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別紙

報告書のポイント

懇談会の目的

 文部科学省と厚生労働省が共同で本懇談会を開催し、地域の熟練技能技術者を講師等として活用した「ものづくり教育・学習」を学校や、公民館、博物館等の社会教育施設において広く普及させることが極めて重要との認識のもとに、ものづくり教育・学習の意義やねらい、効果的な実施方策について検討した。

ものづくり教育・学習の意義やねらい

ものづくり教育・学習の現状等

ものづくり教育・学習の効果的な実施のための取組

(1) ものづくり教育・学習の適切な手法、プログラム等による実施

(2) ものづくり教育・学習の指導者

(3) ものづくり教育・学習の事前準備等

(4) ものづくり教育・学習において熟練技能技術者の活用を進めるためのシステムの構築

(5) ものづくり教育・学習に対する理解の促進

ものづくり教育・学習における安全配慮

 児童・生徒等に対する安全配慮、ものづくり教育・学習での安全教育が必要である。

ものづくり教育・学習の効果的な実施のための支援


(資料1)

「ものづくり教育・学習に関する懇談会」メンバー

(五十音順、敬称略、職名は平成13年3月現在)



青木 明義 (社団法人日本建築大工技能士会副会長)

石井 雅幸 (東京都府中市立府中第一小学校教諭)

伊東 兵次 (学校法人伊東学園テクノ・ホルティ園芸専門学校校長)

江上 節子 (産能大学経営情報学部経営情報学科助教授)

遠藤 亮平 (静岡県教育委員会高校教育課長)

鹿嶋 泰好 (東京都大田区立大森第六中学校校長)

小林 洋 (社団法人日本造園組合連合会理事)
斎藤 勝政 (前群馬職業能力開発短期大学校校長)

菅間 忠男 (社団法人全国技能士会連合会常務理事、中央職業能力開発協会常務理事)

関根 甫 (JAM副会長)

富丘 敦 (埼玉県本庄市教育委員会指導主事)

濱田 隆士 (放送大学教授、財団法人日本科学協会理事長)

松本 浩之 (東京工業高等専門学校校長)

山下 省蔵 (拓殖大学工学部教授)

山本 恒夫 (筑波大学教育学系教授)

◎は、座長。


(資料2)

検討経緯


平成11年10月26日  第1回懇談会
11月29日  第2回懇談会
12月13日  第3回懇談会
平成12年2月7日  第4回懇談会
3月10日  第5回懇談会
5月18日  (中間まとめ発表)
10月20日  第6回懇談会
11月8日  (メンバーによるトライアル(試行実施)視察 静岡県立修善寺高校)
平成13年1月23日  第7回懇談会
3月27日  第8回懇談会

(資料3)

若年者に対する熟練技能技術者によるものづくり教育・学習の在り方について


平成13年6月

ものづくり教育・学習に関する懇談会


目次


1 懇談会の目的

2 ものづくり教育・学習の意義等
 (1) ものづくりの楽しさや大切さの理解
 (2) 熟練技能技術者の役割の理解
 (3) 「ものづくり」は「人づくり」

3 ものづくり教育・学習の現状等
 (1) ものづくり教育・学習の現状
 (2) ものづくり教育・学習の実施上の課題

4 ものづくり教育・学習の効果的な実施のための取組
 (1) ものづくり教育・学習の適切な手法、プログラム等による実施
 (2) ものづくり教育・学習の指導者
 (3) ものづくり教育・学習の事前準備等
 (4) ものづくり教育・学習において熟練技能技術者の活用を進めるためのシステムの構築
 (5) ものづくり教育・学習に対する理解の促進

5 ものづくり教育・学習における安全配慮
 (1) 児童・生徒等に対する安全配慮
 (2) ものづくり教育・学習での安全教育

6 ものづくり教育・学習の効果的な実施のための支援


「ものづくり教育・学習に関する懇談会」メンバー


1 懇談会の目的

 若年者を中心としたものづくり離れや技能離れといった傾向が続く中で、産業界の各分野で我が国の経済発展に重要な役割を担ってきた優れた技能者の確保や、その後継者の育成が困難となってきている。これらの一因としては、若年期において、ものづくり体験に乏しいこと、ものづくり現場を見る機会が少ないこと、また、そのために技能に対する関心が低いことなどが考えられ、若年者にものづくりの楽しさや素晴らしさを知る機会を数多く提供することが求められている。
 また、ものづくりを通しての体験的な学習は、若年者が自ら学び、自ら行動し、問題を解決するなどの「生きる力」の育成にも資するという認識が高まっている。
 このような観点から、若年者に対するものづくりについての教育の充実を図ることが、緊急、かつ、重要な課題となっている。
 このため、文部科学省と厚生労働省は共同で、平成11年10月より「ものづくり教育・学習に関する懇談会」を開催し、ものづくり教育・学習の在り方について検討を行った。
 折しも、「ものづくり」については、社会的な関心が高まってきており、平成12年5月には首相の私的諮問機関である「ものづくり懇談会」の提言がまとめられ、ものづくりの基盤が「人」づくりにあることが強調されるとともに、平成12年9月には「ものづくり基盤技術振興基本法」に基づく「ものづくり基盤技術基本計画」が策定され、計画中に「ものづくり教育の充実」が盛り込まれたところである。
 こうした中で、ものづくりの技能・技術に熟練、熟達した者(以下「熟練技能技術者」という。)の多くは、自らの能力を教育の場で活用して欲しい、また、自らの仕事を多くの人々に知ってもらいたいという思いをもっており、ものづくりについての教育への協力、参加への強い希望を持っている。また、教育現場では、開かれた学校づくりを進めるため、地域の様々な人材の協力を得ることにより、地域との連携を深めていくことが求められており、社会教育においても地域の人材を活用した多様な事業の展開を図ることが期待されている。
 このような状況を踏まえ、本懇談会では、地域の熟練技能技術者を講師等として活用した「ものづくり教育・学習」を、学校や、公民館・博物館等の社会教育施設(以下「公民館等」という。)において広く普及させることが極めて重要であるとの認識の下に、その意義やねらい及び効果的な実施のための方策について検討した。

2 ものづくり教育・学習の意義等

 ものづくり教育・学習が、今後、多くの学校や公民館等で円滑に実施されるためには、教育現場の教員・職員や保護者、その他関係者にその意義やねらいについて十分に理解してもらうことが不可欠である。そこで、本懇談会で議論されたものづくり教育・学習の意義やねらいについて、次のとおり整理した。

(1) ものづくりの楽しさや大切さの理解

 ものづくりの体験においては、自分で実際に身体を動かし、試行錯誤や様々な工夫、努力や忍耐を通して、十分な時間をかけてものづくりをすることによって、作る喜びや完成の達成感を味わうことができる。また、熟練技能技術者の指導によりものづくりを体験したり、熟練技能技術者によるものづくりの現場を見ることは、日常の教育・学習では得にくい驚きや感動を得ることができる。さらに、ものづくりの体験における試行錯誤の繰り返しや解決方法の探求を通じ、各教科や生活の中で学んだ知識や理論を実感を伴って理解することができ、「わかった」という満足感を得られるとともに、これらを通じ、プロセスの大切さや、ものづくりの重要性、技能・技術が果たす役割の理解を促進することができる。

(2) 熟練技能技術者の役割の理解

 熟練技能技術者によりものづくりの指導を受けることを通して、熟練技能技術者が持つプロとしての素晴らしい技は、天才的な素質のみによるものではなく、長年にわたり技能・技術の研鑽を積んできた努力の賜でもあることを理解することができる。また、ものを上手に、巧く作ることができることは、楽器の演奏やスポーツに秀でていることと同様に素晴らしいことであるという認識を育むことが期待できる。さらに、社会は様々な職業の人々の存在のもとに成り立っており、専門分野に優れるということが社会人として重要であるとの理解を進めることとなり、これまでの我が国経済社会のめざましい発展に大きな役割を果たしてきたものづくりを担う技能者や技術者の社会的な役割の重要性の理解を深めることとなる。
 こうしたことが、ひいては、ものづくりに携わる者の社会的な評価の向上につながると考えられる。

(3) 「ものづくり」は「人づくり」

 ものづくりには、自分の個性や考え、努力が次第に目に見える形となり、他者からも評価され得る作品となって残るという特徴があり、自分の努力や成長を確認できるという利点がある。また、ものづくりの楽しさや完成の達成感を味わうことは、自ら主体的に取り組む態度や創造力、ひとつのものに取り組む集中力や忍耐力、協調する態度を醸成することができる。さらに、ものづくりの重要性や技能・技術が果たす役割を理解し、熟練技能技術者の役割を理解することは、ものづくりを支える方々を尊敬する態度を身に付け、労働を尊ぶといった望ましい職業観や勤労観を育成することが期待される。
 これに加え、自ら道具や機械を扱う中で、安全確保の重要性、安全を最優先する態度の醸成が期待される。
 このように、「ものづくり」は「人づくり」とも言えるものである。

3 ものづくり教育・学習の現状等

(1) ものづくり教育・学習の現状

 現在、学校教育でのものづくりに係る教育は、主に次の教科で取り扱われている。

○ 小学校・・・・図画工作、理科、生活、家庭、社会
○ 中学校・・・・技術・家庭、美術、理科、社会
○ 高等学校・・・芸術、家庭、工業等

 これらの教科や特別活動の時間において、熟練技能技術者の指導によるものづくり教育の取組は増えつつあり、実施されている例では、好評を得ている。
 優れた知識や技術を有する社会人を学校教育に活用することにより、学校教育の多様化への対応とその活性化をねらいとする教育職員免許法に基づく特別非常勤講師制度は、教員免許状を持たない社会人を小・中・高等学校等で登用できるものであり、この制度を活用したものづくり教育での熟練技能技術者の登用は、各地での取組として始まっている。
 一方、社会教育の場では、公民館等あるいは大学や専修学校等の開放事業において、専門家が指導を行う親子参加のものづくり体験教室が多くの地域で実施されている。また、技能士会等の各種団体や企業もこのような活動を展開している例もある。これらの参加者からは好評を得ており、さらなる実施の拡大が期待されている。

(2) ものづくり教育・学習の実施上の課題

 熟練技能技術者を活用したものづくり教育・学習を全国的に多くの学校や社会教育の場で実施しようとすると、次のような課題がある。

(1) プログラム・メニューや教材についての情報が容易に入手できるか。
(2) 学校や公民館等での指導の経験の浅い外部指導者の指導力は十分か。
(3) 指導者としての適切な人材についての情報が容易に入手できるか。
(4) ものづくり教育・学習の大切さや必要性が関係者の間で十分に認識されているか。
(5) ものづくり教育・学習で、実際にものづくり体験を行うに当たり、児童・生徒への安全配慮は十分になされるか。

4 ものづくり教育・学習の効果的な実施のための取組

 ものづくり教育・学習が、その意義やねらいに沿い、今後、多くの学校や公民館等で効果的に実施されるためには、以下の考え方に基づいて行われるとよいと考えられる。

(1) ものづくり教育・学習の適切な手法、プログラム等による実施

イ 実施の方法等

 小・中学校段階でのものづくり教育・学習は、限られた授業時数の中で、ものづくりの基本的な能力を身に付けさせると同時に、ものづくりの楽しさやおもしろさ、重要性に気付かせるきっかけを与えるものとなることに留意すべきである。新しい学習指導要領の「総合的な学習の時間」及び教科において、「ものづくり」に関する内容を充実しているところであり、各学校においては、「総合的な学習の時間」や関係教科等においての積極的な取組が期待される。学校教育の場で、ものづくり体験をしたり、熟練技能技術者と交流する機会を持ったりすることは、将来ものづくりに従事しない児童・生徒にとっても、ものづくりの重要性、ものづくりに携わる人々への理解を深めることができ、重要である。
 高等学校段階においては、ものづくり技能が理論に裏付けされたものであることを理解させ、その上で自主的にものづくりに取り組ませることにより、一層ものづくりのすばらしさが認識されるものであることに留意すべきである。さらに、生徒の主体的な職業選択の能力や高い職業意識を身に付けさせる観点からも、ものづくりに関わる産業でのインターンシップの推進や、地域の熟練技能技術者を積極的に活用したものづくり教育・学習は有効であり、学科を問わずものづくり教育・学習の充実に配慮する必要がある。なお、高等学校におけるものづくり教育・学習については、職業安定行政が教育行政と連携して行うこととしている高等学校における職業意識形成支援のための事業と連携していくことが望ましい。
 また、ものづくりに興味・関心をもち、ものづくりを将来やってみたいと思う児童・生徒が土日や放課後に気軽に、自由に参加できるものづくり体験の機会を、社会教育の場に数多く設けていくことも必要である。例えば、地域の熟練技能技術者から体験を通じて学ぶ活動や、地場産業等における職場体験等の機会を充実することも重要であろう。今後、学校が完全学校週5日制へ移行することにかんがみ、社会教育の果たす役割が増す中で、ものづくり教育・学習は、社会教育の充実に資するものと考える。
 学校教育、社会教育のいずれにおいても、ものづくり教育・学習による教育効果を高めるためには、例えば学校教育においては小・中・高一貫して実施したり、各学校において十分な授業時間数を確保して実施するなど計画的・継続的な実施が望ましいと考えられるが、イベント等による普及・啓発活動も重要である。
 なお、ものづくり教育・学習の効率的な実施を図るためには、地域の複数の学校や公民館等との共同又は連携した実施方法も考えられる。

ロ 教育手法

 児童・生徒がものづくりの楽しさ、素晴らしさを知るには、教室で先生の話を聞いたり、教科書や教育用ビデオ等を使って学習するだけではなく、実際にものづくりを体験し、実物に接するといった体験的な教育手法が効果的である。これらの教育手法としては、児童・生徒が熟練技能技術者の指導によって自ら物を作ったり、ハンズ・オン活動(見て、触って、試して、考える)を行う「体験手法」、工場・作業場や学校等の施設内で実作業や実演を見る「見学手法」、仕事の内容、技能の習得過程について熟練技能技術者の話を聞く「聴講手法」等の手法、又はこれらを複数組み合わせて実施する手法も考えられる。

ハ プログラム・メニュー、教材等

 ものづくり教育・学習の実施者は、以下の点に留意してものづくり教育・学習の実施に必要なプログラム・メニューや教材の作成、選定を行うとともに、実施後に、これらの評価、検証を行い、その改善に努めることがよいと考えられる。

(イ) プログラム・メニューや教材の作成、選定に当たっては、それらが児童・生徒の発達段階(適時性)や興味・関心に対応したものであること。
 その際、自分で実際に身体を動かして、ものづくりを体験させることを重視すること。特に、低年齢の者には、きれいに整ったメニュー、教材よりも、木を削る、土をこねるといった原体験的なプログラム・メニューを加えるとよいこと。
 また、よく考えさせるような教材や、失敗してもやり直しができ、創意工夫や改良ができるような教材が望ましいこと。

(ロ) 実技・実習では、“プロの技”を見せたり、熟練技能技術者と交流することにより驚きや感動を与え、ものづくりの素晴らしさを伝えることに努めること。

(ハ) 各学校や公民館等におけるきっかけ作りのためのものづくり教育・学習では、児童・生徒のものづくりへの興味・関心を高めるために、楽しさ、素晴らしさや、作品完成の達成感を味わうことのできるものが望ましいこと。

(ニ) 興味・関心を高める手法として、製作した作品が発表される機会や、地域、家庭で実際に使用される機会を与えることも考慮すること。製作した作品が家庭で使用される場合、親子でその作品についての会話が行われるなどの好影響が期待される。また、製作した作品を学校や公民館等に残す場合には、製作した児童・生徒の氏名等を表示することが望ましい。

(ホ) 今後、多くの学校や公民館等においてものづくり教育・学習の実施が期待される中で、熟練技能技術者や地域の協力を求めることが必要となるが、地域との連携を一層強化するといった観点からも、地場産業等の地域の特性を組み込んだものにも配慮すること。

(ヘ) 製作する上で重要な箇所、手順等のものづくりのポイントを押さえた教育を実施するため、熟練技能技術者や地域の工場と連携してプログラム・メニューや教材の作成、選定を行うとともに、実施後のプログラム等の評価、検証を行う際には、これらの者の意見等に配慮すること。

(ト) ものづくりの作業のみならず、後片付け等の後始末まできちんと行わせることが、作業現場で安全に作業することにつながり、大切であること。

(チ) 体験手法等の教育手法を実施する場としては、学校や公民館等が中心となるが、その他、文化施設、公共職業能力開発施設、企業(工場、作業場)等も考えられ、それぞれの場の特色を生かしたプログラム等であること。

(2) ものづくり教育・学習の指導者

イ 指導者に関する情報の提供

 今後、多くの学校、公民館等において熟練技能技術者を活用したものづくり教育・学習が実施されるためには、ものづくり教育・学習の実施者が、指導者の専門性に関する情報を容易に入手できるような体制が整備されることがよいと考える。
 専門性を満たす熟練技能技術者の例としては、職業能力開発促進法に基づき国が実施している技能検定の合格者である「技能士」、厚生労働省が推進している「高度熟練技能活用促進事業」において、機械で代替できないような高度な技能を身に付けている者として選定された「高度熟練技能者」(“スーパー技能者”とも呼ばれている。)や、卓越した技能を持った者として厚生労働大臣の表彰を受けた「卓越技能者(現代の名工)」が挙げられる。また、地方公共団体において、名工、マイスター等の名称で表彰、認定された者、ものづくりに関係する各種の資格取得者や、各種技能競技会の上位入賞者もこれに該当すると考えられる。

ロ 指導者への支援

 学校におけるものづくり教育・学習においては、特別非常勤講師制度を活用した熟練技能技術者の登用に積極的に取り組むとともに、地域のボランティアの協力を求めることが望まれる。社会教育においても地域のボランティアの活用が望まれる。
 また、これらの指導者の活動に対する支援方策について検討する必要がある。

(3) ものづくり教育・学習の事前準備等

 熟練技能技術者を活用したものづくり教育・学習に実際に取り組む場合、事前の十分な準備・打ち合わせを行うことが重要である。
 特に、学校の授業の一環として取り組む場合、次のようなことを検討する必要があることに留意すべきである。

(1) 授業内容、教材の選択、カリキュラム上の位置付け
(2) 実施時期、割り当てる時間数
(3) 対象となる児童・生徒の人数
(4) 指導に当たる熟練技能技術者の人数
(5) 熟練技能技術者と担当教員の役割分担
(6) 必要な設備、工具等
(7) 指導方法
(8) 安全確保等の留意事項

 こうしたことから、ものづくり教育・学習の実施の意思決定は、準備のための時間的余裕を十分に見込んで行われることが望まれる。また、担当する教員及び熟練技能技術者ともに、事前の準備、打ち合わせに要する時間を確保しておく必要がある。

(4) ものづくり教育・学習において熟練技能技術者の活用を進めるためのシステムの構築

 学校教育や社会教育において、ものづくり教育・学習を効果的に進めるためには、ものづくり教育・学習を実施する学校や公民館等と熟練技能技術者、さらには行政機関や関係団体との間に人や情報の交流、交換等が円滑かつ適切に行われることのできる、次のような機能、仕組み等を持つシステムの構築が必要である。

イ 人材データベースの整備

 学校や公民館等においてものづくり教育・学習の実施者が人材を容易に探すことのできるよう、人材情報に関するデータベースや相談窓口等が整備されることが望ましい。この情報データベースに登録される人材については、専門領域やそのレベル、協力できる範囲・条件が明示されていることが望ましい。
 なお、どのような情報を提供すると、このような人材を教育現場が円滑に受け入れることができるかについても議論を行ってきた。例えば、事業主や業界団体の推薦があること、児童・生徒に対する指導方法等の講習を内容とする研修会の受講者であること、職業能力開発促進法に基づく職業訓練指導員免許を所持していること等は比較的受け入れられやすいものと考えられる。
 この人材情報データベースは、技能者の活動や技能・技術の動向を知る者として最も近い立場にあり、また、これらの人材データや様々な技能情報を所持している中央職業能力開発協会、都道府県職業能力開発協会、社団法人全国技能士会連合会、都道府県技能士会連合会等が中心となって、学校関係者、社会教育関係者、あるいはボランティア団体等の意見を聞きつつ作成することが考えられる。また、相談窓口においては、学校や公民館等の希望に応じて、熟練技能技術者との間のコーディネートを行うことにも考慮すべきである。

ロ 指導者に対する研修・講習の仕組み

 今後、多くの学校や公民館等においてものづくり教育・学習の実施が期待されており、指導を行う熟練技能技術者に対する研修会や講習会が各地で多数実施されると考えられることから、これらを効率的に実施するための仕組みがあるとよいと考えられる。
 また、ものづくり教育・学習を担当する学校の教員も、教員研修等において熟練技能技術者によるものづくりの指導を受けることも効果的と考えられる。

ハ 実施後の評価と教材等の情報提供の仕組み

 熟練技能技術者を活用したものづくり教育・学習の充実のためには、実施後の評価、検証を行い、必要な改善等が円滑に行われる仕組みが必要である。
 このためには、例えば、実施後のアンケートにより集められた意見等を関係者が共有し、改善等に努めることが必要である。
 また、使用される教材については、対象となる児童・生徒の発達段階や、取り組む時間数、指導を行う講師の体制等に対応したものであるべきであり、適切な教材の考案や選択が重要である。このため、教材に関するこれらの情報が実施後の評価とともに収集・蓄積・提供される仕組みがあるとよいと考える。
 前述の人材データベースも含め、教材情報、好事例等の情報を収集・蓄積し、インターネット等により関係者が容易にアクセスできる仕組みが必要である。

ニ 関係者の連携・協力

 熟練技能技術者を活用したものづくり教育・学習の効果的な実施のためには、関係者の連携・協力が不可欠である。連携・協力を深めるために、教育委員会、職業能力開発行政、職業安定行政等の関係行政機関、PTA、学校関係者、公民館等の社会教育関係者、青少年教育団体、自治会等地域の関係団体、職業能力開発関係団体、業界団体等の関係者を構成員とした情報交換のための協議体制の整備も考えられる。

(5) ものづくり教育・学習に対する理解の促進

 ものづくり教育・学習の実施に対する学校関係者、保護者の理解を深めるとともに、多くの学校や公民館等での実施の促進や熟練技能技術者、企業、団体等の協力を継続的に得るためには、好事例や実施に係る情報を広く提供していくことが必要である。例えば、各地域の「子どもセンター」の活用や、「子ども放送局」による全国に向けた情報発信、ものづくりに関する児童・生徒の作品を公開し、ものづくりの意義やねらいを一般の人々に理解してもらうイベント等を行うことも期待される。
 ものづくり教育・学習をより効果的なものとするために、担当する教員等が自らものづくり体験を行うことや、地域の工場・作業場の見学を行うこと、また、熟練技能技術者と交流する機会を持つことも期待される。
 また、保護者の理解を促進させるため、事前に熟練技能技術者の紹介を行うことや、ものづくり教育・学習への参観又は参加を求めることも考えられる。
 なお、ものづくりの大切さ等の理解を深めるためには、家庭が果たす役割も大事であることを、付け加えておきたい。

5 ものづくり教育・学習における安全配慮

(1) 児童・生徒等に対する安全配慮

 ものづくり教育・学習の実施に当たっては、使用する教材、工具、機械・設備、実施環境等に対して十分な安全管理を行うとともに、児童・生徒に対して十分な安全教育を行うことが必要である。
 安全管理の徹底、万が一発生した事故への適切かつ迅速な対応等のため、ものづくり教育・学習の実施関係者は、各々の役割分担を明確にしておくことが必要である。
 なお、災害等の補償については、一般に、児童・生徒には学校管理下においては災害共済給付制度、特別非常勤講師には公務災害補償制度の適用があるが、それ以外の社会教育等の場においては、別途保険をかける必要があることに留意すべきである。

(2) ものづくり教育・学習での安全教育

 ものづくり教育・学習において行われる安全教育の実施に当たっては、平成11年12月8日内閣官房長官から発表された「事故災害防止安全対策会議報告書」において一般社会に広く求めている『「安全文化」の創造、すなわち、組織と個人が「安全」を最優先にする気風や気質を育てていくこと』を教育現場においても浸透させていくことに十分留意する必要がある。
 ものづくり教育・学習での安全教育の実施では、労働安全衛生法に基づく労働安全(衛生)コンサルタント、安全(衛生)管理者等の活用も考慮するとよいと考える。

6 ものづくり教育・学習の効果的な実施のための支援

 ものづくり教育・学習の効果的な実施に資するため、行政(国、地方公共団体)は、次の事項について必要な対応を図っていくことが求められる。

(1) ものづくり教育・学習の実施者がプログラム・メニューや教材の作成、選定をする際に参考となるような事例等を収集し、情報提供すること。
(2) ものづくり教育・学習の指導を希望する熟練技能技術者に対する研修会や講習会の実施、人材情報データベースの整備、相談窓口の設置、コーディネーターの配置、関係者への情報提供等のものづくり教育・学習の効果的な実施の環境を整備すること。


「ものづくり教育・学習に関する懇談会」メンバー

(五十音順、敬称略、職名は平成13年3月現在)


青木 明義 (社団法人日本建築大工技能士会副会長)

石井 雅幸 (東京都府中市立府中第一小学校教諭)

伊東 兵次 (学校法人伊東学園テクノ・ホルティ園芸専門学校校長)

江上 節子 (産能大学経営情報学部経営情報学科助教授)

遠藤 亮平 (静岡県教育委員会高校教育課長)

鹿嶋 泰好 (東京都大田区立大森第六中学校校長)

小林 洋 (社団法人日本造園組合連合会理事)
斎藤 勝政 (前群馬職業能力開発短期大学校校長)

菅間 忠男 (社団法人全国技能士会連合会常務理事、中央職業能力開発協会常務理事)

関根 甫 (JAM副会長)

富丘 敦 (埼玉県本庄市教育委員会指導主事)

濱田 隆士 (放送大学教授、財団法人日本科学協会理事長)

松本 浩之 (東京工業高等専門学校校長)

山下 省蔵 (拓殖大学工学部教授)

山本 恒夫 (筑波大学教育学系教授)

◎は、座長。


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