報道発表資料  トピックス  統計情報  厚生労働省ホームページ

平成12年度結核緊急実態調査報告書について

 厚生労働省では、平成12年度に結核緊急実態調査(調査期間:平成12年9〜12月)を実施した。平成13年3月29日(木)開催「第2回結核緊急実態調査委員会(委員長:森 亨(財)結核予防会結核研究所所長)」において、最終的な検討が行われ、公表することとなった。
 報告書の概要は以下のとおり。

1.趣旨・背景

 戦後一貫して改善してきた結核罹患状況は、平成9年以降、悪化傾向に転じ、再興感染症としての結核の現状把握が急務となっている。そのため、平成12年度に「結核緊急実態調査」を実施し、今後の対策を考える上での基礎資料を得ることとした。

2.調査の概要

 結核予防法に基づいて、都道府県、政令市及び特別区に登録された結核患者等を対象に、結核死亡者、結核登録患者(マル初を含む)、慢性排菌者の状況を調査した。また、現在、市町村で実施されているツベルクリン反応検査及びBCG接種の状況を調査した。

<調査対象者等の概況>
  結核死亡者 新規結核登録患者(41,033中) 慢性排菌者 ツベルクリン反応、BCG接種
マル初 0-14歳 15歳以上 市町村調査 接種技術調査
調査対象
の抽出法
保健所の
全数
登録者の
20%
登録者の
全数
登録者の
20%
登録者の
全数
全市町村 10市町村の
対象者
調査数
(回収率%)
645保健所
(100.0)
1,519名
(99.7)
268名
(97.8)
8,128名
(99.7)
1,582名
(99.0)
3,252市町村
(100.0)
1,562名

3.結果の概要

(1)結核予防法上の届出について

(1) 結核死亡数の差 <表1参照>
 死亡診断書を基にした人口動態統計における結核死亡数(2,795)と医療機関からの結核予防法上の届出を基にした結核死亡数(1,826)の間に969の差があり、届出漏れのある可能性が示唆された。
(2) 病名の変更 <表2参照>
 登録後の診断の変更等で結核でなかったと考えられる者は全国で4,612名(平成10年の新規登録患者数 41,033名の11.2%に相当)と推計された。

(2)結核患者の医療について

(1) 菌検査
 肺結核と診断された患者の大部分に菌検査が実施され、15歳以上では6,023名中3,719名(61.7%)が結核菌陽性であった。培養陽性の結核患者3,304名中薬剤感受性検査は1,912名(57.9%)に実施されていた。
(2) 治療方法
 結核患者の大部分は「結核医療の基準」に示す標準的な治療薬が使用されていたが、ピラジナミドを使用した治療が推奨される喀痰塗抹陽性の初回治療患者のうちでこの治療が行われていたのは15歳以上では54.8%であり、特に高齢者では使用が少なかった。
(3) 治療期間・入院期間
 治療期間が12か月を超える者は0〜14歳で21.1%、15歳以上で29.8%、入院期間が6か月を超える者は0〜14歳で13.1%、15歳以上で18.4%であった。
(4) 治療成績
 15歳以上の喀痰塗抹陽性者で治療の成功が確認できた者は76.4%であり、高齢者では小さく死亡が多かった。ピラジナミドを使用した者には治療成功が多かった。
(5) 基礎疾患 <表3表4参照>
 15歳以上の患者で基礎疾患を有する者は、糖尿病が10.9%、悪性腫瘍が4.4%であった。これら基礎疾患を有する者は喀痰塗抹陽性で発見される割合が高く、糖尿病では48.2%(全結核患者では34.3%)であった。
(6) 多剤耐性菌
 結核菌の薬剤感受性検査結果を保健所で把握している15歳以上の例で、多剤耐性が確認されたのは6.2%、特に再治療者はその割合が高かった。
 ただし、今回の多剤耐性率は結核療法研究協議会の成績と比較して著しく高率であり、検査の精度や保健所における検査結果の把握の方法も含めて今後評価する必要が示唆された。

(3)ツベルクリン反応・BCG接種について

(1) 実施時期
 4歳までの初回ツベルクリン検査は、ほぼ全員に行われていると推定されたが、生後6か月までに行われている者が50.3%、1歳までが80.5%であった。
(2) BCG接種の技術評価
 BCG針痕数(針痕数は最大で18個)は、地域によって大きなばらつきがあった。
(3) 結核の発症予防効果 <表5参照>
 結核患者のうちBCG接種を行っていなかった者は、0歳で87.5%、1歳で48.6%、5〜9歳は21.7%、10〜14歳で2.9%であり、特に乳児においてBCG接種群は未接種群に比べて結核の発病を抑えていることが示唆された。

(4)健康診断について

(1) 定期健康診断
 0〜14歳の結核患者のうち11.7%が定期健診で発見されていた。15歳以上の者全体では14.4%が定期健診で発見されていたが、学校健診での発見は15〜19歳では28.9%、職場健診での発見は20歳代で23.7%、30歳代で20.9%、40歳代で16.9%、50歳代で14.0%であった。住民健診での発見は3.6%であった。
(2) 定期外健康診断
 定期外健康診断での発見は、0〜14歳では38.8%、15歳以上では2.5%であった。
 また、初発患者が喀痰塗抹陽性であった場合は、87.0%について定期外健康診断(接触者検診)が行われていた。
(3) 管理検診
 15歳以上の者で、治療終了後の管理検診の対象となりながら実施されていない者が12.7%あった。管理検診の方法は、医療機関で自主的に行ったものが59.0%であった。

(5)予防内服について

 予防内服の対象となった者について、感染源との接触の有無、BCG接種歴、ツベルクリン反応検査の発赤径等から適応基準を検証したところ22.8%が適用からはずれている可能性があり、特に0〜4歳では64.8%と高い割合を示した。また、0〜4歳のマル初対象者264名中BCG歴不明5名を除く259名中143名(55.2%)でBCG接種を受けていなかった。

(6)対応困難例について

(1) 治療の中断
 15歳以上の者で治療中断と判定された者は12.1%で、そのうち「生活保護法申請中の者」では25.8%、「住所不定・ホームレス経験あり」では24.6%であった。
(2) 慢性排菌者
 2年以上登録されており、平成11年の1年間のうちに菌陽性が確認されている者は1,234名であった。このうちヒドラジド(INH)とリファンピシン(RFP)両方の薬剤感受性が確認できている749名の中で、INH・RFPの2剤両方ともに耐性(多剤耐性とみなす)であったものは464名(61.9%)であった。
 慢性排菌化したと思われる要因としては、「不規則な服薬、自己中断」(38.1%)、「薬剤の1剤ずつの追加」(29.5%)が上位にあげられていた。

4.今後の対応

 この結果を基礎資料として、今後、厚生科学審議会の意見もうかがい、結果の意味づけ、具体的な対応策等について検討する。


(照会先)
健康局結核感染症課
TEL(03)5253-1111
担当:藤井、高津
内線:2373、2379



表1 結核登録による結核死亡数と人口動態統計による結核死亡数の比較

 
年齢 全年齢 60-64 65-69 70-74 75-79 全年齢 60-64 65-69 70-74 75-79
届出率 68.0% 70.3% 67.1% 64.9% 58.1% 58.8% 52.1% 52.1% 55.4% 52.1%
届出率(A/B) 65.3% ( 登録者(A) 1,826名 人口動態統計(B) 2,795名 )


表2 結核でないと考えられる理由

  診断変更 マル初 合計
非定型抗酸菌陽性 肺がん 肺炎 その他・異常なし
0-14歳(調査数 268) 5(1.9%) 6(2.2%) 10(3.7%) 33(12.3%) 54
15歳以上(調査数8,128) 527(6.4%) 96(1.2%) 53(0.7%) 209(2.6%) 24( 0.3%) 909


表3 基礎疾患を有する結核登録者(15歳以上)

登録者数 糖尿病 悪性腫瘍 胃切除 免疫抑制剤の使用 じん肺
7,219 785(10.9%) 321(4.4%) 258(3.6%) 95(1.3%) 86(1.2%)


表4 基礎疾患を有する者の喀痰塗抹陽性の割合(15歳以上)

登録者全体 基礎疾患を
有する者
糖尿病 じん肺
34.3% 43.2% 48.2% 44.2%


表5 結核登録者における「BCG接種歴なし」の割合(0〜14歳)

  0-4歳 5-9歳 10-14歳
  0歳 1歳
登録者数 98 24 35 46 70
BCG接種歴なし 50(51.0%) 21(87.5%) 17(48.6%) 10(21.7%) 2(2.9%)


結核緊急実態調査委員会委員(五十音順)

  番号 氏名 所属
  石川 信克 (財)結核予防会結核研究所副所長
  川城 丈夫 国立療養所東埼玉病院長
  滝澤 秀次郎 神奈川県衛生部長(全国衛生部長会)
  中澤 秀夫 大阪市保健所長
  藤岡 正信 愛知県半田保健所長(全国保健所長会)
  村主 千明 東京都台東保健所長
委員長 森 亨 (財)結核予防会結核研究所長
  雪下 國雄 (社)日本医師会感染症危機管理対策室長


結核予防法の体系

結核予防法の体系図


用語

○マル初対象者

 29歳以下で結核菌に最近感染して発病のリスクの高い者に対して行われる予防的内服の対象者
○非定型抗酸菌
 抗酸菌には、結核菌以外に、環境中(土壌や水など)にその他多くの菌がある。これらの多くは病原性はないが、そのうちいくつかの菌種がある種の条件により発病したものを非定型抗酸菌症という。
○多剤耐性菌
 ヒドラジド(INH)とリファンピシン(RFP)の両薬剤に対して耐性を有する結核菌
○定期外健康診断
 結核予防法では年1回の定期健康診断が定められているが、そのほかに、特定の対象に対して臨時に行うものを「定期外健康診断」と規定している。
○管理検診
 結核予防法に基づいて、保健所長が結核登録者に対して実施する健康診断(精密検査)で、その目的は治療終了者の再発の早期発見と、治療放置患者あるいは病状不明の登録者に対する病状把握と治療復帰への指導を目的としている。


トップへ
報道発表資料  トピックス  統計情報  厚生労働省ホームページ