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厚生労働省発表
平成14年6月12日


政策統括官付労働政策担当参事官室
 参事官      鳥生 隆
 企画官      伊藤 善典
 政策第一係長  飯 田 剛
 電話 03-5253-1111(内線7731)
     03-3595-3108 (ダイヤルイン)

多様で柔軟な働き方を選択できる
雇用システムのあり方に関する研究会報告書

I.研究の概要

 従来、我が国の雇用システムは、フルタイムの男性正社員と補助的な女性労働者を雇用者モデルとした雇用慣行とそれに関連した諸制度・判例で特徴づけられてきたが、経済社会の構造変化が進む中で、我が国の目指すべき方向性、企業及び労働者のニーズを踏まえると、新しい雇用システムへの転換が求められていると考えられる。
 そこで、企業にとっての雇用の柔軟性(Flexibility)、労働者にとって働き方の自己選択の自由度(Freedom of Choice)を、公正なルール(Fairness)の下に実現する「多様で柔軟な働き方を選択できる雇用システム」のあり方について検討を行うため、(株)ニッセイ基礎研究所内に研究会を設置した。(議論の枠組みは、別紙1参照)

【多様で柔軟な働き方を選択できる雇用システムのあり方に関する研究会】
  荒木 尚志 東京大学 法学部教授
  石田 光男 同志社大学 文学部教授
座長 今野 浩一郎 学習院大学 経済学部教授
  黒澤 昌子 明治学院大学 経済学部助教授
  土田 道夫 同志社大学 法学部教授
  (平成14年3月まで獨協大学 法学部教授)
  守島 基博 一橋大学大学院 商学研究科教授
  脇坂 明 学習院大学 経済学部教授
(50音順 敬称略)

 研究にあたっては、現状の雇用システムを評価し、その上で新しい雇用システムの必要性を検討するとともに、その際の課題を整理することとし、研究会の議論と並行して、有識者(企業の人事担当マネージャー(部長クラス)、労働組合幹部、学識者)調査、労使団体等に対するヒアリング調査を実施した。

(備考)本研究は、(株)ニッセイ基礎研究所への委託により実施した。

II.報告書の概要

1. 研究の目的

 今後、経済社会構造や企業経営の変化が進む中で、経済の活力を維持しつつ、個人の主体的な働き方の選択や仕事と家庭・余暇生活の両立を可能にし、個々人が意欲と能力に応じて働くことができる社会を実現することが重要となると考えられ、労働者と企業双方による多様で柔軟な働き方の選択という観点から、現行雇用システム(雇用慣行やそれに関連した諸制度・判例)の課題整理を行い、雇用システムのあるべき姿や今後の見直しの方向についての検討を行う。

2. 研究の内容

(1) 研究会による多様で柔軟な働き方の選択を可能にする雇用システムのあり方についての理論的・体系的整理
(2) 経営者団体(3団体)及び産業別労働組合(4団体)に対する、雇用システムの現状認識、多様で柔軟な働き方に対する意見、雇用システムの課題と政策対応の必要性等に関するヒアリング調査の実施。多様で柔軟な働き方に関連する人事制度を導入する企業へのヒアリング調査の実施
(3) 雇用システムについての現状、課題について、有識者(企業の人事担当マネージャー(部長クラス)1,100名、労働組合幹部1,100名、学識者300名、計2,500名)に対するアンケート調査の実施【平成14年1〜2月実施、回収状況681名(回収率27.2%)】

3. 働き方の現状

(1)性別・年齢により能力発揮ができない層が存在

(2)安定した雇用、高い処遇の反面、拘束度(労働時間、就業場所、仕事に関する自己選択の自由度)が高いいわゆる「正社員」と、拘束度が低い反面、雇用の安定性、処遇面での条件が低いいわゆる「非正社員」とに、働き方は二極化

(3)現状の労使関係が、働き方の多様化・柔軟化に対応できているとは言い難い

4. 雇用システムの転換の必要性

(1) 現行の雇用システムが続く場合、将来的に、(1)経済活力の低下、(2)働き方に対する労働者の不満の増大、(3)非正社員の増加による不安定雇用や低い処遇の拡大、(4)男女間の実質的な不平等の持続、(5)雇用不安・生活不安の増大、といった問題が顕在化することが予想
(2) 将来の問題発生を回避するためには、企業にとっての柔軟な雇用(Flexibility)と、労働者にとっての働き方の自己選択の自由度(Freedom of Choice)を、公正なルール(Fairness)の下に実現できる、「多様で柔軟な働き方を選択できる雇用システム」への転換が必要
(3) 「多様で柔軟な働き方を選択できる雇用システム」への転換は、雇用の安定性の低下等の問題が指摘されるが、トータルでみて、労働者、企業、社会全体にとってのメリットの方が大きい

5.多様で柔軟な働き方の展望

(1) 今後企業内の労働者構成は、より多様性を増すと予想

(2) 働き方の多様化、柔軟化のためには、二極化した働き方の中間形態の創出が課題

(3) 中間形態を作る一つの方策が、正社員の働き方の多様化。そのために、拘束度と雇用保障、処遇の柔軟な組み合わせが必要

(4)中間形態を作る第二の方策は、非正社員の処遇改善

6.多様で柔軟な働き方を進めるための雇用システム面での課題

(1) 雇用システムについての基本的な考え方は、個人属性にかかわらず能力発揮することができる機会を確保することに加え、二極化した働き方の間に連続した形で多様で柔軟な働き方を創出すること。そのためには、労使が納得した上で、拘束度に応じた雇用保障や処遇の公正さ(=Fairness)を確保することと、働き方を労働者が自己選択できる仕組みを構築することが重要


多様で柔軟な働き方と処遇の関係のイメージ

図

(2) 労使の課題は、働き方の多様化、柔軟化を進めるための処遇制度の検討や公正な労働条件設定に向けた取組

(3)政策・制度面では、多様で柔軟な働き方を選択できる雇用システムへの転換を阻害したり遅らせている法制度等について検討していくことが必要


別紙1
参考 議論の枠組

図



別紙2

<参考資料>

多様で柔軟な働き方を選択できる雇用システムのあり方に関する研究
−有識者調査結果 データ編−

図表1 性別でみた能力発揮が十分にできていないと考えられる年齢層(能力発揮ができていないとする割合)

図表

図表2 「正社員が長時間残業、転居を伴う転勤、キャリアと無関係な配置転換等に従わざるを得ないのは、雇用保障との関係が大きい」への意見

図表

図表3 「正社員の雇用保障が強いため、非正社員が雇用の調整弁になりやすくなっている」への意見

図表

図表4 「正社員と非正社員の賃金格差が大きいことが、雇用形態の柔軟な選択を妨げている」への意見

図表

図表5 多様なニーズに対応した働き方の実現度

図表

図表6 多様な働き方に対する意見

図表

図表7 多様な働き方が拡大することに対する評価

図表

図表8 今後の企業内の労働者構成比の変化の見込み

図表

図表9 短時間正社員を導入する際の企業にとっての問題

図表

図表10 勤務地限定の働き方を導入する際の企業にとっての問題点

図表

図表11 職種を限定する働き方を導入する際の企業にとっての問題点

図表

図表12 短時間正社員等の処遇の考え方

図表
注:賃金水準の「平均値」は、「他の正社員を上回る」及び「他の正社員と同等」を100とし、「9割程度」=90、「8割程度」=80……、「半分程度以下」=50として、それぞれの回答比率によりウェイト付けして算出した。

図表13 「60歳定年制は高齢者の能力発揮の阻害要因となっていると考えられ、廃止すべきだ」への意見

図表

図表14 「募集・採用における年齢差別は禁止すべきだ」への意見

図表

図表15 「働き方の多様化の前提として、職務をベースにした処遇が必要である」への意見

図表

図表16 「多様な働き方が進むと、現行の労働組合の組織や活動のあり方を見直す必要がある」への意見

図表

図表17 「正社員と非正社員の賃金格差の是正を進める際に、結果として正社員の賃金を抑制することになってもやむをえない」への意見

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図表18 「長期雇用や正社員が望ましいという考え方に基づく諸制度(派遣法の規制、退職金税制等)は見直すべきである」への意見

図表

図表19 「多様な働き方に合った契約や解雇の法的ルールを整備すべきである」への意見

図表

図表20 「勤務地や職種を限定して働く労働者の労働条件を変更せざるを得ない場合に、労働者がこれに応じなければ、その労働者は解雇されてもやむを得ない」への意見

図表

図表21 「多様な働き方に合った均等待遇の法的ルールを整備すべきである」への意見

図表

図表22 「働き方の多様化に対応し、税制や社会保障制度を「個人」単位に見直すべきである」への意見

図表


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