厚生労働省発表
平成14年3月29日
現在、我が国では、少子高齢化、経済・産業構造の変化などが急速に進展する中で、これまでの働き方やライフスタイルの見直しを行うことが必要とされている。他方、今後、不良債権処理の進展など構造改革が進む中で、雇用情勢が更に悪化する可能性も否定できないことから、失業の防止などにより痛みを最小限に抑え、国民の雇用不安を解消することが必要となっている。
このような中で、昨年10月、日本経営者団体連盟と日本労働組合総連合会が「雇用に関する社会合意推進宣言」を行ったことを踏まえ、政労使の三者でワークシェアリングに対する基本的な考え方についての合意形成を図るため、昨年12月以来、「政労使ワークシェアリング検討会議」を開催し、精力的な検討を行ってきた。
ワークシェアリングと呼ばれるものには様々な形があるが、この会議では、我が国の経済社会の現状に鑑み、政労使の関心も高く、かつ、速やかに取り組む必要があると考えられるワークシェアリングについて検討を行った。
今般、政府、日本経営者団体連盟及び日本労働組合総連合会は、「ワークシェアリングについての基本的な考え方」について合意した(別紙)。今後、三者は、これらを労使関係者に広く周知するとともに、ワークシェアリングの実施のための環境整備の具体化に向けて、更に検討を深めていくこととしたい。
平成14年3月29日
厚生労働大臣 | 坂口 力 |
日本経営者団体連盟会長 | 奥田 碩 |
日本労働組合総連合会会長 | 笹森 清 |
別紙
[ワークシェアリングの取り組みに関する5原則]
1.ワークシェアリングとは、雇用の維持・創出を目的として労働時間の短縮を行うものである。我が国の現状においては、多様就業型ワークシェアリングの環境整備に早期に取り組むことが適当であり、また、現下の厳しい雇用情勢に対応した当面の措置として緊急対応型ワークシェアリングに緊急に取り組むことが選択肢の一つである。
2.ワークシェアリングについては、個々の企業において実施する場合は、労使の自主的な判断と合意により行われるべきものであり、労使は、生産性の維持・向上に努めつつ、具体的な実施方法等について十分協議を尽くすことが必要である。
3.政府、日本経営者団体連盟及び日本労働組合総連合会は、多様就業型ワークシェアリングの推進が働き方やライフスタイルの見直しにつながる重要な契機となるとの認識の下、そのための環境づくりに積極的に取り組んでいくものとする。
4.多様就業型ワークシェアリングの推進に際しては、労使は、働き方に見合った公正な処遇、賃金・人事制度の検討・見直し等多様な働き方の環境整備に努める。
5.緊急対応型ワークシェアリングの実施に際しては、経営者は、雇用の維持に努め、労働者は、所定労働時間の短縮とそれに伴う収入の取り扱いについて柔軟に対応するよう努める。 |
I.速やかに取り組むべきワークシェアリングの形
(1)ワークシェアリングとは、雇用の維持・創出を図ることを目的として労働時間の短縮を行うものであり、雇用・賃金・労働時間の適切な配分を目指すものである。
(2)我が国の経済社会の現状においては、雇用の維持・創出が強く求められる一方、生産性の向上が必要とされており、ワークシェアリングについても、これに資する形で実施することが必要である。
また、ワークシェアリングは、個々の企業における労使の自主的な判断と合意により実施されることが必要である。
(3)こうした観点から、我が国では、多様な働き方の選択肢を拡大する多様就業型ワークシェアリングの環境整備に早期に取り組むことが適当である。
また、当面の厳しい雇用情勢に対応するため、緊急対応型ワークシェアリングについて緊急的な取り組みを行うことが選択肢の一つである。
II.多様就業型ワークシェアリングのあり方
1.基本的考え方
(1)労働者の働き方には様々な形態がありうるが、個々の企業の労使がワークシェアリングの手法を活用して多様な働き方を適切に選択できるようにすることは、我が国の経済社会の現状において、次のような効果を有していると考えられる。
(2)労働者がその能力を十分発揮できるようにし、企業の活力を高めていくためには、多様な働き方が適切な選択肢として位置づけられることが必要である。
そのため、個々の企業において、従来の雇用慣行や制度の検討・見直しに取り組み、多様な働き方のための環境整備を進めていくことが必要である。
2.実施に当たっての留意事項
個々の企業においては、労使の自主的な判断と合意により、次のとおり、多様な働き方を実現するための環境づくりを進めることが望ましい。
3.政府の取り組み
(1)多様就業型ワークシェアリングの環境整備を社会全体で進めるため、短時間労働者等の働き方に見合った公正・均衡処遇のあり方及びその推進方策について、引き続き検討を行う。
(2)また、短時間労働者に対する社会保険適用のあり方については、平成16年に行われる次期年金制度改正に向け、厚生年金保険の適用拡大について引き続き検討を行う。医療保険についても、検討を行う。
III.緊急対応型ワークシェアリングのあり方
1.基本的考え方
(1)現在、景気は悪化を続け、生産量や売上げが減少している企業では雇用過剰感に直面している。今後、不良債権処理など構造改革が進む中で、個々の企業が雇用削減を続ければ、雇用情勢は更に厳しさを増し、社会不安をも招きかねず、景気に更なる悪影響を及ぼすことが懸念される。こうした観点から、失業者の発生をできるだけ抑制するための緊急的な対応が必要である。
(2)このため、今後2〜3年程度の間、個々の企業において一時的な生産量等の減少に伴い余剰人員が発生した場合、当面の緊急的な措置として、労使の合意により、生産性の維持・向上を図りつつ、雇用を維持するため、所定労働時間の短縮とそれに伴う収入の減額を行う緊急対応型ワークシェアリングを実施することが選択肢の一つとして考えられる。
(3)緊急対応型ワークシェアリングは、個々の企業において従来から行われてきた雇用調整措置とは異なる新たな雇用調整の手段として位置づけられるものである。また、その実施のタイミング、実施期間、対象範囲等については、個々の企業の実情に応じて判断されるべきものである。
2.実施に当たっての留意事項
(1)緊急対応型ワークシェアリングの実施に当たっては、個々の企業の労使間で、次の点について十分に協議し、合意を得ることが必要である。
(2)労使の納得と合意が得られた場合には、労使間の合意内容について、協定を締結するなど明確化することが必要である。
(3)緊急対応型ワークシェアリングの実施に先立ち、労働時間管理を徹底し、残業の縮減に取り組むことが必要である。
(4)緊急対応型ワークシェアリングを実施する場合であっても、労使は、生産性向上やコスト削減など経営基盤の強化及び新事業展開の努力を行うことが必要である。
3.政府の取り組み
緊急対応型ワークシェアリングに対する政府の財政的支援について は、公平性の観点等にも配慮しつつ、今後2〜3年間程度行われる新たな雇用調整の手段であるという観点に立って、具体的な支援方策について、引き続き検討を行う。
IV.政労使合意の周知等
(1)政府、日本経営者団体連盟及び日本労働組合総連合会は、この「ワークシェアリングについての基本的な考え方」を個々の企業の労使に周知するものとする。
(2)日本経営者団体連盟及び日本労働組合総連合会は、個々の企業の労使に対し、多様な働き方の実現に向けての環境整備に積極的に取り組むとともに、緊急対応型ワークシェアリングを実施する場合には適切に行うよう、働きかけを行うものとする。
V.その他の事項
(1)政府、日本経営者団体連盟及び日本労働組合総連合会は、この「ワークシェアリングについての基本的な考え方」で検討を行うこととされた事項その他のワークシェアリングに関連する事項について、引き続きこの会議において検討を行うものとする。
(2)政府は、厳しい雇用情勢に対応し、総合雇用対策等各般の施策に基づき、引き続き次の取り組みを推進するものとする。
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