1 職業能力開発関連情報をめぐる背景事情
我が国においては、近年、職業能力開発に関する情報の重要性が増してきているが、その背景として、どのような情勢変化が進んでいるのか。 |
労働者の就業意識・就業形態の多様化、企業による人材の即戦力志向の高まり、企業内の職務再編の柔軟化や、労働移動の増大等に伴い、これまでの企業主導の職業能力開発に加え、労働者の自発性を重視した職業能力開発の推進等の重要性が増している。
このような中、今後、労働者個人が、労働市場において、適切な情報の提供や相談、援助を受けて自らのキャリア形成に向けた職業生活設計を行い、これに即した職業訓練の受講、職業能力の適正な評価等を通じて、自ら能力を向上させ、職業の安定を図れるシステムを構築する必要がある。
具体的なシステムとしては、労働力需給調整に係るもののほか、キャリア形成支援、職業能力評価システムの整備、多様な教育訓練システムの確立が考えられるが、この他に、労働者個人が労働市場の中で自らの適性を考えつつ、適切な職業選択や能力開発を行えるよう、職業に関する基本的な情報、人材ニーズ動向、教育訓練コース、能力評価等に関する情報を入手できるシステムの構築が考えられる。
今後、我が国においては、具体的にどのような観点で、職業能力開発に関する情報を収集・整理し、提供・活用していく必要があるのか。 |
今後、企業主導の職業能力開発に加え、労働者の自発性を重視した職業能力開発を一層推進していくための枠組みを構築していくに当たり、職業能力開発に関する情報は、労働市場の構成員である労働者個人や企業等に提供することで、個人主導の能力開発やキャリア形成支援等に資するととともに、今後の職業能力開発施策の枠組み構築や、公共職業訓練コースの開発・設定等の事業運営に当たっても有効に活用すべきものである。
このため、特に、以下の3つの観点から、必要となる具体的な情報内容や収集方策等について整理する必要があると考えられる。
(1) 労働市場の構成員である労働者、企業等に提供することで、個人主導の能力開発、キャリア形成支援等に資する、いわば労働市場インフラとしての役割を果たすことが期待される情報
(2) キャリア形成支援、職業能力評価制度の整備、教育訓練システムの確立など、今後の職業能力開発に係る労働市場政策の企画立案に当たって有効に活用すべき、我が国労働市場全体の実態を鳥瞰できるような情報
(3) 産業界の求める人材育成ニーズに資する効果的な公共職業訓練コースの開発・設定等に当たって有効に活用すべき情報
2 労働市場におけるインフラとして必要な情報
労働市場の構成員である労働者、企業等に提供することで、労働市場の機能を高める、いわばインフラとしての役割を果たすことが期待される情報としては、様々なものが考えられる。このうち、特に、労働者個人に提供することで、個人主導の能力開発、キャリア形成支援等に資するものとして、今後、具体的にどのような情報を収集し、提供していく必要があるのか。 |
(情報システムの必要性)
個人主導の職業能力開発の重要性が増す中、労働者個人が自発的に能力開発を行い、仕事を見つけたり、雇用の安定を図れるような社会環境、労働市場環境を整備する必要がある。その際、労働者個人が、職業に関する情報や教育訓練に関する情報など、労働市場に関する情報に容易にアクセスでき、入手できる体制を整備することが重要である。
また、労働者個人がキャリア形成していくに当たっては、個人の資質など、個人的な属性の影響を受ける要素も多く、キャリア・コンサルティングが効果的な支援手法として考えられるが、その際、キャリアシート等のツールに併せて、こうした職業に関する様々な情報が必要となってくる。
(必要となる具体的な情報内容)
こうした中、我が国における情報収集の現状を踏まえるとともに、アメリカにおける先進的な取組事例を参考にすると、今後の我が国労働市場におけるインフラとして必要な情報については、以下のようなカテゴリーに分類して整理することが可能と考えられる。(別表1参照)
(1) 労働市場動向に関するもの
上記情報については、既存の業務や統計調査等を通じて把握できるもの、実態調査(アンケート調査)を実施すべきもの、それらでは収集できず、相談援助等の業務支援を通じて把握(ヒアリング調査)すべきものに大別することが可能であるが、既存の情報提供事業の活用を含め、今後、具体的にどのような形態で情報を収集することが適当か。 |
(情報の収集方法)
各種情報については、実態調査(アンケート調査)で収集することが考えられるが、
(情報収集に係る留意事項)
労働者個人が、職業能力開発に関する各種情報を入手し、活用していくに当たっては、労働力需給動向などについて、可能な限り情報の定量化を行い、比較可能性を高めていく必要があるが、その際、情報内容や記述方法について、職種、職務内容、能力などに係る用語の統一化を図ることが重要である。
また、能力評価や処遇など、各企業の人事管理に直結するような情報については、マクロ的に労働市場の実態を鳥瞰するとともに、収集したものを労働市場に提供(公開)するという観点から、情報のフォーマットを共通化しないと、企業から情報を引き出すことは困難と考えられる。
さらに、労働移動が増大する中、既存の職種の枠が崩れ、外部労働市場でのマッチングや能力開発が必要になってきていることから、今後、情報収集を行うに当たっては、業種、職種の枠を超えた形態での収集方策を検討することも必要である。
一方、情報収集に当たっては、情報の鮮度を高めるとともに、統計的信頼性を高めるため、調査規模や頻度に留意する必要があり、
(今後の具体的な情報収集方策)
以上のようなことから、情報ごとの性質、収集方法の特徴等に鑑み、当面、上記で整理した必要となる各種情報について、以下のような方法により収集していくことが適当と考えられる。
(1) 労働市場動向に関するもの
全国規模のアン ケート調査 |
業界又は地域ご とのヒアリング調査 |
指定統計、業務 統計等の活用 |
||
労働市場動向に関するもの | ||||
市場全体の動向 | ○ | ◎ | ||
労働者個人の動向 | ◎ | ○ | ||
企業(業界)の動向 | ◎ | ○ | ||
能力開発の支援に関するもの | ||||
教育訓練 | △ | ◎ | ||
キャリア形成 | △ | △ | ◎ | |
能力評価 | △ | △ | ◎ | |
職業の現状に関するもの | ||||
仕事内容 | ○ | |||
就業要件 | ○ | |||
労働条件 | ○ |
*) | ◎:毎年定期的に実施することが望ましいもの |
○:数年ごとに実施することが望ましいもの | |
△:当面、業務運営の体制が整備されるまで実施することが望ましいもの |
今後、労働者個人が仕事の中身を理解し、職業能力開発を行うための情報を入手できるシステムとしての労働市場インフラを構築していくに当たり、どのような点に留意する必要があるのか。 |
(情報システムの構築に係る留意点)
収集した情報を労働市場の構成員である労働者個人、企業等に提供する際には、
(情報システムの運用に係る留意点)
こうした情報システムについては、労働者個人や企業によって、職業選択、キャリア形成、能力開発、転職、採用等、様々な目的で活用されてこそ、その価値が高まるとともに、労働市場におけるインフラとしての機能を果たしたと言える。このため、適宜、情報ユーザーである労働者個人や企業等の情報ニーズを把握し、提供情報の内容更新に努めるなど、情報システムが、労働市場インフラとして効果的に機能しているかどうかをフォローアップしていく体制整備も重要である。
その際、特に、企業(業界)に係る情報については、業界ごとにデータベースを構築し、公共が多角的な視点からの検索機能を付与して、業界ごとの情報サイトとリンクさせた情報システムを構築することが考えられる。こうしたシステムにより、効果的かつ効率的な情報内容の更新が図られるとともに、中央で一元的に情報を集約することに比べ、情報システムの構築・運用に係る初期コスト・ランニングコストを軽減できると考えられ、情報システムの構築に当たっては、官民の適切な役割分担についても留意する必要がある。
なお、特に労働者個人が実際に活用している情報は、明示できないものも多く、その大半はインフォーマルな人的ネットワークを通じて収集したものと思料される。このため、今後、情報システム(フォーマルなネットワーク)を運営していくに当たっては、こうした際のきっかけを付与できるような情報を適切に提供し、労働者個人等を支援していくことが重要となるであろう。
(参考)
我が国における情報システムの構築に当たっては、諸外国における先進的な取組事例として、特に、America's Career Kit(米)が参考になるのではないか。 |
<America's Career Kit>
アメリカにおいては、求人・求職に関する総合的な情報をインターネットを活用して、以下のような情報サイトを通じて提供しており、これらを総称したものが、America's Career Kitと呼ばれるものである。なお、それぞれの情報サイトはリンクされており、労働者、企業等は、各情報サイトから各種の情報を収集することが可能である。
<0*Net>
職業辞典DOTに代わる、より多面的かつ最新の情報を反映したものとして開発されている、職業に関する総合的なデータベース。より多くの情報があれば、より多くの就職や転職の機会があるとの思想に沿って、自分の経験や能力に合った他の仕事があるか、自分の興味や能力を活かせる職業はどのようなものか等を検索することができるシステム。
約900の職業それぞれについて、以下のような情報が含まれており、各職業の各カテゴリーは0〜100の評価値が入っている。0*Net全体としては、約900の職業を行、各項目とそのカテゴリを列とするマトリックス(行列)となっている。約900の職業の分類はSOC(Standard Occupational Classification)に基づいており、列を構成する項目は情報のあるもの、必要性が高いものから順次開発されている。
全ての職業に対してスキルをはじめとする項目の基準が数値で入っているところに重要な意味がある。
(人事担当者、企業経営者)
(求職者)
我が国における既存の統計調査や現行の情報提供事業についても有効に活用できると考えられるが、活用に当たって留意すべき点があるとすれば、それはいかなるものか。 |
<人材ニーズ調査>
平成11年度に通商産業省から委託を受けた日本商工会議所が、株式会社リクルートに再委託して調査したもので、一般ニーズ調査と特定ニーズ調査に分かれており、調査結果については、インターネットを活用して、広く一般に提供されている。
企業が求める知識や技能等の人材ニーズは把握できるが、その知識や技能等を保有している人材が、労働市場でどのくらいいるのか、また、労働者が人的資源投資をどのくらい行っているのか等、労働者側の状況(実態)把握がなされていない。
なお、単発的な調査であり、時系列的な比較分析を行うことができないため、継続的な調査を行う必要がある。
《一般ニーズ調査》
全国の民間企業(個人事業主を含む)における人材需要の量(人数)と質(職種や実務経験、資格などの職能要件)を業種、職種、都道府県、通勤圏域等により分析し、包括的に把握するとともに、人材需要の拡大が見込まれる有望職種に求められる職能要件などを具体的に把握することを目的として調査したもの。
全国の法人(全業種212、全職種326。個人事業主を含む)33万件(無作為抽出)(有効回答数84,106件)(回収率26.8%)に対するアンケート調査(郵送調査)を実施。
さらに、アンケート調査の結果から、有望100職種(成長職種70、注目職種30)を選定し、当該職種を希望する約5千件(1職種平均約50件)を対象にヒアリング調査(訪問調査)を実施。
主な調査項目は以下のとおり。
《特定ニーズ調査》
「一般ニーズ調査」の調査結果をもとに、不況下においても正社員を中途採用した企業を対象に、企業の人材ニーズを把握するとともに、企業と転職者の両者にとって望ましい採用や求職のあり方を探ることを目的として調査したもの。
具体的には、「一般ニーズ調査」に回答した企業のうち、常用雇用者数が100人未満であり、かつ、過去1年間に正規社員の中途採用を行った企業を対象にヒアリング調査(訪問調査)を実施。
さらに、ヒアリング調査の回答内容に応じて、過去3年間に中途採用した正社員に対して1企業2名を対象にアンケート調査を実施。
主な調査項目は以下のとおり。
<職業ハンドブック>
現行の職業ハンドブックは、平成9年度に日本労働研究機構が、各産業における代表的な300の職業の内容について、解説と写真やグラフにより整理し、冊子にまとめるとともに、検索機能を有するCD−ROM版も作成し、公表しているもの。
全体の構成としては、300の職業を12の職業群(クラスター)に分け、この職業群を33のさらに細かい職業群(サブ・クラスター)に分けており、職業の類似性ばかりでなく、その職業に関わりのある産業やその職業の雇用機会、その職業についての情報をどのような人が必要としているか等の視点から整理している。
主な項目は以下のとおり。
<職業能力開発ステーション>
「職業能力開発ステーション」は、職業能力開発体系図情報、公共職業訓練コース情報、自己診断等ツール情報等、雇用・能力開発機構が開発・収集した職業能力開発に関する各種情報をデータベース化し、雇用・能力開発機構都道府県センターや公共職業能力開発施設における相談援助業務の支援情報として適宜活用していくことを目的として開発したもの。
具体的に活用されている情報内容は、以下のとおり。
<能力開発情報システム(ADDS)>
職業能力開発に関する各種情報をデータベース化した「能力開発情報システム(ADDS)」は、従来、都道府県職業能力開発協会に設置されている職業能力開発サービスセンターにおいて、事業主等に対する相談援助の際に活用されてきたところである。
平成13年2月以降は、インターネットを効果的に活用して、労働市場の構成員である労働者個人、企業等を幅広く対象に、ADDSに搭載されている情報について、段階的に幅広く提供していくこととしている。
現行ADDSに搭載されている具体的な情報は、
<学校基本調査>
文部科学省が、学校教育行政に必要な学校に関する基本的事項を明らかにすることを目的として毎年実施している調査(指定統計)。
本調査は学校教育法に規定する全国の学校(小学校、中学校、高等学校、中等教育学校、盲学校、聾学校、養護学校、幼稚園、大学(短期大学、学部、大学院)、高等専門学校、専修学校及び各種学校)、市町村教育委員会を対象としており、調査項目は、学校数、在学者数、教職員数、学校施設、学校経費、卒業後の進路状況。
調査結果は、都道府県別、学科別、国公私立別等により集計されているが、分析は、前年度との統計的な比較が主となっている。また、調査結果の概要についてはインターネットを通じて広く一般公開されているが、詳細な調査結果は冊子としてとりまとめられ、公開されている。
本調査を通じて、都道府県別、学科別、国公私立別等に、大学、大学院、専修学校、各種学校等の学校数や入学者数、学生数等の総数に加え、入学者や学生数のうち社会人(就業者)の総数についても把握することが可能である。
<専修学校に関する実態調査>
平成9年度に文部省が専修学校における教育内容、教員構成、在学者の意識、卒業者の進路状況等の実態を把握し、今後の専修学校に関する諸施策立案の基礎資料を収集・整備することを目的に、全国の専修学校を対象に実施したもの。
調査は、学校調査、在学者調査、卒業者調査で構成されており、主な調査事項は以下のとおり。
(学校調査)
課程・学科の設置状況、開設時間帯、生徒数、自己点検・評価状況 等
(在学者調査)
性別、年齢、入学前の経歴、現在の状況、専修学校志望の動機 等
(卒業者調査)
性別、年齢、専修学校に対する希望、資格取得状況、求職方法及び職業選択の理由、勤務先での処遇、仕事と専修学校教育の関係、今後希望する学習内容 等
<民間教育訓練実態調査>(昭和54年から平成11年)
本調査は、主要産業における民間事業所の教育訓練の制度及び実施状況をさまざまな角度から調査し、その現状を明らかにし、今後の施策に必要な基礎資料を得ることを目的として、労働省(現厚生労働省)職業能力開発局において、調査対象事業所に調査票を直接郵送して回答(郵送)を求めることにより、ほぼ毎年定期的に調査してきたもの。
平成11年5月調査では、日本全国の30人以上の常用労働者を雇用する事業所4,000所(有効回答数1,953件)及び当該事業所に勤務する労働者計12,000人(有効回答数 5,339件)を対象に、教育訓練の実施状況や受講状況等について調査を実施。
<専門職種別労働力需給状況調査>(昭和33年から平成11年)
本調査は、事業所における技術・技能労働者等の需給状況を把握し、今後の職業能力開発に関する施策を企画立案するための基礎資料を得ることを目的に、労働省(現厚生労働省)職業能力開発局において、調査対象事業所に調査票を直接郵送して回答(郵送)を求めることにより、ほぼ毎年定期的に調査してきたもの。
平成11年2月調査では、日本全国の5人以上の常用労働者を雇用する事業所16,000所(有効回答数6,854件)を対象に、在職している技能労働者数、今後の労働力確保の方法等について調査を実施。
なお、平成6年までは、技能労働者等需給状況調査として実施され、平成7年から新たに技術労働者等を調査対象に加え、専門職種別労働力需給状況調査として実施された。
なお、上記の民間教育訓練実態調査及び専門職種別労働力需給状況調査については、以下のような問題点が考えられる。
3 労働市場政策の企画立案に当たって有効に活用すべき情報
上記2の観点から必要な情報のうち、我が国労働市場全体のキャリア形成、職業能力評価、教育訓練等に係るインフラの整備状況(実態)を鳥瞰できる情報については、キャリア形成支援、職業能力評価制度の整備、教育訓練システムの確立等、今後の労働市場政策の企画立案に当たって有効に活用できるのではないか。 |
(情報の必要性)
個人主導の職業能力開発の重要性が増す中、今後、労働者個々人が効果的なキャリア形成を図っていくためには、職業能力の適正な評価を行うとともに、自らの能力に応じた効果的な教育訓練の受講等を通じて、能力を向上させ、雇用の安定や就業の促進が図れるよう、キャリア形成支援、職業能力評価制度の整備、教育訓練システムの確立等、中長期的な視点に立った新たな労働市場政策の枠組み整備、構築を官民が連携していく必要がある。
こうした労働市場インフラの整備に当たっては、官民連携により構築していくことが重要であるが、官は、民間におけるこうしたインフラシステムの整備状況(労働市場のインフラが整っているのか、個人が利用できるようになっているのか等)を常に把握しつつ、システム整備を検討していく必要がある。
(必要となる具体的な情報内容)
このような中、上記2で整理した労働市場におけるインフラとして必要な情報のユーザーとしては、主として労働者個人、企業等であるが、行政としても、これらの情報のうち、特に、以下のような、我が国労働市場全体(特に民間)のキャリア形成や職業能力評価、教育訓練の実態を鳥瞰できる情報については、今後、新たな労働市場政策の企画立案や既存政策の評価を行うに当たり有効に活用することができると考えられる。
なお、こうした情報を定期的に収集、更新することにより、時系列的に把握することで、労働市場の成熟度を測ることも可能になると考えられる。
公共職業訓練コースの開発・設定に当たっては、政策方針企画から訓練コースの設定・実施に至るまでの各段階において、各種の情報が活用されているが、今後は、特に、設定した訓練コースの実施成果(政策評価)という観点が重要になってくると考えられるが、その際、有効に活用すべき情報としては、具体的にどのようなものか。 |
(必要となる具体的な情報内容)
産業界の求める人材育成ニーズに資する多様な教育訓練機会を確保するため、公共職業訓練を効果的に実施していくには、業種、職種ごとの労働力需給動向、人材ニーズ動向、能力開発ニーズ等、以下のような各種情報が、公共職業訓練に係る、政策方針企画から訓練コースの設定・実施に至るまでの各段階ごとに有効に活用できると考えられる。(別表2参照)
(1) 政策方針企画
(活用目的)
(活用目的)
(活用目的)
(4) コース設定・訓練実施
(活用目的)
(活用すべき主な情報)
(今後の具体的な情報収集方策)
今後は、設定した訓練コースの実施成果(政策評価)を次の段階の訓練コース設定に反映させるため、産業別人材ニーズに始まり、訓練コースの設定・実施、訓練コースの受講成果の分析に至るまでの循環的なプロセスを標準化、構築することが重要となってくる。
具体的には、現在実施している訓練の成果がどれだけ上がっているのかを把握、評価して、既存の訓練コースの改廃、コース数・定員の増減に反映させていくことが重要であるが、現状では、入校率、就職率の2つが主要な評価の指標となっている。
今後は、両指標のみでは測りかねる、受講者本人や、当該受講者を雇い入れる(離職者)あるいは雇用している(在職者)企業の受講した訓練の成果に係る評価が重要な判断指標になると考えられる。しかしながら、こうした情報については、業務を通じて把握することは困難と考えられるため、当面、マクロ的なアンケート調査を実施して収集、把握していくことが適当である。
このほか、受講開始時と修了時に訓練受講生の能力を何らかの評価ツールを用いて測定し、訓練成果を測定することも有効であるが、これについては、当面、効果的な能力評価ツールの開発が求められる。
また、今後は、新たな人材育成ニーズに即した効果的な訓練コースを設定していくことも重要である。その際、離職者訓練については、その訓練内容が職種と概ね対応しているため、職種ごとの労働力需給動向に係る情報が有効である。一方、在職者訓練については、訓練コースの内容が総じて特定の職務に特化したものとなっているため、既存の情報に加え、地域ごとに業界ヒアリング調査を実施するなどして、こうした新しい人材育成ニーズについて、随時、把握、収集していくことが適当と考えられる。
なお、こうした業界の人材ニーズについては、経済社会情勢に応じた変化の激しいものであり、時宜に応じた緊急性の高いニーズを業界(企業)からどのようにして拾い上げていくかが重要となってくるため、今後は、可能な限り体系的にこうした情報を収集していくような体制を整備することが重要である。
(参考)
<21世紀人材立国計画モデルプロジェクト>
21世紀人材立国計画は、経済新生対策(平成11年11月11日閣議決定)の一環として、我が国経済を新生させ、社会を活力あるものとするため、情報化、高齢化等、21世紀に必要な人材を育成するシステムを、産学官の連携により構築することを目的としたものである。
本計画の実施主体である雇用・能力開発機構では、本計画の推進に当たり、能力開発ニーズの把握等から教育訓練コースの開発を行うに当たって、中央と地方との連携を通した、地域における人材育成ネットワークを構築することを目指している。
このため、平成12年度において、4つのモデル地域を指定し、当該地域の産業特性等に応じて、業種ごとに、経営・人材育成上の現状・課題等の把握を行い、その課題解決の一つの手段・手法としての能力開発ニーズを捉え、そのニーズに対応した教育訓練コースの開発等を通して地域の人材育成のシステム作りを図ることをモデルプロジェクトとして実施している。
また、モデルプロジェクトにおいては、次のようなプロセスにより教育訓練コースの開発を行っている。
今後、特に、上記2の観点から労働市場におけるインフラとして必要となる情報を収集・整理し、提供・活用していくための情報システムを構築していくに当たり、具体的にどのような段取りで検討を進めていくことが適当か。 |
労働市場におけるインフラとして必要な情報については、関係部局、関係機関等との連携・調整の上、収集・提供していくべきものであるが、労働市場の構成員である労働者個人、企業等によって、様々な目的に沿って効果的に活用されてこそ、また、労働市場政策の企画立案、公共職業訓練コースの開発・設定に当たって必要となる情報についても、それぞれの目的に資する情報を収集し、活用できてこそ、労働市場インフラとしての機能を果たしたと言える。
このため、平成13年度以降は、今後の本格的な情報システムの構築に向けて、本研究会において整理した事項を踏まえ、以下のように事業を展開していくことが考えられる。
(1) 必要情報に係るニーズ調査(予備的調査)
(3) 業務統計の活用
教育訓練給付講座指定、委託訓練の実施、各種助成金の支給等、既存の業務を通じて得られる民間教育訓練機関や企業等に関する情報については、今後、各情報にコードを付与し、データベースを構築することにより、情報収集に係る直接的な入力作業等に係るコスト負担をなくし、自動的に情報を収集・更新することが可能になると考えられる。
また、適切なインデックスを設定することにより、様々なニーズに沿った情報検索も可能になると考えられる。
なお、職業安定行政において、既に一定のデータベース化がなされている労働力需給等に係る情報システムとも互換性を持たせることが、今後、労働者の雇用の安定、就業の促進に資する、一体化した労働行政の推進に当たっては不可欠である。
しかしながら、こうした業務統計を活用したシステム構築については、技術的にも複雑な作業になるため、中長期的に推進していく必要があり、今後は、概ね、以下のような段取りで検討を進めていくことが考えられる。
情報システムの構築に当たっては、職業能力開発行政のみならず職業安定行政とも緊密に連携して事業を展開すべきであり、また、雇用・能力開発機構、中央・都道府県職業能力開発協会、日本労働研究機構等の関係団体相互の効果的な連携方策や、「私のしごと館」等の関係施設の活用方策等を検討する必要がある。
このため、当面、関係行政機関及び関係団体の有識者により、効果的で実現可能性のある情報システムの構築に向けた連携方策等について整理することが適当と考えられる。
また、情報システムを構築するに当たっては、インターネットを活用して、業種、職種に限らず、様々な観点からの情報検索を可能とするとともに、関係業界団体等の情報サイトとリンクさせるなどの付加機能を有したものとする必要がある。
以上のようなことを踏まえ、具体的には、概ね、以下のような段取りで検討を進めていくことが考えられる。