 不幸にも保険事故が起きた場合には公平な対処が重要である。明らかに労働の意思のない者については支給すべきではないし、明らかに自己都合により離職した者や高齢者についてはどの程度就職の意思をもって求職活動しているのか見えない者もいるので、公平という観点から問題のあるケースもあるのではないか。
 再就職に向けた意欲を喚起するため、雇用保険受給者が能力開発を含め誠実かつ熱心に求職活動を行うべき旨を法令上規定するとともに、雇用保険法第32条の給付制限規定(紹介拒否、職業訓練の受講拒否、職業指導拒否による1ヵ月の給付制限)を活用することについてどう考えるか。この場合において、同条の給付制限規定の運用基準の見直しについてどのように考えるか。

 一方、次のような議論もあった。
 ハローワークのサービスに係る問題点をそのままにして失業認定の見直しを行うとすれば国民的合意が得られないのではないか。
 基本手当は、再就職の意欲がある者を支援する制度であるが、失業認定に当たっては再就職に向け精一杯努力しても厳しい現実におかれている失業者について、運用上十分な配慮が必要ではないか。
 また、再就職支援の実効があがらないまま失業認定だけが威圧的にならないようにする必要があるのではないか。
 再就職の意思の確認は当然であるが、「結婚退職」、「年金で暮らす予定の人」などを予め特定して失業認定の仕方を区別するのはおかしいのではないか。また、そもそも特定できるのか。
 自己都合離職者や高齢者が再就職の意思がないと決めつけるのはおかしいのではないか。「公平の観点」が仮に自己都合退職者に給付をしないということなら、退職の自由の保障に欠けることとなり、負担も、労使折半とは異なってくるのではないか。
 公平という観点では、倒産・解雇等の理由があるにもかかわらず特定受給資格者とされないようなことが生じていないか、運用状況を調べる必要があるのではないか。
 法令上誠実かつ熱心に求職活動を行うべき旨を規定することについては、当たり前の内容であり、現在の厳しい雇用失業情勢の下再就職に苦労している失業者の気持ちを考えれば、書く意味があるのか。

   (ロ) 制度本来の趣旨に反し不正受給の発生が後を絶たない現状を改めていく必要があるのではないかとの観点から、次のような議論が行われた。
 支給期間中の就労の有無について失業者の申告の真実性を確保する方策についてどう考えるか。例えば事業主の報告義務の創設や、関連する行政上の情報の交換などの方策についてどのように考えるか。
 不正受給事案の把握に努めるとともに、確認された事案に対しては厳正に対処すべきではないか。納付命令の要件・効果の拡充や罰則の強化等サンクション強化についてどう考えるか。

  ハ 職業紹介等
 雇用保険受給者に対し、職業紹介、職業相談が必ずしも十分に行われていないのではないか、特に給付制限期間中について対応の強化を図るべきではないかとの観点から、次のような議論が行われた。
 ハローワークにおいては、雇用保険支給業務と職業紹介・相談業務とを一体的に実施するほか、職業訓練やカウンセリングとも組み合わせて、雇用保険受給者の早期再就職を支援しているが、より効果的に支援対策を展開するために見直しを行うべき点はないか。
 その際には、(1)民間需給調整機関との積極的連携・活用、(2)自ら積極的に求職活動を行おうとする者に対するインターネットを活用した情報提供等の支援、(3)カウンセリング体制の整備をはじめとする国のセーフティネットとしての機能の強化に留意すべきではないか。
 早期再就職の実現に向け、雇用保険の支給期間中について、ハローワークが求職活動に対する様々な支援を積極的に行うべきではないか。特に、給付制限期間中についても、求職者が積極的に求職活動を行えるよう強力な支援を行うべきではないか。
 この場合、民間職業紹介機関、労働者派遣機関をはじめとする民間機関との連携・活用にも配慮すべきではないか。
 特に、中高年齢者等について、失業期間が長期化しないよう、受給期間の早い段階から積極的に再就職に向けた取組を進めることが必要ではないか。
 ハローワークの情報については、インターネットを活用し、求人等の情報提供機能の強化を図り(求人企業名の公開等の実施)、自ら積極的に求職活動を行おうとする者を支援していくべきではないか。
 情報提供機能の強化によりハローワークの窓口の混雑を避け、雇用保険受給者の職業紹介におけるカウンセリング(職業相談)機能の強化、体制整備を図り、いわゆるトライアル雇用紹介の積極的な実施を行うとともに、求人企業に対するサービスの向上を図るなど、国のセーフティネットとしての機能の強化を図っていくべきではないか。
 「トライアル雇用紹介」については、その内容を明らかにするとともに運用上の留意点等について詰めていくべきことがあるのではないか。
 ハローワークにおける情報提供機能やカウンセリング機能、求人者サービスの強化、体制整備等については、できることは早期に実施し、再就職支援につなげていくべきではないか。また、民間需給調整機関との積極的な連携・活用を進めることも必要ではないか。

  ニ 就職促進給付
 現行の再就職手当は「安定した職業」に就いた場合に支給されているが、就業形態の多様化が進んでいる現状を踏まえ、多様な形態による就労や多様なマッチングの仕組みを支援するよう、再就職のインセンティブとなる仕組みを見直すべきではないかとの観点から次のような議論が行われた。
 就職意欲の喚起、長期失業の防止、OJT的な機能の発揮等の観点から、例えば紹介予定派遣やいわゆるトライアル雇用紹介による就労、派遣就業、パートタイム、契約社員などと再就職手当制度との関係についてどう考えるか。
 早期の再就職を一層促進する観点から、現行の再就職手当及び常用就職支度金を例えば下記のように見直すことについてどう考えるか。
 規制改革推進3カ年計画を踏まえ、ハローワークと民間職業紹介所の紹介による再就職手当及び常用就職支度金の支給の仕組みを統一する。
 再就職手当と常用就職支度金を一本化する。
 安心して再就職できるよう、再就職手当を受給後すぐ、予め再就職準備を行うことが困難な理由により離職した場合、受給期間に一定の配慮をすることについてどう考えるか。
 ハローワークによらない自由な求職活動を希望する求職者に対する取扱いについてどう考えるか。
 再就職手当の政策効果についてどう考えるか。再就職手当がなくとも、あるいは今より低額であっても早期再就職していたような者が受給しているのではないか。その場合、再就職手当の拡充は雇用保険財政の悪化を招くだけではないか。

  ホ 教育訓練・能力開発
 教育訓練給付については、その前提となる保険事故の性格が、他の失業等給付とは相当異なることに留意する必要があるのではないか、また、教育訓練給付や公共職業訓練については、政策効果を検証し、確実に職業能力の向上や再就職に結びつくものとなるよう不断に見直しをすべきではないかとの観点から、次のような議論が行われた。
   (イ) 教育訓練給付
 教育訓練給付の政策効果はどうか。特に講座指定の際に念頭に置いた政策効果を十分に実現できているか。
 教育訓練給付の対象講座を雇用の継続、安定に資することが明確であるものに限定するため、資格取得等訓練目標が明確で客観的な、効果検証が可能なものに限るなど指定基準や支給要件についてさらなる見直しを行うべきではないか。
 現行制度の実績等を勘案するとともに、適切な自己負担を求めることにより受講者本人の慎重かつ的確な選択を促すため、教育訓練給付の給付率(現行8割)を縮減し、併せて上限額を見直すことについてどう考えるか。この場合、自己負担能力の高低に一定程度配慮し、在職者と離職者とで給付率を異ならせることについてどう考えるか。
 教育訓練給付は、キャリアアップという観点からすれば、失業等給付になじまないのではないか。また、制度の意義は認めるとしても給付率は高すぎるのではないか。

   (ロ) 公共職業訓練
 公共職業訓練については、先の臨時国会で設けられた中高年齢者向け特例制度も活用しつつ、施設内訓練、委託訓練ともに確実に再就職に結びつくものとなるよう、再就職率等による政策評価も行いつつ、技術革新等訓練ニーズの変化に対応した機動的な訓練コースの設定・見直しを行うべきではないか。
 公共職業訓練における受講指示については、訓練受講による再就職可能性等を踏まえ、より一層的確な受講指示に努めるべきではないか。
 公共職業訓練受講者に対する職業指導、職業紹介等の徹底を図り、就職に着実に結びつけるようにすべきではないか。
 早期受講指示(所定給付日数の3分の2以前に開始される訓練について指示)を徹底するべきではないか。さらに、訓練の受講指示について求職者のおかれている状況や意欲、能力を踏まえ、確実に再就職に結びつく内容・時期の訓練受講を確保するべきではないか。

   (ハ) 教育訓練・能力開発に係る留意事項
 教育訓練メニューを政策的に決めるに当たっては、どのような産業でどのような離職者が出てどのようなところへ流れていくのかというマクロイメージを基にすべきではないか。
 教育訓練においてどういうカリキュラムを提示すべきかを最もよく知る産業界とヨコの連携をとるなど戦略性をもって取り組む必要があるのではないか。
 能力開発施策(特に雇用保険三事業のうち能力開発事業として実施されているもの。)の見直しをドラスティックに行い、その上で給付の見直しを議論すべきではないか。

  ヘ 雇用政策との関連
 雇用政策の方向性を踏まえた形で雇用保険制度の在り方について検討を進めるべきではないかとの観点から、次のような議論が行われた。
 雇用保険制度の最終目的は求職活動を行っている失業者を生活の安定を図りつついかに再就職に結びつけるかであり、雇用保険給付という形に限られず、多様な雇用就業機会の確保、需給調整機能の強化、能力開発の充実などの総合的な対応を図ることが重要ではないか。また、そのような雇用政策全体の方向性と合わせて雇用保険制度の在り方についても議論すべきではないか。
 失業がない形で再就職を実現することが最も望ましいことにかんがみ、関係法令に、在職者が求職活動を円滑に行えるようにする等のため、必要な規定を設けること等についてどう考えるか。

 一方、次のような議論もあった。
 在職中の求職活動や需給調整制度の強化は重要であるが、雇用保険制度は事後的なセーフティ・ネットとしての側面を有しており、事前に一般的な措置を整備することにより、給付内容等を薄くするとすれば、おかしいのではないか。
 例えば仕事上や人間関係上の事情で退職し、仕事を探す場合、事前に在職中の求職活動を要するとすることや事後的な給付内容を削減することは、労働者の退職の選択権を実質的に制約することになるのではないか。このことは、使用者との関係で弱い立場におかれがちな労働者の立場を公平なものにしようとするという労働関係法の理念との関係で問題はないのか。
 なお、雇用対策法において、雇用に関し、政策全般にわたり必要な施策を総合的に講ずることにより完全雇用の達成に資することが雇用政策の目的として掲げられていることを踏まえた検討を行うべきではないか。

 (2) 多様な働き方への対応
 産業構造や勤労者意識などの変化に対応し、就業形態の多様化が進展する中で、労働者個々人の主体的な選択を通じて雇用の確保あるいは労働力の最適な配置が図られるようにしていくことが重要となっており、現行雇用保険制度について、就業形態に関する個々人の選択の余地を実質的に制約したり、選択に対する中立性において問題となる点がないか見直しを行う必要があるのではないかとの観点等から、次のような議論が行われた。
 就業形態の多様化に対応した適用の在り方については、前回の改正においてパートタイム労働者及び派遣労働者に係る見直しが行われ、平成13年4月から新たな適用基準となったばかりであることに留意すべきではないか。
 基本手当は、一般被保険者と短時間労働被保険者とで給付内容(所定給付日数、基本手当日額の下限額)を異ならせる仕組みをとっているが、このような仕組みについて、パートタイム労働と常用労働との間を行き来するケースや、一般と短時間の取扱い上のバランスに配慮して、見直す必要はないか。
 高年齢求職者給付金も基本手当と同様、一般被保険者と短時間労働被保険者とで給付内容を異ならせる仕組みをとっているが、同様に見直す必要はないか。

 一方、次のような議論もあった。
 制度の中立性は一つの考え方ではあるが、雇用保険制度の中でどの程度ウエイトを置くべきか。

 (3) 再就職の困難な状況等への対応

  イ 基本手当等
 雇用失業情勢が依然として厳しい中、早期再就職の促進、労働力需給ミスマッチの解消等のため、「総合雇用対策」をはじめ種々の雇用対策が講じられてきているが、雇用保険制度本体の検討に当たっても、職業相談・職業紹介や職業能力開発等の施策を通じて労働市場における需給調整機能の拡充をさらに図っていくことを前提として、支援を要する者に対する再就職のためのセーフティ・ネットとしてどのような見直しが必要か検討すべきではないかとの観点から、次のような議論が行われた。

   (イ) 基本手当
 所定給付日数について、前回の改正で一定の見直しを行ったが、その後の状況を踏まえて更に補正すべき点があるか。[再掲]
 年齢階層や離職理由にかかわらず、所定給付日数が長いほど給付期間中の就職率が低くなっていること等からすると、現行の所定給付日数には再検討の余地があるのではないか。[再掲]
 特に離職前から予め再就職の準備ができるような特定受給資格者等以外の者については、自己責任の観点も踏まえ、さらなる給付日数の縮減等の見直しを行うことについてどう考えるか。[再掲]
 特定受給資格者の判断基準について、制度改正後の状況変化を踏まえ、見直すべき点はないか。特に、現在の特定受給資格者の中に、再就職の準備を行うことが可能な者はいないか。こうした者がいるとすれば、一般の受給資格者として取り扱うべきではないか。
 再就職の困難な状況への対応としては、訓練延長給付制度を活用することを基本とすべきではないか。
 訓練延長給付受給期間中の給付水準を異ならせることについてどのように考えるか。

 一方、次のような議論もあった。
 給付期間中の就職率は、雇用・失業の構造変化や労働市場の状況が大きな決定要因ではないか。雇用保険制度の不備というより、雇用政策全体との関連で検討していく必要があるのではないか。[再掲]
 中高年非自発的失業者を中心に、受給期間中の再就職が非常に厳しくなっている状況にあるのではないか。[再掲]
 中高年のリストラによる離職者が急激に増え、非常に再就職が厳しい状況にあるが、離職者をできるだけ発生させない雇用政策についてどう考えるのか。
 「予め再就職の準備ができるかどうか」を給付日数の基準の考え方とするのではなく、事業主の責による離職など労働者の意図に反して離職を余儀なくされたかどうかを考え方とするのが適当ではないか。
 使用者の責によるものではないが全て労働者個人の責ともいえない、家族的責任との関係で離職せざるを得なかった者については、特定受給資格者として扱っていくべきではないか。
 自発的理由による離職者の給付をさらに減らしてもよいという考え方は、使用者との関係で弱い立場におかれがちな労働者の立場を公平なものにしようとするという労働関係法の理念に照らすと、離職理由の如何を問わず給付することで、労働者の退職の自由を側面から支援するという雇用保険制度が有してきた機能を大きく変質させることになるのではないか。また、その場合、労使折半の拠出を基本としてきたことについて整理が必要になるのではないか。

   (ロ) 職業紹介等
 早期再就職の実現に向け、雇用保険の支給期間中について、ハローワークが求職活動に対する様々な支援を積極的に行うべきではないか。特に、給付制限期間中についても、求職者が積極的に求職活動を行えるよう強力な支援を行うべきではないか。
 この場合、民間職業紹介機関、労働者派遣機関をはじめとする民間機関との連携・活用にも配慮すべきではないか。
 特に、中高年齢者等について、失業期間が長期化しないよう、受給期間の早い段階から積極的に再就職に向けた取組を進めることが必要ではないか。[再掲]
 ハローワークの情報については、インターネットを活用し、求人等の情報提供機能の強化を図り(求人企業名の公開等の実施)、自ら積極的に求職活動を行おうとする者を支援していくべきではないか。[再掲]
 情報提供機能の強化によりハローワークの窓口の混雑を避け、雇用保険受給者の職業紹介におけるカウンセリング(職業相談)機能の強化、体制整備を図り、いわゆるトライアル雇用紹介の積極的な実施を行うとともに、求人企業に対するサービスの向上を図るなど、国のセーフティネットとしての機能の強化を図っていくべきではないか。[再掲]
 ハローワークにおける情報提供機能やカウンセリング機能、求人者サービスの強化、体制整備等については、できることは早期に実施し、再就職支援につなげていくべきではないか。また、民間需給調整機関の積極的な活用を進めることも必要ではないか。[再掲]
 雇用保険制度の最終目的は求職活動を行っている失業者を生活の安定を図りつついかに再就職に結びつけるかであり、雇用保険給付という形に限られず、多様な雇用就業機会の確保、需給調整機能の強化、能力開発の充実などの総合的な対応を図ることが重要ではないか。また、そのような雇用政策全体の方向性と合わせて雇用保険制度の在り方についても議論すべきではないか。[再掲]

   (ハ) 教育訓練・能力開発
 公共職業訓練については、先の臨時国会で設けられた中高年齢者向け特例制度も活用しつつ、施設内訓練、委託訓練ともに確実に再就職に結びつくものとなるよう、再就職率等による政策評価も行いつつ、技術革新等訓練ニーズの変化に対応した機動的な訓練コースの設定・見直しを行うべきではないか。[再掲]
 公共職業訓練における受講指示については、訓練受講による再就職可能性等を踏まえ、より一層的確な受講指示に努めるべきではないか。[再掲]
 公共職業訓練受講者に対する職業指導、職業紹介等の徹底を図り、就職に着実に結びつけるようにすべきではないか。[再掲]
 早期受講指示(所定給付日数の3分の2以前に開始される訓練について指示)を徹底するべきではないか。さらに、訓練の受講指示について求職者のおかれている状況や意欲、能力を踏まえ、確実に再就職に結びつく内容・時期の訓練受講を確保するべきではないか。[再掲]

   ロ 雇用継続給付
 厳しい雇用失業情勢の下で、雇用が継続している者に対する給付について、離職者に対する給付との均衡や制度創設後の雇用保険制度をめぐる環境の変化等の観点から見直す必要があるのではないかとの観点から、次のような議論が行われた。
 失業等給付には新たに様々な給付が生まれてきたが、雇用保険で第一義的に救済すべき本来の失業者に対する給付に重点化していくべきではないか。
 高年齢雇用継続給付については、60歳以上の離職者に係る基本手当の所定給付日数の変更等の制度創設後の状況変化や、現在検討されている基本手当の給付水準の見直し結果も踏まえ、受給要件や給付率を含めて抜本的に見直すべきではないか。

 一方、次のような議論もあった。
 65歳までの雇用継続、年金支給開始年齢との関係で65歳までの雇用が政策の方向性ではないか。そうした中で高年齢雇用継続給付を政策的にどのように位置付けるのか検討すべきではないか。
 老齢厚生年金の支給開始年齢が60歳以上に引き上げられていく中で、60歳以上の継続雇用に労使で取り組んでいるが、労使交渉では高年齢雇用継続給付の存在を前提としており、仮に給付が引き下げられると、そうした動きに水を差すのではないか。

 (4) 三事業の見直し
 三事業は、本体給付と一体となって失業の予防及び再就職の促進等を目的として、失業の予防 、雇用状態の是正等のための事業(雇用安定事業)、労働者の能力開発を促進するための事業(能力開発事業)、職場環境の整備改善等のための事業(雇用福祉事業)の三つを柱として実施しているが、今回、早期再就職の支援等の観点から本体給付に係る制度について見直すことを踏まえ、付帯事業である三事業についても、円滑な労働移動の促進や早期再就職の支援をはじめ様々な角度から、より効率的・重点的に行われるよう見直すべきではないかとの観点から、次のような議論が行われた。
 三事業に係る各種給付金について、今後の安定した事業運営の確保に配慮しつつ、事業主の共同連帯による支援策であることを踏まえ、政策目的に沿って実効性のあるものとしていくことにより、必要な制度となるよう、さらに整理合理化するべきではないか。
 本体給付に係る制度についての見直しに合わせて、保険事故である失業を予防し、再就職の促進による給付減に資する等の付帯事業として期待される機能が十分に発揮され、雇用保険制度全体として再就職の促進等の観点からさらに有効に機能するものとなるよう、見直すべきではないか。
 前回(平成13年10月実施)の見直しの際に、4つの対策分野(注)ごとに、「重点化」及び「簡素合理化」を図ることとし、各種給付金を整理(61本→39本)し、申請・支給に係る諸手続の簡素化等を行ったところ。この見直し時における、(1)対策分野の重点化に沿って見直すこと及び(2)手法・運用面からの「簡素合理化」を図ること、の2つの視点から、再度検討を行うべきではないか。
(注)(1) 円滑な労働移動の支援・・・労働移動支援助成金 等
(2) 安定した雇用の維持・確保の支援・・・雇用調整助成金 等
(3) 良好な雇用機会の創出の支援
 ・・中小企業雇用創出人材確保助成金、地域雇用開発促進助成金等
(4) 労働力需給調整機能の強化・・・特定求職者雇用開発助成金
 上記4つの対策分野の区分を踏まえて重点化を行う場合、雇用保険の付帯事業として期待される機能(失業の予防や再就職の促進による給付減等に資すること)をより発揮する観点から、以下のような対応が考えられないか。
 「円滑な労働移動の支援」(上記(1))に係る助成金については、労働市場全体の機能を通じての失業の予防・早期再就職の促進に寄与することが期待され、より効果的に支援を行い得るよう見直しを検討すべきではないか。(その際、民間の一層の活用を図るほか、併せて、円滑な労働移動を図るため各種規制・制度の見直しも進める必要があるのではないか。)
 「安定した雇用の維持・確保の支援」(上記(2))に係る助成金については、構造改革を遅らせるとの批判があったため、前回見直し時に、急激な事業活動の縮小を余儀なくされた場合の一時的な雇用調整を支援するとの性格を明確にする改正等を行ったところ。現下の厳しい雇用失業情勢の下では、特に失業の予防のため、個別企業(グループ)の雇用維持努力の重要性は依然として失われていないことにかんがみ、景気変動への対処をはじめとする機能が的確に発揮されるよう検討する必要があるのではないか。
 「良好な雇用機会の創出の支援」(上記(3))に係る助成金については、まず、規制・制度改革により民間における雇用創出を進めるとの考え方に立ち、雇入れ助成の効果に対する批判があることも踏まえ、雇用機会の創出への支援という政策目的の達成が真に図られているか検証した上で、その在り方についてさらに見直しを検討するべきではないか。
 「労働力需給調整機能の強化」(上記(4))に係る助成金については、再就職の困難な状況等に対応し、早期再就職を促進することが期待され、職業紹介におけるカウンセリング(職業相談)機能を強化し、対象者の再就職の困難度等に応じ、対応すること等との関連も考慮し、再就職促進機能が的確に発揮されるよう検討する必要があるのではないか。
 手法・運用面から、現下の雇用情勢等に照らして、真にニーズがあるかどうかも含めて見直し、より活用される制度となるよう整理合理化するとともに、徹底した不正防止策を講ずるべきではないか。
 特に、利用実績の上がっていない助成制度や政策効果の薄い助成制度については、現在の厳しい財政状況も踏まえ、厳格に見直しを行うなど、できる限りムダを排除した整理合理化を徹底するべきではないか。
 三事業に係る各種給付金について、政策効果の観点から毎年度支給実績を当部会に報告することとすべきではないか。

 (5) 安定した制度運営の確保と当面の対応
 雇用保険制度が、前回改正後の予想を超える雇用失業情勢の悪化や、中高年労働者を中心とする非自発的離職者の増加等短期的な雇用・失業動向に加え、労働移動の増加、雇用就業形態の多様化等中長期的な労働市場の構造的変化に対応できるようにするとともに、積立金や弾力条項など制度の安定的運営を確保するための制度が十分に機能を発揮できるようにし、将来にわたり雇用のセーフティネットとして安定的に機能するようにする必要があるのではないかとの観点から、次のような議論が行われた。
 給付と負担の見直しの検討に当たっては、まず、給付面において、受給者の生活の安定及び早期再就職の促進をはじめとする制度本来の機能が発揮されるようにすることを主眼とすべきではないか。また、負担面の見直しは、見直し後の給付面の在り方を前提として検討すべきではないか。
 雇用保険財政において、弾力条項による保険料引上げの発動基準が、積立金が失業等給付費に相当する額を下回った場合とされていることにかんがみ、必要な積立金水準を達成するまでの間は基本的には単年度黒字となるような収支構造を目指し、必要な積立金水準の確保を図るとともに、将来、積立金が必要な水準に達した後もその水準を堅持することを中期的な雇用保険財政の運営方針とすべきではないか。
 弾力条項については、基本受給率の変動幅が雇用変動の幅の拡大等に伴い拡大してきていることなどを踏まえ、最初から資金繰りが困難となる事態や借入金に依存するような事態の発生を防ぎ、中期的に安定した雇用保険制度の運営を確保するため、±2/1000という引上げ・引下げ幅を見直していくことについてどう考えるか。
 雇用保険制度における国庫負担の意義や在り方についてどう考えるか。

 一方、次のような議論もあった。
 給付と負担の議論の前提として、前回の制度改正から2年も経たずにこのような事態になったことの経過や、雇用政策との関係を含めた整理をしなければ、国民の理解は得られないのではないか。

4 当面の対応
 ○ 雇用失業情勢、雇用保険受給者の動向によっては今後さらに失業等給付費が増大するおそれがあり、政府として総合雇用対策等に基づく雇用対策に万全を期すことは当然であるが、雇用保険制度としてもこれをできる限り抑制する努力が必要であることや、雇用保険財政の現状を踏まえ、現行の制度の範囲内で実施することが可能な措置については、制度本体の改正に先行して早急に実施に移すことが適当である。なお、労使においても雇用維持に努めることが重要であり、政府・労使団体はそのことの周知に努めるべきである。
 ○ 雇用保険制度の機能を適切に発揮する観点から、受給者の早期再就職の促進や給付の的確な実施は雇用保険財政の状況を問わず必要なことであるが、これまでの議論にかんがみ、特に次のような措置については、早急に実施すべきである。
 雇用保険受給者について、給付制限期間中も含め、ハローワークが求職活動に対する積極的な支援を行う。
 この場合、民間職業紹介機関、労働者派遣機関をはじめとする民間機関との連携・活用に配慮する。
 ハローワークの情報について、インターネットを活用し、求人等の情報提供機能の強化を図り(求人企業名の公開等の実施)、自ら積極的に求職活動を行おうとする者を支援する。
 ハローワークにおけるカウンセリング機能の充実を図る。
 基本手当が制度の趣旨に適う求職者に給付されるよう、失業の認定において、直近の認定日以後に求人への応募等の求職活動を一定回数以上行った実績を確認できた場合に支給するとともに、給付制限期間中の求職活動実績を初回の失業認定に当たって考慮するなど失業認定の厳格化を図る。この場合、民間需給調整機関による職業紹介等の実績を活用する。また、同一事業主の下で離職・就職を繰り返す求職者については、失業認定を慎重に行う。
 教育訓練給付の対象講座を雇用の継続、安定に資することが明確であるものに限定するとともに、政策効果を客観的に検証し、指定基準についてさらなる見直しを行う。
 公共職業訓練について、再就職率等による政策評価も行いつつ、技術革新等訓練ニーズの変化に対応した機動的な訓練コースの設定、見直しを行う。
 求職者の置かれている状況や意欲、能力を踏まえ、確実に再就職に結びつく内容、時期の訓練を選定の上、的確な受講指示を行う。
 公共職業訓練受講者等に対する職業指導、職業紹介等の徹底を図り、就職に着実に結びつくようにする。
 早期受講指示(所定給付日数の原則3分の2以前に開始される訓練の受講指示)を徹底する。
 雇用保険法第32条の給付制限規定(紹介拒否、職業訓練の受講拒否、職業指導拒否による1ヵ月の給付制限)の運用基準の見直しを行う。
 私立大学をはじめ未適用事業所に対する適用促進を着実、迅速に進める。
 被保険者が自らの雇用保険加入手続が採られているかどうかの確認の手続等を明確化する。
 労働保険料の適正な徴収を徹底する。
 不正受給事案の把握に努め、確認された事案に対しては厳正に対処する。
 ○ 以上の運用改善を実施するほか、総合雇用対策等に基づく雇用対策を迅速かつ適切に実施することを前提として、雇用保険制度のおかれている現下の状況にかんがみ、制度上予定されている収支改善措置である弾力条項については、可能な限り早急に(本年10月を目途)、制度上可能な2/1000の引上げを発動することはやむを得ないものと認める。

5 今後の対応
 ○ 現時点では、以上のように、基本認識及び留意すべき事項においては関係者が認識を共有しているが、個別の検討項目においては十分具体化が進んでいない部分があり、関係者の意見に相当程度の乖離が見られる部分もあることから、当部会としては、上記の見直しの視点等を基に、今後さらに具体的な検討を深めていく必要があると考える。
 ○ 上記4の当面の対応として一致を見た事項については、厚生労働省においてできるだけ速やかに成案を得、必要なものについては労働政策審議会への諮問等所要の手続を経て逐次実施に移すべきである。


雇用保険部会の開催状況(平成14年度)


○ 第2回(4月5日(金))
・最近の雇用保険制度の運営状況について

○ 第3回(4月24日(水))
・最近の雇用保険制度の運営状況について

○ 第4回(5月16日(木))
・雇用保険受給者の早期再就職の促進について

○ 第5回(5月30日(木))
・多様な働き方への対応について
・再就職が困難な状況等への対応について

○ 第6回(6月5日(水))
・雇用保険制度の在り方の検討に向けたヒアリング
 (ハローワーク新宿)

○ 第7回(6月13日(木))
・雇用保険受給者の早期再就職の促進について
・多様な働き方への対応について
・再就職の困難な状況等への対応について

○ 第8回(6月21日(金))
・安定した制度運営の確保と当面の対応について
・三事業の見直し等について

○ 第9回(7月4日(木))
・雇用保険制度の見直しについて

○ 第10回(7月11日(木))
・雇用保険制度の見直しについて

○ 第11回(7月19日(金))
・雇用保険制度の見直しについて


雇用保険部会委員名簿(五十音順)

公益代表
おおさわ まちこ
大沢 真知子
日本女子大学人間社会学部教授

 ○
すわ やすお
諏訪 康雄
法政大学社会学部教授
ちゅうま ひろゆき
中馬 宏之
一橋大学イノベーション研究センター教授
なかくぼ ひろや
中窪 裕也
千葉大学法経学部教授
はやし のりこ
林 紀子
弁護士

雇用主代表

 ※
えんどう としゆき
遠藤 寿行
日本経済団体連合会労働政策本部
雇用・労務管理グループ長
なかじま よしあき
中島 芳昭
日本商工会議所理事・事務局長
はらかわ こうじ
原川 耕治
全国中小企業団体中央会調査部長
ひわたり さとこ
樋渡 智子
日本経済団体連合会国民生活本部国民生活グループ長
兼労働政策本部雇用・労務管理グループ副長
ふじい よしひで
藤井 善英
川崎製鉄(株)人事労政部長
ふじた えいいち
藤田 栄一
住友重機械工業(株)取締役執行役員副社長

労働者代表

 ※
くぼ なおゆき
久保 直幸
ゼンセン同盟常任中央執行委員
くりた ひろし
栗田 博
日本食品関連産業労働組合連合会中央執行委員
こだま あつし
児玉 厚
全国一般労働組合書記長
とよしま えいざぶろう
豊島 栄三郎
国公関連労働組合連合会書記次長
なかむら よしお
中村 善雄
日本労働組合総連合会雇用労働局長
わたなべ きょうこ
渡辺 京子
JAM埼玉副書記長

注) ○=部会長
※=専門委員


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