厚生労働省発表
平成13年8月23日
1 背景と現状
(1) 精神障害者については、近年、その社会参加が進む中で、就職を希望する者が大きく増加している。全国の公共職業安定所における精神障害者である有効求職者の数も平成12年度末現在で9,342人と5年前の約2.6倍となっており、これらの精神障害者の雇用・就労機会の拡大が喫緊の課題となっている。
(2) 一方、平成10年度障害者雇用実態調査によれば、比較的規模の大きい企業を中心に、採用後に精神障害を有するようになった者が多く在職しており、そのような精神障害者の円滑な職場復帰とその後の雇用の安定を図ることも重要な課題となっている。
(3) このような状況の中、障害者雇用対策基本方針(平成10年労働省告示第41号)においても、精神障害者のうち、その症状が安定し就労が可能な者については、職業リハビリテーション措置の的確な実施に努めるとともに、各種助成措置の活用を図りつつ、雇用の促進及び継続を図ることとされているところである。
2 「精神障害者の雇用の促進等に関する研究会」における検討
労働省(当時)では、1を踏まえ、平成11年7月から、「精神障害者の雇用の促進等に関する研究会」(座長 岡上和雄 精神障害者リハビリテーション学会長)を開催し、今後の精神障害者の雇用支援施策の在り方について検討を行ってきたところであるが、この度、その結果が取りまとめられた。その骨子は、以下のとおりである。
厚生労働省としては、この報告書を踏まえ、今後、所要の措置を講じ、精神障害者の雇用支援施策の一層の推進を図っていく考えである。
厚生労働省職業安定局 高齢・障害者雇用対策部 障害者雇用対策課 電話番号 03-5253-1111 (内線 5854) 夜間直通 03-3595-1173
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1 雇用支援の対象となる精神障害者の範囲等について
○ 雇用支援の対象とする精神障害者は、精神障害者保健福祉手帳の交付該当者に相当する障害を有する者(手帳所持者及び申請すれば交付される者)とすることが適当。
○ 手帳を所持していない精神障害者については、プライバシーに十分配慮した把握・確認方法を構築することが必要。
2 今後、充実強化すべき施策
(1) 特性に応じた総合的な対策の推進及びネットワークの構築
○ 雇用と医療・福祉の間の双方向のシステムを円滑に機能させるとともに、関係機関の総合的な支援が行えるよう、障害者就業・生活総合支援事業の拠点の全国展開が必要。
○ 精神障害者が働く職場において直接的な人的支援を行う職場適応援助者(ジョブコーチ)の全国実施や精神障害者を短期間試みに雇用する機会を提供する障害者雇用機会創出事業(トライアル雇用)の拡充も必要。
○ この他、公共職業安定所等の労働行政関係機関と医療・福祉等の関係機関が連携して段階的な職業リハビリテーションを実施するため、「地域雇用支援ネットワークによる精神障害者職業自立支援事業」や「医療機関等と連携した精神障害者のジョブガイダンス事業」の拡充も重要。
(2) 採用後精神障害者対策の強化
○ 採用後精神障害者の職場復帰やその後の雇用の安定を促進するため、企業や精神障害者本人に対する職場復帰に当たっての相談体制の確立や職場に円滑に戻るためのウォームアップの場の確保等が必要。
(3) きめ細かな啓発・広報の展開
○ 精神障害者の雇用の促進には、関係者や社会全体の理解の促進が重要であり、障害者団体等とも連携したきめ細かな啓発・広報が必要。
(4) 雇用義務制度について
○ 精神障害者の雇用義務制度の在り方については、様々な意見が出ているが、その適用に当たっては、まず、以下のような課題を解決することが必要。
○ このため、雇用支援施策の積極的な展開と拡充を図りつつ、関係者の十分な理解と連携の下に、こうした課題を解決するための取組を始めることが必要。
I 精神障害者の雇用状況等
(1)精神障害者
イ 精神障害者についての考え方
1 精神障害者という概念は、医学的な観点からは必ずしも一義的に定まっているわけではないが、精神障害者の福祉の増進や国民の精神保健の向上等について規定した精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(以下「精神保健福祉法」という。)においては、その第5条において、「精神障害者」とは、精神分裂病、精神作用物質による急性中毒又はその依存症、知的障害、精神病質その他の精神疾患を有する者であるとしており、以下では、特にことわりがない限り、この定義に基づいて精神障害者(ただし、知的障害者を除く。)をとらえることとする。
なお、精神保健福祉法でいう精神疾患とは、精神及び行動の異常を示す状態を指している。個別具体的な疾患名は、国際疾病分類第10次改訂版(いわゆるICD−10)において詳細に分類されており、同分類上の該当項目(精神障害の章)全体が精神疾患の範囲となっている。また、てんかんについては、国際疾病分類上は、G分類の「神経系の疾患」に含まれ、精神疾患の範疇には入っていないが、精神保健福祉法上は、精神障害者の中に含められている。
2 精神保健福祉法は、その第45条において、同法第5条で定めた精神障害者(知的障害者を除く。)のうち、一定の精神障害の状態にあるものに対して、精神障害者保健福祉手帳(以下「手帳」という。)を交付することを定めている。同手帳は、一定の精神障害の状態にあることを証する手段となることにより、手帳の交付を受けた者に対して各方面の協力を得て各種の支援策を講じやすくし、精神障害者の自立と社会参加の促進を図ることを目的としている。
また、ここでいう一定の精神障害の状態にある精神障害者とは、「精神障害があるため、長期にわたり日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける者」(障害者基本法第2条に規定する障害者)に相当するとされ、障害の程度に応じて、1級(日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの)、2級(日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの)及び3級(日常生活若しくは社会生活が制限を受けるか、又は日常生活若しくは社会生活に制限を加えることを必要とする程度のもの)の3段階に分けられている。
3 このように、精神保健福祉法は、精神障害を障害の程度が重篤でない精神疾患や回復が可能な短期的な精神疾患も含めて、医学的な観点から幅広くとらえている一方で、日常生活や社会生活に相当な制限を受ける精神障害者(手帳に該当する精神障害者)とそれ以外の精神障害者(手帳に該当しない精神障害者)を明確に区別している。
また、精神疾患の原因は多要因であるため現時点でそのすべては解明されておらず、薬物療法、精神療法、リハビリテーション等の対応により完治する場合から障害をもって慢性化する場合まで様々な経過を呈するのが一般的である。したがって、精神障害者の一部は、医療を必要とする「傷病者」としての側面と、福祉を必要とする「障害者」としての側面の両方を併せ有しており、また、疾患によって生じた障害のレベルの変化が疾患自体の経過に影響を与える可能性があり、時には疾患と障害の二つの側面が複雑に影響し合うことがある。
4 これらの精神障害者の数について見てみると、まず、上述の精神保健福祉法第5条に規定する精神障害者(知的障害を除く)の数は、平成11年の患者調査(厚生労働省大臣官房統計情報部)によると、全国で約204万人、うち、入院中の者は33万人、外来の通院患者は171万人と推計されている。また、これを疾患別に見ると、精神分裂病、分裂病型障害及び妄想性障害が67万人、気分(感情)障害(そううつ病を含む)が44万人、てんかんが24万人、神経症性障害、ストレス関連障害及び身体表現性障害が42万人となっている。
5 一方、手帳の交付を受けている精神障害者の数は、平成13年3月末現在で約19万1千人となっており、1年前の約16万3千人に比べると2万8千人増加している。また、これを障害等級別に見ると、1級が5万人、2級が10万8千人、3級が3万3千人となっている(厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部精神保健福祉課調べ)。
ロ 精神障害者を取り巻く状況の変化
6 精神障害者を取り巻く医療面の変化では、精神科救急医療体制の整備、精神科デイケアの承認施設の増加、医療機関による訪問看護の実施の増加がここ数年更に進んだことがあげられる。社会復帰・地域ケア施策の面では、社会適応訓練事業の拡大、社会復帰施設の増加と地域生活支援センターの法定化があり、併せて、精神障害者訪問介護(ホームヘルプサービス)の試行的事業も始まり、居宅生活支援事業(グループホーム、ショートステイ、ホームヘルプサービス)の市町村事業への移管も平成14年度に迫ってきている。法定外の地域資源である小規模作業所も増加しつつあり、社会福祉法人の設立要件の緩和(平成12年)もあって小規模作業所から法定施設としての小規模授産施設への移行の道も開かれることになった。
7 この間の際立った受療患者関連の変化としては、精神病床数、在院患者数がそれぞれ平成5年、同6年をピークに減少に転じたことをあげることができる。措置入院患者数、病床利用率、平均在院日数の各指標も引き続き減少を続けている。これらの動きは、在院患者の中で過半を占める精神分裂病患者について、若い世代の患者の入院が大幅に減少し、仮に入院したとしても比較的短期間で退院する人たちが増えたこと、及びケアの対象として最も多数を占める精神分裂病について、1980年代に先進国で地域ケアが本格化した結果、再発率の顕著な減少が起き、続いて我が国でも広く同様のことが起きたことが関係している。
8 上述の変化を後押しした技術的な背景としては、ケアモデルの浸透によって地域ケアの目標が焦点化されたことがあげられる。代表的な実際面の応用例は、家族介入、家族心理教育、職場介入などによるストレス状態の軽減であり、他の応用例が生活技能訓練、職場での支援者付き実習などによる能力の開発・向上などである。これらの中で定式化され普及しつつあるものもある。
このようにして再発・破綻が減少し、地域の中で日常生活の適応についても比較的安定して過ごす人たちが増えるにつれ、近年、我が国では、これらの対象者が籍を置く小規模作業所や社会復帰施設、あるいは精神科デイケアの場面を中心に改めて職業リハビリテーションへの関心が高まってきた。
9 折しも精神分裂病領域における薬物療法は世界的に新しい見通しをもち始めた。即ち、主として1990年代になって世界的に使われ始めるようになった「いわゆる非定型抗精神病薬」(以下、非定型薬。諸外国では4〜6種類程度使われている。)と従来型の抗精神病薬との比較検討が多くの国で慎重になされているところである。これら非定型薬は、対人関係や認知、役割遂行面の改善に相当の効果を発揮すること、副作用が相対的に少ないこと、服薬によって起こる不自然な感覚が少なく主観的な回復感が高まることが注目されている。これらのことは、社会生活や就業場面における適応の改善をもたらす点でも関心を呼んでいる。我が国でも、諸外国におよそ10年遅れて、非定型抗精神病薬が複数(4種)治療に利用できる時代になり、次第に地域社会への参加や就労への可能性をもつ障害者が増加することが見込まれる。
10 この間、全障害分野におけるケアマネージメントの本格実施に向けて、国主導の取り組みが始まり、精神障害領域にも良い影響が出始めている。即ち、ケアマネージメントに不可欠なケアアセスメントの発展によって、問題把握の共有化、技術の共有化が進み、サービスの体系化が促進されることが期待できる。
精神障害の分野では、平成14年度から市町村事業としてホームヘルプサービスが実施されることが定められていることもあって、ケアマネージメントの必要性は一層高まるものと推測される。ケアアセスメントの開発は、現状では日常的社会生活の遂行に向けたものであるが、将来は雇用・就労についてのマネージメント、同アセスメントについてのガイドラインの作成まで進むことを期待したい。
11 平成11年の障害者施策推進本部の「障害者に係る欠格条項の見直しについて」を受けて障害者等に係る欠格事由の適正化を図るための医師法等の一部を改正する法律の制定があり、27の法律に及ぶ資格・免許制度等の一括改正が行われ、精神障害関係においても「精神病者・精神障害者」等と概括的に規定した欠格条項は上記の資格・免許ではなくなり、精神機能の障害により業務を適正に行えない場合に免許等を与えないことがあると規定されることになった。また、自動車の運転免許については、幻覚を伴う精神病であって政令で定めるものに関して相対的な欠格事由となり、自己申請により把握されることになった。
12 アドボカシー(権利擁護)又はその支援の仕組みについては、セルフアドボカシーの組織が1か所誕生し(平成12年)、先発の東京に続いて神奈川、京都・滋賀、大阪に精神医療人権センターが生まれている。また、代弁・後見的な擁護組織が東京都、大阪(府・同市・堺市)、神奈川県、横浜市等に誕生し権利侵害への対応を行っている。その他、一部にアドボカシーを支えるシステム(苦情処理)が含まれる国の事業としての地域福祉権利擁護事業が社会福祉協議会等の事業として行われるようになり、都道府県、指定都市では「障害者110番」事業が委託事業として行われるようになった。近縁の任意の制度としてはいくつかのオンブズパーソンのシステムも誕生している。
13 今後の地域社会資源の配置、福祉的就労を含む雇用・就労の場の確保のためには、前提として疫学的な調査による数とニーズの把握が必要であるが、この間、同手法に基づく受療患者対象の調査が、精神分裂病について川崎市(平成5年)と福島県(平成8年)で、手帳の交付対象となる程度の障害を持つ全精神障害について京都府・同市(平成9年)で実施されている。同種の調査は東京都(平成8年)でも全精神障害を対象に行われ、その中で手帳の1、2、3級相当という区分も用いられている。その他、熊本県(平成8年)では在院患者及び通院医療費公費負担制度の利用患者についてのニーズ把握が行われ、類縁の調査が石川県、広島市、千葉県安房郡市で実施されている。ここ数年、集中して行われたこれらの調査はニーズの概数の把握のための数少ない貴重な資料となっている。
(2)雇用状況等
イ 雇用支援施策における精神障害者の考え方
14 精神障害者に対する医療施策や福祉施策については、上記のような精神保健福祉法の考え方に基づいて実施されているが、精神障害者に対する雇用支援施策は、障害者の雇用の促進等に関する法律(以下「障害者雇用促進法」という。)に基づいて実施されている。
障害者雇用促進法は、その第2条第1号において、「障害者」とは、身体又は精神に障害があるため、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者をいうとし、「障害者」の中に精神障害者も含めて考えている。しかしながら、同法においては、「精神障害者」についての定義規定はなく、講じようとする施策に応じて、「精神障害者」に相当するものを規定している。即ち、同法は、その第5条第1項及びこれに基づく政省令(同法施行令第1条及び同施行規則第3条の2)において、適応訓練の対象となる者として、身体障害者及び知的障害者の他、(1)長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な障害者であって、(2)精神分裂病、そううつ病又はてんかん(以下、これら三つの精神疾患をまとめて「三疾患」という。)にかかっている者及びこれら以外の者のうち手帳の交付を受けている者で、(3)症状が安定し、就労が可能な状態にある者としている。また、同法並びに雇用保険法施行規則及び雇用対策法施行規則は、障害者雇用納付金制度に基づく助成金や特定求職者雇用開発助成金についても、これらの者をその支給対象としている。
さらに、上記の適応訓練の対象となる者以外についても、主治医の意見書等により、「長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難」という要件が確認されれば、適応訓練や各種助成金制度以外の障害者に対する雇用支援施策の対象とすることとされている。
ロ 雇用状況等
15 精神障害者については、上述したように、近年、その社会復帰が進む中で、就職を希望する者が大きく増加している。全国の公共職業安定所における精神障害者である有効求職者の数も年々増加しており、平成12年度末は9,342人と、5年前の平成7年度末の3,648人の約2.6倍となっている。
また、これらの有効求職者のうち、実際に公共職業安定所の職業紹介によって就職した者は、平成12年度において1,614人となっており、5年前の平成7年度の1,236人に比べると、約400人増えている。
一方、平成10年度障害者雇用実態調査によれば、従業員5人以上の全国の民間事業所に雇用されている精神障害者(上記イの適応訓練の対象となる者)の数は5万1千人となっている。これを事業所の規模別に見ると、従業員100人から499人の規模の事業所で雇用されている者の割合が36.2%と最も高く、次いで、従業員30人から99人と比較的規模の小さい事業所に雇用されている者の割合が35.7%と多くなっている。
さらに、これらの精神障害者を採用前から精神障害を有していた者(以下「採用前精神障害者」という。)と採用後に精神障害を有するようになった者(以下「採用後精神障害者」という。)に分けて見ると、採用前精神障害者が3万8千人、採用後精神障害者が1万3千人と、採用前精神障害者の方が多くなっている。また、雇用されている精神障害者全体に占める採用後精神障害者の割合を事業所の規模別に見てみると、従業員5人から29人の事業所で13.4%、同じく30人から99人の事業所で13.7%、100人から499人の事業所で34.4%であるのに対し、従業員500人から999人の事業所で61.6%、同じく1,000人以上の事業所で49.7%と、比較的規模の大きい事業所で採用後精神障害者の割合が大きくなっている。
また、本研究会が、精神障害者(上記イの適応訓練の対象となる者)の雇用・就労の実態や関係機関の支援活動の現状と問題点を把握することを目的に、全国の事業所(各種の雇用支援施策を利用して精神障害者に接したことのある事業所)、労働機関(公共職業安定所、地域障害者職業センター及び障害者雇用支援センター)、医療・保健・福祉機関(精神病院、精神保健福祉センター、保健所、精神障害者社会復帰施設及び小規模作業所)を対象として平成12年11月1日現在で実施したアンケート調査の結果によれば、現在事業所に雇用されている精神障害者(採用前精神障害者に限る。)の雇用形態は、パートが約半数(46.9%)で、その他、正社員も比較的多くなっている(40.6%)。さらに、その職務内容としては、軽作業が比較的多く(正社員で37.1%、パートで66.4%)、また、1か月当たりの平均賃金としては、7万円から15万円未満の層が最も多くなっている(正社員で74.1%、パートで56.7%)。
次に、これらの精神障害者を雇い入れた際に事業所が利用した支援制度を見ると、特定求職者雇用開発助成金(39.9%)や公共職業安定所による職業紹介(23.3%)等、労働機関の支援制度を利用した事業所の割合が高く、後述する社会適応訓練(17.9%)や病院・保健所の紹介(8.1%)等、医療・保健・福祉機関の支援制度を利用した事業所の割合は比較的少なくなっている。
ちなみに、「精神障害者の雇用に関する調査研究会」が平成5年度に実施した今回と同様のアンケート調査(ただし、てんかんは調査対象から除かれている。)の結果では、事業所が利用した支援制度としては、病院・保健所の紹介(45.9%)や通院患者リハビリテーション事業(社会適応訓練の前身の事業、36.0%)の割合が高く、特定求職者雇用開発助成金(17.5%)や公共職業安定所の紹介(25.8%)の割合は低くなっている。
また、これらの精神障害者の出勤状況についてみると、正社員、パートのいずれの雇用形態においても9〜10割とほぼ所定どおりに出勤している者が多く(正社員で79.3%、パートで71.6%)、平成5年の調査結果(正社員で68.0%、パートで42.0%)よりも高くなっている。
さらに、精神障害者(採用後精神障害者を含む。)の職場での能力に対する事業所の評価について見ると、まず、職務遂行面については、基礎体力(69.1%)、持久力(52.9%)等については問題がないとする事業所が多い一方で、とっさの事態に対する判断力(49.8%)や職務遂行の能率(36.8%)、動作の機敏さ(38.6%)等については問題があるとする事業所が多くなっている。また、精神障害者の職場適応面については、出退勤等の労働習慣(78.5%)、健康管理(66.8%)、勤労意欲(60.5%)等については、問題がないとする事業所が多い一方で、精神的なタフさ(39.5%)や円滑な人間関係(22.4%)等については問題があるとする事業所が多くなっている。さらに、精神障害者の職場での能力についての総合的な判断としては、問題がないとする事業所の割合が44.4%と最も多くなっており、この割合は平成5年の調査結果(労働者としての信頼性、安定性について問題がないとする事業所の割合は、19.7%)と比べてもかなり高くなっている。
以上のように、出勤率の高い精神障害者の割合や精神障害者の職場での能力に問題がないとする事業所の割合が増加していることは、前述したように、精神障害者の雇い入れに当たって労働機関の支援制度を利用した事業所の割合が増加していることとも関係していると考えられる。
16 最後に、今後雇用に移行する可能性がある精神障害者の状況を把握するという観点から、精神障害者の福祉的就労の状況についても触れておく。
まず、授産施設のうち入所授産施設については、施設数が全国で21施設、在所者数が417人、同じく通所授産施設については、施設数が150施設、在所者数が3,355人となっている。また、福祉工場については、その数は全国で9工場、在所者数は158人となっている(いずれも、平成11年10月1日現在の数字)。
これらの授産施設や福祉工場で就労する精神障害者の1人1月当たりの平均工賃について見てみると、入所授産施設が9,650円、通所授産施設が24,000円、福祉工場が74,000円となっている(いずれも、平成9年度。全国社会福祉協議会調べ)。
さらに、精神障害者を一定期間事業所に通わせ、集中力、対人能力、仕事に関する持久力等の涵養を図る社会適応訓練は、いわゆる医療リハビリテーションの一環として実施されているものであるが、雇用に至る前段階の職場実習としての性格も有するものであり、平成10年度においては、全国2,691の事業所で4,306人の精神障害者を対象に実施されている。
II 雇用支援施策の現状と課題
(1)雇用支援施策の取組の推移
17 我が国において精神障害者の社会復帰のための施策が大きく進んだのは、昭和56年の国際障害者年やこれに続く国連・障害者の10年を経た後のことであるが、それ以前の精神障害者に対する雇用支援施策としては、症状が安定し、就労が可能な状態にある者を対象に、公共職業安定所において、求職登録制度を活用したケースワーク方式によるきめ細かな職業相談や職業紹介が行われていたほか、昭和47年に設置された心身障害者職業センター(現在の地域障害者職業センター)において、職業評価や職業カウンセリング等の職業リハビリテーションサービスが実施されていた。
18 その後、昭和58年に開催されたILOの第69回総会において、「職業リハビリテーション及び雇用(障害者)に関する条約」が採択され、職業リハビリテーションの措置の利用をすべての種類の障害者に対して確保することが国際的に求められる中で、昭和61年には、雇用対策法施行規則が改正され、三疾患にかかっている者であって、症状が安定し、就労が可能な状態にあるもの(通達で「精神障害回復者等」と呼称。)が適応訓練の対象とされることとなった。また、翌昭和62年には、従来の身体障害者雇用促進法が改正されて、障害者雇用促進法となり、精神障害者も含めた障害者全体が法の対象とされるとともに、心身障害者職業センターにおいて「精神障害回復者等」を含めた障害者を対象とした職業準備訓練が実施されることとなった。
19 さらに、昭和62年にそれまでの精神衛生法が改正されて精神保健法となり、これに基づく精神障害者の社会復帰対策が順次拡大される中で、平成4年には、障害者雇用促進法が更に改正されるとともに、雇用対策法施行規則や雇用保険法施行規則も改正され、上述の「精神障害回復者等」が障害者雇用納付金制度に基づく助成金や特定求職者雇用開発助成金の支給対象とされたほか、公共職業訓練についてもその対象とされることとなった。また、これに加えて平成4年からは、地域障害者職業センターにおいて「精神障害回復者等」を含めた障害者を対象とした職域開発援助事業が実施されることとなった。
20 その後、平成9年の制度改正においては、最初から長時間働くことが困難な者も多いという精神障害者の特性を踏まえ、上述の各種助成金が短時間労働の「精神障害回復者等」に対しても支給されることとなった。さらに、平成7年から精神障害者についても手帳制度が創設されたことを踏まえ、三疾患以外の精神障害者についても手帳の所持者であって、症状が安定し、就労が可能な状態にあるものは、適応訓練や各種助成金制度の対象とされることとなった。
このほか、障害者雇用納付金制度に基づく助成金の支給対象者は、その把握・確認に当たってプライバシー等に十分配慮する必要があるという理由から、それまでは、「精神障害回復者等」の中でも公共職業安定所の紹介によって雇い入れられた者に限られていたが、精神保健福祉法に基づく社会適応訓練の対象者についても、プライバシーの問題が発生することはないと判断されたことから、障害者雇用納付金制度に基づく助成金の支給対象とされることとなった。
併せて、こうした助成金の支給対象範囲の拡大に加え、従来の「精神障害回復者等」という呼称についても、精神障害が完全に治癒したかのような印象を与え、「症状が安定し、就労が可能な状態にある」という各種助成金の支給要件と必ずしも合致しないことから、「精神障害者」という呼称に改められた。
21 このように、前回平成9年の制度改正においては、精神障害者の雇用を促進する観点から、各種助成金制度を中心に多くの見直しが行われたが、その後も、事業所を活用して精神障害者等に職業リハビリテーションサービスを行う就業体験支援事業や、公共職業安定所の職員が医療機関等に出向き、就職を希望する精神障害者に就職ガイダンスを行う「医療機関等と連携した精神障害者のジョブガイダンス事業」、地域障害者職業センターが地域の雇用支援ネットワークを活用して実施する精神障害者職業自立支援事業等が開始されるなど、精神障害者に対する様々な職業リハビリテーションサービスが充実されて今日に至っている。
(2)現行施策
22 精神障害者に対する雇用支援施策は、上述したように、メニューが充実されてきたが、これらをその趣旨・目的に応じて整理すると、(1)求職活動への準備段階における支援、(2)その後の公共職業安定所による職業相談、職業紹介等、(3)基本的な労働習慣の体得や仕事への適性を見極めるための支援、(4)雇い入れやその後の雇用の継続を促進するための各種助成金の支給、及び(5)就職後の職場定着のための支援という五つのプロセスに分けられる。
23 このうち、まず、(1)の求職活動への準備段階における支援としては、上述した「医療機関等と連携した精神障害者のジョブガイダンス事業」と「地域雇用支援ネットワークによる精神障害者職業自立支援事業」の二つがある。
このうち、「医療機関等と連携した精神障害者のジョブガイダンス事業」は、公共職業安定所に来所した精神障害者に対して就職ガイダンスを行うそれまでの事業を公共職業安定所の職員が医療機関等に出向く形で拡充発展させた上で、平成11年度から障害者重点公共職業安定所を中心に実施安定所を逐次増やしながら実施されているもので、平成12年度においては、全国75の医療・保健、福祉施設等と連携して575人の精神障害者を対象として実施されている(なお、実施安定所の数は、平成12年度の24所から、平成13年度は34所に拡大されている)。
また、「地域雇用支援ネットワークによる精神障害者職業自立支援事業」は、後述する職業準備訓練等の前段階における職業リハビリテーションを必要とする精神障害者に対し、医療、福祉等の関係機関と連携して、対人技能訓練、体育指導及び作業指導等を実施することにより、次の段階の職業リハビリテーションへの円滑な移行を促すことを目的として、上述のジョブガイダンス事業と同様に平成11年度から逐次実施箇所を増やしながら実施されているもので、平成12年度においては、北海道、東京、広島、福岡の4都道県の地域障害者職業センターにおいて29人の精神障害者を対象として実施されている(なお、平成13年度における実施センターは、岩手、愛知、兵庫、熊本の4センターを加え、全部で8センターに拡大されている)。
24 次に、(2)の公共職業安定所による職業相談、職業紹介等については、上記I(2)ロの雇用状況等のところで述べたとおりであるが、こうした職業相談や職業紹介を補完するシステムとして、各都道府県の障害者重点公共職業安定所に医学的な専門的知識を有する精神障害者ジョブカウンセラーが配置されているほか(平成13年度は全国で47名)、精神障害者の求職者が多いその他の公共職業安定所にも精神障害者を専門に担当する相談員が配置されている(同じく全国で117名)。
また、こうした 公共職業安定所における職業相談、職業紹介等に加え、地域障害者職業センターにおいても、精神障害者等の障害者の職業能力・適性等の評価や職業リハビリテーション計画の策定、さらには、就職に向けての相談や就職後の職場適応指導等の支援が行われている(精神障害者に係る職業評価・職業指導の実績は平成12年度において11,903人日)。
25 さらに、(3)の基本的な労働習慣の体得や仕事への適性を見極めるための支援としては直接雇用につくことが困難な者も多いという精神障害者の特性も踏まえ、いくつかのメニューがあるが、まず、最も基本的な支援施策として、精神障害者を含む障害者を対象として地域障害者職業センター内の作業場(ワークトレーニング社)で模擬的な就労体験の機会を提供することにより、基本的な労働習慣の体得を目指す職業準備訓練がある(平成12年度における精神障害者の対象者は196人)。
また、こうした基本的な労働習慣の体得をワークトレーニング社のような模擬的な作業所ではなく、現実の事業所の作業環境の中で行い、その際に技術面の支援を行う技術支援パートナーや生活面の支援を行う生活支援パートナーといった人的な支援をつけて障害者の職業生活能力全般の向上を図る職域開発援助事業が地域障害者職業センターにおいて実施されており、平成12年度においては、173人の精神障害者がその対象となっている。
さらに、こうした基本的な労働習慣の体得を目指す職業リハビリテーションに加え、特定の事業所で、精神障害者(上記I(2)イの適応訓練の対象となる者)を含む障害者を対象に一定期間実地訓練を行い、その事業所の職場環境への適応性を高め、訓練終了後はその事業所に引き続き雇用してもらうことを目指す適応訓練が、前述したように精神障害者を対象に昭和61年から実施されており、その対象者は、平成11年度において就職困難者全体で1,903人(精神障害者を含む。)となっている。
また、精神障害者等の障害者を短期間試みに雇用するという意味でのトライアル雇用の機会を事業主に提供する障害者雇用機会創出事業が平成13年度より実施されているが、その前身である障害者緊急雇用安定プロジェクトにおいては、平成11年4月から13年5月までの間にトライアル雇用の対象となった精神障害者は314人となっている。
また、このほか、就職を希望していても直ちに雇用につくことが困難な精神障害者(手帳に該当する者)については、地域の精神障害者の生活支援の場である精神障害者地域生活支援センターが企業と業務請負契約を締結し、指導員付きで数人の精神障害者のグループを企業に送り込み、そこで就労してもらうことにより、一般雇用につなげる「グループ就労を活用した精神障害者の雇用促進モデル事業」が、平成13年度から東京、千葉、福岡の3か所で試行的に実施されている。
26 一方、(4)の雇い入れやその後の雇用の継続を促進するための各種助成金の支給については、まず、精神障害者(上記I(2)イの適応訓練の対象となる者)等の障害者を雇用した事業主に対して、その障害者に対して支払った賃金の一定割合(企業規模に応じて4分の1又は3分の1)を1年間支給する特定求職者雇用開発助成金が、平成11年度は241人の精神障害者を対象に支給されている。
また、このほか、障害者雇用納付金制度に基づく助成金についても、前述したように精神障害者がその支給対象となっており、平成12年度においては、延べ691人の精神障害者について支給されている。なお、精神障害者の場合は、障害者雇用納付金制度に基づく助成金の中でも、作業遂行に当たって必要な指導や援助の業務を担当する業務遂行援助者の配置に係る助成金や、雇用管理のために必要な職業コンサルタントの配置に係る助成金の対象となるケースが多くなっている。
27 最後に、(5)の就職後の職場定着のための支援については、まず、精神障害者等の職場適応に課題を有する障害者の職業生活の安定を図るため、障害者が働く職場において専門的かつ直接的な人的支援を行う「職場適応援助者(ジョブコーチ)による就職後の人的支援パイロット事業」が平成12年度から試行的に開始され、神奈川、滋賀両県の地域障害者職業センターにおいて、4人の精神障害者がその対象となっている(なお、同事業は、まだ本格実施されていないため、精神障害者以外の障害者を含めた全体の対象者数は17人となっている。また、13年度における実施センターは、宮城、東京、長野、静岡、大阪、岡山、徳島、沖縄の8センターを加え、全部で10センターに拡大されている)。
また、障害者に職場実習等の場をあっせんするほか、就業支援と生活支援を一体的に提供することを目的に試行的に実施されている障害者就業・生活総合支援事業の拠点についても、平成12年度に精神障害者を主な支援対象とするものが指定され、精神障害者に対して必要な支援が行われている(全国の拠点で就業面の支援と生活面の支援を併せて受けた精神障害者は76人となっている)。
(3)課題
28 以上のように、精神障害者の雇用を促進するために、近年多くの支援施策が実施されているが、その一方で、上記I(2)ロの雇用状況等のところで見たように、 就職を希望しているものの、まだ雇用につくことが困難な精神障害者が依然として多いということも事実であり、これらの精神障害者の雇用を促進するためには、解決すべき課題がなおいくつか残されていることも否定できない。精神障害者の雇用を促進するために今後解決すべきこのような課題としては、おおよそ以下のようなことが挙げられる。
29 まず、雇用支援施策の対象となる精神障害者の範囲をどのように考えるべきか、改めて整理する必要がある。上記I(2)イで述べたように、現行の障害者雇用促進法においては、精神障害者も「障害者」の中に含められ、一定の範囲で雇用支援の対象とすることとされているが、実際に適応訓練や各種助成金制度の対象となる精神障害者は、同施行令及び同施行規則において、三疾患にかかっている者又は手帳の交付を受けている者であって、症状が安定し、就労が可能な状態にある者としている。
しかしながら、現実には、精神障害者であっても手帳の交付を受けていない者がおり、これらの精神障害者の取扱いをどうするのか考え方を整理する必要がある。
その際、対象とする精神障害者を客観的に把握、確認する具体的な方法についても検討しておくことが不可欠である。
30 精神障害者の雇用を促進するための支援施策については、上述したように、近年その充実が図られたところであるが、その具体的な内容について見ると、必ずしも精神障害者の特性に合っていない部分がある。就職を希望する精神障害者の中には、疲れやすく最初から長時間働くことは困難な者も多く、また、職場の環境に慣れるまでに時間がかかるといったような特性も見られることから、こうした精神障害者の特性を十分踏まえたきめ細かな支援施策が求められている。実際、前述した労働機関や医療・保健・福祉機関に対するアンケート調査の結果を見ても、精神障害者の雇用を促進するために今後望まれる支援としては、「時間や期間が弾力的に設定できる職業リハビリテーション」が比較的多く(労働機関で45.8%、医療・保健・福祉機関で55.3%)挙げられている。
また、前述したように、就職を希望する精神障害者の中には、直ちに雇用につくことが困難な者もいることから、医療・福祉施策から雇用支援施策に円滑に移行するための措置が必要であり、精神障害者の状態に合わせた段階的な職業リハビリテーションの拡充が求められている。
さらに、精神障害者は就職後も医療との関係が継続し、その雇用の安定を図るためには、生活面の支援も重要であることから、労働機関のみならず、医療・保健や福祉機関等も含めた関係機関の総合的な支援が必要となるが、こうした支援を実現するためには、これらの関係機関を含めた地域のネットワークの構築が必要となる。
31 今後、更に精神障害者の雇用を促進するために解決すべき課題としては、以上のような課題に加えて、I(2)ロの雇用状況等のところで述べた採用後精神障害者の存在が挙げられる。
これらの精神障害者は、企業に採用された時点では精神障害を有していなかった者が、その後の職業生活の中で精神障害を有するに至ったものであり、このような採用後精神障害者が比較的規模の大きい企業を中心に多数存在する中で、その円滑な職場復帰や雇用の安定が大きな課題となっている。
このような採用後精神障害者の問題は、精神障害者の新規雇い入れの問題に比べると、これまでどちらかというとあまり注目されていなかったといえるが、精神障害者の雇用の促進を図る上で避けては通れない問題であり、近年、採用後精神障害者の増加が指摘される中で、早急な対応が求められている。
32 最後に、精神障害者の雇用を促進するために解決すべき課題として何よりも重要なのが、精神障害者の雇用に対する関係者や社会全体の理解の促進である。
これについては、これまでも精神分裂病を中心とした精神障害者の雇用管理マニュアルが作成され、事業主等に配布されているほか、本研究会としても冒頭述べたように、「精神障害者相談窓口ハンドブック」の改訂について検討し、改訂版が関係者に配布されたところである。
さらに、精神障害者の社会復帰の促進等ノーマライゼーションの実現については、I(1)ロで見たように、医療・福祉の進歩や地域ケア技術の改善等が進む中で、これまでも一定の前進が見られたところであるが、精神障害者の雇用の促進という点については依然として十分であるとはいえない。精神障害者の雇用の促進と安定を図るためには、事業主のみならず、職場の同僚、精神障害者を支える医療・福祉関係者や家族、さらには精神障害者本人も含めた理解の促進が何よりも重要であることから、今後ともなお一層の取組が求められる。
また、精神障害者の雇用を促進するためには、以上挙げた課題の他にも解決すべき課 題があることも十分考えられることから、今後ともそうした課題の明確化に努めるとと もに、その解決に向けた取組を継続的に進めることが重要である。
III 雇用支援施策の充実強化
(1)対象者についての考え方
33 対象者の範囲については、障害者雇用促進法第2条第1号にいう「長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難」という要件と障害者基本法第2条にいう「長期にわたり日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける」という要件がほぼ同等であることから、雇用支援施策の面においても、手帳の該当者を対象とすることが適当と考えられる。
ただし、厳密にいえば、障害者雇用雇用促進法第2条第1号にいう「長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難」という要件と障害者基本法第2条にいう「長期にわたり日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける」という要件が完全に一致せず、手帳の該当者に限定すると、雇用支援の必要な精神障害者が対象外とされる可能性もあり、この点については、今後前者の具体的な内容をできる限り明確にしつつ、更に検討していく必要がある。
34 雇用支援の対象となる精神障害者の範囲を以上のように考えた場合、次に問題となるのは、こうした精神障害者をどのように把握・確認するのかということである。
精神障害者を雇用支援の対象とするためには、その対象となる精神障害者を客観的に把握・確認することが必要となるが、精神障害者の中には、自らの障害を認識できていない者や精神障害者であることを他人に知られたくない者も多く、その把握・確認に当たっては対象者のプライバシー等に十分配慮する必要がある。手帳所持者については、本人が申請し、交付されているところからこのような問題はないと考えられるが、手帳を所持していない者の中にも雇用支援が必要な精神障害者が相当数いることが考えられるため、手帳の交付を受けていない者について、そのプライバシーに十分配慮した上で、雇用支援の対象となる者であることを確認する方法を構築する必要がある。
(2)特性に応じた総合的な対策の推進
イ 医療・福祉と雇用を結びつけるためのシステムの充実
35 近年、精神障害者の社会復帰が進む中で、社会復帰施設に入所している者など、医療・福祉施策の対象となっている精神障害者の中でも就職を希望する者が増えているが、これらの精神障害者の中には直ちに雇用につくことが困難な者も相当数いると考えられる。
これらの精神障害者の中には、一定期間実際に企業の作業環境の中で就労経験を積むことにより、雇用に移行することが可能な者も多いと考えられることから、こうした機会を提供するために、福祉施策の対象となっている精神障害者がいる社会復帰施設等と雇用の場となる企業の間に、中間的、過渡的な就労の場を確保することが重要となっている。
こうした中間的、過渡的な就労の場としては、上記II(2)で述べたように、平成13年度より、「グループ就労を活用した精神障害者の雇用促進モデル事業」が実施されているほか、授産施設に入所している精神障害者については、授産施設が企業等と業務委託契約を結んだ上で、授産施設の指導員の指導の下で、企業等の事業所で授産活動を行うとともに、授産活動の終了後は、公共職業安定所が、職業相談、個別求人開拓、職場定着等の支援を行うことにより、精神障害者の企業等への就職を促進する「施設外授産」の事業が行われている。
これらの事業は、福祉部門と雇用部門が連携して上述したような中間的、過渡的な就労の場を提供するものであり、医療・福祉施策の対象となっている精神障害者の雇用を促進する上で一定の効果が見込まれることから、今後もその実施状況を十分踏まえながら、更に拡充することを検討する必要がある。
また、これらの精神障害者が医療・福祉施策から雇用支援施策に円滑に移行するためには、労働機関が医療、福祉等の関係機関と連携して段階的に職業リハビリテーションを実施することが効果的であり、前述した「地域雇用支援ネットワークによる精神障害者職業自立支援事業」や「医療機関等と連携した精神障害者のジョブガイダンス事業」のような求職活動への準備段階における支援を今後更に拡充し、できるだけ早い時期に全国展開を図っていく必要がある。
加えて、今後、精神障害者の雇用機会を更に拡大するという観点から、上述のグループ就労のみならず、雇用の場面においても1人分の仕事を2人の精神障害者で担当するといったような仕事の分かち合いについて更に検討していく必要がある。
36 さらに、医学的なリハビリテーションの一環として、精神障害者を一定期間一般の事業所に通わせる社会適応訓練の対象者の中にも、就職を希望する精神障害者が多いことから、上記II(2)で述べた障害者雇用機会創出事業(いわゆる「トライアル雇用」の機会を提供する制度)においても、社会適応訓練を終えた精神障害者をその対象としている。障害者雇用機会創出事業の「トライアル雇用」の期間は、週20時間未満の雇用も可能であることから、今後ともこうした仕組みを十分活用して、社会適応訓練の対象となっている精神障害者の雇用の促進を図るとともに、より多くの精神障害者の雇用を支援できるよう障害者雇用機会創出事業についてもできる限りその拡充を図るべきである。
併せて、上記II(1)で述べたように、平成10年度より、社会適応訓練の対象者についても障害者雇用納付金制度に基づく助成金の支給対象とされていることから、こうした支援制度が更に活用されるよう、きめ細かな周知・広報を行うとともに、それ以外の雇用支援施策の実施に当たっても、社会適応訓練を適正に実施した上でその対象者が雇用に円滑に移行できるよう、積極的な活用を図っていくことが望まれる。
37 また、精神障害者は、いったん雇用された後も、職場の人間関係や家族関係等様々な要因で、その症状が変化することも多く、雇用の継続が困難となる場合もあるので、そのような場合には、できる限り雇用関係を継続した上で、一定期間医療・福祉の場に戻れるようにすることも重要である。
精神障害者については、他の障害者の場合と異なり、社会復帰施設等の利用は措置制度ではなく既に利用制度になっているので、雇用の継続が困難となった場合に主治医が必要と認めれば、再度社会復帰施設を利用することは可能である。このようなことから、今後ともこうした仕組みを関係者に十分周知することにより、医療・福祉の場から雇用に移行する一方的な流れだけではなく、必要なときには、雇用から医療・福祉の場に円滑に戻れるような双方向のシステムを確立する必要がある。
なお、こうした双方向のシステムを円滑に機能させる具体的な仕組みとしては、上記II(2)で述べた障害者就業・生活総合支援事業の拠点を活用することも考えられるが、そのためには、今後できるだけ早い時期にこうした拠点を少なくとも全都道府県に拡充することが必要である。
ロ 職場定着のための支援
38 精神障害者は、上述したように、就職した後も、その症状が変化することが多く、生活面でも継続した支援が必要なことから、その職場定着に当たっては、労働機関のみならず、医療・保健機関や福祉機関、さらにはセルフヘルプグループ(当事者による相互扶助組織)等の関係機関・組織が一体となって総合的な支援を行うことが必要である。
このため、後述するように、これらの関係機関・組織がネットワークを形成して総合的な支援を行えるようにするとともに、ネットワークの核となる機関(あるいは、精神障害者の雇用支援に直接的な責任を持つ機関)が精神障害者の職業生活の状況を継続的に把握し、必要な場合には、企業の外からジョブコーチを派遣するなど、集中的な支援が迅速に行えるようなシステムを構築しておくことが重要である。
ハ 現行の雇用支援制度の見直し
39 精神障害者に対する雇用支援施策については、上記II(3)で述べたように、近年メニューとしては充実が図られているものの、その内容については、精神障害者の特性を踏まえて更に見直すことが必要なものもある。
例えば、前述したように、精神障害者は疲れやすく、最初から長時間働くことが困難な者も多いが、現行の雇用支援施策の多くは、短時間労働の精神障害者をその対象にしているものの、支援の対象となる労働時間の下限は、週20時間となっている。しかしながら、就職を希望する精神障害者の中には、最初から週20時間以上働くことは困難な者も多いことから、今後は、精神障害者を対象とした雇用支援施策のうち、可能なものについては、労働時間が週20時間未満の者も対象にするか、あるいは少なくとも労働時間が週20時間以上になった時点で支援の対象にできるよう、必要な見直しを進めるべきである。
また、精神障害者の中には、新しい環境に慣れるのに時間がかかり、雇用管理により配慮を要する者も多いことから、現行の雇用支援制度のうち必要なものについては、支援期間をできるだけ長くすること等も検討する必要がある。
もちろん、一口に精神障害者といっても疾患の種類によってその特性は様々であり、現行の雇用支援施策をそのすべてに適合させることは困難であるが、今後とも、精神障害者に対する雇用支援施策ができる限り利用者にとって使いやすいものとなるよう不断の見直しを進めていくことが重要である。
さらに、平成14年度から精神障害者の居宅介護等事業が本格実施されることに伴い、こうした分野において、当事者によるピア・ヘルパーとして就労することを希望する精神障害者も見られるなど、精神障害者の職域も少しずつ拡大している。また、近年、高度情報通信技術の発達に伴い、いわゆる在宅で就労する障害者も増加しているが、こうした在宅就労も、精神障害者の職域を拡大する上で大きな可能性を有する分野である。こうしたことから、今後、精神障害者に対する雇用支援施策の見直しを進めるに当たっては、精神障害者の職域の拡大という観点も十分踏まえることが重要である。
このほか、精神障害者が雇用義務制度の対象となっていない中で、今後、精神障害者の新規雇い入れを更に促進する観点から、現在一部の地域で試行的に実施されているジョブコーチ支援をできるだけ早い時期に全国展開するとともに、精神障害者を雇い入れた事業主に対する助成措置の拡充等についても検討することが必要である。
(3)ネットワークの構築
40 精神障害者の雇用の促進や安定を図るためには、これまで繰り返し述べたように、労働機関のみならず、医療・保健機関や福祉機関、さらにはセルフヘルプグループ等も含めた関係機関・組織の総合的かつ有機的な支援が不可欠であるが、これを実現するためには、これらの関係機関・組織をつなぐ地域のネットワークを構築する必要がある。
しかしながら、現状では、事業所の多くが「関係機関が連携して行う支援」を望んでいるのに対し、労働機関のみならず、医療・保健、福祉機関のいずれにおいても、関係機関との協力体制が十分でないという認識を有している機関が多いことから、今後ともこうした取組を強化する必要がある(アンケート調査のうち、事業所調査によれば、精神障害者の雇用を促進するために今後望まれる支援として「関係機関が連携して行う支援」を挙げている事業所の割合は50.4%と、最も多い。また、同じく労働機関や医療・保健・福祉機関に対する調査によると、「関係機関との協力体制が十分でない。」とする機関の割合は、労働機関においては61.3%、同じく医療・保健、福祉機関においては64.5%となっている)。
また、こうしたネットワークが支援の対象となる精神障害者や事業主のニーズを十分踏まえて、真に有効に機能するためには、ネットワークの核となる機関がこれらのニーズを的確に把握し、必要に応じて関係機関の間の調整を行うことが重要である。
このようなネットワークの核としては、基本的に個々の精神障害者が利用しやすい機関がその役割を担うことが適当であるが、精神障害者にとって身近な地域レベルにおいては、上述したように、障害者就業・生活総合支援事業の拠点を拡充しつつ、これと職業紹介機能を有する公共職業安定所が連携しながらこうした役割を果たすことも考えられるし、さらに都道府県単位の広域レベルでは、地域障害者職業センターが同様の役割を果たすことも考えられる。
また、こうしたネットワークが継続的に機能するためには、核となる機関やネットワークのメンバーとなる関係機関がそれぞれ果たすべき役割を明確にした上で、担当者が人事異動等で交代した場合でもそうした役割が継続して果たされるようにするための工夫が求められるとともに、今後、こうしたネットワークの核となることが期待される地域障害者職業センターについては、その業務のうち可能なものについてはネットワークの資源を活用して実施する等、核となる機関の体制面への配慮も必要である。
さらに、今後こうしたネットワークを地域に広げていくためには、その基盤を整備するという観点から、ネットワークの必要性について関係機関の理解を得るとともに、お互いの役割を十分認識するという意味で、必要な情報の共有化を図ることも重要である。「精神障害者の就職についてお互いの考え方に開きがある」とする機関が多いという現状(アンケート調査によれば、労働機関については68.9%、医療・保健・福祉機関については40.9%)に鑑みると、こうした関係機関の間の情報の共有化と相互理解の促進は特に重要であり、現在、日本障害者雇用促進協会で行っている医療・福祉等の分野における職業リハビリテーション人材育成のための取組等についても今後更に積極的に進めていくべきである。
また、関係機関のネットワークについては、前述した「地域雇用支援ネットワークによる精神障害者職業自立支援事業」や「医療機関等と連携した精神障害者のジョブガイダンス事業」のように、関係機関の職員が一体となって、個々の精神障害者の雇用の促進に向けた具体的な取組を進めること自体がネットワークをより強固なものにすることから、今後、地域におけるネットワークの構築を更に促進する観点からも、こうした取組を積極的に進めていくべきである。
41 一方、こうした関係機関のネットワークは、これを支える人材なくしては十分機能しないことから、そのような人材の育成も重要な課題である。特に、こうした関係機関のネットワークの下で、直接精神障害者の就労を支援することとなるジョブコーチについては、今後その拡充に向けた人材の養成が必要となるが、こうしたジョブコーチとしては、企業の実態を十分踏まえた人材が求められていることから、企業のOB等を積極的に活用するとともに、福祉関係の人材についても、就労支援に関する研修の機会に加えて、社会適応訓練の協力事業所や精神障害者を雇用している企業等において、一定期間就労を体験できるような機会を設けることも必要である。
また、こうした研修の実施に当たっては、精神障害者の就職や職場適応を職場において直接支援するというジョブコーチの役割や位置づけをできる限り明確にするとともに、そうした研修を修了したことが対外的に明らかになるようにすることや、さらには労働機関の人材が、医療、福祉の現場に入り、就労支援の具体的なノウハウを直接伝えることができるような工夫をすることも重要である。
このほか、こうした多様な人材の活用に加えて、上記(1)で述べたような精神障害者の職域の拡大という観点も踏まえ、精神障害者の就労支援に当たって、当事者によるピア・サポートやセルフヘルプグループの活用とそのための人材育成ということを検討していくことも重要であろう。
(4)採用後精神障害者対策の強化
イ 企業や精神障害者本人に対する相談体制の確立等
42 採用後精神障害者の職場復帰に当たっては、これまで非公式な形でいわゆる「リハビリ出勤」の機会を提供し、その円滑化を図ってきた企業もあるが、それ以外は企業の中に採用後精神障害者の職場復帰を支援するための具体的なノウハウも蓄積されておらず、また、従業員の精神面をケアする支援プログラムであるEAP(従業員支援プログラム)を除き、企業の外からの支援も十分でないというのが現状であった。
こうした採用後精神障害者の職場復帰に当たっては、精神障害者の新規雇い入れの時と同様に、労働機関のみならず、医療・保健機関や福祉機関も含めた関係機関の総合的な支援が必要となることから、こうした関係機関の密接な連携の下に企業や精神障害者本人が必要な対応について情報を入手するとともに、気軽に相談できる体制を、今後早急に確立することが必要である。
43 また、採用後精神障害者が医療の場から職場に戻る復職の時期については、主治医・本人と産業医・職場の間でその判断が微妙に食い違うことがあるため、採用後精神障害者の職場復帰支援に大きな役割を果たす産業医や看護婦、保健婦等の産業医療保健スタッフとも十分連携しつつ、関係機関が必要な調整を行えるような仕組みを構築することも重要である。
ロ 職場復帰支援策の充実
44 採用後精神障害者が医療の場から職場に円滑に戻るためには、復職前に一定期間ウオームアップできる場を設けることも必要であるが、これまでは上述したような「リハビリ出勤」の機会を除いてこうした場はほとんどなかった。
このため、採用後精神障害者が復職前にウオームアップしたり、ピア・カウンセリングを行える場を確保するとともに、採用後精神障害者の職場復帰に当たっては、配偶者を始めとする家族の支援が極めて重要であることに鑑み、採用後精神障害者の家族に対する相談・カウンセリング機能についても整備する必要がある。
また、採用後精神障害者の中には、精神分裂病のみならず、うつ病やてんかん、神経症の者も多いと考えられるが、比較的若い時期に発病した精神分裂病の者を対象とした従来の作業所やデイケアは、中高年のうつ病の者やてんかんの者にはなじまず、利用しにくいということも考えられるので、セルフヘルプグループ等も活用しつつ、別途これらの精神障害者のためのウオームアップの場を確保することも検討する必要がある。
なお、以上のような採用後精神障害者の職場復帰支援策の充実は、採用後精神障害者の雇用上の課題をできる限り明らかにした上で、精神疾患の発病を防ぐという予防的な観点から行ってきたこれまでのメンタルヘルス対策を更に拡充しつつ、これと整合性を持った形で行うことが適当である。
45 さらに、「リハビリ出勤」については、採用後精神障害者の職場復帰を支援する上で、一定の効果が見込まれるものの、労働者性があるか否かについて企業内の位置づけが曖昧な面もある。
このため、賃金支払いの必要性や事故等が起きた際の災害補償の在り方について明確にした上で、労働者災害補償保険の対象となる場合には同保険を適用し、その他の場合には各企業において民間の保険に加入する等の措置を講ずる必要がある。
ハ 新規雇い入れの際の支援施策等の活用
46 採用後精神障害者が職場復帰する際に解決すべき課題は、職場が新たに精神障害者を受け入れるという意味で、精神障害者の新規雇い入れの際の課題とある程度共通する。
このため、職業準備訓練やジョブコーチの派遣等の新規雇い入れの際の支援策を、必要に応じて採用後精神障害者の職場復帰の際にも活用できるようにするとともに、現在身体障害者のみを支給対象としている障害者雇用継続助成金についても、採用後精神障害者をその対象とすることを検討する必要がある。
(5)きめ細かな啓発・広報の展開
47 精神障害者の雇用を促進するためには、上記II(3)でも述べたように、事業主や職場の同僚、さらには精神障害者を支援する自治体関係者や医療・保健、福祉関係者を始めとする関係者や社会全体の理解の促進が何よりも重要である。
このため、精神障害者の雇用事例集や精神障害者の雇用を題材としたビデオ、精神障害者の雇用管理マニュアル等を作成して、関係者に配布するとともに、関係者を対象としたセミナーを開催する等により、精神障害者の雇用に対する関係者の理解を促進することが必要である。
また、関係者の理解を得るためには、精神障害者の雇用の実態を直接目で見る機会を提供することが有効であると考えられることから、精神障害者を雇用している企業や社会適応訓練を実施している企業の見学会を実施したり、関係者と精神障害者が直接会って意見交換を行う場を設けることも考えられる。
さらに、事業主に、トライアル雇用という形で精神障害者を短期間試みに雇用する機会を提供する障害者雇用機会創出事業も精神障害者雇用の経験の乏しい事業主の理解を促進する上で有効であると思われることから、その積極的な活用が望まれる。
こうした取組に加え、雇用に対する精神障害者本人や家族の理解を深めるため、障害者団体とも連携しつつ、当事者によるピア・カウンセリングや家族に対する相談・情報提供等を行うことや、関係者が必要な人材を有効に活用できるよう、精神障害者職業相談員やジョブカウンセラー、精神保健福祉士等の関係機関の人材の役割についてハンドブック等で分かりやすく説明することも重要である。
このほか、精神障害者が障害者雇用納付金制度に基づく助成金を始めとする各種助成金の対象となることについては、必ずしも関係者に十分周知されていないことから、更なる活用が図られるよう、積極的な周知啓発を行うことも必要である。
なお、前述したように、一口に精神障害者といっても、疾患の種類によって、その特性や雇用上の問題点も異なることから、以上のような啓発・広報を行うに当たっては、こうした点を十分踏まえ、できる限りきめ細かな対応を図るとともに、関係機関・組織が一体となって、テレビ、新聞等できるだけ幅広い媒体を使い、社会全体に対する働きかけを行うことも重要である。
IV 雇用義務制度について
48 精神障害者の雇用を促進する上で、精神障害者の雇用義務制度の在り方を検討することは重要な課題であるが、精神障害者を雇用義務制度の対象とするかどうかについては様々な意見があった。
49 精神障害者が雇用義務制度の対象にならなければ、様々な支援制度があっても結局その雇用は進まないのではないかという意見があったほか、これまでも議論されてきた雇用義務制度の対象に精神障害者を含めることが他の障害者との差別をなくし、当事者や家族を勇気づけるとともに、それ自体が精神障害者に対する偏見を取り除き、ノーマライゼーションを進める有力な方法であり、社会的な啓発や関係者の理解の促進に役立つのではないかという指摘もあった。
50 さらに、精神障害者を雇用義務制度の対象にすべきだという意見としては、それによって精神障害者の職業能力の活用が進むことに加え、精神障害者の就労を支援するスタッフによる支援が活発化するとともに、精神障害者の雇用の促進に必要な職場実習や作業体験の場も拡大するなど、企業との関係においても支援がしやすくなるのではないかという意見もあった。
51 一方、精神障害者に雇用義務制度を適用するためには解決すべき課題がいくつか残されていることに着目し、まず、そうした課題の解決を図ることが先決であるという意見もあった。
こうした課題としては、まず、(1)精神障害者の場合は、知的障害者を雇用義務制度の対象とした時とは異なり、企業の中に採用後精神障害者が既に多数存在し、企業はその雇用管理に負担を感じているため、たとえ精神障害者に雇用義務制度を適用したとしても、そうした採用後精神障害者の問題が解決されない限り精神障害者の新規雇い入れは進まないのではないかということ、また、(2)そもそも精神障害者の雇用を促進するためには、企業の中に精神障害者の雇用管理のノウハウが蓄積される必要があること、さらには、(3)採用後精神障害者の中にも、自らの障害を認識できていない者や障害を隠したいと思っている者も相当数存在すると考えられるため、適正なガイドラインにより障害者本人の同意を得るというプロセスを経ない安易な方法で雇用義務制度を適用すると、本人の意思に反して適用されるという「掘り起こし」の問題が起きるのではないかということなどが指摘された。
52 さらに、精神障害者に雇用義務制度を適用すべきだという議論は、主として未就職の精神障害者の新規雇い入れを促進するという観点から行われているが、これに対しては、大企業を中心に多くの企業においては採用後精神障害者を算定することで法定雇用率のかなりの部分が達成されてしまい、新規雇用につながらないのではないかという指摘があった。また、採用後精神障害者については、雇用義務制度上どのように位置づけていくかの議論が成熟しておらず、障害の程度等が様々である中で採用後精神障害者のどの範囲を雇用率算定の対象とするかについての検討が不十分であるという意見もあった。
53 このほか、採用後精神障害者の把握・確認に当たっては、まず、本人のプライバシーを守り、その不利益とならないシステムを構築することが必要であり、次に、採用後精神障害者を含め雇用義務制度の対象とすることが適当であるということについて、事業主等の理解を得るための啓発活動が必要であるという意見があった。また、こうしたプライバシー保護等の観点から、採用後精神障害者については雇用義務制度の対象とする範囲を慎重に検討するとともに、雇用義務制度の対象とした場合の影響を見極めるべきだという意見や、雇用義務制度を適正に運用するためには、事業主等の理解を得る努力を行い、かつ、障害者のプライバシーや利益に留意して、本人を含めた関係者の同意の下で調査研究を行い、採用後精神障害者の実態を明らかにすることが必要ではないかという強い意見もあった。
54 いずれにしても、精神障害者も雇用義務制度の対象とする方向で取り組むことが適当と考えられるが、そのためには、これまで述べた雇用支援施策の積極的な展開と拡充を図りつつ、その実績を周知することにより、当事者を含む関係者の理解を十分得るとともに、対象とする精神障害者の把握・確認方法の確立や採用後精神障害者の実態把握等制度適用に必要な準備を的確に講じるべきであり、関係機関・組織の十分な連携の下に、そうした取組を始めるべきである。
(参考1)
精神障害者の雇用の促進等に関する研究会委員
氏名 | 所属 |
荒井稔 | 日立製作所本社健康管理センター嘱託精神科医(順天堂大学医学部精神医学講師) |
岩崎晋也 | 法政大学現代福祉学部助教授 |
岡上和雄 | 精神障害者リハビリテーション学会長 |
金子鮎子 | 株式会社ストローク代表取締役 |
倉本義則 | 日本障害者雇用促進協会北海道障害者職業センター主任障害者職業カウンセラー |
小林幸夫 | 株式会社オレンジジャムコ取締役社長 |
野中猛 | 日本福祉大学社会福祉学部保健福祉学科教授 |
平賀昭信 | 医療法人立川メディカルセンター柏崎厚生病院リハビリテーション部作業療法主任 |
藤井博 | 日本労働組合総連合会大阪府連合会総括副事務局長 |
松為信雄 | 日本障害者雇用促進協会障害者職業総合センター主任研究員 |
村上清 | 財団法人全国精神障害者家族会連合会事業部長 |
八木原律子 | 明治学院大学社会学部助教授 |
輪島忍 | 日本経営者団体連盟労務法制部雇用管理課長 |
(参考2)
精神障害者数について
患者数 | 204万人(平成11年患者調査) |
手帳所持者 | 19.1万人(平成13年3月末現在) |
在職者 | 5.1万人 うち採用後精神障害者は1.3万人 (平成10年度障害者雇用実態調査) |
求職者等 公共職業安定所における有効求職者数 社会適応訓練対象者数 その他 |
9,342人(平成12年度末) 4,306人(平成10年度) 不明 |
(参考) | 1 身体障害者数 318万人(平成8年身体障害者実態調査) 2 知的障害者数 41万人(平成7年精神薄弱児(者)基礎調査) 3 手帳相当の障害を有する精神障害者の数は不明 |
(参考3)
精神障害者の雇用支援施策の体系
1 求職活動への準備段階における支援
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2 公共職業安定所における職業相談、職業紹介
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↓
3 基本的な労働習慣の体得や仕事への適性を見極めるための支援
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↓
4 雇い入れやその後の雇用の継続を促進するための助成
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↓
5 就職後の職場定着のための支援
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