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平成13年6月6日

国立病院等治験推進検討会報告書について


 国立病院・療養所においては、政策医療の4本柱のうちの臨床研究の中に治験を位置づけており、平成9年に制定された臨床試験の実施の基準(GCP)に対応して、平成10年6月に国立病院部長通知等を発出し、それに沿って各施設において治験等への取組みが行われてきている。
 この通知の実施から2年を経て、現行治験の問題点を整理するとともに、円滑な治験の推進を図ることを目的とし、日本製薬工業協会の協力を得て、平成12年8月に国立病院等治験推進検討会を設置して検討を行ってきた。今般、早急に改善を図る必要のある事項についてとりまとめが行われたので、その概要を次に示す。
 本検討会で作成した標準的業務手順書、契約書等の統一様式、関係書類の電子化などは、国立病院・療養所の治験の推進に資することはもとより、広く全国の医療機関でも活用できるよう配慮されている。
 これを受けて、所要の措置をとるため、早急に通知の発出等の対応を行う予定である。

(報告書の概要)

1 標準的業務手順書等の作成

 GCPに基づいた標準的な治験の業務手順書を作成した。また、治験業務 を初めて行う者が円滑に業務を行えるよう、治験業務の流れ図を併せて作成した。

「標準的業務手順書」

「治験業務の流れ」

2 契約書等の統一様式の作成

 これまで各施設において独自に定められていた契約書等の様式を、標準化して統一した。

「契約書等の統一様式」

など、24種類の様式を作成した。

3 電子媒体による情報伝達の普及

 申請書、報告書など治験に関する書類の電子化を図った。

4 治験等の実施体制の整備

(1)治験管理室の設置推進。
(2)治験管理室の拡充及び組織化。
(3)治験コーディネーターの定員化の促進。
(4)関係施設で構成する治験等連絡協議会の設置
(5)教育研修の充実。

5 その他

 現行の国立病院・療養所における、治験受付及び治験契約に関して所要の改善を行う。

(1)受託研究の申込書提出期限の緩和
(2)受託研究契約の経費納入期限の緩和



国立病院等治験推進検討会委員名簿

(五十音順、○印:座長)
伊藤 澄信 国立病院東京医療センター内科医長
魚井 徹 日本製薬工業協会医薬品評価委員会委員長
魚住 三郎 国立病院東京災害医療センター事務部会計課長
小倉 剛 財団法人結核予防会大阪府支部大阪病院病院長
国立療養所刀根山病院名誉院長
楠岡 英雄 国立大阪病院臨床研究部長
小原 泉 国立がんセンター東病院副看護婦長
佐藤 啓 国立仙台病院副薬剤科長
下山 正コ 国立がんセンター中央病院客員研究員
国立名古屋病院名誉院長
長野 和代 国立病院長崎医療センター看護部長
野口 隆志 日本製薬工業協会医薬品評価委員会臨床評価部会副部会長
松本 彦寿 国立水戸病院事務部会計課長
三島 正彦 国立国際医療センター病院薬剤部長


検討会開催状況

第 1 回   平成12年 8月30日(水)
第 2 回 平成12年10月 2日(月)
第 3 回 平成12年10月30日(月)
第 4 回 平成12年12月 8日(金)
第 5 回 平成12年12月26日(火)
第 6 回 平成13年 1月25日(木)
第 7 回 平成13年 2月26日(月)
第 8 回 平成13年 3月21日(水)
第 9 回 平成13年 4月27日(金)
第10回 平成13年 6月 6日(水)


国立病院等治験推進検討会報告書

平成13年6月6日
国立病院等治験推進検討会


国立病院等治験推進検討会委員名簿

伊藤 澄信 国立病院東京医療センター内科医長
魚井 徹 日本製薬工業協会医薬品評価委員会委員長
魚住 三郎 国立病院東京災害医療センター事務部会計課長
小倉 剛 財団法人結核予防会大阪府支部大阪病院病院長
国立療養所刀根山病院名誉院長
楠岡 英雄 国立大阪病院臨床研究部長
小原 泉 国立がんセンター東病院副看護婦長
佐藤 啓 国立仙台病院副薬剤科長
下山 正コ 国立がんセンター中央病院客員研究員
国立名古屋病院名誉院長
長野 和代 国立病院長崎医療センター看護部長
野口 隆志 日本製薬工業協会医薬品評価委員会臨床評価部会副部会長
松本 彦寿 国立水戸病院事務部会計課長
三島 正彦 国立国際医療センター病院薬剤部長

(五十音順、○印:座長)


国立病院等治験推進検討会報告書

1.前文

 治験等の臨床試験は、新しい医薬品の開発により医療の進歩に貢献するだけでなく、医学、薬学の研究そのものの発展にも寄与するものである。このように重要な意義を有する臨床試験は、厳格な基準に基づいて行われるべきものであり、そのような考え方に基づいて、臨床試験の実施の基準(Good Clinical Practice。以下、「GCP」という。)が厚生省令として平成9年に制定された。
 国立病院・療養所においては、政策医療の4本柱のうちの臨床研究の中に治験を位置づけて、その推進を図ってきたところであるが、新たに制定されたGCPについても、平成10年6月にその対応方法についての国立病院部長通知等を発出し、それに沿って各施設において治験等への積極的な取組みが行われてきている。その結果、平成12年度の治験契約は109施設で約1,100件、契約金額約28億円に達し、一定の成果をあげてきた。
 しかしながら、国立病院・療養所の使命としての政策医療をさらに推進するためには、治験の一層の質的向上を図るとともに、治験を全国的レベルでより組織的、体系的に進めていく必要があり、これまでの実施方法を抜本的に見直す必要があると思われる。一方、治験の質の確保及び向上、迅速な実施等の観点から、契約の方法、経費の算定、実施体制等についての具体的な問題点がこれまでにいろいろと指摘されてきており、これらを解決することにより、国立病院・療養所における質の高い治験の一層の推進を図る必要があると考えられる。
 本検討会では、このような現状を踏まえ、現行の治験の実施方法についての問題点を検討してきたが、今般、それらの中から早急に改善を図る必要のある事項について、中間的なとりまとめを行った。なお、中長期的に改善が必要な事項については引き続き検討を行うこととした。このような一連の検討をとおして、我が国における治験推進に果たす国立病院・療養所の役割を明確にしていこうと考えるものである。
 もとより、治験は依頼者、実施者及び被験者の共同作業であるため、国、製薬企業及び医療関係者が協力して、その推進のための体制整備について今後も努めていくべきである。
 以下においては、治験の流れに沿った形で、その現状及び問題点を踏まえ、改善すべき事項等の検討結果について記述する。なお、市販後臨床試験の取扱いについては治験に関する記述と原則的に同様であるが、市販後臨床試験特有の問題については項目を別にして記載する。また、参考のため、標準的な治験の流れを本報告の最後に簡略に記載した。
 なお、治験の実施方法等に関する改善方策が実効をあげるためには、治験に関わるすべての人の理解が必要であり、その周知方法、説明方法等について十分に配慮すべきである。

2.治験の申込み、受付業務等

(1)申込みの期限

 現行では、依頼者は「治験の実施を希望する月の3か月前の月末」までに申込書を提出しなければならないと規定されている。治験推進のためには、この申込書提出期限の短縮が望まれるが、現状において全施設で統一的に短縮することは困難と思われる。そこで当面の取扱いとして、新規あるいは継続のいずれの契約であっても、「希望する契約締結日の原則として3か月前」とする。ただし、各施設はその期間の短縮に努めるものとし、申込み期限後であっても事務的に可能な場合は受理することが望ましい。

(2)業務手順書

 治験を実施する医療機関の長はGCPに基づいた業務手順書を作成しなければならないとされているが、一部の施設においてこの手順書が作成されていない状況もある。また、作成されている手順書も施設間でまちまちであり、治験関係者から手順書を統一すべきとの声も強い。業務手順書を作成していない施設にあっては早急に作成する必要があるが、本検討会では、手順書を統一すべきとの要請に応えるため、標準的な業務手順書の作成を行った。今後は、業務の円滑化、共同治験推進等の観点からも、本手順書に基づいて業務を行うことが望ましい。

3.治験審査委員会

(1)治験審査委員会の開催間隔等について

 治験審査委員会の開催間隔についてはGCPでは特に規定はないが、治験の迅速な実施の観点から、治験の申請状況に応じて、毎月開催、2か月に1回開催、3か月に1回開催などとし、可能な限り定期的に開催すべきである。なお、毎月開催する施設以外の施設にあっては、治験の迅速実施のため、定められた開催間隔にこだわることなく、申請がなされれば速やかに開催するよう努めるべきである。また、GCPの規定に沿って「迅速審査」を行うなど、審査の迅速性の確保に努めるべきである。

(2)共同治験審査委員会について

 小規模施設では、外部委員の確保などの点から、治験審査委員会の単独設置が困難な場合のあることが考えられる。その対応策として共同治験審査委員会を設ける方法も考えられるが、個々の施設での責任体制の確保や、共同化した際の事務処理体制などの問題があり、それらの解決策を十分に検討する必要がある。したがって、現時点では、個々の施設で治験審査委員会を設置することが適当であると考えられる。なお、将来、ある地域において国立病院・療養所が中核となり地域の医療施設が参加する形式での治験が実施されるようになった場合には、国立病院・療養所に地域の医療施設との共同治験審査委員会を設置することも検討する必要がある。

4.契約及び経費納入

(1)契約締結日と経費納入日

 契約締結日を契約発効日とする。なお、4月1日が土曜日又は日曜日に当たる場合で、その日に契約の締結をする必要があるときは、その日の後の最初の週日に、4月1日からの契約を締結するものとする。
 現行では契約締結日の当日に経費の納入を求めており、製薬企業から納入期限の改善が求められているが、この納付期限日については、納付の利便性の観点から、2週間程度延長すべきである。したがって、今後は、契約締結日に納入告知書を発行し、それに記載されている納付期限日(概ね、契約締結日の2週間後)までに経費の入金を求めるようにすべきである。また、その日までに入金がない場合は、契約が成立しなかったものとして処理すべきである。

(2)契約方法

 製薬企業からは複数年契約の要望があるが、複数年契約は現行の会計制度上困難であるため、治験契約を現行どおり年度ごとに行うことはやむを得ないと考える。
 複数年に亙って契約を継続する場合は、契約中断期間が生じないように厳に注意することとし、4月1日付けの契約書を前年度中にあらかじめ用意しておいて、4月1日に契約を締結すべきである。

(3)契約書等の様式統一

 施設間で契約書等の様式が異なっているため、事務手続きが煩雑になるなど治験依頼者の負担となっている。本検討会では、この点を改善するため様式を見直し、統一様式の試案を作成した。今後関係者との調整を行ったうえで、統一様式とし、すべての国立病院・療養所において使用することが望ましい。

(4)契約書の作成数及びその原本保管

 現行では、契約書を2通作成し、依頼者と施設の双方が1通ずつ所持している。
 GCPでは契約書の原本を保存することとされているが、契約書の原本は会計検査院に納めることになっており、施設には写しだけしか残らないため不都合が生じている。今後の契約に際しては、契約書を3通作成し、依頼者が1通を、施設が2通を所持することとして、対応すべきである。なお、すでに契約済みの案件については、契約書の写しについて、原本と同一であるとの認証手続きを施設長が行うことにより対応すべきである。

5.経費算定及び支出

(1)経費の組み立て方法

 経費の算定については、治験の依頼者及び実施者の間で合理的な算定方法について様々な意見があるが、本検討会では原則的な取扱いについて検討した。
 経費は、契約症例に基づいて算定することを原則とする。患者に対して治験に関する説明等は行ったが、結果として同意が得られなかった場合の経費については、経費の組み立て方法の簡素化の観点から、契約症例の経費の中に含まれているものと考え、契約症例分以外の経費は特に請求しないものとする。ただし、治験に参加できる条件への合致の有無を確認するために検査等が必要であると治験実施計画書に記載されている場合であって、検査結果によって治験対象外とされた症例分に関する経費が通常想定される程度を超えるような場合及び治験対象外の者が多数生じると予測される場合、製薬企業による治験に関する情報提供などによって来院した患者に対してその治験に関する説明を行う場合などについては、個別に対応を協議するものとする。
 また、年度をまたいで治験が行われる症例については、月割りによる経費算定方法をとるなどの方法により対応することが望ましい。

(2)支払方法

 依頼者は契約症例に係る経費を全額支払う。契約症例数と治験実施数の乖離による過剰支払い等を防止するため、契約症例数は実施が確実に予測できる症例数とすべきである。契約症例数を超えて実施できる可能性が生じた場合は、速やかに契約の変更を行い、依頼者は追加となる経費を支払うものとする。

(3)未実施症例の取扱い

 契約症例は全例実施するように努力するものとするが、契約症例のうちやむを得ず実施できなかったものについては、症例登録期間内であれば、継続の契約を行って、翌年度に実施するものとする。その際、当該症例に係る受託研究費の算定に当たっては、できるだけ低廉なものとし、実施施設の状況を勘案しつつ依頼者と調整することが望ましい。症例登録期間に制限があるなどの理由により、症例登録期間内に契約症例数を達成できないことが明らかな場合は、依頼者と症例数等の調整を行ったうえ、継続の契約を結ぶことが望ましい。
 なお、治験の期間終了に際して、未実施症例があった場合は、依頼者からの要請に基づいて、精算手続きを行い、残金を返還すべきである。ただし、依頼者の都合によって治験が中止される場合は、残金の返還は行わない。

(4)算定要素の明確化

(1)ポイント制

 臨床試験研究経費及び治験薬管理経費の算定は現在ポイント制で行われており、ポイント制の維持は恣意的な経費算定を防ぐためにも必要である。ポイント制の内容については経済情勢等の変化に伴い適宜改定される必要があるが、その際には、経費を不当に高いものにしないという前提のもとで、依頼者との協議に基づいて行われるべきである。現時点においては、現在のポイント算出表を直ちに変更する必要はないが、より適切なものとするため、例えば専任の治験コーディネーターを相当数配置している場合の管理費の増額、現在施設へは直接配分されていない技術料等の施設への配分など、適宜検討を行っていく必要がある。

(2)モニタリング・監査費用

 依頼者が実施するモニタリング・監査に関して施設が必要とする経費のうち、治験実施計画書等に記載されている計画又は実施に先立って取り決められるモニタリング・監査計画の実施に要する経費は治験の経費に含まれているものとする。その計画を超えて実施される分については、契約を新たに締結し、必要な経費を算定すべきである。なお、治験実施計画書等に記載されている計画又はモニタリング・監査計画が特に多い場合は、その分の経費については個別に依頼者と調整すべきである。

(5)支出費目の枠の撤廃

 各施設における治験実施のインセンティブを確保する方法の一つとして、治験業務実施のための支出費目の規定の緩和が考えられる。そのための方策として、支出費目の統合を図るべきである。また、支出費目の統合が認められるまでの間、必要な経費の執行に支障のないような方策を講じる必要がある。

6.体制整備

(1)治験管理室及び組織

(1)治験管理室

 治験の質の向上のためには治験管理室の設置が望ましく、今後とも各施設における治験実施状況を勘案して、設置の推進を図る必要がある。特に、治験の契約数の多い施設であって未だ治験管理室の設置されていない施設については、早急に設置を検討すべきである。
 また、治験管理室が設置されている施設においては、そこに治験の統一的な受付窓口を設置し、依頼者との連絡の利便性を図るべきである。
 なお、これまでに整備された治験管理室の一部には、手狭であるとの指摘がある。治験を活発に行っているところほど、従事者の数や保管すべき書類が増えるので、実績のある施設を優先しつつ、必要なスペースの確保に努める必要がある。

(2)組織

 治験管理室の設置されている施設においては、組織規程等で定められる正式な組織化が必要であり、例えば、「治験管理部長−治験管理室長−治験コーディネーター」という組織にすることが考えられる。この場合、治験管理部長は、臨床研究部が設置されている施設においては臨床研究部長が併任し、臨床研究部が設置されていない施設においては副院長が併任することが適当である。また、いずれの場合も、治験コーディネーターは専任かつ常勤の職員であるべきであり、治験管理室長はその施設の治験に関する業務量に応じて専任化を考慮すべきである。
 事務部門については、治験契約に係る事務は相当複雑であるので、その業務の円滑な遂行のための方策を検討するほか、対外的に担当者を明確にしておく必要がある。また、治験の実施件数が著しく多い場合においては、必要に応じて専任の非常勤職員あるいは派遣職員の採用も考慮する必要がある。
 従来の治験事務局及び治験審査委員会事務局の組織についても、治験管理室の組織との整合性を図る必要がある。
 なお、治験事務を担当する事務官を治験管理室に併任する必要があるほか、治験管理室の業務に関わる医師、薬剤師、看護婦等も必要に応じて治験管理室に併任する必要がある。

(2)治験コーディネーターの定員化の促進及び質の向上

 治験コーディネーターについて、非常勤職員では一定以上の処遇改善は望めず、優秀な人材の長期的確保は困難である。同様な理由から、賃金職員の採用も困難である。したがって、治験の実績に基づいて、常勤定員の配置及び増員を促進していくことが望まれる。その際には、臨床経験を積んだ職員の配置を考慮するなど、質の向上を念頭におく必要がある。
 常勤職員が未だ配置されていない施設においては、当面非常勤職員によって業務を円滑に行っていく必要があるが、6時間勤務を基本としつつ、複数の非常勤職員の勤務開始時間を調整して業務が円滑に遂行できるよう工夫するなど、可能な対応を検討すべきである。
 治験コーディネーター業務のうち、労働者派遣事業の適用除外業務に該当しない業務(例えば、薬剤師や看護婦であっても薬剤業務や看護業務以外の治験コーディネーター業務を行う。)に限るのであれば、医療関係職種であっても派遣職員を採用することが認められるので、必要に応じてその活用を図ることが考えられる。

7.市販後臨床試験

(1)経費算定等

 市販後臨床試験研究経費は、現在のところ一律に治験の経費の8割として算出されているが、市販後臨床試験は、医薬品製造(輸入販売)承認条件として実施が指示されるような治験と同程度の水準のものから、臨床的な効果を再確認する程度のものまで、要する技術や労力はさまざまである。したがって、その程度によって区分し、それに基づいて経費の算定を行っていくことについて、今後検討していく必要がある。

(2)被験者負担の軽減費用

 被験者負担の軽減費用として、治験の場合は1回7,000円が支払われることになっているのに対し、市販後臨床試験の場合にはそれが支払われないことになっている。これについても、同様に支払うべきであるとの考えもあるが、製造(輸入販売)承認された医薬品を用いる市販後臨床試験を治験と同様に考えることができるかどうか検討する必要があることから、現時点では、現行どおり、治験から市販後臨床試験に移行した場合などのように特殊な場合を除いて、支払わないことはやむを得ないものと考える。

(3)特定療養費の適用

 市販後臨床試験の場合、医療保険の特定療養費制度は適用にならず、要する費用は原則として被験者の負担となっているが、保険制度の趣旨に鑑み、現時点では、やむを得ないものと考える。

(4)モニタリングの方法

 治験と同様に市販後臨床試験においても、個々の施設に依頼者(モニター又は監査担当者)が出向いてモニタリングが行われている。しかしながら、市販後臨床試験の場合は、治験と同様に実施したのでは過重な負担になる可能性があるため、その実施方法について、今後さらに検討する必要がある。

8.情報の電子化

 治験に関する情報の電子化については、製薬企業の団体等とも協力して汎用的なものをさらに検討していく必要があるが、当面は、契約書等の書式、治験実施計画書、症例報告書など、治験の実施に関して必要な各種の書類から電子情報化を行い、施設及び製薬企業の負担軽減を図っていくべきである。そこで、本検討会では、国立病院・療養所での試用に供するため、現時点で可能な書類について電子化を試みた。

9.治験等連絡協議会の設置

 治験の一層の推進、大規模多施設治験の円滑な実施、治験審査委員会に関する施設間のレベルの斉一化、質の向上などを目的として、国立病院部又は地方厚生局病院管理部若しくは地方厚生支局のもとに、関係施設で構成する治験等連絡協議会の設置を検討する必要がある。

10.教育研修

 治験を行う医師、治験に関係する薬剤師、看護婦、検査技師、放射線技師及び医事課、会計課等の事務職員並びに製薬企業のモニターに対する教育研修、治験コーディネーターの養成のための教育研修、外部委員への治験に関する最新情報の提供などについては、国と製薬企業が協力し、機会を設けて実施する必要があり、そのための予算や教育担当者の確保について、お互いに努力を払う必要がある。
 また、質の高い治験を行うためには、治験実施計画書の記載内容の質の向上及び明確化が必要不可欠であり、治験実施施設の医師、治験コーディネーター及び事務担当者並びに製薬企業の担当者の教育研修及び研鑽の場を設けるなどの方策も重要である。

11.治験に関する問題への対応

 治験を推進するに際して生ずる問題に対応するため、国立病院部政策医療課に担当官を置き、問題を一元的に処理する体制を構築する必要がある。

12.その他

 我が国においては「CRC(Clinical Research Coodinator)」の訳語として「治験コーディネーター」が用いられてきているが、治験のみならず広く臨床研究に携わるべき役割があることから、本来は「臨床試験コーディネーター」と記すべきものであると考える。また、「IRB(Institutional Review Board)」は「治験審査委員会」と同義のものとして取り扱われているが、本来は、その施設における倫理面の問題等を審議するために設置された委員会組織である。このほか、「治験管理部」、「治験管理室」及び「治験事務局」は将来において、名称を「臨床試験管理部」、「臨床試験管理室」及び「臨床試験事務局」とするとともに、それにふさわしい役割を担うべきものである。
 ただし、本報告書においては、現状との整合性の観点から、いずれも、従来どおり「治験」の名称を使用した。

13.おわりに

 治験は、直接的には新しい医薬品の開発のために行われるものであるが、その意義はそれだけにとどまらず、医学等の発展に寄与するなど相当な広がりを持つものである。したがって、その推進のためには、さまざまな観点からの取り組みが必要である。
 現在、国立病院・療養所では政策医療ネットワークの構築・整備を行ってきているが、治験等の受託研究においても、そのネットワークを活用して取り組むことが重要である。大規模多施設治験の円滑な実施や治験の質の向上などを目指し、ネットワークの構築・整備の中でそれを具体化するためには、施設の整備、人員配置などを計画的に推進していく必要がある。なお、その整備に当たっては、政策医療の推進状況や治験等の受託研究の実績を勘案する必要があると考える。また、中長期的に改善が必要な事項としては、例えば「1患者1カルテ」の推進というような国立病院・療養所の診療のあり方に関係する事項もあるので、今後の進展に期待し、その実現を求めたい。
 このほか、臨床試験を適正に行うためには、研究責任者(医師)の資格の問題、治験コーディネーターの専門職としての制度化の問題なども視野に入れる必要がある。経費の面では、治験の実施に直接必要な経費(直接経費)のほかに、その治験が円滑に行われるために、施設の運用経費(間接経費)が不可欠であるが、現状ではその配分がなされておらず、今後検討していく必要がある。
 また、これまで本検討会で検討してきた治験及び市販後臨床試験といった医薬品の製造(輸入販売)承認申請、再審査及び再評価の申請に係る臨床試験の他に、公費臨床試験の問題も重要である。これは、患者のための最善の治療法及び標準的治療法を確立するために、公的研究費によって行われる臨床試験で、「証拠に基づく医療(EBM:Evidence Based Medicine)」を実施するために必要な質の高い証拠を作る重要な臨床研究であり、健康科学や臨床医学の進歩に貢献するのみならず、医療の進歩に不可欠なものである。米国では国家研究法によって公費臨床試験にGCPを適用し、臨床研究費を予算化しているが、我が国においてはこのような法的整備がなされておらず、財政的支援も不十分である。また、制度化及びその推進も図られてきていない。公費臨床試験は、臨床試験の研究組織、施設における臨床研究体制などの基盤整備に大きく影響するものであり、今後、このような視点からの検討も必要である。
 ここに挙げたこと以外にも改善すべき問題は少なくないが、多くの関係者及び機関の協力により、着実に改善していくことを切に望みたい。


(参考)治験等について

 治験はGCPに基づいて、概ね次の1に示す手順で実施されることとなる。また、治験等の実施に必要な治験管理室及び治験コーディネーターの業務を2に、市販後臨床試験の概略を3に、それぞれ示す。

1.治験の実施

(1)治験の依頼(申込み)、受付業務等

 治験を依頼しようとする者から治験責任医師へ治験の依頼が行われる。その際、治験実施計画書、臨床安全性情報を含む治験薬概要書、症例報告書(CRF:Case Report Form)、インフォームド・コンセント文書(案)一式等の必要な書類が提出される。これを実施医療機関にある治験事務局(通常は治験管理室がその業務を行っている。)が中心になって、内容の理解、スタートアップ・ミーティングの開催、書類の点検等を行い、必要があれば提出書類の修正を行ったうえで、治験の申請を受け付け、実施医療機関の長が治験審査委員会に治験実施の可否について審議を依頼する。
 なお、実施医療機関の長は、治験に係る業務に関するGCPに基づいた手順書を作成しなければならないことになっており、治験の依頼があった場合は、この業務手順書の規定に沿って行われることになる。

(2)治験審査委員会の審議

 治験審査委員会は、治験を実施する機関ごとに設置する必要があり(ただし、小規模等の理由により共同で設置することも認められている。)、5名以上の委員から構成され、実施医療機関と利害関係を有しない者(いわゆる外部委員)及び医療又は臨床試験に関する専門的知識を有する者以外の者が委員として加えられている必要がある。治験審査委員会は、依頼のあった治験について、資料に基づいて審議し、その実施の適否について意見を述べることになる。実施医療機関の長は、その意見を聴いて治験の実施の可否を判断するが、治験審査委員会の意見が治験の実施は適当でないとのことであったときは、治験の依頼を受けてはならないことになっている。

(3)契約及び経費納入

 実施医療機関の長が治験の実施を決定した場合、治験依頼者と実施医療機関は、治験の期間、目標被験者数、治験薬の管理、治験費用などに関する契約を締結することになる。経費の算定は、国立病院・療養所の場合、医薬品の臨床試験では(1)謝金、(2)旅費、(3)臨床試験研究経費、(4)治験薬管理経費、(5)備品費、(6)賃金、(7)委託料、(8)被験者負担の軽減、(9)管理費及び(10)技術料、機械損料、建物使用料、その他の項目からなっており、このうち、(3)と(4)はポイント制で算出されることになっている。契約の締結とともに、依頼者はここで算出した経費を支払う。
 なお、会計法の規定によって複数年の契約ができないため、治験の実施が年度をまたぐ場合には、翌年の4月1日に再度契約を行うことによって治験の継続性を担保している。

(4)治験の実施

 契約が締結されると、治験薬が交付され、治験責任医師又はその指導の下にある治験分担医師によって、治験が開始される。また、治験協力者として、薬剤師、看護婦その他の医療関係者(治験コーディネーター:治験管理室に配置される。)が、治験責任医師又は治験分担医師の指導の下に治験に係る業務を行う。実施医療機関の長は治験薬の管理責任を負い、治験薬管理者を選任して、管理させる。治験薬管理者は治験薬の受領、在庫管理などを行うとともに、記録を作成し、保存する。
 治験責任医師等が被験者となるべき者を選定し、文書による適切な説明を行って、文書による同意を取得すると、被験者として登録される。被験者が満たすべき条件によっては、治験実施計画書の規定に従って登録前に必要な検査が行われることもある。
 治験の途中又は終了時点において、治験責任医師は症例報告書を作成又は治験分担医師が作成した症例報告書を点検・確認し、治験依頼者に提出することになる。

(5)モニタリング及び監査

 治験の実施中あるいは終了後には、治験依頼者によって実施医療機関に対する調査が行われる。通常、治験依頼者のモニター又は監査担当者が治験実施医療機関に出向いて行う。実施医療機関では、治験責任医師等や治験コーディネーターが対応することになる。
 治験が適正に行われることを確保するため(治験の品質管理)、その治験の実施中に、進捗状況や治験実施計画書に従って行われているかどうかを調査するのがモニタリングである。また、収集された資料の信頼性を確保するため(治験の品質保証)、その治験がGCP及び治験実施計画書に従って行われたかどうかを調査するのが監査である。

2.治験管理室及び治験コーディネーター

 治験管理室は、治験事務局、治験審査委員会事務局、治験相談窓口等の機能を有するもので、治験コーディネーターを配置し、治験実施計画書等の書類の事前点検、スタートアップ・ミーティングの開催、治験スケジュールの管理、被験者への対応、治験データの管理、各種書類の保管管理、モニタリング及び監査への対応などを行うものである。

3.市販後臨床試験

 製造(輸入販売)承認された医薬品について、その承認の用法、用量、効能及び効果の範囲内で、医薬品再審査又は医薬品再評価のために行われる臨床試験である。抗悪性腫瘍剤や抗HIV薬のように限られた症例数のデータで承認されることの多いものは、承認条件として市販後臨床試験の実施が指示されることが多く、その場合には治験と同じような水準で実施されることもある。
 このように、市販後臨床試験は、二重盲検試験として行われるものもあり、一般臨床試験の場合もあって、さまざまである。


照会先
国立病院部政策医療課
  ダイヤルイン:(03)3595-2274
  担当:    浦山(内線2637)
         中谷(内線2629)


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