当部会では、平成13年4月1日の改正雇用保険法の施行以後、雇用保険を取り巻く状況が大きく変化する中で、平成14年4月5日から、雇用保険制度の在り方について議論を重ねてきた。今般、その結果を「雇用保険制度の見直しについて(中間報告)」としてとりまとめたので報告する。
平成14年7月19日
労働政策審議会職業安定分科会 雇用保険部会 部会長 諏訪 康雄 |
職業安定分科会
分科会長 諏訪 康雄 殿
第1 雇用保険制度の現状
1 雇用保険制度の概要
(1) 目的等
○ | 雇用保険制度は、労使連帯からなる雇用のセーフティ・ネットであり、労働者の生活及び雇用の安定を図るとともに、求職活動を容易にする等その就職を促進することを目的とし、労使折半で負担する保険料及び国庫負担を財源とする「失業等給付」と、付帯事業として失業の予防、雇用状態の是正及び雇用機会の増大、労働者の能力の開発向上その他労働者の福祉の増進を図ることを目的とし、使用者が財源を負担する「三事業」からなる。 |
(2) 失業等給付
イ 求職者給付
○ | 失業等給付の中心をなす求職者給付は、被保険者が離職し、失業状態(労働の意思及び能力を有するにもかかわらず、職業に就くことができない状態)にある場合に必要な給付を行い、その生活の安定を図りつつ再就職を援助するものである。 |
○ | 一般求職者給付のうち基本手当については、平成13年4月以降、給付の重点化を図る観点から、定年退職者を含め離職前から予め再就職の準備ができるような者に対する所定給付日数を圧縮(90〜180日)する一方、特定受給資格者(倒産・解雇等により離職を余儀なくされた者)には中高年齢層を中心に手厚い所定給付日数(90〜330日)が確保されている。 |
○ | 短時間労働被保険者であった者の所定給付日数は、それ以外の者より30日程度短くなっている。 |
○ | 給付率は、離職前の賃金日額に応じて6〜8割(60歳以上は5〜8割)とされている。なお、60歳以上の者については、離職前の賃金日額に代えて60歳時点の賃金日額を用いる特例が設けられている。 ○ 賃金日額には、年齢一律の下限(4,250円(短時間労働被保険者は2,160円))と、年齢区分別の上限(30歳未満14,590円、30歳以上45歳未満16,210円、45歳以上60歳未満17,840円、60歳以上65歳未満19,450円)が定められている。 |
○ | 「失業」は「労働の意思」という主観性を伴う概念であるため、求職者給付の支給に当たっては、公共職業安定所において4週間ごとに受給者が失業状態にあることの認定を行うとともに、受給者が公共職業安定所の行う職業紹介等を拒んだ場合には求職者給付の支給を制限するなど、制度の趣旨に適った支給のための仕組みが設けられている。 |
○ | 延長給付制度として、訓練延長給付、広域延長給付及び全国延長給付が設けられている。なお、訓練延長給付に関連して、平成14年1月1日から平成17年3月31日までの臨時特例の措置として、45歳以上60歳未満の中高年齢者に対して、訓練延長給付を受けながら複数の訓練受講(最長2年間)ができる制度が設けられている(「経済社会の急速な変化に対応して行う中高年齢者の円滑な再就職の促進、雇用機会の創出等を図るための雇用保険法等の臨時の特例措置に関する法律」)。 |
○ | 一般求職者給付以外の求職者給付として、65歳以上の者に係る高年齢求職者給付、短期雇用特例求職者給付及び日雇労働求職者給付がある。 |
ロ 就職促進給付
○ | 雇用保険受給者の再就職を促進するための給付として、再就職手当及び常用就職支度金がある。 |
○ | 再就職手当は、受給者の早期再就職意欲を喚起するため、基本手当の支給残日数が一定以上である場合において、受給資格者が安定した職業(1年を超えた雇用が確実であること等が要件)に就いたときに支給される。 |
○ | 常用就職支度金は、受給資格者等のうち就職困難者が安定した職業に就いた場合に支給される。 |
○ | 再就職手当の一部及び常用就職支度金は、公共職業安定所の紹介により就職したことが支給要件となっている。 |
ハ 教育訓練給付
○ | 教育訓練給付は、労働者が主体的に能力開発を行うことを支援するため、被保険者等が厚生労働大臣の指定する教育訓練を修了した場合に、当該教育訓練費用の8割(上限30万円)を支給するものである。 |
○ | この給付は、職務に必要とされる知識・技能の変化、労働移動の増加等に伴い、労働者の雇用の安定及び就職の促進を図っていくためには、事業主の行う職業訓練や公共職業訓練に加え、労働者自らが主体的に能力開発に取り組むことが必要となっており、その費用負担に対応するため、失業等給付の一環として創設された(平成10年12月施行)。 |
ニ 雇用継続給付
○ | 高年齢雇用継続給付は、60歳以上65歳未満の期間において賃金が60歳時点に比して15%を超えて低下した場合に、原則賃金の25%を65歳に達するまでの期間支給するものである。 |
○ | 育児休業給付及び介護休業給付は、育児休業又は介護休業を取得した被保険者に対し、休業前賃金の40%を支給するものである。 |
○ | これらは、高齢期における労働能力の低下や通常勤務の困難化等に伴う賃金低下あるいは育児休業・介護休業の取得に伴う賃金の全部又は一部の喪失を、雇用継続が困難になるという意味で「失業」に準じた事故ととらえ、これに対し保険給付を行い失業を回避することを目的として創設された(高年齢雇用継続給付及び育児休業給付は平成7年4月、介護休業給付は平成11年4月施行)。 |
(3) 三事業
○ | 三事業(雇用安定事業、能力開発事業及び雇用福祉事業)は、労働者の雇用の安定、能力の開発向上、福祉の増進を目的とした雇用保険の付帯事業であるが、雇用保険制度本体の保険事故である「失業」の予防(円滑な労働移動を含む。)、失業した場合の積極的な再就職の促進などを通じて失業等給付を減少させる効果を有しており、失業等給付とあいまって、我が国雇用対策に大きな役割を果たしている。 |
○ | なお、かつては移転就職者用宿舎及び福祉施設の設置・運営を雇用福祉事業として行っており、具体的には雇用促進事業団が業務を行っていたが、平成10年度以降新設を打ち切り、雇用促進事業団を解散し雇用・能力開発機構を設立した際(平成11年10月)には法律上の業務としても廃止され、施設の新規設置は行われていない。 現在は、雇用・能力開発機構法に基づき、同機構が既存施設の譲渡業務及び譲渡までの間の管理運営業務を行っている。また、平成13年12月19日に閣議決定された「特殊法人等整理合理化計画」により、「勤労者福祉施設は、廃止期限を明確にし(遅くとも改革期間内)、特に自己収入で運営費さえも賄えない施設については、できるだけ早期に廃止する。移転就職者用宿舎は、現に入居者がいることを踏まえた早期廃止のための方策を検討し、できるだけ早期に廃止する。」と定められ、現在、この方針に則って具体的処理が進められている。 |
(4) 負担
イ 失業等給付
○ | 失業等給付に係る保険料率は、賃金の原則12/1000(労使折半)とされている。また、求職者給付の一部及び雇用継続給付に対しては一定の国庫負担がなされており、その割合は、求職者給付費の原則4分の1、雇用継続給付費の8分の1とされている。 |
○ | 雇用失業情勢の変化に機動的に対応して雇用保険制度の安定的運営を確保するため、積立金制度が設けられている。さらに、積立金の額が失業等給付費の額の2倍を超え、又は1倍を下回った場合には、労働政策審議会の意見を聴いて保険料率を原則料率±2/1000の範囲で変更できる「弾力条項」が設けられている。 |
○ | 失業等給付費を支弁するため必要があるときは、「労働保険特別会計法」に基づいて借入金をすることができる。この借入金は、金利も含めて後の保険料負担により償還する必要がある。 |
ロ 三事業
○ | 三事業の保険料率は原則3.5/1000(使用者負担)とされている。 |
○ | 雇用失業情勢の変動の影響を強く受ける雇用安定事業については、三事業の決算上の剰余金を積み立て、雇用安定事業費を支弁するため必要なときに使用することができる「雇用安定資金」制度が設けられている。 |
2 適用給付等の現状
(1) 適用状況
○ | 雇用保険の適用事業所数は、平成13年度において約203万事業所(年度月平均)となっている。 |
○ | 被保険者数は、平成13年度において約3,390万人(年度月平均)となっている(短期特例・日雇を除く。)。 被保険者数は平成10年度以降概ね横ばいとなっているが、平成13年4月の短時間労働者に係る適用要件の見直しの影響等により、短時間労働被保険者数は対前年30%以上の極めて高い伸びを見せている(平成13年度は約128万人(年度月平均))。 |
(2) 失業等給付の状況
○ | 雇用失業情勢の厳しさを反映して、基本手当の受給者実人員(月平均受給者数)の増加が続いており、平成13年度の受給者実人員は約111万人(対前年比7.5%増)と過去最高の規模となっている。 |
○ | 平成13年度の制度改正により給付の重点化を図り、倒産・解雇等により離職した者については手厚い給付を行うこととなったが、このような特定受給資格者の受給資格決定を受けた者に占める割合は、平成13年度平均は35.9%となった。なお、特定受給資格者割合を年齢階層別に見ると、若年層及び高齢層(60歳以上65歳未満)で低く、中高年齢層(45歳以上60歳未満)で高くなっており、特定受給資格者のうち中高年齢層の占める割合は45.2%にのぼっている。 |
(3) 三事業の状況
○ | 三事業の給付金については、平成12年度から中央職業安定審議会及び中央職業能力開発審議会(平成13年から労働政策審議会)において雇用対策の方向に即した見直しが行われた。具体的には、(1)円滑な労働移動の実現、(2)安定した雇用の維持・確保、(3)良好な雇用機会の創出、(4)労働力需給調整機能の強化、(5)労働者の主体的なキャリア形成の促進への重点化という5つの方向を踏まえ、重点化及び簡素合理化を図り、各種給付金を整理(61本→39本)し、申請・支給に係る諸手続きの簡素化等を行い、平成13年10月から実施された。 |
○ | その結果、平成13年9月、厳しさを増す雇用情勢に対処するため「総合雇用対策」に基づき緊急的な雇用対策の実施に必要な措置を講じたことによる支出増はあったものの、平成14年度予算の三事業費は、対前年度当初予算比約1割減の約6,100億円となっている。その内訳は、雇用安定事業費が約3,100億円、能力開発事業費が約1,900億円、雇用福祉事業費が1,100億円と、雇用安定事業費が半分以上を占めている。 |
3 雇用保険財政の現状
(1) 失業等給付の状況
○ | 厳しい雇用失業情勢を受けて受給者が急速に増加したこと等を受け、平成6年度以降、単年度での赤字が続き、平成6年度以降の累積赤字額は4兆円強に達している。 | ||||||||
○ | 特に平成10年度から平成12年度にかけては3年続けて1兆円前後の赤字を記録し、平成13年度に給付体系の見直し、保険料率の引上げ、国庫負担の原則復帰等の制度改正を行ったが、平成13年度(補正後ベース)は、単年度の赤字幅は縮小したものの、予想を上回る雇用失業情勢の悪化(注)により、収入約2.4兆円、支出約2.7兆円、収支差▲約3,500億円(平成12年度は▲約10,400億円)となった。
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○ | 積立金は、(1)景気変動に対応し、好況期に資金を積み立て、不況期にこれを財源として使用することで収支を必要な積立金を維持しつつ中長期的にバランスさせる、(2)年度当初の保険料納期前の期間などにおける短期的な資金需要に対応する、という2つの機能を有しているが、現在は積立金残高が大幅に減少し、双方の機能が発揮できなくなりつつある。
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(2) 三事業の状況
○ | 平成10年度から12年度にかけて厳しい雇用失業情勢に対応して必要な雇用対策を積極的に講じてきたこと等から、支出規模が経年的に拡大したことを受けて、平成13年10月に財政状況を踏まえ、政策目的の達成のため効果的・効率的な制度運営を目指し、前述の見直しを行った。平成13年度の「総合雇用対策」で追加した施策項目の平年度化分等を含めて、平成14年度予算においては、収入約5,400億円、支出約6,100億円(対前年度当初予算比約1割の削減)と、収支差▲約700億円となっている。この収支差は雇用安定資金(平成13年度末残高見込は約1,800億円(補正後ベース))の取崩しで対応することとしている。 |
第2 雇用・失業をめぐる動向
1 労働市場の動向
(1) 最近の動向
○ | 景気は、依然として厳しい状況にあるが、輸出の大幅な増加や、生産の持ち直しの動きがみられ、また、設備投資が減少しているものの、先行きについて下げ止まる兆しもみられるなど、一部に持ち直しの動きがみられるとされている。雇用は景気に遅れて動く性格があり、完全失業率も平成13年度は過去最悪の5.2%を記録し、平成14年5月も5.4%と高水準であるなど、雇用失業情勢は依然として厳しい状況にある。また、企業経営者の経済に対する厳しい見方等を反映し、企業の雇用過剰感はなお高い水準にある。 |
○ | 完全失業者の中では、失業期間が1年以上の長期失業者が増加しており、失業者の3割(最近5年間で倍増)を占めるに至っている。 また、非自発的失業者が傾向的に増加し、特に昨年11月以降、非自発的失業者数が自発的失業者数を上回り、その差も拡大している。平成14年5月の非自発的失業者の内訳をみると勤め先・事業の都合による離職者が4分の3を占めている。 |
○ | 過去3年間に離職した失業者の属性を見ると、男性では55〜64歳の「製造業」出身者が、女性では25〜34歳の「サービス業」出身者がそれぞれ最も多くなっている。 |
(2) 雇用・失業をめぐる構造的変化
○ | 労働力需要面では、国際化、IT化等に伴う産業・職業構造の変化が急速に進展し、国内における雇用機会の減少、新たな雇用機会を生み出す産業のシフト、求められる能力の高度化等が生じている。また、事業環境の変化に企業が機動的に対応する等のため、雇用就業形態の多様化が進んでいる。 |
○ | 労働力供給面では、少子・高齢化に伴い労働力の年齢構成が変化し、年齢間の労働力需給の不均衡の原因となるとともに、新卒者の入職分野のシフトによる産業間・職業間の労働力再配置が進みにくくなっている。また、勤労者意識の変化に伴い多様な就業形態に対するニーズが高まるとともに、特に若年者を中心に転職希望率の上昇がみられる。このような希望に基づく転職に対しては、円滑な労働移動や早期再就職を支援するなど、労働力需給調整機能の強化を図っていくことが大変重要である。 |
○ | 以上から、今後の労働市場においては、中高年齢者を含め労働移動が更に増加するとともに、人材ニーズの高度化や雇用就業形態の多様化が一層進展するものと見込まれ、これらに的確に対応することが雇用保険制度を含めた雇用政策全体の課題となると考えられる。 |
(3) 完全失業率の将来見通し
○ | 「平成14年度の経済見通しと経済財政運営の基本的態度」(平成14年1月25日閣議決定)では、平成14年度の完全失業率を5.6%と見込んでいる。これは平成13年度実績の5.2%よりさらに悪化するという見通しである。 |
○ | また、平成15年度以降については、「構造改革と経済財政の中期展望」(平成14年1月25日閣議決定)の審議過程にあたって内閣府が作成し、経済財政諮問会議へ提出した参考資料に示された試算では、平成15年度も引き続き5.6%と高止まりし、その後構造改革の成果により平成16年度5.4%、平成17年度5.2%と順次低下するという見通しが示されている。 |
2 雇用対策の動向と雇用保険制度
○ | 前回の制度改正以降、雇用対策法等の改正(一部を除き平成13年10月施行)、総合雇用対策等により、
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○ | これらの中で、雇用保険制度においても、訓練延長給付に係る中高年齢者向けの特例措置の創設や三事業の助成金の見直し等雇用対策の一環としての政策的対応を行ってきている。 | ||||||||||||||||||||||||||
○ | 去る6月25日に閣議決定された「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2002」においては、経済活性化戦略の一つとして「高齢者、女性、若者等が、ともに社会を支える制度の整備」、「挑戦者支援」などの「人間力戦略」を挙げ、具体的には、「企業による離職者の再就職支援システム(企業の再就職あっせんや教育訓練に対する支援)や官民による労働力需給調整機能の強化など、離職者の再就職インフラを強化」、「民間活用によるキャリアカウンセリングを促進」、「不安定就労若年者等に対する効果的なカウンセリングや職業訓練の一層の推進」などが取り上げられている。 | ||||||||||||||||||||||||||
○ | また、7月18日に、平成11年の第9次雇用対策基本計画策定後これまでの雇用・失業情勢をめぐる変化についての分析結果を踏まえた雇用政策の課題と、我が国経済の集中改革期間に当たる今後2〜3年の時期を見据えて重点的に展開する雇用対策について「雇用政策研究会(注)」が報告をまとめた。 この報告では、個人の個性と能力に応じた働き方が複線型でかつ随時選択可能となる「多様選択可能型社会」の実現に向けて、
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第3 雇用保険制度の見直しに当たっての視点
1 基本認識
○ | 雇用失業情勢が依然として厳しい状況にあり、さらに倒産・解雇等の非自発的理由による離職者が増加傾向にある中では、総合雇用対策等に基づき雇用対策に万全を期すことと併せて、支援を要する者について適切に対応しつつ、雇用のセーフティ・ネットとしての雇用保険制度の安定的運営を確保することが極めて重要になっている。 |
○ | 雇用保険制度については、平成13年度に給付・負担両面にわたる制度の抜本的な再構築が行われ、安定的運営が期されたところであるが、制度改正において見込んでいた雇用失業情勢よりも実際の雇用失業情勢が悪化したことや労働市場の構造変化により、収支均衡には至らず、依然として積立金の取崩しが続いている。 |
○ | この結果、平成15年度中には積立金が完全に枯渇し、資金不足を生ずることがほぼ確実となっているほか、平成15年度当初の資金繰りが難しくなるなどのおそれもあり、引き続き総合雇用対策等に基づく雇用対策に万全を期すとともに、適切な収支改善措置を早急に実施することが不可欠な状況にある。 |
○ | 雇用保険制度に係る収支改善措置としては、現行制度の下で採り得る措置と法律改正を要する措置とがあるが、特に前者については積立金の枯渇を回避するためにも早急に、また後者についても、雇用政策全体における雇用保険制度の役割に留意しつつできるだけ早期に実施に移す必要がある。なお、法律上、雇用保険制度に組み込まれている収支改善措置である弾力条項の発動要件は、現時点で満たされている。 |
○ | 雇用失業情勢は当面厳しい状況が続くものと見込まれるとともに、それ以降も、中高年齢者を含め自発・非自発を問わず労働移動が確実に増加するほか、雇用就業形態の多様化が一層進展し、保険料収入が減少傾向で推移するなど雇用保険制度を取り巻く構造的変化を踏まえ、雇用政策全体との関連に留意しつつ、改めて雇用保険制度を給付・負担の両面から全般的に見直す必要がある。この見直し内容については、平成15年度の早期に実施に移すことが不可欠な状況にあり、そのための法律改正を、遅くとも次期通常国会で行い、改正法の可能な限り速やかな施行を期す必要がある。 |
2 留意すべき事項
○ | 見直しに当たっては、雇用保険制度の意義、機能等を踏まえ、次のような点に留意すべきである。
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○ | 平成13年度の制度改正の根拠となった平成11年12月の中央職業安定審議会専門調査委員雇用保険部会の報告は、産業構造の変化等に伴う雇用慣行の変化、労働移動の増加、雇用就業形態の多様化や少子・高齢化の進展など雇用を取り巻く状況の構造的な変化を背景に、
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3 | 見直しの視点 雇用保険制度の見直しに当たっては、上記1の基本認識及び上記2の留意すべき事項とともに、労使をはじめとする関係者の意見を十分に踏まえて対応することが必要である。 これまで当部会においては、以下に示すように、平成13年度の制度改正の4つの方向性を踏まえた5つの検討事項に関連する論点に関して様々な議論が行われてきたところであるが、今後さらにこれらの議論を深めていく必要がある。 なお、以下は、今後新たな論点について議論することを妨げるものではない。 |
[5つの検討事項]
(1) 能力開発を含めた、早期再就職の促進
(2) 多様な働き方への対応
(3) 再就職の困難な状況等への対応
(4) 三事業の見直し
(5) 安定した制度運営の確保と当面の対応
(1) 能力開発を含めた、早期再就職の促進
イ 基本手当
(イ) | 給付水準 基本手当の給付水準については、基本手当日額が高い層や60歳以上の年齢層を中心として、基本手当日額と再就職時賃金との逆転現象が生じており、このことが再就職の意欲を阻害している可能性があるのではないかとの観点から、次のような議論が行われた。
一方、次のような議論もあった。
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(ロ) | 所定給付日数 所定給付日数については、平成13年度の制度改正により、中高年齢者を中心に倒産・解雇等による離職者に給付を重点化したが、更なる問題はあるかとの観点から、次のような議論が行われた。
一方、次のような議論もあった。
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ロ 失業認定等
(イ) | 失業認定等基本手当の受給手続においては、雇用保険制度本来の機能である生活の安定と早期再就職の実現に反するような事態が生じている場合もあるのではないかとの観点から、次のような議論が行われた。
一方、次のような議論もあった。
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(ロ) | 制度本来の趣旨に反し不正受給の発生が後を絶たない現状を改めていく必要があるのではないかとの観点から、次のような議論が行われた。
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ハ | 職業紹介等 雇用保険受給者に対し、職業紹介、職業相談が必ずしも十分に行われていないのではないか、特に給付制限期間中について対応の強化を図るべきではないかとの観点から、次のような議論が行われた。
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ニ | 就職促進給付 現行の再就職手当は「安定した職業」に就いた場合に支給されているが、就業形態の多様化が進んでいる現状を踏まえ、多様な形態による就労や多様なマッチングの仕組みを支援するよう、再就職のインセンティブとなる仕組みを見直すべきではないかとの観点から次のような議論が行われた。
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ホ | 教育訓練・能力開発 教育訓練給付については、その前提となる保険事故の性格が、他の失業等給付とは相当異なることに留意する必要があるのではないか、また、教育訓練給付や公共職業訓練については、政策効果を検証し、確実に職業能力の向上や再就職に結びつくものとなるよう不断に見直しをすべきではないかとの観点から、次のような議論が行われた。 |
(イ) | 教育訓練給付
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(ロ) | 公共職業訓練
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(ハ) | 教育訓練・能力開発に係る留意事項
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ヘ | 雇用政策との関連 雇用政策の方向性を踏まえた形で雇用保険制度の在り方について検討を進めるべきではないかとの観点から、次のような議論が行われた。
一方、次のような議論もあった。
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(2) | 多様な働き方への対応 産業構造や勤労者意識などの変化に対応し、就業形態の多様化が進展する中で、労働者個々人の主体的な選択を通じて雇用の確保あるいは労働力の最適な配置が図られるようにしていくことが重要となっており、現行雇用保険制度について、就業形態に関する個々人の選択の余地を実質的に制約したり、選択に対する中立性において問題となる点がないか見直しを行う必要があるのではないかとの観点等から、次のような議論が行われた。
一方、次のような議論もあった。
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(3) 再就職の困難な状況等への対応
イ | 基本手当等 雇用失業情勢が依然として厳しい中、早期再就職の促進、労働力需給ミスマッチの解消等のため、「総合雇用対策」をはじめ種々の雇用対策が講じられてきているが、雇用保険制度本体の検討に当たっても、職業相談・職業紹介や職業能力開発等の施策を通じて労働市場における需給調整機能の拡充をさらに図っていくことを前提として、支援を要する者に対する再就職のためのセーフティ・ネットとしてどのような見直しが必要か検討すべきではないかとの観点から、次のような議論が行われた。 |
(イ) | 基本手当
一方、次のような議論もあった。
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(ロ) | 職業紹介等
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(ハ) | 教育訓練・能力開発
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ロ | 雇用継続給付 厳しい雇用失業情勢の下で、雇用が継続している者に対する給付について、離職者に対する給付との均衡や制度創設後の雇用保険制度をめぐる環境の変化等の観点から見直す必要があるのではないかとの観点から、次のような議論が行われた。
一方、次のような議論もあった。
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(4) | 三事業の見直し 三事業は、本体給付と一体となって失業の予防及び再就職の促進等を目的として、失業の予防 、雇用状態の是正等のための事業(雇用安定事業)、労働者の能力開発を促進するための事業(能力開発事業)、職場環境の整備改善等のための事業(雇用福祉事業)の三つを柱として実施しているが、今回、早期再就職の支援等の観点から本体給付に係る制度について見直すことを踏まえ、付帯事業である三事業についても、円滑な労働移動の促進や早期再就職の支援をはじめ様々な角度から、より効率的・重点的に行われるよう見直すべきではないかとの観点から、次のような議論が行われた。
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(5) | 安定した制度運営の確保と当面の対応 雇用保険制度が、前回改正後の予想を超える雇用失業情勢の悪化や、中高年労働者を中心とする非自発的離職者の増加等短期的な雇用・失業動向に加え、労働移動の増加、雇用就業形態の多様化等中長期的な労働市場の構造的変化に対応できるようにするとともに、積立金や弾力条項など制度の安定的運営を確保するための制度が十分に機能を発揮できるようにし、将来にわたり雇用のセーフティネットとして安定的に機能するようにする必要があるのではないかとの観点から、次のような議論が行われた。
一方、次のような議論もあった。
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4 当面の対応
○ | 雇用失業情勢、雇用保険受給者の動向によっては今後さらに失業等給付費が増大するおそれがあり、政府として総合雇用対策等に基づく雇用対策に万全を期すことは当然であるが、雇用保険制度としてもこれをできる限り抑制する努力が必要であることや、雇用保険財政の現状を踏まえ、現行の制度の範囲内で実施することが可能な措置については、制度本体の改正に先行して早急に実施に移すことが適当である。なお、労使においても雇用維持に努めることが重要であり、政府・労使団体はそのことの周知に努めるべきである。 | ||||||||||||||||||||||||||||||
○ | 雇用保険制度の機能を適切に発揮する観点から、受給者の早期再就職の促進や給付の的確な実施は雇用保険財政の状況を問わず必要なことであるが、これまでの議論にかんがみ、特に次のような措置については、早急に実施すべきである。
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○ | 以上の運用改善を実施するほか、総合雇用対策等に基づく雇用対策を迅速かつ適切に実施することを前提として、雇用保険制度のおかれている現下の状況にかんがみ、制度上予定されている収支改善措置である弾力条項については、可能な限り早急に(本年10月を目途)、制度上可能な2/1000の引上げを発動することはやむを得ないものと認める。 |
5 今後の対応
○ | 現時点では、以上のように、基本認識及び留意すべき事項においては関係者が認識を共有しているが、個別の検討項目においては十分具体化が進んでいない部分があり、関係者の意見に相当程度の乖離が見られる部分もあることから、当部会としては、上記の見直しの視点等を基に、今後さらに具体的な検討を深めていく必要があると考える。 |
○ | 上記4の当面の対応として一致を見た事項については、厚生労働省においてできるだけ速やかに成案を得、必要なものについては労働政策審議会への諮問等所要の手続を経て逐次実施に移すべきである。 |
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公益代表
おおさわ まちこ 大沢 真知子 |
日本女子大学人間社会学部教授 | |
○ |
すわ やすお 諏訪 康雄 |
法政大学社会学部教授 |
ちゅうま ひろゆき 中馬 宏之 |
一橋大学イノベーション研究センター教授 | |
なかくぼ ひろや 中窪 裕也 |
千葉大学法経学部教授 | |
はやし のりこ 林 紀子 |
弁護士 |
雇用主代表
※ |
えんどう としゆき 遠藤 寿行 |
日本経済団体連合会労働政策本部 雇用・労務管理グループ長 |
なかじま よしあき 中島 芳昭 |
日本商工会議所理事・事務局長 | |
はらかわ こうじ 原川 耕治 |
全国中小企業団体中央会調査部長 | |
ひわたり さとこ 樋渡 智子 |
日本経済団体連合会国民生活本部国民生活グループ長 兼労働政策本部雇用・労務管理グループ副長 |
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ふじい よしひで 藤井 善英 |
川崎製鉄(株)人事労政部長 | |
ふじた えいいち 藤田 栄一 |
住友重機械工業(株)取締役執行役員副社長 |
労働者代表
※ |
くぼ なおゆき 久保 直幸 |
ゼンセン同盟常任中央執行委員 |
くりた ひろし 栗田 博 |
日本食品関連産業労働組合連合会中央執行委員 | |
こだま あつし 児玉 厚 |
全国一般労働組合書記長 | |
とよしま えいざぶろう 豊島 栄三郎 |
国公関連労働組合連合会書記次長 | |
なかむら よしお 中村 善雄 |
日本労働組合総連合会雇用労働局長 | |
わたなべ きょうこ 渡辺 京子 |
JAM埼玉副書記長 |
注) | ○=部会長 ※=専門委員 |